• 検索結果がありません。

亀裂を有する堆積岩を対象とした

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "亀裂を有する堆積岩を対象とした"

Copied!
135
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

博士論文

亀裂を有する堆積岩を対象とした

物質移行パラメータの評価手法に関する研究

平成 26 年 3 月

熊本 創

岡山大学大学院

環境学研究科

(2)
(3)

博士論文

亀裂を有する堆積岩を対象とした物質移行パラメータの評価手法に関する研究

岡山大学大学院 環境学研究科 熊本 創

要 旨

2011年3月11日の東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故を受けて,わ が国の原子力政策の抜本的な見直しが迫られる中,これまでに発生した高レベル放射性廃 棄物の処分問題を解決するための取り組みは,喫緊の最重要課題の一つと考えられる.

高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性評価では,人工バリアから漏出した放射性核 種が地下水を輸送媒体として生物圏へ移行することを想定した「地下水シナリオ」を中心 に評価することが重要とされている.そのため,処分施設周辺の岩盤の物質移行特性を精 度良く把握することが重要となる.岩盤中の物質移行挙動は,対象とするサイトの地質環 境によって大きく異なる.そのため,わが国では,処分場を設置する母岩として大別され た結晶質岩および堆積岩を対象とした二つの深地層の研究施設計画を進めており,地下水 の移行経路に着目し,それぞれの岩種を亀裂性媒体および多孔質媒体として扱った調査・

研究を行っている.しかし,堆積岩においても,亀裂が発達している場合は,亀裂が粒子 間間隙よりも卓越した水みちを形成すると考えられる.特に,わが国の堆積岩を対象とし た調査・研究サイトである幌延地域では岩石基質部(マトリクス部)の間隙率が大きく,

かつ亀裂が発達していることなどから,多孔質媒体と亀裂性媒体の双方の特徴を併せ持っ た性質を有することが明らかとなっており,その物質移行特性の評価手法の確立が重要な 課題となってきている.

一般に,亀裂の発達した岩盤中の物質移行現象は,亀裂内の移流・分散現象が支配的と なる.しかし,亀裂内の流速が遅い場合や堆積岩のように空隙率の大きい岩盤を対象とし た場合では,亀裂から岩石基質部への拡散現象(マトリクス拡散現象)による遅延効果の 影響を受けやすくなるため,亀裂とマトリクスの双方を考慮した評価が必要となる.

そこで,本研究では,このような亀裂の発達した多孔質岩盤を対象とした場合の,亀裂 内の移流・分散とマトリクス拡散に関わるパラメータの評価手法の確立を目的とし,以下 の検討を行った.

① 既往のトレーサー試験手法の妥当性の検討と課題の抽出

② 亀裂とマトリクスの相互作用を考慮したトレーサー試験手法の提案 ③ 提案手法の適用性の検証

(4)

既往のトレーサー試験手法の妥当性の検証では,トレーサー試験によって亀裂内の移 流・分散とマトリクス拡散に関わる3つのパラメータ(亀裂の開口幅2b,亀裂内の縦方向 分散長αL,マトリクス部の拡散係数Dm)を同定する場合を想定した数値実験を行い,従 来から提案されているマルチ流量試験やマルチトレーサー試験の有効性や適用範囲を確認 した.その結果,単成分のトレーサー試験を1回実施するだけでは,3つのパラメータを一 度に評価することは困難であることを明らかにした.また,マルチ流量試験およびマルチ トレーサー試験は,3つのパラメータを一意的に同定する上で,有効な手法であるが,試験 の流量条件によっては特に開口幅の同定感度が低くなり,一意的な評価が困難となる場合 があることを明らかにした.

亀裂とマトリクスの相互作用を考慮したトレーサー試験手法の提案では,上記の数値実 験で得られた知見を受けて,一次元トレーサー試験結果から亀裂内の移流・分散とマトリ クス拡散に関わる3つのパラメータを一度に評価するための条件設定方法について理論的 な検討を行い,新しい条件設定手法を提案した.その結果,パラメータの同定感度が,亀 裂内の移流による滞留時間とマトリクス拡散による遅延時間の比に依存することを明らか にした.さらに,パラメータの同定感度の指標を新たに提案し,これに基づいて試験条件 を設定することにより,3つのパラメータを一意的に評価できることを示した.

提案手法の適用性の検証では,幌延地域の岩石試料を用いた室内マルチトレーサー試験 を実施し,提案した条件設定手法の適用性を検証した.その結果,提案した方法で試験条 件を設定すれば,マルチトレーサー試験により,十分な同定感度を有する試験を行うこと が可能となり,3つのパラメータを適切に評価できることが実験的に検証された.また,試 験の実施を通じて,濃度変化率などの試験条件の設定に必要となるパラメータの具体的な 決定方法を示し,その妥当性を確認した.

(5)

目 次

1. 序論 ... 1-1 1.1. 研究の背景 ... 1-1 1.2. 研究の目的 ... 1-6 1.3. 論文の構成と内容 ... 1-7 2. 従来の研究 ... 2-1

2.1. 亀裂を含む多孔質岩盤中の物質移行特性 ... 2-1 2.1.1. マトリクス拡散の直接的な観察例 ... 2-2 2.1.2. マトリクス拡散の間接的な観察例 ... 2-4 2.2. マトリクス拡散係数の測定方法 ... 2-6

2.2.1. 拡散試験の理論 ... 2-6 2.2.2. 拡散試験の方法 ... 2-8 2.2.3. 拡散試験の課題 ... 2-18 2.3. 亀裂とマトリクスの相互作用を考慮したトレーサー試験 ... 2-19 2.3.1. トレーサー試験の方法 ... 2-19 2.3.2. トレーサー試験の評価方法 ... 2-27 2.3.3. トレーサー試験の課題 ... 2-35 2.4. 本研究の位置づけ ... 2-36 3. 数値実験による従来のトレーサー試験方法の検証 ... 3-1 3.1. はじめに ... 3-1 3.2. 物質移行現象の概念モデル ... 3-3 3.2.1. 概念モデル ... 3-3 3.2.2. 支配方程式と理論解 ... 3-4 3.3. トレーサー試験結果のマッチングによるパラメータ同定方法 ... 3-6 3.3.1. パラメータの同定手順 ... 3-6 3.3.2. マルチ流量試験結果によるパラメータ同定方法 ... 3-7 3.3.3. マルチトレーサー試験結果によるパラメータ同定方法 ... 3-7 3.4. 数値実験によるトレーサー試験の妥当性検証 ... 3-9 3.4.1. 仮想トレーサー試験 ... 3-9 3.4.2. パラメータ同定における解の妥当性の確認 ... 3-12 3.5. 結論 ... 3-20 4. 亀裂とマトリクスの相互作用を考慮したトレーサー試験手法の提案 ... 4-1 4.1. はじめに ... 4-1 4.2. 試験条件と開口幅の感度の関係 ... 4-1 4.2.1. 亀裂内の分散を無視した理論解による説明 ... 4-1

(6)

4.2.2. 亀裂内の分散を考慮した場合 ... 4-8 4.3. 試験条件の設定方法の提案 ... 4-11

4.3.1. 試験条件の設定方法 ... 4-11 4.3.2. 既往の試験結果の検証 ... 4-11 4.4. 結論 ... 4-13 5. 亀裂とマトリクスの相互作用を考慮したトレーサー試験手法の適用 ... 5-1 5.1. はじめに ... 5-1 5.2. 対象試料 ... 5-1 5.2.1. 採取地域の地質概要 ... 5-2 5.2.2. 採取地域の水理・物質移行特性 ... 5-4 5.3. 試験条件設定のための予備試験 ... 5-10 5.3.1. マトリクス部を対象とした間隙率測定 ... 5-10 5.3.2. マトリクス部を対象とした透水試験 ... 5-10 5.3.3. 亀裂を対象とした透水試験 ... 5-11 5.3.4. マトリクス部を対象とした拡散試験 ... 5-12 5.3.5. 予備試験結果のまとめ ... 5-14 5.4. マルチトレーサー試験の実施 ... 5-15

5.4.1. 試験方法 ... 5-15 5.4.2. 試験条件の設定 ... 5-16 5.4.3. 試験結果と考察 ... 5-19 5.5. 効率的な試験手順の提案 ... 5-22 5.5.1. 試験手順の提案 ... 5-22 5.5.2. 試験条件の設定 ... 5-23 5.5.3. マルチトレーサー試験の実施 ... 5-24 5.5.4. 流量条件の見直し ... 5-27 5.5.5. 再試験(I-による単成分トレーサー試験)の実施 ... 5-28 5.6. 結論 ... 5-31 6. 結論 ... 6-1

(7)

図 目 次

図 1-1 核燃料サイクルの概念(文献5)より引用) ... 1-2 図 1-2 ガラス固化体の放射能の経時変化(文献6)より引用) ... 1-3 図 1-3 多重バリアシステムの概念(文献8)より引用) ... 1-4 図 1-4 地下水シナリオの概念(文献8)より引用) ... 1-5 図 1-5 わが国の2つの深地層の研究施設計画(文献9)より引用) ... 1-5 図 1-6 亀裂とマトリクス内の物質移行挙動の概念 ... 1-6 図 1-7 本論文の構成 ... 1-8 図 2-1 亀裂を含む多孔質媒体におけるマトリクス拡散の影響(文献1)を引用) 2-1 図 2-2 安全評価の概念モデル(文献6)を引用) ... 2-2 図 2-3 花崗岩中の移行経路の概念(文献16)を引用) ... 2-3 図 2-4 X線XTによる可視化装置(文献13)を引用) ... 2-3 図 2-5 X線CTによる可視化画像とトレーサー濃度分布変換結果(文献13)を引用)

... 2-4 図 2-6 マルチトレーサー試験結果のイメージ(文献18)を引用) ... 2-5 図 2-7 マルチトレーサー試験結果(Yucca Mountain の凝灰岩の例,文献 18)を引 用) ... 2-5 図 2-8 破過曲線のテーリングの例(文献20)を引用) ... 2-6 図 2-9 Through diffusion法の試験装置(水平型,文献30)を引用) ... 2-10 図 2-10 Through diffusion法の試験装置(鉛直型,文献44)を引用) ... 2-11 図 2-11 Through diffusion法の試験結果の例(文献29)を引用) ... 2-11 図 2-12 純水側セル内濃度の時間変化の模式図(文献29)を引用) ... 2-12 図 2-13 In-diffusion法の試験装置(文献12)を引用) ... 2-14 図 2-14 In-diffusion法の濃度分布測定結果の例(文献12)を引用) ... 2-15 図 2-15 In-diffusion法の試験装置(ベントナイト用,文献30)を引用) ... 2-15 図 2-16 原位置拡散試験の概要(モンテリ地下研究施設の例,文献 49)を引用)

... 2-17 図 2-17 測定された濃度分布の例(モンテリ地下研究施設の例,文献 49)を引用)

... 2-17 図 2-18 室内トレーサー試験装置の例(文献51)を引用) ... 2-21 図 2-19 大型ブロック試料の試験例(文献56)を引用) ... 2-21 図 2-20 ポイント希釈試験の概要(文献65)を引用) ... 2-23 図 2-21 単孔式注入揚水試験の概要(文献71)を引用) ... 2-23 図 2-22 平行亀裂の概念 ... 2-30 図 2-23 ダイポール試験の流線(文献77)を引用) ... 2-33

(8)

図 2-24 粒子位置とバックグラウンド流れ方向の概念図(文献77)を引用) ... 2-33 図 3-1 マルチ流量試験とマルチトレーサー試験の概要 ... 3-2 図 3-2 亀裂内移流・分散およびマトリクス拡散の概念モデル ... 3-3 図 3-3 一次元トレーサー試験の概念 ... 3-6 図 3-4 仮想トレーサー試験結果(case1) ... 3-11 図 3-5 仮想トレーサー試験結果(case2) ... 3-11 図 3-6 残差二乗平均εの分布(case1,単一試験) ... 3-13 図 3-7 残差二乗平均εの分布(case1,マルチ流量試験) ... 3-14 図 3-8 残差二乗平均εの分布(case1,マルチトレーサー試験) ... 3-15 図 3-9 残差二乗平均εの分布(case2,単一試験) ... 3-16 図 3-10 残差二乗平均εの分布(case2,マルチ流量試験) ... 3-17 図 3-11 残差二乗平均εの分布(case2,マルチトレーサー試験)... 3-18 図 3-12 開口幅の変化と破過曲線の関係 ... 3-19 図 4-1 分散を無視した場合の破過曲線の例 ... 4-2 図 4-2 開口幅の変化と破過曲線の関係 ... 4-4 図 4-3 開口幅の変化と破過曲線の関係(t正規化) ... 4-5 図 4-4 開口幅の感度の指標の概念(t=t0.5の場合) ... 4-7 図 4-5 濃度変化率とαの関係(t=t0.5の場合) ... 4-7 図 4-6 αの変化と破過曲線の関係(t正規化) ... 4-8 図 4-7 濃度変化率とαの関係(分散考慮,t=t0.5,γ=2.0) ... 4-10 図 4-8 Peの変化と破過曲線の関係(t正規化) ... 4-10 図 4-9 Callahan等(2000)1)の濃度変化率とαの関係 ... 4-12 図 5-1 試料採取位置(文献5)に加筆) ... 5-2 図 5-2 地下研究施設周辺の地質概要(文献9)を引用) ... 5-3 図 5-3 地下研究施設周辺の簡略な地質構造概念モデル(文献9)を引用) ... 5-3 図 5-4 割れ目と地下水流出入箇所との関係(文献9)を引用) ... 5-4 図 5-5 原位置水理試験と室内透水試験から得られた透水係数分布(文献10)を引用)

... 5-5 図 5-6 等価不均質モデルの概要11) ... 5-5 図 5-7 実効拡散係数と有効間隙率の関係(既往データ15)との比較)14) ... 5-7 図 5-8 トレーサー試験結果(声問層の例)14) ... 5-7 図 5-9 マトリクス拡散を考慮した室内トレーサー試験装置16) ... 5-8 図 5-10 トレーサー試験結果の比較16) ... 5-8 図 5-11 トレーサー試験中の試料内部のCT値分布(24時間後)17) ... 5-9 図 5-12 トランジェントパルス透水試験装置17) ... 5-11 図 5-13 透水試験結果(Brace法による評価) ... 5-11

(9)

図 5-14 拡散試験装置(透過拡散法) ... 5-13 図 5-15 拡散試験結果(3種混合ケースの例) ... 5-13 図 5-16 マルチトレーサー試験装置の概要 ... 5-15 図 5-17 濃度変化率とαの関係(t=t0.5,γ=2.0,図4-7再掲) ... 5-17 図 5-18 濃度変化率とαの関係(Pe =100,縦軸拡大) ... 5-18 図 5-19 試験結果と解析結果の比較 ... 5-20 図 5-20 残差二乗平均εの分布(マルチトレーサー試験) ... 5-21 図 5-21 効率的な試験フロー ... 5-23 図 5-22 試験結果と解析結果の比較 ... 5-25 図 5-23 残差二乗平均 εの分布(Dmの推定を誤ったケース:収束せず) ... 5-26 図 5-24 試験結果と解析結果の比較(I- 再試験) ... 5-29 図 5-25 試験結果と解析結果の比較(Br-,PFBA試験) ... 5-29 図 5-26 残差二乗平均εの分布(3曲線同時マッチング) ... 5-30

(10)

表 目 次

表 2-1 種々のイオンの分子拡散係数(文献28)を引用) ... 2-7 表 2-2 孔間トレーサー試験の分類(文献 71)を引用) ... 2-26 表 3-1 仮想トレーサー試験の設定条件 ... 3-10 表 4-1 Callahan等(2000)1)の室内トレーサー試験条件と無次元パラメータα . 4-12 表 5-1 地下研究施設周辺に分布する断層の分類(文献9)を引用) ... 5-3 表 5-2 拡散試験で得られた実効拡散係数の一覧 ... 5-14 表 5-3 予備試験結果のまとめ ... 5-14 表 5-4 試験条件の設定値(マルチトレーサー試験) ... 5-17 表 5-5 パラメータ同定結果 ... 5-20 表 5-6 マルチトレーサー試験の設定条件 ... 5-23 表 5-7 パラメータの見直し結果 ... 5-27 表 5-8 見直し前後の試験条件 ... 5-27 表 5-9パラメータ同定結果(3曲線同時マッチング) ... 5-29

(11)

1-1

1. 序論

1.1. 研究の背景

資源の少ないわが国では,1960年代の経済成長に伴い,また近年の地球温暖化対策にお いて,二酸化炭素を発生しないという特徴を背景に,原子力発電の利用促進が国の政策と して進められてきた.その結果,原子力発電は,わが国の主要電力として国内の総発電力

の約30%を占める重要な役割を担うようになり,今後も,高い安全性と国民の理解を前提

に,更に利用を促進していく計画となっていた1).その一方で,原子力発電によって生じる 放射性廃棄物の処分問題については,これまで先送りされ続けて現在に至っている.核燃 料サイクルの再処理工程から生じる高レベル放射性廃棄物は,2011年12月末時点で,青 森県六ヶ所村と茨城県東海村にて,ガラス固化体1,780本が保管されているほか,海外に 再処理を委託した未返還分(約900本)が既に存在している.また,各地の原子力発電所 には,これまで約半世紀に渡って蓄積されてきた使用済み核燃料が存在しており,これら を全て再処理すれば,約25,000本のガラス固化体が生み出されると言われている2).これ らの高レベル放射性廃棄物は,地下300mよりも深い地質環境に「地層処分」されること が検討されてきたが,具体的な処分場の立地等は未だ決定していない.

そのような中,2011年3月11日の東日本大震災が生じ,福島第一原子力発電所の事故 が発生した.この事故は,国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)で,1986年のチェ ルノブイリ原発事故と同等のレベル7(深刻な事故)に分類され,多くの現地住民が今もな お避難生活を強いられているだけでなく,わが国を含めた諸外国のエネルギー政策にも大 きな影響を及ぼした(たとえば,ドイツは,2011年6月に2022年度末までに全原子力発 電所の段階的停止を決定した.)3).わが国でも,2012年9月に政府のエネルギー・環境会 議が示した,革新的エネルギー・環境戦略の中で,「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」

という目標が掲げられ,今後,原発の運転期間を40年に制限することや,原発の新設・増 設を行わないことなどが示された4).しかし,仮に「2030年代に原発稼働ゼロ」を実現で きたとしても,これまで約半世紀に渡って蓄積してきた放射性廃棄物の処分問題が解決す る訳ではない.また,今後2030年代までの原子力発電により発生する放射性廃棄物や,そ の後,順次廃止措置される原子力発電所からの廃棄物,あるいは福島第一原子力発電所の 廃炉に伴う廃棄物も将来的には処分の対象となるかも知れない.そのような現状を踏まえ ると,高レベル放射性廃棄物の処分問題を解決するための取り組みは,喫緊の最重要課題 の一つと考えられる.

わが国では,長期的なエネルギーの安定確保の観点から,原子力発電で使用した燃料(使 用済燃料)を再処理することによって,再び燃料として利用できるウランやプルトニウム の回収・再利用を行う,「核燃料サイクル」を原子力政策の基本としている(図 1-1)5). 核燃料サイクルでは,再処理工程において,使用済燃料を酸で溶かし,化学的な操作によ って再び燃料として使用できるウランやプルトニウムを回収した結果,高い放射能を有す

(12)

1-2

る高レベル放射性廃液が残る.この廃液を溶融したガラスと混合して,ステンレス製の容 器(キャニスタ)の中に注入・固化し,物理的にも化学的にも安定な形態の放射性廃棄物 とする(これを「ガラス固化体」という).

高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の特徴の1つは,強い放射線を発生することで ある.生成直後のガラス固化体から発生する放射線は,約14,000シーベルトに達する.そ の後,放射線量は,30~50年間の冷却保存期間の間に,放射性崩壊により1//10程度まで 低下するが,最終的にウラン鉱石が本来有している放射線量と同等のレベルに減少するま でには,数万年以上の期間を要する(図 1-2).このような特徴から,高レベル放射性廃棄 物は,数万年以上にわたり,人間の生活環境から物理的に隔離して処分する必要がある.

その方法としては,これまで「海溝処分」,「海洋底下処分」,「氷床処分」,「宇宙処分」な どが考えられてきた例えば6).これら多くの議論を経た結果として得られている国際的なコン センサスとしては,「自分の国で生じた廃棄物は,その国の責任において,将来世代に負担 のない方法で処分されることが望ましい」というものである7).この国際的なコンセンサス に基づいて,原子力エネルギーを使用してきた欧米諸国やわが国では,その実現可能な手 法として,「地層処分」を選択している.

図 1-1 核燃料サイクルの概念(文献 5)より引用)

(13)

1-3

図 1-2 ガラス固化体の放射能の経時変化(文献 6)より引用)

わが国の地層処分の概念は,「安定な地質環境に,性能に余裕をもたせた人工バリアを含 む多重バリアシステムを構築する」というものである.すなわち,天然の地質環境(天然 バリア)と工学的対策が施された人工バリアを組み合わせた多重バリアの考え方に基づい ている(図 1-3)8).人工バリアは,ガラス固化体,金属製のオーバーパックおよび緩衝材 で構成され,設計や品質管理を通じて,その性能を自由に設定できる.変動帯に位置する というわが国の地質学的特徴を考えると,人工バリアの性能に余裕をもたせることは,天 然の地質環境が持つ不均質性や時間的変動に起因するバリア機能の不確実性をある程度補 完することができ,合理的な考え方であると言える.

以上の概念に基づけば,安全性を確保するための対策としては,地層処分にとって適切 な地質環境を選択すること(サイト選定),安定な地質環境に対して,人工バリアや処分施 設を適切に設計・施工すること(工学的対策)によって地層処分システムが備えるべき固 有の性能を確保すること,さらに,構築された地層処分システムの安全性を評価すること

(安全評価)によって長期的な安全性の確認を行うこととなる8)

地層処分の安全評価においては,地下深部の安定な地質環境に埋設された廃棄体中の放 射性核種が数万年以上の長期間にわたって人工バリアから浸出し,岩盤中の地下水を輸送 媒体として生物圏へ移行することを想定した地下水シナリオ(図 1-4)を中心に評価を行う ことが重要とされている.この地下水シナリオにおいては,ガラス固化体,オーバーパッ クおよび緩衝剤からなる人工バリアの核種封じ込め性能に加えて,天然バリアとしての地 下深部の岩盤が有する物質移行遅延性能を評価することが重要となる.

(14)

1-4

岩盤中の物質移行挙動は,対象とするサイトの地質環境によって大きく異なる.そのた め,我が国では,独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下,原子力機構と呼ぶ)によ り,処分場を設置する母岩として大別された結晶質岩および堆積岩を対象とした二つの深 地層の研究施設計画(岐阜県瑞浪市および北海道幌延町)が進められており,地下水の移 行経路に着目し,それぞれの岩種を亀裂性媒体および多孔質媒体として扱った調査・研究 を行っている(図 1-5).しかし,堆積岩においても,亀裂が発達している場合においては,

亀裂が粒子間間隙よりも卓越した水みちを形成すると考えられる.特に,我が国の堆積岩 を対象とした調査・研究サイトである幌延地域では岩石基質部(マトリクス部)の間隙率 が高く,かつ亀裂が発達していることなどから,多孔質媒体と亀裂性媒体の双方の特徴を 併せ持った性質(図 1-6)を有することが明らかとなっており,その物質移行特性の評価手 法の確立が重要な課題となってきている.

図 1-3 多重バリアシステムの概念(文献 8)より引用)

(15)

1-5

図 1-4 地下水シナリオの概念(文献 8)より引用)

図 1-5 わが国の 2 つの深地層の研究施設計画(文献 9)より引用)

(16)

1-6

図 1-6 亀裂とマトリクス内の物質移行挙動の概念

1.2. 研究の目的

上記のように,高レベル放射性廃棄物の地層処分においては,処分システムの安全性評 価を行う上で,天然バリアを構成する岩盤中の物質移行遅延特性を評価することが重要で ある.それらの評価にあたっては,対象とするサイトの地質環境に応じた適切な評価を実 施することが重要となる.

一般に,亀裂の発達した岩盤中の物質移行現象は,亀裂内の移流・分散現象が支配的と なる.しかし,亀裂内の流速が遅い場合や堆積岩のように空隙率の大きい岩盤を対象とし た場合では,亀裂から岩石基質部への拡散現象(マトリクス拡散現象)による遅延効果の 影響を受けやすくなるため9)10)11),亀裂とマトリクスの双方を考慮した評価が必要となる.

そこで,本研究では,このような亀裂の発達した多孔質岩盤を対象とした場合の,亀裂内 の移流・分散とマトリクス拡散に関わるパラメータの評価手法の確立を目的とした.

(17)

1-7

1.3. 論文の構成と内容

本研究では,亀裂の発達した堆積岩を対象とした高レベル放射性廃棄物の地層処分にお ける物質移行評価に着目し,上記の目的に対する検討を行った.

本論文は,図 1-7に示すように,1章から6章までの6つの章で構成されている.各章 の内容は以下の通りである.

1章では,研究の背景,目的と論文の構成を示した.

2章では,従来の研究のレビューとして,亀裂を含む多孔質岩盤中の物質移行特性につい て取りまとめ,特に重要となるマトリクス拡散係数の測定方法の現状について整理した.

また,室内および原位置におけるトレーサー試験手法や,亀裂内移流・分散とマトリクス 拡散を考慮したトレーサー試験結果の評価手法について整理した.その後,現状での試験 手法や試験結果の評価手法の問題点を明らかにし,本研究の位置づけを明確にした.

3章では,単一亀裂中の一次元移流・分散とマトリクス拡散を考慮した支配方程式の理論 解12)を用いて,実際のトレーサー試験と,その結果の評価の過程を模擬した数値実験を実 施し,従来の研究で提案されている試験手法(マルチ流量試験,マルチトレーサー試験)13) の有効性や適用範囲などを明らかにした.

4章では,3章の数値実験の結果を踏まえ,亀裂内の移流・分散とマトリクス拡散に関わ る各種パラメータを一度に評価可能な新たなトレーサー試験手法の提案を行った.具体的 には,トレーサー試験結果から諸パラメータを一意的に同定する場合に,試験の条件設定 に求められる要件を整理し,それを踏まえた適切な条件設定方法の提案を行った.

5章では,4章で提案した条件設定手法を用いて,実際に岩石試料を用いた室内トレーサ ー試験を実施し,提案した手法の妥当性を検証した.また,より効率的に適切なパラメー タを同定するために,マルチトレーサー試験とマルチ流量試験を組み合わせた新たな試験 手法を提案し,同様の室内トレーサー試験によって,その有効性を確認した.なお,試験 には,幌延深地層研究センターの地下研究施設内において採取した岩石試料を用いた.

6章では,2章~5章で得られた知見について総括した.また,それらを踏まえて,今後 の課題について述べた.

(18)

1-8

図 1-7 本論文の構成

(19)

1-9 第1章 参考文献

1) 資源エネルギー庁:エネルギー基本計画(第2回改訂),2010.

2) 日本学術会議:高レベル放射性廃棄物の処分について 回答,2012.

3) 資源エネルギー庁:平成24年度 エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書),

2013.

4) エネルギー・環境会議:革新的エネルギー・環境戦略,2012.

5) 資源エネルギー庁:TALK.考えよう放射性廃棄物のこと。 ~原子力エネルギーの未 来のために,地層処分~,2009.

6) 吉田英一:地層処分 脱原発後に残される科学課題,近未来社,2012.

7) OECD / NEA:The environmental and ethical basis of geological disposal of long-lived radioactive wastes, A collective opinion of the radioactive waste management committee of the OECD Nuclear Energy Agency, 1995.

8) 核燃料サイクル開発機構:わが国における高レベル放射性廃棄物の地層処分の技術的 信頼性 -地層処分研究開発第2次取りまとめ- 総論レポート,JNC TN1400 99-020,1999.

9) 核燃料サイクル開発機構:高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する知識基盤の 構築-平成17年度取りまとめ- -分冊1 深地層の科学的研究-,JNC TN1400 2005-014,2005.

10) Neretnieks, I. : Diffusion in the rock Matrix : An important factor in radionuclide retardation?, Journal of Geophysical Research, Vol. 85, No. B8, pp.4379-4397, 1980.

11) Grisak, G. E., Pickens, J. F.: Solute transport through fractured media 1. The effect of matrix diffusion : Water Resources Research, Vol. 16, No. 4, 99. 719-730, 1980.

12) Tang, D. H., Frind, E. O., Sudicky, E. A. : Contaminant transport in fractured media : Analytical solution for a single fracture : Water Resources Research, Vol. 17, No. 3, pp. 555-564, 1981.

13) Callahan, T. J., Reimus, P. W., Bouman, R. S. and Haga, M. J. : Using multiple experimental methods to determine fracture/matrix interactions and dispersion of nonreactive solutes in saturated volcanic tuff, Water Resources Research, Vol. 36, No. 12, pp. 3547-3558, 2000.

(20)

2-1

2. 従来の研究

本研究の位置づけを明確にすることを目的とし,亀裂を含む多孔質岩盤中の物質移行特 性評価に関する従来の研究について整理する.また,特に本研究で着目するマトリクス拡 散係数の評価方法の現状と課題について整理する.

2.1. 亀裂を含む多孔質岩盤中の物質移行特性

亀裂の発達した岩盤中の物質移行現象は,亀裂内の移流・分散現象が支配的となる.し かし,地下水に溶解した物質(溶質)が,亀裂内を流れる際には,亀裂とマトリクスの間 に溶質の濃度勾配が生じ,マトリクスが多孔質な場合は,亀裂からマトリクスへの拡散(マ トリクス拡散)によって亀裂内の移行が遅延される.さらに,溶質が収着性を有する物質 である場合は,岩盤への収着現象によって,亀裂内の移行はさらに遅延されることになる

(図 2-1)1)

多くの場合,マトリクス内の流れは無視できるほど小さく,拡散による移行が支配的と なる.そのため,亀裂を含む多孔質岩盤中の物質移行現象は,亀裂内の移流・分散とマト リクス拡散の3つの現象を考慮した概念モデルで表現されている例えば2)5).わが国を含む各 国の放射性廃棄物地層処分の安全評価研究でも,上記と同様に,亀裂内の移流・分散とマ トリクス拡散を考慮した概念モデル(図 2-2)が適用されている(収着性核種の場合は,さ らにマトリクス内の鉱物粒子表面への収着が考慮される)6)7)8)

図 2-1 亀裂を含む多孔質媒体におけるマトリクス拡散の影響(文献 1)を引用)

(21)

2-2

図 2-2 安全評価の概念モデル(文献 6)を引用)

2.1.1. マトリクス拡散の直接的な観察例

亀裂性岩盤におけるマトリクス拡散現象の重要性は,1980年頃から盛んに議論されるよ うになり,現在まで重要な研究テーマとなっている例えば9)10)

マトリクス拡散の直接的な観察例としては,室内や原位置での拡散試験例えば11)12)や,X 線 CT によるトレーサー試験中(あるいは拡散試験中)の試料内部の可視化例えば13)14)15) などがある.栃木ら(2007)12)は,花崗岩試料を対象に,非収着性のヨウ化物イオンを用いた 室内の非定常拡散試験を行い,花崗岩におけるマトリクス拡散深さを実験的に評価した.

その結果,ヨウ化物イオンは花崗岩のマトリクス中を少なくとも200mm程度の深さまで拡 散し得ることを示した.花崗岩中のマトリクス拡散については,吉田ら(2002)16)の研究 がある.吉田ら(2002)は,花崗岩中のマトリクス拡散が生じ得ると考えられる部分を割 れ目に接する充填鉱物,変質母岩,新鮮母岩の3種類に分類し(図 2-3),それぞれについ て拡散試験を実施した.その結果,間隙率の大きい充填鉱物で最も拡散速度が速く,変質 母岩,新鮮母岩の順に,拡散速度が遅くなることを示した.Polak et al.(2003)13)は,チ ョークコア試料に人工的に配置した亀裂内に,高濃度のヨウ化ナトリウム溶液や蒸留水を 注入し,亀裂からマトリクスへの拡散や,蒸留水注入時のマトリクスから亀裂への拡散

(back diffusion)現象をX線CTにより可視化している(図 2-4,図 2-5).

(22)

2-3

図 2-3 花崗岩中の移行経路の概念(文献 16)を引用)

図 2-4 X 線 XT による可視化装置(文献 13)を引用)

(23)

2-4

図 2-5 X 線 CT による可視化画像とトレーサー濃度分布変換結果(文献 13)を引用)

2.1.2. マトリクス拡散の間接的な観察例

マトリクス拡散の間接的な観察例としては,分子拡散係数の異なる複数種類の混合トレ ーサーを用いたマルチトレーサー試験がある例えば17)18).Reimus et al.(2003)は,花崗岩

17)とYucca Mountainの凝灰岩18)を対象にダイポール法によるマルチトレーサー試験を実

施した.ここでは,非収着性物質として,分子拡散係数の異なる 2 種類の物質(臭化物イ オン,ペンタフルオロ安息香酸)を,また,弱い収着性を有する物質としてリチウムイオ ンを用いて,これら 3 種類の混合トレーサーを用いたマルチトレーサー試験を実施してい る.マトリクス拡散が生じていなければ,分子拡散係数の異なる 2 種類の非収着性トレー サーの破過曲線は同じ形状を示すが,マトリクス拡散の影響が顕著に現れる場合は,2種類 の非収着性トレーサーの破過曲線は,分子拡散係数の違いに応じて,異なる形状を示すこ とになる(図 2-6).試験結果は,いずれも2種類の非収着性トレーサーの曲線形状が明確 に異なっており,マトリクス拡散の影響が顕著に現れていることが確認された(図 2-7).

もう一つの間接的な観察例として,トレーサー試験における破過曲線のテーリング(破 過曲線における濃度の上昇過程に比べて濃度低下の時間が延びること)がある例えば19)23). 破過曲線のテーリングは,マトリクス拡散が生じない場合でも亀裂内の分散や流路の不均 質性などの影響によって生じるが 19)23)24),マトリクス拡散の影響が顕著な場合には,そ の傾きに特徴が現れる.Jakob (1997)21)は,亀裂内の移流とマトリクス拡散を考慮した支配 方程式の理論解から,マトリクス拡散の影響が顕著な場合,破過曲線の両対数プロットに

(24)

2-5

おけるテーリングが-1.5 の傾きに漸近することを理論的に示した.図 2-8 は,スイスのグ リムゼル試験場において,花崗岩の亀裂ゾーンを対象に実施した非収着性のウラニンを用 いたダイポールトレーサー試験の結果である 20).試験結果はマトリクス拡散を考慮したモ デルと良く一致しており,また,テーリングの傾きが-1.5に漸近していることから,典型的 なマトリクス拡散の影響を示していると推定された.

図 2-6 マルチトレーサー試験結果のイメージ(文献 18)を引用)

図 2-7 マルチトレーサー試験結果(Yucca Mountain の凝灰岩の例,文献 18)を引用)

(25)

2-6

図 2-8 破過曲線のテーリングの例(文献 20)を引用)

2.2. マトリクス拡散係数の測定方法

ここでは,亀裂を含む多孔質岩盤中の物質移行特性を考える上で特に重要となるマトリ クス部の拡散係数の測定方法の現状について整理する.

2.2.1. 拡散試験の理論

多孔質媒体中の1次元の拡散現象は,フィックの第二法則によって,次式で与えられる.

2 2

x D c t

c m

a m

 

 (2.1)

ここに,cmは媒体中の溶質濃度(mg/L),tは時間(s),xは媒体中の位置(m)である.また,

Daは見掛けの拡散係数(m2/s)であり,ある溶媒中のある溶質に対する,ある温度・圧力 条件下での定数である.岩石のような多孔質媒体中の間隙水を通して溶質が拡散する場合 は,見掛けの拡散係数は,岩石の間隙率と溶質の岩石への収着の影響を考慮して評価する 必要がある.これに対して,岩石への収着効果を除去した拡散係数は,実効拡散係数D(me 2/s)

と呼ばれ,見掛けの拡散係数と次式の関係が考えられている25)

a

e

D

D  

(2.2) ここに,αは岩石への収着の割合を表すパラメータであり,収着容量(rock capacity factor)

(-)と呼ばれる.収着容量は以下のように表すことができる25)

d d

m

R

n

  

(2.3)

(26)

2-7

ここに,nmは間隙率(-),ρdは岩石の乾燥密度(kg/m3),Kdは分配係数(m3/kg)であ る.また,実効拡散係数 Deは,溶質の自由水中での分子拡散係数 Dd(m2/s),間隙率 nm

(-)および屈曲率τ26)(あるいは幾何学因子と呼ばれることもある27)(-)との関係とし て,以下のように表すことができる.

d m m m

e

n D n D

D   

(2.4) ここに,Dmは,本研究ではマトリクス拡散係数(m2/s)と呼んでおり,次節以降のトレ ーサー試験の理論式にも多く記述される.表 2-1には種々のイオンの分子拡散係数Ddの一 覧を示す28)

拡散試験から拡散係数を求める際は,式(2.1)の支配方程式を,試験条件に即した初期条 件,境界条件のもとに解いた理論解や数値解を用いて評価することとなる.

表 2-1 種々のイオンの分子拡散係数(文献 28)を引用)

(27)

2-8

2.2.2. 拡散試験の方法

(1) 室内試験

室内にて多孔質媒体中の拡散係数を求める試験方法は,定常法と非定常法に大別され,

喜多ら(1989)29)によると,以下の4種類の方法が挙げられている.

① In-diffusion 法(非定常法)

この方法は,コア試料の片側端面に一定濃度のトレーサー溶液を接触させ,岩石試料内 部に拡散したトレーサーの濃度分布を測定する方法である.濃度プロファイル法 30)とも呼 ばれる.トレーサー溶液との接触を開始した後の任意の経過時間における岩石試料内のト レーサー濃度分布(トレーサーとの接触面からの深さと濃度の関係)を測定し,それから 拡散係数を求める.

② Out-diffusion 法(非定常法)

この方法は,①とは逆に,岩石試料に一定濃度のトレーサー溶液を均質に含ませておき,

試料を純水の入った容器に接触させ,試料内部から拡散によって純水中に排出されるトレ ーサー濃度の上昇量から拡散係数を求める方法である.Out-leaching 法 31)32)とも呼ばれ る.

③ Reservoir depletion 法(非定常法)

この方法は,コア試料の片側端面に一定濃度のトレーサー溶液を接触させ,岩石試料内 部にトレーサーが拡散することによるトレーサー溶液中の濃度低下を測定する方法である.

基本的に① In-diffusion法と試験手順は同じであるが,In-diffusion法が試料内部のトレー サーの濃度分布を測定するのに対して,この方法は,接触させた溶液の濃度低下量を測定 する点で異なる33)

④ Through diffusion 法(定常法)

この方法は,岩石試料で仕切られた 2 つのセルのそれぞれに,トレーサー溶液と純水を 入れ,岩石試料内を通過して拡散した純水側セルのトレーサー濃度の時間変化を測定する 方法である.透過拡散法とも呼ばれる 30).純水側セルの濃度上昇速度が定常状態に達した 時の時間-濃度曲線の傾きから拡散係数を求める.

また,上記以外の方法として以下の方法があり,張ら(2004)34)や吉田(2003)の著書

35)などで紹介されている.

⑤ Half-cell 法(非定常法)

この方法では,試料を 2 つのセル内に充填し,片方の試料に一定濃度のトレーサー溶液 を均質に含ませる.もう一方の試料は純水で飽和しておく.これら 2 つの試料を密着させ て,トレーサーが純水側の試料へ拡散した際の試料内の濃度分布から拡散係数を求める.

この方法は,試験開始前に試料内部を均質な濃度に調整する必要があるため,②と同様に

(28)

2-9

岩石試料への適用は困難であると考えられる.地盤工学の分野でよく用いられているとの ことであるが,2つの試料を完全に密着させるのが困難な場合があるなどの問題もあるよう である.

以下に,上記の①~⑤の方法のうち,定常法と非定常法のそれぞれについて,特に岩石 試料への適用性が高いと考えられるTrough diffusion法とIn-diffusion 法の試験方法の詳 細を説明する.

1) Through diffusion 法(透過拡散法)

a) 試験方法

この方法は,セル内の溶液濃度の時間変化を測定するだけで良く,In-diffusion法などの ように,試料内部のトレーサー濃度を測定する方法と比べて,簡単な試験である.また,

非定常法では求めるこのとのできない実効拡散係数 Deや分配係数 Kdを求めることができ るため,岩石試料の拡散試験としては,最も適用例の多い方法である例えば25)27)28)36)41). 図 2-9に,Through diffusion法の試験装置の例を示す.図 2-9は拡散移行の方向を水平 方向とした装置であるが,図 2-10のように鉛直方向とした装置を用いた試験例もある42)

45).試料は,コアを輪切りにした円盤状とする場合が多い.試料の厚さは,予想される拡散 速度に基づいて決定される.あまり厚過ぎると拡散に長時間を要し,合理的な期間で試験 を終えることができないため,1~5mm 程度とする場合が多い.試料内は予め脱イオン水 で飽和しておき,両側のセルにそれぞれトレーサー溶液と純水を入れ,試料と接触した時 点を試験の開始時間とする.その後,純水を入れた側のセルから,定期的にサンプリング と濃度分析を行い,定常状態に至るまでトレーサー濃度の時間変化(図 2-11)を測定する.

b) 試験結果の評価方法

試験結果は,式(2.1)の支配方程式の理論解を用いて評価することができる.上述のよう に,初期状態において,試料内は純水で飽和されている.また,トレーサー溶液の濃度が 十分濃く,セルの体積が十分に大きければ,トレーサー溶液側セル内の濃度は試験の期間 中,初期濃度のまま変化せず,純水側セル内の濃度はゼロと仮定することができる.この ような仮定から,式(2.1)の支配方程式を以下の初期条件,境界条件に基づいて解くと,式

(2.8)のような理論解が得られる46)

・初期条件

  t , x  0

c

m t=0,0≦x≦L (2.5)

・境界条件

  t , x c

0

c

m

t>0,x=0 (2.6)

  t , x  0

c

m t>0,x=L (2.7)

(29)

2-10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 2

2 2 2

2 2

0

2 1 exp

6

n

e n

e

d

L

t n D n

L t D V c ALc

(2.8)

ここに,A は試料の断面積(m2),L は試料の厚さ(m),c0はトレーサー溶液側セル内 の溶質濃度(mg/L),Vは純水側セル内の溶液体積(m3)である.

式(2.8)中の指数項は,時間が十分に経過した場合は無視できるため,式(2.8)は,次式で 近似できる46)

 

 

 

2

6

0

L t D V

c

d

ALc

e (2.9)

図 2-12 に,式(2.8)および式(2.9)で表される濃度-時間曲線を模式的に示す 29).試験の 初期段階では,溶質は間隙水中に拡散し,また,試料内に収着される溶質もあるため,定 常状態になるまで純水側セルの濃度は徐々に上昇していく.その後,定常状態になると純 水側セルの濃度は式(2.9)にしたがって直線状に上昇する.さらに濃度が増加すると,両側 のセルの濃度差が小さくなるため,濃度上昇が遅くなり,最終的には,両側のセルの濃度 が等しくなる.したがって,試験によって,定常状態の濃度-時間曲線が得られれば,そ の直線部分の傾きから実効拡散係数Deを求めることができ,また,その直線が時間軸を切 る点から収着容量αを求めることができる.

図 2-9 Through diffusion 法の試験装置(水平型,文献 30)を引用)

(30)

2-11

図 2-10 Through diffusion 法の試験装置(鉛直型,文献 44)を引用)

図 2-11 Through diffusion 法の試験結果の例(文献 29)を引用)

(31)

2-12

図 2-12 純水側セル内濃度の時間変化の模式図(文献 29)を引用)

(32)

2-13 2) In diffusion 法(非定常法)

a) 試験方法

この方法は,見掛けの拡散係数 Daを測定する方法であり,実効拡散係数 Deや分配係数 Kdを求めることはできない.収着性物質をトレーサーとして分配係数を求める場合は,例 えば,非収着性物質をトレーサーとしたTrough diffusion試験を別途実施してDeを求め,

式(2.4)から,媒体固有の特性である屈曲率τなどを求めておく必要ある.

図 2-13にIn-diffusion法の試験装置の例を示す.試料は,トレーサー溶液と接触させる 片側端面を残して,周囲をエポキシ樹脂等により止水し,事前に試料内部を純水で飽和さ せておく.これを,トレーサー溶液で満たした容器内に入れ,試料内部にトレーサーを拡 散させる.所定の時間が経過した時点で試料を取り出し,試料内部のトレーサー濃度の分 布を測定する.図 2-14は,In-diffusion法の濃度分布測定結果の例である.濃度分布の測 定は,試料を一定の厚さごとに切断し,切断した試料を純水に浸潤させ,浸潤液中のトレ ーサー濃度から試料内のトレーサー濃度を推定する方法などがある.あるいは,放射性核 種をトレーサーとした場合は,コリメーターで放射能を測定する方法も考えられる.

図 2-13は,岩石試料を用いた試験装置の例であるが,放射性廃棄物処分関連では,緩衝 剤となるベントナイトの拡散係数の測定に図 2-15 のような装置を用いた試験が行われて いる30)47).この方法は,2つのセルに純水で飽和させた試料を充填し,両セルの中間断面 にトレーサー溶液を含浸させたフィルターを接触させ,所定の時間が経過した時点の試料 内の濃度分布を測定する方法である.この方法も,試料の片側端面からトレーサーを拡散 させる点で図 2-13と同じIn-diffusion法に分類される.

b) 試験結果の評価方法

試験結果は,試験の実施条件を考慮した初期条件,境界条件のもとに解かれた式(2.1)の 支配方程式の理論解を用いて評価することができる.上述のように,初期状態において,

試料内は純水で飽和されており,また,浸潤容器が大きくトレーサー溶液の量が試料内に 拡散するトレーサーの量に対して十分に大きければ,浸潤するトレーサー溶液の濃度は試 験の期間中,初期濃度のまま変化しないと仮定できる.また,通常は,トレーサーが試料 の端部に達するほどの長時間を掛けて試験行うことは稀であるため,無限媒体の境界条件 を仮定することができる場合が多い.このような仮定から,式(2.1)の支配方程式を以下の 初期条件,境界条件に基づいて解くと,式(2.13)のような理論解が得られる46)

・初期条件

  t , x  0

c

m t=0,0≦x≦L (2.10)

・境界条件

  t , x c

0

c

m

t>0,x=0 (2.11)

  t , x  0

c

m t>0,x=∞ (2.12)

(33)

2-14

 

 

 

t D erfc x c x t c

a

m

,

0

2

(2.13) 試験で求めた任意時間における試料内部の濃度プロファイルと,式(2.13)の理論解から求

めた濃度プロファイルとをマッチングすれば,見掛けの拡散係数Daを求めることができる.

ただし,図 2-14の栃木ら(2007)12)の例では,トレーサーの浸潤期間を90日とした長 期試験を実施しているため,トレーサーの拡散は試料端部にまで達している.そのため,

栃木ら(2007)は,式(2.14),式(2.15)のような初期条件,境界条件を仮定して解かれた式 (2.16)の理論解を用いた評価を行っている.

・初期条件

  t , x  0

c

m t=0,-L≦x≦L (2.14)

・境界条件

  t , x c

0

c

m

t>0,x=±L (2.15)

  

     





 

 

 

 

 

0

2 2 2

0 2

1 cos 2

4 / 1 2 1exp

2 1 1 4

,

n

n

m L

x L n

t n

n D c

x t

c

 

(2.16)

また,その他にも,浸潤させるトレーサーの濃度が低下する場合など,各種の境界条件 に基づいた理論解が求められている47)

図 2-13 In-diffusion 法の試験装置(文献 12)を引用)

(34)

2-15

図 2-14 In-diffusion 法の濃度分布測定結果の例(文献 12)を引用)

図 2-15 In-diffusion 法の試験装置(ベントナイト用,文献 30)を引用)

(35)

2-16 (2) 原位置試験

上記のように,室内での試験方法については,種々の方法が提案・実用化されており,

比較的簡便に対象岩盤のマトリクス拡散係数を求めることが可能となってきている.しか し,室内試験に供する試料は,ボーリングで取得されたコアなどであり,応力解放によっ て生じる微小亀裂や,空隙率の増加などが生じたものである可能性がある.また,地下水 中に含まれる溶存成分や酸化・還元状態,あるいは温度・圧力などについても実際の地下 環境を室内にて完全に再現することは困難であることから,室内試験で求めたマトリクス 拡散係数は必ずしも地下深部の実際の物質移行現象を説明できるものではない可能性があ る.そこで,原位置にて拡散係数を求める試験方法が幾つか検討・実施されている例えば11)

48)49)

図 2-16に原位置拡散試験の装置レイアウト例を示す.原位置拡散試験は,まず,小口径 のボーリング(口径20mm~80mm 程度)を用いて,パッカーで区切られた試験区間にト レーサー溶液を注入する.この時,トレーサーの注入によって移流によるトレーサーの移 行が生じないよう,試験区間の圧力を周囲の間隙水圧に近い値に制御する(実際には,地 下水の試験区間への逆流が生じないように,周囲の間隙水圧よりもやや高めに設定される). トレーサー注入を数か月間~数年間継続した後,注入用の小口径のボーリングを含む範囲 を大口径のボーリング(口径150mm~250mm程度)によりオーバーコアリングし,コア 内部のトレーサーの濃度分布を測定する.試験期間が長く,オーバーコアリングの口径を 超える範囲まで拡散している可能性がある場合は,隣接箇所に濃度確認のためのボーリン グ孔を追加することもある11)49).濃度測定は,オーバーコアリングしたサンプルを切断し

(あるいは小口径の再コアリングし),切断したサンプルを純水に浸潤させて浸潤水中のト レーサー濃度を分析して推定する.濃度分布は,注入孔からの距離とトレーサー濃度の関 係として整理する(図 2-17).

試験結果の評価方法の基本的な考え方は室内試験と同様である(中でもIn-diffusion法に 類似している.).試験で取得された任意の経過時間における濃度分布(注入孔からの距離 と濃度の関係)のデータを,軸対称の拡散方程式の理論解や数値解から算定される解析結 果とマッチングすることによって,対象岩盤の拡散係数を逆解析的に求める.Birgersson et

al.(1990)11)の例では,トレーサーの注入圧力を周囲の間隙水圧よりも0.5MPa~0.9MPa程

度高く設定したため,移流によるトレーサーの移行が無視できない可能性があることから,

軸対称の移流-拡散問題に対応したコードを用いた評価を実施している11)

原位置試験の主要な目的の一つとして,室内試験結果との比較が挙げられる.以上の実 施例においても,別途実施した室内拡散試験結果(Trough-diffusion法)との比較が行なわ れている.文献11)の例(スウェーデン,ストリパ鉱山の花崗岩の例)では,室内試験結果 は原位置試験結果とほぼ同等であると報告されているが,文献48)の例(カナダ,AECLの 地下研究所の花崗岩の例)では,室内試験からもとめた拡散係数の方が,原位置試験から 求めた値よりも数倍程度大きいと報告されている.

(36)

2-17

図 2-16 原位置拡散試験の概要(モンテリ地下研究施設の例,文献 49)を引用)

図 2-17 測定された濃度分布の例(モンテリ地下研究施設の例,文献 49)を引用)

(37)

2-18

2.2.3. 拡散試験の課題

以上のように,マトリクス拡散係数の測定方法は,室内や原位置において種々の試験方 法が提案,実用化されている.

室内試験は,原位置試験よりも簡易で,境界条件を比較的容易に制御できるなどの利点 から,これまでに多くの実施例がある.マトリクス拡散係数は,移行経路となる間隙の分 布や連続性などの地質媒体の間隙構造の影響を受ける.例えば,2.2.2節で述べたサンプリ ング時の応力解放の影響は,間隙構造の変化によって室内試験で求めた拡散係数が実際よ りも過大評価している可能性があることを示している.これを回避する方法としては,例 えば,Van Loon et al.(2003)45)のように,封圧を載荷したTrough diffusion法などが挙げら れる.また,マトリクス拡散係数は,溶媒としての地下水の化学的性質の影響も受けるた め,トレーサー物質の化学種だけでなく,溶媒となる地下水の化学組成を考慮した試験も 必要となる例えば33)40).このように,マトリクス拡散係数の評価には,多くの影響因子が存 在するため,それら全ての影響を把握するためには,膨大なケースの試験とデータの蓄積 が必要となる.原子力機構では,放射性廃棄物の地層処分の安全評価に資することを目的 とし,国内外の既往の拡散試験データを収集・整理した拡散データベースを開発・運用し ている50)

原位置試験法は,対象岩盤の実際の地下環境下において試験を行うことができるという メリットがある一方,トレーサーの注入条件を一定に制御することが実際には困難である ことや,岩盤の不均質性の影響やバックグラウンドの地下水流れの影響等により,実際の 岩盤中の拡散現象が必ずしも軸対称の現象となっているとは限らないことなど,特に境界 条件に関する多くの不確実性が顕在化していると考えられる.また,室内試験と比べると,

かなり大掛かりな試験となるため試験点数も限られる場合が多い.さらに,原位置拡散試 験は,2.2.2節で述べたように,ボーリング孔内の試験区間にあるトレーサー物質がボーリ ング孔壁を通ってマトリクスへ拡散する状況を観察する試験である.しかし,実際に知り たいのは,亀裂内をトレーサーが移行する際の亀裂からマトリクスへの拡散現象であり,

拡散試験の条件とは必ずしも一致していないと言える.この点で,次節で述べる亀裂とマ トリクスの相互作用を考慮したトレーサー試験は,亀裂内の移流・分散と,亀裂からマト リクスへの拡散現象を同時に観察する試験方法であり,これからマトリクス拡散係数を求 めることは,上記の課題を解決する一つの方法であると言える.

(38)

2-19

2.3. 亀裂とマトリクスの相互作用を考慮したトレーサー試験

2.3.1. トレーサー試験の方法

トレーサー試験は,岩盤中に(あるいは,室内試験の場合は岩石供試体中に)注入点と 観測点を設け,注入点から物質(溶質)を溶解させたトレーサー溶液を注入し,岩盤内を 通って排出されるトレーサー物質の濃度を観測点にて測定する試験方法である.先の2.2節 で説明した拡散試験が岩盤中の物質の拡散や収着現象のみに着目した試験であるのに対し て,トレーサー試験は,亀裂内で生じる移流・分散と,拡散や収着による遅延効果を総合 的に評価する試験である.これらの現象は,拡散試験と同様に,岩盤内の間隙構造や,地 下水の化学特性の影響を受けるため,原位置試験によって,実際の地下環境下での現象を 把握することが必要となる.しかし,トレーサー試験から得られる情報は,基本的には,

岩盤内から観測点に排出されるトレーサーの濃度変化の情報のみであり,これから,移流・

分散・拡散・収着などの全ての現象を分離して適切に評価することは非常に困難である.

また,原位置試験では,トレーサーの注入条件の制御が困難であることや,岩盤の不均質 性やバックグラウンドの地下水流れの影響によって,流れ場を制御することが困難である ことなど,初期条件や境界条件に関する多くの不確実性が含まれる.したがって,トレー サー試験の評価では,室内試験と原位置試験の双方の情報を総合的に評価することが望ま れる.以下に,室内試験と原位置試験のそれぞれについて,トレーサー試験方法の現状を 整理する.

(1) 室内試験

室内試験は,初期条件や境界条件がより明確に制御された条件下において,物質移行挙 動を観察することにより,物質移行メカニズムの解明と,それに基づく物質移行概念モデ ルの検討,および関連するパラメータの取得などを目的として実施される.

図 2-18に,室内トレーサー試験装置の例を示す51)52).亀裂を対象としたトレーサー試 験では,岩石試料の中央部に亀裂を配置した供試体を用いて,上流側から亀裂内にトレー サー溶液を注入し,亀裂内を通って下流側に排出されるトレーサー濃度の時間変化(破過 曲線と呼ばれる)を測定する.試験結果の評価は,試験で求めた破過曲線と,亀裂内の移 流・分散やマトリクス拡散,収着などを考慮した支配方程式の理論解や数値解との比較に よって行われる.試料はボーリングコアを用いた数 cm スケールの円柱状のものや,数十 cmの大型のブロック状試料を用いることもある.対象とする割れ目は,基本的には天然の 亀裂を対象とするが,マトリクス拡散や収着などの遅延メカニズムの評価に重点を置いた 場合など,亀裂の性状の影響を重視しない場合は,人工の平行平板亀裂を対象とする場合 もある 53)54)55).また,応力解放による亀裂開口幅やマトリクス間隙率の増加の影響を考 慮して,三軸セルなどを用いて封圧を載荷した試験が可能な装置もある54)56)57).試料の サイズが大きい場合は,下流側で観測される破過曲線だけでなく,試料に濃度観測孔を設

参照

関連したドキュメント

区内の中学生を対象に デジタル仮想空間を 使った防災訓練を実 施。参加者は街を模し た仮想空間でアバター を操作して、防災に関

試験体は図 図 図 図- -- -1 11 1 に示す疲労試験と同型のものを使用し、高 力ボルトで締め付けを行った試験体とストップホールの

c加振振動数を変化させた実験 地震動の振動数の変化が,ろ過水濁度上昇に与え る影響を明らかにするため,入力加速度 150gal,継 続時間

さらに、NSCs に対して ERGO を短時間曝露すると、12 時間で NT5 mRNA の発現が有意に 増加し、 24 時間で Math1 の発現が増加した。曝露後 24

(b) 肯定的な製品試験結果で認証が見込まれる場合、TRNA は試験試 料を標準試料として顧客のために TRNA

(2)

1200V 第三世代 SiC MOSFET と一般的な IGBT に対し、印可する V DS を変えながら大気中を模したスペクトルの中性子を照射 した試験の結果を Figure

・性能評価試験における生活排水の流入パターンでのピーク流入は 250L が 59L/min (お風呂の