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これは何だろう 野菜かな 目の前の環境に適応した結果 どうやって使うんだっけ 物事が分かりづらくなったことで募る焦りや不安などのストレスが もういやっ!! 異食 という BPSD につながる 認知症の進行につながる 認知症ケア最前線 Vol

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Academic year: 2021

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認知症の人にとっての環境とは

~安心につながるケアの工夫~

株式会社 きらめき介護塾 代表取締役

 渡辺 哲弘

これまでの振り返り

∼「認知症」と「人」2つの視点で考える∼

皆さんこんにちは、渡辺 哲弘です。環境設定につ いての連載も今回が最終回です。よろしくお願いい たします。 まずは第1回∼第4回を簡単に振り返りましょう。 第1回は、認知症の当事者であるクリスティーン・ ブライデン氏の「介護者にとっての問題行動は、認 知症の人にとっては適応行動である」「私たち(認 知症の人)は環境に適応しようとしている。ところ がその環境は周り(認知症ではない皆さん)が作り だしたものである」という興味深い言葉を基に、認 知症の人の行動について考えました。 第2回は、私たちが過去に問題行動と呼んでいた BPSD(行動・心理症状)が、なぜ出現するのかを 考えました。アルツハイマー型認知症の主症状であ る「記憶障害」によって物事が分かりづらくなる中 で、目の前の環境に適応しようと自分なりに考えて 導き出した答えが「失語」「失認」「失行」「実行機 能障害」であり、これが原因となってさまざまな BPSD が出現しているというメカニズムを理解する ことの大切さをお伝えしました。 第3回は「環境を整えることの意義」というテー マで、認知症の人に対して私たち介護者が適切でな い対応をとったときに、相手が感じる「焦り」や「不 安」に焦点を当て、「認知症の人を焦らせたり、不 安にさせたらだめなのは当たり前」ではなく、「な ぜだめなのか」という根拠を考えました。   そして焦りや不安が、①認知症の進行に少なから ず関係している可能性が高いこと ② BPSD を引き 起こすきっかけになっていることが分かりました。 私たちが目指すべきケアは、出現した BPSD を なくすようにかかわるのではなく、認知症の人が焦 りや不安を感じることを減らし、安心できるケアを 提供することで、BPSD が出現しないようにかかわ ることが大切だとお伝えしました。

(2)

BPSD

は認知症の人にとっての適応行動である

今回も、事例を通して認知症の人の心や行動を理 解することを学びますが、その前に私たち専門職の 役割について考えたいと思います。 介護福祉士法の第2条2には以下のように書かれ ています。 この法律において「介護福祉士」とは、専門的知 識及び技術をもって身体上又は精神上の障害がある ことにより日常生活を営むのに支障があるものにつ き心身の状況に応じた介護を行い、並びにその者及 びその介護者に関する指導を行うことを業とする者 をいう (社会福祉士及び介護福祉士法より一部抜粋) この中で大事にしたいのは最後の部分、「その介 護者に関する指導を行うことを業とする者をいう」 です。この文面から分かるように、私たち介護の専 門職は、自分が理解しているだけでは専門職とは言 えないのです。認知症について理解が乏しいご家族 に対して、認知症の人の言動の理由を説明し、アド バイスができて初めて専門職と言えるのです。 そこで、さまざまな事例を基に、ご家族にどのよ うに説明するかを考えながら、共に学んでいきま しょう。 どうやって 使うんだっけ… もういやっ !! 物事が分かりづらくなっ たことで募る焦りや不安 などのストレスが… 認知症の進行につながる 目の前の環境に 適応した結果… 「異食」という BPSD につながる 「異食」という BPSD につながる これは何だろう? 野菜かな… 忘れていること・覚えていることは人によって異なり、誤った認識によってBPSDととらえられる 行動をしてしまう。また、分からないことに対する焦りや不安が認知症の進行につながる 第4回は、認知症の人の安心につながるケアの工 夫について、いくつかの事例を基に考えました。ア ルツハイマー型認知症の人は、記憶障害が進行する と覚えていたことを忘れてしまいます。しかし、ど んな記憶が消えるかは自分では選べないため、その 人の覚えていることを探し、できる力を見つけ、活 き活きとした生活を送れるように支援するため、「認 知症(疾患)」と「人」という2つの視点で考え、 認知症の人の安心につながるようなケアの工夫が大 切であるとお話ししました。

(3)

チューリップのつぼみを全部取ってしまった

A

さん

Aさん(女性・アルツハイマー型認知症)の事例 Aさんは、自宅で息子さん夫婦と同居しています。A さん 宅では、お嫁さんが小さな畑で家庭菜園を楽しんでいました。 そして畑の片隅には、チューリップが10本ほど植えてあり ました。 チューリップのつぼみが膨らみ、「そろそろ花が開くか なぁ∼」と楽しみにしていたある日、お嫁さんが買い物から 帰ってきたら、何とすべてのつぼみがなくなっていたのです。 摘み取られたつぼみは、玄関の靴箱の上に10個まとめて転 がっていました。 怒ったお嫁さんは A さんを呼び、葉っぱと茎だけになっ たチューリップを指さして「お母さん、花が咲くのをみんな 楽しみにしていたのに、どうしてこんなことするの !?」と言いました。しかし A さんは、「わしはそんなん知ら んわ」と、逆に機嫌が悪くなる始末で、お互いのイライラだけが募っていきました。 さぁ、専門職であるあなたは、A さんの行動を どのようにお嫁さんに説明するでしょうか。ポイン トは、今までの連載でお話ししてきたように、認知 症の人は「何も分からなくなっている人」ではなく、 「分かっていることがたくさんある人」という視点 です。A さんは一体何が分からなくなって、何が 分かっているのでしょうか? 大切な情報 関心のある情報 無駄な情報 記 憶 障 害 老化すると覚えるのに 手間がかかる 認知症が進 行 すると、 覚えていたことを 忘れてしまう 認知症になると 覚えられない 若いとき イソギンチャク=記憶の貯蔵庫(海馬) お母さん、 どうして!? 知らんわ!

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では、こんなふうに考えてみましょう。畑に植え られたつぼみを見て、A さんは「これって何だろ う?」と考えました。ところが記憶障害が進行して おり、覚えていたチューリップのつぼみを忘れてし まっていたため、目の前の物が何なのか分かりませ ん。それでも、目の前にあるから一生懸命考え、環 境に適応しようとするわけです(認知症ケア最前線 vol.39参照)。 A さんが適応しようとした環境とは、畑に生え ている緑色の葉っぱと茎の上に付いた「赤くて丸い 物」。この赤くて丸い物(つぼみ)を見た A さんは、 一体これを何だと思ったのでしょうか? 「イチゴか なぁ∼。トマトかなぁ∼」と、誤って認識した可能 性が考えられます。 では、トマトだと誤って認識したとすると、A さんはトマトをどうしたのでしょうか? A さんは 「トマトを収穫した」のです。A さんはつぼみを忘 れてしまっただけで、収穫の仕方は覚えていました。 だから、つぼみの部分だけ上手にとってあるのです。 ここで大事なのは、専門職であるあなたがお嫁さ んに対して、「お母さんはチューリップのつぼみを 忘れてしまって、トマトだと思って収穫したんだと 思いますよ」と説明できるかどうかです。 ただしこれは、「認知症(疾患)」の説明です。こ の説明だけではお嫁さんは「認知症になると困った ことをするんですね…」と思うでしょう。家族の中 で A さんが困った人になってしまい、家族の絆が 切れてしまうことにもなりかねません。家族の絆を つなぎ留めることも、私たちの大事な仕事です。 そのために必要なのは「人」の説明です。A さん はそのときどんなことを考え、どんな気持ちで「つ ぼみを取る」という行為を行ったのかということです。 計画を立てる 記憶 (やり方)(花のつぼみ)記憶 物を見る 行動を起こす 認識する

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後頭葉 後頭葉 頭頂葉 頭頂葉 前頭葉 前頭葉 側頭葉 側頭葉 前 後ろ チ ュ ー リ ッ プ の つ ぼ み を 見 て 、 「これは何だろう?」と考える 「チューリップのつぼみ」のことは忘れているが、野菜の収穫方法は覚えているAさん。 そのため、誤った行動を起こしてしまった 「そうだ!トマトだ」と 誤って認識する トマトを収穫するつもりで、 つぼみを摘み取る

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A さんのお嫁さんは、「どうしてお母さんは私が いるときは何もしないのに、私が留守のときに限っ て余計なことをするんですかね」と話してくれまし た。もう一つのポイントは、「収穫の仕方」以外に A さんが分かっていることは何かということです。 行動から察する限り、A さんは「お嫁さんが働 いていて、毎日忙しくしている」ということは分かっ ているのです。だからお嫁さんがいないときは、「自 分の手伝えそうなことは何かしておこう」と思った のです。 子どものころ、親が家にいるときは何もしないけ ど、親が仕事で遅くなると分かっていたら、「帰っ てくるまでにできることはしておいてあげようか な」と思ったことはないでしょうか。  そう考えると、A さんの行為にはお嫁さんを困 らせる意図はもちろんなく、忙しそうにしているお 嫁さんを思っての行為だと分かります。 専門職であるあなたが「お嫁さん思いの優しいお 母さんですね」と家族に伝えられるかどうかが大事 です。私たち介護の専門職は、「認知症(疾患)」を 理解した上で、「人」を理解するプロにならなけれ ばならないのです。 A さんはアルツハイマー型認知症の特徴である 記憶障害(覚えられない:記名力の障害)があるの で、靴箱の上に転がっているつぼみを見ても、自分 がしたことを思い出すことはできません。しかし、 少なくとも一つひとつのつぼみをとっているあの瞬 間は、「このおいしそうなトマトを家族に食べさせ てあげたい」という気持ちがあったのだと思いませ んか? ブライデン氏はこんな言葉で表現されています。 私たちは今この瞬間を生きているのです 「認知症」と「人」を理解するプロとして、家族の絆をつなぎ留めることも介護職としての大切な役割

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歯ブラシを使って髪をとかす

B

さん

Bさん(女性・アルツハイマー型認知症)の事例 B さんは娘さんと二人暮らしです。ある日、B さんは洗 面台の前で髪をとかしていました。しかしよく見ると、B さんの手には「ブラシ」ではなく「歯ブラシ」が握られて いたのです。 娘さんは少しでも母親の病気を理解しようと、地域で行 われる認知症セミナーに参加し、認知症の人へのかかわり 方のコツを学んできたばかりでした。今までなら「もぅ! お母さん、歯ブラシで何してんのよ!」と声を荒げて言っ てしまうところでしたが、セミナーで“認知症の人に声を 掛けるときは優しく言ってあげましょう”と習ったのを思 い出し、「お母さん、それは歯ブラシでしょ。こっちがブラ シよ」と優しく声を掛けました。 ところが、B さんは一瞬にして表情を強張らせ、「分かっ とるわ! もう言わんとき!」と怒り出してしまったのです。機嫌を損ねた B さんはその後、「もう帰らせて いただきます」と外に出ようとして大変なことになりました。「どうしてこんなに優しく言ってあげているの に怒るのよ」と、娘さんは納得いかない様子でした。 さぁ、専門職のあなたなら、娘さんにどんなアド バイスをしますか? まずは、セミナーで習った通り 優しく声を掛け た のに、どうして B さんが怒り出したのかを考 えてみましょう。 ポイントは、歯ブラシで髪の毛をとかしている B さん自身が、「歯ブラシでといている」と思ってい るかどうかという点です。おそらく B さんは、歯 ブラシをブラシだと誤って認識してしまい、髪をと いていると考えられます。歯ブラシとブラシは似て いますから、間違えても仕方ないですよね。 ブラシで髪の毛をとかしているつもりの B さん に対して、「それは歯ブラシですよ」と否定したら、 いくら優しく言っても怒るに決まっています。皆さ んだって、正しいと思ってやっているのに否定され たら嫌な気持ちになりませんか? では、どのように声を掛けたら B さんは怒らな かったのでしょうか。 唐突ですが、皆さんは歯ブラシで髪の毛をといた ことがありますか? きっとないですよね。だから、 私たちは B さんの気持ちが分からないのです。 歯ブラシとブラシって、よく似ていますよね? もう!歯ブラシで 何してんのよ!

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株式会社 きらめき介護塾 代表取締役 NPO シルバー総合研究所 研究員 認知症介護指導者・社会福祉士 介護福祉士・介護支援専門員 信州大学教育学部を卒業後、滋賀県内の各種介護現場で 17 年間、介護職員・相談員・介護支援専門員・管理 者として勤務。平成 25 年「株式会社 きらめき介護塾」を立ち上げ、現在は各種研修の講師として活動。全 国各地で、年間 250 回の研修・講演を実施。 渡辺 哲弘 実際に歯ブラシで髪の毛をといたら、どんなふう に感じるか想像してみてください。きっと「ときに くいなぁ∼」と思うはずです。ということは、B さ んもこのとき、「ときにくいなぁ∼」と思っている のです。 それでは、どのように声を掛けたらいいのか。 「こっちの方がときやすいですよ」とブラシを渡し てあげればいいのです。 ブライデン氏はこんな言葉で表現しています。 認知症の人から言葉は出てきません。表情などか ら、その人が何を言おうとしているのかくみ取って あげてください 記憶障害が進行し、いろいろなことが分かりにく くなっている不安のさなかにいる人に対して、 優 しく声を掛ける ことはとても大事です。しかし、 「その人の今の思い」を理解してかかわることも同 じくらい大事なことなのです。それをご家族が知ら ないのならば、その大切さを伝えるのは誰でもない、 専門職であるあなた自身なのです。 全5回の連載も今回で最終回となります。環境に は、「物的環境」だけではなく「人的環境」もあり ます。つまり、介護職である私たち自身が認知症の 人を取り巻く環境そのものなのです。今、あなたの 目の前にいる人に、「あなたと出会えてよかったわ」 と思ってもらえるよう、これからも一緒に学んでい きましょう。最後まで読んでいただき、ありがとう ございました。 “認知症の人の思い”を理解することが大切 『認知症ケアの工夫 環境設定編』は、今号で最終回となります。 渡辺先生、長期にわたる連載をありがとうございました。

参照

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