ものづくりにおける技能の継承システムに関する研究開発
金型曲面のファインフィニッシングに関する研究
谷川義博*1 廣瀬政憲*1 竹下朋春*1 中村憲和*1 野中智博*1 井地重人*1 安部年史*1
Studies and Developments of Tradition System in Manufacturing Skill
Studay on Fine Finishing for the Surface of Mold
Yoshihiro Tanigawa, Masahiro Hirose, Tomoharu Takeshita, Norikazu Nakamura, Tomohiro Nonaka, Shigeto Ijui, Toshihumi Abe,
金型製作に於いて 設計・加工の自動化が進む今日でも仕上げ工程である磨き加工は 自動化が成されておらず, , , 熟練工の技術に頼っているのが現状である。本研究は,超精密研削加工技術を用いることにより,金型仕上げ加工 の自動化を図ることを目的に実施してきた。今年度は精密金型の仕上げ面粗度に要求される Ry=0.1 μm以下の加 工面を得るために,電気泳動現象を利用した装置で成形,目立てされたメタルボンドホイールを使い,超精密研削 加工を行い,適切な加工条件を求めた。その結果#3000 の半球状極微粒メタルボンドホイールを使い円錐形状の加 工を行い,Ry=0.07μm Ra=8.0nm, の面粗度を得ることができた。
1 はじめに
金型の意匠面は複雑な曲面で構成されており,要求 される仕上げ面粗度は通常 Ry=0.4〜0.1μmの物 が65%で最も多い。また,0.1μm以下の物は3%と, 量的には少ないが,精密金型に関しては,このような 非常に高い面粗度が要求される。本研究では超精密研 削加工技術を用いることで,金型の仕上げ行程の自動 化の可能性を探った。前述のように複雑な曲面で構成 された金型の意匠面に対応するには,工具形状を半球 状にする必要がある。従って,超精密研削加工技術を 使い,金型の仕上げ行程の自動化を行うには,極微粒 で半球状のホイールを使用することが適していると判 断した。しかし,現状極微粒ホイールはドレッシング
・ツルーイングの困難さ等から限られた分野でしか使 用されていない。そのため,昨年度までの研究で,極 微粒のメタルボンドホイールに対し,電気泳動現象を 利用したツルーイングとドレッシング装置を製作し実 験を行った。その結果,最適なツルーイングとドレッ シング条件を得ることができた。1)
本年度は,この方法を用いて得られたホイールを使 い精密金型に用いられる超硬と,一般的な金型に使用
される SKD61 を対象に超精密研削実験を行った。は
じめに,#600 のホイールを使い研削条件の加工面粗 度に与える影響を調べ,次に3種類の粒径の異なるホ イールを使い,砥粒径の影響を調べた。その結果を用 い,金型企業では殆ど使用されていない#3000 のホイ ールを使って,円錐形状の超精密研削加工を行ったの で報告する。
2 実験方法
実験には,超精密旋盤のテーブルに治具を介してエ アータービンスピンドルを固定し,その先端に半球状 の極微粒メタルボンドホイールを取り付けた。被削材 は超精密旋盤主軸に治具を使いボルトで固定した。ホ イールと被削材との位置関係を図-1 に示す。図に示 すように被削材の形状は頂角 120 ゜の円錐形状とし た。極微粒の半球状メタルボンドホイールはほとんど 使用されていないため,その研削条件は文献等にもほ とんどない。このため,加工面粗度に対する研削条件 の影響及びホイール粒径の影響を調べた。
2-1 工具送り速度の影響
通常の工作機械で使用可能なメタルボンドホイール の粒径は#600 程度であるとされている。そのため本 実験では,SD600P125M のホイールを使いどの程度の 加工面粗度が得られるか,また,研削条件を変化させ た 時の 加工 面 粗度へ ど のよ うに 影響 する のかを 調べ た。金型製作で多く使用される平面研削と今回の加工
*1機械電子研究所
を対比させて考えると,平面研削で加工面粗度に与え る 影響 が大 き いと考 え られ るテ ーブ ル左 右送り 速度 と,前後送りピッチは,今回の研究のワーク回転数と 工具送り速度に対応する。そのため,初めに送り速度 を1.0mm/minから8.0mm/minの範囲で変え加工面粗度 への影響を調べた 他の研削条件は表。 -1に示す。SKD61 の研削に使用する研削液には,目づまりを考慮して,
アルミナ砥粒とCMCを加えた。
図-1 ホイールと被削材の位置関係
表-1 研削条件 1- ホイール回転数 16000 min-1 ワーク回転数 200 min-1 切り込み量 2.0μm
研削液
被削材 SKD61 超 硬
水溶性研削液 50 ml 50 ml
水 3000 ml 3000 ml
アルミナ砥粒 60 g #8000( )
CMC 10 g
2-2 ワーク回転数の影響
ワークの回転数を 100,200 300 400min, , -1 の範囲 で変化させて実験を行った。他の条件を表-1 と同じ にした。
2-3 ホイール砥粒径の影響
金型の仕上げ面で要求される0.4μm〜0.1μmの 加工面粗度,あるいはそれ以下の面粗度を得るには,
どの程度の粒径が必要かを調べるため,ホイールの粒 度を#600 #1000 #3000, , と変化させ加工実験を行った。 被削材は超硬とした。ホイール回転数,ワーク回転数 等の研削条件は表-1 と同じ条件を使用したが,切り 込み量に関しては,粒径により0.1〜2.0μmの範囲
ホイール回転方向
ホイール送り方向
エアースピンドル ワーク回転方向
で変えた。
3 実験結果
3-1 工具送り速度が加工面粗度へ与える影響
図-2 に SKD61 の加工において工具送り速度を変化
させた時の加工面粗度を示す。
図-2 SKD61の加工における工具送り速度と
加工面粗度の関係
図-2 に 示 す よ う に#600 の ホ イ ー ル を 使 用 し て
SKD61 を 加工した場合,最も小さい加工面粗度が得
られたのは,工具送り速度が1.0mm/minの時でその値 はRy=0.96μm,Ra=0.11μmであった。また,工具 送り速度を大きくするとRy Ra, ともに増加した。
図-3 超硬材の加工における工具送り速度と 加工面粗度の関係
超硬の場合も図-3 に示すように,工具送り速度の
増加に伴い Ry Ra, とも大きくなった。この場合も工 具 送 り 速 度 が 1.0mm/min で そ の 値 は 最 も 小 さ く Ry=0.47μm Ra=0.05, μmであった。SKD61と超硬 で,その値をを比較すると,超硬は SKD61 の約 1/2 程度の大きさだがその傾向は同じであった。
以上のことから,工具送り速度が増加すれば,加工 面粗度も増加し,その値は材料によって異なるが,傾 向は同じであることがわかった。
3-2 ワーク回転数が加工面粗度へ与える影響
図-4 に SKD61 を加工した時のワーク回転数と加工
面粗度との関係を示す。この図に示すようにワーク回 転数を上げれば加工面粗度はRa Ry, 共に小さくなる。
図-4 ワーク回転数と加工面粗度の関係
3-3 ホイール砥粒径の加工面粗度へ与える影響
図-5 にホイール粒度を#600,#1000,#3000 と 変化 させた時の加工面粗度との関係を,図-6 に#3000で加 工を行った被削材の写真を示す。
図-5 ホイール砥粒径と加工面粗度の関係
砥粒の平均砥粒径は,#600で30μm #1000, で18 μm #3000, で5μm程度である。この図に示すよう に粒度が大きくなるほど,つまり平均砥粒径が小さく なるほど加工面粗さは小さくなることがわかる。半球 状に成形したホイールでも砥粒径により加工面粗度は 影 響 を 受 け る 。#600 の ホ イ ー ル で Ry=0.47 μ m, Ra=0.05 μ m の面粗度が,#1000 で Ry=0.14 μ m, Ra=0.015μm #3000, でRy=0.078μm Ra=0.008, μm の面粗度が得られた。このことから,Ry が 0.4 μ m
〜0.1μmの加工面を得るには#1000以上の粒度が,
0.1 μ m以下では#3000 以上の粒度が必要であること が分かる。
図-6 #3000で加工を行った被削材表面
4 考察
4-1 研削条件と加工面粗度の関係
3-2 でワーク回転数が増加すると加工面粗度が小さ くなる結果がでた。先にも述べたように今回の実験で は,ワーク回転速度は平面研削におけるテーブル左右 送り速度に相当する。平面研削盤においてテーブル左 右送り速度が増加すると加工面粗度は悪くなり,今回 の実験結果とは逆である。3-2 の実験でワーク回転数 を変化させた時 工具送り速度は一定で実験を行った, 。 この状態では,ワーク回転数が増加した場合それに伴 って,ワーク一回転当たりの工具送り量が減少してし まう。このワーク一回転当たりの送り量は,平面研削 盤における前後送りピッチに相当する。このために,
ワーク回転数が増加しても,加工面粗度が減少したと 考えられる。このことを確認するために,ワーク回転 数が増加しても,一回転当たりの工具送り量が減少し ないように工具送り量を増加させて実験を行った。そ
の結果を図-7に示す。
ワーク一回転当たりの送り量を一定にして回転数を 増加すれば,図-4 の結果とは異なり,加工面粗度は 悪くなる。このことから,図-4 で通常の研削加工と は異なりワーク回転数の増加に伴い加工面粗度が減少 したのは,ワーク一回転当たりの送り量の低下による ものだといえる。
図-7 ワーク一回転当たりの工具送り速度を
一定にした場合のワーク回転数と加工面粗度の関係
この結果を踏まえて,図-2 及び図-3 の実験結果を 観るとワーク回転数を固定した状態で,工具送り速度 を増加することはワーク一回転当たりの送り量を大き くしたことになり,その結果加工面粗度が悪くなった と考えられる。
次に,砥粒径の影響について考えると,同じ集中度 で砥粒の粒径が小さくなれば,単位面積当たりの砥粒 密度は増加する。砥粒が直径 d0 の球体であると仮定 すれば,幾何学的切れ刃密度は,式( )で表すことが1 できる。2)
λ ( /= 1 d0)(6Vg/π)2/3 ( )1
但しVgは,砥粒率である。
今回実験で使用した集中度125のメタルボンドホイ ールでの幾何学的砥粒密度はこの式から図-8 のよう になる。この図から同じ集中度であれば,砥粒径が小 さくなれば砥粒密度は増加する。ホイール表面を観れ ば単位面積当たりを加工する切れ刃の数が増えること になる。
図-8 平均砥粒径と幾何学的砥粒密度の関係
この図-8 と図-5 の結果を比較して考えると,切れ刃 密度の増加と,砥粒径の違いによる砥粒の突き出し高 さのバラツキを低減することが,加工面粗度の向上に つながることがわかる。このことを基にワーク一回転 当たり送り量と加工面粗度の関係を考えると,ワーク 一回転当たりの送り量を小さくすることは結果的に砥 粒の切れ刃密度を小さくしたことにつながり加工面粗 度が向上したことが解る。
4-2 曲面研削加工への展開
以上の結果を踏まえて金型曲面を想定した超硬の加 工を行った。最終仕上げは#3000 のメタルボンドホイ ールを使用した。その結果を図-9に示す。
図-9 曲面加工結果
今回得られた実験結果を用いて,曲面加工を行うと その加工面粗度は,Ry=0.18μm Ra=0.03, μmと3-3 で得られた値より大きく,1で述べたように精密金型
曲面に要求されるRy=0.1 μm以下の値を得ることが できなかった。その原因について検討すると次のよう なことが考えられる。
①ホイールの接触面積の違い
実験 3-3では加工形状が凸状のコーン形状であるの に対し,実加工実験では金型のキャビティー側を想定 し,凹状の曲面形状とした。このため研削加工時の接 触面積はコーン形状では約0.019mm2であるのに対し, 曲面形状では約 0.21mm2 と 10 倍程度の差がある。こ のため,加工時に作用する同時切れ刃砥粒数が大幅に 異なりこのことによる研削抵抗の違いが面粗度に影響 を与えたと考えられる。また,凸形状と凹形状では研 削液による切りくずの排出性も大きく異なりこのこと も加工面粗度に影響を与えたと考えられる。
②ホイール頂点での研削状態
半球 状の 工 具を使 い 加工 を行 うと き, 頂点は 周速
0m/min と なるため,円周上の他のポイントの様な加
工が行えず,加工面粗度が劣化することは知られてい る。この現象が今回の研削実験でも現れている。但し 今回の超精密研削加工では周速 0m/min の部分では研 削が不可能になるため,砥粒の脱落による砥石の摩耗 が大きくなり,被削材の回転中心から半径 1.0mm 程 度の範囲で削り残しが生じてしまう。この部分の研削 はホイールの頂点部分で行われており,3 次元曲面研 削を行う場合,主軸を傾斜させるなどの対策を施しホ イール頂点での研削しないようにする必要がある。
5 結論
今回の超精密研削加工に関する研究を行い,次の結 論が得られた。
( )ワーク一回転当たりの送り量の影響を受け加工面1 粗度は変化する。
( )半球状の極微粒メタルボンドホイールを使用して2 Ry=0.4 μ m以下の面祖度を得るには,#1000以下 の粒径のホイールが,Ry=0.1μm以下の面粗度を
得るには#3000 以下の粒径のホイールが必要であ
ることが分かった。
( )3 SD3000P125M のホイールを使い円錐形状の加工を 行った結果 Ry=0.07μm Ra=8.0nm, の加工面を得 ることができた。
6 参考文献
1)谷川義博他 6 名:福岡県工業技術センター平成 10 年度研究報告, 号,9 p.34,(1999)
2)河野邦昭:「CBN・ダイヤモンドホイールの使い 方 ,工業調査会,」 p.38,(1991)