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平成 27 年 2月 24 日印刷 平成 27 年 2 月 24 日発行 ISSN 2185–4092 昭和 60 年 12 月 3 日第 4 種郵便物認可

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目  次

―撓骨遠位端骨折― 橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート固定後の リハビリテーション 森 谷 浩 治・他 567 HEARTYプレートを用いた橈骨遠位端骨折の治療成績 仲 西 知 憲・他 572 掌側ロッキングプレート固定における 背側スクリュー突出の検討 荻 原 弘 晃・他 577 橈骨遠位端骨折に合併した尺骨茎状突起骨折が 治療成績に及ぼす影響 佐 伯 将 臣・他 581 橈骨遠位端骨折後の長母指屈筋腱断裂に対する治療経験 伊 東 直 也・他 585 橈骨遠位端骨折に合併した尺骨遠位端骨折に対する治療成績 ―積極的固定を行わない治療選択に関して― 丹 羽 智 史・他 589 橈骨遠位端新鮮骨折に対する掌側ロッキングプレートと 低出力超音波パルスの併用療法 太 田   剛・他 593 橈骨遠位端骨折に合併する舟状月状骨不安定症の短期成績 ―若年者群と高齢者群における検討― 鈴 木 大 介・他 596 APTUS®2.5ロッキングスクリューにおける トルクドライバーの有用性 斉 藤 憲 太・他 600 Polyaxial locking plateを用いた橈骨遠位端骨折治療例の

遠位骨片へのスクリュー固定本数の違いにおける固定性の検討 ―2nd row の意義― 森 田 晃 造・他 604 橈骨遠位端粉砕骨折に対するプレート固定時, 伸筋腱第 3 コンパートメントを部分開放し EPLを直視下に確認した症例の検討 山 本 康 弘・他 608 掌側 Barton 骨折の CT による検討 阿 部 真 悟・他 611 ―小児骨折― 小児橈骨遠位端骨折及び遠位 1/3 骨幹部骨折の手術治療 倉   明 彦・他 614

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小児前腕骨骨幹部骨折に対する経皮的髄内釘固定の治療成績 ―前腕可動域と単純 X 線評価に関する検討― 浅 野 研 一・他 619 小児の新鮮前腕骨骨折に対する 低出力パルス超音波治療(LIPUS)の治療成績 新 関 祐 美・他 623 ―外傷― 外傷性舟状月状骨解離に対する靭帯再建術の成績 村 田 景 一・他 626 切断指再接着後に血行再建を必要とした再手術例の検討 「自由投稿論文」 清 水 和 輝・他 630 末節部の外傷性皮膚軟部組織欠損に対し 腹部皮弁を適用した症例の検討 荒 田   順・他 633 遊離前外側大腿皮弁による重度手外傷再建例の検討 島 田 賢 一・他 636 手部デグロービング損傷の皮弁術施行時期の検討 「自由投稿論文」 辻   英 樹・他 642 重度手部開放骨折の治療成績 谷 川 暢 之・他 647 手指小骨折の固定に suture anchor を用いた tension band wiring 法

―アンカーテンションバンド法― 河 合 生 馬・他 650 第 1 中手骨基部骨折に対する ロッキングプレートによる治療の検討 向 田 雅 司・他 656 中手骨頚部骨折に対する生体内吸収性骨接合材と 鋼線によるハイブリッド固定法 角 田 憲 治・他 661 イリザロフミニ創外固定を用いた PIP 関節拘縮と 同関節に関わる指骨や PIP 関節内に障害をもつ難治症例の 一期的治療経験 浜 田 佳 孝・他 665 Intrafocal pinningを併用した extension block 法による

骨性槌指の治療 黒 沢 一 也・他 670 ―腱損傷―

3D-CTによる手指屈筋腱断裂の術前診断 今 尾 貫 太・他 675 長母指外転筋腱移行術を用いて再建を行った

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―舟状骨偽関節― 嚢胞型を呈する舟状骨中枢部骨折に対する 骨移植を併用しない経皮的スクリュー固定術 納 村 直 希・他 684 舟状骨突起より近位偽関節に対する 血管柄付き骨移植術 -3 群間の比較 川 崎 恵 吉・他 689 1,2 ICSRAを用いた血管柄付骨移植で humpback defomityは矯正可能か? 津 村 卓 哉・他 694 ―手根管症候群― 手根管症候群における正中神経超音波長軸像の診断的価値と 電気生理所見および臨床所見との関連性について 藤 原 達 司 699 術前 APB-CMAP が導出不能であった手根管症候群の 術後経過の検討 谷 脇 祥 通・他 702 手根管症候群における電気生理学的検査 ―2L-INT 法と環指比較法― 松 木 寛 之・他 706 Pain visionTMを用いた手根管症候群のしびれの評価 乾   淳 幸・他 709 術前の不安傾向と抑うつ状態が 手根管症候群の術後短期成績に及ぼす影響 岩 倉 菜穂子・他 712 ―変性疾患― PIP関節症症例の検討 第 2 報:Bouchard 結節に対する切腱術について 平 瀬 雄 一・他 716 変形性指 PIP 関節症に対する掌側進入による 表面置換型セメントレス人工指関節置換術 森 澤   妥・他 722 ―炎症性疾患― 手関節偽痛風の臨床像の検討 多 田   博・他 727 ばね指手術後再手術を要した症例の検討 中 島 一 郎・他 730 関節リウマチにおける手関節痛に対する トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト -A® )の注入効果  ―統計学的検討― 福 居 顯 宏・他 733 ―感染― 手指非結核性抗酸菌症の治療経験 佐 藤 智 弘・他 739

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手関節部化膿性伸筋腱腱鞘炎の治療経験 頭 川 峰 志・他 743 ―その他― 術後に持続腕神経叢伝達麻酔を用いた 肘・手指関節手術の治療経験 大 沼   円・他 747 母指 MP 関節ロッキングの手術治療成績 宮 本   崇・他 752 X線透視下手術における手外科医の手指被曝線量測定 石 垣 大 介・他 755 上腕骨外側上顆炎における前腕肢位による 手関節背屈抵抗テストの陽性率 佐 竹 寛 史・他 759 手術治療を行った医原性末梢神経損傷の検討 若 林 良 明・他 761 ―症例報告― 若年ボクシング選手の外傷後第 5CM 関節症に対して, 関節固定術を行った一例 「自由投稿論文」 諸 橋   彰・他 765 Dual window approachと生体内吸収性プレートを併用した

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日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand),第 31 巻 第 5 号 567-571,2015

橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート固定

後のリハビリテーション

森谷浩治,坪川直人,依田拓也,今尾貫太,原  敬,吉津孝衛

【目的】掌側ロッキングプレート(PLP)固定後のリハビリテーションについて,後ろ向きに調査した.【対 象と方法】術後 24 週以上の経過観察期間を有し,PLP 固定後にリハビリテーションが実施されていた橈骨 遠位端骨折 50 例 50 骨折を対象とした.リハビリテーションの開始日は術後 1∼38(平均 11)日であった. リハビリテーションの処方理由ならびに期間,処方時と最終診察時の可動域を調査した.【結果】処方理由 は浮腫と手指の自動可動域制限が多く,実施期間は 1∼43(平均 18)週であった.最終診察時の手関節およ び前腕の自動可動域は処方時よりも有意に改善していた.【考察】自己訓練のみでも機能改善が得られた可 能性は否定できない.しかし,重度の手指拘縮や複合性局所疼痛症候群を認めず,可動域の有意な改善も得 られていたことから,PLP 固定後のリハビリテーションは機能回復にとって有意義と思われた. 【緒 言】 理学または作業療法が橈骨遠位端骨折後の機能回 復へ及ぼす影響についての明確な evidence-based medicine(EBM)はない1).ギプスで加療した症例 を対象とする EBM では,理学療法を施行した症例 の可動域(ROM)や握力の回復が有意に優れていた とする論文2)3)がある反面,理学療法と家庭におけ る自主訓練との間で機能回復は同等であったとする 報告4)も存在する.今回は掌側ロッキングプレート (PLP)固定を施行した橈骨遠位端骨折症例のリハ ビリテーションについて,後ろ向きではあるが調査 したので報告する. 【対象と方法】 2012年 7 月 1 日から 2013 年 6 月 30 日の 1 年間に PLP固定を施行した橈骨遠位端骨折 125 例のうち, 両側受傷の 1 例を除き,術後 24 週以上の経過観察期 間(24∼53 週,平均 33 週)を有し,術後にリハビリ テーションが実施されていた 50 例 50 骨折を対象と した.男性 9 例,女性 41 例,手術時年齢は 16∼86 歳 (平均 58.3 歳)であった.骨折型は斎藤分類で関節外 Colles骨折 14 骨折,関節内 Colles 骨折 32 骨折,関 節外 Smith 骨折 1 骨折,関節内 Smith 骨折 2 骨折, 掌側 Barton 骨 1 骨折,AO/ASIF 分類では 23-A2 3

骨折,A3 12 骨折,B3 1 骨折,C1 4 骨折,C2 10 骨折, C3 20骨折であった.受傷から手術までの期間は 0 ∼43 日(平均 8 日),使用した PLP はメイラ橈骨遠位 端プレートシステム(メイラ)が 32 骨折(P-Plate 20 骨折,D-Plate 2 骨折,I-Plate 10 骨折),DVR アナト ミックプレート(Biomet)が 11 骨折,VA-TCP Distal Radius Plate(DePuySynthes)が 7 骨折であった. 全例,術後外固定が施行され,その内訳は上腕ギプ スが 1 骨折,前腕ギプスが 2 骨折,前腕シーネが 36骨折,角砂糖はさみ型副子が 11 骨折あり,装着 期間は 1∼6 週(平均 2.3 週)であった. リハビリテーションの開始日は術後 1∼38 日(平 均 11 日)であった.著者らのリハビリテーション5) の詳細を以下に記載する.処方当日は外固定除去の 有無にかかわらず,20∼40 分(運動器リハビリテー ション 1 または 2 単位)の時間をかけ,作業療法士 が手指の自動 ROM 訓練と軽擦マッサージ(stroking massageまたは effleurage),紐や弾性包帯巻きに よる浮腫の軽減を行った.外固定が除去されている 症例では,ホットパックで温め(図 1),さらにセ ラピストによる牽引で関節の伸張を図ってから,手 関節ないし前腕の自動または自動介助訓練を施行し た.その際,可動させたい部位よりも近位の関節は 治療台に載せる(図 2),もしくは静的副子で固定 受理日 2014/10/05 財団法人新潟手の外科研究所 〒957-0117 新潟県北蒲原郡聖籠町諏訪山 997 番地

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掌側ロッキングプレート固定後のリハビリテーション 568 した.以後は診察日に合わせ,上記の内容のリハビ リテーションを 1 回 20 分間施行した.自動運動の みでは ROM の改善が少なく,他動 ROM 訓練を追 加した症例では患者自身による自己他動を主に行わ せ,補助としてリストラウンダー(図 3a)や手関節 背屈板(図 3b),前腕回旋器(図 3c)を使用した.セ ラピストによる他動 ROM 訓練まで必要とした症例 では関節を伸張させながら,屈筋・伸筋の同時収縮 運動障害を引き起こすほどやり過ぎにならない範囲 で訓練を慎重に行った.なお,リハビリテーション を通じて ROM 訓練と並行し,等尺性の抵抗訓練に よる筋力増強も実施した. 以上の症例に対し,リハビリテーションの処方理 由ならびにその期間,リハビリテーション処方時と 最終診察時の関節 ROM と握力を調査した.なお, 検定には対応のない t 検定を用い,P<0.05 を統計 学的に有意差ありとした. 【結 果】 リハビリテーションの処方理由は浮腫(30 例) と外固定期間中に手指の自動屈曲が完遂されていな い手指の自動 ROM 制限(30 例)が多くを占めて いた(図 4).手指の運動時痛(17 例)と外固定を 除去したため(18 例)がそれに続き,拘縮予防を 目的とした実施も 9 例に認められた(表 1).リハビ リテーションの施行期間は 1∼43 週(平均 18 週)で あった. リハビリテーション処方時の自動 ROM は対健側 比の平均で手関節背屈が 37%,掌屈が 38%,橈屈 が 52%,尺屈が 49%,前腕回外が 39%,回内が 52 %であった.全症例,複合性局所疼痛症候群(CRPS) にいたることなく,最終診察時には手関節背屈が 88%,掌屈は 86%,橈屈は 89%,尺屈は 83%,前 腕回外は 96%,回内は 94%と処方時よりも有意に 改善していた(表 2).握力がリハビリテーション 処方時に計測されていた症例は 3 例(実測値 5.7∼ 6kg)しかなく,最終診察時には対健側比の平均で 76%に回復していた. 【考 察】 PLP固定後のリハビリテーションに関する報告の 中には,自己訓練による機能改善が作業療法を実施 したものと同等もしくは優れていたとする論文があ り,そこには患者自身の自立的な取り組みや療法士 からの過度な注意を受けなかったことが良好な結果 に繋がった理由と述べられている6)7).その一方で 機能回復の難しい重度の橈骨遠位端骨折は集中的な 作業療法に反応して,良好に機能改善することも事 実である4).優れた機能回復が期待できる PLP 固 定ではあるが,決して即時の無痛や軟部組織損傷の 治癒を担保しているわけではないため,術直後には 浮腫や運動時痛による患肢の ROM 制限が多く認め られる(図 4).このような場合にリハビリテーシ ョンを処方すべきか,自己訓練の指導に留めてよい 図 1 可動域訓練前に実施するホットパック 図 2 自動可動域訓練

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掌側ロッキングプレート固定後のリハビリテーション 569 のか判断することは非常に難しい. 本研究において,著者らは PLP 固定後平均 11 日 と比較的早い段階からリハビリテーションを処方し ていた.それは橈骨遠位端骨折の受傷後に手指 ROM 制限が生じている症例では大抵強い疼痛や腫脹をと もなっており1),そのままでは機能改善が不良にな ってしまう危険な状態に陥っていると,各治療者が 積極的に判断したためと考える.実際,リハビリテ ーションの施行期間が PLP 固定後平均 18 週と長期 に及んでいたことからも,潜在的に機能回復が危ぶ まれる手指の腫脹や疼痛を伴う症例に対しては,自 己訓練のみで機能獲得を促すことは難しかったので 図 3b 手関節背屈板 図 3c 前腕回旋器 図 3a リストラウンダー

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掌側ロッキングプレート固定後のリハビリテーション 570 はないかと推測する. 対象のなかには拘縮予防や外固定除去を理由とし てリハビリテーションが処方された症例も意外に多 く,本研究のなかには自己訓練のみでも機能改善が 得られた患者が含まれていた可能性は否定できな い.しかし,重度の手指拘縮や CRPS の発症を認め ずに,関節 ROM の有意な改善も得られていたこと から,PLP 固定後のリハビリテーションは機能回復 にとって有意義ではないかと考える. 【まとめ】 1)PLP 固定後にリハビリテーションを施行した 50例を対象に,リハビリテーションの処方理由な らびに期間,処方時と最終診察時の関節 ROM と握 力について調査した. 2)リハビリテーションの処方理由の多くは手部 図 4 PLP 固定後 5 日目の患手:手指自動運動を 指示していたが,手背だけでなく手掌部に も浮腫が続いていた. 表 1 リハビリテーションが処方された理由 表 2 リハビリテーション処方時と最終診察時の自動 ROM および握力 (対健側比の平均)

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掌側ロッキングプレート固定後のリハビリテーション 571 の浮腫と手指の ROM 制限であり,術後平均 11 日 より,平均 18 週間実施されていた. 3)重度の手指拘縮や CRPS を発症した症例は認 められず,手関節と前腕の自動 ROM も有意に改善 していた. 4)対象症例のなかには自己訓練のみでも機能改善 が得られた患者が含まれていた可能性は否定できな いが,本研究結果から PLP 固定後のリハビリテーシ ョンは機能回復にとって有意義ではないかと考える. 【文 献】

1) Bot AG, et al. Recovery after fracture of the distal radi-us. Hand Clin 28: 235-243, 2012.

2) Watt CF, et al. Do Colles’ fracture patients benefit from routine referral to physiotherapy following cast remov-al? Arch Orthop Trauma Surg 120: 413-415, 2000. 3) Wakefield AE, et al. The role of physiotherapy and

clini-cal predictors of outcome after fracture of the distal ra-dius. J Bone Joint Surg 82-B: 972-976, 2000.

4) Maciel JS, et al. A randomised clinical trial of activity-fo-cussed physiotherapy on patients with distal radius frac-tures. Arch Orthop Trauma Surg 125: 515-520, 2005. 5) 森谷浩治.橈骨遠位端骨折に対するリハビリテーション

の実際.整・災外 57: 175-181, 2014.

6) Souer JS, et al. A prospective randomized controlled tri-al comparing occupationtri-al therapy with independent ex-ercises after volar plate fixation of a fracture of the distal part of the radius. J Bone Joint Surg 93-A: 1761-1766, 2011.

7) Krischak GD, et al. Physiotherapy after volar plating of wrist fractures is effective using a home exercise pro-gram. Arch Phys Med Rehabil 90: 537-544, 2009.

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日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand),第 31 巻 第 5 号 572-576,2015

HEARTY

プレートを用いた橈骨遠位端骨折の治療成績

仲西知憲,上新淑文,小島哲夫,溝口知行,小川 光,村田 大

【緒言】橈骨遠位端骨折に対して HEARTY プレート(MIZUHO 社)を用いた掌側ロッキングプレート固定 を施行した症例の治療成績を検討した. 【対象と方法】当院で 2011 年∼2013 年まで橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレート固定し,経過 観察可能であった 91 例 92 手が対象.男 23 例,女 68 例,両側例 1 例,平均 60.0 歳,A;26 手,B;5 手,C; 61手,術後経過観察期間は 5.4 か月.手術時間,X 線指標を術前,術直後,最終観察時で計測,Cooney’s scoreを AO 各群で群間比較した. 【結果】全群で術直後に有意な矯正がなされたが,最終観察時では C1 群,C3 群で UV のみ有意な矯正損 失を認めた.Cooney’s score にて術後 C3 群でも 86.5 であったが,Fair が 5 手存在した.

【考察】C2,C3 など治療に難渋する骨折のタイプでも,諸般の報告と同程度の手術時間で良好な成績が 得られることが示唆されるが,長期成績の向上には UV の矯正損失の回避が必要である. 【緒 言】 橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート 固定法は,2002 年に Orbay らが報告して以来,そ の角度安定性により優れた初期固定性を有し,本骨 折の基本的な術式となっている1).プレートのタイ プによる有用性については,複数種のプレート使用 例が含まれる報告も散見され,特定のプレートに対 する有用性を判断しえないものもある.著者らは 2011年より HEARTY プレート(Mizuho 社)を使用 している.本プレートは現在商業ベースで 2011 年 から 2014 年 6 月の時点で 2600 枚程度の使用が報告 されている.本プレートは近位設置型,遠位スクリ ューホールが 1 列の Monoaxial type で,背側遠位に て軟骨下骨を支持していることが有用であると考え ている.現在までに本プレートを 100 例以上に使用 し,概ね良好な術後成績を得ている. 本研究の目的は,橈骨遠位端骨折に対してHEARTY プレートを用いた掌側ロッキングプレート固定を施 行した症例の治療成績を検討することである. 【対象と方法】 当院で 2011年 3月から2013 年 8月まで,橈骨遠位 端骨折に対して HEARTY プレートを用いて掌側ロ ッキングプレート固定を施行した 102 例のうち,術 後 3 か月以上経過観察が可能であった 91 例 92 手を 対象とした.男性 23 例,女性 68 例,両側例 1 例で あった.平均年齢 60.0(23-87)才,左 51 手,右 41 手, 術後経過観察期間は平均 5.4(3-12)か月であった. 各骨折の AO 分類では A 群 26 手,B 群 5 手,C1 群 20手,C2 群 18 手,C3 群 23 手であった.また合併 損傷は尺骨茎状突起骨折の合併が 43 手あり,尺骨 遠位端骨折 3 手,橈骨頭骨折,第 4・5 中手骨骨折, 舟状骨骨折が各 1 手であった.手術方法は以下の通 りである.Henry’s approach ないしは Extended FCR approachにて進入.方形回内筋を切離して橈骨掌側 を露出させた.次に掌側骨片を直視下で整復しつつ, 橈骨遠位端全体を徒手的または Kapandji 法により整 復し,プレートを至適位置に当ててスクリュー固定 した. 評価項目は手術時間,合併症に加え,画像評価と して Radial inclination(以下「RI」),Volar tilt(以下 「VT」),Ulnar variance(以下「UV」)の 3 つのパラ メーターを術前,術直後および最終観察時で計測し た.機能評価として手関節可動域,術後 Cooney’s scoreを計測し,画像評価および機能評価を AO 各 群で群間比較した.画像評価は Paired-t 検定,機能 受理日 2014/10/21 溝口外科整形外科病院 〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神 4 丁目 6-25

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HEARTYプレートによる橈骨遠位端骨折の治療成績 573

評価は Mann-Whitney U 検定とし,各評価とも p< 0.05を有意とした.

【結 果】

手術時間は手関節鏡を含んで平均 58.6(27-110)分 であり,同時手術として尺骨 Tension band wiring 3 手,中空海綿骨螺子 1 手,第 4 および 5 中手骨のピ ンニング 1 手,舟状骨の経皮的スクリュー固定 1 手 を施行した.術後合併症は前腕コンパートメント症 候群 1 手,橈骨骨折部の遷延癒合 1 手,CRPS 2 手 であった. 画像評価では A 群では術直後 RI 25,VT 9.5,UV 0.1と矯正損失を認めず,B 群でも RI 22,VT 12.4, UV 0.4と矯正損失を認めなかった.最終観察時は両 群とも有意な矯正損失は認めなかった(図 1).C1 群 では RI 24.6,VT 12.3,UV -0.1 と術直後の矯正損失を 認めなかったが,最終観察時 RI 25.3,VT 11.0,UV 0.5 と UV のみ矯正損失を認めた(図 2).C2 群で RI 23.1, VT 10.9,UV 1.0 と術直後の矯正損失を認めず,最 終観察時の矯正損失を認めなかった(図 3).C3 群 では術直後 RI 21.9,VT 8.3,UV 0.5 と矯正損失を認 めず,最終観察時 RI 22.6,VT 9.4,UV 1.4 と UV の み矯正損失を認めた(図 4). 機能評価として,手関節可動域では全群 120゜以上 であったが,A 群に比して C3 群の手関節可動域は 有意に低値であった.Cooney’s score では C3 群でや や低値であり,A 群との有意差を認めた.Excellent 73 手,Good 14 手,Fair 5 手であった(表 1).Cooney’s scoreでのFair症例を表2に提示する.CRPSの2手, 前腕コンパートメント症候群の 1 手はいずれも Fair であった.C3 群に集中し,掌尺側骨片へのスクリ ュー固定に問題のある症例で握力不良を認めた. 【症例供覧】 45歳,男性 高所からの転落外傷であり,両側橈骨遠位端骨折, AO-C3の関節内粉砕と診断した(図 5).両側とも HEARTY plateでの掌側ロッキングプレート固定に 加え,本品に付属する格子状ガイドを用いて,関節 面保持のため側面より一時的に K-wire 刺入固定を 施行した.術後 1 週以内に両側とも外固定を除去, 図 1 AO-A,B 群における画像指標の経時的変化 図 2 AO-C1 群における画像指標の経時的変化

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HEARTYプレートによる橈骨遠位端骨折の治療成績 574

図 3 AO-C2 群における画像指標の経時的変化

図 4 AO-C3 群における画像指標の経時的変化

表 2 Cooney’s score における Fair 症例の要因 表 1 最終観察時における手関節可動域

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HEARTYプレートによる橈骨遠位端骨折の治療成績 575 手関節 ROM 訓練を開始した.最終観察時,手関節 掌背屈は右 160゜,左 150゜,Cooney’s score は両側と も 90 点(Excellent)で,合併症なく経過した(図 6). 【考 察】 掌側ロッキングプレートの特徴として,プレート は Monoaxial type か Polyaxial type か,近位設置型 か遠位設置型か,遠位スクリューホールが 1 列のも のか2列のものかなどの点で分類されることが多く, そのタイプは多種多様であり,患者年齢,骨折型,術 者の技量などに応じてプレート選択をしている.画 像的には 3 つのパラメータなどを用い,理想的な骨 形状に整復固定が可能か,AO-C 分類などの関節内 骨折では Step-off,Gap が理想的なものに整復固定さ れるか2)を検討するとともに,腱損傷,手根管症候 群などの合併症を回避できるものかが問題になる3) 本プレートは近位設置型,遠位 1 列のスクリューホ ールで Monoaxial type であり,背側遠位での軟骨下 骨支持をさせると同時に屈筋腱障害,手根管症候群 の発症を回避させるべく,より Low-profile で橈骨遠 位端掌側面の骨形状に沿ったものと考えている. Orbayら1)が報告した掌側ロッキングプレートは Monoaxial lockingで あ り, そ の 後 も Monoaxial lockingの臨床報告例が散見される.Arora らは不

図 5 症例供覧(術前)

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HEARTYプレートによる橈骨遠位端骨折の治療成績 576 安定型骨折への使用にて,腱損傷などの問題がある も機能維持,矯正損失を最小限にしたと報告した4) 大野らは AO-C 群の骨折に対して Stellar-1 プレート (日本ユニテック社)を使用し,RI の矯正損失を認め るも可動域や Cooney’s score などへの影響を認めな かったと報告した5).手術時間等の操作に関する比較 検討はみられないが,DSS(Double-tiered Subchon-dral Support)法を採用したプレートでは,Polyaxial lockingによるスクリューを採用していることが多 く,強度の面でも Monoaxial に比して多くのロッキ ングスクリューを必要とし,熟練した手術技能が必 要とされるため,術者の技量によっては手術時間の 延長につながることも考えられる. 一方で,本プレートでの Fair 症例でも報告した 掌尺側骨片は本骨折において背尺側骨片とともに Key stoneとなる骨片である.背尺側骨片は粉砕もし やすく不安定であり6),通常の掌側ロッキングプレ ートに追加して背側プレートを設置する報告も見ら れる7).また森谷らの報告の如く,掌尺側骨片の粉 砕例は少ない印象ではある8)が,時として同部での 骨折を有する症例が存在する.さらに尺側骨片を特 異的に固定することにより剛性の改善を認めたとす る Biomechanical study や臨床成績の改善を示した 報告もみられる9)10).本プレートは手術器械が少な く使いやすいが,術中操作の簡便化のため整復操作 が十分に行われるべきである.たとえ C2,3 など の治療に難渋する骨折のタイプでも整復操作,至適 位置での固定が可能であれば,術直後の成績は満足 いくものが得られると考える.一方で,難渋骨折の 中には,背尺側骨片に加えて掌尺側骨片の粉砕など 固定が困難な症例があり,治療成績低下の影響が否 定できないが,多くの Monoaxial plate でも同様に みられる問題と考える.そのような症例に対しては 尺側骨片を特異的に固定可能な Variable-angled type のものを適応とするオプションも考えている. 本研究の限界は,最終観察時の時期が一定してお らず,術後 12 か月以上の症例に絞って成績を検討 する必要がある.また本研究では C1,C3 群におい て最終観察時の UV の矯正損失を認めており,長期 成績としては関節症性変化の進行も危惧される.今 後も AO-C 群を中心に HEARTY プレート適用例の 症例を蓄積し,尺側骨片の粉砕症例など本プレート の限界について検討していきたい. 【まとめ】 1)橈骨遠位端骨折に対して,HEARTY プレートに よる固定を行った91例92手の術後成績を検討した. 2)術直後は有意に矯正されていた.最終観察時 の矯正損失は C1,C3 群の UV にみられたが,統計 学的に有意な矯正損失を認めなかった. 3)術後 Cooney’s score は全群ほぼ良好であった が,背尺側骨片のスクリュー固定に問題のあるもの が Fair となっていた. 4)本プレート固定は C2,C3 など治療に難渋する 骨折のタイプでも,諸般の報告と同程度の手術時間 で良好な成績が得られたが,長期成績の向上には UVの矯正損失を回避する要素の評価が必要と考え られる. 【文 献】

1) Orbay JL, et al. Volar fixation for dorsally displaced frac-tures of the distal radius: a preliminary report. J Hand Surg-Am 27: 205-215, 2002.

2) Wright TW, et al. Functional outcome of unstable distal radius fracture: ORIF with a volar fixed angle thin plate versus external fixation. J Hand Surg-Am 30: 289-299, 2005.

3) Rozental TD, et al. Functional outcome and complica-tions after volar plating for dorsally displaced, unstable fractures of the distal radius. J Hand Surg-Am 31: 359-365, 2006.

4) Arora R, et al. Complications following internal fixation of unstable distal radius fracture with a palmar locking-plate. J Orthop Trauma 21: 316-322, 2007.

5) 大野克記ほか.AO 分類 C 型橈骨遠位端骨折に対する Stellar 1 plateの治療成績.日手会誌 30: 48-51, 2013. 6) Melone CP Jr, et al. Open treatment for displaced

articu-lar fractures of the distal radius. Clin Orthop Relat Res 202: 103-111, 1986.

7) Ikeda K, et al. Fixation of an ulnodorsal fragment when treating an intra-articular fracture in the distal radius. Hand Surg 19: 139-144, 2014.

8) 森谷浩治ほか.掌側ロッキングプレート固定を施行し た橈骨遠位端骨折における皮質骨粉砕部位の検討 . 日 手会誌 27: 39-42, 2010.

9) Taylor KF, et al. Biomechanical stability of a fixed-angle volar plate versus fragment-specific fixation system: cy-clic testing in a C2-type distal radius cadaver fracture model. J Hand Surg-Am 31: 373-381, 2006.

10) Gavaskar AS, et al. Fragment-specific fixation for com-plex intra-articular fractures of the distal radius: results of a prospective single-centre trial. J Hand Surg-Eur 37: 765-771, 2012.

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日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand),第 31 巻 第 5 号 577-580,2015

掌側ロッキングプレート固定における背側スクリュー

突出の検討

荻原弘晃

,牧野絵巳

,澤田智一

** 掌側ロッキングプレート施行時に遠位スクリューが背側皮質を貫く割合を,術後の CT 画像で検討した. 45例を対象とし,背側骨片の粉砕の有無や刺入方向について,突出率を調べた.3 例で伸筋腱の障害がみら れた.突出は 281 本中 71 本認め,背側骨片の粉砕は突出に影響しなかった.突出方向はリスター結節尺側 が最も多かった.突出長と Mayo Wrist Score は相関がなかった.突出率は,諸家の報告と同様に高率であり, 突出に留意してもある程度の突出は避けられない可能性があると考えた.また,伸筋腱損傷が総指伸筋腱, 長母指伸筋腱にみられることから,第 3,4 コンパートメントでの突出に特に留意すべきであると考えた.

【緒 言】

橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート (volar locking plate;VLP)固定による治療は有効 であり,本骨折治療の golden standard として広く 施行されている.その一方で,手術に伴う合併症の 報告もみられる.術後に発生する伸筋腱損傷は本法 の合併症のひとつである.著者らの施設では,VLP 施行時はデプスゲージ測定値以上のスクリューは使 用せず,背側から先端が突出しないよう留意してい るが,それでも術後の画像でスクリューの突出を認 めることがある.今回,VLP の遠位ロッキングス クリュー(ピンを含む)の背側皮質からの突出に注 目し,突出部位や程度を術後の CT 画像で評価し, 伸筋腱損傷との関連を検討した. 【対象と方法】 2009年より 2013 年までに VLP 固定を行った橈 骨遠位端骨折症例のうち,術後に CT 撮影を行った 症例を対象とした.症例は 45 例で年齢は 28 歳∼82 歳(平均 59.7 歳),男性 19 例,女性 26 例であった. 骨折型は AO 分類で,A3 が 6 例,B3 が 3 例,C1 が 3例,C2 が 10 例,C3 が 23 例であった.VLP の種類 は,Stellar 2(日本ユニテック社)が 26 例,VA-TCP (Synthes 社)が 6 例,Acu-Loc(Acumed 社)が 5 例,

VariAx(Stryker 社)が 4 例,Stellar(日本ユニテッ ク社)が 1 例,DVR(Depuy 社)が 1 例であった.VLP 固定時は,遠位骨片のスクリュー突出を来さない様 にデプスゲージ測定値より 0∼2mm 短いスクリュ ーを使用した.これらの症例に対して,VLP 固定 術後の伸筋腱損傷の有無を後ろ向きに調査した.次 に,VLP 固定術後に撮影した CT 画像を解析し,遠 位ロッキングスクリュー先端と背側骨皮質の距離を 測定した.その際の皮質表面との距離が 0mm 以下 を非突出,0mm を超える場合を突出とした.さら に,背側骨片の骨折によりスクリュー選択時にデプ スゲージ測定が困難となり突出をきたす可能性か ら,遠位スクリュー突出部位となる背側骨皮質骨 に,骨折線がない場合,1 本の骨折線がある場合, 複数の骨折線がある場合の 3 つに分けて突出頻度を 検討した.次にスクリューの突出方向を,茎状突起, リスター結節橈側,リスター結節,リスター結節尺 側の4部位にわけて部位別の突出を検討した(図1). 受理日 2014/10/09 *浜松赤十字病院 〒434-8533 静岡県浜松市浜北区小林 1088-1 **浜松医科大学 図 1 スクリュー突出方向

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掌側ロッキングプレート固定による背側スクリュー突出 578

また,臨床成績とスクリュー突出の関係を調べるた め,最終観察時の Mayo Wrist Score(MWS)とス クリュー突出の関係を検討した. 【結 果】 45例中 3 例で,伸筋腱障害が出現していた.損傷 腱は,総指伸筋腱(EDC)2 例,長母指伸筋腱(EPL) 1例であった.遠位骨片に対してロッキングスクリ ューは計 284 本使用されており,背側皮質より突出 したものは 71 本であった(図 2).突出するスクリュ ー71 本のうち,1mm を超える突出は 33 本であった. 背側骨片の状態による突出率を検討すると,背側骨 片に骨折がない場合 27.0%,骨折線 1 本の単純骨折 では 26.0%,複数の骨折線がある粉砕骨折の場合で は 24.4%で,統計学的有意差はなく,背側骨片の粉 砕は突出に相関していなかった(図 3).スクリュ ーの突出方向の検討では,茎状突起で 14.3%,リス ター結節で 10.4%,リスター結節橈側で 25.0%,リ スター結節尺側で 33.3%であり,リスター結節尺側 での突出率が高かった(図 4).MWS と突出の関係 の検討として,各症例の最大突出スクリューの皮質 からの距離と MWS の相関を調べると(図 5),突出 距離と MWS は有意な相関はなかった. 伸筋腱障害を生じた症例を呈示する. 症例 1:59 歳女性.転倒して左手をついて受傷し た.AO 分類 C1 の関節内骨折であった(図 6).5 日 後に VA-TCP を用いて VLP 固定を行った.術後 3 か 月頃より手背の腫脹と手指伸展時の痛みを自覚した. CT像では,第 4 コンパートメントに 3.4mm のスクリ ューの突出を認めた.術後 8 か月で抜釘を行い症状 は消失した.術後 10 か月時の MWS は 75 であった. 症例 2:79 歳女性.慢性腎不全で血液透析を行っ ている.自転車で転倒して受傷した.AO C2 の骨折 に対して,7 日後に Stellar 2 を用いて VLP 固定を行 った(図 7).術後 3 か月頃より手関節背側の腫脹と 環指 MP 関節伸展障害が出現した.CT では第 4 コン パートメントに 4mm と 2mm の 2 本のスクリューの 突出を認めた.術後 10 か月で抜釘と骨折部の骨棘を 図 2 スクリュー突出 図 3 スクリュー突出部位と頻度

図 4 スクリュー突出長と Mayo Wrist Score

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掌側ロッキングプレート固定による背側スクリュー突出 579 切除した.術後環指 MP 関節伸展は 0 度で伸展制限 は残存している. 症例 3:76 歳女性.坂道で転倒して左手をついて受 傷した.AO A3 の骨折に対して術後 5 日で Stellar 2 による VLP 固定を行った(図 8).術後 2 週で左母指 の伸展障害を自覚した.CT 画像ではロッキングピ 図 6 症例 1 a.受傷時正面像 b.受傷時側面像 c.術後側面像 d,e.CT 画像でのスクリュー突出 図 7 症例 2 a.受傷時正面像 b.受傷時側面像 c.術後側面像(矢印:骨棘) d,e.CT 画像でのスクリュー突出 図 8 症例 3 a.受傷時正面像 b.受傷時側面像 c.術後側面像 d,e.CT 画像でのスクリュー突出はない

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掌側ロッキングプレート固定による背側スクリュー突出 580 ンの突出はみられなかった.固有示指伸筋腱による 再建を行った.術後5か月でのMWSは70であった. 【考 察】 VLPの合併症のひとつとして,伸筋腱損傷が報 告されている1)2).その原因として背側へのスクリュ ー突出が指摘されており,Sügün ら3)は VLP 施行し た 46 例にエコーを用いて背側への突出を調べ,230 本のスクリューのうち 0.5mm 突出したスクリュー が 59 本であったと報告している.Ozer ら4)は 27 例 にdorasl tangential viewによる単純X線撮影を行い, 125本のスクリューのうち 1mm 以上突出したスク リューが 11 本であったことを報告している.本研 究は後ろ向き研究であり,手術例全例の検討ではな い.しかし,本研究も含めスクリュー突出率は高率 であることから,スクリュー長の選択は遠位スクリ ュー挿入時に特に留意して行う操作の一つであると 考えた.著者らは VLP 施行時の遠位骨片のスクリ ュー突出は,背側骨片の粉砕によりスクリュー長計 測が困難となって生じることを予想していた.しか し本研究では,背側骨片の状態はスクリュー突出率 と相関はなかった.突出の原因として,デプスゲー ジ測定値より透視画面上のスクリュー長を重要視し てしまった可能性がある.リスター結節尺側の突出 が多かったことは,術中透視下にスクリュー長を確 認することが困難である5)ことと関連している.ま た,リスター結節尺側以外の部位においてもスクリ ュー突出率が高かったことについて,VLP 固定で は何らかの原因で,遠位スクリューが計測した長さ より深く挿入されてしまう傾向があるのではないか と考えた.今谷ら6)は VLP 遠位スクリュー長につ いて,デプスゲージ測定値より 2mm 短いものを使用 すべきと述べている.著者らは,スクリュー長選択 の際,測定値より 0∼2mm 短いものを選択していた が,今谷らの報告に従いすべて 2mm 短いスクリュー を用いていれば,突出率はより低かったと考える. スクリューが計測値より深く挿入される原因として は,計測時のプレート浮きや刺入位置の不良による 転位などが考えられるが,さらなる検討が必要であ る.今回の伸筋腱障害を生じた症例 1,2 では,第 4 コンパートメントに突出したスクリューが原因であ る可能性が高い.スクリューにより生じる伸筋腱障 害は EPL,EDC が主1)2)3)であるため,第 3,4 コン パートメントへのスクリュー突出には十分注意する 必要がある.さらに,EPL 断裂はドリリングのみ でスクリュー突出がなくても生じる1)7)ことが指摘 されており,症例 3 はドリリングでの EPL 損傷を 否定できない.ドリリングも含め,背側骨皮質を超 えての手術操作をできるだけ避けることが伸筋腱損 傷予防につながると考えた. 【まとめ】 1.VLP 固定後の背側スクリュー突出ついて,術 後に撮影した CT 画像で検討した. 2.284 本のロッキングスクリューのうち,71 本 (25%)が突出していた. 3.伸筋腱障害が 45 例中 3 例にみられた. 4.スクリュー突出は,透視で確認しにくいリスタ ー結節尺側に多く見られた. 5.背側骨片の粉砕などの状態はスクリュー突出 に関係していなかった. 6.スクリュー突出と臨床成績に相関はなかった. 7.第 3,4 コンパートメントでの突出に留意してド リリング,スクリュー刺入を行うべきであると考えた. 【文 献】

1) Al-Rashid M, et al. Delayed ruptures of the extensor tendon secondary to the use of volar locking compres-sion plates for distal radial fractures. J Bone Joint Surg Br 88: 1610-1612, 2006.

2) Arora R, et al. Complications following internal fixation of unstable distal radius fracture with a palmar locking-plate. J Orthop Trauma 21: 316-312, 2007.

3) Sügün TS, et al. Screw prominences related to palmar locking plating of distal radius. J Hand Surg Eur Vol 36: 320-324, 2011.

4) Ozer K, et al. Dorsal tangential view of the wrist to de-tect screw penetration to the dorsal cortex of the distal radius after volar fixed-angle plating. Hand(N Y)6: 190-193, 2011. 5) 前田利雄ほか.臨床症例に対する掌側ロッキングプレ ート固定術後に生じた腱断裂の検討.骨折 33: 280-284, 2011. 6) 今谷潤也ほか.橈骨遠位端骨折における合併症とその 対策―掌側ロッキングプレートを中心に―.J MIOS 52: 77-83, 2009.

7) Pichler W, et al. Perforation of the third extensor com-partment by the drill bit during palmar plating of the distal radius. J Hand Surg Eur Vol 34: 333-335, 2009.

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日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand),第 31 巻 第 5 号 581-584,2015

橈骨遠位端骨折に合併した尺骨茎状突起骨折が

治療成績に及ぼす影響

佐伯将臣,稲垣弘進

掌側ロッキングプレートで固定を行った橈骨遠位端骨折の治療成績に,尺骨茎状突起骨折の有無が影響す るかを検討した.当院で橈骨遠位端骨折に掌側ロッキングプレート固定を施行した 91 例 91 手を対象とし, 受傷時年齢は平均 57.1 歳,男性 33 例,女性 58 例,術後観察期間は平均 6ヶ月であった.評価項目は,最終 観察時の手関節痛の有無,可動域,握力,単純 X 線における voral tilt(VT),ulnar variance(UV)とし,尺 骨茎状突起骨折の合併の有無と骨癒合の有無について成績を比較した.手関節痛は調査可能であった 62 例 中 30 例に認め,尺骨茎状突起骨折の有無で有意差を認めず,可動域,握力もほとんど有意差を認めなかった. 最終観察時の VT,UV は,尺骨茎状突起骨折の有無で有意差を認めなかった.尺骨茎状突起骨折の骨癒合 の有無で手関節痛,可動域,握力,VT,UV に有意差を認めなかった.橈骨遠位端骨折の治療成績に,尺骨 茎状突起骨折の有無は影響を及ぼさないと考えられた. 【緒 言】 尺骨茎状突起骨折は橈骨遠位端骨折によく合併す るが,その治療成績への影響については一定の見解 は得られていない.今回著者らは,掌側ロッキング プレート固定を行った橈骨遠位端骨折の治療成績に おいて,尺骨茎状突起骨折の有無,その骨折部位, 骨癒合の有無が影響するか否かを調査したので報告 する. 【対象と方法】 対象は 2008 年 4 月から 2013 年 2 月までに,当院 で橈骨遠位端骨折に掌側ロッキングプレート固定を 施行した症例のうち,3 か月間以上の経過観察が可 能であった91例91手とした.男性33例,女性58例, 受傷時の年齢は平均 57.1 歳(15∼87 歳)であった.受 傷から手術までの期間は平均 7.1 日(0∼37 日),術 後経過観察期間は平均6か月(3∼25か月)であった. 橈骨遠位端骨折の骨折型は,AO 分類で A3:43 例, B2:1 例,B3:9 例,C1:6 例,C2:19 例,C3: 13例であった.尺骨茎状突起骨折は 51 例(56%) に合併していた.尺骨茎状突起骨折の骨折部位つい ては,中村の分類を使用し1),先端(Tip;T),中 央(Center;C),基部(Base;B),基部から骨端部 (Proximal;P)の 4 つに分類し(図 1),T 群 19 例, C群 16 例,B 群 14 例,P 群 2 例であった.尺骨茎状 突起骨折に対しては全例,骨接合や骨切除などの治 療行為は行っていなかった. 最終観察時の治療成績を,尺骨茎状突起骨折の合 併の有無と骨折部位別で比較検討した.また,尺骨 茎状突起骨折の骨癒合の有無でも比較検討した.調 査項目は,臨床的評価を手関節痛の有無,握力,手 受理日 2014/10/06 JA愛知厚生連 豊田厚生病院 〒470-0343 愛知県豊田市浄水町伊保原 500-1 図 1 尺骨茎状突起骨折の骨折部位(中村の分類) 文献 1 より引用

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橈骨遠位端骨折の治療成績への尺骨茎状突起骨折の影響 582

関節の掌背屈,前腕の回内外の可動域とし,画像的 評価を,volar tilt(VT),ulnar variance(UV)とした. VTとUV,尺骨茎状突起の骨癒合の有無については, 単純 X 線における手関節撮影の正面像と側面像を 用いて評価した. 統計処理は,χ2 検定と Mann-Whitney U 検定を 用い,P<0.05 を有意差ありとした. 【結 果】 手関節痛は,調査可能であった 62 例で評価した. 尺骨茎状突起の骨折あり群で 16 例(46%),骨折な し群で 14 例(52%)に認め,有意差はなかった. 骨折部位別では,T 群 6 例(46%),C 群 4 例(40%), B群 5 例(56%),P 群 1 例(50%)に手関節痛を 認め,骨折なし群を加えた 5 群の全ての群間で有意 差はなかった.握力は,調査可能であった 57 例で 健側比として評価した.骨折あり群 平均 70%,骨折 なし群 71%で有意差はなかった.骨折部位別では, T群 平均 68%,C 群 75%,B 群 63%であり,骨折 なし群を加えた 4 群の全ての群間で有意差はなかっ た.P 群は 2 例とも握力が未記載であり,調査は不 可能であった.可動域は,手関節の掌屈が骨折あり 群 平均 61.1゜,骨折なし群 61.8゜であり,背屈が骨折 あり群 平均 61.9゜,骨折なし群 62.1゜であった.前腕 の回内が骨折あり群 平均 80.9゜,骨折なし群 81.4゜で あり,回外が骨折あり群 平均 84.1゜,骨折なし群 82.7゜ であった.すべての可動域で骨折あり群となし群で 有意差はなかった(図 2).骨折部位別では,掌屈 は T 群 平均 61.2゜,C 群 62.5゜,B 群 60.4゜,P 群 55.0゜, 背屈は T 群 平均 58.8゜,C 群 67.6゜,B 群 57.9゜,P 群 75.0゜,回内は T 群 平均 80.0゜,C 群 83.1゜,B 群 80.0゜, P群 80.0゜,回外は T 群 平均 85.5゜,C 群 83.5゜,B 群 82.3゜,P 群 85.0゜であった.背屈では T 群と C 群,C 群と B 群の 2 群間でそれぞれ有意差があったが,掌 屈,回内,回外では,骨折なし群を加えた 5 群の全 ての群間で有意差はなかった(図 3). 最終観察時の VT は,骨折あり群平均 6.0゜,骨折な し群 6.4゜で有意差はなかった.骨折部位別では T 群 平均 7.4゜,C 群 4.0゜,B 群 6.9゜,P 群 0.9゜で,骨折なし 群を加えた 5 群の全て群間で有意差はなかった.UV は骨折あり群 平均 -0.4mm,骨折なし群 -0.04mm で, 骨折なし群を加えた 5 群の全て群間で有意差はなか った(図 4,5). 尺骨茎状突起骨折の骨癒合の有無で,治療成績に 違いがあるかを調査可能であった 23 例で検討した. 手関節痛は骨癒合群 4 例,偽関節群 5 例であった. 可動域については,掌屈が骨癒合群 平均 60.3゜,偽関 節群60.9゜,背屈が骨癒合群 平均64.3゜,偽関節群58.9゜, 回内が骨癒合群 平均 79.3゜,偽関節群 82.9゜,回外が骨 癒合群 平均 83.9゜,偽関節群 85.0゜であった.握力は 健側比で評価し,骨癒合群 平均 62%,偽関節群 76% であった.VT は骨癒合群 平均 5.4゜,偽関節群 7.2゜ で,UV は骨癒合群 平均 0.6mm,偽関節群 -0.7mm で あった.全ての調査項目で,骨癒合と偽関節に有意 差はなかった(表 1). 図 2 尺骨茎状突起骨折の有無と可動域 全ての可動域で,2 群間に有意差を認めず(Mann-Whitney U-test)

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橈骨遠位端骨折の治療成績への尺骨茎状突起骨折の影響 583 図 3 尺骨茎状突起骨折の部位と可動域 *,†:2 群間で,有意差を認める(Mann-Whitney U-test) 図 4 尺骨茎状突起骨折の有無と VT,UV 2群間に有意差を認めず(Mann-Whitney U-test) 図 5 尺骨茎状突起骨折の部位と VT,UV 全ての群間で,有意差は認めず(Mann-Whitney U-test)

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橈骨遠位端骨折の治療成績への尺骨茎状突起骨折の影響 584 【考 察】 本研究では,尺骨茎状突起骨折の有無と骨折部位 で,手関節痛,握力に有意差を認めず,ほとんどの 可動域に有意差を認めなかった.岡崎ら2)は,橈骨 遠位端骨折に対し手術を施行し,尺骨茎状突起骨折 に処置を行わなかった 41 例 41 手を調査し,尺骨茎 状突起の骨折部位,骨癒合の有無と手関節尺側部痛 の間に相関はなかったと報告している.また,Zenke ら3)は,118 人の掌側ロッキングプレート固定を施行 した橈骨遠位端骨折を調査し,尺骨茎状突起骨折の 有無は治療成績に影響しないと報告している.本研 究結果は,これら 2 つの研究結果と相違のない結果 であった.しかし,納田ら4)は,中村の分類1)にお ける Base での骨折は,他の骨折部位に比べ成績不 良となる頻度が高く,偽関節の中には手関節尺側部 痛が残存する症例があると報告している.その原因 として偽関節に陥った骨片自体の刺激や,偽関節に 陥る原因と考えられる distal radioulnar joint(以下 DRUJ)の不安定性の残存をあげている.橈骨遠位 端骨折において,DRUJ の不安定性の残存が治療成 績の低下の原因であると指摘する報告は散見され, Stoffelen5)は,Mayo wrist score は DRUJ の不安定 性を伴うと低下すると報告している.本研究では最 終観察時の DRUJ の不安定性についてはカルテに記 載がなく調査項目に含めなかったが,骨癒合の有 無,すなわち偽関節の有無について調査可能であっ た 23 例での結果では,尺骨茎状突起骨折の骨癒合 群と偽関節群で,最終観察時の手関節痛の有無によ る差を認めず,偽関節に陥った骨片自体の刺激が疼 痛の原因であることを示す結果は得られなかった. また,Wijffels ら6)は,橈骨遠位端骨折に尺骨茎状突 起骨折の基部骨折を合併した 120 人の患者のうち, 6ヶ月以上の調査が可能であった骨癒合群 16 人と偽 関節群 18 人を比べ,尺骨茎状突起が偽関節である ことは,握力以外の治療成績に影響しなかったと報 告しており(握力は偽関節群の方が良好であった), 本研究結果と相違のない結果であった.尺骨茎状突 起骨折が偽関節であることは,掌側ロッキングプレ ート固定を行った橈骨遠位端骨折の治療成績に影響 しないと考えられた. 【まとめ】 1.掌側ロッキングプレートで固定を行った橈骨 遠位端骨折の治療成績に,尺骨茎状突起骨の有無と 骨折部位が影響するかを調査した. 2.尺骨茎状突起骨折は,手関節痛,可動域,握 力に有意な影響を及ぼさなかった. 3.尺骨茎状突起骨折の骨癒合の有無は,手関節 痛,可動域,握力に有意な影響を及ぼさなかった. 4.掌側ロッキングプレートで固定を行った橈骨 遠位端骨折の治療成績に,尺骨茎状突起骨折の有無 と骨折部位,骨癒合の有無は影響しないと考えられ る. 【文 献】 1) 中村蓼吾ほか.TFCC 損傷と尺骨茎状突起骨折.関節 外科 13: 121-126, 1994. 2) 岡崎 敦ほか.尺骨茎状突起骨折を合併した橈骨遠位端 骨折における手関節尺側部痛.日手会誌 22: 37-41, 2005. 3) Zenke Y, et al. The effect of an associated ulnar styloid

fracture on the outcome after fixation of a fracture of the distal radius. J Bone Joint Surg Br 91: 102-107, 2009.

4) 納田真也ほか.尺骨茎状突起骨折の骨折部位が橈骨遠 位端骨折の治療成績に与える影響.骨折 27: 376-379, 2005.

5) Stoffelen D, et al. The importance of the distal radioul-narjoint in distal radial fractures. J Hand Surg Br 23: 507-511, 1998.

6) Wijffels M, et al. The Influence of Non-union of the Ul-nar Styloid on Pain, Wrist Function and Instability after Distal Radius Fracture. J Hand Microsurg 3: 11-4, 2011. 表 1 尺骨茎状突起の骨癒合と治療成績

調査可能であった 23 例でのデータである (Chi-square test,Mann-Whitney U-test)

(24)

日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand),第 31 巻 第 5 号 585-588,2015

橈骨遠位端骨折後の長母指屈筋腱断裂に対する

治療経験

伊東直也

,森田哲正

,武田真輔

,平田 仁

**

,藤澤幸三

* 橈骨遠位端骨折後の長母指屈筋腱(以下 FPL)断裂を生じた 7 例 7 手を経験した.腱移行 5 例,腱移植 2 例を行い,腱移行には環指浅指屈筋腱を用い,腱移植には長掌筋腱を用いた.最終観察時に Buck-Gramcko 法,長母指屈筋腱機能度,%TAM で評価したところ,腱移行,腱移植ともに術後良好な結果を得た. FPL断裂後長期に経過している際には,FPL の筋自身の不可逆変化のため十分な滑走距離が得られない. また FPL が徐々に損傷していき断裂に至るケースでは,断裂部周囲に瘢痕組織の増生を認め,腱周囲の癒 着が強く腱滑走障害を呈する場合が多い.このような場合,腱移植をおこなっても成績は不良となることが 予想されるため,腱移植ではなく腱移行を行う事で腱移植に劣らない良好な可動域を得る事ができる.よっ て,FPL の再建では腱移植だけでなく腱移行も念頭におく必要がある. 【緒 言】 橈骨遠位端骨折後の合併症として長母指屈筋腱 (以下 FPL)断裂の報告が散見される. しかし,FPL 断裂の原因を報告した文献がほとん どで,断裂した際の治療法とその成績を報告した文 献は少ない. 今回,著者らは橈骨遠位端骨折後に FPL 断裂を 生じた 7 例を経験したので,その治療成績について 報告する. 【対象と方法】 対象は 2008 年以降に橈骨遠位端骨折後に FPL 断 裂を認め,当院で手術加療を行った 7 例 7 手である (表 1).その内訳は男性 1 例,女性 6 例,平均年齢 72.1歳,右 4 手,左 3 手,骨折から腱断裂発生まで の期間は 50 年という 1 例を除いて 3 か月∼10 年(平 均 2.8 年),FPL 断裂から手術までの待機期間は 19 日 ∼3 か月(平均 48.7 日)であった.橈骨遠位端骨折の 治療法は掌側ロッキングプレートによる内固定が 5 例,保存治療が 2 例であった.保存治療を行った症 例は,骨折から腱断裂発生までの期間が 1 例は 4 年, もう 1 例は 50 年であり,骨折と FPL 断裂の因果関係 は明らかではない.しかし,犬の散歩中や後ろに手 を回したときなど 2 例とも日常動作の中で FPL 断裂 を生じており,骨折の変形治癒や血流障害による腱 の脆弱化があり,腱が骨と摩耗することが原因で長 期間を経て断裂に至ったと考えた. FPLの近位断端の滑走に関しては,20mm を越える 場合を良好とし,それ以下を不良と評価した.FPL 断裂に対する治療法は,FPL の近位断端の滑走が良 好であった 2 例に腱移植を,不良であった 5 例に腱 移行を施行した.また,プレート固定がされていた 5例全例では手術時骨折は癒合していたため同時に 抜釘術も行った. 腱移行には環指浅指屈筋腱(以下 FDS)を用い, 腱移植には長掌筋腱(以下 PL)を用いた.FPL 断裂 部はすべて手関節部であり,Kleinertのzone分類で, zone 4で断裂していた.腱移行を行った 5 例中 1 例 受理日 2014/10/16 *鈴鹿回生病院 〒513-8505 三重県鈴鹿市国府町字保子里 112-2 **名古屋大学 手の外科 表 1 橈骨遠位端骨折後にFPL断裂を認め, 当院で手術加療を行った 7 例 7 手

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橈骨遠位端骨折後の長母指屈筋腱断裂に対する治療経験 586 は FPL の断裂部が比較的近位で遠位断端の状態が よかったため,手根管を開放し FPL 遠位断端と環指 FDSを interlacing suture で縫合した.しかし,手根 管を開放することで術後疼痛を訴えたため,他の 4 例 は環指 FDS を母指末節骨に pull out する方法で行 った.腱移植は 2 例とも FPL 遠位断端と近位断端を bridge graftした.腱を縫合する tension は,手関節中 間位,母指 MP・IP 関節屈曲位で決定し,腱移植は 腱移行よりやや tension を強くした. 術後 Kleinert 法に準じた後療法を 3 週間行い,最 終観察時(6 か月以降)に Buck-Gramcko 法,長母指 屈筋腱機能度(以下 FPL 機能度),%TAM で評価し た.また治療法(腱移植 2 例,腱移行 5 例)により 成績に差があるのかを検討した.術後経過観察期間 は 6 か月∼1 年であった. 【結 果】 症例ごとの結果を表 2 に示す.Buck-Gramcko 法 での評価では,優 5 例,良 1 例,可 1 例であった. 腱移植と腱移行を比較すると腱移植は 2 例とも優で あった.腱移行は優 3 例,良 1 例,可 1 例で,腱移 行の成績も比較的良好であった.良,可となった症 例では母指 IP 関節の屈曲障害がやや残存したため totalの点数が低下した(図 1). さらに,FPL 機能度では腱移植が腱移行を上回っ たが,%TAM においては腱移行が腱移植を上回っ た(図 2).このように,腱移行の成績は腱移植と 比較しても劣らないと考えられる. Hand20での比較では腱移植 2 例の平均が 50 点, 腱移行は 5 例中回答を得た 3 例の平均で 20 点であ った(図 3). 症例呈示 症例:61 歳,女性 主訴:右母指屈曲障害 現病歴:転倒し両側橈骨遠位端骨折を受傷した. 両側とも掌側ロッキングプレート固定を行った.術 後 6 か月経過するころ,右母指の屈曲障害が出現し 図 2 FPL 機能度では腱移植が腱移行を上回ったが, %TAMにおいては腱移行が腱移植を上回った. 図 3 Hand20 での比較では腱移植 2 例の平均が 50 点,腱移行は 5 例中回答を得た 3 例の平均で 20点であった. 図 1 術後経過観察期間 6ヶ月∼1 年の時点で Buck-Gramcko法で評価.優 5 例,良 1 例,可 1 例. 腱移植と腱移行を比較すると腱移植が 2 例と も優であった.腱移行は良,可を 1 例ずつ認 めたが,腱移行の成績も比較的良好であった. 表 2 術式と術後の評価

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橈骨遠位端骨折後の長母指屈筋腱断裂に対する治療経験 587 たため当院紹介受診となった. 身体所見:母指は MP 関節屈曲位でも伸展位で も IP 関節は自動屈曲不可能であった. 右 FPL 断裂の診断で屈曲障害出現から 1 か月後 に手術を行った.

手術所見:FPL は Kleinert の zone 分類で,zone 4 で断裂しており,近位断端の滑走が 20mm 以下で 不良であったため,腱移植ではなく環指 FDS を用 いた腱移行術を施行した.手根管を開放し,FPL 遠 位断端と環指 FDS を interlacing suture で縫合した (図 4). 術後経過:術後手関節の痛みが 3 か月程続いたが, 術後 6 か月での評価で,母指 ROM は自動で MP 関 節屈曲 72゜,伸展 -32゜,IP 関節屈曲 54゜,伸展 30゜であ り,Buck-Gramcko 法で優,FPL 機能度 77.1%,%TAM 67.1%であった.可動域制限はほとんど目立たず, 健側と比較しても遜色ないことがわかる(図 5). 【考 察】 Urbaniak,Goldner は FPL 断裂の治療方法として 端々縫合,腱移植,腱延長,腱移行を挙げており,腱 移行は他に比べて成績が劣ると報告している1) 一方,Schneider らは FPL 再建の方法について, 腱移行が腱移植の代替法として Urbaniak,Goldner の報告よりも良い成績であったと報告している2) Posnerは FPL の腱鞘内の慢性傷害では FDS を用 いた腱移行が腱移植の代替となるとしている3) 以上より,腱移行は腱移植より劣るとはいえず, ときにその代替法として選択されるといえる. 特に FPL 断裂後長期に経過している際には,FPL の筋自身の不可逆変化のため十分な滑走距離が得ら れない.また FPL が徐々に損傷していき断裂に至 るケースでは,断裂部周囲に瘢痕組織の増生を認 め,腱周囲の癒着が強く腱滑走障害を呈する場合が 多い.このような場合,腱移植をおこなっても成績 は不良となることが予想されるため,腱移植ではな く腱移行を行う事で腱移植に劣らない良好な可動域 を得る事ができる,よって,FPL の再建では腱移植 だけでなく腱移行も念頭におく必要がある. さらに,橈骨遠位端骨折に対して手術を行い,骨 癒合前に FPL 断裂をきたした場合,若林らは PL を 用いて腱移植を行い,同時に抜釘とピンニング,ギ プス固定を行い治療したと報告している4).このよ うに,FPL 再建を重視し,早期に抜釘およびピンニ ングによる骨接合と腱移植術を行ってもよいが,骨 癒合を優先させ,骨癒合を確認してから抜釘と腱移 行を行っても成績に変わりはないと考えられる.す なわち,骨折が不安定な場合など,骨癒合を待って から待機的に FPL 再建を行えばよいといえる. また,橈骨遠位端骨折の保存治療後に骨折の変形 治癒が原因で FPL 断裂を生じた場合,腱移植では 断裂前と腱の走行が同じなので再断裂の危険性があ る.そのため,同時に橈骨矯正骨切りおよび骨移植 図 4 術中所見:FPL は Kleinert の zone 分類で ZoneⅣで断裂しており,掌側ロッキングプ レートは抜釘.FPL 近位断端の滑走が不良 であったため,腱移植ではなく環指 FDS を 用いた腱移行術を選択し,FPL 遠位断端と FDSを interlacing suture で縫合した. 図 5 術後 6ヶ月経過時.右が患側であるが可動 域制限はほとんど目立たず,健側と比較し ても遜色ないことがわかる.

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橈骨遠位端骨折後の長母指屈筋腱断裂に対する治療経験 588 を行ったり,腱断裂の原因となり得る骨性隆起を切 除するといった処置が必要と考える.一方,腱移行 では断裂前と腱の走行が変わり,FDS は FPL より 浅層を通るため再断裂の可能性は低くなると考えら れる. 【まとめ】 橈骨遠位端骨折後に FPL 断裂を生じた 7 例 7 手 を経験した. 腱移行 5 例,腱移植 2 例を行い,ともに術後良好 な結果を得た. 腱移植が困難な症例でも腱移行を行う事で良好な 関節可動域の獲得が期待できる. FPLの再建では,腱移植だけでなく腱移行も念頭 におく必要がある. 【文 献】

1) Urbaniak JR, et al. Laceration of the Flexor Pollicis Lon-gus Tendon: Delayed Repair by Advancement,Free Graft or Direct Suture. J Bone Joint Surg Am 55: 1123-48, 1983.

2) Schneider LH, et al. Restoration of flexor pollicis longus function by flexor digitorum superficialis transfer. J Hand Surg Am 8: 98-101, 1983.

3) Posner MA, et al. Flexor superficialis tendon transfers to the thumb-An alternative to the free tendon graft for treatment of chronic injuries within the digital sheath. J Hand Surg Am 8: 876-81, 1983.

4) 若林 徹ほか.橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキン グ・プレート固定術後早期に長母指屈筋断裂を生じた 1例.中部整災誌 55: 399-400, 2012.

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日手会誌(J Jpn Soc Surg Hand),第 31 巻 第 5 号 589-592,2015

橈骨遠位端骨折に合併した尺骨遠位端骨折に対する治療

成績 ―積極的固定を行わない治療選択に関して―

丹羽智史,建部将広,三竹辰徳,能登公俊,田中健司,浦田士郎

橈骨遠位端骨折に対し掌側ロッキングプレート固定を行った 264 例中,尺骨遠位端骨折を合併した 26 例 に関して,治療成績を検討した.尺骨に対して,6 例は内固定なし,20 例は鋼線固定のみであり,その治療 成績の比較検討もおこなった.感染を生じた 1 例以外は,平均 5.0 週で骨癒合を得られた.単純 X 線像での ulnar varianceは平均 0.1mm 減少し,2 例に 2゜以上の尺骨尺屈変形を,3 例に 2mm 以上の DRUJ の開大を 認めた.最終調査時の手関節可動域は掌背屈 118゜,回内外 152゜,握力は健側比 64%であった.Mayo wrist scoreは平均 82.0 点で,excellent 5 例,good 15 例,fair 6 例であった.固定なし群と鋼線固定群で成績に差 は認めなかった. 【緒 言】 橈骨遠位端骨折に合併する尺骨遠位端骨折の治療 法に関しては,一定の見解は得られていない.近年 は各種プレートにて強固な固定を行った報告が散見 される一方,一期的尺骨頭切除や固定不要という報 告もあり,まとまった成績報告は未だ少ない.当院 では,橈骨遠位端骨折に対し,掌側ロッキングプレ ート(VLP)にて強固に固定し,尺骨の状況により 内固定なしか鋼線固定にて治療を行ってきた.その 治療成績を比較検討したので報告する. 【対象と方法】 2008年以降当院にて VLP を用いて手術治療を行 った橈骨遠位端骨折 264 例中(平均年齢 57.9 歳(18 ∼88 歳)),尺骨遠位端骨折を合併した 26 例を対象 とした.男性 6 例,女性 20 例,平均年齢は 71.5 歳(24 ∼88 歳),平均観察期間は 8.3 か月(5∼17 か月)で あった.橈骨遠位端の骨折型は,AO 分類において A2:8 例,A3:7 例,C1:1 例,C2:4 例,C3:6 例 であり,typeB はなかった.尺骨遠位端の骨折型は, Biyani分類1)(図 1)において type 1:7 例,type 2: 9例,type 3:5 例,type 4:5 例であった.尺骨に対 する術式は,橈骨固定後の不安定性を参考に,個々 の術者の判断に応じて決定した.内固定なし6例(図 2A),鋼線固定 20 例(図 2B)であり,これらを二

群に分けて検討を行った.外固定は掌背屈中間位の short arm castとし,平均 14.0日(2∼35日)であった.

単純X線写真に関しては,正面は肩関節外転90度, 肘関節屈曲 90 度,側面は肩関節外転 0 度,肘関節 屈曲 90 度,回内外中間位での撮影とした.volar tilt (VT),radial inclination(RI),ulnar valiance(UV),

DRUJ gap,ulnar metaphyseal angulation(橈屈方向 が+)の各指標について計測し,骨癒合までの期間 を検討した.臨床成績に関しては,手関節可動域(背 屈,掌屈),前腕可動域(回内,回外),握力,Mayo wrist scoreを評価項目とし,合わせて合併症に関し ての調査もおこなった. 2群間比較の統計学的な検定ついて,性別は Fish-受理日 2014/10/06 安城更生病院 〒446-8602 愛知県安城市安城町東広畔 28 番地 図 1 Biyani 分類

表 2  Cooney’s score における Fair 症例の要因表 1  最終観察時における手関節可動域
図 5  症例供覧(術前)
図 4  スクリュー突出長と Mayo Wrist Score
図 1a  受傷時 図 1b  術直後.橈骨・尺骨とも 1.8mm
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参照

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