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学 位 の 種 類 博士(社会福祉学)

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 松江

ま つ え

暁子

あ き こ

学 位 の 種 類 博士(社会福祉学)

学 位 記 番 号 人博 第

140

号 学位授与の日付 平成

31

2

21

日 課程・論文の別 学位規則第4条第2項該当

学 位 論 文 題 名 公的扶助における能力活用のあり方に関する研究

――韓国の国民基礎生活保障制度における条件付き給付に着目 して――

論 文 審 査 委 員 主査 教 授 岡部 卓 委員 教 授 堀江 孝司 委員 教 授 矢嶋 里絵

【論文の内容の要旨】

【序章 本研究の研究目的と分析視点】

本章では、本研究における問題の所在、それを背景とした本研究の目的、分析視点と分 析対象および分析の方法を示すとともに、全体構成の概略を示した。

第1節では、まず、韓国の国民基礎生活保障制度(以下、基礎保障制度)は、国家責任 において国民の最低生活を権利として保障する公的扶助であるにもかかわらず、労働能力 がある場合にはその能力活用を最低生活保障の条件とし、その最低生活が保障されない危 険性があるが、先行研究ではこの「条件付き最低生活保障」というべき公的扶助のあり方 に対する問題関心は弱いことを示した。そこで本研究では、 「条件付き最低生活保障」とい える韓国の基礎保障制度に関して、 (1) 「条件付き最低生活保障の導入過程」 、 (2) 「条件付 き最低生活保障の中身(仕組み・内容・方法) 」を分析し、それをふまえて、結論として「条 件付き最低生活保障の含意」を明らかにすることを最終目的とするとした。

2

節では、基礎保障制度における能力活用の条件付けは、近年の福祉国家研究におけ る「福祉と労働の連携」という論点から捉えられることを示した。具体的には、韓国の条 件付き最低生活保障の「導入過程」「中身」 「含意」の検討を通じて、その「福祉と労働の 連携」という制度改革における韓国の経験のもつ意味や意義を明らかにするという分析視 点を提示した。基礎保障制度の条件付き給付を分析対象とし、関連法令、各種指針をその 分析のための基本資料として用いることを述べた。

【第1章 国民基礎生活保障制度の基本的性格】

本章では、基礎保障制度の導入過程とそこで労働能力のある受給権者への条件付けを取

(2)

り入れた背景を明らかにし、そのうえで基礎保障制度を捉えるための論点を明示した。

第1節では、

IMF

危機以前の韓国では、 「最善の福祉は経済成長であり、最善の社会的セ ーフティネットは家族である」という先成長・後分配政策を背景に、労働能力のある貧困 者には制度的対応はなく公共勤労事業などで対応するだけであったことを示した。

2

節では、IMF 経済危機を背景とした失業とそれによる貧困者の発生に対し最低生活 保障を行う新たな公的扶助導入の方向性には合意が得られたが、財政的な負担増大や、労 働能力の減退、モラルハザードに対する強い懸念があった。その状況を脱して新たな制度 の導入を優先させるために組み入れられたのが条件付き給付であることを示した。

3

節では、基礎保障制度の理念には「生産的福祉」があり、その理念と上記のような 背景から、基礎保障制度の全体を捉える論点として、「条件付き最低生活保障」と自立を支 える仕組みの

2

つがあることを提示した。

【第

2

章 基礎保障法にみる「条件付き最低生活保障」 】

本章では

1

つ目の論点である「条件付き最低生活保障」に焦点を当てている。基礎保障 制度の法的性格、条件付き給付の法構造上での位置づけとその意味について考察を行った。

1

節では基礎保障制度の法的性格について生存権との関係から確認した。基礎保障制 度導入によって憲法第

34

条に示された生存権と公的扶助が結びついたことを示した。また 法的には憲法

34

条-社会保障基本法―基礎保障制度という形で生存権と結びついている構 造であることを示した。

2

節では、基礎保障制度における最低生活保障の方法の概要を示した。給付の原則と して補充性の原則(所得・財産・労働能力の活用、扶養義務者の扶養・他法給付の優先)

がこの制度を貫いていることを示し、それに基づいた給付方法、給付水準等の概要を確認 した。

3

節では、第

2

節で示した最低生活保障の方法のもとでの労働能力のある受給権者へ の条件付けの意味を法の条文から検討した。その条件付けは、支給中止という制裁を伴う ために、労働能力のある受給権者に対して、条件の履行をしない場合は生存権を保障しな いことを容認することになっていると指摘した。また、条件付けは労働インセンティブを 持たせる意味を持って組み入れられたが、それよりも能力活用への強制として機能してい ることも指摘した。

【第

3

章 基礎保障制度における自立を支える仕組み】

本章では、 基礎保障制度の論点の

2

点目である自立を支える仕組みに焦点を当てている。

具体的には、自活事業に着目しその展開について確認した。

第1節では、条件付き受給者とは誰かについて確認し、第

2

節では、その条件付き受給

者に対する自活支援計画策定の流れを示した。その計画策定過程で、条件付き受給権者の

意欲・能力の程度を把握し、それに合った事業の種類を決定していることを確認した。

(3)

3

節では、条件付けの中身といえる自活事業の内容について整理を行った。労働市場 で働くことが可能であると判断された場合は労働市場志向型の就労成功パッケージへ、労 働能力が中・低度と判断された場合は、能力・意欲の向上や社会的仕事を中心とした労働 の場の提供を図る自活勤労事業に参加する。またどちらであれ資産形成支援も用意されて いる。これらの自活事業は相談支援と職業体験・職業訓練や働く場の創出を通じて意欲と 能力を高めることに焦点を置いた就労支援システムであると考察した。

【第

4

章 基礎保障制度の「条件付き最低生活保障」の全体像】

本章では、労働能力のある受給権者に対する「条件付き最低生活保障」 (第

2

章)と、自 立を支える仕組み(第

3

章)の両方を合わせて基礎保障制度の全体像を把握したうえで、

その両者の関係について検討を行った。そして、政府データや政策方針からその実際につ いて確認した。

1

節では、 「条件付き最低生活保障」と自立を支える仕組みを、公的扶助の展開の流れ

(支給決定段階、支給開始後継続段階、脱受給段階)のなかで再整理した。そこから、条 件付け給付の意味として、①能力活用への強制、②労働インセンティブの強化を図り条件 履行を支える能力活用への促しという

2

つを指摘した。その意味をふまえ、基礎保障制度 における条件付き給付は、最低生活保障に就労を義務付けつつ、義務を実行する機会を用 意するとともに労働インセンティブの強化を図る制度的仕組みであり、その一連の制度的 仕組みを、国、自治体、民間(地域自活センター、自活企業等)で支えているが、条件履 行が最低生活保障を規定し、生存権保障に矛盾した状況を生んでいることを指摘した。

2

節では、実際のデータから条件付き受給の状況を確認した。そこからは条件賦課除 外・条件提示猶予対象者が多い現状、また条件付き受給権者の半数近くが自活勤労事業に 参加しており、すぐに労働市場で働くことは困難な人々が多いことが明らかにした。

3

節では、近年の貧困政策の方向性を確認した。第

2

節で示した状況がある一方で、

政策方針としては、能力向上及び労働インセンティブの強化を図り働き自立した生活を目 指す施策の推進にますます力点を置いていることを示した。

【終章 「条件付き最低生活保障」の含意】

本章は、本研究の総合考察である。

1

節で、本研究の概要をまとめた。続く第

2

節では研究課題である「条件付き最低生 活保障の導入過程」分析、 「条件付き最低生活保障の中身」分析についての全体考察を行っ たうえで、結論として、 「条件付き最低生活保障」の意義、限界および課題を明らかにした。

それをふまえて、福祉国家研究における「福祉と労働の連携」の視点から、 「条件付き最低 生活保障」である韓国の基礎生活保障のもつ理論的及び政策的含意について検討を行った。

結論においては、 「条件付き最低生活保障」の意義として、①就労支援サービスの提供が

国家責任となったこと、②一般就労に困難を抱える人々が支援を受けながら働く場に参加

(4)

することができること、③能力活用の場の多様化、を挙げることができる一方、条件付き 最低生活保障の限界として、①最低生活保障から漏れる人々を生み出していること、②自 活事業のもつ労働インセンティブの強化の効果が大きくないことを挙げた。これらから、

最低生活保障に能力活用を条件付けたために、もっとも公的扶助として重要な役割である 最低生活保障においても、また自活事業が条件付けられたために構築してきた就労支援シ ステムにおいても、それらが十分に機能しておらず、条件付けにともなう制裁の緩和、自 活事業参加に対する給付水準の引き上げ、支援者育成を含めた就労支援システムの改善を 図ることが課題であるとした。

上記のような意義と限界および課題をもつ「条件付き最低生活保障」を「福祉と労働の 連携」の論点から捉えてみると、福祉の方針として「就労義務強化」を強調しながら、就 労支援と雇用の創出に国家として強く関与する「雇用可能性向上」の仕組みを併せ持つと 同時に、制裁を弱める「就労義務の緩和」措置をも併せ持っているとした。このような韓 国の基礎保障制度での「条件付き最低生活保障」が示すのは、低い給付水準に制裁をとも なう条件付けを行う「就労義務強化」の給付体系のもとで雇用可能性向上(人的資本への 投資)を図る場合、就労支援としての意義はあるものの、公的扶助本来の最低生活保障の 役割と、労働インセンティブ付与という条件付けの意味づけには限界を持つしかないこと であると指摘した。

3

節では本研究の残された課題と今後の検討課題として、現場での運用の実態や条件

付き受給者の声を取り上げること、また他国との比較研究を挙げ、本研究の結びとした。

参照

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