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スローラーナーとともに創る授業再考 : 教師が観るべきもの,行うべきこととは

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Academic year: 2021

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スローラーナーとともに創る授業再考

―教師が観るべきもの,行うべきこととは―

松尾 真太郎

(MATSUO Shintaro)

神奈川県立新栄高等学校

要約 本論では,高等学校段階での英語学習におけるスローラーナー1を多く抱える集団を対象 に,授業のなかで,さらには学校生活全体のなかで英語,もしくは学習全般についての指導 を行う際,学習者とともに創る授業をよりよくしていくために,教師が観るべきもの,行う べきことに焦点を絞り考察する。 目の前にいる生徒が英語学習にどの程度意欲的であろうとも,「主体的・対話的で深い学 び」の観点からよりよい授業を目指すためには,指導者としての発問技術や,ペアワーク・ グループワークなどの有効活用をはじめとした,授業における指導力の向上も英語教育にお いて欠かせない論点ではあるが,本論では「教師と学習者の関わり合い」にフォーカスする ことで,教員の内面から授業改善に資するヒントを得ることを試みる。 授業は教師と生徒 (学習者) が一緒に創るものであるが,その協力関係の根底をなすもの はコミュニケーション能力に他ならない。そのコミュニケーション能力の育成が最も重要視 されている2020 年度からの小学校外国語教育の教科化が,いよいよ目前に迫ってきた。と りわけ高校教育現場に身を置く者としては,これまでもそうだが,今後はより一層,「授業 (「外国語活動」および「外国語科」) としての英語教育に触れてきた時間が長い生徒を預か っているのだ」という意識を強く持たなければならない。換言すれば,これまで通りの授業 でよいという甘えを一切排除し,日々の授業の振り返りと改善を継続する力が求められる。 具体的にどのような行動を起こすべきか,そしてその行動はどのような信念に支えられるこ とでより効果を発揮するのか,普段の実践報告も交えながら多角的に考察し,来る次年度に 備えることを主たる目的としている。 (キーワード:授業改善,スローラーナー,新学習指導要領) 「参考文献」 文部科学省(2018)「小学校学習指導要領解説外国語活動編・外国語編」 開隆堂出版社 樋口忠彦(2017)新編 小学校英語教育法入門 研究社 吉田研作(2017) 小学校英語 はじめる教科書 mpi 松香フォニックス 鳴門教育大学小学校英語教育センター紀要 第10号, 71−79, 2019

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2. 研究背景 研究背景には大きく分けて2つの要因が存在する。 一点目は,「英語教育実施状況調査」の解釈を見直し,スローラーナーの学習環境改善に 役立てたいという点である。毎年実施され,新聞報道などからも推察されるように,多くの 人々の関心を集めている調査であることは間違いない。スローラーナーも含まれる,このよ うな全国的な調査の結果を授業改善に繋げようと試みる際には,調査を解釈する方法を適切 に理解したうえで,表面上には現れない数値や問題点の真因に向き合わなければならない。 その前提に立ち,日々向き合う目の前の生徒との授業改善に資する方向性の必要を感じてい る。 二点目は,新学習指導要領全面実施に向けた移行期最終年度となる2019 年度,英語教育 における小中高連携を改めて考え,多くの学習者が前向きに英語学習に取り組む環境を整え たいと感じている点である。その中で,どの教室にも一定数存在するスローラーナーと共に 創る授業を再考する。 まずは一点目について述べる。平成31 年4月 16 日,文部科学省 (以下,文科省) による 平成30 年度「英語教育実施状況調査」の結果が公表された。「第3期教育振興基本計画」の 中で目標として掲げられている「中学校卒業までにCEFR2 A1 レベル (英検3級) 相当以上 の生徒の割合を50%以上にする」点,「高等学校卒業までに CEFR A2 レベル (英検準2級) 相当以上の生徒の割合を50%以上にする」点についてはそれぞれどうだったのだろうか。 文科省 (2019) によると,結果は,前者を達成した中学校三年生の割合は 42.6% (前年度 比1.9%増) で,後者の高校三年生にいたっては 40.2% (同 0.9%増) であった。いずれも上 昇傾向を示すものの,目標達成とはならなかった。都道府県,政令市別にみると,中学校三 年生で目標値をクリアしたのは,トップのさいたま市をはじめ10 都県市。高校三年生では トップの福井県,それに次ぐ富山県,秋田県の三県だけであった。地域による差が大きく, 地域間の取り組みの差を埋めていくことが必要だと示されている。 同調査中の授業における生徒の言語活動の割合に目を向けると,中学校一年生の段階で, 「50%以上ある」,「70%以上ある」と回答した割合が 78.5%,同じ質問で中学校二年生では 76.7%,中学校三年生で 74.8%と増加傾向を示す。高校入学後の授業で割合が下落していく 点に課題を感じると同時に,今後は単に言語活動があるのかという点のみならず,どのよう な活動を授業内のどの場面でどのように取り入れているのか,質的な調査の必要もあること を痛感するが,その点については稿を改める。 同時に,このような調査結果を読み解く際には,指導に繋げるための批判的な解釈の眼を 忘れてはならない。既に多くの分野で指摘されている点ではあるが,改めて以下に二点述べ る。 (1) 今回の調査の中では実用英語技能検定 (以下,「英検」) の取得級に基づき,生徒の英語 力に触れる場面がある。しかしながら,この取得級という概念が,実際に試験に合格した生 徒の割合と,教員が実際に合格した生徒と同等の英語力を有しているとみなした,いわばダ ブルスタンダードとなっている。調査の中で示された数字を追っていくと,調査対象の都道 府県,政令指定都市の間で先述のダブルスタンダードの後者に対する割合のばらつきも見過 ごせない。 1. はじめに ことばを学ぶという営みは尊い。これはヒトにしかできない,大変魅力的な営みである。 例えば,英語教育の世界では,学習者の有する語彙数がデジタルカメラの画素数に例えられ ることが少なくない。相手に伝えたい内容があるから自分のことばでコミュニケーションを とろうと試みる際,語彙数が乏しければ,画質が粗い画像のように,詳細までは不明瞭で, 伝えたい内容も深みがなくなる。反対に語彙数が豊かだと,伝えたい内容について,最新の デジタルカメラで撮影された写真のように,詳細まで,しかも鮮明に表現したい内容が表さ れ,それが伝わった相手も単発的なコミュニケーションで終わらないように,積極的な反応 を示してくれたり,付加的な質問を投げかけてくれたりする。ことばを学ぶという行為は, 単にことばのやり取りで終わらず,気持ちのやり取りに繋がる。 この営みを学校現場に当てはめて考えると,児童生徒が主としてことばを学ぶのは授業内 での教師や級友というヒト,教科書をはじめとする書物や教材との関わりの中であると言え る。そこに,ことばの指導者として介入する我々英語科教員の存在意義を問い直したとき, 我々の楽しみであり,時として悩みの種となる「授業改善」の質を考えることは避けて通れ ない。今日,「自分が学生時代に教えられたとおりの進め方でいいものか」,「“児童生徒の英 語力を上げる”という使命に応えなければ」,「日本人の英語力に関する社会からの期待に, いかに応えるか」,「教員が教えた気になっているだけで,生徒の頭や心にどれだけ授業内容 が残っているか考えよ」等々,悩みや問題を挙げれば枚挙に暇がない。他方,日本人の英語 学習を巡る環境は日々変化,進化を遂げており,教室で英語を学ぶにあたっても,教育の ICT 化に向けた環境整備が急激にスピード感を増している。 新学習指導要領にも謳われているとおり,「情報活用能力」とは,言語能力,問題発見・ 解決能力等と同様に「学習の基盤となる資質・能力」を成す。コンピュータや情報通信ネッ トワークなどの情報手段を活用するため必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活 動の充実を図ることが求められる時代である。とりわけ小学校においては,プログラミング 教育が必修化されるなど,今後の学習活動において,積極的にICT を活用することも想定 されている。このような英語学習を巡る環境変化に対応するためには,教員の英語教育全般 についての幅広い知識の積み重ねが欠かせない。部分的,断片的な知識の寄せ集めではな く,教育学,言語学,社会学など,英語教育やことばの学びを支える,広範な知の集合体を 構成する必要がある。それには教員が授業を通じて得た成功体験,失敗体験に起因する経験 知も当然大事だが,今日,ニュースや新聞を賑わせている英語教育への社会的な関心の高ま りを感じるならば,いまこそ教員自身における知識知のブラッシュアップが必要不可欠だ。 本稿では,筆者がこれまでに勤務した高等学校で行ってきた実践や,様々な中学校,高等 学校での校内研修や研究発表から学んだことを基に,「スローラーナー」に着目し,彼ら彼 女らとともに創る授業を再考したい。そして,そこから見えてくる課題を整理し,主体的・ 対話的で深い学びの視点から,授業改善に繋げる行動を起こすことで自己研鑽に取り組む糸 口を提案する。その中で,対象となる学習者 (高校生) の英語学習に対する意識や授業中の 発言,学習そのものに対する行動などは一つのケーススタディーとして紹介できれば望外の 喜びである。

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2. 研究背景 研究背景には大きく分けて2つの要因が存在する。 一点目は,「英語教育実施状況調査」の解釈を見直し,スローラーナーの学習環境改善に 役立てたいという点である。毎年実施され,新聞報道などからも推察されるように,多くの 人々の関心を集めている調査であることは間違いない。スローラーナーも含まれる,このよ うな全国的な調査の結果を授業改善に繋げようと試みる際には,調査を解釈する方法を適切 に理解したうえで,表面上には現れない数値や問題点の真因に向き合わなければならない。 その前提に立ち,日々向き合う目の前の生徒との授業改善に資する方向性の必要を感じてい る。 二点目は,新学習指導要領全面実施に向けた移行期最終年度となる2019 年度,英語教育 における小中高連携を改めて考え,多くの学習者が前向きに英語学習に取り組む環境を整え たいと感じている点である。その中で,どの教室にも一定数存在するスローラーナーと共に 創る授業を再考する。 まずは一点目について述べる。平成31 年4月 16 日,文部科学省 (以下,文科省) による 平成30 年度「英語教育実施状況調査」の結果が公表された。「第3期教育振興基本計画」の 中で目標として掲げられている「中学校卒業までにCEFR2 A1 レベル (英検3級) 相当以上 の生徒の割合を50%以上にする」点,「高等学校卒業までに CEFR A2 レベル (英検準2級) 相当以上の生徒の割合を50%以上にする」点についてはそれぞれどうだったのだろうか。 文科省 (2019) によると,結果は,前者を達成した中学校三年生の割合は 42.6% (前年度 比1.9%増) で,後者の高校三年生にいたっては 40.2% (同 0.9%増) であった。いずれも上 昇傾向を示すものの,目標達成とはならなかった。都道府県,政令市別にみると,中学校三 年生で目標値をクリアしたのは,トップのさいたま市をはじめ10 都県市。高校三年生では トップの福井県,それに次ぐ富山県,秋田県の三県だけであった。地域による差が大きく, 地域間の取り組みの差を埋めていくことが必要だと示されている。 同調査中の授業における生徒の言語活動の割合に目を向けると,中学校一年生の段階で, 「50%以上ある」,「70%以上ある」と回答した割合が 78.5%,同じ質問で中学校二年生では 76.7%,中学校三年生で 74.8%と増加傾向を示す。高校入学後の授業で割合が下落していく 点に課題を感じると同時に,今後は単に言語活動があるのかという点のみならず,どのよう な活動を授業内のどの場面でどのように取り入れているのか,質的な調査の必要もあること を痛感するが,その点については稿を改める。 同時に,このような調査結果を読み解く際には,指導に繋げるための批判的な解釈の眼を 忘れてはならない。既に多くの分野で指摘されている点ではあるが,改めて以下に二点述べ る。 (1) 今回の調査の中では実用英語技能検定 (以下,「英検」) の取得級に基づき,生徒の英語 力に触れる場面がある。しかしながら,この取得級という概念が,実際に試験に合格した生 徒の割合と,教員が実際に合格した生徒と同等の英語力を有しているとみなした,いわばダ ブルスタンダードとなっている。調査の中で示された数字を追っていくと,調査対象の都道 府県,政令指定都市の間で先述のダブルスタンダードの後者に対する割合のばらつきも見過 ごせない。 1. はじめに ことばを学ぶという営みは尊い。これはヒトにしかできない,大変魅力的な営みである。 例えば,英語教育の世界では,学習者の有する語彙数がデジタルカメラの画素数に例えられ ることが少なくない。相手に伝えたい内容があるから自分のことばでコミュニケーションを とろうと試みる際,語彙数が乏しければ,画質が粗い画像のように,詳細までは不明瞭で, 伝えたい内容も深みがなくなる。反対に語彙数が豊かだと,伝えたい内容について,最新の デジタルカメラで撮影された写真のように,詳細まで,しかも鮮明に表現したい内容が表さ れ,それが伝わった相手も単発的なコミュニケーションで終わらないように,積極的な反応 を示してくれたり,付加的な質問を投げかけてくれたりする。ことばを学ぶという行為は, 単にことばのやり取りで終わらず,気持ちのやり取りに繋がる。 この営みを学校現場に当てはめて考えると,児童生徒が主としてことばを学ぶのは授業内 での教師や級友というヒト,教科書をはじめとする書物や教材との関わりの中であると言え る。そこに,ことばの指導者として介入する我々英語科教員の存在意義を問い直したとき, 我々の楽しみであり,時として悩みの種となる「授業改善」の質を考えることは避けて通れ ない。今日,「自分が学生時代に教えられたとおりの進め方でいいものか」,「“児童生徒の英 語力を上げる”という使命に応えなければ」,「日本人の英語力に関する社会からの期待に, いかに応えるか」,「教員が教えた気になっているだけで,生徒の頭や心にどれだけ授業内容 が残っているか考えよ」等々,悩みや問題を挙げれば枚挙に暇がない。他方,日本人の英語 学習を巡る環境は日々変化,進化を遂げており,教室で英語を学ぶにあたっても,教育の ICT 化に向けた環境整備が急激にスピード感を増している。 新学習指導要領にも謳われているとおり,「情報活用能力」とは,言語能力,問題発見・ 解決能力等と同様に「学習の基盤となる資質・能力」を成す。コンピュータや情報通信ネッ トワークなどの情報手段を活用するため必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活 動の充実を図ることが求められる時代である。とりわけ小学校においては,プログラミング 教育が必修化されるなど,今後の学習活動において,積極的にICT を活用することも想定 されている。このような英語学習を巡る環境変化に対応するためには,教員の英語教育全般 についての幅広い知識の積み重ねが欠かせない。部分的,断片的な知識の寄せ集めではな く,教育学,言語学,社会学など,英語教育やことばの学びを支える,広範な知の集合体を 構成する必要がある。それには教員が授業を通じて得た成功体験,失敗体験に起因する経験 知も当然大事だが,今日,ニュースや新聞を賑わせている英語教育への社会的な関心の高ま りを感じるならば,いまこそ教員自身における知識知のブラッシュアップが必要不可欠だ。 本稿では,筆者がこれまでに勤務した高等学校で行ってきた実践や,様々な中学校,高等 学校での校内研修や研究発表から学んだことを基に,「スローラーナー」に着目し,彼ら彼 女らとともに創る授業を再考したい。そして,そこから見えてくる課題を整理し,主体的・ 対話的で深い学びの視点から,授業改善に繋げる行動を起こすことで自己研鑽に取り組む糸 口を提案する。その中で,対象となる学習者 (高校生) の英語学習に対する意識や授業中の 発言,学習そのものに対する行動などは一つのケーススタディーとして紹介できれば望外の 喜びである。

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た。担任を受けもっていることもよいきっかけとなり,生徒と人間関係を築くのにそれほど 時間を要さなかったことは幸いだといえる。 英語学習においては,年度初めの記述式アンケート結果から,以下のことが特徴として挙 がった。なお,対象は必修科目・選択科目ともに第2学年の,のべ人数約220 名である。 表1 年度初めの授業で実施した英語学習に係るアンケート調査結果3 ポジティブな面 ネガティブな面 リーディングに関すること ・読むことは好きだ ・もっと英語を読めるよう になりたい ・速く読めるようになりた い ・読むことが苦手だ ・高校入試までで手一杯だ った ・量が多いと読む気をなく してしまう リスニングに関すること ・外国の人が話しているこ とを理解したい ・洋楽の歌詞を理解しなが ら聴きたい ・外部試験で得意な分野に したい ・聴くことは苦手だ ・勉強方法が分からない ・試験の時にあまり得点を 取ることができない スピーキングに関すること ・外国の人と話せるように なりたい ・将来の職業に活かしたい ・外部試験で得意な分野に したい ・話すことは苦手だ ・頭で考えていることを瞬 時に口にすることに難しさ を感じる ・自信がなく話す気になか なかなれない ライティングに関すること ・中学生のとき,英語で日 記を書く宿題が楽しかった ・テストなどですらすらと 作文を書けるようになりた い ・外国の友達とメールをし たい ・書くことは苦手だ ・書きたいことと文法をど う組み合わせればよいかが 難しい ・分量を求められる課題や テストはつらい 3.2.1 アンケート調査結果分析 注釈3に付しているとおり,4技能それぞれにおいて,筆者が大きく3点ずつにまとめた ものが上記の表になる。回答数についても,ネガティブな面に言及しているものの数 (約 60%) がポジティブな面に言及しているものの数 (約 30%) を大きく上回る結果となった。 集団としてスローラーナーの割合が高いことを示唆している。ゆえに4技能に共通して見え てくる英語への意識として,「~が苦手」と言い切る,苦手意識が挙げられる。苦手意識の 高さゆえに自信をもつことが難しく,授業中の自己表現活動や,ペアワーク・グループワー クへ前向きに取り組むことが高いハードルとなっていることは想像に難くない。高校2年生 (2) 先に,地域における目標達成の差が大きいことに触れたが,これもまた地域間の対抗意 識を煽ることに繋がりかねない。この調査の英語力は英検を基準に考えているため,地域間 の対抗意識が,普段の授業を試験対策講座化させてしまわないか危惧されるところである。 単に他地域と比べるための数字と捉えるのではなく,自地域の経年変化から今後の英語教育 を展望したり,普段の授業の省察のためのデータだと考えたい。また親の経済格差や,首都 圏と地方での教育環境の差など,生徒自身のみの力ではどうにもならない要素も多々存在す ることを改めて指摘する。 この二点に鑑み,普段の授業で,スローラーナーに対してどのようなアプローチが可能か は,実践報告も兼ねて後述する。 続いて二点目について述べる。現在及びこれから小学校段階での外国語活動及び教科とし ての英語学習を経験することになる学習者を預かる高校現場の者として,他校種でどのよう な授業が展開されているかを知っておくことは非常に重要である。特に小学校段階での活動 や学習内容についてはあらゆる研究・研修会等で議論が活発に行われている。しかしなが ら,時間的な余裕の無さなどから,他校種の授業を見学させてもらいに行くことがなかなか 難しいのが現状である。その中で,どうすれば授業見学により近い情報を得ることが可能か 検討したとき,教材と学習指導要領を真面目に読み込むしかないのだということに気づかさ れる。極めて地道な手法であるが,自分のペースで学ぶことができるため,時間の経済性の 視点からも有効な手段であるとも言える。 以上の背景を踏まえ,筆者自身が普段実践していることや,そこから見えてくるスローラ ーナーとの関わり合いの成果や課題を検討する。 3. 実践報告 3.1 実践校紹介 筆者の勤務する神奈川県立新栄高等学校は,横浜市北部に位置する,全校生徒1,000 名を 超える全日制普通科の高校である。一学年約340 名から成り,各学年9クラスで編成されて いる。1983 (昭和 58) 年4月に第1期生を迎え,2019 年は第 37 期生を迎え入れた,比較的 新しい学校である。英語科教員数は非常勤講師も含め13 名で,これに ALT1名を加えた計 14 名が基本になる。 卒業後の進路が,就職・専門学校・短期大学・四年制大学などと多岐にわたる点が特徴で ある。「心豊かで,たくましい人間を育む。」という教育目標のもと,個々の生徒がそれぞれ の興味や特性を活かし,同じ教室内で学び合っている。授業はホームルーム単位を基本とし ながら,第2学年次以降の選択科目では少人数授業が多い。様々な学力層の生徒が集ってい るため,授業構成や教材準備,グループワークなどをいかに活用し,生徒の英語力向上に繋 げていくかは,自分自身,試行錯誤しており,日々の向き合っている課題である。 3.2 アンケート調査 筆者自身,異動一年目ということもあり,今年度は学校の文化や風土,生徒の雰囲気や, 長所短所を理解することに注力しながらのスタートを切った。とりわけ,興味の的は生徒た ちがこれまで,英語,もしくは学習そのものと,向き合ってきたのかを理解することであっ

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た。担任を受けもっていることもよいきっかけとなり,生徒と人間関係を築くのにそれほど 時間を要さなかったことは幸いだといえる。 英語学習においては,年度初めの記述式アンケート結果から,以下のことが特徴として挙 がった。なお,対象は必修科目・選択科目ともに第2学年の,のべ人数約220 名である。 表1 年度初めの授業で実施した英語学習に係るアンケート調査結果3 ポジティブな面 ネガティブな面 リーディングに関すること ・読むことは好きだ ・もっと英語を読めるよう になりたい ・速く読めるようになりた い ・読むことが苦手だ ・高校入試までで手一杯だ った ・量が多いと読む気をなく してしまう リスニングに関すること ・外国の人が話しているこ とを理解したい ・洋楽の歌詞を理解しなが ら聴きたい ・外部試験で得意な分野に したい ・聴くことは苦手だ ・勉強方法が分からない ・試験の時にあまり得点を 取ることができない スピーキングに関すること ・外国の人と話せるように なりたい ・将来の職業に活かしたい ・外部試験で得意な分野に したい ・話すことは苦手だ ・頭で考えていることを瞬 時に口にすることに難しさ を感じる ・自信がなく話す気になか なかなれない ライティングに関すること ・中学生のとき,英語で日 記を書く宿題が楽しかった ・テストなどですらすらと 作文を書けるようになりた い ・外国の友達とメールをし たい ・書くことは苦手だ ・書きたいことと文法をど う組み合わせればよいかが 難しい ・分量を求められる課題や テストはつらい 3.2.1 アンケート調査結果分析 注釈3に付しているとおり,4技能それぞれにおいて,筆者が大きく3点ずつにまとめた ものが上記の表になる。回答数についても,ネガティブな面に言及しているものの数 (約 60%) がポジティブな面に言及しているものの数 (約 30%) を大きく上回る結果となった。 集団としてスローラーナーの割合が高いことを示唆している。ゆえに4技能に共通して見え てくる英語への意識として,「~が苦手」と言い切る,苦手意識が挙げられる。苦手意識の 高さゆえに自信をもつことが難しく,授業中の自己表現活動や,ペアワーク・グループワー クへ前向きに取り組むことが高いハードルとなっていることは想像に難くない。高校2年生 (2) 先に,地域における目標達成の差が大きいことに触れたが,これもまた地域間の対抗意 識を煽ることに繋がりかねない。この調査の英語力は英検を基準に考えているため,地域間 の対抗意識が,普段の授業を試験対策講座化させてしまわないか危惧されるところである。 単に他地域と比べるための数字と捉えるのではなく,自地域の経年変化から今後の英語教育 を展望したり,普段の授業の省察のためのデータだと考えたい。また親の経済格差や,首都 圏と地方での教育環境の差など,生徒自身のみの力ではどうにもならない要素も多々存在す ることを改めて指摘する。 この二点に鑑み,普段の授業で,スローラーナーに対してどのようなアプローチが可能か は,実践報告も兼ねて後述する。 続いて二点目について述べる。現在及びこれから小学校段階での外国語活動及び教科とし ての英語学習を経験することになる学習者を預かる高校現場の者として,他校種でどのよう な授業が展開されているかを知っておくことは非常に重要である。特に小学校段階での活動 や学習内容についてはあらゆる研究・研修会等で議論が活発に行われている。しかしなが ら,時間的な余裕の無さなどから,他校種の授業を見学させてもらいに行くことがなかなか 難しいのが現状である。その中で,どうすれば授業見学により近い情報を得ることが可能か 検討したとき,教材と学習指導要領を真面目に読み込むしかないのだということに気づかさ れる。極めて地道な手法であるが,自分のペースで学ぶことができるため,時間の経済性の 視点からも有効な手段であるとも言える。 以上の背景を踏まえ,筆者自身が普段実践していることや,そこから見えてくるスローラ ーナーとの関わり合いの成果や課題を検討する。 3. 実践報告 3.1 実践校紹介 筆者の勤務する神奈川県立新栄高等学校は,横浜市北部に位置する,全校生徒1,000 名を 超える全日制普通科の高校である。一学年約340 名から成り,各学年9クラスで編成されて いる。1983 (昭和 58) 年4月に第1期生を迎え,2019 年は第 37 期生を迎え入れた,比較的 新しい学校である。英語科教員数は非常勤講師も含め13 名で,これに ALT1名を加えた計 14 名が基本になる。 卒業後の進路が,就職・専門学校・短期大学・四年制大学などと多岐にわたる点が特徴で ある。「心豊かで,たくましい人間を育む。」という教育目標のもと,個々の生徒がそれぞれ の興味や特性を活かし,同じ教室内で学び合っている。授業はホームルーム単位を基本とし ながら,第2学年次以降の選択科目では少人数授業が多い。様々な学力層の生徒が集ってい るため,授業構成や教材準備,グループワークなどをいかに活用し,生徒の英語力向上に繋 げていくかは,自分自身,試行錯誤しており,日々の向き合っている課題である。 3.2 アンケート調査 筆者自身,異動一年目ということもあり,今年度は学校の文化や風土,生徒の雰囲気や, 長所短所を理解することに注力しながらのスタートを切った。とりわけ,興味の的は生徒た ちがこれまで,英語,もしくは学習そのものと,向き合ってきたのかを理解することであっ

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やすい環境であると言える。 例えば,教科書で扱っているテーマが,「日本の食文化」であるならば,教科書に出てき ていない食材の中から日本人の生活と密接に結びついている食材を各々に選択させ,なぜそ の食材を選んだのか,自分とその食材との関わりやエピソードを発表しようと授業構想を練 る。 次に簡単なプレゼンテーションメモを作成し,ペアで練習させる。その後,5人程度のグ ループでペア練習したことを一人一回,発表させる。時間的余裕があればクラス全体の前で 発表させ,コメントなどでフィードバックを与えることが望ましい。適切な評価とフィード バックの在り方については,本稿においては守備範囲外とするが,授業を改善するためには 考えなくてはならない重要な概念である。 授業中の必然性というのは,「友達に発表するのだから,ある程度まとまりのある英文に ついて,論理的展開を踏まえて書こう」,「友達にしゃべるのだからアイコンタクトを意識し よう」などがこの場面において考えられる。聴き手側も同様に,「友人がしゃべっているの だから,反応を示そう」,「友人の発表から学ぶ点を探そう」などが考えられる。ときに,教 員の話を聴くときよりも友人の発表を聴くときの方が,彼らの集中力が継続するということ は珍しくない。この活動を観察するとき,意識していることは,「教科書や問題集の中に英 語があるのは当たり前だが,生徒自身の中に英語はあるか」という視点,「生徒の論点には 共感しよう」という態度,そうすることでことばが生徒の中に息づき,「英語が生徒のこと ばになるのだ」という信念である。もちろん,とても簡素なアクティビティーであっても躓 く生徒は多い。けれどもそのようなときにすぐに手を差しのべるのではなく,それを我慢す る重要性,転んだ生徒が起き上がってくるのを待つ力の重要性を,生徒たちから学ぶ日々で ある。今,そこに見えなくても,将来見えてくることばとして英語を生徒の中に育てたいも のである。ゆえに,たった一言でも,他者の発表に英語でコメントをしようとする生徒,実 際にした生徒は大いに褒めたい。 続いて後者について述べる。「2回聞く」については文字通り,教員が生徒に質問を2回 するということである。というのも,年度当初は自分自身が意気込みすぎていたこともあ り,英語での質問に日本語での反応ならまだしも,無反応 (=沈黙) というこれまで味わっ たことない焦燥感に苛まれていたものだった。以後これを打開すべく,一度質問して,答え が返ってこなくても,それにめげず,以下のパターンでしつこくならない程度に二度までは 質問することにしている。 (1) T:質問 A ⇒ S:無反応・沈黙 ⇒ T:質問 A ⇒ S:応答 (2) T:質問 A ⇒ S:無反応・沈黙 ⇒ T:質問 B ⇒ S:応答 (T: Teacher,S: Student) (1)のパターンで最終的に答えが返ってくる場合は,「答えは分かっているけども,答える こと自体が恥ずかしい」と感じている生徒に多い。(2)のパターンで最終的に答えが返ってく る場合は,質問A が難しいため,「答えそのものが分からない」,もしくは「答えそのものは 分かっているが,英語で答えることにハードルがある」と感じている生徒に多い。そのため 難易度を下げた質問B ならばおおよそ答えが返ってくる。どちらにしても大事なことは,自 分の頭でしっかり考えること,そして間違えてもいいから答えようという雰囲気,もしも間 であるがゆえ,自分自身,折に触れて大学入試や英語検定外部試験の話もするよう心がけて いるが,まず最初の反応が,以下に代表されるもの4である。 ・「高校受験の英語が本当にきつかった」 ・「高校受験では,英語での失点を他教科でカバーした」 ・「 (英語学習を) 中学校からやり直したい」 アンケートの結果を裏付けるような反応ではあるが,教員の心構えとしては,授業を通じ て教えるべき内容を教えながらも,スローラーナーの英語学習に対する意識改革を継続して いくべきである。つまり,英語は積み重ね型の教科であるため,毎日少しずつでも,例えば 単語や文法の復習からでも英語に触れ続けていこうという意識を植え付けたり,英語力を高 めるための日本語力の重要性,という側面からアプローチしたり,勉強を継続させるための モチベーションがあるかという話をしたりと,手を替え品を替え,語り続けることである。 そして,クラスの中でよい取り組みを行っている生徒を少しずつ増やし,それをクラスメイ トの前で共有し,身近に実際に行動を起こしている仲間がいることを認識させている。 英語や勉強に対するモチベーションの必要性を話した後は,学校外での勉強の仕方を教え ることも同時に進めている。多くの生徒はスマートフォンなどの便利な情報端末を所有して いるため,教科書や単語帳とリンクしたアプリの紹介,無料で音声を用いた学習が行えるサ イトや,オーセンティックな英語に興味があるなら海外のニュースを聴くことができるサイ トの紹介などが有効である。生徒はひとたび興味をもつと,自分のペースに合った学習アプ リを次々と探してくることができ,そのアンテナの高さや,情報活用能力に驚かされること もしばしばある。まだまだ積極的な反応を示す生徒は少ないが,勉強の仕方も英語学習を進 めるうえで欠かせない要素であるため,根気強く続けていきたい。 他方,ここまで述べてきたことが全ての生徒の声を代弁するものではないことも頭に入れ て授業をしている。進学意識の高い生徒を中心に,「苦手だけども頑張りたい」というメン タリティーを持っている点は充分評価に値する。アンケートには以下のような前向きなコメ ント5も存在する。 ・「英語は一番苦手な教科だったけども,自分の中で“まずまず得意”と言えるようになり たい」 ・「成績を上げて将来の選択肢を増やしたい」 ・「分からないところはどんどん質問したい」 以上,アンケート調査とその分析から,簡単な実践例を交えつつ生徒の現状を確認した。 その他の実践例を以下で述べる。 3.3 授業中の関わり合い 授業を進める際,スローラーナーを意識して実践していることは「必然性を与えるこ と」,「2回聞く,2回考える」である。 まずは前者について実践例から考える。英語の授業においては,授業自体がコミュニケー ションの場であるから,そこに教科書で教えるということを掛け合わせれば,必然性を創り

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やすい環境であると言える。 例えば,教科書で扱っているテーマが,「日本の食文化」であるならば,教科書に出てき ていない食材の中から日本人の生活と密接に結びついている食材を各々に選択させ,なぜそ の食材を選んだのか,自分とその食材との関わりやエピソードを発表しようと授業構想を練 る。 次に簡単なプレゼンテーションメモを作成し,ペアで練習させる。その後,5人程度のグ ループでペア練習したことを一人一回,発表させる。時間的余裕があればクラス全体の前で 発表させ,コメントなどでフィードバックを与えることが望ましい。適切な評価とフィード バックの在り方については,本稿においては守備範囲外とするが,授業を改善するためには 考えなくてはならない重要な概念である。 授業中の必然性というのは,「友達に発表するのだから,ある程度まとまりのある英文に ついて,論理的展開を踏まえて書こう」,「友達にしゃべるのだからアイコンタクトを意識し よう」などがこの場面において考えられる。聴き手側も同様に,「友人がしゃべっているの だから,反応を示そう」,「友人の発表から学ぶ点を探そう」などが考えられる。ときに,教 員の話を聴くときよりも友人の発表を聴くときの方が,彼らの集中力が継続するということ は珍しくない。この活動を観察するとき,意識していることは,「教科書や問題集の中に英 語があるのは当たり前だが,生徒自身の中に英語はあるか」という視点,「生徒の論点には 共感しよう」という態度,そうすることでことばが生徒の中に息づき,「英語が生徒のこと ばになるのだ」という信念である。もちろん,とても簡素なアクティビティーであっても躓 く生徒は多い。けれどもそのようなときにすぐに手を差しのべるのではなく,それを我慢す る重要性,転んだ生徒が起き上がってくるのを待つ力の重要性を,生徒たちから学ぶ日々で ある。今,そこに見えなくても,将来見えてくることばとして英語を生徒の中に育てたいも のである。ゆえに,たった一言でも,他者の発表に英語でコメントをしようとする生徒,実 際にした生徒は大いに褒めたい。 続いて後者について述べる。「2回聞く」については文字通り,教員が生徒に質問を2回 するということである。というのも,年度当初は自分自身が意気込みすぎていたこともあ り,英語での質問に日本語での反応ならまだしも,無反応 (=沈黙) というこれまで味わっ たことない焦燥感に苛まれていたものだった。以後これを打開すべく,一度質問して,答え が返ってこなくても,それにめげず,以下のパターンでしつこくならない程度に二度までは 質問することにしている。 (1) T:質問 A ⇒ S:無反応・沈黙 ⇒ T:質問 A ⇒ S:応答 (2) T:質問 A ⇒ S:無反応・沈黙 ⇒ T:質問 B ⇒ S:応答 (T: Teacher,S: Student) (1)のパターンで最終的に答えが返ってくる場合は,「答えは分かっているけども,答える こと自体が恥ずかしい」と感じている生徒に多い。(2)のパターンで最終的に答えが返ってく る場合は,質問A が難しいため,「答えそのものが分からない」,もしくは「答えそのものは 分かっているが,英語で答えることにハードルがある」と感じている生徒に多い。そのため 難易度を下げた質問B ならばおおよそ答えが返ってくる。どちらにしても大事なことは,自 分の頭でしっかり考えること,そして間違えてもいいから答えようという雰囲気,もしも間 であるがゆえ,自分自身,折に触れて大学入試や英語検定外部試験の話もするよう心がけて いるが,まず最初の反応が,以下に代表されるもの4である。 ・「高校受験の英語が本当にきつかった」 ・「高校受験では,英語での失点を他教科でカバーした」 ・「 (英語学習を) 中学校からやり直したい」 アンケートの結果を裏付けるような反応ではあるが,教員の心構えとしては,授業を通じ て教えるべき内容を教えながらも,スローラーナーの英語学習に対する意識改革を継続して いくべきである。つまり,英語は積み重ね型の教科であるため,毎日少しずつでも,例えば 単語や文法の復習からでも英語に触れ続けていこうという意識を植え付けたり,英語力を高 めるための日本語力の重要性,という側面からアプローチしたり,勉強を継続させるための モチベーションがあるかという話をしたりと,手を替え品を替え,語り続けることである。 そして,クラスの中でよい取り組みを行っている生徒を少しずつ増やし,それをクラスメイ トの前で共有し,身近に実際に行動を起こしている仲間がいることを認識させている。 英語や勉強に対するモチベーションの必要性を話した後は,学校外での勉強の仕方を教え ることも同時に進めている。多くの生徒はスマートフォンなどの便利な情報端末を所有して いるため,教科書や単語帳とリンクしたアプリの紹介,無料で音声を用いた学習が行えるサ イトや,オーセンティックな英語に興味があるなら海外のニュースを聴くことができるサイ トの紹介などが有効である。生徒はひとたび興味をもつと,自分のペースに合った学習アプ リを次々と探してくることができ,そのアンテナの高さや,情報活用能力に驚かされること もしばしばある。まだまだ積極的な反応を示す生徒は少ないが,勉強の仕方も英語学習を進 めるうえで欠かせない要素であるため,根気強く続けていきたい。 他方,ここまで述べてきたことが全ての生徒の声を代弁するものではないことも頭に入れ て授業をしている。進学意識の高い生徒を中心に,「苦手だけども頑張りたい」というメン タリティーを持っている点は充分評価に値する。アンケートには以下のような前向きなコメ ント5も存在する。 ・「英語は一番苦手な教科だったけども,自分の中で“まずまず得意”と言えるようになり たい」 ・「成績を上げて将来の選択肢を増やしたい」 ・「分からないところはどんどん質問したい」 以上,アンケート調査とその分析から,簡単な実践例を交えつつ生徒の現状を確認した。 その他の実践例を以下で述べる。 3.3 授業中の関わり合い 授業を進める際,スローラーナーを意識して実践していることは「必然性を与えるこ と」,「2回聞く,2回考える」である。 まずは前者について実践例から考える。英語の授業においては,授業自体がコミュニケー ションの場であるから,そこに教科書で教えるということを掛け合わせれば,必然性を創り

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2 CEFR: 日本語では「ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages, CEFR)」とされ,例えば,新学習指導要領ではCEFR に倣って4技能のうち「話すこと」が,「話すこと (やり取り) 」・「話すこと (発表) 」に分割されているように,国際的な基準を示すもので,その影響力は大き い。 3 記述回答されたものの中から筆者が主立った意見を各項目3点ずつに集約させた。 書かれた内容については文意を損なわない程度に筆者が簡易化させたものを記載し ている。 4 生徒の回答数が多かった部類のものについて,文意が損なわれない程度に筆者が簡 易化させたものを記載している。 5 4に同じ。 参考資料 文部科学省 (2019) 『平成 30 年度「英語教育実施状況調査」の結果について』 https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1415042.htm 2019 年 12 月 30 日検索 違えてもそれを認める授業空気の醸成である。 続いて,「2回考える」についてであるが,これを行うのは教員である。あらゆる発問に 対して,言葉足らずの場合に限っては生徒から返ってきた答えを,文字通り,ことば通り受 け取るのではなく,直接表現されない意味,いわばconnotation の理解に努める姿勢であ る。そのために生徒には,「単語よりも文にして答える」,「答えには理由を添える」ことを 求めている。これもすぐに生徒に浸透するものではないが,粘り強く取り組んでいる。 4. 今後の課題 全体的な指導にあたっては,4技能をそれぞれ独立して扱うだけではなく,理解に基づい て書かせたり,話させたりするといったアウトプット活動に結びつけることが重要である。 その中で語彙や文法を,文脈に合わせた意味のある使い方ができるように指導する精度を高 めることが必要である。教科書で扱う単元のメインテーマに合わせて導入を行ったり,アク ティビティーを設定させるなどして,なぜ教科書を読んでいるのか,なぜクラスメイトと協 働学習しているのかについてもっともっと必然性をもたせたい。そしてせっかく活動を行っ ているのだから,必要に応じて丁寧に活動のやり方や目的を伝える。教員も惰性に流され ず,インプットとアウトプットの往還を意識することが求められる。それでいて独りよがり の授業にならないために,アンケートや普段の会話から生徒のニーズを把握することも必要 である。生徒の興味は多岐にわたるため,教員は自分自身のアンテナを高め,正確な情報を もって生徒に接することが肝要だと思いを新たにし,授業改善に努めたい。 現在,筆者が勤務している地域では他校へ授業見学をさせてもらう機会も比較的多く設定 されており,同校種間では徐々に風通しがよくなってきている。しかしながら,自戒の念を 込めて述べるならば,公開されている授業の多くは,残念なことに,「誰かに見せるための 授業」という印象が拭えないものである。かつての「アクティブラーニング」というキーワ ードへの理解不足,およびそれに端を発する目的が不透明なペアワーク,グループワークを 乱発させ,内容を膨らませはするものの,まとめの時間に結論を見いだせないディスカッシ ョンにかなりの時間を割き,またはまとめの時間自体が設定されないまま,教員が正答らし き結論を突然提示して,結局生徒の活動は何だったのかと感じさせる授業である。そのよう な授業は往々にして生徒の関心をつかむために,導入部分には工夫が凝らされているが,展 開部分は生徒の自主性という抽象的な概念に大いに頼り,議論を拡げっぱなしにし,まとめ の部分は先述のように詰めが甘く,収斂されることが難しい構成になっている。スローラー ナーを意識するならば,充分に時間を掛けてでも,活動の目的と今何をしているのかを生徒 と共有して教科書を開きたい。授業の技術論ばかりに走り,目の前の生徒を置き去りにする ことがないよう,学問的知見を教育に応用する力を磨き,目の前の学習者の英語力向上に資 する授業改善をこれからも考えていきたい。 注 1 アルファベットの認識に困難を覚えるような,初期段階から英語学習に躓いている 学習者などを指す場合もあるが,本稿では,様々な学力レベルの学習者が集まる学 校,特に教室内において英語の学習に躓いている生徒を想定している。

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2 CEFR: 日本語では「ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages, CEFR)」とされ,例えば,新学習指導要領ではCEFR に倣って4技能のうち「話すこと」が,「話すこと (やり取り) 」・「話すこと (発表) 」に分割されているように,国際的な基準を示すもので,その影響力は大き い。 3 記述回答されたものの中から筆者が主立った意見を各項目3点ずつに集約させた。 書かれた内容については文意を損なわない程度に筆者が簡易化させたものを記載し ている。 4 生徒の回答数が多かった部類のものについて,文意が損なわれない程度に筆者が簡 易化させたものを記載している。 5 4に同じ。 参考資料 文部科学省 (2019) 『平成 30 年度「英語教育実施状況調査」の結果について』 https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1415042.htm 2019 年 12 月 30 日検索 違えてもそれを認める授業空気の醸成である。 続いて,「2回考える」についてであるが,これを行うのは教員である。あらゆる発問に 対して,言葉足らずの場合に限っては生徒から返ってきた答えを,文字通り,ことば通り受 け取るのではなく,直接表現されない意味,いわばconnotation の理解に努める姿勢であ る。そのために生徒には,「単語よりも文にして答える」,「答えには理由を添える」ことを 求めている。これもすぐに生徒に浸透するものではないが,粘り強く取り組んでいる。 4. 今後の課題 全体的な指導にあたっては,4技能をそれぞれ独立して扱うだけではなく,理解に基づい て書かせたり,話させたりするといったアウトプット活動に結びつけることが重要である。 その中で語彙や文法を,文脈に合わせた意味のある使い方ができるように指導する精度を高 めることが必要である。教科書で扱う単元のメインテーマに合わせて導入を行ったり,アク ティビティーを設定させるなどして,なぜ教科書を読んでいるのか,なぜクラスメイトと協 働学習しているのかについてもっともっと必然性をもたせたい。そしてせっかく活動を行っ ているのだから,必要に応じて丁寧に活動のやり方や目的を伝える。教員も惰性に流され ず,インプットとアウトプットの往還を意識することが求められる。それでいて独りよがり の授業にならないために,アンケートや普段の会話から生徒のニーズを把握することも必要 である。生徒の興味は多岐にわたるため,教員は自分自身のアンテナを高め,正確な情報を もって生徒に接することが肝要だと思いを新たにし,授業改善に努めたい。 現在,筆者が勤務している地域では他校へ授業見学をさせてもらう機会も比較的多く設定 されており,同校種間では徐々に風通しがよくなってきている。しかしながら,自戒の念を 込めて述べるならば,公開されている授業の多くは,残念なことに,「誰かに見せるための 授業」という印象が拭えないものである。かつての「アクティブラーニング」というキーワ ードへの理解不足,およびそれに端を発する目的が不透明なペアワーク,グループワークを 乱発させ,内容を膨らませはするものの,まとめの時間に結論を見いだせないディスカッシ ョンにかなりの時間を割き,またはまとめの時間自体が設定されないまま,教員が正答らし き結論を突然提示して,結局生徒の活動は何だったのかと感じさせる授業である。そのよう な授業は往々にして生徒の関心をつかむために,導入部分には工夫が凝らされているが,展 開部分は生徒の自主性という抽象的な概念に大いに頼り,議論を拡げっぱなしにし,まとめ の部分は先述のように詰めが甘く,収斂されることが難しい構成になっている。スローラー ナーを意識するならば,充分に時間を掛けてでも,活動の目的と今何をしているのかを生徒 と共有して教科書を開きたい。授業の技術論ばかりに走り,目の前の生徒を置き去りにする ことがないよう,学問的知見を教育に応用する力を磨き,目の前の学習者の英語力向上に資 する授業改善をこれからも考えていきたい。 注 1 アルファベットの認識に困難を覚えるような,初期段階から英語学習に躓いている 学習者などを指す場合もあるが,本稿では,様々な学力レベルの学習者が集まる学 校,特に教室内において英語の学習に躓いている生徒を想定している。

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