東京都立大学人文学報第347号抜刷
特'性推論における状況的な阻害情報の 同化効果と割増効果
東京都立大学人文学部
2 0 0 4 . 3
沼 崎 誠
土 倉 英 志
工藤恵理子
特'性推論における状況的な阻害情報の 同化効果と割増効果')
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誠志子
英理
宙心 崎倉藤 沼土工
問 題
生まれつき身体が不自由であったり、陸上の短距離競技をするのに向かい 風が吹いていたり、周りの人の意見に合わせなくてはならないなど、日常生 活において何かをおこなう際に、その遂行を妨害するハンディキャップが存 在することがしばしばある。本研究は、広い意味のハンディキャップを持っ た人の属性や特性がどのように認知されるのかを明らかにしようとするもの である。本研究では、特に、状況的なハンディキャップが存在することで実 際よりも遂行が低く見られる同化過程と、ハンディキャップが存在すること で遂行に対する能力が高く見られる割増(対比)過程について明らかにした
いo
本研究では、ハンディキャップが状況的な阻害要因として存在するときに、
そのような状況的な阻害要因が特性推論にどのような影響を与えるのかにつ いて検討をおこなう。この検討において有益な示唆を与える理論的なモデル にTropeとその共同研究者による特性推論の2段階モデルがある(Trope,
1 9 8 6 ; T r o p e & A l f i e r i , 1 9 9 7 ; T r o p e & G a u n t , 2 0 0 0 ) 。
特性推論に関するTrope(1986)の2段階モデルでは、ある行動から人の内 的特性(能力を含む)を推論する過程には、①行動の意味の同定、②特性推 論、の2段階があることを仮定している。Trope(1986)は、ある状況で示し た顔の表情写真を刺激に使っている。ここで、「その状況での表情から『怒 りっぽい(特性)jかをどのように推論する」かを考えてみる。知覚者は、
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まず最初に、その表情がどんな感情をあらわしているものかをまず同定しな くてはならない。この段階に影響を与えるものとしては、l)行動手がかり、
2)状況的な手がかり、3)過去の情報からくる手がかり、がある。表情写 真の場合には、1)刺激そのものの明瞭さ・暖昧さといった行動手がかり
(明らかに怒っているかどうか)、2)どのような場面でなされた表情かとい う状況的手がかり、3)行為者に関する過去の情報(よく怒っているかどう か)が、その表情をあらわしている感情の種類を同定するのに役に立つ。状 況的な手がかりに注目してみると、その状況が怒りを誘発するような性質 (他人から公衆の面前で侮辱された(v$.ちょっとからかわれた))であった という手がかりがあると、暖昧な表情が怒りを表したものと同定されやすく なると考えられる。その表情(行動)の意味が同定されると、次には特性推 論段階に進む。この段階では、行動からその人の性格や能力などの特性を推 論するが、その際には、状況的な情報は前とは逆の方向に作用すると予測す る。先ほどの例で言えば、「他人から公衆の面前で侮辱された」という怒り を引き起こすような状況であれば、誰でも怒るはずである。一方、「ちょっ とからかわれた」だけでは誰でも怒るわけではない。とすれば、「怒りっぽ い」と特性推論をする段階では、「他人から公衆の面前で侮辱された」とい う状況的要因の存在は内的特性の推論を困難にする。
つまり、行動の同定段階と特性推論段階とでは、状況的手がかりが反対方 向の影響を持つと予測することが、このモデルの重要な点である。
状況的ハンディキャップが遂行認知と能力推論に及ぼす効果という問題と
して、先ほどの例を用いながら、このモデルを整理してみたい。「怒りっぽ
い」ことが望ましくない特性で、能力が低いことを意味するのならば、「他
人から公衆の面前で侮辱された」ことが状況的ハンディキャップとなる。同
定段階においては、「他人から公衆の面前で侮辱された」というハンディキ
ャップは、ある人のその時の行動を「怒っている」と同定させやすくなると
考えられる。これは「怒りっぽい」という、能力が低いという推論を導きや
すい同定である。一方、特性推論段階では、「他人から公衆の面前で侮辱さ
れた」というハンディキャップは、そのような状況があったのために怒った
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のだから、潜在的能力としては「怒りぼくない」であろうと、能力が高いと いう推論を導き出す方向に影響を与えると考えられる。つまり、ハンディキ ャップは、同定段階では能力が低いことを示唆する方向の行動同定を生むが、
推論段階では能力が高いという方向の推論を促進すると、このモデルからは 予測されるのである。
このモデルにおいても、社会的認知研究の重要な視点である認知資源量に 関して、行動の同定と特性の推論とでは必要とする認知資源量が異なるとい う予測がなされている。このモデルでは、行動の同定は特性の推論に比べ、
相対的に認知資源を必要としない自動的過程であると考えられている。その ため、同定段階では認知資源が剥奪されても、ハンディキャップの効果は減 少しないが、推論段階では認知資源が剥奪されると、ハンディキャップの効 果が減少すると予測するのである。
特性推論の2段階モデルを支持する実証研究として、TropeandAlfieri (1997)の第1実験では、学部長のところで働いている学生が、そこへの就 職希望者に対する評価を学部長に対しておこなっている状況を、実験参加者 に聴かせ、a)その発言の望ましさを評定させ(同定段階)、b)その学生の 就職希望者に対する本当の態度を推測させている(推論段階)。独立変数と
して、①状況制約情報を学部長の就職希望者に対する態度(ポジティブvs,
ネガティブ)により操作し、②評価の明瞭さ(明瞭にポジティブvs、暖昧)
を学生の発言により操作し、③実験参加者の認知負荷(有vS.無)を8桁の 数字を従属変数の測定直前まで憶えさせておくことにより操作した。結果と して、行動同定では、状況制約情報×行動の暖昧さの交互作用効果が有意で、
評価が暖昧な場合ではポジティブ群の方がネガティブ群に比べ、学生の発言 の評価内容が望ましいと判断されていた。これは、行動が暖昧であるとすれ ば、行動同定段階で状況制約情報が同化的影響を与えるという仮説を支持す るものであった。また、認知的負荷、との交互作用効果はなく、認知的負荷は この段階では影響を与えないとする仮説を支持する方向のものであった。特 性推論段階の結果では、同定段階から持ち越した効果である状況制約情報×
行動の暖昧さの交互作用効果に加え、状況制約情報×認知的負荷の交互作用
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効果が有意であった。負荷なし群ではポジティブ群とネガティブ群の間に有 意な差が見られなくなっていた。このことは、特性推論段階では、行動同定 段階での効果が消えることを意味しており、負荷がない場合には状況制約情 報は特性推論に対して、同定段階とは逆の方向の影響を持つという仮説を支 持するものであった。一方、負荷あり群ではポジティブ群の方がネガティブ 群に比べより好意を持っていると推測をするという、同定段階と同様の効果 が見られていた。この結果は推論段階では認知的負荷が高い場合には、状況 制約情報の効果が見られなくなるという認知資源に関する仮説を支持するも のであった。
沼崎(1995)は、認知的負荷の効果を検討していないが、状況要因は同定 段階で特性推論段階とは逆の方向を影響を持つという、Tropeの2段階モデ ルの独自の予測を支持する結果を報告している。沼崎(1995)の実験2では、
ハンディキャップが遂行の同定や能力の推測に及ぼす効果を実験室実験をお こない検討している。手を使わなくてはいけない課題をおこなう共作業者が 手に包帯を巻いているかどうかでハンディキャップの有無を操作し、その人 の遂行同定と能力の推測を従属変数として測定している。その結果、ハンデ ィキャップは課題遂行の同定を低下させるという同化効果が見られていた。
能力推測では、遂行の評価から割増原理が生じてハンディキャップの有無に かかわらず能力は一定に推測されていた。類似した研究として、Rhodewalt,
Sanbonmatu,Tschanz,Feick,&Waller,(1995)でも、非常に強い主張的セルフ ハンディキャップでは、遂行が暖昧(創造的課題)な場合には、遂行の同定 を低下させるという同化効果を見いだしている。
このようにいくつかの研究においては、状況要因は同定段階で属性段階と は逆方向の影響を持つという、Tropeの2段階モデルの独自の予測を支持す る結果を報告しているものの、必ずしも同定段階の効果を検討した研究は多 い と は 言 え な い 。 本 研 究 で は 、 類 似 し た パ ラ ダ イ ム で お こ な わ れ て い る が 同 化効果が報告されていない実証研究の状況を用いて、そのパラダイムにおい ても同化効果が見られるかどうかを検討する。
Gilbert,Pelham,andKrull(1988)の実験は、Gilbertの3段階モデルを検証し
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た研究として有名である。Gilbertの3段階モデルでは、対人認知の段階とし て、カテゴリー化(行為者は何をしたか)、属性化(その行動が意味する属 性は何か?)、修正(どのような状況的制約がそのような行動を生み出した かを考慮して属性推論を割り引く段階)を仮定する。GiIberletal.(1988)の 実験lでは、認知資源の多寡と状況制約情報を操作し、極端に不安を感じて いる様子をしている対象者を無音のビデオにより実験参加者に見せて、対象 者の特性不安を推測させた。状況制約情報は、話している話題(リラックス 話題vs・不安喚起話題)により操作した。認知資源の多寡は、話題の内容を 記憶しておくように教示するかどうかにより操作した。結果として、特性不 安の推測において、話題の主効果と話題×認知資源の交互作用効果が見られ、
資源が多い群ではリラックス話題群の方が不安喚起話題群に比べてより不安 を感じやすい性格であると推測するという結果が見られていた。しかし、資 源が少ない群では、話題をより覚えていたにもかかわらず、リラックス話題 群と不安喚起話題群の間には差が見られず、修正段階で状況制約情報を利用 できないことが示されている。しかし、Gilbertetal.(1988)では、Tropeand Afmeri(1997)で見られた、同定段階での状況制約情報の効果が生じているか
どうかの検討がなされていない。これは、ビデオとして極端に不安を感じて いる様子をしている人物しかビデオ刺激として用いていないことによるが、
3段階モデルの当初のモデル(Gilberteta1.,1988)では同定段階における状況 要因に関して明確な仮説がなかったため同定段階の評定を独立して測定して いなかったことにもよる')。
そこで、本研究では、Gilberlelal.(1988)の状況においても、状況要因は 同定段階と特性推論段階では逆の方向の影響を与えることを実証的に示すこ とを目指す。そのため、Gilbertetal.(1988)の実験の手続きにほぼ従うが、
ビデオの登場人物の表情を暖昧にしたうえで、同定段階の評定も測定した。
本研究において、「不安を感じやすい」ことが能力の低さを意味すると仮定
できるならば、「不安喚起話題」がハンディキャップに対応する状況要因と
なる。表情の判断が行動同定段階となり、不安を感じやすい性格かどうか
(特性不安の高低)の推測が特性(能力)推論段階となる。
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同定段階の仮説として、「不安喚起話題はリラックス話題に比べ、ビデオ の登場人物が感じている不安が強いと同定させるであろう。そして、この効 果は認知的負荷の影響を受けないであろう」を設けた。特性推論段階の仮説 として、「不安喚起話題はリラックス話題に比べ、ビデオ登場人物の特性不 安を低く推測させるであろう。そして、この効果は認知的負荷の影響を受け るであろう」を設けた。方法はGilberletal.(1988)の実験にほぼならったが、
l)話題が1つ少なく、全て不安喚起話題かリラックス話題である点、2)
表情が明らかに不安を感じているものではなく暖昧である点、3)ビデオご とに同定段階の従属変数を回答させた点、が相違点であった。
方 法
実験参加者東京都立大学一般教養心理学受講生男女79名(男性54名、女 性25名:平均年齢19.35)。実験に参加してレポートを提出することによ
り、授業評価にボーナス点が与えられることが予告されていた。
実験計画2×2(状況情報(不安話題vs・リラックス話題)×認知的負荷 (有vs.無))の参加者間要因計画。
実験材料実験刺激として1名の男性が暖昧ではあるがやや不安げな表情 で、インタビューを受ける様子のビデオを作成した。上半身をほぼ正面から 撮影し、インタビューに回答している20秒間の場面で、無音声であった。
複数のビデオから、予備調査において不安を感じているかどうかが不明であ ると評定された6本を選択した。
不安話題とリラックス話題はGilbertetal.(1988)を参考にしながら、予備 調査をおこない、不安になりやすい程度を参考にして各群6話題ずつ選択し た。不安話題群では、「記憶から消したい出来事」「自分の秘密」「人からい じめられた体験」「幼少時代のトラウマ」「身近な人の死」「友人に拒絶され た体験」であり、リラックス話題は「最近観た映画」「好きなアーティスト」
「休日の過ごし方」「楽しかった思い出」「温泉旅行」「ショッピング」であり、
上記順序で呈示した。
手 続 き 1 名 か ら 1 0 名 の 集 団 で 実 験 を お こ な っ た 。 男 性 が イ ン タ ビ ュ ー を
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受けているビデオを観てその様子を評定する実験であると教示した後、負荷 あり群では、きちんとビデオを観ていたかを確認するので呈示される話題テ ロップを憶えておくように教示した。負荷なし群ではそのような教示をおこ なわなかった。ビデオの呈示は、まず最初に話題テロップを10秒間呈示を し、その後、インタビューを受けている様子のビデオを声を消した状態で20 秒間呈示した。その後15秒間、ビデオごとの質問項目に回答させた。上記 手続きを6回繰り返した後、全体質問紙・話題再生質問紙に回答させた。そ の後デイブリーフイングをおこない、参加者からの質問に回答した後、実験 を終了した。
従属変数と話題再生の測定ビデオごとの質問項目では同定段階の測度とし て「ビデオの男性はインタビューを受けているとき、どれくらい不安・緊張 を感じていると思いますか」という質問に、「まったく不安・緊張を感じて いない(1)」から「強い不安・緊張を感じている(8)」の8件法で回答を 求めた。全体質問紙には、特性推論段階の測度として登場人物の本来の性格 を推測させる項目として7つのSD尺度に8件法で回答させた。ビデオ時の 行動に関わる性格特性項目として「不安・緊張を感じやすい性格一不安・緊 張を感じにくい性格」と「恥ずかしがりではない性格一恥ずかしがりの性格」
の2項目が含まれていた。質問紙回答後に、新たに解答用紙を配布して、話 題テロップとして呈示されたものを正確に記述するように求めた。
結 果
結果の分析は2×2(状況情報×認知的負荷)の分散分析とその下位分析 によりおこなった。
話題テロップの再生記述が正確な場合は2点、正確ではないが、内容が合 っているものを1点として、負荷の条件を知らない2名の評定者が得点化を した。相違がみられた解答は両者が協議して得点化した(FIgu l)。この得 点(0‐12)に対して2×2の分散分析をおこなったところ、負荷の主効果 が有意であった(F(1,75)=15.34,p<、001)。この効果は負荷なし群(M=
8.44)に比べ負荷あり群(M=9.79)が得点が高いことによる効果であり、
9.39
30pAnxiousTopics■RelaxingTopics
8.75
210987654
111
6.77
⑩の﹄︒◎の一石◎の匡
1 0 . 7 0
LOad
Rgurel・RecaIIscOresasafunctionofsituationaIresmctionandcognitive
Ioad・EnForbarsindicatelSEabOvethemean.
NoLoad
負荷の操作が効くための前提条件は満たされていた。この効果に加えて、状 況情報の主効果が有意であった(F(1,75)=30.28,p<、001)。この効果は不安 話題群(M=7.97)に比べリラックス話題群(M=10.04)が得点が高いこと
による効果であった。
行動の同定ビデオごとの質問項目に対するビデオlからビデオ6までの回 答の得点の実験参加者ごとの合計値(6−48)を求め、2×2の分散分析を おこなつところ、仮説から予測される、状況情報の主効果が有意であった (F(1,75)=4.15,p<、05)。FIgu 2に示したように、この効果は、不安話題群
ではリラックス話題群に比べてより不安を感じていると評定したことによる 効果であった。また、負荷の主効果と交互作用効果は有意ではなかった (凡く1,ns)。これらの結果は、「不安喚起話題はリラックス話題に比べ、ビ デオの登場人物が感じている不安が強いと同定させるが、この効果は認知的 負荷の影響を受けないであろう」という同定段階の仮説を支持するものであ
った。
特性の推論「恥ずかしがりではない性格一恥ずかしがりな性格」の評定と
「不安・緊張を感じやすい性格一不安・緊張を感じにくい性格」の評定との
相関は有意ではあったが高くなかった(r=23,p<、05)。そこで、合計値と各
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評定を別々に分析した。
合計値(2‐16)の各群の平均値はFYgure3に示した。合計値に対して
2×2の分散分析をおこなつところ、負荷の主効果と話題の主効果は有意で はなかった(R(1,75)<2.14,,s)。さらに、仮説から予測される交互作用効
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cOgnitiveload・ErrorbarsindicatelSEabovethemean.NoLoad 32
果も有意ではなかったが(F(1,75)=1.25,ns)、負荷あり群となし群で単純 主効果を検討したところ、負荷あり群では効果は見られなかったが(F(1,75)=
0.13,ns)、負荷なし群ではリラックス話題の方が不安話題に比べより不安を 感じやすい性格であるという方向で有意に近い効果が見られた(F(1,75)=
3.26,p=、075)◎交互作用効果は有意ではなかったものの、この平均値のパタ ーンは仮説から予測される方向のものであった。
「恥ずかしがりな性格」の評定(l‐8)の各群の平均値はFIgu 4に示し
た。分散分析をおこなったところ、状況情報の主効果が有意であった(F(1,75)=
13.03,p<、001)。これは、不安話題群はリラックス話題群に比べて、恥ずか しがりな性格ではないと評定したことによる効果であり、特性の推論段階で は行動同定段階とは逆の方向の影響を与えるという仮説を支持するものであ った。しかし、交互作用効果は有意とはならず(灰1,,s)、特性の推論段階 では負荷が影響を与えるという仮説は支持されなかった。「不安・緊張を感
じやすい性格」かの評定では有意になった効果はなかった(侭く1.40,ns)。
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考 察
本研究では、Gilbertetal.(1988)の状況においても、状況要因は同定段階 と特性推論段階では逆の方向の影響を与えることを実証的に示すことを目指 した。Gilbertetal.(1988)の実験の手続きにほぼ従うものの、ビデオの登場 人物の表情を暖昧にしたうえで、同定段階の評定も測定した。「不安を感じ ない」ことが高い能力であると仮定できるとするならば、「不安喚起話題」
がハンディキャップに対応する状況要因となり、表情をみて不安を感じてい るかどうかの判断が行動同定段階となり、不安を感じやすい性格かどうか (特性不安の高低)の推測が特性(能力)推論段階となると考え、検討をお こなった。
不安喚起話題はリラックス話題に比べ、同定段階では不安を感じていると いう方向に影響を及ぼしていた。特性推論段階では、結果は必ずしも明確で はないものの、少なくとも恥ずかしがりの性格であると推論させない方向に 影響を及ぼしていた。今回の研究では話題を明示しない統制群を設けていな いため、状況における有利な条件であるリラックス話題の効果と遂行阻害要 因であるハンディキャップである不安喚起話題の効果とを区別することはで きないが、このような状況要因が同定段階においては同化効果を持ち、推論 段階では対比効果を持つことを示唆している。これらの結果は、同定段階と 特性推論段階では、状況要因が逆の方向に影響を与えるというTropeの2段 階モデルを支持するものであった。しかし、認知的負荷の効果では明確な結 果は得られなかった。同定段階においても、仮説から効果が見られると予測 される特性推論段階でも、認知的負荷に関わる有意な効果は得られなかった。
認知的負荷に関して仮説が支持されなかった理由として、認知的負荷の操
作が弱かった可能性が考えられよう。本研究における認知的負荷の操作は
Gilbertetal.(1988)の操作にならった。しかし、Gilbertetal.(1988)の実験
参加者は、ビデオを全て通しで見たのに対して、本研究では各話題のビデオ
ごとに同定に関する測度に回答していた。このことが影響した可能性が考え
られる。話題を記憶するためのリハーサルをする時間が長くなり、そのため
長期記憶に転送されやすくなり、認知的負荷が小さくなった可能性が考えら
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れよう。また、回答をおこなうという妨害課題が入ったために、結果として リハーサルが中断していた結果、認知的負荷が小さくなった可能性も考えら れよう。同定段階と推測段階では認知的負荷が異なった効果を持ちうるかを 検討するためには、今回とは別のより強い負荷の操作をおこなう必要があろ
う 。
Gilbertetal.(1988)のパラダイムを用いても、状況要因が特性推論の同定 段階において、その状況要因に関する情報が示唆する方向に遂行を同定させ ることを、本研究では少なくとも示すことができた。この結果は、沼崎 (1995)やRhodewalletal.(1995)と同様のものであり、遂行を妨害するような ハンディキャップがあるという情報が、遂行認知を低下させることは明らか になったと言えよう。
このことはハンディキャップを持った人の遂行認知や能力推測において重 要な意味を持つ。これまで、客観的に同じ遂行をしたとすれば、ハンディキ ャップを持った人は持たない人に比べて、ハンディキャップのために遂行が 低下したと帰属され、潜在的な能力は高いと推測されるという割増効果が生 じると考えられてきた。このような割増効果が生じるという考えは、多くの 一般の人にも共有されていることであろう。実際、沼崎(1999)は、沼崎 (1995)がおこなった実験室実験をシナリオにして実験参加者に呈示して、
その場面においてどのような遂行認知や能力推測をするかを予想させてい る。結果として、能力推測ばかりではなく遂行認知においてもハンディキャ ッ プ を 持 っ た 人 を ハ ン デ ィ キ ャ ッ プ を 持 た な い 人 に 比 べ て 、 高 く 評 定 す る で あろうと予想することを見いだしている。このことは、ハンディキャップを 持った人を高く評定するという信念が多くの人にもたれていることを示唆し
ている。しかし、先行研究や本研究で明らかになったことは、客観的に同じ遂行で
あっても、少なくとも遂行が暖昧な場合には、ハンディキャップを持った人
とハンディキャップを持たない人では、「同じ遂行」と認知されないバイア
スがあるということである。ハンディキャップを持った人に対しては遂行が
低いであろうという期待が生じ、その期待に同化して遂行を同定するために、
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客観的には同じ遂行が劣っていると認知される方向にバイアスがかかるので ある。さらに、認知的負荷の操作が弱かった可能性があるため本研究からは 必ずしも明らかではないが、Tmpeの2段階モデルやGilbertの3段階モデル、
そして、これらモデルを実証した研究から、このようなバイアスが生じる同 定段階は相対的に認知資源が必要とされず、相対的に自動的に生じる情報処 理過程であることが示されている。相対的に自動的過程であることから、こ の段階でのバイアスは意図的に制御することが困難であると考えられる。確 かに、このようなバイアスをその後の情報処理過程の中で意識的に制御する ことは不可能ではない。しかし、沼崎(1999)の研究が示唆するように、こ のようなバイアスがあるということは多くの人に共有されておらず、むしろ 逆の方向の認知が生じるであろうという信念が持たれている。このことから、
多くの一般の人においては、その後の過程においてこのバイアスを制御しよ うとする意図を持たないことが予想される。つまり、ハンディキャップを持 つ人の遂行を持たない人の遂行に比べ低く認知するというバイアスは修正し づらいと考えられる。このことは、ハンディキャップを持った人への意識さ れていない偏見につながりうるものである。
ハンディキャップを持った人を正当に評価するためには、このようなバイ アスが生じうることをまず意識しておかなければならないであろう。さらに 意識したからといって、それを意図的に制御することが困難なバイアスであ ることの認識も必要である。そして、偏見につながりかねないこのようなバ イアスをできるだけ避けるためには、遂行を主観的な印象によって認知する のではなく、客観的な評価が可能な形で測定した上での認知が不可欠である
つo
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3 6
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註