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博士学位論文要約

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Academic year: 2021

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課程博士・論文博士共通

博 士 学 位 論 文 要 約

論 文 題 目: 障害者のきょうだい支援に関する研究

―セルフヘルプ・グループの限界と今後の展望―

氏 名: 松本 理沙

要 約:

本研究の対象は、障害者の「きょうだい」(障害のある兄弟姉妹がいる者)である。特に、

知的障害者のきょうだいに焦点を当てている。きょうだいは親とは異なり、障害のある兄 弟姉妹とほぼ同時期を生きることから、幼少期から高齢期までの生活に大きな影響を与え ている。

障害児者のきょうだいが抱える課題を整理した結果、次の2点の問題が明らかとなった。

第一に、家族関係及び社会生活から生じる心理的問題である。きょうだいは、親や障害の ある兄弟姉妹に対し孤立感や憤りといった感情を抱く場合がある。また、障害のある兄弟 姉妹の代わりに、家族から完璧であることを求められる。その背景には、親は障害のある 我が子の世話に対する時間的・精神的負担が大きく、きょうだいに注意が向きにくくなる ことがある。第二に、ケアラー(介助者)としての生活問題である。きょうだいは、家族 を介助の担い手とする社会的背景を受け、親や社会によって「代理の親」に見立てられる。

それは時に年齢不相応の負担となる。また、親の高齢化に伴う二重の介護負担、親亡き後 の負担もある。しかし、きょうだいは障害者の生活支援に関する情報を、親と同様に得る ことは難しい状況にある。日本においては、障害者運動に一定の成果がみられ始めた1980 年代以降、数は少ないがきょうだい研究が徐々に進められてきた。但し、きょうだいが抱 える心理的問題の言及のみに留まるものが主流であった。きょうだいへの支援の必要性を 主張するも、具体的な支援策及び効果が明らかになっている研究は少ない。

そこで、障害児者のきょうだい支援に関する先行研究及び実践の検討を行い、セルフヘ ルプ・グループ(SHG)の役割と限界に関する実態把握(第2章)を行った。きょうだい を対象とした SHG である「きょうだい会」のうち、日本唯一の全国組織である全国きょ うだいの会においてフィールドワークを行い、支部(当時)がある地区の運営者及び参加 者のきょうだいを対象としたグループ・インタビューを実施した。その結果、きょうだい 会が果たす役割として「共通の経験をもつ人との出会い」「経験や感情の開放と共有」「情 報の取得」「自分の生き方を見出すこと」「活動を通して力を得ること」等が明らかとなっ た。

更に、SHG の限界についても明らかとなった。第一の限界は、SHG はきょうだいが集 団で共有できるテーマに沿って話が進められていき、個々の体験が断片的に共有されるた め、きょうだい個人が人生の中で抱える生きづらさを感じる各要因の複雑性は明らかにな りにくいことである。その問題意識から、ケアラーとしてのきょうだいのライフストーリ ー研究(第3章)を行った。第二の限界は、異性間のきょうだい構成におけるケアとセク

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課程博士・論文博士共通

シュアリティの葛藤は、性別・年代問わない様々な立場のきょうだいが参加する SHG で は共有しがたいことであり、問題がありながらも実態が明らかにはされてこなかった。こ の問題意識から、ケアとセクシュアリティに関するエピソード記述(第4 章)を行った。

第三の限界は、個々のきょうだいの家族観はそれぞれ異なるが、特に子どもの遺伝に関す る考え方は SHG で共有するにはセンシティブな問題であり、任意の参加者を対象に情報 提供が進められる必要があった。今までは、きょうだいの置かれた状況に配慮した遺伝の 情報提供は行われてこなかった。この問題意識から、遺伝に関する勉強会を開催し、実態 を明らかにするためのアンケート調査(第5章)を実施した。

知的障害者のきょうだいが体験したケアラーとしての役割(第 3章)に関しては、障害 のある兄弟姉妹に対して実際に担ったケアについて、ナラティブを用いた半構造化インタ ビューを行った。きょうだいのライフストーリーを分析するにあたり、きょうだい特有の 心理的問題・社会的問題以外の要因が影響し、きょうだい特有の問題をより複雑化してい ることも明らかになった。調査協力者のライフストーリーからは、「わけのわからない不安」

「言い知れない怒り」「孤立感」「居心地の悪さ」「疎外感」といった感情が示されていた。

その背景として、障害という言葉が個人の困難な状態を説明するものとしてではなく、ス ティグマとして社会で働き続け、障害者は同じ市民だ、というポジティブな視点を拒み続 けてきたことを挙げられていた。さらに、兄弟姉妹の障害の現実に向き合った時に、きょ うだい自身が感じた、「普通の兄」から「障害者の兄」への「健常者としてのマジョリティ からマイノリティへの脱落感」といったものや、きょうだい自身に潜む「障害者に対する ネガティブな視線」や「社会意識」が示されていた。また、調査協力者にとって、貧困の 経験が自身の人生に大きく影響し、それに付随して、障害のある兄弟姉妹に対するケアの 経験が、より生きづらさをもたらすことも考えられた。

障害者のきょうだい関係におけるケアとセクシュアリティ(第 4章)に関しては、重度 知的障害者に対するケアのうち、着替や入浴介助等、性的羞恥心が生じる可能性のあるも のについて、鯨岡のエピソード記述の方法により、重度知的障害者の弟がいる姉である筆 者のエピソードを分析し、女性きょうだいの感情の複雑性等を明らかにした。主観的なリ アリティに応じて、障害のある兄弟姉妹に羞恥心が育たないことへの嘆きを提示した。い つまでも子どものままでいて欲しい、という捕われは、親だけでなくきょうだいにも当て はまる側面があるといえる。障害者が家族から適切に距離を取ることが理想とされながら も、重度知的障害者を家族に持つ者の微妙な心の揺れを示すことができた。きょうだいは 障害のある兄弟姉妹とほぼ同時期を生きることから、親とは異なり、自身の成長や生活環 境の変化との狭間で更なる葛藤を生むことも明らかとなった。第3章・第4章より、きょ うだいの生きづらさをもたらす要因が複雑に絡み合うケースでは、SHGにおいて経験や感 情の十分な共有が難しく、本来のSHGの効果を得にくいのではないかと考えられた。

知的障害者のきょうだいが持つ遺伝に対する意識及び情報提供に関する調査研究(第 5 章)では、きょうだいを対象とした遺伝に関する勉強会において質問紙調査を実施し、分 析・考察した。きょうだいは結婚や出産を考える際、自分の子どもに障害がある可能性に ついて不安を持つことがある。また、きょうだいの結婚相手やその家族が、信用度の低い 情報を元に障害のある子どもが産まれる可能性を過度に取り上げ、きょうだいが傷つけら

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れることもある。筆者は、SHGにおいてきょうだいを対象とした遺伝に関する勉強会を企 画し、遺伝の情報をめぐりきょうだいが置かれている状況を把握するための質問紙調査を 実施した。その結果、障害特性の情報提供との比較における遺伝をめぐる情報の扱いづら さが明らかとなった。きょうだいが遺伝について語ることは、差別を惹起させる(優生思 想)と捉えられることの恐れや罪悪感が伴っていた。きょうだいに恐れや罪悪感を伴わせ ることが、情報収集の困難につながると考えられた。更に、親からの情報提供と比較して、

同じ立場の者同士で遺伝について語る意義や、きょうだいが遺伝の知識を持ち、心の揺ら ぐ権利を得ることの重要性が明らかとなった。

障害者のきょうだいは、同じ立場のきょうだい同士であることで、全てを共有できるわ けではない。例えば、ピアではなく、心理専門職のカウンセリングが必要と思われる事例 もあり、SHGにおいてニーズを拾うことは難しい場合もある。社会福祉や医療、心理、行 政等の専門職とのつながりを持ちながら SHG を運営することで、適切な情報提供やケア に繋げることができ、きょうだい自身が抱える葛藤を解消できる可能性が高まる。一方で、

専門職がきょうだいに求める役割は、時にきょうだいの権利と相反することがある。きょ うだいが安心して話し合える場を保持するために、参加者をきょうだいに限定し、専門職 と棲み分けすることも重要である。さらに、センシティブな話題は、対面では語りにくい ため、匿名性が担保されるオンライン・セルフヘルプ・グループの活用等が有効であると 考えられる。きょうだいの体験や思い、その見せ方には、共通性も多様性もある。ゆえに、

きょうだい支援に携わる者は個々のきょうだいへの関わり方について、今後も慎重な検討 を重ね、支援を行っていく必要がある。

参照

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