カレントアウェアネス NO. 294(2007. 12)
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米国における図書館アドヴォカシーの展開 動向レビュー
1.図書館アドヴォカシーとは何か
アドヴォカシー(advocacy)は米国社会において 一般に「生活の質を改善するため、市民が発議してお こす活動」を意味する。図書館アドヴォカシーとは図 書館と図書館員の存在意義を擁護し、図書館が現在 直面する状況、すなわち、図書館で何がおきているか、
充実したサービスを継続するために何が必要について のメッセージを様々な手段を駆使して訴え、可能な限 り多くの賛同者を得て、図書館への行財政支援につな げる活動である。この点において、広報活動よりもさ らに説得の技術と組織力が必要となる。
地域でアドヴォカシーを成功に導かなければ、地域 や州および外部からの財政支援を得ることにつながら ない。米国の公共図書館では 2002 年から 2003 年に かけて、財政悪化の影響を受け、館長ポストの廃止を 含む職員の解雇による職員数の削減、開館時間の短縮、
ついには閉館といった危機的な事態が様々な州で次々 と起こったため、地域や州以外の財源をこれまで以上 に求めるようになった。図書館アドヴォカシーはこの ような資金調達だけでなく、住民投票に際し、多くの 賛成票を獲得する基盤を形成する側面もある。
クラフト(Many Anne Craft)は財政問題を克服 した公共図書館の事例をまとめた著書の中で、図書館 アドヴォカシーの原則として、次の9点を挙げている
(1)。
(アドヴォカシーに成功している図書館の事例か (1)
ら、そもそも図書館が提供するサービスが)特 出した公共サービスであること
(様々な人々が)協同で活動すること (2)
財政支援者に対する説明責任を果たすための報 (3)
告を提示すること
一般公衆に対して新たなサービスの市場調査を (4)
実施すること
図書館に対し、否定的な人々や組織を説得する (5)
こと
新たな財政支援者を引きつけること (6)
新しい施設をつくること (7)
新しい技術を身につけること (8)
地域の人々の注意を喚起すること (9)
さらに図書館アドヴォカシーには、図書館に係る法 律や条例の制定に対するロビー活動も含まれる。それ
を具体的に示す行動として、毎年 5 月上旬の 2 日間 にわたりワシントン D.C. で、「全国図書館立法の日
(National Library Legislation Day:NLLD)」が開催 されている。期間中、図書館アドヴォカシーに関わる 人々が各州から集結して、近年の図書館関連の法律を 検討し、連邦予算の増額を求め、連邦議会の議員達に 陳情する機会となっている。米国図書館協会(ALA)
の立法に関する委員会が 1960 年代初頭から NLLD を 後 援 し、2006 年 の 参 加 者 は 525 名、2007 年 に は 424 名を数えた。このほか、カリフォルニア州な どおよそ 20 州が「図書館立法の日」を独自に制定し、
Web サイト上でその日程と主な活動について公表し ている。例えばイリノイ州は州内で展開されたアド ヴォカシー活動の成果として、1965 年に地域図書館 システム(RLS)を構築する州法を成立させ、州法の 施行後わずか 2 年以内に 18 の RLS を形成した。RLS には現在、公共図書館だけでなく、学校図書館や大学 図書館も加わり、州議会や連邦議会に対するアドヴォ カシーを展開している。さらに 1970 年代初頭に「イ リノイ州図書館擁護の日」を定め、毎年多くの図書館 擁護者達の参加を募っている(2)。またニューヨーク州 では州の図書館協会が「図書館ロビー活動の日」を定 めている(3)。
2.図書館アドヴォカシーの推進者とその戦略 地域や州において影響力をもつ個人や団体の支持を 獲得することはアドヴォカシーの基本である。図書館 長、図書館員、図書館運営理事会の理事および図書館 友の会の会員など、アドヴォケイツ(advocates)と 称される図書館擁護者達が地域、州、国レベルで図書 館に対する支援を得るため、図書館アドヴォカシーに 関わってきた。その対象は広範囲にわたり、地域の人々 をはじめ、自治体の首長や州知事、公務員、学校長・
学長、地域の有力者や篤志家、州議会の議員や連邦議 員にも働きかけている。また、ロータリークラブ、商 工会議所、宗教団体、高齢者や親達のグループなどの 団体も対象としている。彼らに対しては図書館への協 力や支持について感謝の意を表し、図書館で開催され る行事へ招待するといった細やかな配慮を欠かさない。
これは住民投票の実施前や資金調達活動の際にもしば しば使われる手法である。
24 の公共図書館システムを擁するメリーランド州 では、2005 年度の予算削減をきっかけに、州の図書 館協会が中心となって影響力のある人々に向けたアド ヴォカシーに着手した。まず、州議会の開催前に議員
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達を図書館に招待し、図書館の現状を視察させた。次 に世論調査の会社に依頼して、地域の人々を対象にア ンケート調査を実施し、その調査結果を議員、公務員 および有力なビジネスマン達に電子メールで配信した。
その反響は大きく、州知事は 2006 年度予算の増額を 認める法案に署名し、2006 年 7 月から公共図書館の 新築と増改築に対する年間 500 万ドルの支出を含む 図書館支援法案が施行された。調査費用として 5 万 7,500 ドルが費やされたが、以後の 4 年間に州政府か らの予算はおよそ 3,500 万ドル増額される結果となっ た(4)。
ヘリング(Mark Y. Herring)は、図書館の資金調 達に関する実践的なマニュアルの中で図書館アドヴォ カシーについて言及し、ALA が図書館アドヴォカシー には誰でも参加できるとしているのに対し、小規模の 図書館でアドヴォカシーを成功させるには中心となる メンバーの選択が非常に重要であると述べている。メ ンバーの条件として、地域の人々から信頼され、尊敬 され、率先して問題の調査にあたるような人物が求め られることを指摘している(5)。
図書館長はアドヴォカシーや資金調達活動におい て、第一にリーダーシップをとるべき人材とされてい る。しかし、米国でも図書館員は一般に内向的な印象 をもたれ、しばしばアドヴォカシーに必要な説得力に 欠け、外部への影響力の行使において弱いとみられて いる。図書館員の中にも自身の弱点を認識し、このよ うな活動への参加に消極的な者も存在する。クラフト は顧客相談の専門家を採用して図書館員を訓練し、利 用者サービスを向上させ、財源の獲得に成功した図書 館長の例を挙げている(6)。
図 書 館 運 営 理 事 会 の 理 事 と 擁 護 者 が 加 盟 す る ALA の下部組織として、「図書館理事と擁護者部会
(ALTA)」が 1890 年に結成され、米国とカナダの会 員数は 1,200 名をこえる(7)。ALTA は近年、アドヴォ カシー活動の関係者にとって有益な情報を提供する ため、年会費 25 ドルを徴収して「アドヴォカシー・
レジストリー」への登録を促している。登録すれば、
年 4 回発信される電子ニューズレター “SpeakOut!”
が購読でき、各地で展開されている図書館アドヴォ カシーの最新情報が入手できる(8)。また、ALTA は 2000 年から図書館アドヴォカシーに際立った功績が 認められる個人や団体を表彰する制度を実施している。
アドヴォカシーについて広く浸透させるために、新 聞や放送局などメディアからの協力を得ることが重視 されている。図書館の記事やイベント情報を提供する
だけでなく、メディアを通じて図書館利用者が図書館 にまつわる個人的なエピソードを発表したり、図書館 活動を視覚的に訴えるためにビデオや DVD を放映す ることも奨励されている(9)。ALA の広報部はテレビ とラジオ向けに、ヒスパニック系の人々に人気がある コメディアンのロペス(George Lopez)が出演する 図書館の CM を作成しており、ALA の Web サイト上 でその一部が視聴できる(10)。
3.ALA の図書館キャンペーンとアドヴォカシーへの取り組み ALA は下部組織として様々な委員会を擁し、それ らは図書館アドヴォカシーと何らかの関わりをもつ。
2006 年に発表された ALA の「2010 年に向けた図書 館」の中で戦略目標の一つとして「地域、州、連邦レ ベルで図書館とそのサービスに対する草の根アドヴォ カシー活動を推進し、支援すること」が掲げられてい る(11)。そのため、ALA はアドヴォカシー活動を統括 する部門として「図書館アドヴォカシー部局(OLA)」
を 2007 年 9 月に開設した。この組織を地域と州の図 書館擁護者達を結ぶネットワークの拠点とし、図書館 予算の獲得や財政難による図書館閉鎖問題を討議する 場とするため、スタッフを 2 名配置する予定である(12)。 近年、ALA が展開してきた様々なキャンペーンも アドヴォカシー活動と連携している。すでに様々な館 種の図書館に浸透している “@ your library” は、@の 前に自由なキャッチフレーズをつけられるという手軽 さから、各図書館で様々なスローガンが作成され、こ れらを図書館アドヴォカシーのブランドとして定着さ せようとしている。ALAのWebサイトからツールキッ トが閲覧でき、プレスリリースやポスターのサンプル、
広告やメッセージシートのデザイン、パワーポイント を使ったプレゼンテーションのサンプルなどが盛り込 まれ、各図書館がこれらを参考にしたり、独自のアイ デアを加えられるような工夫がほどこされている(13)。 @ your library の中でとりわけ図書館アドヴォカ シーを強調するキャンペーンが「図書館アドヴォカ シーを展開しよう(Library Advocacy Now !)」で あり、ここでも Web サイト上でアドヴォカシーに 活用できるような様々なアイデアが提供されてい る。アドヴォカシーに関わり始めた人々やさらにス キルをみがきたい人々に対し、「アドヴォカシー講座
(Advocacy Institute)」という研修プログラムが開催 され、その内容が閲覧できる(14)。アドヴォカシーの 手法について初心者にもわかりやすく解説した「図書 館擁護者のためのハンドブック」が PDF 版で作成さ
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れ、Web サイトからアクセスでき、スペイン語版も 用意されている。さらに、各地の図書館がこれまで実 施したアドヴォカシーや資金調達活動の成功例も公開 されている。
ALA は 2007 年 6 月の年次総会において “I Love Libraries” と称する Web サイトを立ち上げることを 発表し、国、州、地域レベルでの図書館擁護者の数を さらに増やすことを目指している。10 月時点で ALA の HP を開くと、このサイトがトップにカテゴリーさ れており、図書館アドヴォカシーに対する ALA の意 気込みが伺える。公共図書館数、大学図書館を含む 蔵書数 10 位までの全米図書館ランキング、図書館員 数、年間の来館者数、図書館の財務データなど図書館 に関する基本情報が公開されている。さらに “Yahoo Internet Directory” から公共図書館の Web サイトを 検索できる機能やネット募金の機能ももたせている。
いくつかの公共・大学・学校図書館の図書館ツアー も Web 上で展開されるほか、YouTube の提供による 数分間の図書館プロモーション・ビデオ(Love Your Library)が 2 本用意され、その中には図書館員だけ でなく、著名な作家や映画監督などが登場し、人々の 関心を引くような工夫を仕掛けている(15)。
4.大学図書館におけるアドヴォカシーの実践 米国の大学は地域との関係を重視し、地域住民の大 学図書館の利用も早くから認めてきた。たとえば、ア イオワ大学図書館は広報担当官(PR Officer)を配置 し、日頃から利用者である教職員や学生達とのコミュ ニケーションを図るだけでなく、地域のイベントに 参加するなど、住民との交流を深める経験を積んでい る。このように、従来から地域との関係を構築してき た大学図書館では、地域に対する働きかけは当然のこ ととして日常業務の一部に組み込まれ、特に図書館ア ドヴォカシーとして意識されなかった。
大学図書館界が意識的に図書館アドヴォカシーを取 り上げるきっかけとなったのは、2005 年から 2006 年にかけて大学研究図書館協会(ACRL)の会長をつ とめたアリール(Camila Alire)が任期中の目標とし てアドヴォカシーの必要性を掲げていたことによる。
就任表明の中で、ALA の Library Advocacy Now! の プログラムを通じたアドヴォカシー・ワークショップ の開催、草の根アドヴォカシーの奨励、図書館長が積 極的にアドヴォカシーに関わる必要性を強調した。そ の理由として、大学図書館における深刻な財政問題や 電子情報源および関連サービスに対する需要の拡大を
挙げている(16)。
ACRL 元会長の提案は後継者に引き継がれ、大学図 書館関係者の会合の中で徐々に具体化されている。ま ず、2006 年の春に ACRL と北米研究図書館協会(ARL)
が協同で発足させた「学術コミュニケーションに関す る講座(ISC)」がある。この講座はめまぐるしく変 貌を遂げている学術情報環境に対応し、情報交換を図 ることを目的として、大学図書館員、情報技術者、大 学教員らが参加し、年2回程度開催されている。ISC では大学図書館員にアドヴォカシーの技術を身に付け させるため、研修プログラムへの参加を促している
(17)。ほかに 2006 年 2 月にはミシシッピ州立大学が「大 学・学術図書館におけるアドヴォカシーの開拓」と題 するシンポジウムを主催し、5 大学から 40 名以上の 図書館員が出席した(18)。また、2007 年 3 月末から 4 月にかけてボルチモアで開催された ACRL の全国会 議においてアドヴォカシーに関するいくつかのセッ ションが開かれた(19)。
米国の大学図書館は電子情報源を使ったサービスを 充実させる一方で、電子環境の拡大によって、図書 館に足を運ぶ利用者が減少し、図書館員と教員や学生 とがコンタクトを失われかねないとの危機感を抱いて いる。そのため、大学図書館がアドヴォカシーを実践 するにあたって、キャンパス横断型のチームを結成し、
教員や学生達の参加が見込めれば、彼らとの新たなコ ミュニケーションをもつ機会になりうるとみている。
5.おわりに
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は、2007 年 7 月に ALA の下部組織である公共図書館部会(PLA)
に対し、公共図書館員を対象とするアドヴォカシー研 修プログラムを提供するため、3 年間にわたり総額 7 万 7 千ドルを供与することを発表した(20)。PLA は各 地で蓄積された図書館アドヴォカシーの経験を共有す る情報源として「情熱、目的および説得力にあふれる 図書館:成功のための PLA ツールキット」を発行し、
その内容を Web サイトでも公開する予定である。大 型財団が図書館アドヴォカシーに関心を向けたことに よって、アドヴォカシーの必要性がさらに裏付けられ ることとなった。
図書館アドヴォカシーは図書館の現状にただ甘んじ ることなく、各々が知恵と工夫をこらし、図書館を取 り巻く問題に対処しようとする能動的で、将来を見据 えた活動である。本稿では触れなかったが、ALA と 米国学校図書館員協会(AASL)が協力し、学校図書
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館のアドヴォカシーも推進されている(21)。米国の図 書館は館種を問わず、様々な手法を模索しながら、成 功例は出し惜しみせずに、今後も互いにアドヴォカ シーに関する情報を共有して、それぞれの図書館の発 展につなげる原動力としていくだろう。
(北海学園大学:福ふく田だ都いく代よ)
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学校図書館のアドヴォカシー活動については、AASL が ALA の (21)
アイデアを借用して、AASL @ your library を展開している。
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pio/campaign/schoollibrary/schoollibrary.htm#advocacy, (accessed 2007-11-27).
加えて、ALA の 2006 年年次総会の際に「アドヴォカシーを通 じてあなたのプログラムを変えよう」というテーマで AASL が 事前会合(Preconference)を開いた。
American Association of School Libraries. “AASL Preconference “Transforming Your Program Through Advocacy” ALA Annual Conference in New Orleans June 23, 2006 Helpful Websites”. http://www.ala.org/ala/aasl/
aaslproftools/toolkits/advocacywebsites.cfm, (accessed 2007-11-27).