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在宅でのアドバンス・ケア・プランニングにおけるオープン・ダイアローグの可能性

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(1)公益財団法⼈ 在宅医療助成 勇美記念財団 2018年度(後期) ⼀般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書. 「. 在宅でのアドバンス・ケア・プラニングにおける オープン・ダイアローグの可能性. 」. 申請者: 藤本啓⼦ 所属機関: ウェル・リビングを考える会 提出年⽉⽇:2020 年 3 ⽉ 20 ⽇. 1.

(2) ⽬次 1. 研究の背景 1.1. 現状. ......................................................................................................... 3. 1.2. 現時点での課題 ....................................................................................... 3 1.3. 本研究に⾄った経緯 1.4. 本研究の意義. ............................................................................... 3. ............................................................................................4. 1.5. 本研究の成果 ............................................................................................4 2. 研究の概要 2.1. 研究の⽬的 ................................................................................................ 4 2.2.. 3. 研究の実施⼿順 ..........................................................................................5. 研究内容 3.1.. オープン・ダイアローグ ...................................................................... 5. 3.2.. 対話ワークショップ ............................................................................ 9. 3.3.. ACP に対する意識調査 .......................................................................19. 4. 考察 ....................................................................................................................35. 5. 研究の実施体制 ..................................................................................................40. 6. 成果物 ................................................................................................................41. 2.

(3) 1. 研究の背景. l.1. 現状 多死社会に伴って⾼齢者の看取りのあり⽅をどのように考えていくかということが、超 ⾼齢社会での最重要課題となっている。それに対して、厚⽣労働省は、2018 年 3 ⽉「⼈⽣ の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を改定し、私たちがより よい最期を迎えるために、医療・介護者だけでなく、終末期の医療・介護について、市⺠ ⼀⼈⼀⼈の意識改⾰が必要であることを明記し、本⼈と家族、医療・介護関係者が繰り返 し話し合いをして本⼈の意思を確認するアドバンス・ケア・プラニング(以下 ACP)の重 要性を打ちだした。今後は病院だけでなく、在宅や介護施設でもガイドラインを活⽤でき るよう医療・介護業界に周知し、ACP の愛称を「⼈⽣会議」として、ACP の普及啓発に 活⽤した。 1.2.. 現時点での課題. ACP は本来事前に患者や利⽤者の意思決定を⽀援しようとの医療・介護者側の試みであ る。医療・介護は、患者や利⽤者の意思を尊重し、患者や利⽤者のリビングウィルに基づい て⾏うことを旨とするが、現実には、患者や利⽤者がリビングウィルの作成に⾄っているケ ースは少ない。そこで、医療・介護者による患者や利⽤者の意思決定「⽀援」が必要となる と⾔われている。なぜなら、患者や利⽤者が主治医、あるいは介護者の説明をきいて内容を 理解するためには時間を要し、限られた時間内で⾃ら意思決定に⾄るのは難しいという現 状があるからである。そのような状況下では、専⾨家は⾃らの経験や知識に基づき最善の治 療・介護⽅針を患者や利⽤者に提供するが、 「⽀援」という名のパターナリズムは拭えない。 本来は、患者が主体的に ACP に臨むことが重要で、そのためには患者・家族と医療・介 護者が互いの情報を共有して患者の意思決定に向けて対話を⾏うことが望ましい。しかし、 実際は専⾨家によるケアチームが事前に話し合いをし、あらかじめ⽅針を決定して、患者・ 家族との ACP に臨むため、決定事項の説明に終始する。以上から患者や利⽤者の意向を⼗ 分に汲み取ることができず、どのような⽅法で患者・家族と対話をし、理解を深めていけば よいか医療・介護者側から⼾惑いの声が聞かれる。 1.3.. 本研究に⾄った経緯. 申請者はこれまで、患者の⾃⽴に基づく⾃⼰決定を⽬指し、市⺠向けにリビングウィルの 勉強会や作成会を⾏ってきたが、ACP は患者・家族と医療・介護専⾨家による対話が必須 であるとの認識に⾄り、双⽅が対等な関係で話し合い、互いの差異に気づき、それらをどう ⽀援に活かすか考えてきた。. 3.

(4) そこで、オープン・ダイアローグ(以下 OD)という対話の⼿法を知ることとなり、OD が患者・家族と医療・介護専⾨家間のコミュニケーションの場に活かせるのではないかと考 えた。なぜなら、OD は、発症初期の精神病患者の治療ではあるが、⼀定の効果が認知され ていること、OD を⽀える主な理論が、平等主義、対話主義、社会的ネットワークのポリフ ォニー(多声)であることから、多職種の医療・介護専⾨家と、患者(利⽤者)・家族とが 対等な⽴場で対話するために役⽴つのではないかと考えたからである。そのため、OD の実 践の場やコミュニケーションのツールの必要性を実感した。 1.4.. 本研究の意義. 本研究の意義は、OD を理解することで、治療という概念にとらわれず、従来の「結果あ りき」からプロセス重視の意思決定⽀援の新たな可能性が開け、在宅・施設での看取りを⽀ える包括ケアシステム構築の可能性が期待されることである。さらに、繰り返し対話を⾏う ことによって、医療・介護職員の対話⼒が向上し、そのことが、看取りに対する意識の向上 にもつながっていくと考えた。 また、 「看取り」を⾒据えた対話は、患者・家族・医療・介護職員に対する死の準備教育 ともなり得、在宅患者・家族へのリビングウィルの普及のみならず、医療・介護職員へのリ ビングウィルの普及にもつながると考えた。 1.5.. 研究の成果. 本セミナーでは、意思決定を単に⽀援する側から考えるのではなく、患者・利⽤者・家族 のこころ構え(主体的意思決定)をも⽰していけるよう、コミュニケーションのツールとし てテキスト(冊⼦)を作成した。今後、そのテキストを使⽤して、在宅や施設などさまざま な場で「リビングウィル」作成のための学習会を⾏うことで、⽣⽼病死と向き合う際の ACP の波及効果を⽣むことが期待できる。 さらに、テキストを使⽤したセミナーや勉強会を引き続き地域で⾏うことで、医療・介護 従事者のみならず、市⺠の「意思決定」に対する意識の向上を図り、患者や家族も終末期ケ アの地域連携ネットワークに参与することで地域包括ケアの⼀役を担うことが期待できる。 2. 研究の概要. 2.1. 研究の⽬的. ACP の現状と課題を探り、従来の医療者による患者・家族の意思決定⽀援というパター ナリズムではなく、患者・家族の視点からも ACP の可能性を模索する。結果よりプロセス や哲学が重視される OD が、患者・家族と医療・介護専⾨家との ACP にもたらす効果を検. 4.

(5) 証し、OD を、在宅ケアでどう実践に活かすことができるか、その可能性を探る。さらに実 践のガイドブックとなるコミュニケーションのツールとなるべきテキストを作成する。 2.2. 研究実施の⼿順. 本研究では、在宅医療・介護関係者を対象に、ACP に関する現状と課題に関するインタ ビューを⾏うとともに、OD の⼿法、とくに OD の根幹をなすリフレクティングを⽤いて 対話セミナーを⾏い、参加者の意識を観察した。研究対象者は、⼀般公募により対話ワーク ショップに参加した⼀般市⺠と専⾨家、インタビューは、在宅の訪問看護・介護に携わる専 ⾨家であった。 対話ワークショップの⽅法は、各回とも初めにテーマに関して講師が話題提供を⾏い、そ の後、参加者を⾮専⾨家(⼀般参加者)からなるグループと専⾨家からなるグループとに分 けて対話を⾏った。各グループには共同研究者がファシリテーターとして⼊り、発⾔内容 は、司会者が模造紙に箇条書きし、全員が⽬にすることができるよう貼り出した。ワークシ ョプ後は、振り返りチェックシートを配布してアンケートを取り、結果をまとめた。グルー プワークの内容は録⾳すると共に、研究協⼒者が各回ごとに記録として⽂書にまとめた。 3. 研究内容. 3.1. オープン・ダイアローグ OD は、フィンランドで⾏われている統合失調症に対する開かれた対話によるアプロー チで、システム論的家族療法やナラティブセラピー、リフレクティング・プロセスといった 複数の技法から⼤きな影響を受け、それなりの治療成績をおさめている。フィンランドでの 主たる治療対象は発症初期の精神病(統合失調症に限定されていない)とされているが、精 神病以外の医療・介護にも応⽤が可能と考えられている。 OD の参加者は、医師、看護師、⼼理⼠、担当医師の他、本⼈とかかわる重要な⼈物(家 族や友⼈など)からなり、ミーティングでは、原則として本⼈抜きではいかなる決定もなさ れない。⽴場の違いは考慮されず、スタッフと患者・家族の間にはっきりとした区別は設け ないが、個々の専⾨性は尊重される。また、 「専⾨家が指⽰し、患者が従う」といった上下 関係は存在せず、中⽴な⽴場のファシリテーターをおく。ミーティングは、本⼈のみならず 家族、関係者ら全員の意向が表明されたのちに、治療の問題が話し合われるが、結果(治療 ⽅針の決定)ありきではなく、まずは関係者全員の意向が重視されることから始まる。 3.1.1 オープン・ダイアローグは何を重視するか OD は、 「技法」や「治療プログラム」ではなく、 「哲学」や「考え⽅」が重視される。. 5.

(6) OD の根幹をなす「リフレクティング」は、専⾨家が(マジックミラーなどを介して)⼀⽅ 的に患者を観察するのではなく、患者・家族にも治療者たちの話し合いを観察する機会を与 える、という⼿法である。患者・家族は、専⾨家の話を聞くことによって情緒的な安⼼感を もち、病的なコミュニケーションから解放され、患者⾃らのストーリー(物語)を⽣み出す ことができる。 リフレクティングでは、意⾒の集約や善悪の価値判断よりも、傾聴と応答が推奨され、ゴ ールは、全員が合意することではなく、それぞれ異なった理解をうまくつなぎ合わせ、共有 することである。 OD は、以下から構成される。(1) ①. 依頼を受けてから 24 時間以内にミーティング開始. ②. 最初に連絡を受けたスタッフが責任者になる. ③. 当人や家族のいないところでは何も決めない. ④. 同じチームがずっとかかわる. ⑤. ⽬から⽿へ、そして⽪膚へ(「観ること」 「聞くこと」 「感じること」 「触れること」 ) を重視. 3.1.2. オープン・ダイアローグ(OD)の⼿法をささえる理論(2) OD の⼿法を⽀える理論は、以下の4つである。 ①. 不確実性への耐性. ②. 対話主義. ③. 平等主義. ④. 社会的ネットワークのポリフォニー(多声). ① 不確実性への耐性 不確実性への耐性とは、毎回のミーティングでのあいまいさに耐え、最終的な結論が出さ れるまで(対話の中で本⼈が納得しない限り)は、このあいまいな状況に耐えながら、患者 や家族の不安や希望を⽀えていくことである。そうすることで、患者や家族に安⼼感をあた えるが、それは医師の権威による安⼼感とは対極で、どんな治療がなされるべきかの結論 は、対話全体の流れが⾃然な答えを導いてくれるまで先送りされる。 不確実性への耐性を⽀えている要素は、何度もミーティングをすること、そのことで対話 の質を⾼めることである。治療者と家族は⼀定期間、危機的状況が孕むあいまいさと格闘し なければならないが、それを可能にするのが対話といえる。 「対話こそが、迷宮から脱する ための『アリアドネの⽷』* 」(3) となる。対話のプロセスで患者が治療が安全なものと感 じられる場合にのみ、耐えられるものとなる。. 6.

(7) *. アリアドネとは、ギリシャ神話に出てくるクレタ島の王ミノスの娘。怪物退治に迷宮へ⼊るテセウスに、アリアドネ. が脱出⽤の⽷を与えたことから、難問を解決する鍵を「アリアドネの⽷」という。. 安⼼は、医療・介護者が当事者にとっての最善策を提供するより、まず当事者の話に⽿を 傾け、その場のすべての⼈の発⾔や考え⽅に対して応答していくことによってはじめて担 保される。この耐性が構築されれば、それは家族と患者のみならず、医療・介護者にとって も貴重な資源となる。 そのためには、まず結論を急がないこと、 「今何をすべきか」という問いについては、対 話そのものが答えを出すか、そもそも問題がなくなってしまうまで、答えは保留される。だ から、すぐに助⾔したり結論を急いだり、従来どおり介⼊⼿段に訴えるやり⽅では、安全と 信頼の確⽴はおろか、真の解決にはつながらない。また、予断や憶測は、ことのほか避ける べきで、決めつけは、患者を沈黙させ、⾃然な解決⽅法を⾒つけにくくする。 この不確実性への耐性をつける姿勢は、無知の姿勢 not-knowing position とは異なる。 すなわち、<正解>がないだけで、<答え>がないわけではない。他者の声に⽿を傾け、お 互いの差異を認め合いながら、根気よく答えを探求する姿勢である。* *. 申請者は、15 年ほど公⽴⾼校で哲学対話の授業(臨床哲学)を担当しているが、そこでも哲学は、「正解はないが、 答えがないわけではない、ひとりひとりが⾃分で考え、答えを探求すること」、そのためには、 「相⼿の⾔葉に⽿を傾 け、考え、応答すること、相⼿との差異を認め合うこと」と⽣徒に伝えている。ここに哲学対話の基本がある。. ② 対話主義 対話を、チーム、個人、社会的ネットワーク間におけるコミュニケーションの枠組と 考える。対話は、⼈と⼈との<あいだ>をつないでいくネットワークを構築することに加 え、共有可能な⾔語表現(共通⾔語)をもたらし、患者の孤⽴感をやわらげようとする努⼒ を後押しする。その際、 「聴くこと」は「質問すること」より重要で、問いの投げかけはあ るが、問いかける以上に傾聴が重視され、あらかじめ対話のテーマは設定せず、可能な限り 「開かれた質問」 (オープン・クエスチョン)* から対話を始め、問いかけ→傾聴→さらな る別の問いかけを繰り返す。OD のプロセスにおいても、⼈々が語ることに対して⽿を澄ま すことが必要であるが、それ以上に、対話の⾏間に⾒え隠れする感情や感覚のやりとりに注 意を向けながら、⾔葉を⽣み出していく姿勢が必要になる。 「応答すること」で、患者に発 話を促し、発話と応答を結び合わせる対話が、聞き⼿のいない「モノローグ」とは異なる「ダ イアローグ」へと導いてくれる。 * オープンクエスチョンとは、⼆者択⼀で解答できる質問を避け⾃由に発⾔できる聞き⽅。 反対に、A か B のどち らかを選択させるような回答範囲を限定する聞き⽅は、クローズドクエスチョン(閉じられた質問)と呼ばれる。. 7.

(8) OD は、⾔語化を促進することで、もう⼀度患者⾃⾝の⼈⽣に再統合する(体験の⾔語化 =物語化)というナラティブ・セラピーから⼤きな影響を受けているが、OD が⽬指すのは、 患者の病いの発話のなかに潜んでいる思いを、メンバー間で共有可能な発話として導き出 すことである。患者・家族は、対話を続ける中で、しだいに⾃らの体験の意味づけをし、不 安や苦悩を⾔い表すための⾔葉を作り出していく。 以上から、OD は、解決そのものが⽬的ではなく、対話をつないでいくことが⽬的なの で、メンバーは、単に「環境」 (対話の場を構成する者)にすぎず、 「診断」したり、 「介⼊」 したりする者ではない。. ③ 平等主義 OD では、メンバーの上下関係や社会的役割は重視されず、メンバー全員のあらゆる発⾔ が許容され、傾聴される雰囲気をつくることが重視される。⽇本的「空気」の視点、すなわ ち、決定を場の空気に委ねるのではなく、また、 「空気」が、声の⼤きな発⾔者によってゆ がめられることなく、参加者全員が尊重される平等で⾃由な「空気」を作り出し、何かを決 定するのではなく、対話の継続それ⾃体が⽬的であるような対話がなされることを重視す る。パターナリズムによる万能感に満ちたモノローグを去勢することで、語られる⾔葉は共 有可能なダイアローグへと開かれる。 OD を進める重要なルールは、すべての参加者がコメントをする権利をもっていること、 対話を遮るべきではないということである。結論も合意も⽬指さず、意⾒がくいちがったと きに⼤事なことは、正しいか間違いか⽩⿊をはっきりさせることではない。傾聴と応答が促 されることで、すべての声が受け⼊れられ、ゴールは全員のコンセンサスに⾄ることではな く、理解と理解を結び合わせることである。(4). ④ 社会的ネットワークのポリフォニー OD では、何らかの治療のターゲットを確定したり、なんとかして治そうと躍起になっ たりはしない。複数の声がポリフォニーを形成して、そのこと⾃体が治療の資源となるとい うものである。⽬指すべき⽅向性は、患者のかかえている問題がよりはっきりするような共 通⾔語をつくり出すことである。それゆえ対話の⽬的は、単純な合意や結論に⾄ることでは ない。それらは、あくまでも対話の過程の副産物としてもたらされることはあるが、重要な のは、安全な雰囲気のなかで、メンバー相互の異なった視点が接続されることである。(5) 3.1.3. オープン・ダイアローグを実践するための制度的背景 OD は、フィンランドの「ニーズ適合型アプローチ Need-Adapted-Approach」の⼀部に 組み込まれており、治療費は無料、公的制度のバックアップで、対話の技術を洗練し発展さ せるものと考えることができる。(6). 8.

(9) ⽇本においては、近年精神医学のコミュニティケアモデルとして評価されている ACT (包括型地域⽣活⽀援)* の実践が各地ではじまっており、これと OD との組み合わせは 実現の可能性が⾼いように思われる。(7) ただ、フィンランドでの状況は、OD が有効かどうかは⾃治体の規模により、たとえば、 ⻄ラップランドのような⼩さい規模の地⽅では有効でも、ヘルシンキなどのような⼤都市 では、応⽤は難しいと⾔われている。逆にいえば、OD は、地域ケアに適している。 以上から、OD は、社会的ネットワークのなかでなされるコミュニティケア活動である が、制度としてどう実践するかを考えないと、今の⽇本の状況(マンパワー不⾜と制度のバ ックアップのなさ)の中では実践は困難といえる。 *. ACT(Assertive Community Treatment)とは、統合失調症を主とする重度精神障害者の地域⽣活を、医療と福祉の多 職種からなるチームによる⽣活現場への訪問(アウトリーチ)を中⼼とする⽀援体制. 3.2. 対話ワークショップ 対話ワークショップは、タイトルを「⼈⽣のよりよい最期を迎えるために〜⾃分の⽣き⽅、 死に⽅をあらかじめ考えておきましょう」とし、はじめに講師がテーマに関する話題提供を ⾏い、参加者に問いを投げかけた。その問いを受けて参加者は、OD のリフレクティングの ⼿法を⽤いて、グループで対話をした。グループは⼀般(⾮専⾨家)から成るグループと医 療・福祉の専⾨家から成るグループとに分け、それぞれが対話を⾏い、最後に全員で対話の 内容をシェアした。 3.2.1 ワークショップの流れ OD 対話実践のガイドライン(https://www.opendialogue.jp/対話実践のガイドライン/) を参考に、以下の要領でリフレクティングを⾏なった。 1). 非専門家グループと、専門家グループとに分ける。. 2). それぞれのグループにファシリテーターを 1 名おく。. 3). はじめに非専門家グループが一つの輪になり、自分たちだけで向き合って話題提供者 の問いに対して自由に話を始める。(15 分). 4). 専門家グループは少し離れたところで黙って聴いている。. 5). 次に専門家グループが輪になり、自分たちだけで向き合って、非専門家グループの話に 応答する(15 分). 6). 非専門家グループは、専門家の話を聴いて、応答する(15 分). 7). 全体でシェアする(30 分). 9.

(10) 1)〜4). 5). 6). 7). ⼤切なことは、話す⼈(語り⼿)と聴く⼈(聴き⼿)とをグループ分けすることで、 「話す」と「聴く」作業を分けることである。ファシリテーターは、専⾨家グループに、 ⾮専⾨家グループが語ったことについて、⾃分の中に⽣まれた思いを場に差し出す、つま り、真実として決めつけたりしないように相⼿に返すよう伝えた。 3.2.2 参加者 のべ⼈数/ 7 回. 175 名. 性別 ⼥性. 109. 男性. 66. 0. 20. 40. 60. 80. 100. 120. テーマごとの参加者 ⼈⼯栄養 対話. ⼈⼯栄養. 19%. 17%. 認知症 植物状態 認知症. 緩和ケア. 15%. 17%. 植物状態. ⼈⼯透析 12% 9% ⼈⼯呼吸器. ⼈⼯呼吸器 ⼈⼯透析 緩和ケア 対話. 11%. (図1). 10.

(11) 職業(⽴場). 5%. 参加回数. 13%. 当事者. 2回. 14% 48%. 医療職. 52%. 19%. 1回. 9%. ⼀般. 福祉・介護職. 11%. 17% 6%. 研究者. 4回 5回 全回. 6%. (図2). 3回. (図3). おおかたは毎回参加するのではなく、関⼼のあるテーマを選んで参加した⼈が多かった。 テーマごとの参加者は(図1)のとおりである。⼀般の参加者が専⾨職より多く(図2)、参 加回数は、1回のみの参加者が全体の 48%と半数近かった。(図3) 3.2.3 各回の話題提供の趣旨と問い 対話ワークショップでは、チラシには ACP の説明⽂を付したが、OD の説明は敢えてせ ず、ワークショップの趣旨を、単なるレクチャーを聞く会ではなく、専⾨家は ACP に臨ん で患者や利⽤者の意向を汲み取ることができるためにはどのようなことを⼼がけていけば よいか、⼀般参加者には事前にどのような⼼構えをしておけばよいか、ともに学び、考えを 深めていく場であると説明した。 第1回 テーマ. 5 ⽉ 18 ⽇. 神⼾市⽴総合福祉センター 第5会議室. ⼝から飲んだり⾷べたりすることができなくなったら. 話題提供者 藤本啓⼦(ウェル・リビングを考える会 代表) 話題提供の趣旨と問い ⼝から飲んだり、⾷べたりできなくなったときに、⼈⼯的に栄養をとる⽅法があること、 メリットとデメリットがあることを説明し、 「もしも、⼝から飲んだり、⾷べたりできな くなったら、そしてその時、意識がなく、⾃分で判断することができなくなっていたら、 ⼈⼯栄養を希望するか、しないか」を問いとした。 第 2 回 6 ⽉ 15 ⽇ テーマ. あすてっぷ KOBE セミナー室3. 認知症患者のリビングウィル. 11.

(12) 話題提供者 ⽇笠晴⾹(岡⼭⼤学⼤学院ヘルスシステム統合科学研究科講師) 話題提供の趣旨と問い 認知症の⼈の場合、程度のちがいや個⼈差があるが、記憶⼒などが低下し、意思決定でき ないと判断される。しかし、様々な能⼒を持ち続けていて、好き・嫌いや快・不快などの 感情を表すことができ、何らかの価値観をもっているように⾒える。それゆえ、リビング ウィルに関して、⾮常に難しい問題が⽣じることを、ある有名な事例を⽤いて説明したあ と、認知症の場合、リビングウィルをどう考えるか、リビングウィルと現在の利益との間 でズレが⽣じている場合、以下の2点が問いとして投げかけられた。 ――A:リビングウィルどおりにするか ――B:現在の利益を家族はじめ医療ケア従事者が考えて進めるか 第3回. 7⽉ 13 ⽇. テーマ. あすてっぷ KOBE セミナー室1. 脳死と植物状態〜植物状態となったら〜. 話題提供者 浜渦⾠⼆(⼤阪⼤学⼤学院名誉教授 臨床哲学) 話題提供の趣旨と問い 脳死と植物状態のちがいを説明したあと、植物状態となった場合の治療中⽌という選択 について、仮想事例を挙げ、⾃分が「息⼦の⽴場だったらどうするか」、 「意識不明の本⼈ だったらどうしたいか」という問いかけがされた。 仮想事例 4 年前、⽗が意識不明となる。くも膜下出⾎により⽗の意識は回復せず、植物状態と診断 された。当時⽗は 66 歳であった。⼊院後、家族では⽗の今後のことで⼝論が絶えなかっ た。寝たきりの⽗を⾒ている息⼦は、⽣前の⽗との会話や⾦銭的な問題から胃ろうをやめ る可能性を主治医に相談していた。しかし、⺟親(妻)の意⾒が変わったり、姉妹が反対 したりすることで息⼦は「⽗は本当のところどうしてほしいのか」と毎⽇思うようになる。 第 4 回 9 ⽉ 21 ⽇ テーマ. たちばな職員研修センター3F 研修室. ⼈⼯呼吸器について. 話題提供者 会⽥薫⼦(東京⼤学⼤学院⼈⽂社会系研究科死⽣学特任教授) 話題提供の趣旨と問い ⼈⼯呼吸器装着、不開始、取り外しの例を挙げ、⼈⼯呼吸器を装着する家族の思いとし て、 「死に⽬に会う」ということがあるが、 「死に⽬に会う」ことの意味について問いが投 げかけられた。 第5回 テーマ. 11 ⽉ 16 ⽇. あすてっぷ KOBE セミナー室1. 慢性腎不全と⼈⼯透析. 話題提供者 関本雅⼦(関本クリニック理事 緩和ケア医師). 12.

(13) 話題提供の趣旨と問い イギリスの病後⽐較において、透析した場合としなかった場合、余命ではなく、⽣活でき た⾃由時間で⾒るとあまり変わらなかったという研究があるが、慢性腎不全になってつら い状況が続いた場合、⼈⼯透析を続けるかどうかという問いかけがなされた。 第6回 テーマ:. 2020 年 1 ⽉ 18 ⽇ あすてっぷ KOBE セミナー室1 オープン・ダイアローグと哲学対話. 話題提供者 堀江剛. ⼤阪⼤学⼤学院 臨床哲学 教授. 藤本啓⼦ ウェル・リビングを考える会 代表 話題提供の趣旨 これまで⾏ってきたワークショップが、OD のリフレクティングの⼿法を使⽤していた ことを説明し、OD とはどのような対話か、OD を⽀える理論のひとつ哲学対話とはどの ような対話かを説明した。 第7回 テーマ. 2 ⽉ 1 ⽇ あすてっぷ KOBE セミナー室1 がん〜緩和ケア〜. 話題提供者 ⽥村恵⼦(京都⼤学⼤学院 臨床看護学講座. 教授). 話題提供の趣旨と問い ⽇本における緩和ケアの提供体制や役割が年々変化してきているとの話題提供を受 けて、緩和ケアについてどう考えるかが問いとして投げかけられた。 3.2.4. リフレクティング 対話ワークショップでは、一般参加者グループと専門職グループとのリフレクティン グ・トークを、①⼀般参加者は話題提供者の問いに応答できているか、②専⾨家はそれを受 けて⼀般参加者の発⾔に応答できているか、③両者との間で対話は成⽴しているかに注意 を向け、両グループの対話を観察した。 対話ワークショップでは、リフレクティングの⼿法を試みたが、そのことは敢えて参加者 には説明せず、録⾳をもとにコミュニケーションの再現(記録)を⾏なった。さらに、話し ⼿(⼀般参加者グループ)がコミュニケートしようと意図していることがらと、聞き⼿(専 ⾨職グループ)にコミュニケートされたことがらを観察することで、両者のディスコミュニ ケーションの要因を探り、ACP におけるコミュニケーションの課題を検討した。 第1回. 「⼝から飲んだり⾷べたりすることができなくなったら」. ⼀般グループの発⾔は、問いから逸れて、「⾷に関する」⾃⾝の体験や価値観、例えば、. 13.

(14) ⻄⾏法師の信仰と美学(⾷べ物を断ち、死んでいる)について、⾃分もそうありたいと個⼈ 的な価値観を述べたり、それに応答して親鸞や宮本武蔵の⾷に関する価値観を述べたりし た。さらに、延命拒否という⾔葉から⾃殺(⾃死)や安楽死のことを連想して「死」につい ての個⼈的価値観を述べたり、義⺟のことなど、多くは⾃⾝の体験談であった。 それに対し、 「⼀般参加者の⾔葉をどのように受け⽌めたか・どのように考えたのか」に 対する専⾨職グループの発⾔は、胃ろうに関する情報提供や「末期の⼈への積極的な栄養療 法はかえって負荷がかかる」、 「急性期病院など医療現場ではなかなか⼈⼯栄養の拒否は難 しい」などの具体的な事実に基づき、情報提供やアドバイスに重きが置かれた。 ただ、一般グループの発言を聞いて、 「その人の人生、生き方にとってどういう選択にな るのかということが⼀番⼤事だと感じた」や、 「 『よく⽣きることはよく死ぬこと』という⾔ 葉を思い出したが、その⼈の⽣き⽅に沿った選択とは何だろうと考えた」と、応答している 専⾨職の参加者もいた。 第2回. 「認知症患者のリビングウィルをどう考えるか」. リビングウィルをどう考えるかについて、 「リビングウィル通りにするか、現在の利益を 家族や医療ケア従事者が考えて進めるか」という問いに対し、⼀般グループの発⾔は、⾃分 ならどう考えるかというより、尊厳死や安楽死を認めているスイスの事例(テレビ番組)* を紹介したり、尊厳死協会に登録していた叔⽗の話や、意思表⽰のできない認知症の⺟の例 を挙げて、本⼈と⾃分(家族)の希望がくいちがった体験談などを話したり、死⽣観はひと によって異なることや、⽇本⼈の死⽣観についての話となり、 「どう考えるか」という問い から外れている感が否めなかった。その理由は、⼀般参加者にとって、認知症患者のリビン グウィルはあまり現実的でなかったことが考えられる。 *. 2019 年 6 ⽉ 2 ⽇(⽇) 午後 9 時 00 分〜9 時 49 分放送『彼⼥は安楽死を選んだ』 (NHK スペシャル)だと思われる。. ⼀般参加者の発⾔を受けて専⾨家としてどう考えるかについては、⼀般参加者の発⾔に 応答するというより、リビングウィルについての⼀般論を述べたり、 「本⼈のリビングウィ ルと家族の意思が逸れたことで、⼼の葛藤を今も少し引きずっている」、 「本⼈の意思を尊重 するか、今の状況を優先するか、どっちがいいのかというとわからない」 、 「本⼈でも家族で も状況も気持ちも変わっていく。この結論を出すことは、経験の蓄積でしかできない、現実 でも話し合いはあまり重ねていないことが多いことや、話し合いを重ねていても予想外の ことは起こりうるため、過去のリビングウィルと現在の利益との間でズレが⽣じ葛藤する ことはありうる」など、<認知症患者>のリビングウィルをどう考えるかというより、リビ ングウィルにまつわる体験談で終わっていた。 また、施設の職員からは、「施設では延命はしないという前提で⼊所してもらっている」. 14.

(15) などの情報提供や、 「家族は⼀週間に⼀回来る程度だが、家族より⻑く⼀緒にいる⾃分たち はより切実に本⼈がどうしたいと思っているかという悩みを抱えている」などの体験は語 られたが、⼀般参加者の問いに答えるものではなかった。以上から、両者の⽴場からそれぞ れの思いが語られ、パラレルな議論となっていた。 第3回. 「植物状態となった場合の治療中⽌という選択について、⾃分ならどうするか」. 仮想事例を受けて、⼀般グループの発⾔は、「私は、この⽗親だったら、⽣きていきたい とは思わない」 (男性) 、 「私は何年かかろうと続けたいと思う」 (男性)と、⾃分ならどうし たいかという問いに答えている。また、意思決定について、 「意思決定は決して⾃由ではな く、経済的な状況が関係している」という経済問題や、事例の⺟親が混乱している状態に⽬ を向け、 「⾃分なら、 (夫が)⾃分の意思をはっきりさせなくてもお⽗さん(夫)と⽣きてい く」という⺟親の態度への共感が家族として語られた。また、事例を離れて「延命拒否はそ こで命を断つことになるので、家族に責任がかかってきてしまうイメージがあって、殺すと いうわけではないけど、選択を迫られるつらさが家族に課せられている」と、選択が家族の 重荷になること、だから「死とはどういうことか考えておかないと、選ぶということ⾃体が ⽣かすか殺すかだけになってしまうとつらい」 、 「⽇ごろから死を考える必要がある」など、 死に対する思いが語られた。 専⾨職グループでは「医療者が(意思決定について)話し合う場を設定していくべきでは ないか、でないと、 (家族の)⼝論が絶えない」 、 「家族なり、友⼈なり、その中に医療者も 含めて、合意形成をはかっていくべきではないか」と応答している。しかし、実際、医療現 場にはそのような(家族と意思決定にかかわっていく)時間はないとの実情や、時間の問題 ではなく、 「それぞれの思いが強いと、選択肢が増えてしまって、逆に判断が難しい」 、 「専 ⾨家が丁寧に説明することで、 (事例中の姉妹のような)混乱は避けられた可能性がある」 などの応答があった。 さらに、⼀般グループの発した経済問題や、さらに「団塊の世代でも、夫に頼り切って夫 の決定権で⽣活してきた⼥性が多いので、⾃分で考えるのはとてつもない話で、 (事例の⺟ 親の気持ちが)ころころ変わるのは当たり前」と、ジェンダーの視点から、⼀般グループの ⺟親の混乱についての発⾔に応答している。また、事例中での姉妹の⽴場について触れ、状 況の異なる姉妹で話し合うと逆にうまく話し合えないことや、家族トラブルも多いこと」が 体験から語られ、だから、 「ひとりで決めてしまう⽅が楽な場合もあるんやなと思いました」 との感想がきかれた。 以上から、問い(⾃分ならどうするか)からは外れていたが、⼀般参加者の発⾔を受けて 専⾨職グループはある程度は応答しているので、リフレクティング ・トークとしてはうま くいっていた。ただ、 「死」についての発⾔に応答する死⽣観は専⾨職グループからは語ら れず、専⾨職として「死」について語ることを避ける暗黙の縛りのようなものを感じた。. 15.

(16) 全体ディスカッションでは、意思決定をめぐる課題として、⼀般参加者と医療・介護者と の間では、 「こうなる前に、意思を考えて残しておかないと」 (⼀般参加者) 、 「こうなる前に、 話しておくことが必要じゃないかな」 (専⾨職)とほぼ⼀致がみられた。ただ、⼀般参加者 と専⾨家とでは、置かれている「⽴場」や「状況」がそれぞれ異なるために、価値観や判断 基準も異なることが確認された。 第4回. 「死に⽬にあうとはどのようなことか」. ⼀般参加者からは臨終に⽴ち会った体験から「死ぬっていうことはえらい楽なことなん やなと感じた」体験や、妻の⽗親(85 歳)が、誤嚥性肺炎になって救急⾞で病院に運ばれ 家族で相談して「痛みをとって静かに(逝ってもらいたい) 」と伝えたが、主治医からは「医 者というのは少しでも息を永らえさせるのが使命、のどを切開すれば永らえる可能性があ る」と⾔われた体験が語られたが、死に⽬にあうことはどのようなことか、その意味につい ては語られなかった。 そこで、ファシリテータ―から、 「死に⽬に会うことの意味」が問われたが、 「頭で考えた 『論理での死』ということと『⾒た⽬で確認できる死』に乖離がある、そうなると、 (死に ⽬に会うというのは)お互いの⾃⼰満⾜でしかない、だから、⾒ている⼈の都合の良い判断 でしかないのだと思う」 、 「看取りと臨終とは別」などの発⾔が聞かれた。 その後、話題提供の内容に関して、救急⾞を呼ぶ・呼ばない、延命を希望する・しない、 ⾃分の意思(蘇⽣拒否)をどう伝えるか(リビングウィル) 、どうすれば⼈⼯呼吸器を取り 外すこと(⼼肺蘇⽣を拒否)ができるか等に話題が逸れ、講師との質疑応答となった。 話題が問いから逸れたので、再度、ファシリテーターから問いを⽰され、ようやく「(死 に⽬にあうとは)何かあったときにそこに⽴ち返る原点となる瞬間になっているかなと思 います。⽗の(看取り)も、夫の看取りも何度も夢でみたことがあるので、死に⽬に会うと いうのは⽴ち会う・⽴ち会わないっていうこと以上に⼤きな意味があるんじゃないかと思 います」と問いに沿う発⾔がきけた。 ⼀般参加者の話をきいてどう思ったかとの質問に対し、看護師からは、 「頭ではわかって いても気持ちが追いつきませんでした。死に⽬の⽂化は、家族がいるからこその価値観なの かなと思います。家族がいても独居の⼈も、孤独死が多いこの頃だから、 (死に⽬の)とら え⽅も変わらないといけないと思います。 」と⾃⼰の思いが語られた。 また、 「臨終のイメージがつかなくて、とりあえずマッサージを」と希望する家族が多く、 ⼼停⽌に際しては、 「無駄な処置はしやんといて(しないでの⽅⾔) 」と⾔いながらも、 「誰々 が来るまでは⼼臓マッサージして⽣きとるふりさせといて」と⾔われたことで何度も肋⾻ を折ってきたとの体験や、 「病院の現場では機械しか⾒ていないからモニターの数値が死に ⽬である」と、死に⽬の意味についての発⾔がきかれた。 ある看護師は、死に⽬に会うことの意味として、 「⽇本の⽂化の中には何か悪いことをす. 16.

(17) ると『親の死に⽬に会えへんぞ』と⾔われて育ったことで、<死に⽬に会えないこと>に< 親不孝>がしみついていることを現場でよく感じることがある。 (死に⽬に会えないと)罰 を受けるというのはやめてほしい、死に⽬に会えず、すごく悩む家族を⾒たこともある」と 答えている。また、死に⽬に家族が「ありがとう」と声をかける場をみて、 「『今までありが とう』は、死に⽬くらいじゃないと⾔いにくいこともある、そういう(普段⾔えないを伝え る)場として「死に⽬」に意味があるんじゃないかな」という発⾔もあった。 介護福祉⼠(⼥性)からは、ターミナル期における家族の姿勢や認識(死に⽬にだけ会っ ていれば、それ以外のときはどうでもいいという認識) 、新⼈職員の「どうしたらいいかわ からない」 、 「⾃分の夜勤のときには亡くなってほしくない」 、 「病院に搬送するもの」との認 識や実情が語られ、 「死の瞬間を⾒たことない⼈は死って無茶苦茶こわい、死に⽬にあって 『死ってこんなもんなんや』って思うことは⼤切。⼈の亡くなり⽅をのちの⼦孫に⾒せるの もターミナルの教育だから家族や職員の啓蒙の⼤切さを改めて感じた」と述べた。 以上の対話からみえることは、⼀般参加者は「死に⽬にあうこと」の意味より⼼肺蘇⽣を どうするかに関⼼が向き、そのため問いから逸れて質疑応答になってしまった。その原因 は、話題提供の内容が「⼈⼯呼吸器をつけるか付けないか」の話が中⼼であったにもかかわ らず、主催者が問いを「死に⽬にあうことはどのようなことか」にしたことに原因がある。 専⾨職グループは⼀般参加者の発⾔に応答するというより、問い(死に⽬に会うということ はどういうことか)に答える形で、⾃⾝の体験や価値について発⾔していた。 第5回. 「慢性腎不全になってつらい状況が続いた場合、⼈⼯透析を続けるかどうか」. ⼀般参加者にとっては透析というあまり⾝近でない話題であったため、透析に関する「わ からなさ」や、 「透析をやめるとどうなるのか」 「お⾦はどれくらいかかるのか」など、 「不 安」に対する質問が多く、また実際に家族が透析を受けている⼈も、個⼈的な疑問に対する 質問に終始し、問いに答えるというより、話題提供者との質疑応答となった。 専⾨職グループからは、⼀般グループの話をどう受け⽌めたかについては、⼀般参加者か ら出た「わからなさ」や「不安」に応答するというより、医療現場での透析患者の実情、透 析患者とかかわった体験、透析とはどのようなものかという説明が話された。 以上から医療者と患者・家族との関⼼が乖離していることや、透析に対する認識のちが い、たとえば、⼀般参加者は、ある⼀点(透析をするかしないか、シャントを作るかつくら ないかなど)について話すが、専⾨職は「病院が機能分化している」ので、 「先のことまで は⾔いづらい」など、⻑期的な視点でみて話していることが浮き彫りにされた。その原因は、 専⾨家は、専⾨職として、⽬の前にいる参加者より、実際の現場の患者を想起して事実を述 べたことによる。参加者と話題提供者との質疑応答になると、参加者の満⾜度は⾼まるが、 それだけではなく、質疑の中にこそ、本⼈もあまり意識していない問題が⾒え隠れしていた ように思い、その思いに応えることができれば、リフレクティング・トークもうまくいった. 17.

(18) のではないかと思った。 第7回. 緩和ケアについてどう考えるか. ⼀般参加者は、緩和ケア(ホスピス)への理想や期待が強く、緩和ケアについて各⾃がも っているホスピスのイメージ(安楽なターミナルを迎えることのできる場所)と異なってい たことが確認された。そして、現状では、終末期のがん患者の数に対して緩和ケア病棟が少 ないことや、今の医療制度では、病院(緩和ケア病棟)では最期まで看れないこと、 「緩和 ケア病棟を出ても在宅復帰率が2割ときいたが、残りの8割はどこに⾏けばいいのか」等の 不安から、絶望的となり安楽死という話題に⾄った。 専⾨職グループでは、 「⼀般参加者の⾔葉を受けて」というより、医療者(看護師)とし ての⾃⾝の経験や緩和ケアに対する考え⽅についての意⾒が多く出された。専⾨家の中で も認識の違いがみられた。かつての緩和ケアを想起する者(例えば、しばらく現場を離れて いたり、すでに退職している看護師)と、現在の緩和ケアを前提に発⾔する現役の看護師と では、緩和ケアのとらえ⽅が異なっていた。介護職員は、「ホスピスという⾔葉はきいたこ とがあるが、緩和ケアのことはあまりよく知らなかった」ので、⼀般参加者の認識とほぼ共 通していた。 ただ、⼀般グループにおいては安楽死という⾔葉が何度か出たが、専⾨職グループでは直 接的には応答されなかった。そのような中、臨床⼼理⼠は、⼀般参加者の安楽死という⾔葉 を受けて、 「安楽死という⾔葉が出てきたことそれ⾃体が皆さんの⼼の痛みを感じた。死は 何か分からないから不安で恐怖感しかないのではないかと思う。だからこそ、死が間近に迫 った時に受け⽌められなくてそれなら死んでしまった⽅がいいんじゃないかと思うのは当 然の⼼の病気じゃないかなと思う。体の痛みと⼼の痛みはつながっているので、そこに対し てその⽅の痛みがどうしたら緩和されるのか、それを考えるのが緩和ケアだと思う。緩和ケ アがやっぱり⾜りない時はある。そういう時に施設を横断してきてくれるようなスペシャ リストがいたらなあと⽇々思っている」と、⼀般参加者の⼼の痛みに応答している。 リフレクティング・トークを試みても、相⼿の⾔葉に応答することは難しく、⾃⾝の考え や事実を話す専⾨家が多い。それは応答するために「聴く」ということができていないから ではないかと思う。上記の臨床⼼理⼠は、傾聴の訓練を積んでいると思われ、相⼿の⾔葉 (ナラティブ)に⽿を傾け、応答できていたのではないか。 以上から、本研究における対話ワークショップでの対話は、話し⼿(⼀般グループ)がコ ミュニケートしようと意図していることがらが、聞き⼿(専⾨職グループ)に⼗分コミュニ ケートされておらず、そのためリフレクティングトークとしては不⼗分であったことが認 められた。その理由として考えられることは、問いに即して発⾔することの難しさであっ た。これまで挙げてきたように、専⾨職グループが⼀般グループの発⾔に応答していないこ とも原因としてあるが、⼀般参加者も、何が問われているか(今、ここで何を考えるのか). 18.

(19) についてはあまり考えず、思いつくままを語っていたことにも原因がある。そこに⼀般グル ープと専⾨職グループとのディスコミュニケーションの原因をみてとることができ、ACP におけるコミュニケーションの課題を考察する上では有意義であった。 3.3. ACP の意識調査. ACP に対する意識調査を対話ワークショップのアンケートとインタビューにより⾏ない、 厚⽣労働省(以下厚労省)が⾏なったアンケート結果と⽐較した。 3.3.1 ワークショップでのアンケートより ACPの認知度. 話し合いができているか できている. 知っていた. 36%. ⾔葉だけ. 38%. 知らなかった. 3% 41%. 40% 16%. よくわからない できていない. 26%. その他. 話し合っていること 価値観 気がかりなこと. 9% 37%. 23%. 精神的な問題 ⾝体のこと. 3%. 5% 23%. 好み、こだわり その他. 厚労省は、平成4年以降5年おき5回にわたって、⼀般国⺠及び医療福祉従事者の⼈⽣の 最終段階における医療に対する意識やその変化を把握するための調査を実施し、我が国の ⼈⽣の最終段階における医療を考える際の資料として広く活⽤してきた。そして平成 29 年 度は、ガイドラインの改訂に伴い、対象者を施設関係者に広げた。. 19.

(20) 厚労省のアンケート調査の結果によると、⼈⽣の最終段階における医療・療養についての 関⼼は⾼いものの、実際に話し合ったことのある者の割合は、平成 25 年の調査によると⼀ 般国⺠は約4割、医療福祉従事者では約5割であったが、平成 29 年度の調査では約7割の 医療福祉従事者が話し合っていると答えている。それに対して、本研究のアンケート結果で は、 「話し合いができている」と、 「話し合いができていない」がともに約 40%であった。 厚労省のアンケート結果によると、話し合う機会が少ないことの主な理由は、 「話し合う きっかけがない」が7割以上で、本研究の振り返りチェックシートでも話し合いが困難な主 な理由として挙げられている。本対話ワークショップのアンケート結果で、ACP を難しく している要因として挙げられていたのは、①医療や介護を受ける前に考えることは現実感 がなく難しい、②医療・介護者と患者・利⽤者との認識の差、③専⾨家が対話を望まない雰 囲気がある、④医療者への遠慮、⑤何をどう話せばいいのかわからない(⾔葉にできない) 、 ⑥話し合うタイミング(きっかけ)がつかめない、⑦死の話は縁起でもないと敬遠されるな どであった。 事前指⽰書(リビングウィル)をあらかじめ作成しておくことについては、⼀般国⺠の約 7割が賛同しているが、実際に作成していないと回答した者は、約9割と少ない。ACP に ついての認知度は、振り返りチェックシートでは、⼀般参加者と専⾨職を合わせた⽐率なの で、 36%であったが、 厚労省のアンケート結果では、 ⼀般国⺠で知らないと答えた者が 75.5% という結果が出ている。また、ACP の実践については、 「実践していない」「今後の実践を 検討していない」と答えた医療福祉従事者は7割近くであった。 「終末期医療の意思決定プ ロセスに関するガイドライン」の利⽤状況は、参考にしている割合は約2割(平成 25 年) で、施設介護職員がもっとも⾼かった。ガイドラインを知らないと回答した者は、医師3割、 看護師4割、施設介護職員は5割であった。話し合いの実態は、介護⽼⼈施設では施設⻑の 8割以上が話し合いが⾏われていると回答しているが、インタビューから⾒る限り、施設職 員は、 「話し合いが⾏われている」と答えた者はわずかであった。おそらく、厚労省のアン ケート結果にみられる施設⻑の「話し合い」の認識は、ACP ではなく、⼊所前の⾯談のこ とをイメージしていたのではないかと思う。 3.3.2. インタビューによる調査 インタビューは、 「セミナー&対話ワークショップ」と並⾏して、ACP の現状と課題、さ らに⾼齢者施設も含め在宅ケアにおける OD の可能性について⾏なった。 インタビューは医療・介護従事者から対象者を選び、1時間ほどのインタビューを⾏なっ た。インタビューの内容は、IC レコーダに録⾳し、本⼈、ならびに所属が特定できないよ う、⾳声が外部に出ないように配慮して⾏なった。 また、データ収集と分析は、数値化可能なデータを⽤いて分析する量的研究ではなく、数 値化しにくい対象者の⾔葉(ナラティブ)に基づいて⾏う質的研究として⾏なった。. 20.

(21) 対象者 ・介護福祉⼠(サービス担当責任者・ケアマネージャ). 1名、. ・介護福祉⼠(サービス担当責任者) 1名 ・訪問リハビリテーション作業療法⼠、1名 ・薬剤師 1名 ・ケアハウス、養護⽼⼈ホーム、救護施設の統合施設の介護相談員 1 名 ・サービス付⾼齢者住宅の介護スタッフ 1 名 ・かんたき(看護⼩規模多機能型居宅介護の略称)の管理者(看護師) 1 名、 ・訪問看護ステーション看護師 1 名、 ・ワークショップ⼀般参加者 1 名 説明事項 n. 研究の目的. n. 方法. n. 実施者. n. 研究への参加が、任意であり、いつでも同意を撤回できること。. n. 倫理的配慮 インタビューを行う際にはプライバシーに配慮し、記録物が流出しないように厳重に 保管するなどの倫理的配慮を行う。. n. 個人情報の取り扱い 個人・所属団体が特定されないように匿名で行い、得られた情報に対しては、個人情報 を十分保護し、慎重に取り扱う。. n. 研究終了後の対応 得られた情報は研究報告書としてまとめ、公益財団勇美記念財団のホームページに掲 載されること、その後、研究責任者が責任をもって一定期間保管し、廃棄する。. n. 問い合わせ先の連絡先. 上記を説明・確認した上で、参加者からは同意書(署名)を得た。 質問内容 (1). 話し合いの現状. (2). ACP の認知度(聞いたことがある、内容を知っている). (3). 話し合いの環境. (4). 情報共有の状況. (5). リビングウィルについて(代理意思決定者の確認). 21.

(22) (6). ACP を実践しているとの認識. (7). ACP を実践する上で必要だと思うこと. (8). ガイドラインの利⽤. (9). ACP を進めるにあたって困っていること(課題) ACP を難しくしているもの. (10) 多職種間に⾒られるずれ (11) 他職種との連携 (12) 地域連携 (13) 公的⽀援 (14) OD の可能性 3.3.3 インタビュー インタビューの質問項⽬に従って得た発⾔をそのまま記述した。 (1) 話し合いの現状 ケアスタッフが集まる機会は、⼤きく分けて①退院前カンファレンスと②サービス担当 者会議とがある。退院前カンファレンスには患者や家族が参加する場合もあるが、参加しな い場合もある。カンファレンスの内容は、⼊院中どのような治療が⾏われ、どのような状況 で退院に向かっているか、健康な体を保つために必要なことをみんなで話し合い、医師は、 今後注意すべきことを伝え、看護師は病院でのケアを引き継ぐために参加する。介護⼠が参 加することは少ないが、福祉⽤具の業者などが必要に応じて参加する。 サービス担当者会議は、定期的に⾏われるというより、介護度の変更時やサービス内容の 変更時に⾏われ、回数は、3ヶ⽉〜1 年に 1 回とか、状況によって異なる。義務付けられて はいるが、回数は特に決まっていない。また、 (状況の問い合わせに対して) 、⽂書での回答 も含め、担当者が年に何回か情報交換をするが、特に決まりがあるわけではなく、ケアマネ ージャ(以下、ケアマネ)に⼀任されている。 サービス担当者会議に集まるスタッフの職種は、ケアマネを中⼼に看護師、介護⼠(介護 福祉⼠、ヘルパー)など、その⼈がどのようなケアを必要としているかによりさまざまであ る。リハビリのスタッフが⼊っていたり、訪問配薬で薬剤師が⼊ることもあるが、薬は医師 が指⽰するので、薬剤師は薬の説明をするくらいで、会議に出ることはあまりない。ただ、 ⼊院前からすでに配薬のために訪問している場合は、サービスの⾒直し時に声がかかる。栄 養⼠も⼊ることはあるが、あまり聞かない。栄養的に問題がある場合、たとえば、胃ろうの 場合、注⼊する栄養の中⾝は医師が指⽰し、注⼊は基本的には看護師か家族が⾏う。 医師は最初に指⽰書を出すものの会議にほとんど参加しない。医師の出席率は事業所の 特性にもよるが、ネットワークが良好な地域では、医師の出席率は⾼い。. 22.

(23) 看護⼩規模多機能型居宅介護(以下「かんたき」 )*の場合は、ケアマネも看護師も介護職 員も全員同じ施設内にいるので、会議はマンパワー的に難しいときもあるが、必要があれば 毎⽇⾏うことはできる。 *. かんたきとは、看護⼩規模多機能型居宅介護の略称で「通い」「泊まり」「訪問看護・リハビリ」「訪問介護」 「ケ アプラン」のサービスを⼀体化して、⼀⼈ひとりに合わせた柔軟な⽀援ができる看護師を中⼼としたトータルケア の事業所で、 看護師・介護職員がいる地域密着型の介護事業所。. 施設(⽼⼈介護施設)での話し合いは、⼊所者は、軽い認知症などあり、⼗分なコミュニ ケーションは難しいが、施設内で会議が可能(内部の看護師、相談員、介護⼠、⽣活⽀援員、 栄養⼠、事務職員、施設⻑)であるし、外部からケア従事者が⼊る場合は、在宅のように多 職種が集まってケアプランを⽴てることができる。 ただ、同じ介護施設でも、サービス付⾼齢者住宅(以下サ⾼住)の場合、話し合いの機会 は⼊居時以外では、終末期になるまでほとんどない。また、マンパワー不⾜と家族の意識の 低さで、家族も(話し合いをする)必要性を感じていない。外部からのケア従事者と施設の スタッフが話し合うことはない。以上から、介護施設に関しては、厚労省の ACP のガイド ラインにあるように、 「何度でも繰り返し考え、話し合う」ということは現実的に難しく、 理想と現実との乖離は否めない。 話し合いに際して、患者・家族のリビングウィルを聞くことは難しいのが現状。本⼈に とって、先の先の話は現実的でないので、実際にそのような状況(終末期)になったときに 話すしかないが、そのときはもう遅いということが多い。がん患者の場合は⽐較的話すタイ ミングは容易だが、認知症患者の場合は難しい。認知症が軽度の場合でも、患者は聞いたこ とを忘れたり、必要な情報を伝えてもわかっていないことが多いので話し合いにならない。 医療者からすると、家族で最低限話しあっておいて欲しいと思うが、本⼈は(⾃分の現状を) 認めたくないし、考えたくないということが多い。 (訪問看護師) 在宅でリハビリを⾏なっている作業療法⼠(OT)は、元気なときから本⼈と関わること が多いので、話をする機会はある。本⼈から発信してきたときが話すタイミングであると思 うが、認知症で本⼈が判断できない場合は、家族の都合が優先されると述べている。 介護従事者(ヘルパー)はなかなか病気に関しては踏み込めないが、あまり病気のことに ふれずに、⽣活感を運んで、そのときの⽣活があい整うように、その瞬間病気のことを忘れ させてくれるような⼈が求められる。 (ケアマネ) 以上から、本⼈・家族を交えて多職種がみんなで集まって意思確認をするだけの時間はな く、最終的な意思確認は、医師と本⼈・家族との話になってくる。また、本⼈の考える現実 と、理想にはギャップがある。例えば、本⼈ではひとりでトイレに⾏けると思っていても、 専⾨家からすると無理な場合があり、医療者は、現実(オムツ、ポータブルトイレの使⽤) を伝えることがあるが、無理強いはできないので、忍耐づよく話していく。(訪問看護師). 23.

(24) (2) ACP の認知度 ACP について、医療関係者は最近いろいろな場⾯で聞いているので、知ってはいるが、 具体的な内容まではわからないこともある。サービス担当者会議や、ファクスでの情報交換 は⾏なっているが、それが ACP の話し合いといえるかどうかは疑問。しかし、(ガイドラ インを読む限り)ACP はそれほど⽬新しいものではなく、⽇常の在宅ケアである程度は⾏ われている。 (訪問看護師) 介護施設の職員は、ACP については、1〜2 年前にさまざまなところで研修が始まり、 本格的には去年から今年にかけて⽼⼈福祉施設の研修会や神⼾市(医師会)でのセミナー や、医療・介護サポートセンター(医師会)からの案内で研修の機会はあるが、参加は任意 であるので、参加することは少ない。 ⼀般市⺠(患者・利⽤者やその家族)は、今回の対話ワークショップに参加するまでは ACP という⾔葉はきいたことはなかったという⼈が多かったが、これまで(ウェル・リビ ングを考える会が主催する)リビングウィル作成会* に参加したことのある⼈は、 「リビン グウィルを書くことが、ACP だと」理解した。配偶者を看取ったときは、ACP という形で の話し合いはなかったが、リビングウィルをかかりつけ医や主治医に託していたので、 「こ れが ACP かなと思った」と述べている。 * リビングウィル作成会とは、ウェル・リビングを考える会が作成した冊⼦『⼤切なあなたに伝えておきたいこと〜フ ァミリー・リビングウィル〜』を使⽤した学習会。本研究の成果物である冊⼦が、「病い」と「⽼い」に向き合うた めのものであるのに対し、作成会では、「死」と向き合うために作成(2014 年)された冊⼦を使⽤。 ウェル・リビングを考える会. https://livingwillcafe.blogspot.com. (3) 話し合いの環境 集まったときに介護従事者(⽣活⽀援)と医療従事者(主に看護師)とが、安⼼して話 し合える環境にあるか、つまりお互い奇譚なく話し合えるかは、できるときとできないとき がある。うまく話し合えるかどうかは、ケアマネの⼒量に依る。ケアマネが両者のニーズを きちんと把握しておれば、話し合いの環境は整いやすい。家族や本⼈はなかなか本⾳を⾔え る環境にないが、サービスが始まって本⼈や家族の話をきく頻度が多くなると、本⾳を聞く ことができるようになるので、ケアマネはそうした場をきちんとつくっていく必要がある。 在宅ケアでは、必要なことがあれば集まって話をするという環境は、少ないながらもある 程度担保されているが、そこから先のこと(本⼈の意思確認)までは、話ができる環境には ない。担当者会議は、患者・家族を交えて⾏うこともあれば、スタッフだけで話をして結果 (⽅針)を伝えることもある。本当は本⼈や家族に知っておいて欲しいこともあるが、例え ば、がんなどの場合、予後など話せる場合と話せない場合があり、なかなか患者の前で本⾳ トークができる環境にはない。 (訪問看護師). 24.

(25) ヘルパーからは時間がないという声がきかれるが、夜間などは⼼細くなるので、⼼のうち を話す利⽤者が多い。 サ⾼住の場合、⼊居前、⾃宅で⾯接するときに施設⻑が本⼈や家族と話すことはあるが、 本⼈はその場にいても年齢的、育った時代(⾃分の希望をいえない)などで、⾃分から話す ⼈はいない。また、⼊居者は、 「⾏き場所があるだけまし」で、しかたないと思って⼊居し ている⼈が多いので、あまり⾃分から思いを積極的には話さない。 (4) 情報共有の状況 情報の共有は、事業者が顔を合わすのは初回とケアの⾒直しのときだけであるが、特に困 ったことはない。介護⼠と看護師が同じ事業所であれば情報共有は容易にできるが、それ以 外はケアマネが仲介役をしたり、ひとりぐらしの場合は家に「連携ノート」を置いていて、 訪問看護師やヘルパーが、それを読んで情報を共有する。 担当者会議が義務づけられているのは⽉に1回、そこで、本⼈・家族の意向をきき、スタ ッフと共有する。⽉末に各事業所からケアマネのもとに報告がくる。報告は義務づけられて はいないが、報告がない事業所にはケアマネが問い合わせることもある。全員が顔を合わせ て情報共有することは難しいが、⽂書や電話での情報交換は問題なく⾏われている。担当者 会議にはだいたいみんな集まるが、不参加のときでも情報は(ファックスや電話で)提供さ れるし、チームとして関わるときは、 「連携ノート」を(家に)置いているので、情報共有 はできている。 (ケアマネ) 訪問看護と訪問介護ステーションが同じ事業所である場合は、お互い顔がよくわかって いるので情報は共有しやすいが、事業所が異なる場合でも、看護師に相談したいときは、電 話をしたり、看護師の訪問時に合わせて⾏くこともある。地域が同じなら、道であったとき などに相談をすることもある。 (介護⼠) 問題は、主治医との情報共有である。いいにくい医師もいるし、電話をしても電話に出て くれないこともある。昔に⽐べたら、医師もだいぶ変わったと思うが、旧態然とした医師は まだまだ多い。 (ケアマネ) 「かんたき」の場合は、すべてのメンバーが同じ施設にいるので、シフト制だから⽇々の 顔ぶれは異なるが、⽉に1回のかんたき会議では、全員が集まり、情報交換ができる機会は 多い。ケアマネも「かんたき」の中にずっといるので、管理者(看護師)とケアマネは蜜に 連絡をとりあって、現場からあがってくる声を拾い上げて、他のスタッフに伝えることがで きる。ただ、シフト勤務なので、 「情報伝達ノート」は作っている。情報交換はほぼ毎⽇、 全員が揃わなくても話し合うことができている。集まる場所、移動の費⽤なども、同じ施設 であるので不要であることから、 「必要なときは何度でも」という点ではオープン・ダイア ローグ的である。 (かんたき看護師) 介護施設の職員は、 「ACP による情報共有の機運は⾼まっているものの、⽣活⽀援が中⼼ なので、医療(治療)のことはあまり問題にしない。病状が重症化していても、職員にその. 25.

(26) 認識がなく、緊急で搬送されたケースがあるので、医療者に⽇常の状態(治療を受ける前の 状態)をきちんと伝えていかなければならないと思った」と述べている。往診医は、多くは 名⽬嘱託医にすぎず、⼀⽅的に診療情報を伝えるのみである。 患者や利⽤者にとって医療・介護スタッフとの情報共有は、リビングウィルを介して⾏う ことが理想的であるが、実際にリビングウィルを書いている⼈は少ない。 (5) リビングウィルについて(代理意思決定者の確認) リビングウィルを書いている⼈、家族同⼠で話し合っている⼈は在宅ではあまり聞かな いが、抵抗がない⼈にはリビングウィルのことも紹介している。もう少し普段から話ができ るような書式かノートのようなものがあればいいと思う(看護師) 。 「聞き書き」ノートを作 って利⽤者の意向を記⼊している事業所もある。(介護福祉⼠) リビングウィルは必要だとは思うが患者・家族にとって、将来のことを思い描くのは難し いし、そのときはこうしたいと思っていても、実際にそうなったとき、本当にそうしたいか どうかはわからない。また、リビングウィルを書くことの難しさは、本⼈の気持ちが変わる ということである。だから、 「なん度も」ということがガイドラインで謳われているが、本 ⼈の⾔葉に家族や介護者が振り回されたり、がんなどの⼀部の疾患を除いては(死期など将 来の)⽬処がたたないということもある。在宅の場合、延命を望まない⼈が結構多いので、 ⾷べられなくなったらどうするとか、呼吸が苦しくなったらどうするとか、⼈⼯呼吸器の装 着のことや⼈⼯栄養のことは説明するようにしている。 「⼀切の延命はしない」の「延命」 の意味は状況による。医療者の視点で説明しても家族には受け⼊れがたいこともあり、その ことを説明するのは難しい。たとえば、家族にとって栄養のあるものを⼊れて欲しい、点滴 をしたら楽になるという思いは強い。⾵邪をひいたとき点滴したら元気になったりしたこ とを経験しているからである。だから、浮腫などがあって点滴がかえって苦痛であると説明 しても、点滴をやめるという決断はなかなかできない。餓死するのではないか、喉が乾くの ではないかとか思ったりするのではないかと思われる。医療現場で、リビングウィルを勧め ることは場合によっては誘導になり兼ねないので、⽇頃、家族と「最後はどうしたいか」を 考えておくことが望ましいと思う。 (訪問看護師) また、⽼いることや、死ぬことはやはり忌み嫌われる。いずれ死が訪れるのを⾒据えてい るがん患者と、認知⼒が落ちつつある⼈とでは話は異なるが、がん患者はある程度考えてい るように思う。認知症患者の意思決定は難しいが、ある程度気⼼が知れて受け取る側がキャ ッチできれば⽇常の話の中で「死ぬこと」についても話してくれることはあるので、できる だけ話は聞くようにはしている。最期はどうするかというような話は、ある程度関係性を築 くための時間が必要。リビングウィルは元気なときに書いておくものだから、希望と現実は ⾷い違うこともあるが、患者・利⽤者が何を希望するかに沿ってケアしていきたいと思って いる。患者の思いは、連絡ノートやカルテの記載として残るが、それがリビングウィルにな るのかどうかはわからない。リビングウィルは、患者側の姿勢(意識)も⼤事であるが、⾃. 26.

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