学生による授業評価におけるクラスサイズの効果
※南
学
問
題
文部科学省の発表によると,現在,学生による授業評価(以下では,授業評 価と略記)は,国内の約83.6%の大学で導入されている(文部科学省高等教 育局大学課大学改革推進室,2004)。この割合を見ると,授業評価はかなり普 及したと判断してよいだろう。そうなると,大学教育における授業方法の改善 は,授業評価を導入する段階から,授業評価をいかに活用していくかという次 の段階に移ることになる。言い換えるならば,問われるものは教育活動の量や 形式からその質や内容に移るといえる。考えられる活用の方向としては,教員 個々人における授業改善の指標,学科や学部単位などでの全体としての授業改 善の指標,教員の教育面での業績評価の一指標などが挙げられる。 授業評価を,授業・教育の質を測定する指標として用いる場合,その比較が 妥当であるかどうかという点を検討しなければならない。まず,上述したもの のうち,前2者の教員個々人あるいは学科や学部単位などでの授業改善の指標 は,いわゆる FD 活動の一環として,授業改善の成果を測るものとして用いら れることになるだろう。このように,同一項目に基づく個人内比較や学科単位 での経年比較には一定の妥当性があると思われる。それは,比較対象がほぼ同 一であると考えられるからである。しかし,後者の教育業績評価の指標として 扱われる場合にはそうではない。なぜなら,この場合,異なる科目・教員を対 象とした授業間の授業評価を比較することになるからである。それぞれの授業 は当該学部学科等の特性や教育環境,授業形態,担当科目数などの点で異なっているので,これらの要因によってそれぞれの授業評価は異なる影響を受けて いる可能性が大きい。そうした影響について十分に解明されていない現状で は,授業間での単純な比較は不平等をもたらし,ひいては授業評価そのものの 信頼性を損なうものとなりかねない。 もっともこうした格差・不平等の問題は,研究活動業績面の比較をおこなう 際にもある程度存在しているかもしれない。たとえば,多くの大学や学会等で は,慣例的に論文・著作物の数量をもって研究活動業績を測るやり方が普及し ているが,この指標はそれぞれの研究者の置かれた環境が異なることを考慮し ていない。また,論文の質や内容もあまり考慮されないことが多い。したがっ て,論文数のみをもって直ちにその研究者の研究能力を評価するということは 十分に適切な方法とは言えない。 もちろん,研究環境は研究者が選択できる余地が一定程度あるので,研究能 力を発揮できる環境を見つけることも広い意味での研究能力と考えることはで きるかもしれない。しかし,教育活動においては,担当科目は大学全体や学部 学科の事情によって決められる場合が多く,本人の裁量の範囲は小さい。そう した中で個々人の教育活動業績を評価しようとするならば,よりいっそうこう した外部要因の影響を考慮する必要があると思われる。安岡(1999)は,概し て,一般教養科目に比べて,専門基礎科目の授業評価が低い傾向があることを 示している。この傾向がどの大学でも存在するならば,たとえば一般教養科目 である心理学概論と比べて専門基礎科目である心理学実験計画法のほうが授業 評価が低いとしても,どこまでが科目の特性によるものでどこまでが教員本人 の責に帰するものなのかを検討しなければいけない。したがって,授業評価を 教育活動業績の評価として利用しようとするならば,こうした授業クラスごと の特性を考慮し,可能な限り修正を施した上で比較していかなければ,教員相 互の納得は得られないだろう。 こうした授業評価に対して影響を及ぼす可能性がある科目特性には,上に挙 58 松山大学論集 第16巻 第2号
げたもの以外に,講義か演習か,必修科目か選択科目かなどさまざまなものが ある。本研究では講義科目に限定し,受講生の人数,いわゆるクラスサイズを 扱う。クラスサイズもやはり授業者の裁量の範囲は大きくなく,科目の位置づ けによって決まることが多い。そして,講義形式でおこなわれる授業の場合, 概して大人数クラスのほうが以下の理由から授業評価の観点で不利であると考 えられるからである。 まず第1に,クラスサイズの問題は,授業の方法に対して大きな制約を与え る。たとえば,数百名規模の大人数クラスの場合,いわゆるゼミ形式と同じよ うに,学生との対話や討論による授業を展開していくことは困難である。また, 大講義室で講義をおこなう場合には,学生の集中力を持続させるために視聴覚 機器等を活用するなどの工夫がとくに必要となる。本来,教育方法は教育目標 との関係で最適な方法を選択すべきであるのに,それ以外の制約によって選択 可能な教育方法が制限されてしまうというのでは,そうでないクラスの授業評 価と比べると不利であるといえるだろう。 第2に,いわゆる私語に対する対応などにおいても,一般的に大講義のほう が苦慮するはずである。さらには,受講生が多い方が出欠確認・採点作業など の労力もかかる。もし,こうした労力に加えて,授業評価においても負のクラ スサイズ効果が存在するのであれば,小人数クラスのものと同一に授業評価を 比較するのは,明らかに公正を欠くと言わざるを得ない。 そこで,本研究では,授業評価に影響を与える講義科目の特性としてクラス サイズを取り上げ,それが授業評価にどの程度の影響を与えるのかを実証的に 検討する。また,クラスサイズに関する補正の方法を検討する。これは今後授 業の質を適切に評価していくための方策の検討に資することを目的としてい る。 授業評価に対するクラスサイズの効果
初等中等教育におけるクラスサイズの効果については,Glass & Smith(1978) 学生による授業評価におけるクラスサイズの効果 59
が詳しく分析している。彼らは,メタ分析を用いて従来のクラスサイズに関す る研究を再分析し,クラスサイズが小さくなるにつれて,学業成績が高くなっ ていくことを見出した。
高等教育においては,多様な科目があるため,一律に学業成績を比較するこ とは難しいが,授業評価を通じて学生の満足度等を比較することは可能である。 もし Glass & Smith(1978)の知見が高等教育においてもあてはまるのであれば, 同様にクラスサイズが小さくなるにつれて授業評価が高くなることが予測され る。藤井(2001)は,工学部講義科目を対象として,クラスサイズが大きくな ると総合評価の満足度(5段階評価の4「そう思う」,5「強くそう思う」の比 率)が低下する傾向を見出している。類似の結果は,北海道教育大学(2003), 長崎大学教育改善実施委員会(2003),山口大学共通教育センター(2000),平 成13年度専修大学経営学部自己点検・評価実施委員会(2002),香川大学自己 評価委員会(2002)などでも見出されており,概してクラスサイズが大きくな るほど,授業評価が低くなるといえる。 ただし,北海道大学(2002),藤井(2001)は,200名までのクラスではク ラスサイズが大きくなるほど評価が低下していくが,200名以上のクラスでは 持ち直していることを報告している。また,名古屋商科大学(2003)ではクラ スサイズにともなう明確かつ単調な変化は常には見出せないが,200名以上の クラスでは授業評価が高まる傾向も見られる。このように,一定数より大きな クラスでは逆に授業評価が高まる結果も報告されている。ただし,高い授業評 価を受けるクラスに人気が集まるという解釈もありうるので,因果関係を結論 づけるにはより慎重な分析が求められる。また,菊池(2002)は,受講生数(回 答数)と総合評価得点および「感想なし割合」の間にほとんど相関はないとい う結果を見出している。 以上の知見から,概してクラスサイズが大きくなるほど授業評価が低くなる という傾向があることは結論づけることができると思われる。ただし,それが どの程度の強さであるかという点があまり明確には示されていない。もし授業 60 松山大学論集 第16巻 第2号
評価を単なる評価として済ませるのではなく処遇にも用いようとするのであれ ば,クラスサイズの効果がどの程度の強さになるのかという点を求めておく必 要があるだろう。 この点についても公開されているものとしては,長崎大学教育改善実施委員 会(2003)に,クラスサイズにともなう「総合的にみて,この授業は自分にとっ て価値があった」という設問に対する「強くそう思う」と答えた割合の変化に ついて示してある。相関係数は−0.318である。しかし,効果そのものの大き さに相当する回帰係数については示されていない。また,藤井(2001)がクラ スサイズと総合評価の満足度の散布図を示し,回帰直線を算出している。この 図を元に回帰係数を目算すると,クラスサイズを横軸とした場合,およそ.0032 となる。すなわち,100名のクラスでは平均して0.32の低下が見られるとい うものである。これらの知見は貴重なものではあるが,いわゆる国立大学での 知見と私立大学のそれが同じであるとは限らない。実際,上述の長崎大学教育 改善実施委員会(2003)では100名以下のクラスが大半を占めるのに対し,私 立大学では300名を超えるクラスも比較的多い。また,藤井(2001)は工学部 のデータを示しているが,いわゆる私立文系では異なるデータとなることも十 分考えられる。そこで,本研究では,中規模の文系私立大学におけるデータに もとづいて,授業評価におけるクラスサイズの効果の程度を検討することを目 的とする。
方
法
調査対象・期間 調査対象は,松山大学2002年度後期に開講された講義科目 のうち,公式の授業評価を実施した292クラスである。全体のクラスサイズの 平均は61.8,最小値は3,最大値は316であった(ここでのクラスサイズは, 履修登録上の人数ではなく,授業評価に参加した学生の数である)。調査期間 は,2002年度12月初旬から1月上旬にかけてである。 調査方法 調査は,無記名でおこなわれ,担当教員自身が配布回収をおこなっ 学生による授業評価におけるクラスサイズの効果 61た。質問紙には Table1に示す14の質問項目が提示され,被調査者はそれぞれ 5∼6個の選択肢のなかから1つを選び,別紙のマークシートにマークしてい く形式で回答するよう求められた。
結
果
以下では,被調査者の属性を尋ねる問1・2は分析から除外し,授業に関す る質問項目の問3∼14を分析対象とした。各問の回答に対し,基本的に「そ う思う」を5,「だいたいそう思う」を4,「どちらとも言えない」を3,「あ まりそう思わない」を2,「そう思わない」を1とみなし,それぞれの回答人 数をもとに加重平均値を算出した。なお,問10の「教科書は効果的に使用さ れていましたか」に関しては,「指定されていなかった」という選択肢もあっ たが,加重平均値の算出においては用いていない。また,問11の「授業を進 めるペースは適切でしたか」に関しては,「速すぎる」,「やや速い」,「ちょう ど良い」,「やや遅い」,「遅すぎる」という選択肢が用いられていた(上と同様 に5∼1を割り当てて加重平均値を算出した)。 科目別のクラスサイズ効果 Figure1−a∼l に,問3∼14それぞれの回答について,クラスサイズと授業 評価平均値の散布図を示し,あわせて線形の回帰直線およびその式を示した。 次に,クラスを言語科目と一般講義科目に分け,それぞれについて同様の分析 結果を示した。Figure2−a∼l では言語科目について,Figure3−a∼l では講義 科目について示した。言語科目はいわゆる語学の習得を目的としたクラス で,88クラスあり,クラスサイズの平均は26.4,最小値は5,最大値は91で あった。講義科目はその他のクラスで,204クラスあり,クラスサイズの平均 は144,最小値は3,最大値は316であった。 ほとんどの回帰係数は負であり,負のクラスサイズ効果が見出された。概し て講義科目の回帰係数の絶対値は小さく,言語科目の絶対値のそれは大きくな 62 松山大学論集 第16巻 第2号選 択 肢 ! " # $ % & Q1 あなたの学年次 Q2 あなたの所属学部学科 Q3 あなたはこの科目にどの程 度出席しましたか。 Q4 あなたはこの科目の授業を まじめに受講しましたか。 Q5 授業内容は,講義案内や初 回授業で示された主題や目的 に十分に沿っていましたか。 Q6 授業内容は,体系的に理解 出来るように構成されていま したか。 Q7 板書やプリント等の補助資 料は,授業の理解を助けるよ う工夫されていましたか。 Q8 教員の話し方は明瞭でした か。 Q9 教員は,理解しやすい授業 を行う努力をしていましたか。 Q10 教科書は効果的に使用され ていましたか。 Q11 授業を進めるペースは適切 でしたか。 Q12 私語・携帯電話などへの教 員の対処は適切でしたか。 Q13 この授業によって知識の獲 得,興味・関心の増大など, 自分にとって得るものがあり ましたか。 Q14 授業は,全体として満足で きるものでしたか。 1年次 経済 90%以上 そう思う そう思う そう思う そう思う そう思う そう思う そう思う 速すぎる そう思う そう思う そう思う 2年次 経営 70%以上 だいたいそ う思う だいたいそ う思う だいたいそ う思う だいたいそ う思う だいたいそ う思う だいたいそ う思う だいたいそ う思う やや速い だいたいそ う思う だいたいそ う思う だいたいそ う思う 3年次 人文英語 50%以上 どちらとも 言えない どちらとも 言えない どちらとも 言えない どちらとも 言えない どちらとも 言えない どちらとも 言えない どちらとも 言えない ちょうど良 い どちらとも 言えない どちらとも 言えない どちらとも 言えない 4年次 人文社会 30%以上 あまりそう 思わない あまりそう 思わない あまりそう 思わない あまりそう 思わない あまりそう 思わない あまりそう 思わない あまりそう 思わない やや遅い あまりそう 思わない あまりそう 思わない あまりそう 思わない 5年次以上 及びその他 法 30%未満 そう思わな い そう思わな い そう思わな い そう思わな い そう思わな い そう思わな い そう思わな い 遅すぎる そう思わな い そう思わな い そう思わな い その他 指定されて いなかった Table1 授業評価アンケートの質問項目 学生による授業評価におけるクラスサイズの効果 63
Figure1−a クラスサイズと授業評価(Q03 出席率) Figure1−b クラスサイズと授業評価(Q04 受講態度)
Figure1−c クラスサイズと授業評価(Q05 テーマ) Figure1−d クラスサイズと授業評価(Q06 構成)
Figure1−e クラスサイズと授業評価(Q07 補助資料) Figure1−f クラスサイズと授業評価(Q08 話し方)
Figure1−g クラスサイズと授業評価(Q09 理解への努力) Figure1−h クラスサイズと授業評価(Q10 教科書)
Figure1−j クラスサイズと授業評価(Q12 私語への対処) Figure1−i クラスサイズと授業評価(Q11 進度) Figure1−k クラスサイズと授業評価(Q13 知識・興味の拡大) Figure1−l クラスサイズと授業評価(Q14 満足度) Figure2−a クラスサイズと授業評価(Q03 出席率) Figure2−b クラスサイズと授業評価(Q04 受講態度) Figure2−c クラスサイズと授業評価(Q05 テーマ) Figure2−d クラスサイズと授業評価(Q06 構成) 学生による授業評価におけるクラスサイズの効果 65
Figure2−e クラスサイズと授業評価(Q07 補助資料) Figure2−f クラスサイズと授業評価(Q08 話し方)
Figure2−g クラスサイズと授業評価(Q09 理解への努力) Figure2−h クラスサイズと授業評価(Q10 教科書)
Figure2−i クラスサイズと授業評価(Q11 進度) Figure2−j クラスサイズと授業評価(Q12 私語への対処)
Figure2−k クラスサイズと授業評価(Q13 知識・興味の拡大) Figure2−l クラスサイズと授業評価(Q14 満足度)
Figure3−a クラスサイズと授業評価(Q03 出席率) Figure3−b クラスサイズと授業評価(Q04 受講態度)
Figure3−c クラスサイズと授業評価(Q05 テーマ) Figure3−d クラスサイズと授業評価(Q06 構成)
Figure3−e クラスサイズと授業評価(Q07 補助資料) Figure3−f クラスサイズと授業評価(Q08 話し方)
Figure3−g クラスサイズと授業評価(Q09 理解への努力) Figure3−h クラスサイズと授業評価(Q10 教科書)
る傾向も見出された。また,問12,13に関する Figure1−j,k,Figure2−j,k, Figure3−j,k,では,どの科目群でも他の項目と比べると回帰係数が大きくな る傾向が見られた。R2値に関しても回帰係数とほぼ同様の傾向が見られた。 ただし,問10に関する Figure1−h,Figure2−h,Figure3−h では,全体の 回帰係数の絶対値が一番大きくなり,言語科目で一番小さくなっていた。また, 問11に関する Figure1−i,Figure2−i,Figure3−i を除きすべての図の回帰直 線が右下がりになり,授業評価に関しては負のクラスサイズ効果が見られるこ とが明らかとなった。よって,問10と問11については他の質問項目とは異な る回答傾向が見出されているので,以下の分析では除くこととする。 R2値が小さいことに関して,外れ値が大きく影響している可能性があるた め,クラスサイズと授業評価に関してそれぞれ全体平均から3SD 以上離れて いるもの(クラスサイズでは4クラス,授業評価では5クラス)を削除して再 度上と同様の分析をおこなったが,必ずしも R2値がとくに改善されるという Figure3−i クラスサイズと授業評価(Q11 進度) Figure3−j クラスサイズと授業評価(Q12 私語への対処) Figure3−k クラスサイズと授業評価(Q13 知識・興味の拡大) Figure3−l クラスサイズと授業評価(Q14 満足度) 68 松山大学論集 第16巻 第2号
Figure4−a クラスサイズと授業評価の関係(中央値以下) Figure4−b クラスサイズと授業評価の関係(中央値以上) ことは見られなかった。また,教職科目は免許教科別に開講されることが多く 比較的小人数授業が多い一方で,担当者には現職教員経験者などいわゆる「授 業が上手な」教員が多いことも考えられ,これが負のクラスサイズ効果をもた らしている可能性もある。そこで,これらの科目についても同様に除き分析を おこなったが,ここでもとくに R2値が高まるということはなかった。 小人数科目と大人数科目別のクラスサイズ効果 次に,クラスサイズの中央値(44)を基準に,小人数科目と大人数科目に分 け,クラスサイズの効果について検討した(小人数の平均22.8,大人数の平 均100.8)。なお,以下では,科目ごとに問4∼問9,問12∼14の評定平均値 を求め,分析に用いた(Figure4−a,b)。Figure4−a,b から,小人数科目で は−0.0121の回帰係数が導出されたのに対し,大人数科目では.0002であっ た。R2値の点からも小人数科目では.1212と比較的大きい値であったのに対 し,大人数では.0008とかなり小さいものとなった。このことから,クラスサ イズの効果はとくに小人数科目において大きな影響があることが見出された。 個人内でのクラスサイズ効果 次に,複数科目を担当している教員のクラス間での授業評価を検討した。全 292クラスは162名の教員が担当しており,そのうち71名が2つ以上のクラ スを担当している。もし,クラスサイズが特定の効果をもたらすのであれば, 学生による授業評価におけるクラスサイズの効果 69
Figure5 回答率とクラスサイズ 個人内においても見出されるはずである。この71名それぞれに関してクラス サイズと授業評価の回帰直線を求めたところ,正の値になった者は29名,負 の値になったものは42名であった。2項検定によってこうした結果が得られ る確率を求めたところ,.029であり,5%水準で有意であった。 回答率 最後に,各クラスに関して,履修申込者に占める回答数の割合を算出し,こ れを回答率とし,授業評価との関連を分析した(Figure5)。Figure5から,回 答率が高まるにつれ授業評価が高まることが示された。この傾向は全体として だけではなく,個々の質問項目においても見られた傾向である。
考
察
Figure1−a∼l,Figure2−a∼l,Figure3−a∼lから,負のクラスサイズ効果が安定 的に見出されることが示された。この結果は,先行研究(Glass & Smith,1978; 藤井,2001;北海道教育大学,2003;長崎大学教育改善実施委員会,2003;山 口大学共通教育センター,2000;平成13年度専修大学経営学部自己点検・評 価実施委員会,2002;香川大学自己評価委員会,2002)と一致するものであ る。本研究で示されたクラスサイズ効果の大きさは,−0.002前後であり,非常に小さいようにも見えるが,これは10名のクラスと110名のクラスを比べ ると,授業評価において−0.2の違いが出るということであり,410名のクラ スだとその違いは−0.8となる。授業評価が実質的に3.5から5.0の間にその ほとんどが分布するということを考えると,この違いは無視できないほど大き なものであるといえる。ただし,クラスサイズによる説明力を表す R2値はもっ とも高いものでも.19しかなく,あまり大きいとはいえない。したがって,科 目間のおかれた状況を揃える公平性を満たすためには,このほかの要因につい ても検討される必要があるだろう。 クラスサイズ効果が他の質問項目と異なっていたのは,問10∼13であった。 概して言語科目の回帰係数と R2値が大きくなる中で,問10では,講義科目や それを含めた全体においてより大きくなっていた。これは,問10は教科書の 使用に関する質問項目であり,クラスサイズが大きくなる講義科目で教科書を 使用しないなどの場合が多くなることを反映していると思われる。また,「指 定されていなかった」という選択肢も用意されていたが,これの選択率が高い 場合に「そう思わない」という回答も多くなっており,教科書が効果的に活用 されていない場合,一意の選択肢に収束しなかったことも原因の1つと考えら れる。問11は,授業の進度に関する質問項目であり,授業評価平均が3.0に 近づくほど「ちょうど良い」ということを意味するため,5.0に近づくほど良 い意味をもつ他の項目の回答行動が異なったと考えられる。 また,問12,13では,言語科目において回帰係数も R2値も大きくなってお り,とくにクラスサイズ効果が大きいものであった。問12の「私語などへの 対処」や問13の「知識・興味の拡大」は,他の質問項目に比べとくに教員と のコミュニケーションの程度が大きく関わってくるものであり,クラスサイズ の影響が大きくなったと考えられる。小人数科目における結果(Figure4−a) も考慮するならば,とくに小人数科目においては,少しの人数の増加も授業方 法の選択において大きな制約となり,その教員が発揮できる最大の教育効果を 制限するものといえるだろう。この仮説を拡張するならば,大人数科目ではそ 学生による授業評価におけるクラスサイズの効果 71
うした制約がさらに大きくなることが負のクラスサイズ効果をもたらしている と説明できる。 小人数科目と大人数科目に分け,それぞれについてクラスサイズ効果を検討 したところ,小人数科目で比較的強く安定した効果が見出されたのに対し,大 人数科目では小さな効果しか得られなかった(Figure4−a,b)。この結果をそ のまま受け取るならば,全科目を対象にクラスサイズの補正をおこなうよりも, 中央値などを基準として小人数科目と大人数科目に分け,小人数科目にのみク ラスサイズの補正をおこなうという手続きのほうがより精緻に補正ができると 考えられる。しかし,大人数科目ではクラスサイズ効果はほとんど見られない から補正は不要であるという考えも再考の余地があるだろう。なぜなら,大人 数科目の授業負担は小人数科目よりも圧倒的に大きく,また,一度に大勢の学 生の「面倒を見ている」ということからすると,大学にとって貢献度も高いと 考えられるからである。クラスサイズに基づく補正は,そもそも授業評価を科 目間で比較する際に生じる不公平感をなくすことを目的としているので,こう した観点に立つならば,多少過剰な補正をおこなうことも必要であるかもしれ ない。 Figure5から,回答率が高いほど授業評価が高くなることが見出された。こ の結果は,授業評価が高くなるようなよい授業には学生も比較的よく出席する ためであると考えられる。従来の大学では出席欠席は学生の自主性に任せると いう風潮が高かったのに対し,近年では,出席管理をおこなうなど丁寧で責任 をもった指導をおこなおうという大学が増えてきている。このことの是非はと もかく,学生がきちんと出席する授業がそうでない授業よりもよいという考え は広がりつつあると思われる。大人数科目で高い出席率を維持させることは, 魅力ある授業の内容や方法を用意するためにより多くの努力や労力を必要とす るという点を考えると,クラスサイズ効果を補正することは,こうした教員の 労力を少しでも適正に評価する方向に向かうものといえよう。 72 松山大学論集 第16巻 第2号
本研究では,授業評価における負のクラスサイズ効果について検討し,多く の項目で負の効果が見られることを見出した。とくに小人数科目でその効果が 強いこと,問12,13のような教員と学生とのコミュニケーションに関わる質 問項目でその効果が強いことが見出された。この結果は,負のクラスサイズ効 果はクラスサイズの増大に伴う授業方法の選択における制約と個々の学生との 関係の希薄化が引き起こすものであるという解釈を導くものであるといえる。 ただし,クラスサイズ効果の説明力を表す R2値はあまり大きいとはいえな いことも本研究から見出された。このことはこのほかの要因によるクラス間の 変動が大きく,クラスサイズだけでは十分な説明力がないことを示している。 たとえば,教師に対する好感度と授業に対する好感度の関係(松本,1996), 学生の性別と授業評価の関係(榊原,1993;松田・三宅・谷村・小嶋,1999), 学生の成績と授業評価の関係(榊原,1993;松田ら,1999;安岡・吉川・高 野・峯崎・成嶋・光澤・道下・香取,1990)など,評価者である学生の側の要 因によっても授業評価は異なってくることが明らかにされている。また,南 (2003a)は授業評価に一定の信頼性と妥当性があることを示す一方で,南(2003b) は,単位の認定/不認定を仮想的に操作することによっても授業評価に大きな 差が生じることを示している。今後は,これらの要因についても具体的な効果 の大きさを検討し,その補正方法等を見出していく必要があると思われる。 本研究は,いわゆる教育業績の評価を担当科目数など単なる物量的な指標の 評価に終始するのではなく,授業の質や学生の満足度などいわば教育の質的な 側面の評価にも踏み込む際に生じる,公平性の担保に関わる問題を検討した。 ただし,クラスサイズの補正は現状を追認した上でのやむを得ない措置である ことは忘れてはならないだろう。いうまでもなく,教育効果を高めていくとい う点からすれば,クラスサイズを小さくしていくことが目指すべき目標のはず である。 学生による授業評価におけるクラスサイズの効果 73
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学部門,3,49−52.
山口大学共通教育センター(2000)共通教育学生授業評価(アンケート)の結果について セ ンターニュース夏号,1
http : //web. cc. yamaguchi-u. ac. jp/˜cge/news-3-hyoka. htm
※ この研究は,平成15年度松山大学教育研究助成を受けている。