九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
液滴蒸発およびプール沸騰に及ぼす表面濡れ性の影 響
日髙, 澄具
https://doi.org/10.15017/1866374
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
液滴蒸発およびプール沸騰に及ぼす表面濡れ性の影響
日髙 澄具
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目 次
記号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
第 1 章 序論
1. 1 研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1. 2 従来の研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1. 3 濡れ現象の基礎と評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 1. 4 光励起超親水化現象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 1. 5 プラズマ照射による濡れ性改善・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 1. 6 プール沸騰の熱伝達改善・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 1. 7 本研究の位置付けと本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
第 2 章 光励起親水化現象による液滴蒸発の促進
2. 1 光励起親水性伝熱面・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 2. 2 実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 2. 3 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・42 2. 4 実験結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 2. 5 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
第 3 章 プラズマ照射による液滴蒸発の促進
3. 1 プラズマ照射伝熱面・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 3. 2 実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
3. 3 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 3. 4 実験結果と考察
3. 4. 1 接触角測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71 3. 4. 2 液滴蒸発実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76
2
3. 5 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89
第 4 章 プール沸騰に及ぼす表面濡れ性の効果 4. 1 超親水性伝熱面でのプール沸騰
4. 1. 1 親水性伝熱面・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90
4. 1. 2 実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・93 4. 1. 3 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95
4. 1. 4 実験結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・96 4. 1. 5 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・101
4. 2 超撥水性伝熱面でのプール沸騰
4. 2. 1 超撥水性伝熱面 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102 4. 2. 2 実験装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・111 4. 2. 3 実験方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113 4. 2. 4 実験結果と考察
4. 2. 4. 1 全面超撥水性伝熱面の飽和沸騰・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
4. 2. 4. 2 格子状および斑点状 の超撥水性伝熱面の飽和沸騰・・・・・・・・122
4. 2. 5 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・138
第 5 章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・139 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・142 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149
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記号
A : 平滑な表面における表面積 m2 A1 : 微細な凹凸構造を持つ表面における表面積 m2 C : 比熱 [kJ/(kg K)]
d : 液滴の広がり直径 m D : 液滴直径 [ m ] f : 光の振動数 [ Hz ] fa : 面 aの面積 m2 fb : 面 bの面積 m2 g : 重力加速度 m/s2 h : プランク定数 [J∙s]
hd : 液滴の高さ m
∆hv : 蒸発潜熱 [J/kg]
H : 液滴の落下高さ m P : 圧力 [ Pa ] Pr : プラントル数 [ - ] q : 熱流束 [ W/m2 ] r : 凸凹面の表面積が平らな面に比べ何倍かを表わす [ - ] Ta : 水の温度 [°C]
Tb : 濡れ限界温度 [°C]
Tw : 伝熱面表面温度 [°C]
v : 液滴の伝熱面への衝突時の速度 m/s
We : 慣性力と表面張力の比を表わす [ - ] α : 熱伝達係数 [ W/(m2·K) ]
S : 固体の表面張力 N/m
L : 液体の表面張力 N/m
SL : 固液界面の界面張力 N/m
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’S : みかけの固気界面の表面 張力 N/m
’L : みかけの気液界面の表面張力 N/m
’SL : みかけの固液界面の界面張力 N/m
: 熱伝導率 [W/(m K)]
: 平滑な表面における接触角
R : 凹凸表面における接触角
f : 前進接触角
r : 後退接触角
S : 転落角
a : 面 aの接触角
b : 面 bの接触角
0c : Cassie の式による接触角
: 密度 kg/m3
: 動粘性係数 [m2/s]
添字
l : 液体
v : 蒸気
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第 1 章 序論
1. 1 研究の背景
液体による固体表面の 濡れ現象は,ごくありふれたもので日常的に経験し ている.この固体 表面の濡れ 性は,工業上非常に 重要であ り,印刷,接着,
塗装,微細加工の際の表面洗浄など多くの場合において,深く関わっている.
濡れ性の制御技術として,液体側を界面活性剤などの添加により 濡れやすく する方法と固体表面 側を種々の表面改質法により濡れやすく,あるいは濡れ にくくする方法が 知られている.この濡れを評価する 方法として,Fig. 1.1 に示すように,固体表面に置かれた液滴が固体と接した部分が作る角度()
である接触角が用いられることが多い.
Fig. 1.1 Contact angle
一方,工業上一般的に見られる圧延鋼板の噴霧・噴流冷却,鉄鋼材 焼入れ などの熱処理における高温物体の冷却においては,沸騰,蒸発などの気液相 変化伝熱が重要であ る.固体表面側の濡れ性を制御し濡れ性を変化させるこ とによる伝熱特性の変化,特に相変化伝熱に対する効果に関心が高まってい る.濡れ性の効果を正確に議論するには伝熱面の濡れ性 のみを変化させた実 験を行う必要がある.従来,伝熱面に何らかの物質をコーティングすること により濡れ性を変化させていたが,浸漬冷却実験などにおいては,コーティ ン グ 層 を ミ ク ロ ン オ ー ダ ー ま で 薄 く し て も コ ー テ ィ ン グ 層 自 体 の 熱 物 性 の
Gas
Liquid
Solid
θ
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影響を無視できず濡れ性のみの影響は 得られなかった.
この研究で用いる光触媒については古くから研究され,紫外線照射により 抗菌,防汚,脱臭などの機能を有することが知られてい る.光触媒である酸 化 チ タ ン に 紫 外 線 照 射 す る こ と で 酸 化 チ タ ン 表 面 の 濡 れ 性 が 高 ま る 光 励 起 超親水化現象が,1995 年に発見され(1),この現象を利用することで表面の 熱 物性を変化させることなく濡れ性のみを変化させることが可能となった.本 研究に先立ち,この 現象をプール沸騰の伝熱面に応用し,限界熱流束が 1.5
~2 倍大きくなる結果を得ている(2), (3).
この他に表面の濡れ性を改善させる方法として,工業的には プラズマ照射 が,印刷,接着,ハンダ付けなどの工程 において利用されている.プラズマ 装置は真空状態が必要なため バッチ式処理となっており,その限られた空間 の中で有機物の除去,レジストのエッチングや表面改質,還元処理などの処 理目的に応じて反応ガスを変えて使用されている.
近年,大気プラズマ表面改質装置が開発され,真空チャンバ不要で高速な 表面改質処理が可能となり,前述の工程などに利用が広がっている.
Fig. 1.2 に液滴の蒸発特性曲線(4)を示す.図中に見られるように蒸発特性
曲線はプール沸騰や強制対流沸騰で得られる沸騰特性曲線の自由対流,核沸 騰,遷移沸騰,膜沸騰の領域と対応している.プール沸騰実験においては伝 熱 面 表 面 の 汚 損 な ど が 加 わ り 濡 れ 性 の 効 果 だ け を 抽 出 す る こ と が 困 難 で あ る.そのため単一液滴の蒸発実験において,こ れら光触媒・プラズマ照射に より表面濡れ性のみを変化させる方法を 適用し,熱伝達特性に影響する濡れ 性の影響を調べた.
また,表面濡れ性を大きく変化させたプール沸騰実験の報告は極めて少な い.酸化チタンの光励起超親水性伝熱面を用いたプール沸騰実験において 熱 伝 達 特性 を調 べ た. 一方 では ,PTFE(Polyetafluoroethylene) を 分散 した 電 気メッキによる全面超撥水性伝熱面,格子状・斑点状 に超撥水メッキを施し た伝熱面を用いてプール沸騰実験を行い熱伝達特性への影響を調べた.
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Fig. 1.2 Evaporation Curve
Nucleate Boiling Regime Single
Phase Regime
Transition Boiling Regime
Film Boiling Regime
Vapor Blanket
Incipience of Nucleate Boiling
Leidenfrost Point
Critical Heat Flux
Surface Temperature [ºC]
Evaporation Time [sec]
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1. 2 従来の研究
濡れ性が大きく関与する 液体と高温物体の伝熱現象は,強制対流伝熱や沸 騰伝熱のように工業上ごく一般的に見られる.とりわけ圧延鋼板の噴霧・噴 流冷却,鉄鋼材の焼入れなどの熱処理における噴霧冷 却,また原子炉の燃料
Fig. 1.3 Cooling Curve
Single Phase Regime Transition
Boiling Regime Film
Boiling Regime
Onset of Single Phase Cooling Minimum Heat
Flux of Leidenfrost Point
Time [s]
Temperature [ºC]
Critical Heat Flux
Jets and
Columns Isolated
Bubbles Nucleate
Boiling Regime
Time [sec]
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棒の再冠水などにおいては,沸騰によりこれ らの材料を過渡的に冷却する過 渡沸騰現象が起こる.通常,この現象は Fig. 1.3 のように縦軸に冷却物体温 度,横軸に経過時間をとった冷却曲線(4)で表現される.これまで,この現象 を詳細に調べるため,単一液滴の蒸発実験が数多く行われ,液滴-高温固体 面間の伝熱現象は「Leidenfrost」現象として扱われてきた.Leidenfrost 現象 における伝熱特性は,Fig.1.2に示した蒸発曲線により表される場合が多く,
液滴の固体表面上で の蒸発時間と初期固体面温度に ついて示している.その 極大値を示す固体面温度は Leidenfrost温度と定義されている
これまで,噴霧冷却に注目した研究が,戸田(5)~(9),庄司ら(10),千田ら(11), 稲田ら(12)~(14),Bernardin ら(15)~(19)により行われている.戸田(5)~(9)は,液滴
の Leidenfrost 現象は高温伝熱面上の液滴が蒸気層によって伝熱面と遮られ
た状態で蒸発し,膜沸騰状態となる現象である とした.噴霧冷却では高速の 小 液 滴 群 が 高 温 面 に 衝 突 し 流 体 力 学 的 相 互 作 用 の 結 果 と し て 非 常 に 薄 い 液 膜を形成し気化していく現象であり,流体力学的にも熱工学的にも 単一液滴
の Leidenfrost 現象とは根本的に異なるとしている.彼らは,噴霧冷却実験,
単一液滴衝突実験の結果より伝熱機構を理論解析により明らかにし ,理論と 実験の 比較を 行い , 非常に よく一 致す る ことを 示した .庄 司 ら(10)は ,噴霧 による高温加熱面における非 濡れ領域の熱伝達を検討した.伝熱機構を明ら かにするため,単一の液滴列を用い,高温加熱面と液滴間の熱伝達につい て 調べ, 衝突 液滴 の挙 動,伝 熱特 性を 明ら かにし た. 千田 ら(11)は,液 滴の 高 温 面 衝 突 時 の 変 形 と 分 裂 に 影 響 を 及 ぼ す 固 液 界 面 で の 蒸 気 発 生 機 構 を 明 ら かにすべく直径数百m で比較的高速の均一液滴列を高温壁面に衝突させ,
非定常実験により衝突液滴への熱伝達 効率,熱流束および熱伝達率を測定し た.また,液滴の加熱面衝突後に形成される液膜流の変形及び分裂挙動を観 察し,熱伝達特性との関係について検討し ,壁面上の残留液膜と衝突液滴の 干渉のため,壁面温度 150°C 以上の温度範囲において衝突速度が増加するに 伴い熱伝達特性は低下するとした.稲田ら(12)~(14)は,最大蒸発率点近傍から
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完全な非濡れ領域に至るまでの遷移領域について,この領域の熱伝達特性が 液滴サブクール度により大きく異なることに注目し,液滴蒸発曲線に及ぼす 影響を調べ,更にサブクールプール沸騰曲線を対応させ固液接触状態 に関し て定性的説明を試みた.また,定量的に固液接触状態を把握するため,液滴 直径とWe数を変化させ広範囲にわたる各初期加熱面温度における加熱面上 での液滴挙動とその際の加熱面表面温度変動を得た.それらにより初期加熱 面温度で明確に,固液接触状態を核沸騰タイプ,潜熱輸送タイプ,微細化沸 騰タイプおよび薄蒸気膜沸騰 タイプの 4 つに分類できるとした.また,瞬間 的な固液接触状態の持続時間における加熱面温度と熱物性の役割 ,臨界気泡 半径と測定された気液界面圧力差の関係 を明らかにした.
Bernardin ら(15)~(19)は,単一液滴流の伝熱特性を噴霧冷却の膜沸騰熱伝達
へ適用するための実験及び整理式を示した.高温面への液滴の衝突挙動 では 液滴速度と表面温度が重要なパラメータであり ,液滴衝突挙動を理解するた め に 有 用 な 沸 騰 域 を 区 別 す る 液 滴 衝 突 領 域 マ ッ プ を 作 成 し た . さ ら に
Leidenfrost点に及ぼす液体の物性 ,加熱面表面粗さ,表面汚損の影響を詳細
に調べるために液滴蒸発実験 を行い,これらのデータより 気泡核生成につい て構成された Leidenfrost 点モデルに基づく新しい理論が 示され,このモデ
ルでは Leidenfrost 点より高い固液接触面温度では,活性なキャビティ数が
十分であり,固液間に瞬間に連続的な蒸気層が作られ,気泡成長が早いとし ている.このモデルはキャビティ半径(0.1-1m)と同じ粗さを持つ滑らか な面に対し適用されるものだが,粗い面に対しても Leidenfrost 温度を精度 よく予測できるとしている.
Leidenfrost 現 象 に 関 連 し た 研 究 は ,Gottfried ら(20),Wachers ら(21), Baumeister ら(22)~(24),Pederson(25),Michiyoshi ら(26),Ueda ら(27),西尾(28), Chandraら(29),閔ら(30),Hatta ら(31),Chaves ら(32),Wang ら(33),Celataら(34), Bianceら(35), Xieら(36)によってなされている.Gottfried ら(20)は膜沸騰域での 液滴の全蒸発時間を測定し, Leidenfrost 点は液滴の大きさに影響されない
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とした. Leidenfrost 現象の理論モデルを示し,このモデルによる全蒸発時 間と実験データを比較すると 20%以内で一致した.Wachers ら(21)は高温面に おける液滴の熱伝達を検討した.飽和雰囲気中で実験的に決定した蒸発割合 は,液滴底部は平滑であると仮定した簡単な理論値とよく一致したが,液滴 底部の曲率を考慮した理論値との一致は良く なく,これは液滴底部の周期振 動のためとしている.また,Leidenfrost状態の起こる限界温度は ,液滴体積,
振動の大きさ,表面の粗さに依存するとしている.Baumeister ら(22)~(24)は,
液滴の Leidenfrost 状態を維持するために必要な下限の表面温度は飽和温度
にかなり近いことを実験により示した .安定な膜沸騰域から加熱面をゆっく り冷やし,系の不安定を除くことにより 飽和温度と同じくらいの加熱面温度 でも膜沸騰状態を維持できるとしている.この観察は一般的 に認められてい
る Leidenfrost 点の理論的な考え方と基本概念を修正し,これはこれまでに
報 告 さ れ た Leidenfrost 点 が 研 究 者 に よ り 異 な っ た こ と を 説 明 す る . Pederson(22)は 加 熱 面 に 衝 突 す る 単 一 液 滴 の 熱 伝 達 に つ い て 接 近 速 度 が 液 滴 の熱伝達に影響する支配的な変数であり,その表面温度は非 濡れ領域におけ る熱伝達に影響することを示した.Michiyoshi ら(26)は滑らかな多種類の金属 表面上での単一液滴 の蒸発熱伝達特性を蒸発曲線,沸騰曲線で表した.遷移 沸騰域では材質の影響が大きいが核沸騰域,膜沸騰域では差が見られないと している.Uedaら(27)は,垂直な高温面に飽和温度の液滴列を衝突させ,We
数 10~200 の範囲について,液滴あたりの伝熱量,衝突時の液滴挙動および
熱伝達特性を調べた.衝突による液滴あたりの伝熱量の表示には熱伝達効率
( 衝 突 に よ る 伝 熱 量 と そ の 液 滴 を す べ て 蒸 発 さ せ る た め に 要 す る 熱 量 と の 比)を用いた.伝熱面温度が高い範囲では熱伝達効率は極めて小さく,伝熱 面温度が低下すると その値は急上昇する遷移域に入る.伝熱面温度がさらに 低下すると熱伝達効率は再び低下することがわかった.伝熱面上の液滴の挙 動を高速度カメラにより観察し た結果,高温面上では We 数が 70 以下であ れば分 裂しな いこ と がわか った. 西 尾(28)は,液 体・高 温物 体 がそれ ぞれ単
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一液滴・高温固体面として存在する Leidenfrost 系の伝熱問題について実験 研究を行い詳細に検討した.その結果,Leidenfrost系における固液接触に対 しては,液滴衝突速度が支配すると考えられるとした.液滴衝突過程におけ る 固 液 接 触 の 動 的 挙 動 が 固 体 面 温 度 上 昇 と と も に 変 形 拘 束 さ れ て い く 過 程 が観察され,固液接触過程に生じる障害 として固液接触発生の阻止,固液接 触界面付近の液体の自発核生成による濡れ面の消失,濡れ境界前進速度の劣 化,濡れ境界後退運動の発生,間接的障害による濡れ面での液体欠乏の 5つ の類型に分類された .金属固体面におけるサブクール水滴の蒸発時間と固液 接触時間の同時計測により,Leidenfrost点近くの固液接触時間が液滴の自由 振動周期程度の時間であること や,初期固体面温度 600°C 程度まで固液接触 が発生することが確認された.固体面の熱的性格は Leidenfrost 温度に対し て影響が大きい.固液接触の発生に伴う接触界面温度変化は二物体の急接近 から核生成を経て過渡核沸騰へ至る間の非定常熱伝導を解くことにより,実 測値を比較的再現できる.Leidenfrost 温度の整理式と接触面温度変化に対す る熱伝導モデルとを組み合わせた非定常熱伝 導モデルにより Leidenfrost 温 度に対する固体面の熱的性質・液滴の直径・系の圧力の影響を評価できたと した.
Chandra ら(29)は,ステンレス面への液滴の衝突力学の研究を行 い,液滴崩
壊過程の液滴構造を明らかにした.薄い液膜上での液滴の広がりについても 検討し,表面張力と粘性係数を無視することで衝突初期の段階での測定値は,
以前の解析と一致し,液滴の最大広がり長さは簡単なモデルからの予測値と 一致す るとし てい る . 閔 ら(30)は, 耐熱 塗 料を薄 く被覆 した ス テンレ ス鋼を 加熱面として水滴の蒸発実験を行い ,水滴の蒸発過程におけるステンレス鋼 の温度を 4 箇所で実測し,その温度により 2 次元熱伝導の逆計算により伝熱 面表面温度および熱流 束を求めた.液滴が伝熱面に衝突して蒸発する場合,
伝熱面表面温度変化は 突変域,過渡域,準定常域,回復域の 4つの領域に分 けられ,伝熱面熱流束は液滴衝突後で極大値をとる.固液接触面において伝
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熱 面 表 面 温 度 は 一 様 分 布 に 近 い が 熱 流 束 は 中 心 部 よ り 周 辺 部 が 大 き い と し た.Hatta ら(31)は,Leidenfrost温度より高い表面に衝突する直径 300~600μm の液滴の実験を行った.直径 2~3mm の液滴で得られた経験式がこれらの液 滴径に適用可能か検討した.液滴が加熱面から小液滴に分裂することなしに 飛び上がる際の We 数と復元係数の関係を 明らかにし,液滴広がり直径と付 着時間を調べ経験式と比較した.Chaves ら(32)は,液体の飽和温度以上に加 熱した面に液滴を落とし ,界面に沿って広がった薄い液膜の中に おける気泡 発生と対流を観察し,気泡成長速度,最大直径,液膜内の対流セルの形式と 崩壊を記録し解析した. その結果,液膜内の気泡成長速度は,We 数に依存 せず固体温度に依存し,最大直径は両方に依存するとしている.Wang ら(33) は,200より小さい We 数に対し,加熱面への 550μm の単一液滴の衝突現象 を実験的に完全濡れ,濡れ膜沸騰,遷移,乾き飛散,乾き分裂飛散の 5 つの 促成パターに分類した.始めの 2 つは濡れ衝突パターン,後の 2 つは乾き衝 突パターンであり,高い We数に対しては,乾き衝突は膜効果が消滅される ため,一般に Leidenfrost 温度と考えられる温度より表面温度はかなり低く なるとしている.Celata ら(34)は,Leidenfrost 温度前後の温度で表面の傾き,
液滴速度,表面温度を変化させることで加熱面に衝突する単一液滴の 挙動を 実験的に評価し,液滴飛散温度を見積もった.液滴飛散温度における 液滴速 度の影響は明らかとなり,表面傾斜では液 滴が表面に再衝突しないことで温 度の限界値を減少させたとした.Biance ら(35)は,Leidenfrost 時の液滴最大 直径と高さの関係について調べ ,Leidenfrost 液滴と固体面の間の蒸気層の厚 さを 測 定し ,蒸 気 層 の厚 さ は液 滴半 径 に 依存 す るこ とを 示 し た.Xie ら(36)
は,Leidenfrost 点近くの液敵蒸発過程について理論的に研究した.蒸発過程
において熱伝達有効率の変化を考慮し,飛散すると きと球状のときの 2 つの モデルを立てた.初期 We 数,液滴径,固体表面加熱度と濡れ性がこのモデ ルに含まれる.実験データと理論値を比較することで,蒸発過程はこのモデ ルにより予測でき Leidenfrost 点は熱伝達機構の分岐点ではないことを示唆
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した.
表面濡れ性と相変化伝熱についての研究は,鴨志田 ら(37),Maracy ら(38), Liaw ら(39),庄司ら(40)~(42),賞雅ら(43)~(46)により行われた.鴨志田ら(37)は,
プール沸騰中における気泡の接触角を測定しているが,その範囲は 50°~60°
と狭く熱伝達に大きな差は見られなかった.Maracy ら(38)は,プール水中の 遷移沸騰におけるヒステリシスと接触角の影響を調べた.接触角が小さいほ ど遷移域の熱伝達は良くなり ,また,限界熱流束は大きくなることを示した.
Liaw ら(39)は表面の濡れ性を変化させるため高温 酸化による膜とシリコンシ ーラント膜を用いた.大気圧プール沸騰で水とフレオン 113 を用いて実験を 行い,遷移沸騰ではヒステリシスがあり,表面濡れ性が小さいと限界熱流束 は大きくなることを示した.庄司ら(40)~(42)は,表面濡れ性は相変化系の重要 な役割を担うが,その物理的理解は十分でないとしている.表面濡れ性は接 触角で評価されることが多いが,物質表面の接触角は前進,後退接触角の間 の 任 意 の 値 を 取 る と い う ヒ ス テ リ シ ス の た め あ ま り 大 き な 意 味 を 持 た な い としている.液滴の大きさ,固体表面の酸化,表面粗さ,系温度,固体面材 質の影響などを綿密にしらべ,固体面と液体の濡れの新しい評価法として,
表 面 粗 さ と 界 面 エ ネ ル ギ ー に 関 係 し た 値 を 用 い る 方 法 を 提 案 し た . 賞 雅 ら
(43)~(46)は,プラズマ照射により酸化膜をつけたジルカロイやチタンにγ線を 照射することで親水化する放射線誘起表面活性を見出した.クエンチング実 験,Leidenfrost実験,プール沸騰実験によりその伝熱性能を検証している.
筆者らは,これまでに酸化チタンをコーティングした銅試料を用いて浸漬 冷却実験を行った(2).コーティングした銅試料はコーティングを施していな いものよりも速く冷却された.この結果は,きわめて高い濡れ性のために,
極小熱流束(MHF)が高温側に移行したことを示している.
次いで,酸化チタンをスパッタリングした銅伝熱面を用い,紫外線照射に よ り 接 触 角 を 変 化 さ せ た 場 合 の 沸 騰 や 蒸 発 熱 伝 達 の 実 験 を 行 っ て い る
(3),(47),(48).同様にプラズマ照射による接触角の変化による伝熱促進を図り,
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加熱面上で単一液滴を蒸発させる実験を行った(49) ,(50).加熱面上の液滴の蒸 発については,これまでに数多くの研究がなされているが,伝熱面の材質を 変えることなく接触角のみを変化させた実験はなされていない.
また,PTFE 分散電気メッキを施し 超撥水性を持った伝 熱面でのプール沸 騰実験も行っている(51)(52).
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1. 3 濡れ現象の基礎と評価
固体表面に水などの液体が接触する と濡れが生じる.この濡れ具合は,一 般的には接触角で評価する.Fig. 1.1 に示すように接触角とは,固体表面に 液滴を付着させたとき,液滴と固体表面が接触している部分が作る角度() のことである.
この接触角は表面張力のバランスで決まる.液体の表面張力は直接的に測 定できるが,固体に関しては表面張力の測定が困難である.そこで接触角を 測定して固体の表面自由エネルギーに対応する物性を求めるのである.濡れ やすいということは,液滴が広が る方向にむかうので,固液界面の自由エネ ルギーが低いということになる.逆に,濡れにく いということは,固液界面 の 自 由 エ ネ ル ギ ー が 比 較 し て 大 き い と い う こ と に な る . 固 体 の 表 面 張 力 を
S ,液体の表面 張 力をL ,固液界面 の界面張力SL とし たとき , 接触角
との関係を示した Young(53)の式は,次式のように表される.
S SL Lcos (1.1)
液滴が固体表面に付着したとき, 3 つのベクトル和がつりあったときに液 滴の形状が静止する.ここで液体の表面張力L と垂直成分L cos は固体 表面の垂直抗力とつりあっているの ものとする.
Spreading wetting Immersional wetting Adhesional wetting
Fig. 1.5 Three Type of the Wettability
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接触角で濡れのタイプを分けると Fig. 1.5 に示す様に拡張濡れ(Spreading wetting)・浸漬濡れ(Immersional wetting)・付着濡れ(Adhesional wetting)
の 3 つに分けることができる.
一般的に ≦90°の場合は親液性(液体が水の場合は親水性,油の場合は親
油性), > 90°の場合は撥液性(撥水性・撥油性)という.
前述した接触角は,固体面が水平の場合である が,固体面を傾けていくと
重力の影響から液滴の曲面は変形し,表面から滑り落ちていくこともある.
Fig. 1.6に示すように液滴が転落する直前の接触角のうち,前進方向の接触
角を前進接触角f ,後退方向の接触角を後退接触角r という.
また,液滴が転落する寸前の固体面の角度を転落角S という.転落角S
は一般に撥液性を評価す るときに用いられる.一般的には接触角の大きな液 体は転落角が小さくなると考えられているが,接触角が大きい場合でも転落 角が小さくなるとは限らない.接触角が 180° に近いような超撥水状態とよ ばれる状態では,転落角は非常に小さい.しかし,接触角が大きくなると液 滴が付着しなくなるとは限らず,接触角が小さくても液滴が小さい角度でず れ落ちる場合もある.結果として,液体が固体に 付着しやすいかどうかは接
Fig. 1.6 Explanation of the Angle
f:Advancing Contact Angle
S:Falling Angle
r:Reducing Contact Angle Liquid
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触角では評価できない ため,転落角を測定しなければならない.なお,前進 接触角と後退接触角には ヒステリシスが生じるが,この原因を説明する説が 三つある.第一が吸着説,であり固体面上に吸着される様々な物質が接触角 を変えるとする考え方である.第二は粗面説,で完全に平滑な固体表面とい うものは存在せず,あらゆるものが少なからず粗さを有している ことから,
この表面の凹凸が原因であると する考え方である.第三は摩擦説,で固体面 上を液体が移動するときに,運動方向に対して摩擦力に似た抵抗が生じると する考え方である.
これまで記述したもの は全て静的な接触角であるが,次に動的な接触角を 二種類に分類する.一つは同じ状態で放置したときに起こる接触角の経時変 化.もう一つは,外部からの刺激によって変化する接触角である.接触角を 測定する際に関係するのは最初の 経時変化であり,純液体であるならば液体 の表面張力は固体面に付着すると たちまち平衡状態に達してしまうが,接触 角はゆっくりと経時変化する.通常 の状態で接触角の経時変化を測定した場 合,接触角はゆっくりと小さくなっていく.液滴は蒸発 によりその体積を減 じていくが,その液滴形状ひいては接触角を保持したまま相似的に小さくな るわけではない.接触角 は刻一刻と変化し続けている ため,厳密に言えば接 触角は一定ではない.しかしそれでは接触角を定義することが不可能とな る ため,一般に短時間に手際よく測定された値を真の接触角としている.本研 究でもこのことを踏まえた上で接触角を測定している.
一 般 に 固 体 表 面 の 液 体 に 対 す る 濡 れ 性 は 固 体 表 面 の 化 学 的 性 質 と 表 面 粗 さの二つの因子によって決まる.本研究では,プラズマ照射実験において 固 体表面の濡れの制御に,表面粗さを変化させる方法も用いている.そこで,
表面粗さが濡れにおよぼす影響も検討した.同じ物質での平滑な表面と,微 細な凹凸がある表面とがある場合,凹凸表面における接触角R と,平滑な 表面における接触角 とでは異なる.平滑な表面における表面積を A,微細 な凹凸構造を持つ表面における表面積を A1とし,r = A1/ A (r >1)と定義する.
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rは凹凸面の表面積が平滑な面に比べ何倍になったかを表す因子であり,表 面積倍増因子と呼ぶ.凹凸表面において,みかけの固-気界面の表面張力を
’S , 気-液界面 の表 面張力 を’L , 固-液 界面の 界面張 力’SL とする .こ れ らの釣り合いから接触角R が決まり
L SL S
R '
' cos '
(1.2)
と表すことができる.そして表面積の変化にともない,凹凸面におけるみか けの表面張力は,平滑面における表面張力の r 倍になっていると考え ら れ る.つまり平滑な表面の表面張力と,凹凸表面の表面張力との間には以下の ような関係が成り立つ,
S S
S r
A
A
' 1 (1.3)
SL SL
SL r
A
A
' 1 (1.4)
L
L
' (1.5) 液体の表面張力L に関しては,表面粗さは関係 しないので変化 し ない. こ れらの関係から,凹凸面における接触角Rは(1.1) (1.2) (1.3) (1.4) (1.5)より,
cos
' '
cos ' r r r r
L SL S L
SL S L
SL S
R
(1.6)
となる.上式は Wenzel(54)の式とよばれ,平滑表面の濡れと凹凸表面の濡れ の関係を与える式である.また,この式から以下のことを導くことができる.
表面積倍増因子 r はつねに 1 より大きいので,凹凸表面における接触角R は,平滑表面における接触角が 90°より大きい時にはより大きくなり,
が 90° より小さい場合には より小さくなる.つまり,固体表面の微細 な凹凸構造が濡れに影響をあたえ,親 水的な表面はより親水的に,撥水的な 表面はより撥水的になるのである.
また式(1.6)から,凹凸面上における濡れは固体表面の化学的性質と表面粗
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さという二つの因子の積として決まっていることも見て取ることができる.
表面積倍増因子 r が表面粗さの因子を表しており,( S -SL )/L が化学的 性質を現している.つまりこの式から,表面粗さは化学的 性質から決まる濡 れを掛け算の形で強調する働きをしているのである.
Cassie(55)は 固 体 表 面 の 濡 れ 性 が 不 均 一 な 場 合 へ と Young(53)の 式 を 拡 張 し た.平滑面における接触角 θ aと θbの二種の表面が面積比 fa : f b (f a+ fb=1) で存在する場合,接触角 θ0cは以下の Cassie の式で示される.
cos θ 0 c = facos θa + f b cos θ b (1.7) Wenzel(54)の 式 は 表 面 の 溝 に 沿 っ て 液 体 が 存 在 し て い る 事 を 仮 定 し て い る
(Wenzel state) が , 一 方 で 表 面 の 溝 に 液 体 が 浸 透 せ ず 空 隙 層 が あ る 場 合
(Cassie-Baxter state),固体表面の一方を空気として Cassie(55)の式を用いる ことができる.面 b を空気とし,液体と空気の接触角が 180°であることを 仮定すると,式 1.7 は,
cos θ 0 c = f a cos θ a + f b (1.8) と書き換えられる.この式から,固液接触面に空隙層が挟まれる場合に平衡 接触角が増加することがわかる.
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1. 4 光励起超親水化現象
光触媒の一種で ある酸化チタンは,紫外線による光 励起 反応により抗菌,
防汚,脱臭などの環境浄化、また超親水性によるセルフクリーニングなど を 行う有用な物質として,近年 ,研究開発が盛んに進められている.
この研究の始まりは,1968 年頃に本多,藤嶋ら(56)が行った酸化チタンを 電極として光によって水から酸素を発生させる実験である.彼らは,この現 象を光増感電解反応と名づけ,光を当てることによって酸化チタン電極側に 酸素を発生させ対極の金属電極側に水素を発生させ ,この現象はホンダ-フ ジシマ効果とも呼ばれた.1980 年頃に坂田ら(57)は,電極ではなく酸化チタ ン に 直 接 白 金 を つ け た ミ ク ロ セ ル を 水 に ア ル コ ー ル を 添 加 し た 中 に 入 れ 光 を照射する実験を行い勢いよく水素を発生させた.しかし,この発生した水 素は加えた光に対しては大変微量であった.光源として無尽蔵にある太陽光 を利用する事が考えられたが,非常に多大なコストがかかることがわかった.
ま た , 光 触 媒 の 材 料 と し て 酸 化 亜 鉛 (ZnO),チ タ ン 酸 ス ト ロ ン チ ー ム
(SrTiO3)などの酸化物も使用されたが,酸化チタンと異なりこれらは光励 起した時自己溶解現象が現れる.酸化チタンは、ほとんどの酸、塩基、有機 溶媒に侵されないという化学的な安定性があり、また環境,人体に安全であ ることから代表的な光触媒となった.基本的には光触媒反応は酸化還元反応 であるが,酸化チタンは酸化 分解力が非常に強いという特徴を持っている の で表面に吸着している有機物を分解除去する .この酸化チタンには代表的な 結晶構造として,アナターゼ型,ルチル型,ブルカイト型の 3 種類がある.
このうち一般に使用されているのはアナターゼ型とルチル型であり、アナタ
ーゼ型は 900°C 以上の加熱でルチル型に変わる。この結晶構造を 表 1.1 に示
す.アナターゼ型は一般に粒度が小さく表面積が大きく取れるため光触媒に 適している.一方ルチル型は塗料などに使用されている.1985 年ごろより 酸化チタンの持つ強力な酸化力を使った水質浄化,大気浄化などの環境浄化 の研究が活発に行われてきた.(56)
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1995 年には酸化チタンの 光励起超親 水化現象(1)が発見された. Fig. 1.7 に示すように,これは 酸化チタンをコーティングした面に紫外線を照射する と水に対する接触角が徐々に減少し,最終的には 0°近くにまで減少する性 質のことである.通常,接触角は物質により異なりガラスでは 20°~30° , 樹脂類では 70°~90°,このうちシリコン樹脂やフッ素樹脂では 90° 以上で ある.
Table 1.1 Crystal structure of TiO2
Crystal type Anatase type Rutile type
Crystal system
Stable type at the low temperature
Stable type at the high temperature
Atomic array of the unit cell
:Ti4+
:O2 -
Density [kg/m3] 3.9 4.2
Refractivity 2.52 2.71
Grain diameter 20nm~0.5μm
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Fig. 1.8 Band gap of TiO2
この親水性のメカニズムは,紫外線照射によって酸化チタンに光励起反応 が起こるためである.励起反応とは電子がバンドギャップに相当するエネル ギ ー を 受 け 取 り 基 底 状 態 か ら エ ネ ル ギ ー の 高 い 励 起 状 態 へ 遷 移 す る こ と で ある.
UV dark
UV Water drop
Fig. 1.7 Photo-induced superhydrophilicity
Super hydrophilic state Hydrophobic state
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Fig. 1.8 に示すように酸化チタンでは荷電子帯を形成するのは主に Oの2p
軌道であり,伝導帯を形成するのは Tiの 3d軌道である.この間の(バンド ギャップ)は,約 3.0~3.2eV である.このエネルギー(Eg)は,h をプラン ク定数,f を光の振動数とするとき
Eg = h f (1.9)
となる.f を波長に換算すると約 380nm である.これは紫外線の波長に相当 する.
励起反応は
hf → e - + h +
となる.酸化チタン表面近傍では,吸着酸素の影響などを受けてバンドの曲 がりを生じ,電子正孔対は,電解を受けて分離する .電子正孔対はそれぞれ 酸 化 チ タ ン 表 面 に 吸 着 し て い る 酸 素 や 水 と 反 応 し て 活 性 酸 素 種 を 生 成 す る 電子は大気中では吸着酸素と反応し,スーパーオキシド(O2-)を生成する.
正孔(h +)は,水と反応しヒドロキシラジカル(OH)を生成する.
e - + O2 → O2-
h + + H2O → OH + H+
これらの活性酸素は ,強い酸化力を持ち,表面の汚れ・バクテリアなどの 有機物を酸化分解する ,Fig. 1.9 に示すように,酸化チタン表面に紫外線を 照 射 し 光 励 起 反 応 を 起 こ さ せ る と 活 性 酸 素 が 次 々 生 成 拡 散 し 付 着 し た 有 機 物や吸着ガスを酸化・分解する .この反応は酸化チタン光 触媒による抗菌・
脱臭・汚れ分解などに利用できる .
もうひとつの光励起反応である超親水化現象のメカニズムは,前述した光 励 起 反 応 に よ り 酸 化 チ タ ン 表 面 で 電 子 正 孔 対 が 生 成 さ れ る と こ ろ ま で は 同 じである.しかし,この後吸着物質と反応することなく,酸化チタン自身の 結晶格子と反応するスキームが考えられて いる.その機構を Fig.1.10に示す e - + Ti4+ → Ti3+
4h+ + 2O2- → 2O2
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Fig. 1.9 Mechanism of dissolution by photocatalyst
Fig. 1.10 Mechanism of hydrophilic by photocatalyst
hf → e - + h+
e - + O2 → O2-
h + + H2O → OH + H+