現代語複合動詞の構造について : 動詞の自他を通し て

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(1)九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository. 現代語複合動詞の構造について : 動詞の自他を通し て 林, 慧君 九州大学大学院(博士課程). https://doi.org/10.15017/11905 出版情報:語文研究. 72, pp.12-23, 1991-12-25. 九州大学国語国文学会 バージョン: 権利関係:.

(2) 現代語複合動詞 の構造 につ いて 動 詞 の 自他 を通 して. 林 1.は. 慧. 君. じめ に. 日本 語 の 「追 い 出 す」 「 切 り捨 て る」 な どの よ うな 「動詞+動 詞 」型 の い わ ゆ る複 合 動 詞 は,英 語 や 現 代 の ヨー ロ ッパ 諸 語 な どに は あ ま り見 られぬ 造 語 パ ター ンだ と言 わ れ る(長 嶋(1976))。. 例 え ば,英 語 の場 合, (本 に 注 を)書 き入 れ る. 一 →write(notes)in(thebook). 取 り出 す. ←→takeout. 追い求め る. ←→seekfor. 蹴飛 ば す. 一 →kickaway(oroff). 引 き寄 せ る. ← →drawnear. な どの よ うに,意 味 的 に 日本 語 の複 合 動詞 と対 応 す る もの は 「動 詞+動 詞」 とい うパ ター ンで は な く,「 動 詞+前 置 詞 ・副 詞 」 な どの形 に よ って表 現 さ れ る ことが 多 い。 従 来 こ の 日本 語 の複 合 動 詞 に 関 す る研 究 も多 くされ て い るが,中 (1983b)の. に は石 井 氏(1983). 《動 作 》 ・ 《変 化 》 とい う観 点 か ら複 合 動 詞 の語 構 造 につ い て の分 析 が あ る。. と こ ろが 、 そ の 中 に複 合 動 詞 とい う造 語 パ タ ー ンの 形 成 され る原 因 ・理 由 につ いて は あま り論 じ られ て い な い。故 に,今 回 筆 者 は,先 学 の 研究 を踏 ま え な が ら,「動詞 の 自他 」 とい う文 法 的 カ テ ゴ リー を手 掛 か りに,複 合 動 詞 の構 成 要 素 とな る単 純動 詞及 び複 合 動 詞 その もの の表 す 文 法 的 レベ ル の性 格 を検 討,比 較 す る こと に よ って,改 め て複 合 動 詞 の構 造 に つ い て考 察 す る。 そ して,そ れ らの 分析 を通 して 日本 語 に この 複 合動 詞 とい う造 語 パ タ ー ンの存 在 す る要 因 を 極 め よ う と考 え る。 2.動. 詞 の 自他 か らみ る 動 詞 の 表 す 文 法 的性 格. 動詞 を そ の 意 味 や 用 法 の 面 か ら自動 詞 と他 動 詞 とに分 けて 考 え る こ とが一 般 に行 わ れて い る。 特 に 日本 語 に は,あ る共 通 の語 根 か ら派 生 した と考 え られ る,形 態 的 に対 応 を示 す 自 ・他 動詞 と そ うで な い もの と が あ る。 例 え ば, ①. 医者 が病 気 を 直 す. ②. 病 気 が直 る. は対 応 を 示 す 自 ・他 動 詞 で あ り,そ れ に対 して, ③. 子 供 が漫 画 を読 む. ④. 花子 が バ ス を待 つ. ⑤. 小鳥が死ぬ. ⑥. 彼 女 が 町 に住 む. は形 態 的 に は対 立 す るペ アを 持 たな い もの で あ る。 寺 村(1987)は,「 一57一. 直す 」 「 直 る」 の よ.

(3) うな,形 態 的 に対 立 す る ペ ア を持 つ 動 詞 を そ れ ぞ れ 「相対 他 動 詞 」 ・ 「 相 対 自動 詞」 と, 「読む ・待 つ 」,「死 ぬ ・住 む」 の よ うな,対 立 す るペ ァ を持 た な い ものを それ ぞ れ 「絶 対 他 動詞 」 ・ 「絶 対 自動詞 」 と,分 けて 称 して い る。 な お,い わ ゆ る相対 動 詞 は,前 述 した 形 態 的 に対 応 関係 を有 す るの に と ど ま らず,更 に 奥津(1967)の. 示 して い るよ うに,構 文 的 に も対 応 関 係 を表 す もの で あ る。 即 ち,. ⑦NlガN、. ヲ相 対 他 動 詞 N、ガ相 対 自動 詞. のよ うに,相 対 他 動詞 文 の 目 的格 を表 す ヲ格 の 名詞 句 が相 対 自動詞 文 の主 体 格 を 表 す ガ格 の名 詞 句 にな る と い う こ とで あ る。 具 体 的 な 例 を あ げ る と, ⑧. 花 子 が車 を動 かす 車 が動 く. のよ うで あ る。 ⑧ の 例 文 か らわ か る よ うに,相 対 自 ・他 動 詞 が 文 法 的 レベ ル に お い て は N,がN,に. 働 きか け た結 果,N,に. はそ の作 用 を受 けて 状 態 変 化 が 起 こ る,と い う必 然 的 な. 関連 性を 有 す るの で あ る。要 す る に,相 対 自 ・他 動詞 が単 に形 態 的 に対 応 す る の み な らず, 文法 上 表 す 意 味 及 び構 文 的 に も密 接 な関 係 を 示 す わ け で あ る。 と こ ろで,動 詞 の表 す 文 法 的 レベ ルの 意 味 か ら分 析 す る と,他 動 詞 の運 動 を く動 作〉 と く 状 態 変 化 〉 に分 けて考 え る場 合,日 本 語 の 相 対 他 動 詞 は一 般 に そ の両 方 を含 む と考 え ら れ. 動 作 主 の 動 作 の対 象 に対 す る 〈 働 きか け〉 を 表 す と同 時 に,動 作 の対 象 に 起 こ る く 状. 態変 化 〉 を も意 味 す る と言 え る。 例 で説 明 す る と, ⑨. 太郎 が花 瓶 を割 る 花 瓶 が割 れ る. の場 合,他 動 詞 文 の 「 太 郎 が 花 瓶 を割 る」 は,「太 郎 が花 瓶 が割 れ る よ うにす る」 と言 い換 え られ る よ うに,動 作 主(太 郎)の. 「花 瓶 を 割 る」 とい う動 作 を 表 す だ け に と ど ま る ので. はな く,同 時 に その結 果 変 化,即 ち 「 花 瓶 が 割 れ る」 とい う文 を も想起 させ るわ け で あ る。 要 す る に,「割 れ る」の相 対 自動 詞 文 こそ,相 対 他 動 詞 「割 る」 と い う動作 が 実 現 した結 果, 言 わば,動 作 の 対象 に お け る状 態 変 化 を示 す もの で あ る。 故 に,動 詞 の 自 他 と い うカ テ ゴ リー に お け る文 法 的 性格 か ら言 え ば,相 対 他 動 詞 は,対 象 が 変 化 す る よ う主 体 が行 為 す る とい う[動 作 → 変 化]性 の動 詞 で あ り,一 部 分 の相 対 自動 詞(曲 は,行 為 の 対 象 の状 態 変 化 に つ い て主 体 と して と らえ る[状 態(変 化)]性 の動 詞 と言 え よ う。 一 方 ,こ れ らの相 対 他 動 詞 に対 して,例 え ば, ⑩. 太郎 が二 郎 を 殴 る. ⑪. 花子 が漫 画 を読 む. の 「殴 る」「読 む 」な どの絶 対 他 動 詞 自体 は,動 作 主 が 動 作 の対 象 に対 す る働 きか けを 表す の に と ど ま り,そ の行 為 の対 象 に お け る結 果 変 化 に っ い て は無 関 心 で あ る(西 尾(1988))。 とい う わ け で,絶 対 他動 詞 は[動 作]性. の動 詞 と言 え よ う。. と こ ろで,自 動詞 の運 動 に関 して は,そ の動 作 主 に は運 動 の意 志 性 ・行 為 性 が あ る もの とな い もの と に,二 大 別 で き る。 そ れ に よ って そ の 自動 詞 が動 作 性 か 状 態 性 か の 動 詞 を認 定 す る こ とが で きる。 これ は,相 対 自動 詞 に して も絶 対 自動 詞 に して も同 じ くい え る こ と で あ る。 次 の例 を参 照 さ れ た い。 「56一 白.

(4) ⑫. 彼 女 が バ スに乗 る. ⑬. 彼 が駅 ま で 歩 く. ⑫ の相 対 自動 詞 文 及 び⑬ の絶 対 自動 詞 文 で は,と も に意 志 性 を有 す る主 体 が 動 詞 文 の動 作 主 に な る。 そ の 自動 詞 の 表 す主 体 自身 の動 作 が,有 情 物 の 動 作 主 の 意 志 に よ って 実現 され る もの で あ る。 そ の 運 動 全体 に は 〈 動 作〉 とい う側 面 しか表 され ず,〈 状 態 変化 〉 な どの側 面 は 見 られ な い の で あ る。 そ うい う意 味 で,自 動 詞 の前 に意 志 性 ・行 為 性 が あ る動作 主 が 来 る 場 合,そ の 自動詞 を[動 作]性. の 動詞 と捉 えて い いわ け で あ る。 一 方,. ⑭. 夕 日が 西 の 空 に 映 え る. ⑮. 橋が朽 ちる. の場 合,動 作主 は運 動 の 意 志性 や行 為 性 を 全然 有 さ な くて,動 詞 の表 す運 動 は,動 作 主 の 意 志 的 な動 作 で はな く,単 に状 態 的 で あ るに す ぎ な い。 以 上,検 討 の 結 果,動 詞 の 自他 を 中 心 と した文 法 的 性 格 に基 づ い て単 純 動 詞 を次 の よ う に 分 類 して ま とめ る(注2)○ 表一. 分. 3.複. 類. 用. 例. [動作 →変化]性. 太郎が花瓶 を割 る. (相対他 動詞). [動作]性. 太郎が次郎 を殴 る 彼女がバスに乗 る 彼 が駅 まで歩三. (絶対他 動詞) (相対 自動詞) (絶対 自動詞). [状態]性. 橋が朽 ちる 花瓶が割れ る. (絶 対 自動 詞) (相 対 自動詞). 合 動 詞 の 構 成 要 素 につ い て. 今 回 は 『複 合動 詞 資 料 集 』(1987)の 中 の 第 五表 「 前 接 率 順 構 成 要 素 表 」(T!、3)に 載 って い る 複 合 動 詞 の構 成 要 素 を取 り上 げ,調 べ て み る。但 し,「「 過 ぎる」「一 合 う」「一 か け る」「 一 込 む」 「さ し一 」 等 の接 辞 的 構 成 要 素 を 今 回 の考 察 の 問題 外 にす る こ とを断 わ って お きた いo 表二. 分. 類. 前接 率(%). a類. 複合動詞の前項 にのみ位 置する動詞. 100.00〜90.00. b類. 複合動詞の前項 に位置 しやすい動詞. 89.74〜66.66. c類. 複 合 動 詞 の 前 。後 項 と もに位 置 す る動 詞. 63.63〜35.29. d類. 複合動詞 の後項 に位置 しやすい動 詞. 33.33〜11.11. e類. 複 合動詞 の後項 にのみ位置す る動詞. 10.00〜00.00. 「55一.

(5) (注)絶 他一絶対他 動詞 絶 自「絶対 自動詞. 相他一相対他動詞. 相 自一 相対 自動詞(以. 下 も同様). まず,前 接 率順 の多 少 に よ り,複 合 動 詞 の構 成 要 素 と な る単純 動 詞 を 表 二 の通 りに 五 っ に分 類 す る こ とに した。 な お,そ の五 分 類 の項 目に 属 す る個 々 の 構成 要 素 と して の単 純 動 詞 につ い て そ の 自他 性 を調 べ,そ. れ ぞ れ の結 果 を 統 計 的 に表 三 に示 して い る。. 更 にわ か りや す くす る た め に,表 三 の百 分 率 の 結 果 を 表 四 の よ うに グ ラ フ にま とめ た 。 表 四 の 中 で も っと も 目 に付 い た現 象 と して は,絶 対 他 動 詞 の構 成 要 素 が 表 五 の 右 に 行 け ば行 くほ ど数 が少 な くな って い くの に対 して ,相 対 他 動 詞 の 構成 要 素 の 場 合 は,そ れ と反 対 に,右 に行 け ば行 くほ ど数 が 多 くな って い く,と い う点 を 挙 げ られ る。 要 す るに,複 合 動詞 の前 項 に のみ 位 置 す るa類 の構 成 要 素 に は,絶 対 他 動詞 の方 が相 対 他 動詞 よ りず っ と 多 い の に対 して,複 合 動詞 の後 項 にの み 位 置 す るe類 の 構成 要 素 に は,相 対 他 動 詞 の 方 が 絶 対 他 動 詞 よ りず っ と多 い とい う こ とで あ る(注 、)。 この こ とが複 合 動 詞 の 構造 に どの よ う に 関 わ って い るの か は,後 の検 討 を 通 して また 触 れ る。 本 節 は こ こま で提 起 す るの に と ど め る。 4.複. 合 動 詞 の構 成 パ ター ン 一54「 由.

(6) 次 は第2節. で 分類 して お い た 三 種類 の単 純 動 詞 が複 合 動 詞 の構 成 要 素 と して 色 々組 み合. わ され て,ど. う い う複 合 動詞 を 作 り上 げ る の か を,第2節. で論 じた 自他対 応 の観 点 に よる. 文 法 的性 格 か ら検討 す る。 あ らか じめ 申 して お くが,今 回 は接 辞 的構 成 要 素 を 含 む 複合 動 詞(例 え ば,「 押 し込 む」 「飛 び かか る」)や,す で に その 語 構 造 分 析 が で き な くな って い る と考 え られ る もの(例 え ば,「 落 ち着 く」 「 打 ち明 け る」)な ど は考 察 の対 象 か ら除 外 した。 調 査 の 結 果 と して は,複 合 動 詞 の場 合 も単 純 動 詞 と同 じ よ うに,大 体 にお い て,[動 作 → 変化]性. ・[動 作]性. ・[状 態]性. と三 種 類 に大 ま か に ま とめ られ る。以 下 は,こ の三 種. 類 の複 合 動 詞 の 構 造 に つ い て 詳 しく分 析 して い く。. 4‑1[動. 作 → 変 化]性. まず,〔 絶 対 他 動 詞+相 対 他 動 詞 〕 とい う構 成 の複 合 動 詞 か ら見 よ う。. 例 え ば,⑯. ⑯. 軍 隊 が 城 を 攻 め落 とす(絶. 他+相 他)(庄 、). ⑰. 犯 人 が 証 拠 物 件 を包 み 隠 す. 〃. の 「 攻 め落 とす 」 を例 に して説 明 す る と,絶 対 他 動 詞 の 前 項 動詞 「 攻 め る」 に. は,〈動 作 〉 と い う側面 しか 見 られ な い。 一方,相 対 他 動 詞 の後 項 動 詞 「 落 とす 」 は動 作主 の動 作 の 対 象 に対 して 働 き か け る と同 時 に,動 作 の対 象 に起 こ る 「落 ち る」 とい う 〈 状態 変 化 〉 を も表 して い る の で あ る。 従 って,前 が 動 作 の対 象 「 城 」 に対 して,前. ・後 項 動詞 を 結 び付 け る と,動 作 主 「 軍 隊」. ・後 項 動 詞 の 結 び 付 い た 「攻 あ る+落 とす」 とい う一 ま. とま り の作 為 を施 した結 果,最 後 に 「城 が 落 ち る」 とい う 〈状 態 変 化 〉 が 生 じ るわ け であ る。 故 に,こ の 〔 絶対 他 動 詞+相 対 他 動 詞 〕 とい う構 成 で 作 り上 げ られ た複 合 動 詞 を[動 作 → 変 化]性. の 複 合動 詞 と見 な す。. な お,次 の 〔 相対 他 動 詞+相 対 他 動 詞 〕 と い う構 成 で 作 り上 げ た複 合 動 詞 も[動 作 →変 化]性. の複 合 動 詞 と言 え る。. 例 え ば,⑱. ⑱. 子供 が箱 を 積 み 重 ね る(相. 他+相 他). ⑲. 消 防車 が 火 事 を 消 し止 め る. 〃. 「積 み重 ね る」 の場 合,そ の前 ・後 項 動 詞 が と も に[動 作 → 変 化]性 の 相対 他. 動 詞 で あ るが,一 つ の 複 合 動 詞 に結 び付 く と,相 対 他 動 詞 の前 項 動 詞(「 積 む」)の 背後 に 含 む く状 態 変 化 〉(即 ち,「箱 が 積 も る」)と い う側 面 が複 合 動 詞 の一 ま とま りの運 動 におい て は薄 くな って無 関 心 に な る ので あ る。 とい うわ け で,動 作 の対 象 「 箱 」 が前 ・後 項 動詞 の一 ま と ま りの(「積 む」+「 重 ね る」)と い う働 きか けを され た後,最 後 に 「 箱 が 重 な る」 と い う最 終 的 な 〈 状 態 変 化 〉 に至 るの で あ る。 故 に,こ の 〔 相対 他 動詞+相 対 他 動 詞 〕の 複 合 動 詞 も[動 作 → 変 化]性. の複 合 動詞 に属 す る。. と こ ろ で,次 の 〔 相 対 自動 詞 「 ←相 対 他 動 詞 〕 とい う構 成 の 複 合 動 詞 はど うで あ ろ う。 ⑲. 妹 が 目 を泣 き腫 らす(相. ⑳. 野 球 選 手 が外 車 を乗 り回 す. 自+相 他) 〃. 例 え ば,⑲ 「 泣 き腫 らす 」 の前 項 動 詞 「泣 く」 は 「動作 」 性 の相 対 自動詞 で,複 合 動 詞の 一 ま とま りの運 動 で は ,複 合動 詞 の前 に来 る動 作 の対 象 「目」 に対 して 直 接 に何 も働 きか けな い 〈動 作 〉 を 表 す。 と ころ が,一 方 後 項 動 詞 「腫 らす 」 は動 作 の対 象 「目」 に対 して 働 きか け,「 目 が腫 れ る」 とい う 〈 状 態 変 化 〉 を もた らす い わ ゆ る[動 作→ 変 化]性 の相対 一53.

(7) 他動詞 で あ る。 従 って,「 泣 く+腫 らす 」 とい う二 っ の運 動 を 組 み 合 わ せ た結 果,最. 後に. 「目が腫 れ る」 とい う 〈 状 態 変 化〉 に 至 らせ るわ け で あ る。 故 に,こ の 「泣 き腫 らす 」 も 「動作 → 変 化 」 性 の 複 合動 詞 と見 な して よい と考 え られ る。 以 上 は他 動 的 な タ イ プの[動 作 → 変 化]性 の 複 合 動詞 で あ っ た。 次 は 自動 的 な タイ プ の [動作 →変 化]性 の 複 合 動 詞 につ いて 検 討 す る。 ⑳. 彼 女 が 泣 き濡 れ る(相. ⑳. 母 親 が(子 供 の死 に)泣 き崩 れ る". 自+相 自). ⑳. 彼 女 が都 会 に住 み慣 れ る(絶. 自+相 自). の場 合,前 項 要 素 「 泣 く」「住 む」 は意 志 性 を 有 す る[動 作]性 の 自動 詞 で あ る の に対 して, 後項 動 詞 「 濡 れ る」 「 崩 れ る」 「 慣 れ る」 は いず れ も意 志 性 を有 しな い[状 態]性. の 自動 詞. なので あ る。 そ うい う前 項 動 詞 と後 項 動 詞 が 結 合 す る と,動 作 主 自分 自身 に止 ど ま る く動 作〉 の実 現 した結 果,動 作 主 自体 に は 「 濡 れ る」 「 崩 れ る」 「 慣 れ る」 とい う 〈状 態 変 化 〉 を導 か せ る,い わ ば,自 動 的 な 因 果 関 係 を示 す[動 作 → 変 化 」 性 の 運 動 に な る。 な お,そ れ 以 外 に,次 の諸 例 も 自動 的 な[動 作 → 変 化]性 の 複 合 動 詞 と考 え られ る。. ⑳ ⑳ ⑳ ⑳ ⑱. 登山者 が山道 に踏 み迷 う. (絶他+相. 節子 が英和辞書 に使い慣れ る 子供 が石に蹴 つ まず く. (絶他+絶. 節子が(彼 が来 ないので)待 ち くた びれる 彼女が彼の顔 に見飽 きる. 自). /ノ. 自). 〃. (相他+相. ⑳ 〜⑱ の複 合 動 詞 は全 て他 動 詞 の前 項 動 詞 と意 志 性 を有 しな い[状 態]性. 自) の 自動 詞 との結. び付 きで あ る。 と こ ろが,こ れ らの複 合 動 詞 に は動 作 の対 象 に 当 た る 目的格 を 表 す ヲ格 成 分が 出 な か った り又 は他 の 形 で現 れ た りす る,と い うこ と㈱)か ら考 え れ ば,他 動 詞 の前 項 動詞 の本来 有 す る動 作 主 の 動 作 の対 象 に対 す る働 き か けが,複 合 動 詞 の 一 ま と ま りの運 動 にお いて は不 問 で消 極 的 に な る。一 方,「 飽 き る」 「 迷 う」「くた び れ る」 な どの[状 態]性 の後 項 動 詞 が 表 す の は意 志 性 に よ る運 動 で は な い。 従 って,そ. うい う前 項 動 詞 と後 項 動 詞. が結 合 して,動 作主 が動 作 の対 象 に対 して 前項 動詞 の他 動 的 な 〈 働 き か け〉 を実 現 す るけ れ ど も,一 ま とま りの複 合 動 詞 の 運 動 にお け る最終 的 な関 心 が,動 作 の対 象 に起 こ る変 化 にあ るわ けで はな く,動 作 主 自身 に生 ず る 〈状 態 変 化〉 な の で あ る。 故 に,こ れ ら も 自動 的 な[動 作 → 変 化]性 の運 動 と言 え る。. 4「2[動. 作]性. まず,次 の諸例を見 られた い。 ⑳ ⑳. 花子が手提 げ袋 を持 ち運ぶ 猪が山野を走 り回る. ⑳(華. やか に着飾 った)婦 人達 が街路 を練 り歩 く. (絶他+絶 他) (絶 自+相 自) (絶 自+絶 自). ⑫. 看護婦が病人 に付 き添 う. (相 自+相 自). ⑳. 変な男が順子 に付 き纒 う. (相 自+絶. ⑭. 犯人が車 を乗 り捨て る. (相 自+絶 他). ⑳. 彼女が苦労 を耐 え忍ぶ. (絶 自+絶 他) 「52一. 自).

(8) ⑯. 信 長 が京 の都 に攻 め 上 る(絶. 他+絶. 自). ⑳. 太 郎 が 社 内一 の 美人 に 言 い寄 る(絶. 他+相. 自). 上 の例 は,い ず れ も[動 作]性 の前 ・後 項 構成 要 素 同 士 に よ っ て結 び付 け られ. そ の結 合. した複 合 動 詞 の表 す 一 ま と ま りの運 動 に も 〈 動 作 〉 とい う側 面 しか 見 られ な い。 一方, ⑱. 子 供 が 靴 を 脱 ぎ捨 て る(相. ⑳. 保 健 所 が 害 虫 を取 り除 く(注,)〃. 他+絶 他). ⑩. 猫 が 私 の 足 下 に擦 り寄 る(相. ⑪. 警 備 員 が学 校 を見 回 る". 他+相. 自). の 場 合,全 て前 項 動 詞 に は[動 作 → 変 化]性. の相 対 他 動 詞 が 位 置 して い るけ れ ど も,そ れ らの後 に ほか の単 純 動詞 が結 び付 い て来 る と,元 々有 す る 〈状 態変 化 〉 の側 面 ,例 え ば⑳ は 「靴 が 脱 げ る」,⑳ は 「足 下 が 擦 れ る」 な どが,複 合 動 詞 の一 ま とま りの運 動 にお いて は. 不 問 で 無 関心 に な って し ま うの で あ る。 つ ま り,そ. うい った[動 作 → 変 化]性 の 相対 他動. 詞 が 複 合 動詞 の前 項 要 素 に な る と,単 に 〈 動 作 〉 だ け の役 割 を果 た す わ けで あ る。従 って ⑱ か ら⑳ まで も[動 作]性 の複 合 動 詞 と考 えて よか ろ う。. 4‑3[状. 態]性 ⑫. 恐 竜 が死 に絶 え る(絶. ⑬. 夫 が(酒. 自+相 自). に)酔 い潰 れ る. 〃. ⑭. 病 人 が 持 ち堪 え る(絶. 自+絶 自). ⑮. 釘 が 折 れ 曲 が る(相. 自+相 自). ⑯. 御 飯 が 焦 げ付 く. ⑰. 秋 の 日ざ しが照 り映 え る(相. 上 の⑫ か ら⑰ ま で は,と もに[状 態]性. 〃 自+絶 自). の 自動 詞 構 成 要 素 同士 が組 み合 わ され た もの で あ. る。 そ の 作 り上 げ た 複 合動 詞 も[状 態]性. の もの で あ る。. と こ ろが, ⑱. 代 金 に 手 数 料 が付 け加 わ る(⇔ 〜 が 代 金 に手 数 料 を 付 け加 え. る). (相他+相. ⑲. 落 葉 が積 み重 な る(⇔ 〜 が 落 葉 を 積 み重 ね る). ⑩. 世 論 が盛 り上 が る(⇔ 〜 が 世 論 を 盛 り 上げ る). ⑪. 本 棚 が持 ち上 が る(⇔ 〜 が 本 棚 を 持 ち上 げ る). 自). 〃. (絶他+相. 自). 〃. の場 合 は,全 て そ れ と対 応 す る他 動 詞 形 の 複 合 動 詞 が 存 在 す る と い う こ とが特 徴 的 で あ る。石 井 氏(1983b)は,こ. の⑱ 「 付 け加 わ る」 な ど の よ うな 「他 動 詞+自 動 詞 」 の複 合 動. 詞 に関 して,そ の前 項 動 詞 た る他 動 詞 の 「付 け る」 が 「付 け加 わ る」 と い う複 合 動 詞 全 体 の運 動 にお い て他 動 性 を失 って い なが ら も,後 項動 詞 「加 わ る」 の 表 して い る 〈 状 態 変 化〉 と い う側面 に至 る ま で の 〈 動 作 〉 と して 考 え られ,「 付 け加 わ る」な どの 複合 動 詞 を 自動 的 な タイ プの[動 作 → 変 化]性 の 複 合 動 詞 と設 定 した わ けで あ る。 と こ ろが ,「代 金 に手 数料 が付 け加 わ る」 とい う複 合 動 詞 文 の表 して い る一 ま と ま りの運 動 で は前 項 動 詞 の 「 付 け る」 が依 然 と して く 動 作〉 とい う側 面 を表 して い る こ とが 考 え 難 い。 ま た構 成要 素 同士 が 複 合 一51一.

(9) した以 上,そ. の複合 語 全 体 の意 味 を前 提 と した上 で複 合 語 の 構 造 、表 す文 法 的 な性 格 な ど. を捉 え る ことが 必要 で あ る。 とい うわ け で,動 詞 の 自他 対 応 の 観 点 か ら複 合 動 詞 全 体 を 考 えれ ば,複 合 相 対他 動 詞 「 付 け加 え る」 や 「盛 り上 げ る」 な ど は いず れ も[動 作 → 変 化] 性の 運 動 を 表 す が故 に,そ れ と対 応 す る複 合 相 対 自動 詞 の 「 付 け加 わ る」「盛 り上 が る」 な どが 表 して い る運 動 は,当 然 な が ら,他 動 的 な動 作 が 実 現 され た後 に起 こ った 〈状 態変 化 〉 な ので あ る。即 ち,こ の 自他 対 応 関 係 を 有 す る複 合相 対 自動 詞 を[状 態]性 の 複 合 動詞 と 捉 え られ よ う。 分 類 の結 果 と して は,石 井(1983b)の. と似 て い る け れ ど も,石 井 氏 の 「2‑3主. 体の. 《状 態 》 の も とでの 《動 作 》 ・ 《変 化 》」(注,)と い うパ ター ンが な い とい う点 で は異 な る。石 井氏 は そ のパ ター ンの複 合 動 詞 と して は 「 乗 り入 れ る」「乗 り付 け る」「持 ち帰 る」「持 ち歩 く」 な ど を挙 げて い る。 と こ ろ が,そ れ に関 して は,前 述 した 「動詞 の 自他 」 の観 点 を通 して の分 析 に よ ると,「乗 り入 れ る」 「乗 り付 け る」 は,[動 作]性 の前 項 要 素 と[動 作 → 変 化]性 の後 項 要素 に よ って結 び付 け られ た わ け で,そ の 結 び付 い た複 合 動 詞 の表 す 一 ま と ま りの運 動 が[動 作 → 変 化]性. な の で あ る。 一 方,「 持 ち帰 る」 「持 ち 歩 く」 の 方 は,と. も. に[動 作]性 の構成 要 素 同 士 に よ って 結 合 され た の で,[動 作]性 の複 合 動 詞 に な る。要 す るに,筆 者 の前 述 した複 合 動 詞 の三 分 類 で は,石 井 氏 の2‑3の 十分 に扱 う ことが で き る。 故 に,石 井 氏 の2‑3「. 分 類 に あ る複 合動 詞 を も. 主 体 の 《状 態 》 の も とで の 《動 作 》 ・. 《 変 化 》」 とい うパ ター ンを特 に取 り上 げ る必 要 が な い わ け で あ る(庄 、)。 5.複. 合動 詞 と単 純 動 詞 の 比 較. 本節 は,前 述 の分 析 を 踏 ま え なが ら,複 合 動 詞 を(特. に[動 作 → 変 化]性. の もの を 中 心. に)そ の 構 成要 素 で あ る単 純 動 詞 と比 較 し,検 討 す る。 「動 詞 の 自他」 と い う側 面 か ら動 詞 の表 す文 法 的性 格 を検 討 した 結 果,単 純動 詞 も複 合 動 詞 も,[動 作 →変 化]性. ・[動 作]性. ろ が,そ の中 の[動 作 → 変 化]性. ・[状 態]性. と同 じ く三 分 類 に ま とめ られ る。 と こ. の もの に 関 して は,複 合 動 詞 が 単 純 動 詞 と次 の よ うな 相. 違 ・対 応 が 見 られ る。 他 動 的 な[動 作 → 変 化]性. の 複 合動 詞 は,性 質 上,単 純 動 詞 の相 対 他 動 詞 と対 応 して い. る○ 即 ち,両 者 が と もに動 作 主 の 〈動 作 〉 の実 現 に よ って,他 の動 作 の 対 象 に 〈 状態変化〉 が起 こ る,と い う他 動 的 な[動 作 → 変 化]性 の運 動 を表 す こ とで あ る。 と ころが,形 態 上, この 他動 的 な[動 作 → 変化]性. の運 動 表 現 は,単 純 動 詞 の 場 合,全 て 相対 他動 詞 に よ って. 担 わ れ るの に対 して,複 合 動 詞 の場 合,相 対 他 動 詞 形(例 え ば,「飲 み潰 す」 「付 け加 え る」 「吊 り上 げ る」 な ど)及 び絶 対 他 動 詞 形(例. え ば,「 汲 み取 る」 「書 き入 れ る」 「 取 り外 す 」. な ど)と の二 っ の形 態 に よ って 分 担 さ れ る,と い う点 で は両 者 の 相 違 が 見 られ る。 単 純 動詞 の絶 対 他 動 詞 は全 て 〈 動 作 〉 とい う側 面 しか表 せ な い もの で あ る の に対 して, 複 合 動 詞 の絶 対 他 動 詞 に は[動 作 → 変 化]性 の運 動 表 現 が担 え る も の が あ る。 これ は,複 合 動 詞 の構 造 に関 わ る と考 え られ る。 第2節 で検 討 した よ うに,単 純 動 詞 の場 合 は,相 対 他 動 詞(例 え ば,「 割 る」)の 表 す[動 作 → 変 化]性 の運 動 に あ る 〈 状 態 変化 〉 の側 面 は, そ の相 対 他 動詞 の背 後 に存 在 す る相 対 自動詞(「 割 れ る」)に よ って担 わ れ るの で あ る。 一 方,第4節. の 分析 に,複 合 動 詞 の場 合,《 複 合動 詞全 体 の表 す働 き か け が 実 現 した結 果,状 一50一.

(10) 態変 化 が 生ず る》 と い う前 後 の因 果 関 係 を示 す,一 ま と ま りの運 動 に お け る最 終 的 な 関心 で あ る 〈状態 変 化 〉 と い う役 割 は,常 に後 項 の構 成 要 素 に よ って 果 た さ れ る,と 述 べ た。 要 す る に,複 合 動 詞 の場 合,対 応 す る 自動 詞 形 が な くて も,そ の後 項 構 成 要 素 が[動 作 → 変化]性. の運 動 に あ る 〈 状 態 変 化 〉 の 役 割 を果 た す ので あ る。 故 に,「 書 き入 れ る」 「 切り. 落 とす 」 な どの よ うな[動 作 → 変 化]性. の複 合 動 詞 は絶 対 他 動 詞 で あ る もの の,単 純 動 詞. の相 対 他 動詞 と同質 の もの と 言 え よ う。 とい うわ け で,他 動 性 の運 動 に関 して は,単 純 動 詞 と複 合 動 詞 の対 応 を次 の よ うに示 す こ とが で き る。 (単純 動 詞)(性. 相対他動詞一. 質)(複 「 動作→変化「性. 絶対他動詞 6.複. [動作]性. 合 動 詞). 相対他動詞 絶対他動詞. 合 動 詞 の形 成 さ れ る要 因. 次 は,前 の 「動詞 の 自他」 を通 して の 考 察 か ら,複 合 動 詞 とい う造 語 パ タ ー ンが な ぜ要 求 され る のか,そ の 原 因 ・理 由 を 見 つ け た い。 今 回 「複 合 動 詞 資 料 集 』 か ら取 り上 げ た910例. の複 合動 詞 が 第4節 に述 べ た三 分 類 に ど. の よ うに分 布 して い るか を 調 べ て み る と,表 五 の よ うに な る。 表五. [動作→変化]性. [動作]性. [状態]性. 449. 337. 124. (49%). (37%). (14%). 計 910. 表 五 か らわ か る通 り,調 査 の 結 果 と して は,「動作 → 変 化 」性 の複 合 動 詞 が三 パ タ ー ンの 中 で一 番 多 く,約 語 例 全 体 の半 分 ぐ らい で49%を. 占 め て い る の で あ る。 そ れ は,[動 作→. 変 化]性 の複 合 動詞 の運 動 表 現 が か な り要 求 さ れ る と い う こ とを物 語 っ てい る。と ころで, 何 故[動 作 → 変化]性. の複 合 動 詞 が そ れ ほ ど必 要 な のか,以 下 で は こ の問 題 に 限定 し考 え. る こ と にす る。 前 に も述 べ たが,単 純 動詞 の場 合,[動 作 → 変 化]と い う運 動 表 現 に お け る 〈 動 作 〉及 び 〈状 態 変 化 〉 の 二 つ の 側面 の役 割 を と もに 果 た し得 る の は相 対 他 動 詞 だ けな の で あ る。 と こ ろ が,日 本 語 の単 純 動 詞 に 相対 動 詞 が 多 い こ と は特 徴 的 とさ れ て い る けれ ど も,有 限 な 数 の単 純 相 対 他 動詞 だ けで は,あ. らゆ る[動 作 →変 化]と. い う運 動 表 現 の必要 に は ど う も. 応 じき れ な い よ うで あ る。一 方,複 合 動 詞 の場 合,今 回 の調 査 で は449例 の[動 作 → 変 化] 性 の複 合動 詞 の うち,〔絶 対他 動 詞+相 対 他動 詞 〕とい う構 成 で作 り上 げ られ る もの が最 も 多 く,300例. もあ り,約60%の. 高 い 占有 率 を示 して い る。 この 数 は,[動 作 → 変 化]性 の複. 合 動 詞 が何 故 た くさん 存 在 す るの か,そ の 何 らか の理 由 を 示 唆 して い ると思 わ れ る。 そ れ に関 して は,⑯ の 「攻 め 落 とす 」 を 例 に考 え て み た い と思 う。 ⑯. 「軍 隊 が 城 を攻 め落 とす 」. の場 合,絶 対 他 動 詞 の前 項 要 素 「 攻 め る」 だ け で は 〈動 作 〉 と い う側面 の み を表 し,動 作 主(「 軍 隊 」)の,動. 作 の対 象(「 城 」)に 対 す る働 きか け は,一 体 動 作 の 対象 に は どん な結 一49一.

(11) 果変化 を導 くの か はわ か らな い。 従 って,他 動 詞 の運 動 表 現 にお いて は,動 作 の対 象 に は 動作主 に よ って働 きか け られ た後,ど. ん な状 態 変 化 が生 じる のか と い う関 心 が求 め られ る. 場合,絶 対 他動 詞 で は担 えぬ 〈状 態 変 化 〉 と い う側 面 を も含 む 相対 他 動詞(「 落 とす 」)が, 複合 動詞 の後 項 要素 と して,絶 対 他 動 詞(「 攻 め る」)の 後 に 結 び付 い て きて そ の複 合 動 詞 の一 ま とま りの 〈 動 作 〉 の実 現 に よ って生 じた く 状 態 変 化〉(即 ち,「 城 が落 ち る」 と い う こと)を 表 す 役 割 を果 たす わ けで あ る。 要 す るに,絶 対 他動 詞 は行 為 の み を表 し,そ の 結 果 につ いて不 問 で あ る故,そ. の結 果 の. 達成 につ い て言 及 した い場 合 は,〈状 態 変 化 〉を も伴 う 〔 絶 対 他 動 詞+相 対 他動 詞 〕 とい う 構成 の[動 作 → 変 化]性 の複 合 動 詞 を用 いれ ば よい わ けで あ る。 即 ち,言 い換 え れ ば,あ らゆ る他 動 的 な[動 作 → 変 化]性. の運 動 表 現 が,単 純 動 詞 の相 対 他 動 詞 だ けに よ って 十 分. に担 い切 れ な い ため,絶 対 他 動 詞 の表 し得 な い 〈 状 態 変 化 〉 の側 面 を補 う 〔 絶 対 他 動 詞+ 相対 他 動 詞)の 複合 動 詞 が多 く要 求 さ れ て い るわ けで あ ろ う。 これ は,〔絶 対 他 動詞+相 他 動詞 〕 とい う構 成 で 作 り上 げ られ る[動 作 → 変 化]性. 対. の複 合 動 詞 が優 勢 な語 構 造 形 式 の. 理 由で あ り,即 ち,複 合動 詞 とい う造 語 パ ター ンが た く さん存 在 す る主 な原 因 で も あ る。 また,こ の こと もま さ に,第3節. の 構 成 要 素 に 関す る調査 の結 果 に お い て,単 純 動 詞 の絶. 対 他動 詞 が 複合 動 詞 の前 項 に,相 対 他 動 詞 が 複 合動 詞 の 後 項 に位 置 しや す い所 以 を説 明 し てい るわ けで あ る。 他 に,同 じ よ う な例 と して は,「 汲 み上 げ る」 「投 げ出 す」 「 吹 き 倒 す」 「 呼 び入 れ る」 「 踏 み破 る」 な ど が挙 げ られ る。 な お,[動 作→ 変化]性 の複 合 動 詞 に は 〔 絶 対 他 動 詞+相 対 他 動 詞 〕 と い う構 成 の ほか に 〔 相対 他 動 詞+相 対 他 動 詞 〕(例 え ば,「 切 り倒 す 」 な ど)と い う構 成 で結 び付 い た も の も 少 な くな い。そ の 相対 他 動 詞 で あ る前 項 動 詞(「 切 る」)自 体 は,〈動 作 〉 と い う側面 の みな らず,〈状 態 変 化 〉とい う側 面 を も意 味 し,別 に他 の動 詞 が後 に結 び付 い て きて 〈状 態 変 化 〉 とい った側 面 を 表 す 働 きを補 って も ら う必要 が な い はず で あ る。 しか し,第4節. の 中 に述. べ た通 り,前 項 動 詞 の背 後 に含 まれ る 〈状態 変 化 〉 の 側 面(即 ち,「 切 れ る」)が,複. 合動. 詞 の一 ま とま りの運 動 にお け る最 終 的 な重点 で はな い。 つ ま り,前 項 動 詞(「 切 る」)が, 〈 動 作 →変 化 〉 と い う性 質 を 有 す る相 対 他 動 詞 で あ る と は言 え,複 合 動 詞 の 中 で,そ の 本 来有 す る 〈状態 変 化 〉 の 側 面 にっ いて は消 極 的 にな り,専 ら 〈 動 作 〉 の側 面 にの み 焦 点 が 当 て られ るた め,絶 対 他 動 詞 に相 当す る こ と に な る。 そ して,〔 絶 対 他 動 詞+相 対 他 動 詞 〕 とい う優 勢 な語 構 造 形 式 か らの 類 推 に よ っ て,〔 相 対 他 動 詞+相 対 他 動 詞 〕 と い う構 成 の [動作 → 変 化]性 の 複 合 動 詞 も ど ん どん 作 り上 げ られ て き た の で は な いか と考 え られ よ う。 7.お. わ りに. 以上,「動 詞 の 自他 」 とい う文 法 的 レベ ル を通 して 動 詞 の実 現 す る様 々 な性 格 を 検 討 す る こ とに よ って,複 合 動 詞 を[動 作 → 変化]性. ・[動 作]性. ・[状 態]性. と三 分 類 にま とめ,. それ ぞ れ の構 造 を改 め て分 析 し た。 更 に,そ の三 種 類 の複 合 動 詞 の 中 で,最. も代 表 的 なパ. タ ー ンで あ る 「 動 作 ← 変化 」 性 の複 合 動 詞 を 中心 に,単 純 動 詞 と比 較 す る視 点か ら複 合 他 動 詞 と単 純 他 動 詞 との 相違 ・対 応 も検 討 し,そ して複 合 動 詞 の形 成 され る要 因 を解 明 して きた。 一48「 ⇔.

(12) 英 語 や ドイ ツ語 な どめ いわ ゆ る 「 結 果 寄 り」 の言 語 に比 べ て,日 本 語 はい わ ゆ る 「 動作 寄 り」 の言 語 と言 わ れ る(宮 島(1989))。. そ れ は,〈状 態 変 化 〉 とい う側 面 の表 現 に つ いて. 消 極 的 で あ る単 純 絶 対 他 動 詞 が 多 数 存 在 す る こ とか らわか る。故 に,「動 作 よ り」 の欠 点を 補 足 す るた め,日 本 語 の 場 合,新. た な動 詞 を作 る と い うよ り も,元 々 の単純 動 詞 が 有 す る. 独 自な 文 法 的 性 格 を 生 か して[動 作 → 変 化 」 性 とい う複 合 動 詞 の造 語 パ ター ンを発 達 させ る わ けで あ る。 今 回 は,主 に[動 作 → 変 化]性. の複 合 動 詞 を 中心 に論 じて き た が,[動 作]性. と[状 態]. 性 の複 合 動 詞 に関 す る検 討 につ い て は,か な り不 十 分 な と ころ が あ る と思 わ れ る。 そ れ ら を も含 めて,ほ 詞 と 「V+V」. か に,複 合 動 詞 の 自他 対 応 に お け る形 態 上 や語 義 上 の 問題,ま た は複 合 動 タ イ プの 複 合 名 詞 と の比 較 な ど の 問題 は今 後 の課 題 と したい。. 注 (1)自. 動 詞 は,そ. の 前 に 来 る動 作 主 に は意 志性 ・行 為 性 の 有 無 によ って,そ. の 自動 詞 の表 す文 法 的. な 性 格 が 相 違 す る。 詳 し くは そ の次 の 自動 詞 の運 動 に関 す る記 述 を 参 照 され た い。 (2)石. 井 氏(1983)が. 「一 て い る」 と い うア ス ペ ク トの概 念 に も関 わ って動 詞 のい わ ゆ る 《動 作 》 ・. 《変 化 》 と い っ た文 法 的 な意 味 の共 通 性 を捉 え る,と い う考 え は,少 実 は,こ の 第2節. し複 雑 す ぎ る と思 わ れ る。. で論 述 した 通 り,日 本 語 の絶 対 ・相 対 自他 動 詞 の概 念,即 ち いわ ゆ る 「動 詞 の. 自他 」と い うカ テ ゴ リー に だ け お い て も動 詞 の文 法 的 な性 格 を客 観 的 に捉 え られ た。故 に,よ り 有 効 で 単 純 明瞭 な観 点 の 下 に複 合動 詞 に っ い て の分 析 を進 め る た め,本 稿 で は 「「 て い る」 とい う形 が 表 す ア ス ペ ク トの 概 念 を 介入 せ ず に,動. 詞 の 自他 とい う カ テ ゴ リー に のみ お いて 動詞 の. 文 法 的 な性 格 を検 討 す る こ とに す る。 この 点 で は,石 井氏(1983)の. 「「 て い る」 とい う ア スペ. ク トの 概 念 を も取 り入 れ た 分 析 と は,ア プ ロ ー チの 些 細 な 相違 が 見 られ る。 (3)「. 度 数 と は,そ の 構 成 要 素 が い くつ の複 合 動 詞 の構 成 に参 加 して い るか を表 す 数 値 で あ る。」, 「前 接 率 ・後接 率 と は,前. 項 要 素 及 び後 項 要 素 と して の 出現 度 数 の百 分 率 と して 表 した も ので. あ る。」,「前 接 率 順 構 成 要 素 表」 と い うの は,「 全 体 の 度数10以 率 順 配 列 」。(『複 合 動 詞 資 料 集 』3頁 (4)こ. の 調 査 の結 果 は石 井(1983)と. (5)括. 孤 に書 いて あ るの は,左. 上 の要 素 につ いて の全 体 の 前 接. 参 照). ほ ぼ一 致 して い る。. 側 に 挙 げ た複 合 動 詞 にお け る構 成要 素 の 自他性 の構 成 で あ る。 以 下. も同 様 。 (6)例. え ば,⑳. 「節 子 が(彼 が 来 な い の で)待 ち くた び れ る」 と い う複 合 動 詞 文 に お い て は,そ の前. 項 動 詞 「待 ち一 」 に本 来 支 配 さ れ る と思 わ れ る 「彼 」 とい っ た 目 的 格 が複 合 動 詞文 に は 出 て こな い こ と。 ま た,⑳. 「子 供 が 石 に蹴 つ まず く」 の 「石 に」や ⑳ 「彼女 が 彼 の顔 に見 飽 き る」 の 「彼. の 顔 に」 な どの よ う に,他. 動 詞 の 前 項 動 詞 の 元 々 支 配 す る目 的 格 の ヲ格 成 分 が 複 合 動 詞文 に お. い て は二 格 成 分 に変 わ る こ と。 (7>石. 井 氏(1983b)は. 「取 り払 う」 「取 り除 く」 な ど に つ いて,そ. の後 項 動 詞(例 え ば 「払 う」)を,. 受 身 の観 点(「 払 われ る」 「取 り除 か れ る」)で 運 動 の 〈変 化 〉 と い う側 面 と して捉 え,複 合動 詞 全 体 の運 動 を他 動 的 な タ イ プ の[動 作 → 変 化]性 詞 の 臼 他対 応 の レベ ル に 限 って検 討 す れ ば,前. と も考 え られ る,と 言 って い る。 と ころ が,動 述 した如 く,「 取 り払 う」 な どの 後 項 動 詞 た る. 「払 う」な どが,他 動 詞 の運 動 に お いて 動 作 主 の 〈動 作 〉に の み 焦 点 を 当 て,動 作 の 対 象 に もた らす 〈状 態 変 化 〉 に つ い て は無 関心 な もの で あ る。 従 って,「 取 り払 う」「取 り除 く」な どは や は り[動 作]性. の複 合 動 詞 と して扱 うほ うが適 当 で あ ろ う。石 井 氏 の 「受 身 」と い う カ テ ゴ リー も. 絡 ん で く る考 え はか え っ て複 雑 に な り,複 め,こ (8)石. 合 動 詞 の構 造 を 把 握 す るの に曖 昧 な 恐 れ が あ るた. こで はそ の 受 身 を も採 り入 れ た考 え を取 り上 げ な い よ う にす る 。. 井 正 彦(!983b)四. 五(42)頁. 。 一47一 目.

(13) (9)確. か に,語 彙 的 意 味 か ら考 え る と,[乗 り入 れ る]「持 ち 帰 る」 な ど は石 井 氏 の 「2‑3主. 体の. く 状 態 〉 の もとで の 《動 作 》 ・ 《変 化 》」 と い う分 類 に 入 れ ら れ る が,今 回 は動 詞 の 文法 的 な性 格 の レベ ル に限 定 して 分 析 を 行 う とい うわ け で,個 一 応 問 題 外 にす る 。. 別 の特 殊 な語 彙 的 意 味 の レベ ルで の考 慮 を. 参考 文 献 寺村. 秀 夫(1987)「. 第5章 味1』(く. 長嶋. 善 郎(1976)「. 確 言 の 文4動. 的 事 象 の諸 相 一 ア ス ペ ク ト」 『日本 語 の シ ンタ ク ス と意. ろ しお 出版). 複 合 動 詞 の構 造 」 「日本 語 講 座 第 四巻. 日本 語 の語 彙 と表 現 』(大 修 館 書 店). 奥津 敬 一 郎(1967)「. 自動 化 ・他 動 化 及 び両 極 転 形 一 自 ・他 動詞 の 対 応 「 」 『国 語 学70』. 西尾. 寅 弥(1988)「. 第三部. 石井. 正 彦(1983)「. 現 代 語 複 合 動 詞 の語構 造分 析 に お け る一 観 点 」 「日本 語 学1983年8月. 自動 詞 と他 動 詞 の 対 応 」 「現 代 語 彙 の研 究 』(明 治 書 院) 号』(明 治. 書 院) 石井. 正 彦(1983b)「. 石井. 正 彦 ・林翠 芳(1987)「. 現 代語 複 合 動 詞 の語 構 造 分 析 「 《動 作 》・《変 化 》の 観 点 か ら「 」 『国 語 学 研 究23』. 宮島. 達 夫(1989)「 動詞 の意 味範 囲 の 日 中比 較 」「言 語 学 研 究 会 の 論 文 集 ・その2こ. 複 合 動 詞 資 料 集 』(特 定 研 究 「言 語 デ ー タの 収集 と処 理 の研 究」). (む ぎ書 房). 一46‑ ∈∋. とば の 科 学2』.

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