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日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム : 小 泉自公政権"独裁"と翼賛メディア

著者 浅野 健一

雑誌名 評論・社会科学

号 77

ページ 149‑217

発行年 2005‑10‑20

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011868

(2)

ファシスト小泉首相とメディア

自分の政党もまとめられない人間が︑国をまとめられるはずも

ない︒何の苦労も知らない三代目の衆議院議員の小泉純一郎氏

は︑仕事もしていなのに会社から賃金をもらっていた男で︑年金

をまともに払ったこともなかった︒小泉氏は年金不正について謝

罪もせず﹁人生いろいろ︒会社もいろいろ﹂と言い放った︒

一人の男のわがままと︑米国資本の言いなりで︑壮大な無駄遣

いの総選挙が二〇〇五年九月一一日行われ︑自民党が大勝した︒

﹁官﹂を批判する政党が︑元官僚を担ぎ出しているのはマンガ

だった︒企業メディアが

!小泉劇場

"を演出するばかりで︑小泉

自民党・公明党を監視できないのは︑情けないことである︒

血税を浪費した総選挙の結果は︑日本が大日本帝国の無条件降

伏から六〇年たって︑はっきりファシズム国家になったことを示 した︒首相官邸が︑立法︑司法権力を抑え︑ほぼ全権を掌握する

独裁体制を確立した︒健全な反対党が存在しない︑大政翼賛体制

の完成だ︒世界で最も危険な国の一つになった︒

小泉自民党を勝たせたのはばく大な資金を受け取ったPR会社

の電通︑博報堂に統制・操作された

!御用

"マスメディアと創価

学会の政治部隊︑公明党である︒公明党は小泉政治を百%支持す

ると表明して恥じなかった︒平和︑人権の党是はどこに行ったの

か︒

日本国民は︑過去四年間︑何の改革もなしえず︑専守防衛のは

ずの自衛隊をイラクの多国籍軍に参加させ︑靖国神社参拝を強行

してきた小泉氏に︑白紙委任状を渡してしまった︒

小泉氏は︑米国と霞ヶ関の官僚の言うとおりしてきた政治家で

ある︒﹁官から民﹂と宣伝しながら︑東京大学法学部卒の霞ヶ関

キャリア官僚の片山さつき氏らが自民党から立候補するというの

︹ 研 究 ノ ー ト ︺ 日 本 帝 国 全 面 降 伏 六 〇 周 年 と ジ ャ ー ナ リ ズ ム

│ │ 小 泉 自 公 政 権

! 独 裁

" と 翼 賛 メ デ ィ ア │ │

浅 野 健 一

― 149 ―

(3)

は到底理解できない︒

自民党︑民主党︑公明党は選挙後に︑憲法と教育基本法の改悪

を企んでいる︒憲法第九条を骨抜きにし︑共謀罪を導入して︑い

つでも侵略戦争ができる国にしようとしている︒武器輸出をでき

る国にという経団連の強い要望が背景にある︒

小泉首相が八月八日参議院での郵政﹁改革﹂法案の否決を受け

て解散した後の記者会見を見て︑彼の目が異様に見えた︒自分が

総裁を務める政党をまとめることができなかったからといって︑

衆議院を解散するというのは︑立法権力を無視する行動だった︒

ところが︑テレビに登場する福岡政行・立命館大学客員教授ら

の御用学者︑文化人︑自称ジャーナリストたちは︑彼の行動を

﹁筋が通っている﹂などと高く評価した︒作家の林真理子氏は︑

小泉氏のこの記者会見に感激したとまでコメントしている︒私は

小泉氏に全く好感をもたなかった︒

浅野ゼミ一回生︑岡村優里さんの﹁初めての投票緊張と戸惑

い﹂と題した投書が︑八月二二日の朝日新聞東京本社版﹁声﹂欄

︵一二ページ︑オピニオン︶のトップに掲載された︒大阪︑名古

屋︑西部各本社も載せた︒

︽初めての投票︑緊張と戸惑い大学生岡村優里︵京都市西京

区二〇歳︶

衆議院が解散しました︒五月に二〇歳になった私の初めての選

挙は︑九月一一日に投開票が行われる総選挙です︒双子の妹と︑

﹁衆院選なんて大きな選挙やね﹂﹁ローカル選挙からデビューした かったわ﹂と話しています︒

郵政民営化法案の採決が行われた参議院本会議をテレビで興味

深く見ました︒その後のメディアの騒ぎ様も見ています︒政権交

代がささやかれていますし︑小泉首相の反対派つぶしに驚きまし

た︒なんだか大変なことになっているこの選挙に緊張します︒

私は郵政民営化よりもっと急いで取り組まなくてはならない問

題が多々あると思っています︒例えば外交や社会保障︒また︑私

の友達は国籍取得について悩んでいます︒だから郵政民営化に対

する候補者の賛否もさることながら︑その他の問題への取り組み

方に注目したいのです︒

まだ二〇歳になっていない友達から﹁投票に行けよ﹂というメ

ールが届きました︒初めての選挙で戸惑うことも多いけれど︑も

ちろん行きます︒︾

日本のマスメディアは︑一回生の岡村さんが持っている問題意

識を持てず︑﹁コイズミ的を問う﹂︵TBS﹁ニュース

23﹂︶など

と︑争点を誤まった方向に誘導した︒

テレビに出る文化人は﹁小泉首相は誰の助けも借りずに政治家

になり︑首相になったから強い﹂﹁派閥を壊し︑族議員を弱体化

した﹂などと小泉氏を持ち上げた︒

小泉氏は三代目の﹁親の七光り﹂政治家であり︑慶大卒業後︑

ほとんど労働した経験もなく︑元防衛庁長官の父親の急死で︑政

界に出た︒彼一人の力で政治家になったというのは虚偽だ︒ま

た︑確かに旧田中派などの非主流の派閥は弱体化したが︑森派と 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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二階グループだけが拡大した︒小泉氏は森派の一員であり︑大蔵

族議員である︒何より︑ブッシュ米政権が全面的に後押ししてい

る︒

九・一一衆議院選挙では︑憲法改悪︑イラク派兵︑靖国参拝に

抗い︑人民が主権者であるとの自覚を持って日本の政治を変えな

ければならなかったが︑そうならなかった︒

公務員を減らすなら︑自衛隊︑公安警察︑公安調査庁︑高級官

僚を削減すべきだ︒地方自治を拡充するのも大切だ︒

小泉自民党を支えているのが霞ヶ関の国家公務員と大企業であ

ることを︑市民は知らされない︒メディアが報道しないからだ︒

自公民は政党としての体をなしていないのに︑政権政党として

持ち上げる︒

小泉政権はメディアを使ってヒトラー式の大衆操作術を取り入

れ︑一九四二年に東條英機首相が操った翼賛選挙の手口・手法を

真似て圧勝した︒

メディアは︑苦労して働く人たちが︑報われる社会にするよう

に努力しなければならない︒株で大金をもうけるような連中と︑

地主︑医師︑高級官僚など特権階級だけが利益を得る仕組みを変

革する側に立って報道すべきである︒額に汗している人たちが主

体の政治をつくるために提言すべきだ︒

今回の選挙では︑上智大学の猪口邦子教授が自民党から出馬し

たことが最も分かりにくかった︒彼女は国連軍縮会議大使とし

て︑日本の自衛隊のイラク派兵に批判的だった︒猪口教授は〇三 年一月︑NHKラジオで﹁海外で︑日本が湾岸戦争以降︑自衛隊

を出さないから恥をかいたとか言っている人はいない︒そういう

ことを言うのは︑外務省・自民党の一部の人たちだけだ﹂と断言

した︒猪口教授がなぜ自民党を選んだのかの説明が全くない︒ま

た︑財務省の管理職の官僚がなぜ︑自民党員になるのかも全く分

からない︒権力を握りたいだけなのか︒

米国も含め海外では郵便局はほとんど公営だ︒ニュージーラン

ドは民営化したのを最近︑公営に戻した︒

小泉首相の﹁改革﹂とは︑郵便貯金・保険にたまっている約三

四〇兆円の資金を︑イラク戦争をやっている米国金融資本に差し

出すということだ︒その金が米国資本にすべて流れるのは間違い

ないし︑そのために米国=日本の権力者は﹁改革﹂をすすめてい

るのだ︒東大法学部閥の解体︑マスコミの変革も必要だ︒

何でも民営化すればいいというのは︑ブッシュ大統領ら米国の

新自由主義という名の原理主義である︒北欧諸国は銀行を国有化

して成功している︒欧州のほとんどの大学は税金で運営されてい

る︒国有というより︑税金で運営統制し︑効率化をよくすること

は国有︑公有でもできる︒

今度の選挙ではまず︑憲法改悪を阻止する政治勢力を伸ばすこ

とだった︒ところが︑与党だけで憲法改悪を発議できるようにな

った︒憲法改悪のための国民投票法案が準備されている︒九月二

二日︑自公民の圧倒的多数で衆院に憲法調査特別委員会を設置し

た︒

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日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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税金を市民のために使うのなら︑問題ないのだ︒日本は大企業

には税金を免除し︑年収一︑〇〇〇万円以上の家庭が︑暮らしや

すい仕組みをつくってきた︒年収五〇〇万円以下の市民は︑今の

世の中をひっくり返すべきだった︒

日本は﹁戦争をする国﹂へと向かっている︒首相の企む軍国主

義化に抗って︑日本の政治を変えなければならない︒

総選挙での小泉首相の圧勝に︑ブッシュ米大統領は﹁小泉首相

は大胆な指導者であり︑よい友人だ﹂と絶賛したが︑米国で最も

信頼されているニューヨーク・タイムスは投票の四日前の九月七

日︑﹁なぜ日本は一党に統治されることに満足なのか﹂と題する

特集記事で︑次のように論じた︒

﹁世論調査が正確であれば︑半世紀の間続けて日本を統治して

きた自民党は︑日曜日に実施される総選挙の大勝利に向けて前進

している︒これによって︑他の民主主義国に見られる一党から別

の党への権力の定期的な交代が行われる︑新たな政治の時代のス

タートを再び遅らせることになろう︒

日本の民主主義体制は東アジアにおいて最古だが︑政権党は︑

中国︑北朝鮮の共産党とほとんど同じくらい長期間権力を掌握し

ている︒南朝鮮や台湾の民主主義体制の歴史は日本より短いが︑

既に政権政党の交代を何度か経験しており︑生気にあふれる市民

社会から強固で独立した報道機関まで︑民主主義を支持している

点で︑日本よりも栄えているように見える﹂

﹁権力の変化という歴史を持たないため︑マスメディアは自民 党の路線に固執する傾向がある︒報道機関は︑小泉氏の対アジア

政策︑あるいは︑イラクへの派兵など︑投票の際︑自民党に損失

を与える争点を無視した﹂

また選挙後の一三日︑﹁日本指導者の勝利後に﹃さて︑次に何

が来るのか﹄の不安﹂と題した社説で︑郵政民営化だけを争点と

した総選挙結果について懸念を表明した︒社説は︑﹁選挙戦でア

ジアの近隣諸国との関係悪化についての外交政策についてほとん

ど取り上げられなかった︒小泉氏の圧勝は︑有権者が中国や韓国

に対する政府の強硬な姿勢を支持したか︑大目に見たかのどちら

かであることを示唆している﹂と指摘︒また︑﹁小泉氏が日本国

外のことで︑委託された権限を使うことはほとんどないと見られ

る中で︑中国と南朝鮮には一般的に言って警戒心がある﹂と述べ

た上で︑ソウルの大学教授の﹁韓国との関係はさらに悪化するで

あろう︒日本は右により速い速度で進み︑平和憲法を改定すると

思われる﹂などというコメントを引用した︒

また︑人民日報は﹁議席の多数を占めたことで︑小泉首相の発

言力が増すであろう︒しかし︑選挙結果は︑重要な戦犯を含む戦

死者が祀られている靖国神社に小泉氏が参拝することを︑必ずし

も︑有権者が支持したことを意味するわけではない﹂などとした

論説を載せたと紹介した︒

このほか︑﹁刺客︑口紅忍者を使った小泉の勝利=民主主義の

損失﹂︵ドイツ︶﹁外見優先︑その異端っぽさを売り物にする大衆

迎合的なスタイルで︑保守主義への回帰を果たした﹂︵フランス︶ 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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などと欧州でも批判的に論評されている︒

また韓国の主要紙は九月一二日︑一面トップで自民党の圧勝を

伝える中で︑﹁与党が改憲ラインを超える﹂︵東亜日報︶という見

出しを掲げた︒他紙も﹁全議席の三分の二を獲得して︑右派色が

強化され︑憲法改定し︑軍国主義化する危険性がある﹂と報じ

た︒

靖国神社をカルトと見なす米メディア

二〇〇五年は日本の台湾武力併合から一一〇年︑朝鮮への実質

的な侵略の一〇〇周年に当たる︒また大日本帝国の全面降伏六〇

周年でもある︒この節目の年に︑日本のメディアは﹁侵略の過

去﹂にどう向き合ったのかを検証したい︒

米国の首都にある第二の新聞︑ワシントンタイムズは七月二八

日付で︑﹁怒りを招く東京の神社﹂という見出しで︑小泉純一郎

首相の靖国神社参拝問題を取り上げて︑﹁日本の首都の真ん中に

ある靖国神社は︑現代のベルリンの中心部にナチス・ドイツのア

ドルフ・ヒトラーの神社があるのと同じぐらい︑全く想像もでき

ないことである﹂などと報じた︒

この特集記事を書いたのは同紙にストリンガーとして記事を書

いている神林毅彦記者︒当初は八月一二日付に出稿予定だったの

だが︑同紙編集責任者から︑﹁記事を早めに送信してほしい﹂と

いう連絡があり︑二週間早い掲載になった︒しかも米紙ではフロ

ントページ扱いの二面に載った︒本社から写真記者も来日し︑靖 国神社に関する写真を載せた︒

記事は靖国神社の歴史を紹介し︑四年連続して強行された小泉

首相の靖国参拝が日本にかつて侵略されたアジア太平洋諸国︑と

りわけ中国︑朝鮮から激しい反発を招いていることを指摘した︒

また︑記事は靖国神社の太平洋戦争歴史博物館﹁遊就館﹂の展示

物や記録映画で︑日本軍の真珠湾攻撃について︑﹁ルーズベルト

の謀略は功を奏した﹂などと主張していることを紹介︒最近台頭

してきた国家主義的な文化人が極東国際軍事裁判を﹁戦勝国の正

義による裁判﹂と決め付け︑﹁米国の原子爆弾投下︑東京大空襲

も裁かれるべきだった﹂などとコメントしている︒

この記事を読んだ知人の日本人記者が︑﹁なぜ八月一五日の前

でなくて広島の前に出したのか︒こういう記事を広島の前に書く

から︑米国人は原爆投下という犯罪を真剣に考えなくなるのだ﹂

と抗議してきたという︒

神林記者は︑﹁なんでこのタイミングで出たか﹂と批判される

まで︑気が付かなかったが︑ニューヨークタイムズ︑ボストング

ローブなどの有力紙も︑靖国問題と日本のナショナリズムを関係

付けた長文記事を載せている︒米メディアは︑広島︑長崎の原爆

投下から六〇周年の八月六︑九日の前後に︑国際的な反核運動が

盛り上がることを予想して︑日本のアジア太平洋への侵略戦争の

罪悪を強調して︑﹁原爆投下は止むを得ない選択だった﹂ことを

宣伝しようとしたと思われる︒

この記事が出た日のホワイトハウスのマクレラン報道官の記者

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日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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会見で︑米国人と思われる記者︵ホワイトハウスのインターネッ ト上のHPで︑名前は“Les”としか分からない︶が﹁後︑約二週

間で日本が降伏してから︑六〇周年を迎える︒今朝︵七月二八

日︶のワシントンタイムズには︑靖国神社に関する詳しい記事が

掲載されていた︒歴史家のなかにはベルリンのドイツ・ナチス党

のための神社に例えている人もいる︒そこで私の質問なのだが︑

大統領は︑八月一五日に小泉首相が東條英機と他一三人の戦犯が

祀られている神社に参拝をしないのが懸命だと考えているのだろ

うか︒それとも︑我々は︵フィリピンでの激戦地︶バターン死の

行進のことを忘れてしまうべきなのであろうか﹂と質した︒

報道官は﹁この問題はたしかにその地域内で神経質になってし

まうものだ︒しかし︑この場でそのことに関してコメントはでき

ない︒大統領と小泉首相との関係は良好だ︒そして︑大統領はそ

のことに感謝している﹂と答えた︒記者は再び﹁しかし︑大統領

は小泉氏がこの日本の戦犯たちに関わるべきではないと考えてい

ないのだろうか﹂と質問︒報道官は﹁今お話ししたように︑私は

この問題に関してのコメントはできない﹂と回答した︒

﹁米政権は︑なぜ︑小泉首相の靖国参拝を批判しないのか﹂と

いう神林記者の問いに︑複数の米紙ジャーナリストは﹁日本は米

国のいいカモになっているからだ︒経済も軍事も米国のいいな

り︒二〇年間前から狙っていた郵便貯金︑郵便簡易保険も差し出

すのだから︑靖国やナショナリズムのことは目をつぶっているの

だ﹂と答えたという︒ 安倍晋三自民党幹事長代理など極右政治家は︑東京裁判を正当

と認めない︒彼らは国連人権委員会が認定した日本軍慰安婦︵性

奴隷︶の存在も否定する︒米国など第二次世界大戦の戦勝国がつ

くった国連の依拠する歴史観︑世界観を完全否定しながら︑その

米国から言われるままに︑自衛隊をイラクへ派兵し︑国連決議が

あれば米国をアシストするため自衛隊︵憲法改悪後に﹁自衛

軍﹂︶をどこにでも派兵するというのだ︒

ウトロで降伏=光復記念日を迎える

七月二三日︑京大会館で﹁日高六郎さんを囲んで〜フランスか

ら見た日本〜﹂と題した講演会が開催された︒日高氏は﹁映画

日本国憲法﹂にも登場し︑憲法について熱く語っている︒

八八歳の日高氏は講演で︑最近の憲法改悪の動きや高まる偏狭

なナショナリズムの動きを阻止するよう訴えた︒また︑日本では

市民が政治を変えたことがないと指摘し︑﹁人民が主権者として

闘うべき﹂と呼び掛けた︒恩師の一人である日高氏の呼び掛けに

こたえて︑私も闘いを続ける︒

私は今年の八・一五を京都市宇治市伊勢田町五一番地︵通称ウ

トロ︶で迎えた︒戦時中に計画された軍用飛行場建設に従事する

ため強制徴用された朝鮮人労働者を起源に持つ集落だ︒現在は約

六五世帯︑二百人あまりの在日朝鮮人が生活している︒日本政府

は全面降伏後︑住民を放置して︑土地所有者から土地明け渡しを

求められている︒ 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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日本の﹁戦後処理﹂問題であることが︑昨年から韓国政府にも

認識され︑韓国政府高官が相次いでウトロを訪問している︒

また︑七月五日には国連人権委員会特別報告者︑ドゥドゥ・デ

ィエン氏がウトロを視察︑窮状を訴える住民の声に耳を傾けた︒

フリージャーナリストの澤竹大輔氏によると︑ディエン氏は国

際人権委員会︱現代的形態の人種主義・人権差別・外国人排斥お

よび関連する不寛容に関する特別報告者で︑視察後に記者団に見

解を問われた同氏は︑﹁これは住民と日本政府︑国民が協調して

解決していくべき問題だ︒報告書なり勧告が住民に対する支援に

つながることを望んでいる︒ここには在日韓国人・朝鮮人に対す

る差別が集積されている︒戦後︑放置されたことで深刻な問題が

発生した︒日本のような近代的な国でこのような光景を目にする

のはショックだ﹂と述べた︒

ウトロでは八月一五日夕︑﹁戦後六〇年・ウトロ発︱新しい未

来へ﹂が開かれた︒在日朝鮮人の若者による父親が朝鮮半島出身

の歌手新井英一さんのチャリティーコンサートもあった︒

このイベントは日本帝国主義の支配からの解放を祝う光復節に

合わせて町内会と﹁ウトロを守る会﹂などの支援団体が企画し

た︒在日本大韓民国民団や在日本朝鮮人総連合会などの在日朝鮮

人組織も協力した︒

金教一町内会長は開会のあいさつで︑﹁ウトロの居住権を守る

運動はまだ道半ばだ︒今後も各界の支援をお願いしたい﹂と話し

た︒支援者からは︑ウトロ問題は居住権の問題であると同時に植 民地からの解放という歴史問題でもあるという指摘が相次いだ︒

会場に来ていた康慶南さん︵一九二五年生まれ︶は一九四五年

に両親と共にウトロに来てからずっと住んでいる︒﹁日帝時代に

甥が日本人に殺された︒朝鮮人にはそうした過去がある︒戦争は

絶対にやってはいけないが︑日本は何だかきな臭くなってきた﹂

四二年からウトロに住む文充子氏は﹁ここ以外に住むところは

ない︒立ち退き阻止のために皆さんの協力をお願いしたい﹂と訴

えた︒

ウトロ問題は韓国でも関心を集めている︒韓国の文化放送︵M

BS︶が会場から生中継した︒前日から現地に入ったディレクタ

ーは﹁民族の解放後六〇年︑国内外で問題を抱える同胞に焦点を

あてる企画の一つとしてウトロを選んだ﹂と語った︒MBSのド

ラマに出演する俳優たちがウトロ支援募金を呼び掛けている︒

韓国の中央日報ネット版は八月一五日︑﹁日本政府︑ウトロ強

制徴用朝鮮人問題に誠意を見せよ﹂という論説を掲載した︒李長

煕︵イ・ジャンヒ︑韓国外国語大学法学部教授︶が執筆したこの

記事は﹁日本の植民残滓がまだ清算されていない代表的事例の一

つが︑まさに日帝によって強制徴用された朝鮮人たちの村である

ウトロに暮らす朝鮮人の生存権問題だ︒︵略︶強制徴用にあって

苦痛を経験しているウトロ住民の生存権問題のような日帝植民地

被害者問題を放置していては真の光復︵解放︶とはいえない︒そ

の上︑今年は韓日国交正常化四〇周年になる年だ︒韓日両国政府

は両国間の友好関係や最小限の人権保護というレベルで︑見放さ

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日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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れたウトロ朝鮮人の悲惨な非人間的な生活に関心をもち︑彼らの

要求に耳を傾けなければならない﹂と述べている︒

また︑﹁韓国市民社会が自ら乗り出した﹃ウトロを救う希望の

募金キャンペーン﹄は︑韓日間の悲しい歴史を清算し︑ウトロ住

民と痛みをともに感じることで日本政府に大きな道徳的圧力を与

えることになるであろう︒解放六〇周年を迎え︑真の和解と正し

い過去の清算のために日本政府が﹃ウトロを救う﹄ために誠意を

見せてくれることを願う﹂と訴えた︒

日本国内の最後の強制徴用村ウトロで史上初の強制撤去が始ま

りそうで緊張している︒

日本政府がウトロ問題を放置してきたため︑現土地所有権者が

八月二二日︑京都地方裁判所に強制撤去執行を申し立て︑三〇

日︑京都地方裁判所執行官約二〇人がウトロ強制撤去準備のため

ウトロ入りした︒執行官らは該当家屋に建物撤去︑土地明け渡し

など強制撤去予定の通知を送った︒強制撤去予定日は九月二七日

だったが︑強行されていない︒

原爆投下六〇周年の広島で考えた

八月六日午後︑広島に入った︒広島の原爆による犠牲者は〇五

年︑二四万人を超えた︒長崎の原爆による死者を合わせると三〇

万人を超す︒

平和記念式典における秋葉忠利市長の平和宣言はイラクでの戦

争にも触れて︑超大国の核保有を批判した︒日本の過去における アジア太平洋諸国への侵略責任にきちんと言及した河野洋平衆議

院議長のあいさつはよかった︒

テレビ各局を見たが︑NHKなどは小泉首相らのあいさつで打

ち切った︒BBCワールドだけが中継を続けた︒日本のメディア

は河野氏の発言を全く報じなかった︒

小泉首相は式典で﹁原子爆弾の犠牲者の御霊に対し︑謹んで哀

悼の誠を捧げます﹂とあいさつし︑﹁国際社会の先頭に立ち︑核

兵器の廃絶に全力で取り組んでいく﹂と誓った︒日本にいる在日

米軍に核兵器が配備されていないのか︒自民党内の極右勢力の中

に︑日本も核武装すべきだという意見があることを放置していい

のか︒

首相は総選挙のことで頭がいっぱいで︑心ここにあらずという

感じだった︒四年連続︑原爆被害者との会合を欠席して広島市を

去った︒中国新聞と地元テレビは首相の冷淡さを批判したが︑東

京のメディアにはそうした視点はない︒

広島市の広島平和記念資料館では︑﹁強制的︑半強制的に連

行︑徴用された﹂朝鮮人が数万人犠牲になったと指摘した展示も

あった︒ところが︑国立広島原爆死没者追悼平和祈念館にある

﹁平和祈念・死没者追悼空間﹂へ通じるスロープに︑﹁当時日本の

植民地下にあった朝鮮半島から半強制的に徴用された﹂朝鮮人も

被害に遭ったと記述していた︒

こうした記念館の展示に欠けているのが︑なぜ日本はアジア太

平洋諸国を侵略してしまったのかという視点だ︒ 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

― 156 ―

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八月四日の朝日新聞社説は﹁原爆投下六〇年孫の世代に記憶

を伝える﹂と題して︑﹁いま全国に二六万六千人余の被爆者が暮

らす︒平均年齢は七三歳に達した︒/やがて︑惨禍を体験した人

がいなくなる日が必ずやってくる︒その時には︑さらに困難な風

化とのたたかいが始まるのではないか︒/だからこそ︑いまのう

ちに孫たちの世代に記憶を伝え︑残していかなければならない︒

永井さんを突き動かしたのも︑体験を語り継いでいってほしいと

いう思いである﹂と書いた︒

毎日新聞は八月五日の社説で次のように書いた︑

﹁核廃絶の原点に立とう﹂と題して﹁一瞬のうちにすべてのも

のを焼き尽くす核兵器は︑人類そのものを死滅させかねない︒そ

の危うさを知りながらも︑核を保有しようとする国は今も増え続

けている︒/東アジアでは核の脅威が高まっている︒北朝鮮が核

保有政策をとり︑中国が核を含めた軍事力を強化している︒/国

際政治の過酷な現実に核廃絶を訴えることの無力感にとらわれ

る︒だが︑この間︑核兵器のボタンが一度も押されなかったのも

事実だ︒広島・長崎の惨禍が広く知られたことでその使用が押し

とどめられたといえる﹂

ここにも︑日本が原爆投下まで侵略戦争を続け︑アジア太平洋

の無辜の人々を死に至らしめ︑一つの結果として原爆投下があっ

たことには言及されていない︒日本に入港する米空母などに核兵

器が搭載されている事実や日本の極右政治家が﹁自主憲法﹂で核

武装を構想していることは忘却されている︒ 読売新聞は八月五日︑﹁被爆六〇年反核の訴えは現実を直視

せよ﹂と題した社説でこう書いた︒

﹁六日の広島原爆忌の平和宣言で︑秋葉忠利市長は︑核廃絶の

目標年次を二〇二〇年とする行動計画を柱とした主張をする︒国

連に対し︑今秋︑特別委員会を設けるとともに︑一〇年までに具

体的な取り組みを策定するよう求めるという﹂

﹁国際社会へ被爆の実相を発信することは︑被爆国︑日本の重

要な役割だ︒国や自治体が連携し︑海外の原爆展開催や大学の交

流︑各国外交官への広報活動などをさらに広げる必要がある︒/

反核の世界大会は今年も︑共産党系の原水爆禁止日本協議会︵原

水協︶と旧社会党系の原水爆禁止日本国民会議︵原水禁︶の分離

開催となった︒/今なお政治的党派性をぬぐえない反核運動の現

実と限界を示すものだ︒戦後六〇年の節目に︑改めて反核運動の

原点を考えるべきではないか﹂

広島支局の記者も解説記事で反核運動における﹁党派批判﹂を

行っていた︒反核運動の側にも問題はあるだろうが︑平和憲法を

持つ日本が核超大国の米国と軍事同盟を結んでいることこそが問

題ではないか︒

日本経済新聞は八月五日︑﹁戦後六〇年を超えて︱ヒロシマの

教訓生きぬ核拡散の現実﹂という社説で︑﹁被爆六〇年のこと

し︑ヒロシマは核の破壊力の残忍さを世界に改めて発信すべき時

である︒平和記念資料館の展示を見れば核兵器の怖さは抽象論で

はない︒すべての核保有国︑それを持とうと考える国の指導者が

― 157 ―

日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

(11)

ヒロシマの現実を見てほしい﹂などと書いた︒

産経新聞は八月七日の﹁主張﹂︵社説︶で﹁原爆投下六〇年

占領史観から脱却しよう﹂と題して︑﹁原爆投下で謝るべき国は

日本ではない﹂﹁秋葉氏や河野氏がいまなお︑謝罪の呪縛にとら

われているとすれば︑残念﹂と書いた︒

﹁原爆は通常の戦争犯罪と異なり︑一瞬にして多くの非戦闘員

の命を奪った非人道的な行為である︒だが︑戦後︑GHQ︵連合

国軍総司令部︶は原爆投下に対する日本国民の批判を極力封じ込

めようとした﹂

﹁原爆に対する屈折した見方は︑日本が主権を回復した後も根

強く残り︑前長崎市長の﹃原爆容認﹄発言や︑原爆投下をやむな

しとする教科書記述となって現れている︒

九日には︑長崎でも戦後六〇年目の原爆の日を迎える︒原爆投

下についての歴史認識も含め︑﹃すべて日本が悪かった﹄式の占

領史観から脱却すべきである﹂

産経の論説委員は︑本島等・元長崎市長が問うた﹁原爆投下を

招いた原因﹂を一度でも考えるべきだ︒日本がアジア太平洋の非

戦闘員に﹁投下﹂した無数の非人間的な爆弾についても考えるべ

きだ︒

降伏六〇年︑翼賛新聞の社説

日本帝国主義が無条件降伏してから六〇周年の八月一五日︑靖

国神社周辺で右翼団体と抗議行動の参加者の計八人が逮捕され た︒容疑は公務執行妨害だった︒

八月一六日の毎日新聞東京都内版に﹁靖国周辺などで活動家ら

八人逮捕公務執行妨害容疑﹂という見出し記事が出た︒記事は

右翼団体員の側の容疑事実をこう書いた︒

﹁右翼構成員二人は午後二時ごろ︑文京区内で開かれた反天皇

制を主張する過激派の集会に対して街宣した際︑警備中の機動隊

員の左足を殴るなどした疑い﹂

朝日新聞は社会面で﹁過激派・右翼八人を逮捕公務執行妨

害の疑い﹂との見出しで︑次のような記事を載せた︒

﹁靖国神社周辺で一五日︑機動隊員の警備活動を妨害したなど

として︑警視庁は過激派の活動家とみられる男六人と右翼団体の

構成員の男二人を︑公務執行妨害や器物損壊の疑いで現行犯逮捕

した︒活動家とみられる六人は黙秘しているという﹂

読売新聞は第三社会面で﹁﹃靖国参拝﹄で極左右翼計八人を

逮捕公務執行妨害など﹂との見出しの記事で︑﹁別の過激派活

動家四人が機動隊員の頭をプラカードで殴るなどした﹂などと書

いた︒

ここにある﹁反天皇制を主張する過激派の集会﹂とは︑東京都

内で開かれた天皇制の戦争責任を問う集会で︑この集会では例

年︑靖国神社周辺でのデモと併せて企画されている︒昨年︑私は

記念講演を行った︒

この集会に参加した中嶋啓明・共同通信記者は﹁週刊金曜日﹂

八月二六日号で︑﹁記事にある﹃反天皇制を主張する過激派の集 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

― 158 ―

(12)

会﹄とは︑私が参加していた集会のことだろう﹂﹁普段の警察の

姿勢から︑被逮捕者らは狙われたんだとの疑念を消すことはでき

なかった﹂﹁﹃警備活動﹄の現場でいったい何が行われているの

か︑市民の正当な表現活動がいかに蔑ろにされているか︒現場に

立つことのないマスメディアの記者らは考えてみようともしない

ようだ﹂と論じた︒

これらの記事を書いた記者たちは︑﹁過激派﹂が﹁機動隊員の

頭を殴るなどした﹂という現場を見たのか︒朝日新聞長野総局の

記者の虚偽メモが問題になっているが︑公安警察から得た情報

を︑﹁逮捕された側﹂から取材もせず︑垂れ流す記事は︑悪意あ

る捏造記事だと思わないか︒

被逮捕者四人の救援会は﹁裁かれるべきは︑プラカードを掲げ

る市民ではなく︑市民を圧迫する者です︒戦争反対を訴える市民

がいったいどれだけ﹃過激﹄なのか︑警察は﹃過激﹄でないの

か︑本当の﹃過激派﹄は誰なのかを︑私たちは問うていきたいと

思います﹂などと抗議声明を出した︒

小泉首相は郵政改悪で﹁公務員﹂を敵視し︑公務員の削減を叫

んだが︑日本で最も不要な公務員は公安警察と公安調査庁であ

る︒自衛隊員の削減もすぐにできる︒

小泉首相は八月一五日︑敗戦後六〇年にあたっての談話を発表

した︒一〇年前の村山富市首相の談話と同様に﹁かつての植民地

支配と侵略によってアジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与え

た﹂として﹁痛切な反省と心からのおわび﹂を表明した︒ ﹁とりわけ一衣帯水の間にある中国︑韓国をはじめとするアジ

ア諸国とは︑ともに手を携えてこの地域の平和を維持し︑発展を

目指すことが必要だ﹂との認識を示し︑﹁過去を直視して歴史を

正しく認識し︑相互理解と信頼に基づいた未来志向の協力関係を

構築していきたい﹂﹁我が国の戦後の歴史は︑まさに戦争への反

省を行動で示した平和の六〇年である﹂︒

日本の︿八・一五﹀では靖国神社を二〇万人が参拝し︑﹁二〇

〜三〇代の青年たちが目を引いた﹂︵﹃読売新聞﹄一六日朝刊︶と

いう︒一六日の読売に﹁小泉首相談話﹂と︑それに触れて︑﹁軍

国主義への回帰はあり得ない﹂と題した社説があった︒

日本の主要各紙は敗戦記念日前後にどういう社説を載せたかを

見た︒

朝日新聞の三日間にわたる社説も反動的である︒まず八月一四

日︑﹁戦後六〇年に考えるなぜ戦争を続けたか﹂と題して︑﹁あ

の戦争は︑もう一年早く終わらせることができたのではないか﹂

を論じた︒﹁最後の一年間だけで二〇〇万近い人が命を落として

いる﹂﹁損害がふえるばかりのこの時期に︑何をめざして戦い続

けたのか﹂︒

また︑﹁軍部には負けを認めぬ狂信的な一団がいた﹂などと指

摘した後︑﹁検閲があったとはいえ︑新聞も追従する紙面を作っ

た︒重い戒めとしたい﹂と書いている︒

大本営が戦争を続行したのは天皇制を中心とする国体を維持す

るためだった︒朝日が﹁敗戦﹂ではなく﹁終戦﹂と表現している

― 159 ―

日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

(13)

ことも見落としてはいけない︒

全一︑一五四字のこの社説は︑﹁一年﹂の間に︑大日本帝国が

アジア太平洋諸国の無辜の市民を殺害した加害責任について全く

言及していない︒拙著﹃天皇の記者たち﹄で明らかなことだが︑

朝日新聞も含めた大手報道機関は軍部と一体となって︑占領地で

新聞︑雑誌を発行していた︒軍部に強制されたというより︑市場

を求めて積極的に侵略行為に加担したのである︒﹁メディアの戦

争責任﹂を他人事のように扱ってはいけない︒

一五日の﹁戦後六〇年元気と思慮ある国に﹂と題した社説で

は︑﹁この間︑一度も戦争をすることなく︑経済・技術の発展は

社会を別世界に変えた︒六〇年前に比べれば︑はるかによい国に

なった﹂などと述べた︒

また︑中韓で高まった﹁反日﹂の動きについて︑﹁これは互い

のナショナリズムの悪循環だ﹂と指摘︒﹁日本のナショナリズム

にも理由はあろう︒加害の歴史を半世紀以上も責められ続け︑首

相が繰り返し謝ってきた︒それでいて︑中国ばかりか北朝鮮まで

核やミサイル開発で周囲を脅かす︒﹃加害者扱いはもういい加減

に﹄と被害者意識が広がっていたところに︑北朝鮮の拉致問題で

は本当の被害者になった﹂などと︑﹁行き過ぎた﹃反日﹄﹂を批判

した︒

日本が加害者であることを忘却して︑東北アジア各国のナショ

ナリズムの悪循環だと問題をすり替えている︒

一六日の﹁首相談話を生かしたい﹂は最悪だ︒靖国やソウルの ﹁八・一五﹂に触れた後︑こう述べた︒

﹁ナショナリズムは︑いつまでも折り合いがつかないものなの

だろうか︒なぜ中国や韓国からそれほどまでに批判されなければ

ならないのか︒この春の反日デモなどの激しさは︑逆に日本人の

間に反発の気持ちを生んだ︒

日本がまた軍事大国化し︑他国を侵略することなどあるはずが

ない︒過去の非を追及するのもいい加減にしてほしい︒そんな憤

りが︑中国や韓国に対する批判的な見方や︑うっとうしいと思う

感情を醸し出していく﹂︒

この社説は︑主語をぼやかして︑国民の誤った情緒的な歴史観

に迎合している︒朝日新聞の論説委員たちは日本の自衛隊がイラ

クの強制占領に参戦していることを忘れているのだろうか︒日本

軍慰安婦や朝鮮人・中国人強制連行の事実を認めない政治家がう

ようよいることや︑アジア太平洋への侵略を民族独立を支援した

﹁解放戦争﹂だと言い切る極右勢力が増大していることを知らな

いのか︒朝日新聞がまず監視すべきは日本政府と極右団体の危険

なナショナリズムである︒

醍醐聰・東大教授は一六日の社説についてネット新聞︑日刊ベ

リタ︵www.nikkanberita.com︶などに︑次のように書いた︒

﹁﹃日本がまた軍事大国化し︑他国を侵略することなどあるはず

がない︒過去の非を追及するのもいい加減にしてほしい﹄という

日本国内の意識を代弁している︒

ならば︑朝日社説は︑自虐史観に立って過去の侵略戦争の事実 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

― 160 ―

(14)

を歴史教科書から抹消することに執着する扶桑社教科書の採択に

向けて︑﹃つくる会﹄が全国各地でなりふり構わぬ攻勢をかけて

いる事実をどう説明するのだろうか?こともあろうに︑文部科

学大臣が﹃歴史教科書から従軍慰安婦の記述が少なくなってよか

った﹄と公言している事実をどう受け止めるのだろうか?

また︑次期首相の有力候補と目される安倍晋三氏ら﹃日本の前

途と歴史を考える議員の会﹄の政治的圧力によって︑NHKのE

TV特番から戦時性暴力に関する証言が抹殺された事実を︑今年

一月にいち早く報道したのは︑ほかでもない朝日新聞だった︒と

すれば︑朝日社説は︑自社の社会部が伝えたこの事実をどう受け

止めたのだろうか?

日本は不戦の誓いをしているというなら︑政府与党が今︑その

証ともいうべき憲法九条の改悪に執心している事実を︑朝日社説

は国内外に向けてどう説明するのだろうか?

さらに︑朝日社説は︑小泉首相が総裁選に当たって︑A級戦犯

を愛国の殉死者として奉る靖国神社参拝を公約に掲げ︑この公約

実行を政治信条としていることをどう評価するのだろうか?こ

れでも朝日社説は︑日本は﹃なぜ中国や韓国からそれほどまでに

批判されなければならないのか﹄︑﹃過去の非を追及するのもいい

加減にしてほしい﹄と言い放つ資格が日本政府にあると考えるの

だろうか?参拝の日が八月一五日かどうかをフォーカスするこ

と自体︑靖国神社参拝をパフォーマンスに利用する小泉劇場への

翼賛を意味するのも同然であることを朝日新聞は気付かないのだ ろうか?

以上のような過去・現在の一連の事実から目を背けて︑﹃民族

心﹄︑﹃うっとうしいと思う感情﹄などといった心情の次元に歴史

問題をずらすのは︑ジャーナリズムとしての理性の麻痺を意味す

ると同時に︑道徳的退廃をも意味する︒

歴史認識をめぐる問題は︑どこかで﹃折り合いをつける﹄ナシ

ョナリズムの問題ではない︒﹃朝鮮日報﹄社説が指摘するとお

り︑﹃共通の記憶﹄と﹃共通の体験﹄を前提とし︑歴史の事実を

直視して︑それに理性を手向けることによってしか︑真の和解は

ないのである﹂

醍醐教授が﹁過去・現在の一連の事実から目を背けて︑﹃民族

心﹄︑﹃うっとうしいと思う感情﹄などといった心情の次元に歴史

問題をずらすのは︑ジャーナリズムとしての理性の麻痺を意味す

ると同時に︑道徳的退廃をも意味する﹂と批判しているのは︑全

く同感である︒

朝日新聞は八月三〇日の﹁党首討論会﹂の﹁論戦二人が読み

解く﹂では︑松原隆一郎東大教授が﹁﹃憲法九条を前面に掲げた

福島党首﹄について︑﹁﹃平和憲法があれば戦争にならない﹄とい

う論理には無理があると国民みんなが思っている︒拉致問題のよ

うな事態が起きたとき︑平和憲法でそう解決するか︑という説明

が必要ではなかったか﹂と論じている︒ここには日朝間に﹁国交

があれば拉致事件は起きなかった﹂という小泉首相の認識さえな

い︒私も日本国民だが︑﹁平和憲法があれば戦争を止める根拠に

― 161 ―

日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

(15)

できる﹂と考えている︒

毎日新聞も一五日︑﹁終戦記念日とんがらず靖国を語ろう

還暦機に幼稚さから脱して﹂と題して︑日中両国が﹁レベルの高

くないナショナリズムをあおりあって︑国内政権維持に利用しあ

うのはおろかなことである﹂などと論じている︒

読売新聞は一六日︑﹁小泉首相談話軍国主義への回帰はあり

得ない﹂という見出しで︑﹁中韓両国は︑

!日本の軍国主義化

"を

批判している︒しかし︑日本が戦前の軍国主義に回帰することな

ど︑あり得ない﹂と断じた︒

海外のメディアが見た8・

15

一方︑ソウルの朝鮮日報は﹁過去を賛美しながら過去を反省す

ると言う日本﹂と題した社説で︑﹁談話が発表された日とその前

日︑中川昭一経済産業大臣をはじめ︑小泉内閣の大臣三人が第二

次世界大戦のA級戦犯の位牌のある靖国神社を参拝した︒︵略︶

与野党の国会議員四七人も︑靖国神社に行って頭を下げた︒日本

は一体なぜ︑戦争を反省するとしながら︑戦犯の位牌が祭られて

いる靖国神社への参拝を繰り返しているのだろうか︒日本は一体

なぜ︑アジア人の心にまったく響かない﹃反省談話﹄を六〇年間

繰り返しているのだろうか﹂と論じた︒

﹁日本に侵略された韓国や中国をはじめとするアジアの人々

は︑大陸への侵略︑南京大虐殺︑強制徴用︑従軍慰安婦︑731

部隊の生体解剖の残虐な歴史を体験してきた︒ にもかかわらず︑日本はこのアジア人がともに体験した歴史に

背いて︑日本が記憶したい歴史だけを取捨選択するという姿勢を

とってきた︒

反省とは︑基本的に﹃共通の記憶﹄と﹃共通の体験﹄を前提と

する︒現在︑日本が推し進める教科書歪曲は︑結局このアジア人

の﹃共通の記憶﹄と﹃共通の体験﹄を否定することだ︒

そのため︑﹃過去を賛美しながら︑その過去を反省する﹄とい

う論理的矛盾を繰り返しているのである︒

過去・現在の事実を身勝手につまみぐいするところに真の和解

はない﹂

仏紙ルモンドは八月一六日の﹁日本の孤立﹂と題する社説で次

のように論じた︒フィリップ・ポンス東京特派員が書いた︒

﹁この五月にモスクワでは欧州での第二次世界大戦の終結を記

念して︑往年の同盟国と被征服国が和解を祝って一堂に会した︒

一方アジアでは︑日本の侵略者への深い恨みのデモとともに︑そ

れぞれが自国で一九四五年八月一五日の日本の降伏六〇周年を祝

った︒アジアのどの国でも︑一九三一年に中国で始められた戦争

の終結を祝うために日本を招待することなど想像不可能であった

だろう︒

日本は︑その天皇と首相自身の声で︑再び謝罪をし︑二度と繰

り返さないことを約束した︒が︑これらの後悔がどんなに誠実な

ものでも︑三千万人近くの死者を出した歴史の悲劇のページに終 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

― 162 ―

(16)

止符を打つことはない︒敗戦後六〇年︑日本は自分自身の地域

で︑かつてなく孤立している︒中国と韓国が︑国連常任理事国の

席を狙う東京の野望に反対していることが︑この孤立をよくあら

わしている︒日本外交の悲惨な敗北である︒

二〇〇一年四月に政権について以来︑小泉純一郎首相は︑毎年

靖国神社に参拝して無用に近隣諸国との関係を悪化させてきた︒

その地には︑祖国のために死んだ者にまじって一九四八年の東京

国際法廷で有罪とされた戦争犯罪者が祭られているのである︒参

拝は︑その戦犯たちの復権と過去の絶対化として感じとられてい

る︒

小泉氏の日本は︑無条件に合州国を支持し︑自らの地域を無視

してきた︒この忠誠は︑中韓の政治的関係が強化され︑二つのコ

リアがより緊密になる一方で︑北京とソウルと東京の関係は非常

に冷えている︒

この状況が︑より不健康であるのは︑日本の世論が︑漠然と自

らの地域での優位性を中国の台頭によって脅かされていると感じ

て︑中国の反日世論によって被害者の立場に立っていると感じて

いることだ︒保守勢力の側の新植民地主義的なスローガンを受容

してしまいかねない危うさがある﹂

韓国社会に根付いたネット新聞

日本のメディアを民主化するためには︑韓国の過去一〇年の改

革から学ぶべきだろう︒独立系のインターネット新聞としては世 界最大の韓国の﹁オーマイニュース﹂︵呉連鎬=オ・ヨンホ=代

表︶は︑六月二三日から二六日まで︑創立五周年を記念した﹁世

界市民記者大会﹂を開いた︒大会にはオーマイニュース国際版に

記事を書いている世界各国の市民記者約一〇〇人︑韓国の市民記

者約一〇〇人︑外国のネット紙代表︑メディア研究者などが参加

し︑﹁より良い世界をつくるために市民記者はどう連帯すべきか﹂

をテーマに討議した︒

大会に市民記者として参加した同志社大学大学院の森類臣氏に

よると︑呉代表は開幕演説で︑﹁民主主義の核心の一つは参加型

民主主義であるが︑ジャーナリズムの歴史でそのような参加型民

主主義は長い間実現されなかった︒プロの記者は書き︑市民は読

者として読む︑そのような二分法が真理と受け止められていた︒

市民記者はこうした一方向ジャーナリズムを双方向ジャーナリズ

ムに変えた︒この新しいジャーナリズムがきちんと成長していけ

るように︑お互い励まし︑連帯することが大事だ︒世界各地で市

民参加型ジャーナリズムを実現しているすべての方に︑﹃世界市

民参加型ジャーナリズム連帯﹄をつくることを提案したい﹂と語

った︒

呉氏が四月に出版した﹃オーマイニュースの挑戦韓国﹁イン

ターネット新聞﹂事始め﹄︵大畑龍次・大畑正姫訳︑太田出版︶

は同紙の成功までの軌跡を鮮明に伝えている︒同書末尾に私は解

説を寄せている︒

六年目に入ったオーマイニュースのヒット数は現在︑一日平均

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日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

(17)

で一〇〇万件を超えている︒日本統治下から韓国にあった﹁記者

クラブ﹂︵韓国では記者団と呼ばれた︶問題で︑官庁などを相手

取り裁判闘争を展開して︑中央官庁の記者クラブを全面廃止に追

い込んだことでも有名だ︒盧武鉉大統領当選後︑最初の単独イン

タビューをものにして︑あっと言わせた︒ソウルの有力紙とテレ

ビ局が﹁オーマイニュース﹂を引用して報道することも日常化し

た︒

オーマイニュースのモットーは﹁すべての市民は記者である﹂

だ︒呉氏は﹁時間と空間の制限を受けないネットを使えば︑市民

がニュースの生産過程に参画できる︒ネットを使いこなすネティ

ズン︵netizen︶が全く新しい質のメディアをつくった﹂と胸を張

る︒

﹁ニュースゲリラ﹂とも称される市民記者は四万人おり︑一日

約二〇〇本の記事をアップしている︒その中の四〇〇人あまりが

外国の市民記者だ︒市民記者たちは︑自分の体験をもとに︑筆者

の息遣いが伝わるような記事を送っている︒記事について自由に

討論する場もある︒ソウルの本社に四五人の専従記者を含む七〇

人の社員が働いている︒アップした記事の中からいい記事を選ん

で週刊新聞も発行している︒

動画の配信も行っており︑昨年︑デジタル放送︑オーマイTV

を立ち上げた︒昨年五月から国際版︵英語︶も開始した︒

市民記者は︑小学生から大学教授︑会社員︑警察官︑軍人まで

職業も幅広い︒地方新聞記者も市民記者として︑自社で書けない 記事を送ってくる︒

原稿料はごくわずかで︑一面トップ記事なら二万ウォン︵一ウ

ォン=約〇・一円︶︑短い記事は二千ウォン︒﹁社会変革のための

言論活動だから︑原稿料は気にしていない﹂と市民記者たちは言

い切る︒﹁自分の記事がニュースとして記事になる﹂喜びが市民

記者のエネルギーの源になっている︒

記事を読んで読者が感謝の気持ちを表すために自発的に払う原

稿料制度もある︒原稿料の半分は筆者に渡り︑残り半分は市民記

者のイベントに使われる︒同紙の著名コラムニストやスター記者

の多くは︑このような市民記者から輩出されている︒

オーマイニュースを有名にしたのは︑〇〇年一一月︑高麗大学

で金永三︵キム・ヨンサム︶元大統領の講演に反対する学生デモ

を︑同大学学生である市民記者らが一七時間︑現場中継的に報道

して反響を呼んだ︒〇四年三月に起きた盧大統領弾劾事件でも︑

正確な報道と︑活発な討論の場を提供したことで市民の信頼を勝

ち得た︒

昨年一一月一三日︑仁川にある下着店を経営する女性が書い

た︑経済不況による生活苦を訴える記事は︑読者の共感を呼び五

〇万円の原稿料が彼女に振り込まれた︒

呉氏は︑延世大学国文科を卒業︒米国の大学で修士号を取得︒

一九八八年から一〇年間︑左派系の月刊誌﹁マル︵言語︶﹂で取

材記者を務めた︒韓国の民主化をリードしてきた﹁三八六世代﹂

の一人だ︒一年間︑投獄された経験もある︒三〇歳代で︑言論の 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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(18)

自由が全くなかった八〇年代にエリートの道を捨てて激しい民主

化闘争を担った六〇年代生まれの人たちのことだ︒

二〇〇〇年二月二二日にスタートしたときの社員はたった四

人︒呉氏が開いていた﹁記者入門講座﹂の卒業生三人と呉氏だ︒

三人のうち二人は学生で︑カメラパーソンは記者歴一年目の若者

だった︒呉氏の友人とIT業界で成功した人たちから一億ウォン

の融資を受けた︒

閲覧は無料︒最初の三年間は赤字だったが昨年から黒字に転じ

た︒収入の七〇%は広告で︑他メディアへの配信料︑読者からの

カンパなどで収入を得ている︒読者が増えるにつれて︑三星︵=サムスン︶︑LG︑韓国テレコムなど韓国の大企業も広告を出す

ようになった︒

設立三年目に韓国で六番目に影響力のある報道機関になり︑

﹁オルタナティブ・メディアが既成メディアになった﹂とも評さ

れている︒

世界各国でネット新聞が誕生する中で︑なぜ韓国で大成功した

のかについて︑呉氏は

漓す会社が感信不る対既にミコスマの成全

体にあり︑新しいメディアが求められていた︑

滷韓国では︑七五

%の世帯がブロードバンドを利用し︑ネット利用率が高く︑ネッ

ト環境が整備されていた︑

澆国土が適度な広さで言語も単一︑

進歩的立場を明確にして︑そのときそのときのワン・イッシュー

︵一つの社会的問題︶に集中して取材・報道する姿勢が評価され

た︱などと説明した︒ IT環境がよく技術が発達していても︑技術を使う人間がいな

ければ発展しない︒﹁双方向ジャーナリズムはインターネットの

出現のおかげで実現できた︒しかし︑インターネットが勝手に市

民の参加を保障するわけではない︒世の中をより良い方向に改革

したい市民がいるからこそ︑インターネットは立派な参加の広場

として使われるのだ﹂と呉氏は強調した︒

また︑﹁韓国では長い間︑言論の自由がなく︑民主化闘争の過

程で多くの血が流れ︑市民が犠牲になった︒軍事政権との対決

で︑地域や職場︑学園の諸問題を主体的に解決しようとする﹃準

備された市民﹄がいたから成功した﹂と振り返る︒

﹁準備された市民﹂とは︑現在の社会にどういう問題があり︑

どう改革すべきか︑他の市民とどう連帯し協力していくべきかを

認識して行動できる人たちのことだ︒

民主化を勝ち取ってきた世代は︑市民が発言し︑行動すれば世

の中を改革できると確信しており︑彼や彼女たちがネットを利用

して自発的に発言しているのだ︒

呉氏は﹁メディアは中立であるべきだ﹂という立場をとらな

い︒韓国社会における報道の構図が八割は保守的メディア︑残り

二割が進歩的メディアであるという﹁8対2﹂の構造を﹁5対

5﹂に作り変えるために︑敢えて進歩的立場で言論活動を展開す

ると宣言した︒

また︑呉氏は﹁新聞社の名前ではなく︑記者の書いた情報の質

でニュースが評価される公正な競争に基づくジャーナリズムをつ

― 165 ―

日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

(19)

くりたい﹂と強調する︒

市民が株主になって八八年に発足した﹁ハンギョレ新聞﹂やテ

レビ局はオーマイニュースの活躍ぶりを報道して︑知名度を高め

ることに貢献した︒また私見では︑呉氏と呉氏の周りに集まった

人々の人柄︑個性もネット新聞の稀有な成功を生み出した一因だ

と思う︒

既成メディアに挑戦し︑成長したオーマイニュースが存在感を

高める一方で︑オーマイニュース批判を専門にするサイトも登場

している︒大企業の広告の増加で報道に影響が出ないかという懸

念もある︒

これに対し︑呉氏は﹁オーマイニュースは︑編集局長が明日の

トップ記事に何が載るかギリギリまで分らない新聞だ︒特定企業

を批判する記事を書かないように談合するのは不可能だ︒会社の

規模が大きくなっても︑市民記者が自由に記事を書くという原則

がある限り保守化することはない﹂と反論している︒

私が呉代表に初めて会ったのは〇四年二月だった︒同年九月同

志社大で講演してもらった際︑呉氏は﹁オーマイニュース日本

版﹂の立ち上げ構想を明らかにした︒今年二月二二日︑創立五周

年の記念式典に招かれた際︑呉氏や彼の主要スタッフと︑﹁日本

でもオーマイニュース的なジャーナリズムは可能か﹂について議

論し︑大学の浅野ゼミホームページhttp://www1.doshisha.ac.jp/˜

kasano/に公開している︒

呉氏は日本人に﹁日本ではなぜネット新聞が成功しないと思う か﹂とよく質問される︒﹁日本にどれくらいの数の﹃準備された

市民﹄がいるのかが問題だ︒日本でも若い人たちを中心に芽が出

ていると思う︒ぜひ日本でも︑市民参加型のネット・ジャーナリ

ズムを立ち上げてほしい﹂と応じてきた︒

日本でも日刊ベリタ︑JANJAN︑ライブドアのパブリック

ジャーナリズムなど︑市民参加型を模索したネット新聞はある

が︑社会的影響力を十分持つには至っていないのが現状だ︒

呉氏が講演のため訪日した六月六日︑東京都内で﹁オーマイニ

ュース日本版﹂を設立するための課題について討論した︒日刊ベ

リタ代表の永井浩・神田外国語大学教授︑ジャーナリストの山口

正紀氏らとともに︑私も参加した︒

呉氏は﹁オーマイニュースが日本で新聞を作るという話をした

ら︑多くの人から︑﹃非常に難しい︒不可能ではないか﹄と言わ

れた︒第一に︑韓国は非常にダイナミックに社会が変化している

のに対し︑日本は静的で︑あまり変化のない社会だということ︒

第二に︑韓国の市民はネットに積極的で実名を明らかにしてまで

参加しているが︑日本の市民は消極的だということがあげられ

る︒したがって︑韓国のモデルを日本に適用するとき︑韓国のよ

うにはいかないだろうと︑多くの人が指摘した︒資金もあり︑多

くの読者を抱えているサイトでも︑オーマイニュース・モデルが

機能しない︒日本でオーマイニュースを作るときには︑慎重に︑

いろんな条件を考慮して進めなければならない﹂と語った︒

また︑呉氏は﹁韓国のオーマイニュースを翻訳してオーマイニ 日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

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(20)

ュース日本版にするのは簡単だが︑日本の市民記者による日本版

をつくるのに︑ソウル本社で手を貸さなければならないのか︑日

本人自らの力に任せたほうがいいのかについては︑もう一度考え

なければならない﹂と問題提起した︒

私は︑ソウルのオーマイニュース本社が中心になって︑日本版

をつくることが現実的だと思う︒二つ理由がある︒第一に︑日本

ではネット新聞がいくつか生まれたが︑うまくいかなかった︒第

二に︑オーマイニュースの編集原理には先駆性があり︑他に例の

ないメソッドを開発・展開した︒呉氏と友人たちがつくった﹁韓

国特産品﹂であり︑新しいジャーナリズムの形なのだと思う︒権

力を監視し︑人民の知る権利にこたえ︑社会を進歩させる生き生

きとしたジャーナリズムをつくるメソッドをオーマイニュースは

提供できる︒

しかしながら当然のことだが︑日本版が成功するかどうかは︑

日本語を使ってジャーナリズム活動をしている人たちの努力によ

る︒

東アジアにおいて欧州共同体︵EU︶のような平和で安定した

地域共同体をつくり出したい︒そのために︑お互いを理解しあえ

るようなフォーラムをつくりたい︒そう思うなら︑そのセンター

はソウルでもいい︒別の都市でもいい︒ジャーナリズムには国境

がないのだから︑日本版を日本以外の場所で運営しても問題はな

い︒

日本では﹁市民が体を張って民主化を勝ち取ったという歴史が ない﹂︵永井氏︶うえに︑過去三〇年間︑権力とメディアの翼賛

体制が進み︑市民運動は低迷している︒企業メディアは栄えてい

るが︑真のジャーナリズムがほとんどないから︑市民はどういう

ものがジャーナリズムか分っていない︒トイレの落書きのような

サイトが人気を集め︑それが言論活動だと勘違いしている︒

市民の人権を守り︑権力を監視するジャーナリズムが瀕死の状

態にある︒

保守対リベラルという指標で日本の報道界を見れば︑﹁8対2﹂

どころか﹁

95が化動反・化傾右どほえる思とかいなはで﹂5対進

んでいる︒

日本版が可能かという問いや︑どれくらいの市民記者を持てる

かということは︑言い換えれば︑現在の日本にジャーナリズムが

存在し得るのかということだ︒

希望はある︒北海道新聞︑高知新聞など東京以外の新聞は︑警

察の裏金づくりに関して調査報道を続けるなど︑市民=読者の信

頼を勝ち取っている︒

また﹁大手メディアの記者の中には︑現在の記者活動に不満を

持っている人たちもおり︑彼らは発表する媒体を待ち望んでい

る﹂︵山口氏︶のだ︒

日本の大手企業メディアにジャーナリズム性が失われている現

状は︑ネット空間でジャーナリズムを創り出すという試みにとっ

て︑大きなチャンスだとも言える︒

呉氏らが五年半の間につくりあげてきた経験を手本にして︑市

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日本帝国全面降伏六〇周年とジャーナリズム

参照

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