一論 文‑
高 岡短 期 大 学 紀 要 第
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カペ ラ ・ ゴ ー デ ン美術 工芸
学
校 を再考
して一 便用者の体験 を重視す る工芸教育 ‑
小 松 研 治 ・ 小 郷 直 言*
( 平成9 年5 月30 日受 理)
要 旨
ス
ウェ ー デン の
カペ
ラ ・ ゴー デン
美 術工芸 学校にお ける 工芸 教育は「
地場産業や 一 般の
ユ ー ザとの
連携を考慮に
い
れた課 題の
工夫」
が なさ れ, 実生活か ら遊離しない
実用 品の
作品制作が行わ れてい
る。 また制作者である学習者に対して は, 実際の
生 活の
中で 工芸 品 を使用できる環境が 用 意 さ れてい
るo そして こ の
使 用 者 側の
体 験が, 工芸 品 制 作に対する改良や変 更などへの
注 意 を促 し, 制 作への
動 機 を 導 き 出 してい
る。また制作に関 する知 識や技 術
の 「
蓄積と その
活 用」
が, 新た な作 品制作に挑 む 学 習者を 支 援 し,こ の
サ イ ク ル が継続的な活 力 を作り出してい
る。本稿で は
こ の
ような 工芸教育が, 意 図 的に用意された仕掛けに よっ て導 か れてい
る点 を考 察する。キ ー ワ ー ド
カ
ペ
ラ・ ゴ ー デン
美 術工芸学校, 環i急 進 化 デザ イン
, 工芸, ネットワ
ー ク1 は じ めに
筆者らは,19 91 年に行 っ た カペラゴ ー デン
美 術工芸 学 校の現 地 調 査 を も とに高岡 短期大 学 紀要におい て, 「実生 活に生 きる 工芸」 の
一 考 察l ) と してその特色 を 述
べ
てきた。 こ の 考察の 中では, 主に学 習 者に課 さ れる課 題の 工夫に触 れ, その方 法 を本学で の授業に取 り 入 れる試みを 通 して問題 点 を検 証 した。19 9 6 年に再び 同 校の調 査 を 行 う 機会を 得
て, 工芸 品制作 を 実 生 活に指 し向ける教育
は, 単に課 題の設 定 方 法 だ けでなく, 教 育 環 境の中に工夫さ れ た様
々
な仕 掛 けが有 機 的に機能しているという背景 を具体的に調 査 する ことができた。 本稿では, こう した背景に焦 点 を 当て て, カペラゴ ー デンを 再考してみ た い。
さて, これ までわ れ わ れが問 題に しよう と する 工芸 観の一一 つ は次の よう な もの であ っ
た。 すな わ ち, 工芸 品 制 作が や やもする と作 家の個 性 を 表 現 する活 動 と 受 け 取 ら れてしま う。 その結 果, 工芸 品 が 美 的 鑑賞の対象 物 と な っ て し まい, 「使用 する」 という 観 点が希 薄にな っ て しま っ て いる。 本来, 他者である
「使 用 者」 に向け られ
べ
き制作者の意 図が,ま す ま す 作 家 自 身の内 面の探求に費や さ れ る 産 業工芸 学 科 事 大 阪 大 学 経 済 学 部
70 小 松 研 治 ・ 小 郷 直 言
ことにな る。
しか し, 北 欧 と くに スウ ェ ー デン のカペラ
・ ゴ ー デン美 術工芸 学校にお ける 工芸 活動を
つぶさに観察してみ る と, 上 記のよ う な工芸 観 とはま っ たく 異な っ た 工芸 理 念に従 っ て工 芸 品 制 作が行 わ れて い る。
その工芸 観 というのは, 工芸制 作者と して 大 成 するには, ま ず, よき使用者と して十 分
に訓練を積み, 実社 会との つな が り を持っ た 課 題 制 作に重点を 置 くことに徹 して いる。 そ して, 何より も驚かさ れるの は, 学 習 者の活 動環 境 をこう した教育方針の下に徹 底 して整 備 する努 力 を 行 っ て い ることである。 そして こ こ に こ の学校の特徴がもっ と も色 濃 く 反 映 されて い る。
以下の論考で はこれ らの活 動 環 境が そ れぞ れに意 味 を 持 っ て有機 的に関 連 して い る点に 焦 点 を 当て て み たい。
2 カペラ・ ゴ ー デン美術工芸学校の理 念
カペラ 。 ゴ ー デン で は, 個 人の創造 的 な能 力 が, 作品の奇 抜さ や 意表を突いた驚き と し
て発揮さ れることより, 長い伝統 と多くの試 練に耐 えて使い続け ら れてきた技術や知 識 と 強 く 結 びつ い て現 れてくること を 目指して い
る。 制 作者( 学 習 者) の発 想やアイデア の源 泉に はいっ も先 人の残 した伝 統 ある知 識が基 礎と な っ て い る。 そ甲伝 統は よくいわ れる無 形の ものは少な く
., は っ き り と 形になっ た作 業 場, 思索や語 らい の場, 知 識の伝 授方法に 裏 打 ちさ れて, 誰 もが それ を自由に利用でき る全 体 環 境 と して作り 上 げ ら れて いる。 制作
の訓 練は, こう した長い時間 を か けて試 行 錯 誤によ っ て でき あが っ た場でな されること を
基 本 方 針と して い る。
しかも, カペラ ・ ゴ ー デ
ン
で課さ れ る制 作 課 題のは と ん ど は, わ れ わ れ が生 きて いる現 実の生 活からかけ 離れ ること なく, 具 体 的で 平 静な 日々
の 中で必要と感 じるもの に向け られる。 「わ れ わ れ」 という対 象は, 主に使 用 者と して の他者であ り, そ こ に動 機の発 見 と 他 者へa
)
配 慮 がなさ れる よう.な 仕掛けが施 さ れて い る.‑
カペラ ・ ゴ ー デン では, こ の ように自然 と 生 活に欠 かせない木 製の椅子や机, ベッ ドや
本 棚, 陶器, 雰 囲気を 大 き く 左 右 する織物な どに関 心 が向け られ, その使用者と しての経 験も同 時に積み重 ね ら れ るように生 活 全般へ
の配 慮が なさ れて いる。
これは, 結 果として木工, 陶 器, 織 物, 莱 園 という専攻が有機 的に関 連 する ように意 図 さ れてお り, 発 想 と 刺 激の源 泉 を 幅 広いもの
にするの に役 立 っ て い る。 他の専攻の制 作者 との人 的 関 係 も 深めら れ, 境 界 領 域で制 作 す る場合で の共 同作業の訓 練にも なっ て いる。
伝 統に つ な がり, 生 活 全 般に拘 わっ た制 作 環境は, 自ずとその作品に 「信 頼性」 という ものを要 求する。 こ こでいう信 頼性 とは, 技 術が し っ か り してい る.こと, 使いや すい こ と, 制作意 図 が誰か ら も明 確であり, モノを 介した共 感が感 じ ら れるというよう なこと を 指 して い る。 自己中心的な表現に偏 りすぎた り, 営利だ け を目的 と した作品 とは考え方を ま っ たく 異にして いる。
以 上の能 力 をカペラ ・ ゴ ー デン で身に付 け れ ば, 専門の家 具 職 人や 工芸家と して, ある いは家 具の デザ イ ナ ー や経 営者と して の道 も 開 けて いく という*1。
実際の実技 課 題の流 れは, 伝 統 的な技 法に
よ っ て作ることの出来る単 純な作品か らはじ
めて, そして徐
々
に高度な作品へと 展 開 していくように作ら れて いる。 こう した流 れは技 術習得のた めの段 階 的なステ ップア ッ プを 意 図 した課 題構成で はある が, 徐
々
に作品の種 類 を 拡 大 して住 空 間における快 適 性のデザ イ ンカ を 総 合 的に身に付 けることを 目 指 して い る。 具 体 的には, は じ めに ス ツ ー ル制 作か ら 始め, そのス
ツ ー ル に対 応 してテ ー ブルを 制 作する。 そして これ らの側に必 要な ラ イ トスカ
ペラ
・ゴ
ー デン美 術工
芸学校 を再考して
タ ン ドを制 作し, そ して‑壁際に 置 くための
キ
ャ
ビネ ッ ト へと 制作の歩を 進め るの で あ る・。 何 れにしろ カペラ・ ゴ ー デン の教育には 使用者の立場に立脚した視点が あるという ここ と ができる。̲さて, こう した教育理 念が実際にはどの よ うに学 習者の日々 の生 活 と 活 動に活 か さ れて いるか を
っ
ぶさに紹介しな け れ ば, 本当の実 態は知 り え ないもの に なっ て しま う。 そ こ で, 当学校の 一 人の学生に焦点を当て, その 学 生 が実 際にどうの よう な 活動を行っ ている か をか なり 詳 しく報 告することで話に具体性 を 与 えることにしたい。3 一 人の 学 習者の活 動
力ベラゴ ー デン で学 ぶ 学 生の中には, 既婚 者や企 業 か らの社会 人 入学 者な ど も含ま れて
い る。 こう した学 生 らは個 別の借 家に住み,
必 ず し も他の 一 般的な学生 と 行動を 同 じく す るとは限 らない の で, こ こ ではこう した特 例 を外して, 学内の生 活ル ー ルや時間割に沿 っ
て学 生 生 活 を 送る 一 人の学 習 者をサ ンプル
に, その制作活動を 追 っ てみたい。
3 . 1 学習者の プロ フ
ィ
ー ル学 習者R 氏は木材工芸専攻の3 年 生で, 学 校の敷地 内に設 け ら れた宿舎の 一
つ
メ ラ ン ゴ ー ラ ンド邸の 一 員であ る。 無口 で自己管理 能力に富 む 彼は ウ メ オ市より も さ らに北の出 身で, 年齢は2 2歳である。木材加工機械の 一 種, 手押しカ ンナ盤*2を 使っ て作 業する彼の様子を 観察すると, 基本 的な制作姿 勢が 既に身に
つ
い て い ることがう か がわ れる. 聞 け ば高校 卒業後, 木材機械 加 工の専門 学 校におい て 1 年 間学ん だという。彼は1 年 生から3 年 生 まで の学 生 が作業する 工房の中に い て, 現 在, 卒 業 制 作の課 題に取 り 組ん で いる。
7
Ⅰ
3 . 2 社 会上ヒの
つ
こなが り を考慮 し た 課 題■ さて, 彼が現 在 制 作:L て いるの は卒業制作の作品である。 彼は こ の制 作に際して,.‑ス トック ホル ム の建 築事 務 所が設計する某銀行
の新しい オ フ
ィ
ス設計に参加する許可 を 得 た。 こ の銀 行のオフィ
ス には1 0畳はどの接 客 用の食 堂 が 計 画 さ れて い て ∴彼はこ の食 堂の 壁面に食器 を納 める た めのキャ
ゼネッ トを制 作すること を 課 題 と した。‑カペラ ・ ゴ ー デンで出題 さ れる課 題の特 色
は, 「美 しい椅 子」, 「楽しい椅子」, 「遊 び 心
のある椅子」 など とい っ た抽象的 な条 件で出 題 さ れ ること が ないという点である。 無論こ れ らの要素は作品の 一 要素と して尊重 さ れる が, こ こ で の課 題 は実 際の社 会との関 連 を 持っ た中で行わ れる。 工芸品制作を 個 人の表 現でなく実際(7)使用に従っ たもの へ と導くた
めである。
こ こ で実社会との つ ながりの中で課 さ れる 課 題 とは他にどのよう な例が あるかその2 , 3 を 紹介する。. 同 じ時期に2 年 生に課された 課 題は, 「石 と木を使っ た テ ー ブル制作」 で
ある。 こ の課 題で学習者はあ‑らか じめ地場産 業である石材所と 木工所をそれぞれ 見学し, 素 材の特性や加工方法に つ いて解 説 を 受 け,
学習者達はこう した知 識 を も とに計画 を 立て
た。 こ の課 題に対してある学 習者は, 郵便 局
で販 売 さ れている割安の定 型小包 箱の寸 法 を 調
べ
, これに ピックリと 入る折りた た み スツ ー ルを制作した。
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