『就実大学大学院教育学研究科紀要 2020(第5号)』 抜刷 就実大学大学院教育学研究科 2020年3月10日 発行
高 羽 虹 太 朗
不登校児童生徒の登校行動に伴う 葛藤体験の調査的研究
Investigative Study of Non Attendance Studentsʼ Conflict Experiences on Going to School
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不登校児童生徒の登校行動に伴う 葛藤体験の調査的研究
教育臨床心理学コース 3618003 高羽虹太朗
Ⅰ.はじめに
不登校問題を考える際に、統計上の数字には載らない児童生徒の存在が指摘されている。
森田(1991)は、不登校とは、学校へ登校することができないという「ひとつの状態」に 過ぎないとしている。欠席行動よりも登校に関する児童生徒の感情や思考に目を向けるこ とは、不登校問題を考える上で、重要な視点であるといえる。その視点から、多くの研究 者が、不登校児童生徒が抱いている葛藤の存在を示唆している。これらのことから、本研 究では、不登校を別室登校等も含んだ広い範囲で捉え、児童生徒を学校に結び付ける力(引 力)と学校から離れる力(斥力)の拮抗関係を葛藤と呼ぶことにする。
本研究では、2つの感情や思考を包括的に捉え、不登校児童生徒の抱く葛藤をより個人 の体験に近い形で明らかにし、その背景を考察することで、不登校児童生徒理解を試みる。
このことから、本研究では、PAC分析を用いて研究を行う。PAC分析とは、1993年に内 藤哲雄が個人別に態度構造を測定するために開発した分析方法である。
Ⅱ.方法
2019年の9~10月にPAC分析を行うために、A大学の学生77名(男性1名、女性76名、
平均年齢19.3歳)を対象に質問紙調査を行ったところ、不登校経験者3名から調査協力の 申し出があった。倫理的配慮として、精神的健康度を測定しているとされる自己肯定意識 尺度で、平均値以上の得点を示す2名に、二回に渡る面接調査を依頼した(1時間程度)。
第一回:「不登校の時期に、学校に行く際、どのようなことを思ったり、感じたりして いましたか?」という刺激語を用い、PAC分析を行った。
第二回:析出されたデンドログラムを用い、内容の解釈を行った。
Ⅲ.結果と考察
〈協力者Aの事例〉 〈協力者Bの事例〉
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2事例とも現実と思考のズレが生じていた。どちらの事例も、学校に行っていない状態 が語られ、学校には行きたいが実際に行くことができない、またはできていない自分を認 められない、情けないと感じるなど、現実と自分の気持ちが一致しないことで苦しんでい た。ちゃんと学校に行きたい、友達と同じようにしたいなどの気持ちはあるが、実際には、
不安感やなぜかわからないが行動ができないなど、2事例とも現実と思考のズレが生じて いた。さらに、このズレは、不登校児童生徒には、非常に不快であることが推測できた。
本研究で取り上げたAとBともに、この不快感を解消するために、思考と現実のズレが、
学校に結び付ける力(引力)と離れる力(斥力)の葛藤をより強力にしていった要因の一 つであり、現実と思考を一致させたいという思いに比例して、葛藤も強くなっていた。
さらに、本研究の2事例では、常に同じような葛藤をしていたわけではなかった。不登 校の時期に伴う環境の変化、本人の思考や情動の変化に伴い、葛藤も変化をしていた。被 験者Aでは、時間経過に伴う環境の変化により、学校から離れる力(斥力)が増大していっ た。被験者Bでは、否定的な思考を反芻していたが、徐々に自分から周りへと意識を移し、
不登校状態の解消へとつながっていた。さらに、どちらの事例も、不登校初期の段階から 時間経過が進むにつれて、学校から離れる力として機能する思考の数が増えていた。この ように、不登校の時期や環境の変化によって葛藤の仕方も変化をしていることが推測でき た。
加えて、2事例とも、「学校に行けない理由がよくわからない」、「漠然と学校に行きた くない」などと語られた。しかし、勉強、部活、対人関係、身体的要因など学校から離れ る力(斥力)として機能している事柄は、いくつも面接内で語っており、一つ一つの学校 から離れる力(斥力)は、意識化ができているようであった。このことから、学校に行け ない理由がよくわからない要因の一つとして、学校に行けない理由の多様さが挙げられる。
多様すぎる学校から離れる力(斥力)をまとめて一つの学校に行けない理由として意識化 しようとすると、明確には意識化できなかったのではないだろうか。しかし、本研究から、
小さく多様でも学校から離れる力は感じており、葛藤が生じている可能性が示唆された。
以上より、不登校児童生徒に対して、支援する側が、カウンセリングや相談活動を行う 際に、不一致な現実と理想のズレを一致させること、不登校の時期を把握することで、そ の時期に伴う葛藤を理解すること、また多様すぎる学校から離れる力を紐解き、支援者と 不登校児童生徒本人が、共にそれらを整理する作業を行うことの意義を示した。
Ⅳ.引用文献
森田洋司(1991)「不登校」現象の社会学 学文社
指導教員:井芹 聖文