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ブータンを舞台にした体験的学習プログラムの 開発・実施

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【研究報告】

ブータンを舞台にした体験的学習プログラムの 開発・実施

平山 雄大

キーワード:ブータン、体験的学習プログラム、海外実習科目、スタディツアー、早稲田ボランティアプロ ジェクト、探究活動、体験の言語化

【要 旨】本報告の目的は、2016〜2019年度に筆者がさまざまな枠組みの中で開発・実施に携わったブータ ンを舞台にした体験的学習プログラム(海外実習科目、スタディツアー、早稲田ボランティアプロジェクト、

探究活動)6種類の、方法及び内容を総括することである。

各プログラムは目的やテーマの違いによって活動内容、組み立て方法が異なり、事前・事後活動の分量や 参加のハードルの高さもさまざまである。しかしながら、プログラムの内容及びスケジュール決定への参加 者の関与が十分にあることが、参加者の主体性・積極性を引き出し、ダイナミックな活動へと繋がる大きな 要素となっている点は共通していると考えられる。

渡航中に行うようにしている毎晩の振り返りミーティングは、参加者の日々の学び・気づき・驚き・違和 感等の整理・共有並びに新たな視点・観点の発見の場として機能している。それは机上の知識が体験を通し て変容し広がりを見せていく場とも換言することができ、どのプログラムにとっても欠かすことのできない ものとなっている。

すべてのプログラムに共通しているものとして、農家でのホームステイの実施が挙げられる。現地の生活 に可能な限り密着することは参加者の意識変容のための近道のひとつであり、ホームステイはそのための有 益な手段となっているが、実施にあたってはホストファミリーとの事前の信頼関係の構築や協議が欠かせな い。また、一方的な情報搾取を防ぐために学びの相互性の確保等を工夫する必要がある。

事後活動における振り返り(体験の言語化の作業)は、参加者の気づきや学びを表層的な感想のみで終 わらせず、参加者のその後の人生やさらなる研究・ボランティア活動等に連結させることを目指している。

WAVOCが開発・体系化した「体験の言語化」の手法の応用に加え、多くのプログラムでは報告書作成を通 してもその言語化を図っている。

はじめに

本報告は、2016〜2019年度に筆者がさまざまな枠組みの中で開発・実施に携わったブータン王 国(Kingdom of Bhutan、以下ブータン)を舞台にした体験的学習プログラムの、方法及び内容 を総括することを目的としている。

ブータンは総人口72万7,145人(うちブータン国籍保有者は68万1,720人)の小国であるが、政 府はその主体性・独自性を保つ努力を怠らずに国づくりを進めており、経済成長一辺倒の開発の

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在りかたを問い直す国として世界各国から注目を集める存在となっている。特に第4代国王ジグ メ・シンゲ・ワンチュク(在位1972〜2006年)が提唱したGNHGross National Happiness、国 民総幸福)という開発哲学は広く知られ、ブータンがメディアで紹介される際は、たいてい「幸 せな国」や「世界一幸福な国」といった枕詞が付せられる。一方で、都市への人口の一極集中や 貧富の差の拡大等近代化に伴って顕在化しはじめた問題も多く抱えており、近年はこのような点 が注目されることも増えている。

2011年11月に第5代国王ジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク(在位2006年〜)が王妃を 伴って国賓として来日した際は、その立ち振る舞いや国会での演説内容が話題となり、連日ワイ ドショー等で取り上げられた。その結果、翌2012年のブータンへの日本人旅行者は激増し、ブー タン関連書籍もたった1年で20冊ほど出版された。また、2016年6〜8月はブータンと日本の国 交樹立30周年を記念して、日本国籍保有者に対して公定料金制度の適用除外措置や航空運賃等 の割引措置(親善オファー)が実施された。

このような特異性や話題性のもとで、日本からブータンへと向かう体験的学習プログラムの実 施件数は年2〜4件程度(2000年代後半)だったものが年12〜15件程度(2010年代後半)に増加 したが、ノウハウの共有や実施機関同士の横の連携(意見交換・情報交換等)は今までほとんど なされてこなかった。本報告は筆者の実践報告であるが、ブータンを舞台にした、もしくはその 他の国・地域に焦点を当てた体験的学習プログラムの可能性を検討するための素材として活用い ただけたら幸いである。

1.体験的学習プログラムの定義と特徴

本報告では、体験的学習プログラムを「中等教育機関、高等教育機関、旅行会社、NGO等が 海外で実施する1〜4週間程度のグループ活動(及びその事前・事後に行われる活動)で、訪問 国の人々との双方向的な交流及び参加者自らの参加、体験、振り返り等がその要素となっている プログラム」と定義する。子島・藤原がカテゴリー分けした多様な海外体験学習(表1)の中 の、海外研修(フィールドスタディ)、サービスラーニング、ワークキャンプ/ボランティア、

スタディツアーが該当し、メインとなる渡航のみではなく事前・事後学習等その前後にも活動が あること、参加者間で学びの共有や振り返りがなされることがその特徴となっている。また全 般的な意義は、①汎用的能力(コミュニケーション能力、課題発見・解決力、変化や未知の問題 への対応力、プロジェクト推進力等)の育成、②異文化への対応力の育成、③自己理解・他者理 解/相互依存(自分と社会との関わり、他者との関係、社会課題等)への気づき、④知識習得の 枠を超えた自己主導型学習等に見出すことができる。

ブータンを舞台にした体験的学習プログラムは、旅行会社やNGOによるものや高校生・大学 生主体の企画を含め、そのほとんどが21世紀に入ってから開始されたものである。中等教育機関 だとこれまで島根県立隠岐島前高等学校、立命館宇治中学校・高等学校、兵庫県立柏原高等学 校、中央大学杉並高等学校、白鵬女子高等学校等が実施しており、白鴎女子高等学校は姉妹校で あるウトパル・アカデミーへの短期留学というかたちを採っている。高等教育機関では拓殖大 学、国際教養大学、清泉女子大学、甲南大学、大阪大学、京都大学、星槎大学、自治医科大学、

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秋田大学、千葉工業大学、明治学院大学、東洋大学、関西大学、早稲田大学等が実施しており、

中にはブータンの高等教育機関との学術協定を基盤にしたものも複数存在する。

これらのプログラムは、①もともとブータンと繋がりを有する教員・主催者が主導しているも の、②GNHや「世界一幸福な国」への興味関心が発端となっているもの、③教育機関との学術 協定・相互交流が基盤となっているもの、④教員による研究調査等に学生が参加・同行している もの、⑤その他に大別することが可能である(そのうちの複数が当てはまるものもある)。全体 テーマに入るキーワードは決して限定されないものの、異文化理解・異文化体験、国際交流、国 家開発、農村開発、教育、GNH、伝統、地域、フィールドワークの実践等が多い。

表1 海外体験学習の多様性 長期留学 語学研修 インターンシップ、

社会起業体験 海外研修

(フィールドスタディ) サービス ラーニング 実施主体 大学、エージェント 大学、語学学校、

エージェント NGO、大学 大学 大学、NGO

期間 半年から1年 1ヶ月程度 1ヶ月程度 10日間前後 1週間〜1ヶ月

研修先 主として欧米、AS

NZ 主として欧米、AS

NZ 主としてアジアの企業、NGO 主としてアジア 欧米、ASNZ アジア 単位化 協定校〇、個人× 協定校〇、個人× 大学〇、NGO 大学〇 大学〇、NGO 学習方法 講義(ボランティア) 講義 アクティブ、参加 調査、参加、省察 アクティブ、参加、

省察 インパクト 語学力、異文化対応力、

自己効能感、キャリア 語学力 キャリア、交流、

異文化対応力 市民性、社会性、

自分探し キャリア、交流、

知識の文脈化 ワークキャンプ/

ボランティア スタディツアー ワーキングホリデー バックパック旅行 実施主体 NGO(大学との連携)、

旅行代理店 NGO、旅行会社 個人 個人

期間 1週間〜1ヶ月 1週間〜10日 1〜2年 1週間以上 研修先 主としてアジア 主としてアジア 協定国(14か国) 世界 単位化 単位として

認める場合あり × × ×

学習方法 アクティブ、体験 体験 労働 体験

インパクト 自分探し、社会性 交流、自分探し、

社会性

会話力、異文化対抗 力、交流、市民性、

自分探し

異文化への対応、

社会性、自分探し

出典)子島進・藤原孝章(2017)「大学における海外体験学習」(子島進・藤原孝章編『大学における海外体験学習への挑戦』

ナカニシヤ出版)1-19頁。

中等教育機関が実施するものは基本的に正課外活動であり、高等教育機関が実施するものの中 には、単位付与がなされるもの(正課)となされないもの(正課外)が混在している。引率者の 人数、安全対策・危機管理方法、現地協力機関や協力者との協働体制、教員と職員の連携の有 無、参加費用の補助の有無等といった運営体制はプログラムによってかなりの違いが見られる。

ブータン滞在日数は4〜12泊程度で、訪問先は、インフラが整い移動が短時間で済む西部地域

(国際空港を有するパロ、首都ティンプー、そしてプナカもしくはそれらに加えてもう1ヵ所)

に偏っている。ただし、中部地域や東部地域を訪問するものも少数ながら存在する。

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ブータンの旅行者受入(観光ビザでの入国)は公定料金制度のもとで成り立っている。それが 主要因となり、実施機関等による補助がない限り、ブータンを舞台にした体験的学習プログラム は周辺諸国を舞台にしたものと比較して参加費用が割高になる傾向がある。中には公定料金制度 が適用されない招待ビザを活用するプログラムもあるが、両者に参加費用の差はほとんどなく、

むしろ招待ビザを活用するもののほうが高額になっている場合もある。

2.体験的学習プログラムの開発・実施

本節では、筆者が2016〜2019年度に開発・実施に携わった6種類(全13回)の体験的学習プ ログラムの方法及び内容をまとめる。その内訳は、ⒶWAVOC(早稲田大学平山郁夫記念ボラ ンティアセンター)提供GEC(グローバルエデュケーションセンター)設置科目「南アジアか ら学ぶ途上国の農村開発」(2016年度)1回、ⒷWAVOC主催ブータンスタディツアー(2016 年度〜現在)1回、ⒸWAVOC提供GEC設置科目「ブータンから学ぶ国会開発と異文化理解」

(2017年度〜現在)3回、Ⓓ早稲田ボランティアプロジェクト「海士ブータンプロジェクト」の ブータン地域調査(2017〜2018年度)2回、Ⓔ同プロジェクトが主催している地域密着・体験交 流型ブータンスタディツアー(2018年度〜現在)2回、そしてⒻ島根県立隠岐島前高等学校が実 施している「グローバル探究(ブータン)」(2016年度〜現在)4回である。

渡辺はNGOが主催するスタディツアーの分析を通して、①参画性:参加者による学習課題の 設定、現場スタッフによる学習支援、②状況性:机上の知識ではなく、実践されている活動の現 場における文脈の知、③関係性:参加者間、現場スタッフ等の関係に由来する、その都度創られ ていく「動的情報」としての知、④連結性:学習経験の転移、動的情報の他の場所への繋がりと いう4つの契機を組み込んだプログラム作りの必要性を指摘した。この指摘は体験的学習プロ グラム全般に通じるものであり、筆者もそれぞれの枠組みの中で、参加者の学びを深めるプログ ラム作りを模索してきた。

なお、本報告で重点を置くのは各体験的学習プログラムの方法・内容に関してである。そのた め、参加者の気づきや学びに関しては振り返りシートの記述や帰国後に記された感想の紹介にと どめ、彼らの学びの変容の分析は別稿に譲ることとする5

2.1 Ⓐ WAVOC 提供 GEC 設置科目「南アジアから学ぶ途上国の農村開発」

WAVOC着任1年目、既存の海外実習科目「南アジアから学ぶ途上国の農村開発」7の実習先 をそれまでのインドやバングラデシュからブータンに変更したものを、同科目を立ち上げた教員 とともに担当した(うち実習部分は筆者が単独で担当)。その概要は表2.1の通りである。

事前活動は前年度までの形式を踏襲し、オリエンテーションを兼ねた全3回の事前学習にお いて「自分のことを知る」(Step1 )、「ブータンの国家開発政策を学ぶ」(Step2 )、「ブータンの 農村における取り組みを学ぶ」(Step3 )ためのワークショップ及びゲストによる講義を展開し、

関連する知識の習得や自主学習の土台形成に力を注いだ。また「実習の目的を深め、フィールド ワークの準備をする」(Step4 )ことを目指し、春学期終了後の2日間を使って集中講義を行っ た。具体的には、各履修生の問題意識や実習後の「なりたい自分像」を明文化し、調査票の作成

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や各チームの目標設定を通してフィールドワークのイメージを膨らませていった。調査票は各 チームの主体性を尊重し別個のものを作成したが、ブータンの実状から外れた質問とならないよ う指導した。加えて、春学期に実施した全10回の自主企画「ブータン映像上映会」(任意参加)

を通して、同国を巡る諸相に関する理解を深めた。

中部に位置するブムタン県での4泊5日の滞在(うち3泊4日は農家でのホームステイ)兼 フィールドワークをメインに据えた実習(Step5 )のスケジュールは筆者が作成し、随時、現地 旅行会社(及びガイド、アシスタント、ドライバー)やホームステイ先の農家との調整、道路状 況の確認、ホテルの部屋割り、各履修生の興味関心に沿った訪問先(小学校、農業振興プロジェ クトサイト等)の決定とアポ取り、ブータン勉強会の設定等を行った。

表2.1 WAVOC 提供 GEC 設置科目「南アジアから学ぶ途上国の農村開発」の概要 プログラムタイプ 海外実習科目(正課)

実施年度 2016年度

事前・事後活動 事前学習(全3回)/集中講義(2日間)/「ブータン映像上映会」への参加(任意)/事後学習(全8 回)/報告書作成

単位 あり(2単位)

参加人数 9名

実習の期間 2016年8月19日〜9月1日(14日間 ブータン滞在11泊12日) ※引率1名(+ガイド、アシスタント、

ドライバー)

1人あたりの

参加費用 26万6,060円(宿泊費・食費・移動費130ドル×11泊+ビザ代40ドル+Drukair航空券350ドル+Thai Airways航空券6万5,860円)+保険料 ※1ドル=110円で計算(以下同様)

最終目的地 ブムタン(チョコル)

実習の目的 農村でのホームステイや人々へのインタビューを通して、ブータンに根づく文化・価値観・生活様式に 触れると同時に、農村開発を巡る現状や課題について理解を深める

科目全体の 到達目標

①他者とのコミュニケーションの実践を通して、異文化を理解する力を養う

②農村社会の慣習や構造が、近代化を推進する中でどのように変容しているかを理解する

③ブータンの農村の社会課題と自分との繋がりを理解し、発信する

筆者の役割 事前・事後活動の内容検討・実施/実習の内容・スケジュールを組み立てて提示/各種調整/引率

実習中は履修生各自に日数分の振り返りシート(という名のA5サイズの画用紙)を配布し、

活動の中での自身の学び・気づき・驚き・違和感等を毎日3点程度書き出すよう指示をした。そ れをもとに毎晩全員で振り返りミーティングを行い、学びや気づきを一過性のものとさせないよ う、実習中により深められるよう考えるヒントを提供したり、相手の立場に立って気持ちを想像 してみることを促したりした。概して、履修生は同じ体験をしても同じ感想を抱くことは少ない ため、振り返りミーティングは体験や意見の共有と同時に多様な視点・観点の気づきの場ともな る。この振り返り方法は以降のプログラムのほとんどに引き継ぎ、毎日の気づきが端的に表現さ れた振り返りシートは事後学習の素材としても活用した。以下に、このときの実習での振り返り シートの記述を抜粋して紹介する9

・《インド人とブータン人》途中で工事中のところにいるインド人出稼ぎ労働者が目についた。日給500 円程度。インド人とブータン人、互いに見下しあっている印象。お互いに依存しあっている(?)の

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だからもっと仲良くすれば良いのに、と思いつつもお互いのプライドがあるのかなと思った。

・《ブータン人の考え方》フィールドワークをする中で、「明日は何が起こるか分からない」という発言 が多かった。将来のことを計画するよりも今が大切という考えかたを持っている人が多いのだと思う。

・《ティーはvery goodなコミュニケーションツール?》毎食必ずティー。とにかくティーを囲んで話す。

必ずどこに訪ねてもティーをすすめてくれる。ブータン人はシャイだけど、もてなし精神があるなあっ て感じた。日本人は警戒心が強いからなおさらに。フィールドワーク先も最後にティーをすすめてく れた。やさしい。食事の場ってやっぱりいいなあって。ゴハンを皆で輪になって囲む時間の大切さ、

コミュニケーションする力を感じた。

・《子には農業を継いでほしくない!?》ホームステイ先のアシム(筆者注:ブータンの国語ゾンカで「お 姉さん」の意)も、フィールドワークで出会った農家のおじいさんも、子どもには農業をやってほし くないから学校に通わせている(いた)と話していた。理由は「公務員になって国に恩返ししてほしい」

や「これからは英語ができないと生活すら大変になるから」等とさまざまだが、やはり農業の大変さ を身で感じているのが一番の理由ではなかろうか。

事後学習は「実習で心を捉えた体験を振り返る」(Step6 )こと及び「社会と関わるうえでの 自分の立ち位置を考える」(Step7 )ことを目標とし、WAVOCが開発・体系化した「体験の言 語化」10の手法を用いて体験をまとめた。最終回では各履修生が5分の語りを行い、教員・履修 生全員で、①自分及び相手の気持ちを想像できているか、②自分及び相手の気持ちを「自分の言 葉」で語れているか、③体験から繋がる社会の課題を発見できているか、④体験から繋がる社会 の課題を「自分の言葉」で語れているか、⑤共感・感動があったか/論旨が明快だったか/身体 表現(声、話し方、表情、姿勢、ジェスチャー等)の総合的インパクトという観点から評価をし た。またブータン基礎情報、メンバー紹介、実習スケジュール、活動日誌、個人レポート等から なる報告書を作成し、改めて活動全体を振り返った。

2.2 Ⓑ WAVOC 主催ブータンスタディツアー

ブータンは2008年に王制から立憲君主制に移行しその政治体制を大きく変えたが、社会も日々 変化を続けている。インフラの整備により自動車でたどり着ける場所は年々増え続け、様相が一 変した町や村もある。かつて「秘境」と呼ばれた同国は、良くも悪くも情報化やグローバリゼー ションの影響を強く受けるようになり、新たな社会問題も表面化してきている。一方で土台にあ る文化的・宗教的アイデンティティは、その地に暮らす人々の物事の捉えかた、そして生きかた に確かな影響を与え続けている。このようなブータンの「今」から学べることは多い…という想 いをもとに、2016年度には教育に焦点を当てたスタディツアーも実施した。

WAVOCが主催し協力機関として日本ブータン研究所が名を連ねたこのスタディツアーは、早

稲田大学では初となる、ブータンを対象にした正課外のスタディツアーとなった。2016年12月初

頭にWAVOCのウェブサイト及びメールニュースを通して参加者募集を開始し、締切を待たず

に定員(10名/後に1名が辞退し、実際に渡航したのは9名)に達した。大学1年生から大学 院修士課程2年生までの学部・学年・国籍を異にする参加者の志望動機はさまざまであったが、

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「途上国の教育問題に興味がある」、「ブータンのGNH政策に興味がある」、「ブータンの実状に 直接ふれたい」といったものが多数を占めた。

スタディツアーの目的等は表2.2の通りで、都市(ティンプー)の公立学校・私立学校と地 方(ガサ)の公立学校での交流をメインの活動とし、ガサとパロ2ヵ所での農家ホームステイを 織り交ぜ、一方的に参加者がブータンの方々から学ぶかたちではなく、双方向の学び合い・気づ き合いを意図して組み立てた。その性質上、内容・スケジュールは担当教員である筆者が事前に 確定させ、参加者がその作業に入り込む余地はほとんどなかった。

表2.2 WAVOC 主催ブータンスタディツアーの概要 プログラムタイプ スタディツアー(正課外)

実施年度 2016年度〜現在

事前・事後活動 事前学習(全3回)/ブータン勉強会への参加(任意)/報告書作成 単位 なし

参加人数 9名 スタディツアーの

期間 2017年3月4日〜13日(10日間 ブータン滞在7泊8日) ※引率1名(+ガイド、アシスタント、ド ライバー)

1人あたりの

参加費用 27万7,343円(公定料金187.5ドル×7泊+ビザ40ドル+Drukair航空券527.8ドル+ANA航空券7万510 円)+保険料

最終目的地 ガサ スタディツアーの

目的 ブータンにおける都市部と農村部の教育・生活状況の比較、学校訪問、生徒や教員との交流、農家での ホームステイ等を通して、相互に学び合い、異文化理解・相互発展を促進させる

筆者の役割 事前・事後活動の内容検討・実施/実習の内容・スケジュールを組み立てて提示/各種調整/引率

2017年1月14日(土)、2月4日(土)、2月25日(土)にオリエンテーションを兼ねた事前 学習を行い、ブータンの近代学校教育史やGNH政策を含む国家開発政策を集中的に講義した。

また同日の午後には同会場にてブータン勉強会(任意参加)を開催し、有識者、大学教員、元 JICA青年海外協力隊、学生時代にブータン訪問経験のある方々等と意見交換する場を設けた。

このブータン勉強会との連携は、参加者の知識習得にとどまらず「外部」(担当教員以外のブー タン関係者)とのネットワーク構築に有益で、さらに「外部」の方々との交流を通して参加者自 らの意識向上もなされるため、以降の各プログラムでも積極的に推進していくことになる。特 に、後述する島根県立隠岐島前高等学校の「グローバル探究(ブータン)」では一連のプログラ ムの中に明確に組み込み、生徒たちの疑問解決や活動報告の場としても大いに機能した。

実際のスタディツアーでは、往路は機内預け荷物が経由便に乗り継がなかったり、数年ぶりと いう大雪の影響でスケジュールの大幅変更を余儀なくされたり、復路は飛行機の遅延により機内 預け荷物どころか人間自体が乗り継げなかったり…と引率者としては冷や汗をかく場面が多く、

ハプニングへの柔軟かつ的確な対処の難しさを肌で感じた。毎晩の振り返りミーティングではス タディツアーの目的に沿って比較の視点の投入を心がけ、都市と地方の状況比較を意識できるよ うなコメントや質問を多く投げかけた。

帰国後は、年度が替わり大学を卒業する者もいる中で参加者が頻繁に会う機会は作れなかった が、各自がブータンでの体験と気づきを文章化し、編集作業を買って出てくれた参加者2名が中

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心となって報告書作成を行った。以下は、参加者のひとりが帰国後に記した感想(報告書1ペー ジ分の個人レポート)である11

ゆれる

「ああ、まだ着かないのかな」

ガサへの道のりは長かった。しばらくして昼食をとった広場も、まだプナカだったという。実際には、

半日もかかっていない。だが、あまり変わり映えのしない車窓からの風景、道を進むにつれてゆれの増 すシートベルト未着用の身体、それらが長く感じさせていたのだろう。

思い返せば、バスで移動するときはいつもゆれていた。それは、身体が覚えている。いま、あのゆれ を懐かしく思うのは、日本での暮らしに再び戻ってしまったということを意味しているに違いない。

だが、ゆれていたのは、身体だけではなかった。頭もだった。ブータンに来て、色々と感じたり、想っ たり、考えたりしている自分は、一体どこから来たのか、そして、どこへ行くのか。自分をつくりあげて いるものは、何か。滞在中、そんなことが次第に頭をよぎるようになっていた。どうしてだったのだろう。

きっと、これまでの日本での生活や人生が相対化される過程に入っていたからだと、いま振り返って思う。

ブータンに限らず、異国の地で行うことのひとつに、何かと何かを比べて似ている、何かと何かを比 べて違っている、と認識する、というものがある。ただ、このほとんど知らぬ間にしている行為は、頭 をつかう。人生で初めて目にする真新しいもの、それ自体を受け入れたうえで、比較対象を持ち出して くる。あるいは比較対象がないと判断する。時間とエネルギーがかかる。一緒に行ったメンバーが提示 する捉えかたが自分のそれと異なれば、それを理解しようとして、また頭をつかう。同じものを見たり 聞いたりしているようで、違うものを見たり聞いたりしている。そんな、とても大切な当たり前を改め て知ることができたのは、有意義だった。とても貴重な体験だった。

また、ブータンに対して抱いていた漠然としたイメージと現実とのギャップに驚く自分もいた。「幸 せの国」というのは、ブータンを語る際の枕詞と化しているようだ。が、そもそも幸せという言葉は、

国を形容するのに使えるものだろうか、などと帰国した今では発言している。たしかに、事前学習はと てつもなく大事だ。習得した事実、ブータンに詳しい方々から聞いた話、それらをもとにしてイメージ を作り上げることも極めて重要だろう。しかし、事実やイメージを、他ならぬ自分自身が疑いつつ現地 に入ることも、それらと同じくらい大切であるように思った。そういった姿勢や態度があってこそ、ブー タンや日本といった国家も初めて相対的に捉えられそうである。次にブータンを訪ねるときは、もっと しっかり準備したい。

郷に入っては郷に従え、という。もっともだと思う。普段暮らしている土地を離れ、異国へと足を運び、

そこで行うことができるのは、というよりも、しなければならないのは、現地の人々と呼吸を同じくす ることなのだと思う。その土地の人々が歩くスピードに合わせていく、とも言えようか。ブータン人の それは、至極ゆっくりだった。

いま日本で、家族や友人といった身近な人々のことを考えながら、ゆっくり歩いてみたりする。ほん のちょっと未来の自分のことしか考えられず、急いで歩いてみたりする。とてつもなく余裕があれば、

立ち止まって、出会ったことのない人々の生活や人生を想像してみたりする。

色々な日本人がいる。色々なブータン人がいる。世界には色々な人がいる。みんな違う。当然のこと

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だ。けれど、ひとつ共通していることは、いつだって誰にもわからないぼんやりとした将来に向かって、

それぞれ異なるスピードで歩いたり、時には立ち止まったりしているということだ。そんなことに改め て気がつくことができたのは、紛れもなく、初めて行く土地で暮らす人々の歩みや立ち止まりを、目の 当たりにする機会を得られたからだ。そんな機会の連続であったツアーに関わったすべての方々に、心 の底から感謝している。

いま、ブータンで出会った人々が歩いているのを想像してみる。笑っているような気もするし、少し 戸惑った表情をしているような気もする。わからない。だから、もう一度向かいたくなる。

2.3 Ⓒ WAVOC 提供 GEC 設置科目「ブータンから学ぶ国会開発と異文化理解」

2016年度に実施した海外実習科目「南アジアから学ぶ途上国の農村開発」(Ⓐ)のノウハウを 引き継ぐと同時に装いを新たにし、2017年度からは「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」

を開講している。その運営にあたっては、筆者がTAとして関わり夏の実習にも同行していた

WAVOC提供オープン教育センター(当時)設置科目「地球体験から学ぶ異文化理解─ ブータ

ン王国での実践を通して学ぶ─」(2006〜2008年度)の経験も反映させている。

プログラムは、グループワークを通した知識習得や各履修生の研究課題の設定を行う事前学習

「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解1」(1単位/春クォーター)と、2週間の実習及びそ れを振り返り報告書作成等に向けた準備を行う事後学習から構成される「ブータンから学ぶ国家 開発と異文化理解2」(3単位/夏季集中+秋クォーター)に分割し、合計取得単位数を倍増さ せ、事前・事後に履修生が行う活動内容を増やした。全学副専攻「社会貢献とボランティア」内 では「現場を体験し、その体験を言語化して、どの分野にも共通する基礎力を養う」ことを目指 す「体験し言語化する実践科目」のひとつに位置付けられている(図1)。

図1 全学副専攻「社会貢献とボランティア」カリキュラムマップ 出典)早稲田大学編(2018)『2018年度全学オープン科目履修ガイド』早稲田大学。

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科目全体の到達目標等は表2.3にある通りで、履修生には各自の興味関心にしたがって設定 する研究課題の遂行と、自ら実習を作り出す積極性を強く求めている。実習では「各履修生の研 究課題に関連する諸機関の訪問や関係者へのインタビュー・アンケート等を通して研究を深化さ せると同時に、ブータンに根づく文化・価値観・生活様式等に触れ、異文化への自分なりの対峙 の仕方を模索する」ことを目指すが、4月の開講時にはブータンがフィールドであること以外に 決まったものは何もなく、いつ行くか、どうやって行くか、何をやるか、誰に会うか、どこに泊 まるか…等実習に関わるほぼすべての事柄を履修生全員で話し合い、事前学習で各履修生が設定 する研究課題にしたがって2週間の流れを作り出していく。また、各履修生に明確な役割(全体 取りまとめ係、情報収集・協賛係、保健・会計係、記録・報告書係等)を持たせ、責任を持って 実習に関与する体制を採っている。

「農家の暮らしに接する」、「農業関係の専門家のかたからお話を聞く」、「学校で教員や生徒と交 流する」、「各地の市場を比較する」、「GNH政策に関するレクチャーを受講する」、「各地の寺院や

表2.3  WAVOC 提供 GEC 設置科目「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」の概要 プログラムタイプ 海外実習科目(正課)

実施年度 2017年度〜現在

事前・事後活動 事前学習(全8回)/ブータン勉強会への参加(任意)/事後学習(全8回)/報告書作成/中間レポー ト及び最終レポートの作成/「大学における「海外体験学習」研究会」年次大会等での発表(2017年度 のみ)

単位 あり(4単位)

参加人数

2017年度  8名 2018年度  9名 2019年度  11名

実習の期間

2017年度  2017年8月18日〜31日(14日間 ブータン滞在10泊11日) ※引率1名(+ガイド、アシス タント、ドライバー)

2018年度  2018年8月18日〜31日(14日間 ブータン滞在11泊12日) ※引率1名(同上)

2019年度  2019年8月17日〜29日(13日間 ブータン滞在10泊11日) ※引率2名(同上)

1人あたりの 参加費用

2017年度  25万7,346円(公定料金150ドル×10泊+ビザ40ドル+Drukair航空券532.42ドル+ANA航空 券5万9,380円−学内補助3万円)+バンコク1泊分宿泊費・食費・移動費+保険料

2018年度  28万2,652円(公定料金150ドル×11泊+ビザ40ドル+Drukair航空券564.84ドル+ANA航空 券6万4,620円−学内補助3万円)+保険料

2019年度  27万7,115円(公定料金150ドル×10泊+ビザ40ドル+Drukair航空券682.5ドル+ANA航空 券6万2,640円−学内補助3万円)+保険料

最終目的地

2017年度  ポブジカ/プンツォリン 2018年度  ブムタン(ウラ)

2019年度  ポブジカ/ハ(当初の予定ではプンツォリン)

実習の目的 各履修生の研究課題に関連する諸機関の訪問や関係者へのインタビュー・アンケート等を通して研究を 深化させると同時に、ブータンに根づく文化・価値観・生活様式等に触れ、異文化への自分なりの対峙 の仕方を模索する

科目全体の 到達目標

①漠然とした興味関心・問題意識を、学術的な研究課題として組み立てまとめる力を養う

②実習の企画・運営・実践を通して、チーム・ビルディング及びプロジェクト推進の方法を知る

③他者とのコミュニケーションの実践を通して、異文化を理解する力を養う

④体験的学習を通して自らを深くとらえ直し、将来の職業選択、生き方、夢の実現への一助とする 筆者の役割 事前・事後活動の内容を履修生と検討し実施/実習をどう組み立てるか履修生と話し合い、協働してス

ケジュール確定/各種調整/引率

(11)

僧院で仏教美術を見て回る」、「都市と地方の病院の違いを知る」、「水力発電の現場を視察する」…

といった各履修生の研究課題に直接関連する希望を中心に、移動距離・時間、日数、体力、重要度 を考慮に入れて実現可能性を検討し、スケジュールを組み立て、アポ取りを行っていく。教員はア ドバイザーとして実現可能性を検討する材料を提供し、アポ取りのサポートを行う。当然、ⒶやⒷ

のように教員側で内容・スケジュールを確定させるよりも何倍も手間がかかるが、深い部分まで自 らが作り出していく過程は履修生の当事者性を育み、主体的な学びの素地を形成するのに役立つ。

2017年度は、南部地域の文化及びインドとブータンの関係性を知るため、インドとの国境の町 プンツォリンまで足を延ばした。2018年度は、東部を訪問するか(=インドのアッサム州から陸 路で入出国するか)、もしくは西部・中部を訪問するか(=国際空港のあるパロから入出国する か)で意見が割れ、全員で激論を交わした。2019年度は水力発電所の現場視察の実現に向けて動 いたが、視察許可を取るのが非常に難しく、筆者にとっても刺激的な挑戦となった。

異文化理解の出発点は「相手の大切にしているものを大切にする姿勢」にあると筆者は考えて いるが、実習中に履修生の異文化への対応力をどう養うか、他者とのコミュニケーションの実践 の仕組みをどう作るかは常に試行錯誤の繰り返しである。振り返りシートを用いた毎晩の振り返 りミーティングの充実や適切な問いの投げかけ等は大前提として、やはり「とにかく何でも体験 させてみること」は重要であろう。異文化理解のためには身体感覚を伴う活動が欠かせない。も ちろん実習中は活動の連続であり偶発的な体験がプラスに働くことも多々あるが、場合によって は意図的な場面設定・介入や、キーパーソンとなる人材の配置が求められる。

どうしても高額になってしまう参加費用をどこまで抑えられるかも常に頭を悩ませる問題 だが、公定料金の下がるオフシーズンの渡航で学割(25%引)を活用して1泊150ドル/人、

Drukair航空券(バンコク⇔パロ往復)も学割の手続きをして30%引、そして学内補助の申請・

活用と、できる作業は概ね行っている。LCCの利用(東京⇔バンコク往復)や経由地の変更、

外部助成の獲得、クラウドファンディングの活用等も案としては挙げられるが、なかなか難しい 判断に迫られ、この海外実習科目でそれらは実現できていない12

事後学習と報告書作成は、体験を言語化し自身の次の活動に繋げる場として機能させている。

2.4 Ⓓ「海士ブータンプロジェクト」ブータン地域調査

WAVOCは2017年度より、活動地への貢献にとどまらず、学生自身が主体性をもって取り組み 成長していくことを支援する新たな正課外活動「早稲田ボランティアプロジェクト」(通称:ワ ボプロ)を開始した。筆者はそのひとつとして島根県隠岐郡海士(あま)町とブータンの2ヵ所 を繋ぐ「海士ブータンプロジェクト」(通称:あまたん)を提案し、メンバー募集をはじめた。

Ⓑの参加者2名を含む学生が第1期メンバーとなり、2017年5月末よりミーティングを重ね、確 定したビジョン「海士の挑戦事例をもとに、ブータンの地域活性化に主体的なプレーヤーとして 携わり、日本とブータンの未来を切り拓く」及びミッション「学ぶ、感じる、活かす」をもとに 活動を進めていくことになった。

2017年度にはブータンの地方を巡る現状や課題を直に確認し自分たちにできることを詳察する ために西部(パロ県、ティンプー県、プナカ県、ワンデュ・ポダン県、ハ県)にて、2018年度に

(12)

は東部地域を舞台にしたスタディツアー実施の可能性を探るために東部(サムドゥプ・ジョンカ ル県、タシガン県、タシ・ヤンツェ県)にて地域調査を行った(表2.4参照)。海士ブータンプ ロジェクトは学生が主体となる活動であり、担当教員である筆者が主導権を握ることはせず、活 動を巡るほぼすべての事柄を週1回のミーティングにおいてメンバー同士で議論しながら決めて いく。そのため、地域調査の内容・スケジュールを確定させる作業では筆者はサポート役に徹 し、引率中も見守る姿勢を第一とした。

主なサポートは、①下地作り(限られた時間・予算の中でブータンの都市と地方を効率的に周 り、比較するための下準備)、②人間関係作り(異文化理解/立場の異なる方々との対話の機会 の創出/「お客さん」からの脱却を目指す)、③振り返り(衝撃・違和感等からの考察・分析)

に大別される学びのしかけで、引率中はメンバーの活動を見守りながら②と③に関して動くこと になる。

すべての体験的学習プログラムに共通して言えるだろうが、現地の生活に可能な限り密着する ことは意識変容のための近道のひとつである。特にホームステイはその重要な手段であり、「お 客さん」からの脱却はたった数泊のホームステイでは無謀な話であるものの、寝食を共にしてホ ストファミリーと同じ生活行動を試みることによって、見えないが確実に存在する「旅行者と生 活者の境界線」を跨いでいく。またブータンの方々は概してもてなし上手で、相手が期待してい る返答を用意してくれがちであるが、受け入れをしてくださるホストファミリーとの事前の信頼 関係の構築や協議を通して、過度なもてなしを避け「親戚の子が遊びに来ている」程度の感覚で 接してもらうこと、メンバーからのインタビューに畏まらず、気遣いをせず思った通りの率直な

表2.4 「海士ブータンプロジェクト」ブータン地域調査の概要 プログラムタイプ ワボプロ(正課外)

実施年度 2017〜2018年度

事前・事後活動 週1回のミーティング/ブータン勉強会への参加(任意)/報告書作成/ブータン勉強会での発表/「ワ ボプロ成果報告シンポジウム」等での発表

単位 なし

参加人数 2017年度  5名 2018年度  5名

地域調査の 期間

2017年度  2018年2月24日〜3月4日(9日間 ブータン滞在6泊7日) ※引率1名(+ガイド、ア シスタント、ドライバー)

2018年度  2018年8月6日〜13日(8日間 ブータン滞在5泊6日) ※引率1名(同上)

1人あたりの 参加費用

2017年度  19万8,982円(公定料金150ドル× 4泊+187.5ドル× 2泊+ビザ40ドル+Drukair航空券 579.2ドル+ANA航空券7万8,620円−学内補助3万円−学外助成2.5万円)+保険料

2018年度  13万1,950円(宿泊費・食費・移動費125ドル× 5泊+ビザ40ドル+Air India航空券8万 8,800円−学内補助3万円)+インドビザ代+デリー1泊分宿泊費・食費・移動費+保険料

最終目的地 2017年度  ハ 2018年度  タシガン

地域調査の目的 2017年度  ブータンの現状や課題を直に確認し、自分たちにできることを詳察する 2018年度  東部地域を舞台にしたスタディツアー実施の可能性を探る

筆者の役割 内容・スケジュールはプロジェクトメンバーが組み立てるので、そのサポート役に徹する/各種調整/

(見守ることに重きを置いた)引率

(13)

意見を出してもらうようにすることは、地味だが欠かせない引率者の作業である13

この地域調査における毎晩の振り返りミーティングでの筆者の役割は、比較の視点の投入を中 心とした揺さぶり及び海士町とブータンの諸相に関する情報提供であった。「日本(もしくは海 士町)では?」、「ブータンの他の地域では?」、「隣国インドとの関係性は?」、「ブータンの開発 政策はどうなっていた?」、「都市と農村という括り(のみ)で括れる?」、「先進国と途上国とい う括り(のみ)で括れる?」、「逆の立場だったらどう思う?」等と問いかけを重ねていくこと で、メンバーの気づきを掘り下げる。また話題にしたがって、例えば海士町での教育魅力化プロ ジェクトとブータンのセントラルスクール制度の違い等について補足説明をした14

※振り返りシートの記述(抜粋)(2017年度)

・《“ブータンらしさ”の追求の必要性》“文化と発展のバランス”は keyword だと感じる。発展が文化 をつぶすという先入観があったが、キラやゴ(筆者注:男性用が「ゴ」、女性用が「キラ」というブー タンの民族衣装)を若者が手軽に身につけたり、100年前、300年前の歌を若者がコンテストで歌っ ている場面をブータン人がテレビ(BBS)で目にすることで逆に浸透するなど、発展には文化を残す 力がある。

・《若者の宗教・文化に対する意識の高さ》若者の使うスマホの待ち受けや背景画像が、釈迦だったの は無意識の信仰心の強さのあらわれ。ツェチュ(筆者注:ブータンの各地で開かれる祭り)に限らず、

若者たちがキラ・ゴを自身のファッションにおける個性の表現として選び祭りに着ていく、という過 程すらも日本にはない文化の定着度の高さが伺える。

・《地方創生の意味って?》ハのアパ(筆者注:ブータンの国語ゾンカで「お父さん」の意 )に今後変 わっていってほしいか尋ねたら、「物はすぐ手に入るし、電気や道も必要な限り届いている。ハは昔

(60年前)に比べて30%くらい変わったけれど、これで十分」と答えてくれた。「人の欲は終わらない、

昔の不便さを変えよう変えようとするのはキリがない」、その場所に住む人の幸せや生活環境の充実 度を考えると、敢えてそこに手を加えることの違和感がある。

・《残すことの大切さ》データを残さないことは同じ失敗につながる。農業だけに限らず、急成長する ブータンを目にして、またブータン人が石をみんなで砕きながらパロ空港をつくっていたような過 去のブータンを比較して、刻々と変化するブータンを記録として残すということそのものに私たちが ブータンを訪問した意味を見出せる気がした。

帰国後も週1回のミーティングにて話し合いを続け、最終的には、海士町や島前地域(海士 町=中ノ島、西ノ島町=西ノ島、知夫村=知夫里島の3つの町=3つの島を指す)を舞台に行わ れてきた「AMAワゴン」や「SHIMA探究」といった先行事例も参照しながら、地域密着・体 験交流型ブータンスタディツアーの企画・運営を通して同国の地方を巡る問題について考える機 会を提供することが、(この時点で)自分たちにできる最大のボランティア活動だという結論に 至った。

2018年度の地域調査では、ブータンの地方問題を深く知るうえで東部地域を訪れることは確か に意義があり大きな可能性を見出せることを実感したが、東部のインフラの未整備状況や陸路入

(14)

出国時に移動することになるインド・アッサム州の治安状況等を勘案し、東部を舞台にしたスタ ディツアーの実施は自分たちには難しいとの判断がなされた。

2.5 Ⓔ「海士ブータンプロジェクト」地域密着・体験交流型ブータンスタディツアー 2018年度の地域調査から帰国後、海士ブータンプロジェクトの活動は「第1回地域密着・体験 交流型ブータンスタディツアー」(表2.5参照)実施に向けた準備に移行した。参加費用の面か ら期間は1週間(2019年2月11〜18日)、利便性の面から訪問地は西部(パロ県、ティンプー県、

プナカ県、ハ県)とし、その日程と行き先で最大限のパフォーマンスを発揮できるようメンバー 内で話し合いを重ねて組み立てた。具体的には「都市の人々の暮らしを知る」、「農村の人々の暮 らしを知る」、「都市と農村の違いを知る」といった日毎のテーマを設定しつつ、ハとパロでの農 家ホームステイ及び移動中・散策中の体験交流に重点を置くことによって、「ブータンの「良さ」

を体感すると同時に都市と農村の違いを知り、同国で起きている地方問題を知る」という目的を 達成する仕組みを作った。準備段階における筆者の役割は、Ⓓの場合と同様、メンバーのサポー トであった。

2018年10月末から11月中旬にかけて行った参加者募集には、ブータン訪問経験のある3名を含 む5名が呼応してくれた。オリエンテーションを兼ねた3回の参加者ミーティングで結束を固 め、スタディツアーの目的に合致する各参加者の要望(例えば薬物・アルコール中毒者支援を

表2.5 「海士ブータンプロジェクト」地域密着・体験交流型ブータンスタディツアーの概要 プログラムタイプ ワボプロ(正課外)

実施年度 2018年度〜現在

事前・事後活動

2018年度  週1回のミーティング(プロジェクトメンバーのみ)/参加者ミーティング(全3回)/ブー タン勉強会への参加(任意)/報告書作成

2019年度  週1回のミーティング(プロジェクトメンバーのみ)/参加者ミーティング(全4回)(含:

王立ブータン大学の教員・学生との交流)/ブータン勉強会への参加(任意)/報告書作成/ブータン勉 強会での発表

単位 なし

参加人数 2018年度  5名 2019年度  5名 スタディツアーの

期間

2018年度  2019年2月11〜18日(8日間 ブータン滞在5泊6日) ※引率1名(+ガイド、アシスタ ント、ドライバー)

2019年度  2020年2月5〜13日(9日間 ブータン滞在6泊7日) ※引率1名(同上)

1人あたりの 参加費用

2018年度  19万6,042円(公定料金150ドル× 5泊+ビザ40ドル+Drukair航空券582.48ドル+ANA 空券7万5,070円−学内補助3万円)+保険料

2019年度  16万3,986円(公定料金150ドル× 6泊+ビザ40ドル+Drukair航空券719ドル+AirAsia航空 券3万6,600円−学内補助3万円−学外助成2万円−クラウドファンディング支援5,104円)+保険料 最終目的地 2018年度  ハ

2019年度  ポブジカ スタディツアー

の目的 ブータンの「良さ」を体感すると同時に都市と農村の違いを知り、同国で起きている地方問題を知る 筆者の役割 内容・スケジュールはプロジェクトメンバーが組み立てるので、そのサポート役に徹する/各種調整/

(見守ることに重きを置いた)引率

(15)

行っているNGOの訪問)をスケジュールに加え、出発前日に開催した第100回ブータン勉強会 でも学びを深め本番に臨んだ。スタディツアー中の筆者の役割もまた、基本的にはⒹの場合と同 様であった。

2019年度には、前年度の経験を活かして「第2回地域密着・体験交流型ブータンスタディツ アー」(2020年2月5〜13日、於:パロ県、ティンプー県、プナカ県、ワンデュ・ポダン県)を 実施した。目的や形態は第1回のものを踏襲しつつも、参加費用を抑えながらスタディツアーの 期間を増やすためのLCC利用、申請し採択された学外助成の活用、クラウドファンディングの 挑戦、さくらサイエンスプラン(日本・アジア青少年サイエンス交流事業)で早稲田大学を訪問 した王立ブータン大学(Royal University of Bhutan)の教員・学生との交流、帰国後のブータン勉 強会での発表等新たな取り組みもなされた。

※参加者の感想(抜粋)(2018年度)15

・ブータンの一番の魅力は何。人に聞かれて、答えられなくて考えた。ブータンは非日常の世界という わけではない。ブータンは、非日常の中にも日常がある。ネットに夢中の若者たち、SNS は大ブーム、

過疎化の農村、脱落すると厳しい学歴社会、社会的弱者への理解のなさ、浮気もよくあるとか。それ は私たちの知っている、いかにも人間的な現代社会。しかし、それを取り巻く環境に、チベット仏教 という一本の筋が通っている。国王や両親、先生への敬意という一本の筋が通っている。そしてその すべてを広大な自然が覆っている。ブータンの美しさは、きっとその融合が見えることなのだと思う。

・私が見たブータンはほんの一部に過ぎず、きっと地域によってもいろいろな幸せのかたちがあると思う とワクワクする。また今回の旅でブータンが抱えるアルコール、薬物、情報化など様々な問題や課題を 目の当たりにした。発展とともに変わりゆく「時間の使い方」。変わってほしくないというのは観光客 の一存である。まだまだ知識の少ない私に出来ることは、ブータンに関心を持ち続けることだと思う。

※参加者の感想(抜粋)(2019年度)16

・訪問するまでは、ブータンに対して、「世界一幸せな国」というイメージしかもっていなかった。しかし、

今回のスタディツアーで、ブータンの中身が少しだけ見えた気がする。どの国でも共通することであ るが、訪れてみないとわからないこと、訪れて初めてわかることが数多くある。GNH を前面に掲げ、

人々が幸せに暮らしている影にも、環境問題、特にポイ捨てに対する国民一人ひとりの意識の低さや、

地方と都市部のインフラの差、発展具合にも、ブータンの課題が見え隠れしていた。ブータンに対して、

日本人である自分にできることはないのかと、課題解決に向けてアクションを起こそうと強く思わせ られ、今後の活動に生かすことのできる新たな一歩となった。

・何が豊かで、何が貧しいかの判断はそのときの物差しによって変わってくる。経済的になのか、健康 的になのか、モノなのか、質なのか。生きていくために、お金はもちろん必要である。しかし、私は 楽しく、幸せに暮らすためには人との繋がりも大切ではないかと、ポブジカの暮らしから感じた。豊 かさとは「人との繋がり、助け合い」ではないだろうか。だからこそ、助けてくれる人には感謝を、

自分のできることなら積極的に協力を。この姿勢を改めて大切にしたいと感じたことが、ブータンで の学びだ。

(16)

2.6 Ⓕ島根県立隠岐島前高等学校「グローバル探究(ブータン)」

海士町に位置する島根県立隠岐島前高等学校では、同校が採択されたSGH(スーパーグロー バルハイスクール)事業「離島発グローバルな地域創生を実現する「グローカル人材」の育成」

図2)の中核のひとつとして「グローバル探究(ブータン)」という正課外活動が2016年度より 開始された。GNHへの興味関心に加え、海士町ないし島前地域と共通する課題を多く抱えてい る(そして、国・町をブランディングすることによってそれを乗り越えようとしている)という 親和性ゆえにブータンが学びの場として設定され、プログラム全体を通して「グローカル人材」

に求められる以下の5つの力の育成が目指された。

・グローカルビジョン創造力:ビジョンを描く力、キャリア形成力、自己実現と社会貢献、よりよい未 来への意志

・多文化協働力:違いを超えて連携する力、多様なものとつながる力、自他文化へ敬意と関心を持つ心、

理解し、協働する態度

・探究的学習力:生涯学び続ける力、語学力、情報処理力、学び・真理への探究心

・社会的自立力:コミュニケーション能力、課題発見力、課題解決力、主体性・規律性、柔軟性

・地域起業家精神:自ら進んで挑戦する力、選択肢と可能性を拡げる力

学年を異にする4名からなるチームは、「島内生」と呼ばれる島前地域出身の生徒2名と「島 外生」と呼ばれる他地域・他県出身の生徒2名で構成されている17。高倍率の選考を経て年度初 めから話し合いを重ね、「文化の継承」、「ブータンと日本の家族観の違い」といった毎年度異な

図2 島根県立隠岐島前高等学校の SGH 事業の概念図

出典)島根県立隠岐島前高等学校編(2020)『平成27年度指定スーパーグローバルハイスクー ル令和元年度研究開発実施報告書 第5年次』島根県立隠岐島前高等学校。

(17)

る全体の探究テーマを定めた後、島前地域での探究活動を経て7〜8月にブータンにて探究活動

(フィールドワーク)を行う。帰国後はその考察・分析、全体のまとめ、最終報告等を行ってい くという約1年間のプログラム(表2.6参照)で、筆者は縁あって初年度より携わり、島前地 域での探究活動のサポート、ブータンでの探究活動の内容・スケジュール作成等を担当し引率の 補助も行っている(引率は筆者を含めた2〜3人体制)。

事前・事後活動の一環として、6月、9月、12月に海士町内(於:隠岐國学習センター等)に てブータン勉強会を開催し、探究テーマやアンケート調査の分析方法に関して生徒たちが発信し

「外部」からアドバイスを受けられる場を設けた。これらは年度によっては島根大学地域教育魅 力化センター主催「ふるさと魅力化フロンティア養成コース」の実習と連携して開催することも あり、その際は特に大人数が参加し活発な意見交換がなされた。

ブータンではアンケート調査(及びインタビュー調査)を中心に、学校での交流やプレゼン、

都市・農村でのホームステイ、その他各年度の探究テーマに沿った活動を行う。生徒たちの希望

表2.6 島根県立隠岐島前高等学校「グローバル探究(ブータン)」の概要 プログラムタイプ 探究活動(正課外)

実施年度 2016年度〜現在

事前・事後活動 約1年間のプログラム/ブータン勉強会での発表/学園祭「碧燎祭」での発表/「探究活動成果発表会」

等での発表 単位 なし

参加人数

2016年度  4名(「島内生」2名+「島外生」2名)

2017年度  4名(同上)

2018年度  4名(同上)

2019年度  4名(同上)

探究活動

@ブータンの 期間

2016年度  2016年7月31日〜8月6日(7日間 ブータン滞在4泊5日) ※引率3名(+ガイド、ア シスタント、ドライバー)

2017年度  2017年7月31日〜8月7日(8日間 ブータン滞在4泊5日) ※引率3名(同上)

2018年度  2018年7月28日〜8月5日(9日間 ブータン滞在6泊7日) ※引率2名(同上)

2019年度  2019年7月25日〜8月4日(11日間 ブータン滞在8泊9日) ※引率2名(同上)

1人あたりの 参加費用

2016年度  3万円 ※実際にかかった費用は17万2,590円(宿泊費・食費・移動費135ドル× 4泊+ビ ザ40ドル+Drukair航空券359ドル+Thai Airways航空券6万9,300円)+日本国内移動費+保険料

2017年度  4万円 ※実際にかかった費用は19万9,926円(公定料金150ドル× 4泊+ビザ40ドル+

Drukair航空券532.42ドル+ANA航空券7万960円)+バンコク1泊分宿泊費・食費・移動費+日本国内

移動費+保険料

2018年度  4万円 ※実際にかかった費用は19万4,659円(宿泊費・食費・移動費125ドル× 6泊+ビザ 代40ドル+Drukair航空券392.63ドル+ANA航空券6万4,570円)+インドビザ代+日本国内移動費+保険料 2019年度  4万円 ※実際にかかった費用は25万1,040円(公定料金150ドル× 8泊+ビザ代40ドル+

Bhutan Airlines航空券376ドル+Drukair航空券348ドル+JAL航空券3万5,000円)+日本国内移動費+保険料

最終目的地

2016年度  プナカ(当初の予定ではガサ)

2017年度  プナカ 2018年度  メラ 2019年度  チュカ/ハ

探究活動の目的 グローカルビジョン創造力、多文化協働力、探究的学習力、社会的自立力、地域起業家精神の育成 筆者の役割 探究活動@島前地域のサポート/探究活動@ブータンの内容・スケジュールを組み立てて提示/各種調

整/引率の補助

参照

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