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膵形成はPdx1陽性原始腸管からPdx1/Ptfla共陽性内胚葉上皮細胞が発芽し,腹側・背側膵原基が形成され ることに始まる.その後,さまざまな転写因子群が織りなすネットワークや誘導シグナルの働きにより各フェー ズにおいて,前駆細胞の増殖と細胞分化の調節が繰り返され,最終的に膵臓という一個の複雑な臓器を作り上 げる.現在は,その大まかな設計図が明らかにされた段階といえよう.また,胎生期膵発生機構の解明に用い られた実験手法やコンセプトを成体マウスに応用することにより,成体組織における特定の分子の機能や組織 の恒常性維持機構の解明が進められており,その先には,成体膵の機能や病態,組織障害後の再生に関するメ カニズムの解明とその臨床応用に結びつくことが期待される.はじめに
膵発生に関する基礎研究は,器官形成を研究するひと つのモデルシステムとして多くの研究者を魅了してきたとと もに,糖尿病や癌などの病気の成因や治療に関する新知 見をもたらしうる点で,臨床医学の面からもきわめて重要 な研究課題といえる.一方,糖尿病は膵β細胞からのイ ンスリン分泌が絶対的あるいは相対的に低下することによ り,血糖値の恒常性が維持できなくなる疾患である.糖 尿病において認められるインスリン分泌の低下は,膵β細 胞機能の質の低下とともに,膵β細胞容積量の低下にも 規定されると考えられる.よって,糖尿病の根治を可能 にするためには,失われた膵β細胞機能,β細胞量を補 正することが必要となる.現在,iPS 細胞や組織幹細胞 などの非β細胞を標的として,分化誘導により代替β細 胞を生み出す再生医療が注目されているが,その背景に は発生生物学の進歩を基盤とした膵β細胞の発生・分化 の仕組みの理解が近年著しく進んだことがある.本稿で は膵発生のメカニズムについてその概要を紹介する. 糖尿病領域における再生医療の現状と展望 特 集膵芽の発生
マウスにおいて,膵原器形成は胎生9.5日(E9.5)頃に, 前腸の背側に内胚葉上皮細胞が外重積(evagination)す ることにより始まる.やや遅れて,胎生 10.0 日頃には前 腸の腹側にも背側膵と総胆管の原器となる腹側膵芽の出 現を認める.この時期には evagination が明確になるに 先立って Pdx1 の発現が認められることより,Pdx1 の活 性化が膵への分化への第一歩として重要と考えられる. 実際Pdx1欠損マウスではevaginationは認められるものの, その後の膵芽の発育が途絶し結果として肉眼的に膵は欠 損する1).このことは Pdx1 の機能はもっとも未熟な膵前 駆細胞の増殖・分化に必須であることを意味する.しか しながら,Pdx1は将来膵の上皮細胞になる予定領域のみ ならず,十二指腸の近位部,胃の幽門前庭部,肝外総胆 管の予定領域にも発現を認める.Pdx1 発現領域をさら に限定的に膵臓に分化させているのが転写因子Ptf1aであ る.Amylaseの転写活性化に関わることから当初,膵外 分泌に特異的に発現すると考えられたPtf1aであるが,そ膵
発生の分子機構
藤谷与士夫
順天堂大学大学院 医学研究科 代謝内分泌内科学Cre off Cre on Ptf1a
Cre/+;Rosa26r
Rosa26r STOP Lac Z loxP loxP
Lac Z loxP
Cre recombinase
図1 Ptf1acre/wt;Rosa26rを用いたgenetic lineage tracingの仕組み(文献26改変)
Ptf1a を発現した細胞では,Rosa26r locus において Cre recombinase による組み替えにより LacZ が発現し,それが子孫細胞に受け継がれるため,Ptf1a を発現 した細胞とその子孫細胞の全てを LacZ で標識して,その運命を解析することが可能である.
A B C D
図2 Ptf1acreを用いたgenetic lineage tracingの成績(文献2改変)
A,B:Ptf1a-cre R26R wildtype control.C,D:Ptf1aCre/Cre R26R,Ptf1a homozygous null mutant.Ptf1a 機能が正常であると Ptf1a を活性化した細胞は膵
臓のすべての組織に分化する(A,B).一方,Ptf1a 機能が欠失した状態では,本来膵臓に分化する予定の細胞は,十二指腸の細胞として分化する. A,C:ventral view,C,D:dorsal view.図の矢印は腹側膵芽由来の膵遺残物を示す.
膵芽の発生を調節する因子
マウス胎生9.5日頃には膵原基が位置する前腸は三つの 血管(背側で1つの動脈,腹側で2つの静脈)と接するよう になるが,その位置にPdx1の発現,膵芽の形成およびイ ンスリン遺伝子の発現を認めることを Lammert らは報告 している3).アフリカツメガエルの系で血管を除去しておくと, それに接する膵原基におけるインスリン発現が消失するこ となどから,血管内皮由来のなんらかのシグナルが膵臓の 誘導に関与することを強く示唆する3).Zaretらは血管内 皮細胞を欠失するflk1(VEGF受容体)欠損マウスを用い た解析により,前腸の背側に位置する動脈が背側膵芽の 維持と発育に重要であることを報告した.興味深いこと に,背側膵芽の Pdx1 陽性細胞の最初の誘導には血管内 の後,膵のすべての細胞分化に関与することが明らかと なった.すなわち,KawaguchiらのPtf1a-Creノックイン マウスを用いた genetic lineage tracing(細胞系譜追跡 実験)( 図1 )によると,前腸内胚葉領域ではPtf1aは胎 生 10.5 日においてふたつの膵芽においてのみ発現を認め, Ptf1a 遺伝子を活性化した細胞はその後,外分泌,内分 泌そして導管細胞を含む膵上皮由来のすべての細胞系譜 へと分化することが明らかにされた( 図2 ).また,Ptf1a 遺伝子を活性化して膵細胞に分化する予定であった細胞 集団は,Ptf1a を不活性化すると十二指腸の crypt を含 むすべての種類の細胞に分化した(図2).以上の結果から, Pdx1 発現領域に Ptf1a が発現することが,十二指腸の未 分化幹細胞が膵の前駆細胞としての運命を獲得する上で 重要であると考えられる( 図3 -A)2).A Pdx1 Ptf1a Hlxb9/Mnx1 血管内皮 背側膵の前駆細胞の 増殖・分化 B 前腸内胚葉 Pdx1− Pdx1+ Pdx1+ Ptf1a− Ptf1a+ 十二指腸前駆細胞 膵前駆細胞 肝前駆細胞 Ptf1a 外分泌前駆細胞 内分泌前駆細胞 図3 未分化内胚葉上皮の分化におけるPdx1とPtf1aの役割 A:未分化内胚葉上皮において,Pdx1 発現領域のうち,Ptf1a を発現した細胞が膵としての運命を獲得する. B:Hlxb9 欠損マウスでは背側膵における Pdx1 の発現は完全に消失することから,Pdx1 の上流に Hlxb9 が存在することがわかる.血管内皮由来のなんらかの シグナルが背側膵における Ptf1a の誘導に関与する.Ptf1a と Pdx1 は相互に活性化しあうことにより.膵前駆細胞の増殖・分化を協調的に誘導する. 皮からのシグナルは不要であり,その後の Pdx1 発現の維 持に血管由来シグナルが必須であることを見出している. そしてその血管由来シグナルのターゲットになっているのが 背側膵芽における Ptf1a の発現誘導であるという4).これ は,背側膵芽発生におけるPtf1aの上流のシグナルの少な くとも一部が血管由来であることを提示するとともに,膵 芽における Ptf1a の Pdx1 発現維持における重要性を初め て示唆した重要な研究である.なお,Hlxb9/Mnx1 欠損 マウスにおいて背側膵芽は欠失しており,背側膵芽が形成 される予定であった内胚葉上皮細胞では Pdx1 の発現は 消失する5).このことは,背側膵芽形成にいたる転写因子 ヒエラルキーの中ではPdx1の上流にHlxb9/Mnx1が位置 することを意味する(図3-B).
膵芽の発生における転写調節
その後,図 3-Bに示すような Ptf1a-Pdx1 axis を支持 する知見が相次いで報告された.すなわち,膵芽期(E9.5 〜 11.0)にPtf1aがArea Ⅲとよばれる領域を介してPdx1 プロモーターに結合し,その結合が,Pdx1 を膵芽全体 に発現させるうえで重要であるという(図 3).従来より, Pdx1の発現調節機構に関しては膵発生にかかわる因子の なかでも比較的解析が進んでおり,その中心的役割を演 じるcis-elementとして約1kbにわたるArea Ⅰ-Ⅱ-Ⅲと よばれる,種をこえて保存された領域が同定されていた ( 図4 )6).我々は Area Ⅰ - Ⅱ - Ⅲを欠損する変異マウス を作製し,その膵器官形成,膵ラ氏島分化および血糖応 答維持における重要性をin vivoにおいて明らかにした7). この領域の前半2/3をカバーする,Area Ⅰ-ⅡにLacZを 連結させたレポーター遺伝子を用いて transgenic mouse を作製すると,膵内分泌細胞においてのみLacZの発現を 誘導することが可能であることより,Area Ⅰ - Ⅱ領域は 内分泌細胞に特異的に発現を誘導するために重要な cis-elementであることが示された8).Gannon,Miyatsukaらは,Area Ⅲ内にPtf1a結合モチーフが存在すること,in vivo の条件において Ptf1a がこのモチーフを介して Pdx1 発現 調節領域に結合し,この Area Ⅲ依存的に Pdx1 遺伝子 の活性化にあずかることを示した9, 10).また,これと附合
するように,Area I- Ⅱ -LacZ の transgene では膵芽期の Pdx1 発現パターンを再現できないが,これに Area Ⅲを 加えた Area Ⅰ - Ⅱ - Ⅲ -LacZ では膵芽期において,内因 性の Pdx1 発現パターンと同様,膵芽全体に LacZ の発現 を認めることより,膵芽期に膵芽全体に発現するPtf1aが Area Ⅲへの結合を介して,PDX1の膵芽全体における発 現の維持に関与している可能性が示唆された(図3-B)9).
膵芽形成における
Ptf1aとPdx1の協調作用
さらに,Pdx1 プロモーター上の Ptf1a 結合部位を含む Area Ⅰ-Ⅱ-Ⅲを完全欠損させたマウスにおいては,膵芽A マウス Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ +1 −7 kb ATG ヒト Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ +1 −9 kb ATG ニワトリ Ⅳ Ⅰ Ⅲ +1 −3 kb ATG ラット Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ +1 −7 kb ATG B
AreaⅣ AreaⅠ AreaⅡ AreaⅢ
? FOXA1 FOXA2 PDX1 NKX2.2 HNF 1α/βHNF PDX1 FOXA2 NKX2.2 HNF6 MAFA PAX6 FOXA2 HNF6 6 BstEⅡ −1.9 kb PstⅠ −2.9 kb XbaⅠ −4.6 kb 図4 Pdx遺伝子5*上流域に保存されたエ ンハンサー様配列(文献27改変) A:Pdx1 の調節領域には,種を超えて高度に 保存された配列 Area Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ & Ⅳが存在し, 膵発生から成体膵臓の機能維持までの Pdx1 のダイナミックな発現制御に関わるものと推 定される. B:Pdx1 の保存配列に結合が報告されている 転写因子群を示す. 期における Pdx1 の発現量は顕著に低下し,それと同時 に背側膵芽における Ptf1a の発現量は顕著に低下し,腹 側膵芽におけるPtf1aの発現は消失した7).これらの事実 は,Pdx1とPtf1aが膵芽期においては相互に活性化しあい, 未分化前腸内胚葉からの膵細胞への運命獲得とその後の 膵前駆細胞のpopulation拡大に強調的に関与している可 能性を示唆している(図3-B).実際これを支持する成績 として,膵器官形成前のPdx1発現領域においてPtf1aを 強制発現させることによりPtf1a発現領域を拡大させると, Pdx1 陽性の未分化な内胚葉上皮の大部分が膵の運命を 獲得することにより,通常より大きな膵臓が形成される ことが Xenopus の系において示された11).さらに最近, Wrightらは胎生9.5日にSox17陽性未分化内胚葉上皮に Ptf1a を一過性に発現させると,本来 Pdx1 の発現しない 領域において内因性の Pdx1 発現を誘導することにより, 胃前庭部,十二指腸近位部および肝外胆管を含む Pdx1 発現領域の外側に位置する内胚葉上皮を,外分泌と内分 泌細胞のすべてを含む膵臓の組織にリプログラミングでき ることを示した12).しかしながら,胎生 12.5 日に一過性 のPtf1aを発現させた場合には外分泌組織のみを誘導しえ た.この実験結果は未分化内胚葉上皮が膵の運命を獲得 する上でPtf1aがPdx1より決定権があること,またPtf1a に反応する未分化内胚葉上皮のcompetencyが空間的時 間的に調節されていることを意味している.
膵外分泌細胞と内分泌細胞の
specification
胎生 12 日頃には膵の未分化上皮組織は,大きくわけ て,先端に近い“tip”と根本に近い“trunk”の2つに領域 化される( 図5 ・ 図6 )13).Tipの領域は最初は多分化 能を有する CPA1 陽性の未分化細胞集団(multipotent progenitor cells;MPC)によって形成される.胎生12.5 日までに膵原器に形成されるMPCの量により膵臓の最終 的なサイズが規定されるとされ14),その前駆細胞の未分 化状態を維持するうえでnotchシグナルの活性化が重要と 考えられている15).Tip 領域の MPC としての活性は 1 日 程度の間に速やかに消失し,胎生 14.5 日までには tip 領 域は外分泌細胞の前駆細胞集団(Pro-acinar)として変貌E9.5
E11
E11.5 E12
E11 E12.5 E14.5
成熟膵組織
T
R
UNK T IP
E9 Trunk Tip MPC Proacinar time 図5 未分化内胚葉上皮からの膵組織の分化のプロセス(文献28改変) PP δ α β EMT? Ngn3HI Ngn3LO 非対称性分裂? 2°MPC Time Acinar Trunk Tip Islet 図6 胎生期 12 日以降の 未分化膵上皮の tip-trunk 領域化(文献28改変)Acinar Duct ε δ PP α 1°MPC 2°MPC (Tip) Bipotent progenitor (trunk) Endocrine progenitor Endocrine precursor Immature β β Ptf1a>HI GATA4 Mist1 Nr5a2 HNF6 HNF1β Sox9 Foxa2 -Pax4 -Nkx2.2 Pdx1 Arx Arx MafB Brn4 Mnx1 Pdx1 Ptf1a>LO Sox9 Nkx6.1 HNF1β HNF6 Foxa2 GATA4 GATA6 Pdx1>LO Ptf1a>LO Sox9>LO Nkx6.1 HNF1β>LO GATA4 Nr5a2 Pdx1>LO Sox9>HI Nkx6.1 HNF1β>HI HNF6 Foxa2 GATA6 Ngn3>HI Myt1 Islet1 NeuroD Snail2 Mnx1 Myt1 Islet1 NeuroD IA1 Rfx6 Pax6 Nkx6.1 Nkx2.2 Snail2 Pdx1>HI Mnx1 Nkx6.1 NeuroD Nkx2.2 MafB MafA Pax4 Snail2>LO Pdx1>HI Mnx1 Nkx6.1 NeuroD Nkx2.2 MafA Pax4 Foxa1 Foxa2 Ac Nr5a2 図7 膵芽に存在するMPC(multipotent progenitor cells)からβ細胞への分化経路と関 与する転写因子群(文献28改変) をとげる13)(図 5・図 6).一方,trunk 領域の上皮細胞 は導管と内分泌細胞のいずれにも分化可能な bipotency を有する細胞集団を形成する16).Trunk 領域の上皮細 胞は,やがてその一部の細胞がNgn3(neurogenin 3)を 高発現し,内分泌前駆細胞へと運命づけられる.内分泌 前駆細胞は2nd transitionの間にtrunkのtube構造から EMT(epithelial-mesenchymal transition)を起こして 離脱(delamination)し,引き続いて細胞集塊を作ること により膵島構造が形成される.Ngn3 を欠損したマウスで は膵内分泌細胞が欠損すること,Ngn3 を発現した細胞 をlineage tracing解析を行うとその後内分泌細胞に分化 することより,内分泌細胞分化においてNgn3が中心的役 割を果たすことがわかる17, 18).Trunkのtube構造にとどまっ た残りの HNF1b+Sox9+Nkx6.1+細胞は導管細胞へと分 化してゆく.このtip-trunk領域の形成および二極化には Ptf1a と Nkx6.1 の働きが重要とされる.すなわち,Ptf1a は tip の形成に必要であり,Nkx6.1 は trunk の形成に必 要であるが,Ptf1aとNkx6.1は互いに抑制しあうことによ り,tip-trunkの細胞系譜プログラムを維持していることが 明らかとなっている(図6)19). Ngn3 陽性細胞は trunk 構造から離脱した後,成熟 内分泌細胞すなわちα,β,δそして PP(pancreatic polypeptide)細胞へと分化してゆく.内分泌前駆細胞が 最終的にこれらの内分泌細胞のいずれに分化してゆくかに ついては 図7 に示す多くの転写因子群の相互作用によっ て決定されることが明らかとなってきているが,その詳細 については紙面の制約上,他の総説に委ねることとする. Ngn3陽性細胞がどの時点で最終的にいずれの内分泌細胞 に分化するのかが決定されるのか,またその選択メカニズ ムについては現在でもよく分かっていない.
内分泌,外分泌細胞の維持機構と
リプログラミング
以前より膵管近位部に新生途上と思われるラ氏島構造 が認められることや,膵より単離した膵管様の細胞を培養 するとインスリン産生細胞への分化が誘導されることなど が多数報告されており,膵管そのもの,あるいは膵管近位 部にβ細胞の供給源となりうる幹細胞が存在すると考え る研究者は多かった.こうしたなかで,Meltonらのグルー プは lineage-tracing を応用した実験により,マウス成体 の膵島におけるβ細胞数の増加は膵幹細胞からの分化で はなく,すでに存在する膵β細胞の自己複製によって起 こることを提唱した20)( 図8 ).この報告はその後のいく つかの解析によって検証され,現在では成体マウスの少なAcinar-to-β cell transdifferentiation ↑Pdx1 ↑Ngn3 ↑MafA Acini Duct PDL,STZ Neogenesis Islet β-cell self-replication α-to-β cell reprogramming α-cell β-cell 図8 膵組織はさまざまな条件下において可塑性を示す(文献 28 改変) くとも定常状態においては膵β細胞は自己複製により補充 されていることが主たるメカニズムであると考えられつつある. ただし,遺伝子導入や膵管結紮やSTZなどの薬剤投与時 といった特殊な状況下においては,膵管や外分泌組織から のリプログラミングがおこりうることが報告されている.例えば, 成体マウスの膵外分泌細胞にPdx1,Ngn3,Maf-Aをアデ ノウイルスベクターを用いて異所性に共発現させると,外 分泌組織からβ細胞へのリプログラミングが誘導される21). また,ジフテリア毒素を用いて,ジフテリア毒素受容体を あらかじめ発現させた膵β細胞を速やかに死滅させると, α細胞を起源としてβ細胞へのリプログラミングが誘導さ れ,マウスの血糖が正常域に回復することが報告されてお り22),これらの成績は患者由来の非β細胞をターゲットと したβ細胞再生治療の可能性を示唆する(図8).
膵β細胞のidentity維持と脱分化
糖尿病状態における膵β細胞量および機能の低下の 背景として,β細胞の細胞死や増殖能の低下に加えて, β細胞の未分化細胞への脱分化現象の関与が最近注目 されている( 図9 )23).Accili らは,膵β細胞特異的に FoxO1 を欠損させたマウスを複数回出産させたり,加齢 させたりというメタボリックストレスを与えると高血糖が誘 導されるが,この際にβ細胞数が減少し,α細胞数が増 加することを観察した24).彼らはこの際にβ細胞数が減 少する原因を lineage tracing を用いて探索したところ, β細胞死が増えているのではなく,β細胞の多くがインス リンを発現しなくなった細胞に変化していることがβ細胞 数の減少に寄与していることを見出した.このインスリン を発現しなくなった元β細胞は Ngn3 を高発現し,多分 化能を有する細胞に特徴的な L-Myc,Oct-4 を発現する ことから,脱顆粒したβ細胞というよりは,未分化な内 分泌前駆細胞である可能性が強く示唆された.Lineage tracing の結果からは,β細胞は一旦未分化な細胞に脱 分化したのちに,α,δ,PPを含む分化した膵島細胞へ と再分化するという25)(図9).また,Remediらのグルー プはATP結合能のない,変異K感受性ATPチャネル(変 異KATPチャネル)を過剰発現させたマウスは,血糖値が 上昇するに伴い,膵β細胞数が激減し,残存するインス リン陰性の細胞の多くが Ngn3 を高発現する細胞である ことを観察した25).興味深いことに,このモデルにおいては, インスリン治療により血糖値を改善させると,一旦脱分化 したNgn3陽性細胞をインスリン陽性細胞へと再分化させ ることができることが報告されている.これらの結果より, 糖尿病の高血糖状態ではβ細胞は脱分化することにより, 機能と量が低下している可能性がある.おわりに
紹介したように,遺伝子工学を駆使した発生生物学的生理的状態 正常β細胞 負荷のかかったβ細胞 病的状態(新しい説) 病的状態(新しい説) 脱分化細胞 非β細胞へ再分化 病的状態(これまでの説) 機能異常のβ細胞 細胞死 図9 膵β細胞数減少のメカニズム(文献23改変) これまでは,細胞内酸化ストレスやERストレスの増加を介して,β細胞死を誘導し細胞数が減少していくことが2型糖尿病のβ細胞数低下の主要なメカ二ズムと考 えられた.新しい説では,膵β細胞は代謝ストレスにより内分泌前駆細胞へと先祖帰りし,その細胞が再分化するが,主にはα細胞になることがその病態に重要という. Profile 藤谷与士夫(ふじたに よしお) 1991 年 大阪大学 医学部 卒業 2000 年 バンダービルト大学 医学部 細胞生物学部門 博士研究員 2006 年 順天堂大学大学院 代謝内分泌学 講師 2007 年 同 准教授,現在に至る 解析により膵器官形成に関する分子レベルでの理解が進 んだ.多機能幹細胞による膵再生に向けては,発生現象 を培養皿の上で再現することが最終的にはもっとも信頼 性のある方向性と考えられる.では,どのようにして発生 現象の詳細を再現してゆくのか,また臓器を構築したの ちにいかに機能を維持してゆくのかといった諸問題を今後 明らかにする必要がある. 文献
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