その他のタイトル La faute dolosive en droit des assurences (1)
著者 松田 真治
雑誌名 關西大學法學論集
巻 63
号 1
ページ 153‑189
発行年 2013‑05‑11
URL http://hdl.handle.net/10112/8317
フランス保険法における f a u t ed o l o s i v e (1)
松 田
真 治
目 次 は じ め に
1. フォート概念 (faute) 1‑1. フォートの意義 1‑2. フォートの要素
1‑2‑1. フォートの客観的要素 1‑2‑1‑1. 物質的要素 1‑2‑1‑2. 違法性要素 1‑2‑2. フォートの主観的要素
1‑2‑2‑1. 故意的要素 1‑2‑2‑2. 帰責性要素 1‑3. 小 括
2 .
保険事故招致免責規定の立法の変遷2‑1. 保険契約に関する1930年7月13日付法第12条の制定 2‑1‑1. 1904年の草案までの状況
2‑1‑2. 1904年の草案 2‑1‑3. 1925年の草案
2‑1‑4. 1930年7月13日付法の成立 2‑2. 保険法典の成立と条文の変化 2‑3. 小 括
3. faute intentionnelleとfautedolosiveの関係 3‑1. 保険事故招致免責の根拠
3‑2. faute intentionnelleの一般的要素 3‑2‑1. 意思的フォート
3‑2‑2. 損害を発生させる意思 3‑3. 民法における fautedolosive
3‑3‑1. dolの意義
3‑3‑2. 破毀院による定義付け
3‑4. 事業者責任保険における保険事故招致免責 3‑4‑1. 事業者責任保険における fauteintentionnelle
(以上,本号)
(以下, 63巻 2号)
‑ 153 ‑‑ (153)
3 ‑ 4 ‑ 2 .
faute intentionnelleとfautedolosiveの区別3 ‑ 4 ‑ 3 .
faute intentionnelleとfautedolosiveの同一視3 ‑ 4 ‑ 4 .
faute dolosiveの復活?3 ‑ 5 .
小 括 お わ りには じ め に
被保険者等の故意による保険事故招致免責の根拠,そこでいう「故意」の内 容,または,重過失免責の根拠,さらには,いわゆる第三者による保険事故招 致といった保険事故招致免責に関する諸問題については,今まで,多くの検討 がなされてきた。
比較法的な研究といえば,まず,我が国の保険事故招致免責規定と類似する 規定を有するとされ,多くの先行業績があるドイツ法に関する検討が挙げられ
るであろう°。
1 ) 大森忠夫「被保険者の保険事故招致」同
「保険契約の法的構造』 (有斐閣,1 9 5 2
年)2 0 3
頁以下。竹 演 修 「 保 険 事 故 招 致 免責規定の法的性質と第三者の保険事故招致
( 2 • 完)」
立命第1 7 1
号( 1 9 8 3
年)6 3 5
頁 以 下 参 照。坂口光男 「保 険 事 故 の 招 致と保険者免責」同『保険契約法の基本問題」(文演堂,
1 9 9 6
年)5 1
頁以下。多くの先行業績が出された時点でのドイツ保険契約法第6
1
条は,「保険契約者が 故意または重大な過失により保険事故を生じさせたときは,保険者は給付義務を免 れる。」と定めていた。しかし,その後,保険契約法が改正され,保険事故招致免 責規定の内容が変化した。すなわち,2008
年1
月1
日施行のドイツ保険契約法第81
条は, 「① 保険契約者が故意に保険事故を生じさせたときは,保険者は給付義務を 負わない。② 保険契約者が重大な過失により保険事故を生じさせたときは,保険 者はその給付を保険契約者の過責の重大性応じた割合で縮減することができる。」 と定めたのである。新井修司=金岡京子 (共訳)『ドイツ保険契約法( 2 0 0 8
年1
月1日施行)』(日本損害保険協会
=生命保険協会,2008
年)2 8 8
頁 〔新井修司〕。竹演修は,「ドイ ツ保険契約法第6
1
条の規定する内容が日本商法第64 1
条後段の それと類似している」と述べる一方で,我が国の改正前商法第6 4 1
条と改正前ドイ ツ保険契約法第61
条の文言上の相違点を以下のように述べている。「① 第61
条には 被保険者が掲げられていないこと, ② 第61
条は『故意』と記され,第64 1
条後段は「悪意』 と記されていること, ③ 第6
1
条は 「保険事故を招致したとき』を問題に しているが, 第64 1
条後段は『悪意若クハ重大ナル過失二因リテ生シタル損害』を 問題にしていること, ④ 第61
条は 「保険者はその給付義務を免れる』と定める/‑ 1 5 4 ‑ ( 1 5 4 )
これに対して,フランス法における保険事故招致免責については,故意の内 容,第三者による保険事故招致等に関する判例・学説がすでに検討されてはい るものの叫後に述べるように,従来の研究によって公表された成果だけでは,
不十分であるように思われる。
そこで,フランス法における保険事故招致免責に関する包括的検討の出発点 として,本稿は,その前提となる当該免責規定の立法過程およびその解釈につ いて検討する。
問題の所在
保険契約者,被保険者または保険金受取人が故意に保険事故を招致した場合,
保険者は責任を負わない。このような保険事故招致免責は,各国で多少の違い はあるものの, 一般に認められているものである叫
我が国では,たとえば,損害保険契約における保険者免責に関する保険法第
1 7
条が,第1
項で,「保険者は,保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過 失によって生じた損害をてん補する責任を負わない。戦争その他の変乱によっ て生じた損害についても,同様とする。」と定め,第2
項で,「責任保険契約(損害保険契約のうち,被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生ずる
\が,第
6 4 1
条は『保険者之ヲ填補スル責二任セス』と定めること,である」。竹演・前掲論文
6 3 6
頁以下。2 )
山野嘉朗『保険契約と消費者保護の法理』(成文堂,2 0 0 7
年)1 8 2
頁以下において,故意免責に関する諸問題について,判例・学説が紹介されている。
3 )
たとえば, ドイツ保険契約法第81 条(損害保険)• 第 103 条(責任保険)• 第1 3 7
条(運送保険)• 第 162条(生命保険)• 第 183 条(傷害保険)• 第
2 0 1
条 (疾病保険),イ タリア民法典第1 9 0 0
条,スイス保険契約法第1 4
条がある。 ドイツ法につき,新井=金岡・前掲注
( 1 )3 3 , 4 0 , 5 0
頁〔新井修司〕,5 7 , 6 4 , 7 0
頁〔金岡京子〕,イタリア 法につき,新井修司 =金岡京子ほか(訳)『ドイツ,フランス,イタリア,スイス 保険契約法集』(日本損害保険協会=生命保険協会,2 0 0 6
年)ll‑5
頁〔岡田豊基〕,スイス法につき,新井=金岡ほか・前掲書
N‑ 4
頁〔i
番阿憲〕を参照。また,
2 0 0 9
年に公刊されたヨーロッパ保険契約法原則( P r i n c i p l e so f European I n s u r a n c e C o n t r a c t Law)
第9: 1 0 1
条〔損害との因果関係〕第]項も参照。小塚荘 一郎=後藤元ほか『ヨーロ ッパ保険契約法原則P r i n c i p l e so f European I n s u r a n c e C o n t r a c t Law (PEICL)
』(公益社団法人損害保険事業総合研究所,2 0 1 1
年)6 4
頁。‑ 1 5 5 ‑ (155)
ことのある損害をてん補するものをいう。以下同じ。)に関する前項の規定の 適用については,同項中『故意又は重大な過失』とあるのは,『故意」とす
る。」と定める°。
フランス法に目を転じてみると,フランス保険法典
L .1 1 3 ‑ 1
条は以下のよ うに規定している叫Les p e r t e s e t l e s dommages o c c a s i o n n e s par des c a s f o r t u i t s ou c a u s e s par l a f a u t e de } ' a s s u r e s o n t a l a charge de l ' a s s u r e u r , s a u f e x c l u s i o n f o r m e l l e e t l i m i t e e contenue dans l a p o l i c e .
T o u t e f o i s , l ' a s s u r e u r ne repond pas des p e r t e s e t dommages provenant d ' une f a u t e i n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v e de l ' a s s u r e .
偶発事によって生じた,または被保険者のフォートによって生じた滅失 および損傷は,保険証券に明白かつ限定的に記載された免責条項がない限
り,保険者の負担とする。
ただし,被保険者の
f a u t ei n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v eによ
って生じた滅 失および損傷については,保険者は責任を負わない。このように,フランス保険法典が問題としているのは,被保険者の
≪ f a u t e i n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪ f a u t e dolosive ►> である 6) 。 前者は「故意的」フォート,後
4 )
損害保険における法定免責事由を定める保険法第1 7
条,生命保険契約のうち死亡 保険契約の法定免責事由を定める保険法第51
条および傷害疾病定額保険契約におけ る法定免責事由を定める保険法第80条は,すべて任意規定である。したがって,約 款で法定免責事由以外の免責事由を定めることができる。逆に,法定免責事由に該 当する場合に保険給付を行う旨の約定をすることも,それが公序良俗に反するよう な場合を除き, 一般的には有効であると解されている。萩 本 修 (編著)「一問一答 保険法』(商事法務,2 0 0 9
年)1 2 0 , 1 9 3 , 1 9 4
頁参照。5 )
なお,本条は,強行規定である(保険法典L . 1 1 1 ‑ 2
条)。 この点については,後 述する( 2 ‑ 2 )
。6 )
条文上は,≪ f a u t ei n t e n t i o n n e l l e o u d o l o s i v e ≫
であるが,判例・学説上,≪ f a u t e i n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪ f a u t ed o l o s i v e ≫
と表記されることが多い。これを本来分離す べきものと立法者が考えていたかどうかについては後述する( 2 ‑ 1 )
。我が国の保険法第1
7
条が「保険契約者又は被保険者」と規定しているのに対し, フ ラ ン ス の 保 険 法 典L . 1 1 3 ‑ 1
条は, 「被 保 険 者 」 の み を 規 定 し て い る。原文の≪ a s s u r
いは,保険法典では,「保険契約者」を指す場合もあるが,L . 1 1 3 ‑ 1
条で?‑ 1 5 6 ‑ ( 1 5 6 )
者は「詐欺的」フォートと訳出されることが多い7)。被保険者の「故意的」
\は,「被保険者」の意味であると解されている。LAMBERT‑FAIVRE
( Y . ) e t
LEVENEUR(L.),
D r o i t d e s a s s u r a n c e s , 1 3 e ed . , D a l l o z , 2 0 1 1 , n ° 3 9 0 , p . 3 0 6 .
山野・前掲注( 2 )6 6
頁注1
参照。7 )
以下では,フランス保険法典( 1 9 7 6
年7
月1 6
日制定)の前身である,保険契約に 関する1 9 3 0
年7
月1 3
日付法の制定以降,この≪ f a u t e i n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪ f a u t e d o l o s i v e ≫
がどのように訳されてきたのかを,時系列に沿って,概観しよう。佐藤義雄「現行佛蘭西「保険契約法』正文」同志社論叢第
3 6
号虎( 1 9 3 1
年)1 9 6
頁 では,「被保険者の故意又は詐欺的なる過誤」と訳されており,現在の訳語との差 異はないといってよい。米谷隆三 「佛蘭西『保険契約法』正文」東京商科大學研究年報法學研究第
1
号虎( 1 9 3 2
年)3 3 5
頁では,「故意又ハ認識アル過失」と訳出されているが,米谷隆三の「佛蘭西『保険契約法』正文」の原稿(日本生命図書館所蔵)では,「故意又ハ詐 欺ノ過失」と訳出されていた点がとても典味深い。
大森忠夫「保険契約法」『佛蘭西商法
[I]
』(現代外国法典叢書( 1 9 ) )
(有斐閣,1 9 5 7
年)4 0
頁では,「意識的過失」と「故意的過失」と訳されているが,大森忠夫 は,「故意的過失( f a u t ei n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v e )
」とも表記しており,「玄玄にf a u t e i n t e n t i o n n e l l e
とf a u t ed o l o s i v e
とは全く同意語であって麗別はなく,保瞼金 支彿を匝接の目的とする行為を云ふ。f a u t ed o l o s i v e
は文字通り謁せば故意的過失 であるが,この過失( f a u t e )
は邦語の故意に封する過失といふ様な厳密な意味でな< , f a u t e
dolosive が即ち故意に該常する。」としている。 大森• 前掲書4 1
頁参照。保険法典成立
( 1 9 7 6
年)後に出された,松島恵「被保険者による保険事故招致 の担保可能性とその限界一ーフランスの判例および学説を中心として一ー」 田 辺 康 平先生還暦記念『保険法学の諸問題』(文慎堂,1 9 8 0
年)2 5 6
頁以下では,「故意的 過失」と「詐欺的過失」と訳されていた。岩 崎 稜 (監訳)生命保険文化研究所(訳)『フランス保険法典
I
保険契約法(法 律・政令・省令)1 9 8 3
年段階』(生命保険文化研究所,1 9 8 5
年)3 8
頁では,「意図的 または詐欺的な過失」と訳され,武知政芳=今井薫(監訳)フランス保険研究会(訳)『フランス保険法典
I
保険契約法(法律・政令・省令)1 9 9 7
年段階』(生命保 険文化研究所,1 9 9 8
年)6
頁では,「故意的もしくは詐欺的行為」と訳されていた。新井=金岡ほか・前掲注
( 3 )I I ‑ 1 1
頁〔笹本幸祐〕では,「故意的行為失態」と「詐欺的行為失態」と訳されていた。
山野・前掲注
( 2 )6 7
頁では,「故意」と「詐欺」と訳されている。以上の訳語例を見る限り,保険法典 L.
1 1 3 ‑ 1
条における≪ d o l o s i v e ≫
は,主に,「詐欺的」と訳出されていることがわかる。
また,民法上での訳語ではあるが,山口俊夫(編)『フランス法辞典』(東京大学 出版会,
2 0 0 2
年)2 2 7
頁は,f a u t ei n t e n t i o n n e l l e
を「故意による非行」と訳し,「他 者を害する意図で行われる非行。広義では,他者に損害を与えることを知りなが/‑‑ 1 5 7 ‑ (157)
フ ォ ー ト に よ る 損 害 は , 放 火 な ど を 例 に と る と わ か り や す い。 しかし,被保険 者 の 「 詐 欺 的 」 フ ォ ー ト に よ る 損 害 と は 具 体 的 に 何 を 指 す の で あ ろ う か。これ が筆者の抱いた最初の疑問である。
現 在 の フ ラ ン ス の 判 例 法 理 に よ れ ば ,
≪faute i n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪faute d o l o s i v e ≫
は同一視 さ れ る も の で あ る と さ れ , 山 野 嘉 朗 に よ る 先 行 研 究 に お い て も , そ の よ う に 紹 介 さ れ て い る 見 し か し , こ の 先 行 研 究 で は ,≪faute i n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪fauted o l o s i v e ≫
が 区 別 さ れ て い た 時 期 に つ い て は , 言 及さ れ て お ら ず , 保 険 契 約 に 関 す る
1 9 3 0
年7
月13
日 付 法 の 立 法 段 階 に お け る 条 文 の 変 遷 に つ い て も , 扱 わ れ て い な い。ま た , こ の 先 行 研 究 で は ,≪faute i n t e n t i o n n e l l e ≫
に 主 眼 が 置 か れ て お り ,≪faute d o l o s i v e ≫
は,≪faute i n t e n t i o n n e l l e ≫
に吸収されたものとして,直接扱われてはいない。本稿は,この先行研究において扱われていない部分に光を当てようというもの で あ る 叫 た し か に , な ぜ
≪ f a u t ei n t e n t i o n n e l l e ≫
と同一視された≪ f a u t ed o l o s i v e
>>\ら行われる非行を指す。」と説明し,
f a u t ed o l o s i v eを「詐害意図による非行」と訳
し,「契約上の非行の一種。かつては故意による非行f a u t ei n t e n t i o n n e l l eと同義で
用いられていたが,現在では不誠実な債務者がそれと知りながら履行を怠ることを 指す。」と説明している。この民法上のf a u t ed o l o s i v e
概念は,後述するように( 3 ‑ 3 ) ,
本稿が対象としている保険法上のフォート概念に関係している。8 )
山野・前掲注( 2 )1 8 9
頁注1 5
。9 ) f a u t e d o l o s i v eに関して述べられている先行研究としては,以下の 2
つが挙げら れる。本稿は,これらの先行研究に,立法資料の検討結果と新しい判決の検討結果 を加えている。松島・前掲注
( 7 ) 2 5 3
頁以下は,B 1 G O T ( J . ) , ≪ A s s u r a n c e s d e r e s p o n s a b i l i t e ; l e s l i m i t e s du r i s q u e a s s u r a b l e ≫, RGAT 1 9 7 8 , p . 1 7 9 e t s .
を基に,フランスの判例・学 説およびB i g o t
の見解を紹介している。山 田 泰 彦 『 船 主 責 任 制 限 の 法 理』(成文堂,
1 9 9 2
年)2 1 1
頁以下は,f a u t e i n e x c u s a b l e
の検討の一環として,フランス法における悪意・重過失概念について 検討している。すなわち,1 9 5 5
年に成立した航空運送に関するワルソ一条約ヘーグ 議定書が航空運送人の責任制限阻却事由として「損害を発生させる意思をもって,または無謀にかつ損害の発生のおそれがあることを認識してなした運送人またはそ の被用者の作為または不作為」を規定しており,この「無謀かつ認識」要件と故 意・重過失の関係を考察しているのである。山田泰彦は,フランス法における「無 謀かつ認識」要件について,以下のように述べる。すなわち,「もとより,「無謀/'
‑ 1 5 8 ‑ (158)
を再び取り扱う必要があるのか, という疑問を持たれるかもしれない。しかし,
再 び
≪fauted o l o s i v e
>>を取り扱うことには,大きく分けて2
つの理由がある。ま ず第1
に,≪fautei n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪fauted o l o s i v e ≫
が同一視されるものである\かつ認識』要件それ自体は,フランスにおいても,これまでにない独自の要件であ るかのように思われた。しかしながら,『無謀かつ認識』要件を悪意
( d o l )
と重大 なフォートとの中間にあるものと解するならば,かかるものとしてフランスでは,f a u t e inexcusable=
許しがたいフォートがあったのであり,これが,「無謀かつ認 識』要件に相当するものとされたのである」, と(山田・前掲書21 3
頁)。なお,山 田泰彦は,f a u t el o u r d eを「重大なフォート」と訳しているが,本稿では, f a u t e l o u r d eを「重いフォート」と訳すことにする 。
ヨーロッパ保険契約法原則第
9: 1 0 1
条〔損害との因果関係〕第1
項は,「保険契 約者又は被保険者は,損失を発生させる意図をもって又は損失の発生のおそれがあ ることを認識しながら無謀にした自己の側の行為又は不作為により損失が発生した 限度においては,損害のてん補を請求することができない。」(下線筆者。下記の英 文• 仏文においても同様。)と定めている(小塚=後藤ほか• 前掲注 (3)64頁)。原 文 は 以 下 の と お り で あ る 。 な お , 各 国 語 訳 はh t t p : // w w w . r e s t a t e m e n t . i n f o /
( U n i v e r s i t a t I n n s b r u c k )
で入手可能である。 A r t i c l e 9 : 1 0 1 C a u s a t i o n o f Loss
(1)
N e i t h e r t h e p o l i c y h o l d e r nor t h e i n s u r e d , a s t h e c a s e may b e , s h a l l be e n t i t l e d t o i n d e m n i t y t o t h e e x t e n t t h a t t h e l o s s was c a u s e d by an a c t o r o m i s s i o n on h i s p a r t w i t h i n t e n t t o c a u s e t h e l o s s o r r e c k l e s s l y and with knowledge t h a t t h e l o s s world p r o b a b l y r e s u l t .
ヨーロッパ保険契約法リステイトメントプロジェクトグループのメンバーである
Jerome Kullmannと EmeseKaufmann‑Mohiがフランス語訳を公表している。
A r t i c l e 9 : 1 0 1 Cause du dommage
(1)
Ni l e p r e n e u r d ' a s s u r a n c e , n i l ' a s s u r e , s e l o n l e c a s , n ' a l e d r o i t d ' e t r e i n d e m n i s e l o r s q u e l e dommage r e s u l t e d ' u n a c t e
OUd ' u n e o m i s s i o n q u ' i l a commis, s o i t a v e c ! ' i n t e n t i o n de p r o v o q u e r un t e l dommage, s o i t t e m e r a i r e m e n t e t a v e c c o n s c i e n c e q u ' u n t e l dommage en r e s u l t e r a i t p r o b a b l e m e n t .
ここでは,「損失を発生させる意図」という文言が,
≪ i n t e n t i o nde provoquer un t e l dommage≫
と表現され,「損失の発生のおそれがあることを認識しながら無謀口 と い う 文 言 が ,~
≪temerairement e
't a v e c c o n s c i e n c e qu un t e l dommage en r e s u l t e r a i t p r o b a b l e m e n t ≫
と表現されている。山田泰彦の研究は,航空運送人の責 任制限阻却事由における「無謀かつ認識」要件を対象としたものであったが,今後,ヨーロッパ保険契約法がフランス保険法に影響を与えることになった場合には,保 険者免責の分野においても,この「無謀かつ認識」要件がフランス保険法にいうと
ころの
f a u t ei n e x c u s a b l eと対応するのかということが検討される余地がある。
‑ 1 5 9 ‑‑ (159)
としても,それは立法当初からそうであったのか,なぜそれらが区別された時期 が存在したのか,そして,同一視される必要があるのはなぜかという問いに答え る必要があるからである。第
2
に,≪ f a u t ei n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪ f a u t e dolosive ►►
の 同一視がフランスの判例・通説であるとされてきたにもかかわらず,2 0 0 8
年1 0月
7
日に破毀院第3
民事部が,被保険者の≪ f a u t e dolosive ►►
を認めたからである。本稿の目的と対象
本 稿 の 目 的 は , 第
1
に , フ ラ ン ス 保 険 法 典L . 1 1 3 ‑ 1
条 の 立 法 過 程 を 検 討 す ることによって,立法者意思を明らかにすることである。そして,第2
に,立 法後,2008
年の破毀院判決に至るまで,その立法者意思がどのような影響を受 けて修正されてきたのかを明らかにすることである。本 稿 は , 主 と し て , 保 険 法 典
L . 113‑1
条 に い う と こ ろ の≪ f a u t ed o l o s i v e ≫
を対象とし,≪ f a u t ei n t e n t i o n n e l l e ≫
の 内 容 の 変 化 に つ い て の 議 論 を 対 象 と す る も の で は な いJO)。もっと も , 現 在 の 破 毀 院 の 判 例 法 理 で は , 前 述 の と お り≪ f a u t e i n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪ f a u t ed o l o s i v e ≫
の同一視がなされているため,般的な内容については触れる。
本稿の検討順序
本 稿 で は , ま ず , フ ラ ン ス 民 法 に お け る フ ォ ー ト 概 念 に つ い て 概 観 す るJI)
( 1 )
。保険法典L . 1 1 3 ‑ 1
条にいうところのf a u t ei n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v e
は,f a u t e v o l o n t a i r e
(意思的フォー ト)を前提としている12)。したがって,f a u t e
1 0 ) f a u t e i n t e n t i o n n e l l e
は「損害を発生させる意思」を伴う意思的フォートであると いうのが,長い間,破毀院で採用されてきた見解である。しかし,破毀院第2
民事 部20 0 5
年9
月2 2
日判決が,保険法典L . 1 1 3 ‑I
条と民法典19 6 4
条の問題について取 り扱ったことで,破毀院の考えが変わったのかどうかが問題となった。この点につ いては,山野・前掲注( 2 )2 0 8
頁以下参照。1 1 )
山野嘉朗は,「直訳すると,故意的または詐欺的フォートとなるが,フォート概 念自体,日本語になじむものではないので,故意または詐欺と訳した方が理解しや すいであろうし,そう訳出したとしても大過ないであろう。」としている。山野・前掲注
( 2 )1 8 7
頁注7
。1 2 )
判例・学説において,意思的フォートが要件であることについて異論はない。こ の点については,後述する( 3 ‑ 2 )
。‑ 1 6 0 ‑ (160)
の内容を概観することで,
f a u t e
が意思的( v o l o n t a i r e )
であることの意味を明 白にしておくのが適切である。次 に , 保 険 事 故 招 致 免 責 規 定 の 立 法 の 変 遷 を 概 観 す る
( 2 )
。現在はf a u t e i n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v eが問題とされているが,常にそうであったわけでは
ない。立法過程を概観することで,付保されうるフォートと付保されえない フ ォ ー ト と の 違 い が 示 さ れ る こ と と な る 。 ま た , そ も そ も 立 法 者 が
f a u t e i n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v eの<< i n t e n t i o n n e l l e ≫
と≪ d o l o s i v e ≫
という2
つの形容 詞の関係をどのように捉えていたかについても,ここで示されることとなる。そして,最後に,
f a u t ei n t e n t i o n n e l l eと f a u t ed o l o s i v e
の関係について論ず る( 3 )
。 こ こ で は , ま ず , 保 険 事 故 招 致 免 責 の 根 拠 を 示 し( 3 ‑ 1 ) ,
次に,f a u t e i n t e n t i o n n e l l eに つ い て 確 立 さ れ た 判 例 法 理 が い か な る も の か を 述 べ る ( 3 ‑ 2 )
。次に,保険法典L . 1 1 3 ‑ 1条にいうところの f a u t ed o l o s i v e
概念に影響 を与えた民法上のf a u t ed o l o s i v e
概念の検討を行う( 3 ‑ 3 )
13)。最後に,事業者 責任保険における保険事故招致免責の検討を行う( 3 ‑ 4 )
。というのも,民法上 のf a u t ed o l o s i v e
概念の確立が影響を与えたのは,事業者責任保険における保 険事故招致が問題となる場面だからである。なお,本稿が対象としている保険法典
L . 1 1 3 ‑ 1条は,人保険にも適用され
る一般規定であるが, とくに断らない限り,損害保険を念頭に置く。また本稿 では,f a u t e
を「フォート」と表記し,f a u t e i n t e n t i o n n e l l e
お よ びf a u t e d o l o s i v eは,原語の形で表記する。
1 . フォート概念 ( f a u t e ) 1 ‑ 1 .
フォートの意義14)1 3 )
この点については,山田・前掲注( 9 )2 4 0
頁以下において,当時の学説の検討がな されている。1 4 )
フォート( f a u t e )
自体は,民法特有の概念ではない。たとえば,刑法上の フォートが存在する。これは,フランスの刑法体系においては,犯罪の主観的要素 であるとされている。井上宜裕「フランスの犯罪体系論」法時第84
巻第1
号( 2 0 1 2
年) 34頁参照。 /
‑ ‑ 1 6 1 ‑ ‑ ‑ ( 1 6 1 )
1804
年の民法典(いわゆるナポレオン法典)の一般不法行為に関する規定で ある1382
条 は , 不 法 行 為 の 成 立 要 件 と し て , ① フォート( f a u t e ) ②
損 害(dommage) ③
フォートと損害との因果関係( l i e nde c a u s a l i t e )
を要求して いる15)。すなわち,民法典1382
条16)は,「他人に損害を生じさせる人の所為は いかなるものであってもすべて,フォートによってそれをもたらした者に,当 該損害を賠償する義務を負わせる。」と規定しており,不法行為責任の成立要 件として,条文上,フォートを要求しているのである17)。\ 本稿が民法上のフォートを取り扱うのは,保険法上のフォートに関する記述にお いて,まず一般法(民法)上のフォートが参照されるからである。また,後述する 責任保険においては,民事責任に基づく損害賠償が問題となるのであって,民法上 のフォートを概観することは有益である。
1 5 )
野田良之「フランス民法におけるf a u t e
の概念」我妻栄先生還暦記念「損害賠償 責任の研究上』(有斐閣,1 9 5 7
年)1 1 1
頁。1 6 )
本条の訳文は,法務大臣官房司法法制調査部「フランス民法典-—ー物権・債権関 係一 」法務資料第44 1
号( 1 9 8 2
年)1 3 5
頁を参考にした。原文は以下のとおりであ る。A r t i c l e 1 3 8 2
Tout f a i t quelconque de l'homme, q u i c a u s e a a u t r u i un dommage, o b l i g e c e l u i p a r l a f a u t e d u q u e l i l e s t a r r i v e , a l e r e p a r e r .
1 7 )
契約責任に基づく損害賠償についても,不法行為責任と同様に,① 債務の不履 行または履行遅滞により損害が生じたこと,② その不履行または履行遅滞につき,債務者にフォートがあること,③ 損害とフォートとの間に因果関係があることが 要件であるとされている。山口俊夫『概説フランス法下』(東京大学出版会,
2004
年)1 3 5
頁。債務不履行から生じる損害賠償責任について規定する民法典1 1 4 7
条は 以下のように定める。A r t i c l e 1 1 4 7
Le d e b i t e u r e s t condamne, s ' i l y a l i e u , au paiement de dommages e t i n t e r e t s s o i t a r a i s o n de l ' i n e x e c u t i o n de l ' o b l i g a t i o n , s o i t a r a i s o n du r e t a r d dans l ' e x e c u t i o n , t o u t e s l e s f o i s q u ' i l ne j u s t i f i e p a s que l ' i n e x e c u t i o n p r o v i e n t d ' u n e c a u s e e t r a n g e r e q u i ne p e u t l u i e t r e i m p u t e e , e n c o r e q u ' i l n ' y a i t aucune mauvaise f o i de s a p a r t .
(債務者は,必要がある場合には,その者の側になんら悪意が存しない場合 であっても,不履行がその者の責めに帰すことができない外在的事由から生じ たことを証明しないときはすべて,あるいは債務の不履行を理由として,ある いは履行の遅滞を理由として損害賠償の支払いを命じられる。)
本条の訳文は,法務大臣官房司法法制調査部・前掲注
( 1 6 )7 0
頁に依った。 /‑ 1 6 2 ‑ (162)
で は , そ の フ ォ ー ト と は 何 か 。 野 田 良 之 に よ れ ば , 「 日 常 語 と し て の faute は , 人 の 行 為 の 容 態 に 関 す る も の と は か ぎ ら な い し , こ れ を 容 態 に 関 す る も の
と し て 見 た 場 合 に も , 何 ら の 価 値 判 断 を 含 ま ぬ 使 用 法 か ら 極 め て 強 度 の 非 難 を 含 む 使 用 法 に 至 る ま で 非 常 な 幅 の あ る ニ ュ ア ン ス に と ん だ 語 」 で あ る
18)。また,
「 ナ ポ レ オ ン 法 典 は ド マ の 伝 統 に 従 っ て , こ の よ う な 幅 の 広 い 概 念 を 表 わ す も の と し て 日 常 語 : faute を と り い れ た も の で あ る 」
19)。 20 世紀初頭, P l a n i o l が
フ ォ ー ト に 関 し て 明 確 な 定 義 付 け を 試 み た 。 P l a n i o l によれば,「フォートとは,
先 存 す る 債 務 に 対 す る 違 反 で あ る 」
20)。 こ の 定 義 は , フ ォ ー ト の 最 も 中 核 的 な
\
損害賠償の要件としての債務者のフォートは,条文上,明文規定がない。 しかし,
1 1 4 7 条 に い う 「 不 履 行 i n e x e c u t i o n 」 の 概 念 に , 「 契 約 上 の フ ォ ー ト f a u t e
contractuel」の概念が内包されているものと 一般に解されている。山口•
前掲書 1 3 6 頁。債務不履行をもって「契約上のフォート」とするのは, Domat 以来の伝統 であるとされる。民法典編纂過程における契約上のフォートについては,今野正規
「フランス契約責任論の形成 (1) 」北法第5 4 巻第 4 号 ( 2 0 0 3 年 ) 2 9 8 頁以下が詳しい。
1 8 ) 野田・前掲注 ( 1 5 )1 1 8 頁 。
1 9 ) 野田・前掲注 ( 1 5 )1 1 9 頁。Domat (ドマ)の見解については,飛世昭裕「フラン ス私法学史における『フォオト』概念の成立(一)」北法第4 1 巻第 5=6 号5 4 4 頁以 下が詳しい
。2 0 ) P L A N I O L ( M . ) , ≪ E t u d e s s u r l a r e s p o n s a b i l i t e c i v i l e : du Jondement de l a r e s p o n s a b i l i t e ≫ , R e v . c r i t . L e g i s . e t j u r i s . , 1 9 0 5 , p . 287では, ≪Toute f a u t e e s t une c o n t r a v e n t i o n a une o b l i g a t i o n p r e e x i s t a n t e . ≫ と表現されているが, P L A N I O L( M . ) e t R r r E R T (G . ) , T r a i t e e l e m e n t a i r e de d r o i t c i v i l , t . 2 , 1 o e ed . , LGDJ, 1 9 2 6 , n ° 8 6 3 , p . 290 では, ≪Laf a u t e e s t un manquement a une o b l i g a t i o n p r e e x i s t a n t e . ≫ と表記さ れており,また, ≪ v i o l a t i o nd ' u n e o b l i g a t i o n p r e e x i s t a n t e . ≫ とも表記されることが ある。 FABRE‑MAGNAN( M . ) , D r o i t d e s o b l i g a t i o n s , 2‑ R e s p o n s a b i l i t e c i v i l e e t q u a s i
‑ c o n t r a t s , 2 e e d . , PUF, 2 0 1 0 , p . 8 9 ; M
俎A U R I E( P . ) , AYNES
(L.)e t STOFFEL‑MuNCK ( P . ) , L e s o b l i g a t i o n s , 4 e e d . , DEFRENOIS, 2 0 0 9 , n°51, p . 2 9 .
P l a n i o lがフォートに対する制裁として責任を観念したことにより,理論的には,
不法行為責任と契約責任の差異はなくなり,契約上のものであれ,不法行為上のも のであれ,フォートは「先存する債務に対する違反」と定義されるのである
。今野・前掲注 ( 1 7 )2 5 8 頁。
P l a n i o lがフォートを定義する際に「債務 ( o b l i g a t i o n ) 」という語を用いる場合 には,
一般的に「債膀」.と\ヽう.謡迄用いる債樟薩と.債務・者を結ぶ法的関係という意味 よ り も 広 く , 先 存 す る 何 ら か の 規 範 に 対 す る 違 反 を 意 味 し て い る
。「債務( o b l i g a t i o n ) 」という語は,特定の相手方との間に存在する関係性を含意する概/
‑ 1 6 3 ‑ (163)
要 素 を 法 的 に 表 現 し た も の と し て , そ の 後 の あ ら ゆ る フ ォ ー ト の 概 念 規 定 の 基 礎 を 提 供 し た も の で あ り , 学 説 史 的 に 非 常 に 重 要 で あ る と さ れ る21)。 こ の 定 義 は , 極 め て 客 観 的 な 概 念 と し て フ ォ ー ト を 捉 え て い る。そ こ で , 客 観 的 要 素 だ け を も っ て フ ォ ー ト 概 念 を 説 明 す る 学 派 と , ナ ポ レ オ ン 法 典 以 来 , フ ォ ー ト の 概 念 に 主 観 的 要 素 が 不 可 欠 で あ る と す る 学 派 と に 分 か れ る こ と に な る22¥
以 下 に お い て フ ォ ー ト の 諸 要 素 に つ い て 概 観 す る こ と に し よ う 。
1 ‑ 2 .
フ ォ ー ト の 要 素フ ォ ー ト の 客 観 的 要 素 と 主 観 的 要 素 を 分 け て 検 討 す る
2 3 ¥
1 ‑ 2 ‑ 1 .
フ ォ ー ト の 客 観 的 要 素フ ォ ー ト が あ る と い う た め に は , ま ず , 物 質 的 要 素 と 違 法 性 要 素 の
2
つ の 客\念であったと言われ,その意味で,特定の相手方を想定しない「義務
( d e v o i r ) 」
とは区別される。
Jourdain
は,この点を踏まえて,P l a n i o l
の定義を修正し,「先 存 義 務 の 違 反( l a t r a n s g r e s s i o n d ' u n d e v o i r p r e e x i s t a n t )
」 と 定 義 し て い る。J ou RD A I N ( P . ) , L e s p r i n c i p e s de l a r e s p o n s a b i l i t e c i v i l e , 7 e ed . , D a l l o z , 2 0 0 7 , p . 4 4 .
今野正規「民事責任と社会秩序( 2 •
完)—―ー社会思想からみた 19 世紀フランスにおける民事責任の変遷ー一ー」関法第
6 1
巻第2
号( 2 0 1 1
年)1 0 4
頁参照。2 1 )
野田・前掲( 1 5 ) 1 2 7
頁。2 2 )
野田・前掲( 1 5 )1 2 8
頁。フランスの法律用語辞典である,
C o R NU(G . ) , Vocabulair e j u r i d i q u e , PUF, 2 0 0 7 , p . 402
によれば,民法上のフォートとは,以下のようなものである。「次のものの
結合を前提とした違法な行為である。①
物質的要素:原因行為 (積極的行為ー一 作為,または差し控えること一ー不作為から構成される。,) ② 違法性要素:義務 に違反すること,法 (法律,慣習など)に違反すること, ③ (いわゆる客観的 フォートの理論は別として,)精神的要素:ときに意思的( v o l o n t a i r e )
と呼ばれる,行為者の事理弁識能力」。なお,本稿は,事理弁識能力がフォートの要素でないと いう立場から,フォートの内容を紹介している。フォートに主観的要素があるとい う立場によ った場合であっても,保険法上の
f a u t ei n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v e
の検 討に差異が生じるわけではない。
というのも,保険法上のf a u t ei n t e n t i o n n e l l e ou d o l o s i v e
は意思的( v o l o n t a i r e )
フォートを前提とするフォー トであり,それは,いずれの立場によっても事理弁識能力を前提としたフォートだからである。
2 3 )
以下の記述は,F A BRE‑MA G NA N(M . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 87 e t s .
に依るところが大きい。
‑ 1 6 4 ‑ ( 1 6 4 )
観的要素が必要である24)。
1 ‑ 2 ‑ 1 ‑ 1 .
物質的要素民 法 典1382条の責任は,「人の所為
( l af a i t de l'homme)
」を前提としている。し か し な が ら , こ こ で い う 人 の 所 為 は , 作 為 と 不 作 為25)の 両 方 を 意 味 す る た め,この物質的要素はさほど重要視されるものではない。
1 ‑ 2 ‑ 1 ‑ 2 .
違法性要素法に反する行為は,そもそも違法である。問題の所在は,どのような場合に,
あ る 行 為 が 法 に 反 し て い る と 言 え る の か で あ る 。 先 に 述 べ た
P l a n i o lの定義に
よれば,フォートとは,先存する債務に対する違反であった。この先存する債 務 は , 必 ず し も 明 文 規 定 に 定 め ら れ て い る と は 限 ら な い が2 6 ¥
訴訟段階におい て裁判官により明らかにされうるものである2 7 ¥
裁判官は,ある者がフォートを犯したか否かを判断するために,問題となっ ている行為と「善良な家父
(honpere de f a m i l l e )
」の行動とを比較している2 8 ¥
この基準は,破毀院でも採用され,次のように使われた。善良な家父が,同一 状況において,同一の行動を採用したかどうか。もし採用しなかったならば,
そこにはフォートが存在する,と
2 9 ¥
2 4 )
FABRE‑MAGNAN (M.),o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 8 7 .
2 5 )
契約締結段階のように, 一般的に説明義務がある場合には,情報を提供しないこ とがフォートとみなされうる。 FABRE‑MAGNAN (M.),o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 8 8 .
2 6 )
MALAURIE( P . ) ,
AYNES (L.)e t
STOFFEL‑MUNCK( P . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , n ° 5 2 , p . 2 9 . 2 7 )
しかし,P l a n i o lの定義は,循環的であるとして批判されている。というのも,
明らかに先存する債務がある場合を除けば, どういう場合に先存債務があるかが問 題となるからである。 FABRE‑MAGNAN (M.),
o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 89
2 8 )
FABRE‑MAGNAN ( M.),o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 8 9 .
2 9 )
善良な家父( h o np e r e de f a m i l l e )
とは,通常の,慎重にして注意深く,かつ勤勉な者の典型である。山口• 前掲注
( 7 )6 1
頁。しかし,この基準は, もはや抽象的なものではなくなっている。すなわち,問題 となっている行動を,同年齢の者の行動,場合によっては,同性の者または同身分
( c o n d i t i o n )
の者の行動と比較するようになってきたのである。 FABJIB‑MAGNAN(M.),
op . c i t . ( 2 0 ) , p . 9 0 ;
MALAURIE( P . ) ,
AYNES (L.)e t
STOFFEL‑MUNCK( P . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , n ° 5 3 , p . 30 .
‑ 1 6 5 ‑ (165)
1 ‑ 2 ‑ 2 .
フ ォ ー ト の 主 観 的 要 素フ ォ ー ト の 主 観 的 要 素 は , 行 為 者 が 自 己 の 行 為 に つ い て 有 し て い る 意 識 と 関 連 し て い る 。 そ の 意 識 は , 意 思 的 行 為 の 段 階 と 故 意 的 行 為 の 段 階 に 区 別 す る こ と が で き る 。 意 思 的 行 為
(una c t e v o l o n t a i r e )
の 段 階 と は , 行 為 者 が そ の 行 為 を 欲 し て い る 段 階30)で あ り , 故 意 的 行 為(una c t e i n t e n t i o n n e l )
の段階とは,行 為 者 が そ の 行 為 を 欲 す る だ け で な く , 結 果 を も 欲 し て い る 段 階31)である。 以 下 で は , フ ォ ー ト の 主 観 的 要 素 を 明 ら か に す る た め に , 故 意 的 要 素 お よ び 帰 責性 要 素 に つ い て 述 べ る。
1 ‑ 2 ‑ 2 ‑ 1 .
故意的要素民 法 典
1383
条32)は , 「 そ れ ぞ れ の 者 は , 自 己 の 行 為 に よ っ て 生 じ さ せ た 損 害 だ け で な く , そ の 解 怠 に よ って , 又 は そ の 軽 率 に よ っ て 生 じ さ せ た 損 害 に つ い て も 責 任 を 負 う 。」 と 定 め て い る 。 僻 怠 ま た は 軽 率 に よ る 行 為 は 損 害 を 発 生 さ せ る 意 図 で な さ れ た も の で は な い。つまり,行為者の民事責任を問うためには,そ の 行 為 が 故 意 的 な も の で あ る こ と を 要 し な い こ と に な る33)。 したがって,行 為 の 故 意 性 は , 行 為 者 の 民 事 責 任 に 関 し て は 全 く 影 響 を 及 ぼ さ な い の で あ る
3 4 ¥
3 0 )
これに関しては,後述3 ‑ 2 ‑ 1
参照。3 1 ) 民事責任に関していえば,このことは,他人に損害を発生させることを欲してい
たことを意味する。FAB R E ‑MA G N A N( M . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 9 5 .
3 2 )
本条の訳文は,法務大臣官房司法法制調査部・前掲注( 1 6 )
を参考にした。原文は 以下のとおりである。A r t i c l e 1 3 8 3
Chacun e s t r e s p o n s a b l e du dommage qu ' i l a c a u s e non s e u l e m e n t p a r s a
函
g l i g e a n c eou p a r son imprudence .
3 3 ) 民法典1 3 8 3
条の責任は,準不法行為( q u a s i ‑ d e l i t )責任と呼ばれ,厳密な意味で
の不法行為,すなわち故意行為を対象としている民法典1 3 8 2
条と対置されている。Car b o n n i e r
によれば,「も っとも 一般 的 な 用 語 法 に 従 え ば ,d e l i t
はf a u t e i n t e n t i o n n e l l eであり, q u a s i ‑ d e l i tは
,f a u t e non i n t e n t i o n n e l l eである」
。「f a u t e i n t e n t i o n n e l l eすなわち d e l i tでは,
責任を負う者は害意( i n t e n t i o nde n u i r e )
を有していたのである
。つまり,行為の損害結果を予見し認容しただけでなく,求めた
ことが必要である」。C A R B ONN I E R ( J . ) , Themis , t . 2 , L e s B i e n e t l e s O b l i g a t i o n s , 2 e p a r t i e L e s O b l i g a t i o n s , PUF, 1 9 5 7 , n ° 1 7 7 , p . 604 .
3 4 )
したがって,故意的要素は民事責任レベルでは,役に立たないといわれている。FABRE‑M AG N A N ( M . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 9 5 .
‑ 1 6 6 ‑ ( 1 6 6 )
それゆえ,
1382
条と1383
条という条文の二重性は不要であるように思われ,裁 判官も,1382
条のみを用いるか,あるいは,「民法典1382
条および1383
条に基 づいて,……。」と始め,両方の条文を用いている3 5 ¥
また,責任の範囲は,引き起こされた損害の程度で決定されるのであって,
フォートの重大性によって決定されるのではない
3 6 ¥
1 ‑ 2 ‑ 2 ‑ 2 .
帰責性要素伝統的にフォートは,違法性要素のほかに,帰責性要素を含んできた37)。す なわち,行為者が善悪を判断する「事理弁識能力
( c a p a c i t ede discernement)
」38)を有していた必要があったのである。
この事理弁識能力を有しない者には,
2
つのタイプがある。1
つは,「幼少年 者Oesi n f a n s )
」であり,もう1
つは,「精神障碍者Oesa l i e n e s )
」39)である。これ3 5 ) FABRE‑MAGNAN (M . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 95 .
3 6 )
犯されたフォートの重大性は原則として異ならないが,例外が存在する。たとえ ば,共同不法行為者間の賠償責任の分担場面では,各人のフォートの重大さが考慮 される。FABRE‑MAGNAN( M . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 8 8 .
フォートの重大性が考慮される 場合について検討しているものとしては,田中通裕「フランスの損害補償制度にお けるフォート( f a u t e )
-—その重大性,程度が考慮される場合を中心として 」 法と政治第27
巻第1
号( 1 9 7 6
年)1 0 9
頁以下がある。3 7 )
一般に,フォートは,「行為者に帰責される違法行為≪unf a i t i l l i c i t e i m p u t a b l e a
son a u t e u r ≫」と定義されていたとされる
。MAZEAU D ( H . L . e t
J.),Leron de d r o i t c i v i l , t . 2 , O b l i g a t i o n s , 9 e e d . , p a r CHABAS ( F . ) , M o n t c h r e s t i e n , 1 9 9 8 , n°443, p . 4 5 1 .
たとえば,C a p i t a n tは,「契約上の債務,法規,あるいは同胞との関係において
熱心さと誠実さをもって振る舞うという人に課される義務に対する故意的または非 故意的な違反を構成する作為または不作為。フォートは,事理弁識能力,つまり,自己の行為の射程を理解する個人的能力を前提とする。フォートは,それによって 他人に生じた損害を賠償することを行為者に義務付ける。」としている。
C A P J T A N T ( H . ) , V o c a b u l a i r e j u r i d i q u e , 1 r e e d . , PUF, 1 9 3 0 , p . 2 5 0 .
3 8 ) 未成年者について問題とされる(かつては成年者についても問題とされた)善悪
を区別する能力。この能力があるとされると不法行為責任を負う適格があることに なる。物心のつく年齢agede r a i s o nになっているかどうかによって決められるが,
その判断は事実問題である。 山口• 前掲注
( 7 )1 7 1
頁。3 9 )
たとえば,被保護成年者のような法的に無能力とされた者や,てんかんの発作と いったひどい精神的被害を受け, 一時的に無能力となった者。FABRE‑MAGN A N(M . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 9 6 .
‑‑ 1 6 7 ‑ (167 )
らの者は,事理弁識能力を有していないので,フォートを犯しえないとされてい た40)。それゆえ,これらの者は,自己の行為の結果について賠償する責任を負う ことはあり得なかった41)。したがって,フォートは,たとえそれが解怠や軽率に よるものであったとしても,常に「意思的な」行為であるとされていたのである42)。
次第に法律と判例は,フォートの要素として事理弁識能力は不要であるとし ていく。
まず,
1968
年1
月 3日付法第68‑5
号は,「他人に損害を発生させた者は,た とえ精神異常状態であったとしても賠償義務を負う」旨を定める民法典489‑2
条43)(現行民法典414‑
3条)を追加した。これにより,精神障碍者は,自己の 行為の結果について,仮に責任能力者であったならば負ったであろう責任と同 様の損害賠償責任を負うことになったのである。ただし,本条は,精神障碍者 の民事責任を対象とするものであり,幼少年者には適用されなかった44)。4 0 ) P o t h i e r
は,理性があることを不法行為責任の成立要件としていた。まず,P o t h i e r
は,不法行為( d e l it s )
を故意( d o ! )
または害意( m a l i g n i t e a )
によって他 人に損害を与えることであると定義し,準不法行為( q u a s i ‑ d e l i t s )
を害意はない が許すことができない軽率によって他人に何らかの損害を与えることであると定義 する。次に,以上の不法行為および準不法行為の定義から,不法行為および準不法 行為をなしうるのは理性を行使できる者だけであるとする。その理由としては,理 性を行使できない者,たとえば,幼児や精神障碍者などは害意を有しえず,軽率ということもあり得ないからであるとしている。新関輝夫「フランス不法行為におけ るフォート概念の変容」森島昭夫教授還暦記念論文集「不法行為法の現代的課題と 展開』(日本評論社,
1 9 8 5
年)6 9
頁参照。また,P o t h i e r
の見解については,飛世・前掲注
( 1 9 ) 5 4 6
頁以下参照。4 1 )
精神障碍者については,福田伸子「精神障害者の民事責任と過失主義」名法第9 6
巻( 1 9 8 3
年)4 4 2
頁以下,幼少年者については,奥野久雄「フランス法における幼 少年者の不法行為責任」大阪商大論集第7 4
巻( 1 9 8 5
年)1 2 5
頁以下が詳しい。4 2 )
意思的な行為は事理弁識能力があることを前提としているからである。4 3 ) A r t i c l e 489‑2
C e l u i q u i a c a u s e un dommage a a u t r u i a l o r s q u ' i l e t a i t s o u s ! ' empire d ' u n t r o u b l e mental n ' en e s t p a s moins o b l i g e a r e p a r a t i o n .
なお,本条は,
2 0 0 7
年3
月5
日付法第2 0 0 7 ‑ 3 0 8
号によって廃止されたが,同じ内 容の条文が規定されている( 4 1 4 ‑3
条)。4 4 )
判例は,本条を厳格に解して,幼少年者に本条を適用しなかったために,従来通 り幼少年者は一般不法行為責任を負うことはないとしていた。しかし, 一方で,/'‑ 1 6 8 ‑ (168)
しかし,幼少年者の民事責任に関して,破毀院大法廷によって
1984
年5
月9
日に出された5
つの判決が注目される45)。これらの判決は,幼少年者に事理弁 識能力の有無にかかわらず責任を認めようとするものであった46)。それ以降,\未成年者の心神喪失者が未成年者を殺害したという事案について,本条が適用され た判決がある(破毀院第
1
民事部1 9 7 6
年7
月2 0
日判決)。これは,本条が精神障碍 者を成年者か否かで区別しないことをその理由とする。新関・前掲注( 4 0 )7 6
頁参照。4 5 ) 5
つの判決の内容は,新関・前掲注( 4 0 )7 7
頁以下で紹介されているので,そちら を参照されたい。本稿では,差し当たり,幼少年者のフォートについて語られる際 に , し ば し ば 引 用 さ れ て い る一 ーたとえば,フランソワ・シャバス,北村一郎(訳)「フランス民事責任法における客観的過失
( f a u t eo b j e c t i v e )
概念の進化」北 村一郎ほか(編)『現代ヨーロッパ法の展望』(東京大学出版会,1 9 9 8
年)3 3 0
頁, FABRE‑MAGNAN (M.),o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 9 7 e t s .
—Lemaire 判決 (Cass.A s s . p l e n . 9 mai 1 9 8 4 , n ° 8 0 ‑ 9 3 0 3 1 ; B u l l . c i v . 1 9 8 4 A s s . p l e n . n ° 2 )
とD e r g u i n i
判決( C a s s .A s s . p l e n . 9 mai 1 9 8 4 , n°80‑93481 ; B u l l . c i v . 1 9 8 4 Ass . p l e n . n ° 3 )
を取り上げておく 。これら
2
つの判決は, 子どもの死亡事件についての判決である。Lemaire
判決は,1 3
歳の子どもがソケットに電球を差し込む際に感電し,死亡した事件であり,D e r g u i n i
判決は,5
歳の子どもが優先通行交差点を横断中に自動車に衝突されて 死亡した事件である。Lemaire
判決では,事件が起きた家畜小屋で1 0
日前に電気工事を行った電気屋の 責任が追及され,D e r g u i n i
判決では,当該自動車の運転手の責任が追及された。控訴院は,被害者たる子どもの軽率な行動によって損害が生じたものであるとし て,責任を原告・被告で分担する旨を決定した。
両事件の破毀申立において,被害者の親が次のように主張した。すなわち,被害 者たる子どもの事理弁識能力がないということは,子どもにフォートがないという
ことであるから,責任の分担は正当ではない,と。
破毀院は,子どものフォー トを考慮する際には,自己の行為の結果を識別する能 力を有しているかどうかを確認する義務は控訴院にはない, と述べ,破毀申立を棄 却した。
つまり,事理弁識能力がなくてもフォートが認められるのであるから,控訴院が 事理弁識能力の有無を調査する必要がないとしたのである。
4 6 )
新関輝夫は,この点につき以下のように述べる。「弁識力なき幼児にも民事責 任を認めるべきであるというテーゼは,また,フォートの評価の仕方とも密接に 関わる。すなわち,フォートは,通説によれば,抽象的に評価( a p p r e c i a t i o ni n a b s t r a c t o )
されなければならないとされており,フォートの抽象的評価とは損害を惹き起こした者の行為が抽象化された標準人の行為と比較してなされるというこ とである。そして,行為者自身の精神状態などは行為者の内部的な個人事情であり,
フォートの有無を判断するにあたっては考慮されるべきではないとされる。この論 理を敷術すれば,精神異常者や弁識力のない幼児にも民事責任を認めるべきであ/
― ‑ 1 6 9 ‑ (169)
フォートは,事理弁識能力を失った者によっても犯されうるのである47)。民事 責 任 は フ ォ ー ト に 対 す る 責 任 で あ る が , そ の フ ォ ー ト は 主 観 的 要 素 を 失 っ た
「客観的」フォートである48)0
1 ‑ 3 . 1 j ¥
括フォートとは,
P l a n i o lによれば,先存する債務 ( o b l i g a t i o n )
に対する違反 である。ただし,P l a n i o l
がフォートを定義する際に,≪ o b l i g a t i o n ≫
という語 を用いる場合には,債権者と債務者を結ぶ法的関係という意味よりも広く,先. . . . . .
存する何らかの規範を意味している点に注意が必要である49)
。
ところで,フォートの諸要素を検討したが,法律および判例によって帰責性 要素が不要とされて以降,民事責任におけるフォートに関して重要な要素は違 法性要素だけとなっている。
以下では,
f a u t ei n t e n t i o n n e l l eお よ び f a u t ed o l o s i v eについての検討を行う
が,これらのフォートは,意思的フォート( f a u t ev o l o n t a i r e )
を前提としてい る。この意思的フォートは,民事責任の成立については要求されていない帰責 性要素を前提とするフォートであることに注意しなければならない。2 . 保険事故招致免責規定の立法の変遷
2 ‑ 1 .
保険契約に関する1 9 3 0
年7 月 1 3
日付法第1 2
条の制定50)2 ‑ 1 ‑ 1 . 1 9 0 4
年の草案までの状況\るという結論に容易に到達することになる」
。新関・前掲注 ( 4 0 )8 1
頁。4 7 )
FABRE‑MAGNAN ( M.),o p .
cit.( 2 0 ) , p . 98 .
48) 帰責性とは,厳格な意味では,ある行為の原因を人に帰することの可能性である。 民法も刑法も,帰責性を伝統的に,「自己の行為に関して行為者が有していた意識 であり,識別能力を前提とする意識」と定義している
。刑法上この要件が存続して
いたとしても,不法行為責任法からは,この要件は消滅している。
FABRE‑M AGNAN( M . ) , o p . c i t . ( 2 0 ) , p . 9 8 .
4 9 )
この点については,注( 2 0 )
参照。5 0 ) ≪La l o i du 1 3 j u i l l e t 1 9 3 0 r e l a t i v e a u x c o n t r a t s d ' a s s u r a n c e ≫ .
以下,本稿では,「保険契約に関する
1 9 3 0
年7
月1 3
日付法」を単に「1 9 3 0
年7
月1 3
日付法」と表記する。‑ 1 7 0 ‑ (170)
1 9
世紀まで,海上保険については,1 8 0 8
年の商法典第1 0
章第3 3 2
条〜第3 9 6
条 に規定があったが,陸上保険については,民法典第1 9 6 4
条において,射倖契約 の1
つとして保険契約が掲げられていただけであり,そのほかは何ら規定がな かった5 1 ¥
海上保険について,
C h . de La Prugne
によれば,付保されうるリスクは,た とえば,雹,雷,船長または乗組員のフォートと無関係な原因による海難事故 といった,もっぱら偶然の出来事または不可抗力によって生じるリスクだけで あるとされていた5 2 )
。また,C h . de La Prugne
は,当時の判例法理を以下のように要約している。「被保険者の行為が故意
( d o l )5 3 l
と同等の重いフォート( f a u t e lourde) 5 4 )
を構成しない限り,当該被保険者は当該行為の結果について5 1 ) L A M B E R T ‑ F A I V R E ( Y . ) e t LEVENEUR ( L . ) , o p . c i t . ( 6 ) , n°164, p . 1 5 9 ; B E I G N I E R ( B . ) ,
D r o i t d e s a s s u r a n c e s , M o n t c h r e s t i e n , 2 0 1 1 , 1 1 ° 2 6 , p . 3 3 .
当時の保険に関する法律についての邦語文献としては,三好義之助『フランスの 保険事業』(千倉書房,
1 9 9 6
年)がある。第1
次世界大戦後の保険関係法の発展につ いては, とくに三好• 前掲書81
頁以下が詳しい。5 2 ) DE LA PRuGNE ( C H . ) , T r a i t e t h e o r i q u e e t p r a t i q u e de l ' a s s u r a n c e e n g e n e r a l , 1 8 9 5 , p . 5 0 .
5 3 ) d o ! は,ラテン語の d o l u sに由来する語であり, d o l u sとは,「悪意,故意,犯意,
詐欺,偽岡」を意味する語である。柴田光蔵『法律ラテン語辞典』(日本評論社,
1 9 8 5
年)1 0 8
頁参照。ゲオルク・クリンゲンベルク(著)瀧澤栄治(訳)『ローマ債権法講義』(大学教 育出版,
2 0 0 1
年)388
頁によれば,悪意( d o l u s )
という表現には,ローマ法上次の 意味がある。すなわち,「① 悪意=故意:過失に対立するところの帰責事由②
悪意=意識して行われる,信義に反する行為,信義誠実bonaf i d e s
違反③
悪意=詐欺,独立の法務官法上の不法行為」。
ュスティニアヌス法典における帰責事由は,次のように分類される。まず,広義 の過失
( c u l p a )
は,悪意( d o l u s )
と狭義の過失( c u l p a )
を包含する概念である。そして,狭義の過失
( c u l p a )
は,重過失( c u l p al a t a )
と軽過失( c u l p al e v i s )
に 分けられる。ここでいう悪意( d o l u s )
とは,義務違反を認識する精神状態であるとされる。狭義の過失