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博士学位論文要約

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Academic year: 2021

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課程博士・論文博士共通

博 士 学 位 論 文 要 約

論 文 題 目: 条件性恐怖がラットの時間評価に与える効果の神経メカニズムに関 する研究

氏 名: 鎌田 泰輔

要 約:

第1章では、情動がインターバルタイミング(数秒範囲の時間評価)に与える効果を検討 した文献のレビューを行った。楽しい時間は一瞬のように早く感じられるが、退屈な時間 はまるで永遠に続くかのように長く感じられる。このように、情動がインターバルタイミ ングを変化させることはヒトを実験対象とした心理学的研究により明らかにされきた。中 でも特に恐怖の効果が頻繁に検討されてきた(Droit-Volet & Meck, 2007; Lake, LaBar, & Meck,

2016)。これらの実験では、恐怖喚起刺激がそれとは別の刺激の計時に与える影響や、恐怖

喚起刺激の計時の両方の現象を調べることで、恐怖喚起がインターバルタイミングに与え る効果が検討されてきた(Droit-Volet, 2013)。最近、ラットを実験対象とした研究も実施さ れたが(Faure et al. 2013, Matthews, He, Buhusi, & Buhusi, 2012; Meck & MacDonald, 2007)、そ れらのいずれも、恐怖喚起刺激がそれとは別の刺激の計時に与える影響を検討したもので あり、ラットにおいて恐怖喚起刺激の計時を検討した研究は筆者の知るところ未だに見ら れなかった。したがって、未だ十分に検討が行われているとは言えない。本論文では、条 件性恐怖を喚起する刺激のインターバルタイミングに焦点を当て、条件性恐怖がインター バルタイミングに与える効果が生じる神経メカニズムを検討することであった。

第2章では、条件性恐怖を喚起する刺激の提示時間が過小評価されることが明らかにな った。まず、音刺激の提示時間を弁別させる間隔二等分課題をラットに獲得させた。成績 安定後、分化条件づけを実施し、一方の周波数の音刺激には電気ショック(0.4 mA)を対提示

したが(CS+)、他方の周波数の音刺激は単独提示した(CS-)。その翌日、テストとして、分化

条件づけにおけるCS+とCS-を用いて間隔二等分課題を実施した。その結果、CS+の提示時 間はCS-よりも短く知覚された。この結果は、条件性恐怖によって時間の過小評価が生じる ことを示唆している。

第3章では、扁桃体基底外側核(basoalateral amygdala; BLA)が条件性恐怖を喚起する刺激 の提示時間の過小評価に重要であることが明らかになった。扁桃体は恐怖条件づけの様々 な側面において重要な役割を果たすことが報告されている(e.g., Muller, Corodimas, Fridel, &

LeDoux, 1997)。したがって、条件性恐怖がインターバルタイミングに与える効果にも関与

していることが予想される。実際に、ラットを実験対象とした先行研究によって扁桃体の

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課程博士・論文博士共通

損傷や神経活動抑制によって条件性恐怖がインターバルタイミングに与える効果が抑制さ れることが報告されたが(Faure et al. 2013; Meck & MacDonald 2007)、これらの研究には実験 手続き上の問題点があった。具体的には、これらの研究では扁桃体の機能障害はテストの みならず恐怖条件づけにも影響を与えており、扁桃体損傷を受けたラットにはCSに対して 恐怖が条件づけられていない可能性があった。そこで第3章では、テスト実施前のBLAのγ

-アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid; GABA)-A受容体活性化が条件性恐怖によって生じ る時間の過小評価に与える効果を検討した。その結果、GABA-A受容体作動薬ムシモール の投与によってCS+の提示時間の過小評価が抑制された。この結果は、BLAの通常のはたら きが条件性恐怖を喚起する刺激の提示時間の過小評価に必須であることを示唆している。

第4章では、BLAと島皮質は条件性恐怖がインターバルタイミングに与える効果におい て異なる役割を担うことが明らかになった。Dirnberger, Hesselmann, Roiser, Preminger, Jahanshahi, & Paz (2012)は、ヒトにおいて、恐怖喚起試行では扁桃体に加えて島皮質の活動 が活性化することを示した。第3章で示されたように、BLAの活動は条件性恐怖を喚起する 刺激の提示時間の過小評価に必須であった。しかし、島皮質の活動と条件性恐怖がンター バルタイミングに与える効果の因果関係は不明であった。また、もし因果関係があるとす れば、その効果において具体的にどのような役割を担うのかも不明であった。第4章では、

条件性恐怖によって生じる時間の過小評価における島皮質GABA-A受容体活性化の効果を 検討した。その結果、GABA-A受容体作動薬ムシモールの投与によってCS+とCS-両方の提 示時間がベースラインと比較して過小評価された。この結果は、島皮質のはたらきは条件 性恐怖を喚起する刺激と統制刺激の弁別に必須であることを示唆している。第3章と第4章 の結果は、条件性恐怖がインターバルタイミングに与える効果に扁桃体と島皮質が関与す るということを示しており、この点においてはDirnberger et al. (2012)と一致している。しか し、重要なことは、島皮質と条件性恐怖がインターバルタイミングに与える効果には確か に因果関係があり、BLAの通常の活動は条件性恐怖を喚起する刺激の提示時間の過小評価 に重要であるが、島皮質の通常の活動は条件性恐怖を喚起する刺激と統制刺激の弁別に重 要であるということであった。BLAと島皮質の間には密接な双方向性の連絡が認められお り(Shi & Cassel, 1998)、この線維連絡を介して条件性恐怖がインターバルタイミングに与え る効果に関与していることが予想される。

第5章から第7章では、条件性恐怖を喚起する刺激の提示時間の過小評価は、背側線条体

GABA-A受容体の活性化により生じることが明らかになった。上述のように条件性恐怖が

インターバルタイミングに与える効果にはBLAが関与することが示された。しかし、BLA が他の脳部位にどのように働きかけることで、条件性恐怖がインターバルタイミングに影 響するかは不明であった。第5章では、背側線条体のGABA-A受容体活性化の効果を、時間 弁別課題と音高弁別課題を用いて検討した。これらの課題ではラットに条件性恐怖は喚起

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されなかった。その結果、GABA-A受容体作動薬ムシモール投与は時間弁別課題の成績を 障害したが、音高弁別課題の成績には一切影響しなかった。この結果は、背側線条体がイ ンターバルタイミングにおいて重要な役割を果たすことを示唆している。特に、適度な濃 度のムシモール投与(25 ng)によって時間弁別課題において時間の過小評価が生じた。この 結果は、第2章から第4章で示された条件性恐怖の効果と、時間の過小評価が生じたという 点において類似している。したがって、条件性恐怖を喚起する刺激の提示時間の過小評価 は背側線条体GABA-A受容体の活性化によって生じている可能性がある。第6章では、条件 性恐怖を喚起する刺激の提示時間の過小評価における背側線条体GABA-A受容体阻害の効 果を検討した。その結果、GABA-A受容体阻害薬ビククリン投与は用量依存的にCS+の提示 時間の過小評価を抑制した。この結果は、条件性恐怖を喚起する刺激の提示時間の過小評 価には背側線条体GABA-A受容体の活性化が必須であることを示唆している。第7章では、

条件性恐怖を喚起しない時間弁別課題における背側線条体GABA-A受容体阻害の効果を検 討した。その結果、GABA-A受容体阻害薬ビククリンはいかなる効果も与えなかった。した がって、第6章で得られた結果は、背側線条体GABA-A受容体阻害による条件性恐怖喚起と は無関係な変化が原因で生じたのではないことが示唆された。

第8章では、条件性恐怖がインターバルタイミングに変化を生じさせる神経メカニズム のワーキングモデルを提供した。まず、CS+提示によってその情報がBLAに入力される。次 に、BLAから背側線条体への興奮性投射(Kita & Kitai, 1990; Kelly et al., 1982; Wall, DeLa Parra, Callaway, & Kreitzer, 2013)が背側線条体の中型有棘ニューロン(medium spiny neuron; MSN) とGABA作動性介在ニューロン(fast-spiking neuron; FSN)にそれぞれ到達する。ところが、

FNSによるMSNへの抑制性神経伝達がMSNのGABA-A受容体を活性化させることでBLAか らMSNへの興奮性入力によるMSNの神経活動抑制が抑制される。その結果、最終的に時間 の過小評価が生じると想定した。この仮説は、本論文で得られた結果を現時点において統 合的に説明することができる。ただし、BLAから背側線条体へのグルタミン作動性の投射 は少なくともMSNに到達していることは報告されているが(McDonald, 1996)、FSNにも同様 に投射が到達していることや、条件性恐怖の喚起によって背側線条体MSNのシナプスにお いてGABA放出量が増加するのかを本論文では確かめておらず、推測の域を出ない。BLAの 投射先や背側線条体GABA-A受容体と条件性恐怖がインターバルタイミングに与える効果 について、今後より詳細な検討が必要である。

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