2. 1 光励起親水化伝熱面
これまでの酸化チタン コーティングは,TiO2 と SiO2 を混合したコーティ ング液に浸漬するディッピング法で行ってきた.まず,コーティングの前に 伝熱面をエメリー紙 2000 番及び粒径約 3μm(粒度:4000[N/cm2])の金属用 研磨剤ピカールで研磨仕上げをした後,NaOH で表面を洗浄し十分乾燥させ コーティング液(石原テクノ(株)のステンレス用 ST シリーズ)に浸漬し,
引き上げる事により酸化チタン表面を 作 製する.成膜自体は 簡便であるが,
引 き 上 げ 速 度 や 加 熱 条 件 等 で コ ー テ ィ ン グ 膜 の 状 態 が 左 右 さ れ 膜 厚 が 均 一 な表面を作製するのが困難である .ディッピング法で成膜した伝熱面は,紫 外線を照射する前の接触角は66°~79°であり,波長 352 nm, 照射強度 約1.0
mW/cm2の紫外線を 16 時間照射した後に測定したところ 3°以下であった.
しかし,ディッピング法で成膜された伝熱面はプール沸騰実験で使用すると コーティング膜が剥離し 耐久性が低い.
そのために,耐久性の高い酸化チタン表面を作製する新しい方法として RFマグネトロンスパッタリング法を採用した.Fig. 2.1 に使用した日本真空 技術(株)3元 RFマグネトロンスパッタ装置の写真を示す.チタンをター ゲットとし,アルゴン・酸素を 5(20sccm):1(4sccm)の流量で導入した低圧雰 囲気中(3×10-3~1×10-2[Torr])に十分研磨した銅表面(表面粗さ Ra0.04)を置 き,8 時間以上かけて 250 nm(膜厚は表面粗さ形状測定機:東京精密製 サー
フコム 1500DX を使用)の酸化チタン膜を形成した.酸化チタンのより濡れ
性が良く耐久性が高い膜を成膜する条件を調べるため,表 2.1のようにスパ ッタ出力,雰囲気圧力を変えて成膜した.スパッタ装置から取り出した直後 の接触角と 22 時間紫外線(波長 352 nm, 照射強度 約 1.0mW/cm2)を照射 した後の接触角を調べた結果,スパッタ出力 150[W],雰囲気圧力 1×10-2
[Torr]が最適となった.
33
Fig. 2.1 Photo of RF Magnetron sputtering system
34
Table 2.1 Sputtering parameters and contact angle
Table 2.2 Measurement value of contact angle
Fig. 2.2 に紫外線照射後の親水化と暗所保存後の疎水化について, No.1
及び No.2の 2つの試料についての接触角測定結果を示す.この 2 本はいず れも同じ条件(Ar : O2 =5(20sccm) : 1 (4sccm),150[W],1×10-2 [Torr])でスパ ッタリングしているが,紫外線に対する接触角の変化を測定するためだけに 作製したので,液滴蒸発実験に使用したものと同一の試料ではない.表 2.2 に示したように接触角は,表面上 3 点で測定しその平均値とした.接触角の 測定はスパッタリング 装置から試料を取り出してから数時間後に開始した . 測定開始から 20時間までは紫外線照射を行った が,この間接触角は徐々に 減少し,最終的には 0°~2°にまで低下した.その後,暗所に保存すると 20 分後には接触角が 10°まで上昇し,約 3 時間後には 20°になった.暗所で 7
Spattering condition : TiO2, Ar : O2 = 5(20sccm):1(4sccm), Film thickness = 250 nm
Power [W] Pressure [Torr] C.A. [°] (Initial) C.A. [°] (22 hour UV irradiation)
75W 3×10-3 80 60
100W 6×10-3 20 10
150W 1×10-2 12 7
Sputtering Conditions: Ar : O2=5(20sccm):1(4sccm), 1.0×10-2[Torr], 150W
UV Irradiation Time (hour) 0 1.5 16.0 20.0
No. 1 C.A. [°] 13, 13, 13 3, 2, 3 0, 1, 1 1, 3, 0
No. 2 C.A. [°] 5, 5, 5 0, 1, 3 0, 2, 0 0, 1, 0
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Fig. 2.2 Change in contact angle of TiO2-sputtered surfaces
時間経過した後,再び紫外線照射を開始すると,接触角は徐々に低下するも のの,最終的には 8°までしか低下しなかった.これは 暗所に保存する前の 測定に比べると大きな値である.
TiO2のみのスパッタリングでは,疎水化が速く紫外線照射を繰り返した後 の接 触 角 が 5°以 下 とならず伝熱面として使用できる コーティング 膜を作 る ことは困難である.SiO2はそれ自体が水に対する親水性をも ち,紫外線を照 射しなくとも低い接触角を長時間維持する効果がある .そこで,親水性保持 のため,TiO2 層の上に SiO2層を非常に薄くスパッタリングした面を作製し た.
TiO2 層の上に 1nm~20nm の SiO2層を設けた伝熱面を暗所に保存し SiO2
の膜厚による接触角の変化を Fig. 2.3 に示した. SiO2層を 20nm スパッタリ ングした面では,十分長い期間接触角 10°を維持することができた.
表 2.3 にディッピング法とスパッタリング法の特徴の比較を示す.ディッ ピング法はスパッタリング法に比べて作製の操作が簡単であるが,膜厚が厚 く熱抵抗が大きい.Fig. 2.4 には,鏡面仕上げした普通面,スパッタリング
0 5 10 15 20 25 30 35 40
0 5 10 15 20 25 30
UV irradiation dark UV irradiation
Time [hour]
C on ta ct a ng le [° ]
No.1 sample No.2 sample
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Fig. 2.3 Change in contact angle with the dates of dark storage of TiO2+SiO2
Table 2.3 Comparison of the dip and sputtering method
Coating methods Dipping Sputtering
Film thickness 1~5μm 250 nm
Thermal resistance of film Large Small
Wettability good Excellent
Operability Easy Difficult
0 2 4 6 8 10 12 14 16
0 10 20 30 40
TiO2250nm+SiO2 1 nm TiO2250nm+SiO2 5 nm TiO2250nm+SiO2 10 nm TiO2250nm+SiO2 20 nm
Dates of dark storage [days]
Cont ac t a ngl e [° ]
Sputtering surface
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Fig. 2.4 Photo of the heating surface (D=17mm)
面,ディッピング面の伝熱面の写真を示す.ディッピング法で作成した伝熱 面は,干渉縞からわかるように膜厚の不均一さが見られる.
接触角の測定装置を Fig. 2.5 に示す.接触角の測定方法は, 試料の上方 に配された注射器の内筒をマイクロメータヘッドで押し液滴をつくり,もう ひとつのマイクロメータヘッドで注射器全体を下げ る.液滴を試料表面に付 着させ,伝熱面上に滴下された液滴を真横からビデオカメラで撮影し,モニ タ上に拡大された液滴の高さ hd と広がり直径 d を測定し次式より接触角 θ を計算した.この接触角測定装置の作 製,及び接触角の計算法については共 和界面化学(株)の取扱説明書を参考にした.
/( /2)tan
2 1 hd d
(2-1)
重力の影響を避けるため,液滴の大きさを直径 2mm 以下にし,測定の際 には表面に乗せた液滴の形状は球の一部と仮定している.接触角は測定のた びに,3 点ずつ測定しその平均値をその表面 における接触角とした.
Fig. 2.6 に表面が超親水性の時の液滴の様子を示すが,これほどの超親水
状態になると接触角の測定はできない.
Dipping Sputtering
Normal
38
Fig. 2.5 Contact angle measuring apparatus
Fig. 2.6 Aspects of super hydrophilic (Nozzle diameter = 0.7mm)
① Test piece
② Injecter
③ CCD-camera
④ TV monitor
⑤ Micrometer
Water film
d
hd
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2. 2 実験装置
実験装置を Fig. 2.7 に示す.伝熱面は,直径 17mm の銅棒の端面を使用し ている.伝熱面温度は金属円柱下部にまきつけた シースヒータにより制御し ており,伝熱面以外の面は断熱材で保温した.伝熱面はテフロン板に O リ ングを介して固定し ,伝熱面からの熱の影響を避けるため液滴 を滴下するノ ズルとの間にシャッターを設けた. 伝熱面温度は,Fig. 2.8 に示すように伝
熱面から 10,15,20mm の円柱中心部に 1mm の熱電対 3 本を取り付け,そ
の内部温度を計測しており,それらにほとんど差がない場合は,伝熱面に最 も近い熱電対の温度を伝熱面温度とした.内部に温度勾配が見られるように なった場合は,3点の温度より外挿して伝熱面表面温度を求めた.
Fig. 2.7 Experimental apparatus
①: Heat transfer block
②: Thermocouple
③: Heater
④: Insulating material
⑤: Teflon plate
⑥: Micrometer
⑦: Injector
⑧: Shutter
⑨: Camera
⑦
①
②
④
③
⑤
⑧
⑥
⑨
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Fig. 2.8 Heating block Fig. 2.9 Distance H from the center of the Droplet to the heat transfer surface
液滴蒸発実験では,液滴の落下は伝熱面上方に配置された注射器の内筒を マイクロメーターで 徐々に押し,液滴を自由落下させた.Fig. 2.9 に示すよ うに,伝熱面と注射針の先端の距離は 10mmとした.液滴には常温の精製水
(比抵抗 500000Ω以上)を使用し,液滴直径は注射針を交換する ことで変
化させた.液滴の直径を 2.16 ~ 2.93mm の範囲で変化させたが, 表 2.4 に示 すとおり全ての場合の We数は 30 以下であるため,Leidenfrost温度を超えて も伝熱面との衝突による液滴の分裂は生じない.液滴が分裂するかどうかは,
Wachters(21)らによると次のとおりである.
80 ≦ We :衝突初期で完全に小液滴に分裂
30<We<80 :衝 突 した液 滴が膜状に 変形し た後,
再 び 収 縮 し て 飛 び 上 が っ た 後 に 分 裂
We = 30 :液滴が分裂する限界
We 数は液滴直径 D,伝熱面への衝突時の速度,液体の密度, 表面張力L
10
Φ17
90
55
Φ17
90
Φ17
90
H' H=
10 mm10 mm H
Thermocouple
41
を用いて次式で表される.
L
We D
2
(2-1) gH
2
(2-2)
ここで,伝熱面への衝突時の速度νは(2-2)式で液滴の自由落下により求め,
そのときの落下高さ H は液滴を完全球体とみなし球体の中心から伝熱面ま での距離とした.表 2.4 の表面張力,密度の値は,伝熱工学資料(67)より得た.
Table 2.4 Weber number by the difference of the droplet Diameter Surface Tension L [N/m] (20°C , 0.1MPa) 0.0728 Density ρ [kg/m3] (20°C , 0.1MPa) 998.3
D [mm] H [mm] v [m/s] We [-]
2.16 8.92 0.418 5.18
2.40 8.80 0.415 5.67
2.66 8.67 0.412 6.19
2.93 8.54 0.409 6.72
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2. 3 実験方法
本研究では,Fig. 2.10に示した 2 種類 の伝熱面を使用した.(a)は平面伝熱面で,
(b)は中央に深さ 0.3mm の窪みを設けた
ものである.(b)は,液滴が伝熱面より飛 び出さないため Leidenfrost 点より高い 温 度 範 囲 に わ た っ て 測 定 が で き る が 接 触 角を 正確に測 定す るこ と ができ な い.
平 面で は接触角 は正 確に 測 定でき る が,
伝熱面が 直 径 17mm と小さ いため 濡 れ 限 界 温 度 を 超 え る と 液 滴 が 伝 熱 面 外 に 飛 び 出 し て し ま い 濡 れ 限 界 温 度 よ り 高
温域における蒸発時間の測定ができない.そこで,平面伝熱面では濡れ限界 温度(TWL)までの測定を,窪みを設けた伝熱面では,Leidenfrost 温度(TLEID) が確認できる温度範囲までの測定を行った.濡れ限界温度(TWL)の定義に ついては,後述する.
表 2.5 に,実験開始直前に測定した非加熱時の伝熱面の接触角と TiO2膜,
SiO2 膜の厚さを示した.No.1 は,窪みを付けた伝熱面に 鏡面仕上げを施し たものであるが,接触角は平面伝熱面を鏡面仕上げしたときのものを示した.
No.2 と No.3 は伝熱面に TiO2膜(250nm)のみを付けた伝熱面であり,そ れぞれ暗所保存の場合と紫外線を照射した場合である.暗所保存での接触角 は,82°~84°であり,紫外線照射の場合は,31°~34°であった.No.4 は TiO2 膜(250nm)を成膜した伝熱面の上に SiO2膜(5nm)を付け紫外線照射した ものであるが接触角は 13°~15°であった.この伝熱面は作成時には高い親水 性を保っていたが,長時間(2~3 週間)紫外線照射する間に徐々に接触角が 上昇してきたものである.No.5 は TiO2膜(250nm)を成膜した伝熱面の上 に SiO2膜(20nm)を付けた伝熱面で,さらに高い親水性を示しており,こ
(a) Flat (b)0.3mm concave Fig. 2.10 Photo of the heat transfer
surface (D=17mm)