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通訳教育を通じた社会人基礎力の養成

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通訳教育を通じた社会人基礎力の養成

鶴田 知佳子

はじめに

1. 社会人基礎力と通訳者の資質 2. 通訳教育の貢献

2.1. 概況

2.2. 前に踏み出す力(アクション)の成長 2.3. 考え抜く力(シンキング)の成長 2.4. チームで働く力(チームワーク)の成長 3. 今後の展望

はじめに

2010年11月に、本学大学院の3名の学生および教員1名とともに、経済産業省経済産業政 策局 産業人材政策室が2008年より実施する「社会人基礎力グランプリ」に参加する機会があっ た1。「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の 3 つの 能力(12 の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていく ために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年から提唱しているものである。企業や 若者を取り巻く環境変化により、「基礎学力」「専門知識」に加え、それらをうまく活用してい くための「社会人基礎力」を意識的に育成していくことが今まで以上に重要となってきている との考えである。

社会人基礎力という考えはまだ十分に普及しているとはいえない。しかし、大学において「社 会人基礎力」の育成に効果的であった授業(ゼミ・研究等)の成果を学生が発表し、どれだけ 成長したかを競い合うかたちでの「社会人基礎力育成グランプリ」が開催されることで、だん だんと社会や大学にもこの考えが広まってきている。

結果は奨励賞であったものの、このグランプリに参加することを通じて、あらためて社会に おいて求められる社会人基礎力と、通訳教育を通じて貢献できる学士力との関係について考え る機会を得た。筆者は大学・大学院を通じて、専門職としての通訳者養成にたずさわっている

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が、本稿では常日頃より感じている通訳教育において認められる社会人基礎力の養成の効果に ついて論じる。経済産業省の社会人基礎力研究会も参考として言及しているところであるが、

社会人基礎力は文部科学省の推奨している学士力にも通じるところがある2

大学時代には、その後の長い有益な人生において自らの希望するような生き方を実現できる よう、社会人基礎力を身に付けることが肝要であるが、一つの方法として通訳教育の貢献をあ げるものである。

現在の日本の状況では大学および大学院を卒業後すぐに通訳者の道を歩むのは、社会経験や 一般常識もある程度ないとなかなか実際には難しいため、現実的な目標設定ではない[鶴田 2010]。しかし、もう一つの側面として、本学における通訳教育を語学教育のみならず、社会人 基礎力の育成にあてることによって、将来的に通訳者として歩む可能性は維持しつつ、広く社 会に貢献できる資質の涵養へと結び付けられることを挙げておきたい。

東京外国語大学大学院国際コミュニケーション・通訳専修コース(以下通訳コース)におい ては、英語同時通訳演習及び通訳実務での実習を通じて実践知の蓄積を図ってきた。年間 20 件に上る実習を運営し、学内外の通訳現場で、世界を日本に伝え、日本を世界に伝える専門家 養成に励んできた。異文化間の橋渡しをする役割が求められる通訳者として、実習の場を通じ て授業で体得した技能をさらに、自分たちの手で実習運営に積極的に参画することで、いかに 社会人としての基礎力の養成にもつながっているかを以下、述べる。

1. 社会人基礎力と通訳者の資質

大学入学の時点で、将来社会においてどのように貢献したいのかの明確な将来像を描いてい る学生は少数であろう。しかし社会において活動する上で基本的な要件となる事柄をある程度 抽出することで、大学・大学院を卒業してから社会において、いかなる分野において活動する にせよ、ガイドラインを示すことはできる。経済産業省の推奨している社会人基礎力は、その ようなものであると考えられる。

3つの力、12の能力要素からなるその概要とは以下のとおりである。

前に踏み出す力(アクション)とは一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力であり 主体性、働きかけ力、実行力という3つの能力要素からなる。

考え抜く力(シンキング)とは、疑問を持ち、考え抜く力であり課題発見力、計画力、創造力 の3つの能力要素からなる。

チームで働く力(チームワーク)とは、多様な人々とともに、目標に向けて協力する力であり、

発信力、柔軟性、規律性、傾聴力、状況把握力、ストレスコントロール力の6つの能力要素か らなる。

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形式的な大学教育から脱却し、社会が要求する真の人材を社会に輩出するための実践に向け てのガイドラインと考えることができる。

次に通訳の資質として何が必要かを考察する。

通訳の資質としては、起点言語および目標言語におけるネイティブ、ないしネイティブ並の 語学力があるのは前提であり、その他、与えられたテーマについての知識およびテーマを調査 する能力、精神力やコミュニケーション力、プレゼンテーション能力が必要である[Lim 2008]

通訳とは、総合的な能力が問われる仕事である[Setton 2008]。このような側面もあるため、む しろ一度社会に出て、社会人力を身につけてから通訳の仕事に就く方が、通訳者として活躍出 来る可能性がより高くなるといえる。

とある企業の通訳で、話し手の意図を適切に伝達出来なかった通訳者がその場で降板させら れることも散見される。そのように、一度失敗をするだけで、通訳者生命が危なくなるような 厳しい世界は、失敗しながらも雇いながら長い目で育てる考えをもつ一般企業とは違い、若く 経験のない者が時間をかけて育っていけるような場所ではない。通訳者は即戦力が求められる。

そのため、概して幅広い社会人経験を積んだ上で、同時に語学以外の専門性をも身につけてい て、分析調査能力も高い者が多い。一方で言えるのは、通訳者になるのに「遅い」ということ はない。大学において社会人基礎力の涵養につながるような通訳教育を受けていれば、即通訳 者としての道を歩めないまでも、長い人生のなかでどこかでその力を活用することができるで あろう。

2. 通訳教育の貢献 2.1. 概況

通訳教育が語学教育ならびに英語教育に貢献できるということについては、今までにも度々 指摘されている(例えば鳥飼 1997 を参照のこと)。また、異文化コミュニケーションとの関 連の指摘も多い(例えば稲生・染谷 2005 を参照のこと)。さらに筆者は前述したことを踏ま えて、通訳教育が広く社会人になるための基礎を築くのに役立つとの考えをもっている。その 成果について、内外で発表を重ねてきた(例えば、鶴田・内藤 2010, Tsuruta 2011, Tsuruta・

Naito 2011を参照のこと)。

通訳コースの運営で念頭においているのは、「世界を日本に伝え、日本を世界に伝える力を発 揮できる人材」育成との思いである。事実、本学の通訳コース卒業生は通訳の基礎的な力を身 につけた、よき社会人として巣立っている。就職希望者における就職率は100パーセント、企 業で、マスコミで、官庁で、世界の事情を日本に伝え、日本を世界に向けて発信するコミュニ ケーションの一翼を担っている。

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東京外国語大学院の同時通訳演習授業でのスキルを培う方法を、筆者は「実践知の蓄積」と 呼んでいるが、それは学内外において年間平均で20件もの実習をこなすことに支えられている。

実際に学内外からスピーカーを招いて同時通訳ブースに入った学生が同時通訳を担当する中で、

失敗からは次に失敗しないように智恵を学び、成功したときは次への自信につながるような、

授業をめざしている。

実習を行うことの有効性ならびに異文化を結ぶコミュニケーションをするうえでの通訳者の 役割についてはすでに海外の大学院の経験からも数多く議論がなされている[Donovan 2008;

Gile 2005, 2009; Setton 2008,2010; Tsuruta 2000]。実習を通じて、目の前にいる異文化の人たち のあいだでのコミュニケーションを行うことは、実感できるところとなる。異文化コミュニケ ーションにおける通訳者の役割とは、生の意見交換・討論を、異なった言語話者の間でもその 場で成立させるところにある [ベルジュロ・鶴田・内藤, 2009]。その場に参加している人たち のあいだで共有されている知識は何か、共通の文化に根ざしているのか、どのような暗黙の了 解があるのか、考えをめぐらし、情報が円滑に伝わるように気配りをする。ただことばを機械 的に置き換えるだけでは、決して的確な通訳はできない。

筆者は通訳の仕事のことを「高度知識集約型情報処理サービス業」と呼んでいるが、メッセ ージを十分に伝えるためには豊富な一般教養に加えて専門知識、文化についての知識が重要で ある。メッセージが発せられた状況、発した人の考え、背景も含んだうえで、その場で伝える のに最も適したことばで違う言語で発することが求められる。例えば、国際会議の場において

You must be hungry. と議長が発言したことを通訳するならば、「そろそろお昼にするときでし

ょう」と、会議参加者の気持ちを慮るように訳出するのが適切である [ベルジュロ・鶴田・内 藤, 2009]。社会のコミュニケーションを円滑に執り行うのは、その場における参加者に配慮し ながらの訳出である。

次に具体的に社会人基礎力のどの部分に貢献することができるのか、昨年における発表から 本学の大学院生の指摘から検討する。当日は、社会人学生1名、留学生1名、本学の学部から 大学院に入試を経て進学した1名合計3名による発表であり、それぞれの立場を反映した社会 人基礎力への通訳教育の貢献を振り返ってもらった。以下、列挙する。

2.2. 前に踏み出す力(アクション)の成長

通訳コース修士2年生の同時通訳実習では、学内外からのスピーカーを招いた実習の際に、

必ず学生一人を学生代表として任命し、以下の任務にあたらせている。

*講演者との連絡役として、自主的にリサーチ、資料提供の依頼や確認

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*司会等を通じて、人前で話すことの苦手意識を克服

*講演会当日に向けた準備、模擬練習を作成

同時通訳の実習というと、同時通訳だけを行っていると思われるかもしれないが、実は違う。

毎回、講演会の運営と司会の進行、さらに本番前の練習の素材を探してくることを任される「裏 方」仕事をする者が一名いる。最初の頃は、何をしていいかわからず、受身的だったため、非 効率で失敗も多く経験することとなった。

講演者は、日本人の場合も英語話者の場合もあるが、連絡のメール一つ書くだけでも、敬語 の使い方や丁寧な文章で依頼することに慣れていなかったため、作成に非常に時間がかかった。

また、講演会が終わった後、御礼のメールを書かねばと思いながらもすぐに出さなかったため 講演者から先にお礼のメールが届いたこともあった。

会場設営面でも失敗があった。録音が全く取れていなかったり、直前になって同時通訳レシ ーバーの電池が切れていることに気づいたり、英語スピーカーにレシーバーを渡していなかっ たため、スピーカーが英語への同時通訳が聞けなくて、混乱する場面もあった。

学生代表は当日の司会や模擬スピーカー役も行うが、人前で話すのに慣れていないため頭が 真っ白になってしまって声が上ずってしまうことも見受けられた。また、日ごろ話している日 本語と、司会や模擬スピーカーとして使用する日本語は全く違う。元カナダ大使を迎えた講演 会では、天皇皇后両陛下とのエピソードなど普通は使用しない最上級の敬語での予想スピーチ や、大使を紹介する司会原稿では、なかなか上手に話すことができなかった。

これら1つ1つは些細なことのように見えるものの、講演会の成功には、こういった「裏方」

役がきちんと出来ているか否かが、大きく影響することにも学生は気づくこととなった。1 人 の失敗を全員の失敗と捉え、次の実習に活かすために、学生は各自が経験した失敗や講演者と のやりとりなどを全員で共有するようにした。お互いにすぐにメール送信ができるように、携 帯メールでもグループアドレスを作成、ネット上の共有サイトをフルに活用し円滑な連絡をと りあった。会場設営にあたっても、通訳コース内で働きかけ聴衆が集まるように工夫した。ま た、当初は5段階評価で聴衆に依頼していた講演会のフィードバックシートも、通訳の改善に 一層役立てるため、自発的に新しいフォーマットに変更を加えた。また、社会人が使用する用 語や言い回しを自分の言葉として使えるようにするため、新聞をただ黙読するのではなく、音 読をするなど、原稿を読む練習なども自主的に行っていった。

その結果、各自がそれぞれの役割を認識し、進んで行動することが出来るようになった。録 音に関しても、ひとつに不具合があっても代えがあるよう数箇所で録音するようになった。メ ールの不手際や直前になって慌てることもなくなり、講演者に対しても積極的に依頼や質問を

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するようになった。学生代表を務める者も、人前で話すことの苦手意識が以前より少なくなり、

場にふさわしい日本語の表現も日々学んでいった。このように、「裏方」仕事を経験することで、

通訳コースのそれぞれの学生が自分の力で<前に踏み出す力>が、大きく向上したといえる。

2.3. 考え抜く力(シンキング)の成長

通訳者として実習に臨む場合には以下の力が鍛えられる。

*準備段階で下調べの計画を立て、スピーチ内容を予測

*蓄積した背景知識と実践知をもとに、適切かつ的確な表現を即座に訳出

*パフォーマンス分析を通じて課題を発見し、対応

学生代表を通じて事前に講演者から届く資料は、スピーチ内容の背景に関する資料や詳細な アウトラインの場合もあるが、講演のタイトルだけの場合もあり得る。

学生は、与えられた資料やタイトルから講演内容を予測し、幅広く調べることが必要だ。し かし、同時通訳実習が始まって間もない初期段階では与えられた情報を鵜呑みにしたため、大 丈夫と思っていた箇所でさえ、通訳を失敗することがあった。

常に実習が終わった後には、聴衆からのフィードバックをもとに反省会を行い、講演者のオ リジナル音声と各自の通訳音声を書き起こし、照らし合わせて細かく分析をする作業をする。

その過程で課題を発見し、その課題を解決するための計画を立ててゆく。

主な課題の一つは予測力の不足であることがわかった。同時通訳をするには、限られた情報 からスピーチの内容を読み取り、予想する力が必要である。例えば、日本のソフトパワーにつ いての講演会で、講演者が、今日本で「ゲゲゲのブーム」が起きているとしたが、外国人留学 生のある学生は「ゲゲゲ」と聞いて、まず「ゲゲゲの鬼太郎」を連想しそう通訳した。しかし、

講演者が実際言いたかったのは昨年人気を集めたNHKの連続テレビドラマ「ゲゲゲの女房」

のことであった。それを予測できなかったため、通訳において内容を正確に伝えられなかった。

同時通訳実習において学生は英日と日英双方向の同時通訳を行うが、もともとブルガリア出 身の外国人留学生の場合には、英語も日本語も母語ではなく、日本および英語圏で一般常識と される知識に必ずしも頼ることができないため、常に考え抜く力を涵養する必要があった。そ の能力を高めるため、与えられた情報の範囲を超え、創造力を働かせることができるような予 想スピーチを準備した。それは、同時通訳をする際、どんな内容でも臨機応変に対応し、適切 な訳語を即座に考え出すために欠かせないことである。

このように努力を重ねた結果、より効率的な下調べの計画を立てられるようになり、自然に

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創造力を働かせることが出来るようになった。一例を挙げると、年度後半にあったカナダに関 する講演会では、事前資料がほとんどなかったにもかかわらず、学生の1人が、実際の講演内 容に近い予想スピーチを仕上げたおかげで通訳の質の向上に大きく反映された。例えば、講演 のスライドに昔風の農場の写真が現れると、学生はモンゴメリの小説『赤毛のアン』の話が続 くだろうと予測ができて、正確に通訳することができた。これは何よりも皆で一丸となって達 成できた成果である。

2.4. チームで働く力(チームワーク)の成長

学生がチームとして問われる力は以下のとおりである。

*下調べ時における作業分担の能率を向上

*同時通訳中のクラスメイトへのサポート体制を強化

*不測な事態にも臨機応変に対処

同時通訳は個人の通訳パフォーマンスが重視されがちであるが、実際はチームとして総合的 に評価がされる。したがってチームワークが必要不可欠になるが、同時通訳時におけるチーム ワークとは具体的には次の3つが挙げられる。すなわち個人個人が通訳する時間をあらかじめ 決めておくこと、手を挙げるなど前の人と交替する時の合図を決めておくこと、自分が通訳を していないときに通訳をしているパートナーのためにメモを取りサポートをする際、何をメモ してほしいかを事前にパートナーに確認しておくということである。

すなわち、チーム内であらかじめ一定のルールを決めておくことが重要となる。このことを 念頭に学生は4月から一年間を通じて同時通訳演習を行ってきたが、最初はうまくいかず、交 替時のタイミングが合わず、次の人が出遅れてしまう、また通訳する人がとってほしいメモに なっていないなどの問題があった。

なぜこのような問題が出てきてしまうのか。その原因を演習後の反省会において学生全員で 話し合い考えた。その結果、ルールに縛られすぎているのではないかという結論に至った。確 かに大前提としてチームワークには一定のルールが必要であるが、ルールがすべてではない。

同時通訳とは「その場その場」のコミュニケーションを成立させる行為であるため、ルールに 従うだけではなくルールにとらわれない臨機応変な対応が求められる。例えば、通訳のメモを 取るときに、何をメモしてほしいかをパートナーに事前に確認することが必要であるものの、

実際には知らない単語が出る、知っている単語でも日本語・英語が出てこない場合がよくある。

またどの情報をメモしてほしいかは人によっても違う。したがって、サポート役はその場その

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場でパートナーがほしい情報を判断する必要がある。学生は反省会での話し合いを通し、同時 通訳には柔軟性と状況把握力が極めて重要であることに気がついた。

その結果、次第にチームとしての結束力が強化され、昨年7月には「平和広告制作プロジェ クト」という学内のプロジェクトで成果をあげることができた。このプロジェクトは東京外国 語大学大学院の平和構築・紛争予防専修コース(以下PCS)に所属する海外の学生が戦争をやめ ようと訴える広告のコンセプトを考え、それを山形県にある芸術大学の学生及び大手広告代理 店のプロのデザイナーの方々が実際に作品にするというもので、通訳コースの一部学生も通訳 者として協力した。東北芸術工科大学とPCSの学生との間で行なわれるディスカッションはス カイプを用いて行なわれ、その通訳を担当したことは大変貴重な経験となった。

このプロジェクトにおいて、柔軟性・判断力の大切さを意識した結果、前の人が通訳できず 困っているときは早めに交替する、メモ取りにおいてもパートナーが必要な情報は何か、表情 から判断するなど以前よりも臨機応変に行動することができた。このようにサポート体制を強 化した結果、異なる言語話者間のコミュニケーションを成立させ、平和広告の制作を成功させ、

制作発表会・作品展示会まで開催することが可能となった。

さらに、同時通訳には広く一般教養も求められる。同時通訳を行なうためには自分の興味・

関心のある分野だけを勉強するだけでは不十分である。政治、経済、文化などありとあらゆる 分野の通訳を依頼されることがあるため、幅広い知識が必要となる。また単に知識を蓄えるだ けではなく、その知識を通訳時に運用できるものにしなければならない。そのために学生は日々 新聞やニュースをチェックし幅広い知識を身につけるとともに、学生同士で知識を共有するこ とにより、使える知識に変えられるよう努力を重ねた。

以上、「大学で学ぶ一般教養や専門知識」の成長に寄与したのは、以下の4つの点に要約でき る。

*多岐に亘る分野(安全保障、環境、開発問題、外交、平和構築・紛争予防)へ対応できる豊 富な知識を体得

*時代の要請に応える時事問題・知識の理解と応用

*NHKアナウンサー指導によるパブリック・スピーキング能力の強化

*常に聞き手を意識した、わかりやすい通訳の実践

このように日々の努力を通じて「世界を日本に、日本を世界に」という目標の実現を目指し てきた。

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3. 今後の展望

通訳者として世の中に貢献できることの大きな柱として、筆者は「世界を日本に、日本を世 界に伝えるために役立つことが出来る」点を常に挙げてきた。これは英語だけに限ったことでは ない。すでに2011年3月に発生した東日本大震災の折に本学のOB/OGのネットワークを活か した震災情報の発信については、これまで学内外で培ってきた多言語多文化の蓄積および通 訳・翻訳の基礎力がおおいに役立った。今後、明示的に多言語多文化をグローバルコミュニケ ーションの一環として位置づける通訳教育をあらたに学部教育に広げるかたちで呈示すること で、前に踏み出す力(アクション)、考え抜く力(シンキング)、チームで働く力(チームワー ク)という社会人基礎力をもった、社会で有能な人材育成にさらに貢献できるものと考えてい る。

1) 社会人基礎力育成グランプリとは、経済産業省が提唱する社会人基礎力の概念に基づき、大学生チームが授 業の課題などを通じて、社会人基礎力をどれだけ伸ばせたかを競う大会である。平成19年度(2007年)よ り開催。

平成22年度より予選大会が全国6カ所に拡大し、地域ブロックごとに予選審査がおこなわれ、予選を通過し たチームは東京での決勝大会に出場できることになっていた。本コースのチームは予選大会のみに出場した。

2). 学士力」は、中教審の「学士課程教育の構築に向けて(答申)」で定義された学士課程における共通の「学 習成果」に関する参考指針である。「知識・理解」「汎用的技能」「態度・志向性」「創造的な学習経験と創造 的思考力」の4分野13項目が明示されている。主な項目は次の通り。

知識: 異文化の理解、社会情勢や自然・文化への理解 技能: コミュニケーション能力、情報活用力、論理的思考力 態度: チームワーク・リーダーシップ、倫理観、生涯学習力 創造的思考力: 総合力、問題解決力

参考文献

ベルジュロ伊藤宏美・鶴田知佳子・内藤稔. 2009. 『よくわかる逐次通訳』. 東京:東京外国語大学出版会.

Donovan, C. 2008. “Closing the Expertise Gap: A concrete example of guided reflexion on a conference experience.”

Forum 6(1):39.

Gile, D.1995/2009. Basic Concepts and Models for Interpreter and Translation Training. Amsterdam/Philadelphia:

John Benjamins.

Gile, D.2005. “Teaching conference interpreting: A contribution”, in Tennet. M., (ed) Training for the New Millennium, Amsterdam/Philadelphia: John Benjamins. 127-152.

稲生衣代・染谷泰正2005「通訳教育の新しいパラダイムー異文化コミュニケーションの視点に立った通訳教育の ための試論」『通訳研究』5:73-110.

Nishiyama, S. 1988 “Simultaneous Interpreting in Japan and the Role of Television: A Personal Narration” Meta vol.33, no1: 64-69.

Korean Society of Conference Interpretation (KSCI)

International Conference on Interpreting:Interpretation Pedagogy & Community Interpreting. March 5, 2011.

Conference Documentation.

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Lim, H.K. 2008 “The Art of Public Speaking and the Art of Interpretation” Forum 8(2) 125-142.

Pochhacker, F. 2004. Introducing Interpreting Studies, London: Routledge.

Setton, R. 2008 “Progression in SI Training” Forum 8(2) 173-193.

Setton, R. 2010 “From practice to theory and back in interpreting: the pivotal role of training” The Interpreters’

Newsletter n.15 1-18.

鳥飼玖美子1997「日本における通訳教育の可能性―英語教育の動向を踏まえて」『通訳理論研究』13:39-52.

鶴田知佳子2010 「通訳教育の立場から、学士力として必要な英語力を考える」The JASEC Bulletin日本英語コミ ュニケーション学会紀要 第19巻第1号 149-151.

鶴田知佳子、内藤稔2010「通訳者養成における実習指導のあり方」『東京外国語大学論集』80 365-374.

TUFS Interpreting Symposium: Interpreter Education and Training at the Graduate and Undergraduate University Level in the World,October 11, 2009.

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Tsuruta, C.2011. Conference Interpreting Program at Tokyo University of Foreign Studies, Conference Interpretation and Translation 13(1).

Tsuruta, C. Naito, M 2011. Incorporating Practicums into the Conference Interpreting Program Forum.

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A case study of interpreter education

TSURUTA Chikako

Since 2006, the Ministry of Economy, Trade and Industry (METI) started promotion of Shakaijin Kisoryoku or “basic ability to work well in this society”, which consists of “ability to take

action”, “ability to think” and “ability to have good team work”. The “ability to take action”

means being able to act by your own decision, influence others and to effectively implement them.

The ability to think consists of finding the issue, being able to plan ahead and to be creative.

Teamwork consists of communication ability, flexibility, having discipline, listening to other people’s opinions, being able to grasp the situation and to control stress. In order to promote this concept, METI started to hold a contest called Shakaijin Kisoryoku Grand-Prix since 2008.

The International Communication and Interpreting Course of Tokyo University of Foreign Studies Graduate School (hereafter Interpreting Course) participated in this contest in 2010, by sending a team of five people, consisting of two instructors and three students. This author believes that the team was successful to assert that interpreter education is effective in nurturing Shakaijin Kisoryoku.

Interpreting Course holds practicums in order to provide students with actual hands-on experience. In so doing, students take part in not only interpreting in the simultaneous interpreting booth, but also take turns to act as a coordinator. This coordinating function would require much ability to take action on the student’s own initiative in communicating with the speaker. In interpreting in the simultaneous booth, the students need to think and do their own research on the topic of the speaker beforehand and anticipate how the speech will unfold on the day of the lecture. More than anything else, the students are required to have good teamwork in order to maximize their performance.

Thus, it is this author’s opinion that interpreter education at Tokyo University of Foreign Studies have served to foster this concept.

参照

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