はじめに
最近の心臓CTは、レトロスペクティブ心電図同期ヘ リカル撮影から、プロスペクティブ心電図同期撮影へ と大きな転換が図られようとしている。その主たる理 由は、レトロスペクティブ心電図同期ヘリカル撮影にお ける心臓CTの被曝の多さに警鐘を鳴らす声が上がった ことであり、プロスペクティブ心電図同期撮影では、拡 張中期の決まった心位相でのみ曝射を行うことで大幅 な被曝低減を図ることができる。64列CTではプロスペ クティブ心電図同期撮影を行う場合には、テーブル移動 (ステップ)と曝射(シュート)を複数回繰り返す必要があ るが、1回転で心臓全体をカバーできる320列CTではス テップを行う必要がない。このことは64列CTによる心 臓CTにおけるいくつかの限界を打ち破ったことを意味 する。すなわちヘリカル再構成からの脱却による画質向 上、1回転で心臓全体データを収集できることによる時 間的均一性の向上、テーブル移動がないことによる階段 状アーチファクトの消失である。320列CTによるこの ような特長が冠動脈評価やCTによる心筋血流評価にお いて、どのような恩恵をもたらし、どういった問題点が 残っているのかについて述べたい。4.Beyond 64-slice MDCT
4-2.320列CT
北川 覚也,佐久間 肇
三重大学医学部附属病院 中央放射線部320 detector-row CT
Kakuya Kitagawa, M.D., Hajime Sakuma, M.D.
Summary
There have been great improvements in image quality that have improved test accuracy in cardiac computed tomography (CT) in recent years.As detector arrays have widened, prospective ECG-gating for CT angiography has been applied in order to reduce radiation dose.In contrast to the current 64 row systems,320 detector-row CT with full cardiac coverage allows for cardiac imaging in a single beat with a temporal resolution of 175msec.This technology facilitates some of the great advantages that can be obtained by full cardiac coverage.Elimination of step artifacts and variations in contrast enhancement has improved image quality.Excellent coronary CT angiogram can be obtained even in patients with arrhythmia if retrospective ECG-gating with segment reconstruction is applied.Reductions in overall radiation and contrast dose contribute to improved patient safety.Moreover, reduced radiation and contrast dose together with elimination of variations in contrast enhancement allow the combination of coronary CT angiography with myocardial perfusion imaging, which demonstrates the functional significance of coronary artery stenoses detected by CT angiography.We review the technical aspects of 320 detector-row CT and discuss the implications for coronary angiography and perfusion imaging.
Department of Radiology, Mie University Hospital
320列CTの特長
2010年1月の時点において、320列CTと呼ばれる装置 は、2007年11月に東芝から発表されたAquilion Oneし か存在しない。この装置は0.5mm厚の検出器がZ軸方向 に320列並べられており、テーブル移動なしに体軸方向 16cmをスキャン可能な唯一のCT装置で、area detector CT(ADCT)、dynamic volume CT(DVCT)などと呼称 されることもある。体軸方向16cmは、脳、心臓を1回 転で捉えるのに十分なスキャンレンジである。冠動脈バ イパスグラフトや大動脈など、より広範囲の撮影が必 要な場合には、ステップ&シュートもしくはヘリカルス キャンを使用することができる。ガントリー回転速度は 350msecであり、1心拍撮影ではハーフ・スキャン再構成 を用いて175msecの時間分解能となる。プロスペクティ ブ心電図同期撮影、レトロスペクティブ心電図同期撮影 とも可能であるが、心電図同期なしにダイナミック撮影 を行うことも可能でこの方法は関節の動きの評価などに 用いられる場合がある。 Z軸方向のスキャンレンジを拡大した場合に大きな問 題となるのが、コーンビーム・アーチファクトである。 従来のCT画像再構成は、1回転から得られた画像デー タは平面上に存在するという前提のうえで行われるが、 MDCTの場合、ガントリーのアイソセンタを除き、X線 源から検出器への1回転分の投影は平面ではなく、円錐 (コーン)表面を形成する。コーンビーム・アーチファク トとはこの現象により生じるバンド状のアーチファクト で、ガントリーのアイソセンタから離れれば離れるほど 顕著となる。64列CTにおけるコーン角1.53°でもコーン ビーム・アーチファクトはみられるが、320列CTではコー ン角15.2°と非常に大きいため診断の妨げとなるほどの アーチファクトが発生する。このため、Aquilion Oneに はConeXactと呼ばれる新しい再構成法が用いられ、臨 床上問題のないレベルまでコーンビーム・アーチファク トの補正が行われている。 心臓全体を1回転で撮影できると、64列CTと比べて いくつかの利点がある。第一に風車状アーチファクトの ようなヘリカル再構成に特有のアーチファクトがなくな るため、画質の向上が期待できる。また石灰化に伴うブ ルーミングアーチファクトも低減される。第二に心臓全 体の画像再構成に必要なすべてのハーフスキャンデータ を同一心拍から得ることができるので、階段状アーチ ファクトが存在せず、画像の時間的均一性が高い。この 時間的均一性の高さは心筋血流評価において大きなアド バンテージとなる。320列CTに よ る
冠動脈CT撮影プロトコール
320列CTでの冠動脈CT撮影プロトコール選択にあ たっては、まず心機能評価を行う必要の有無により、プ ロスペクティブ心電図同期撮影を行うかレトロスペク ティブ心電図同期撮影を行うかを決定する。プロスペク ティブ心電図同期撮影を行う場合、拡張中期に絞った曝 射を行い、放射線被曝を低減する。一方、レトロスペク ティブ心電図同期撮影では、RR間隔全体に渡ってデー タ収集を行うことで、任意の心位相画像の観察が可能と なるが、被曝は多くなる。次に時間分解能を選択する。 1心拍撮影を行う場合、プロスペクティブ、レトロスペ クティブ、いずれの心電図同期撮影を選んでも時間分解 能は175msecに固定されるので、2〜3心拍の撮影を行っ てセグメント再構成による時間分解能の改善を図る必要 があるかどうか、撮影時の心拍数や許容できる被曝量に 基づいて判断する。 320列CTの特長を最大限に生かした撮影プロトコー ルは、プロスペクティブ心電図同期による拡張期に的 を絞った1心拍撮影であり、ヘリカルアーチファクトや 階段状アーチファクトがなく、非常に高い時間的均一性 をもつ高画質の冠動脈CTAを従来の1/4程度の被曝で得 ることができる1)(図1)。このプロトコールで良好な結 果を得るには65bpm以下の安定した心拍が必要なので、 われわれの施設では検査1時間前のβブロッカー内服(メ トプロロール40〜80mg)をルーチンに行っている。 一方、3心拍のレトロスペクティブ心電図同期撮影を 行えば、高心拍症例や不整脈、心房細動などで心拍変動 の激しい症例であっても、ほぼ確実に冠動脈全体の良好 な画像を得ることができる(図2)。3心拍分のデータが あれば、任意の1心拍を利用したハーフ・スキャン再構 成、3心拍中任意の2心拍によるセグメント再構成、3心 拍すべてを利用したセグメント再構成を、任意の心位相 について行えるためである。これは320列CTの大きな 利点ではあるものの、64列CTによるレトロスペクティ ブ心電図同期撮影と同程度以上の放射線被曝を伴うた め、われわれは必要と考えられる症例にのみ用いている。放射線被曝と造影剤使用量
320列CTを用いた冠動脈CTの被曝は、何心拍分のデー タを撮影するかに依存する。初期の報告によると、1心拍 撮影でRRの65〜100%を再構成できるような曝射を行っ た場合の被曝線量は5.7+/-1.7mSv、 2心拍撮影(30〜90% RR)の場合 13.0+/-3.3mSv、3心拍撮影(30〜90%RR)の 場合19.5+/-5.3mSvとなっている2)。その後の研究で最 低72〜81%RRの画像再構成ができれば95%以上の冠動 脈セグメントを評価可能なことが示されており3)、撮像 ウインドウを絞り、体重に応じて適切な電圧や電流を選 択することにより平均4mSv程度まで被曝低減を行うこ とが可能である1)。 CTによる冠動脈撮影では、撮影中の冠動脈内の造影 剤濃度を高く保つ必要がある。64列CTでの撮影時間は 10秒程度であるが、320列CTでは1秒未満に短縮され るため造影剤量を削減できる。Heinらの報告によると、 40mL(平均0.52mL/kg)の高濃度ヨード造影剤を5mL/秒で 注入し50mLの生理食塩水で後押しすることで、良好な 冠動脈画像が得られる4)。わが国からは、0.7mL/kgを10 秒で注入するプロトコールで十分なコントラストが得ら れるとの報告がみられる5)。64列CTによる冠動脈CT撮 影では高濃度製剤が0.9mL/kg程度必要6)といわれること を考えると、造影剤量をかなり減少できることがわかる。 図2 LADの慢性閉塞に対する再潅流治療前のマッピングを目的とした撮影 ベースラインの心拍数が95bpmあるうえ,期外収縮が頻発していたため,3心拍撮影を選択. 撮影中にも期外収縮が生じ,心拍は73〜135bpmの間で変動したが(A),2心拍のセグメント再 構成を行い良好な冠動脈画像を得た(B). A B 図1 320列CTを用いて1心拍撮影を行って得た右冠動脈の Stretched CPR画像 階段状アーチファクトのない高画質の冠動脈画像が得られる.320列CTの冠動脈狭窄診断能
320列CTの冠動脈狭窄診断能に関しては、冠動脈疾 患疑い患者30名においてX線冠動脈造影と比較した結 果がDeweyらにより報告されており、患者レベルでの 感度、特異度が 100%、94%、血管レベルでの感度、特 異度が89%、96%、セグメントレベルでの感度、特異 度が78%、98%と報告されており、これは64列CTによ る診断能と同程度の成績である1)。最近では320列CTに よる冠動脈CTが造影剤ボーラス注入後のある瞬間のス ナップショットであることを利用して、冠動脈近位部か ら遠位部にかけての造影剤濃度勾配から冠動脈血流に関 する生理的情報を得る試みも行われている7)。MDCTによる心筋血流評価の可能性
MDCTは非侵襲的な冠動脈の形態評価を実現したが、 これまでの心臓CT検査では狭窄病変の機能的重症度を 評価することはできない。最近の大規模臨床試験では、 心筋虚血を示さない中等度冠動脈狭窄に対して冠動脈 インターベンションを行っても患者予後を改善すること はできないことが明らかになっており、心筋虚血の有無 や重症度の評価が、治療方針決定において重要な位置を 占める。今日、心筋虚血の評価には心筋血流SPECTが 一般的に用いられているが、SPECTには偽陽性が比較 的多く、その一方で多枝病変に対する診断感度が低いと いう欠点が知られている。最近、冠動脈CTと心筋血流 SPECTのフュージョン画像の有用性を示す報告がみら れるが、このアプローチには検査コストが高く、被曝も 多いという問題があるため8)、CT単独による冠動脈狭窄 と心筋血流の同時評価に大きな期待が寄せられている。 CTによる心筋血流評価では、造影剤急速静注後の心 筋ファーストパスを利用する方法が有望視されている。 ジョンス・ホプキンス大学の研究グループにより2006年 から2007年にかけて冠動脈疾患疑い患者40名を対象に 行われた64列CTと256列CTを用いた臨床研究では、X 線冠動脈造影と心筋血流SPECTのコンビネーションを ゴールドスタンダードとして、冠動脈CTと心筋血流CT のコンビネーションの心筋虚血を伴う冠動脈狭窄に対す る診断能の検討が行われ、感度86%、特異度 92%、陽 性的中率92%、陰性的中率85%との結果が報告されて いる9)。またマサチューセッツ総合病院からは時間分解 能 83msecのデュアルソースC Tを用いて、βブロッカー やニトロ製剤を使用せず、負荷時、安静時のパーフュー ジョンCTと造影遅延相の撮影を行い、冠動脈狭窄、心 筋虚血、心筋梗塞の総合的な評価が可能であるとの報告 があり、SPECTに匹敵する心筋虚血診断能が示されて いる10〜11)。われわれは心筋血流アンモニアPETをゴー ルドスタンダードとして、64列CTによる負荷心筋パー フュージョンCTの虚血診断能を評価した。虚血性心疾 患疑い患者20名の検討において、MDC Tでの血流欠損 はPETで示される血流欠損と比べるとサイズが小さかっ たものの、虚血の有無の判定に関しては92%の一致率 を示し、MDCTは冠動脈病変の機能的狭窄度の評価に 有用と考えられた(図3)。64列CTによる血流評価の限界と
320列CTへの期待
前項で述べたように64列CTを用いて比較的良好な心 筋虚血診断能が報告されているが、64列CTによる心筋 パーフュージョンCTには以下に述べるようにさまざま な限界があるため実際に臨床利用している施設はほとん どない。ここでは64列CTでの問題点をあげるとともに、 320列CTによってそれがどのように改善されるかを述 べたい。 第一の問題は被曝である。心筋パーフュージョンに限 らず、CTでは被曝を抑えるため、必要最小限の撮影を 行うことが求められるが、心筋虚血の評価を目的とし て安静時と負荷時の2回の撮影を行う場合には被曝量が 過大にならないよう特に注意する必要がある。1回の冠 動脈撮影の被曝が64列CTの1/4(4mSv)程度である320 列CTを利用すれば、安静時と負荷時の撮影を行っても、 SPECTを追加する場合と比べて被曝は少なくて済む。 第二の問題はモーションアーチファクトである。心臓 CTにおける最優先事項は高画質の冠動脈CTを得ること にあるが、64列CTで負荷パーフュージョンCTを行うと、 負荷薬剤による心拍数増加が冠動脈CTの画質低下をも たらしてしまう。また、CTでみられるモーションアー チファクトは、壁の連続性を失わせたり、広範囲に信号 を低下させたりし、心筋信号の評価を困難なものとする (図4)。320列CTを用いて、安静時と負荷時の2回撮影 を行えば、負荷に伴う冠動脈CTの画質劣化の問題は解 決される。負荷時CTによる心筋虚血評価に関しては心拍数増加に伴うモーションアーチファクトの問題は残る が、64 列 CTでみられるヘリカルアーチファクトや階段状 アーチファクトはなくなるので、画質向上を期待できる。 第三の問題として、心内腔や大血管内の高濃度造影 剤から生じるビームハードニング効果が挙げられる12)。 ビームハードニングアーチファクトの代表例は左室と胸 部下行大動脈の間で下壁に生じる低吸収化で、左室短 軸像を構築すると、あたかも右冠動脈領域の虚血がある ようにみえる(図5)。典型的な部位では、軸位断像をみ ることでアーチファクトと診断するのは困難ではないも 図3 64列CTによる負荷心筋パーフュージョンCT(A)と負荷・安静アンモニアPET(B,C)の比較 心筋血流アンモニアPETでみられる側壁の虚血が,CTでは内膜下の低吸収域として描出されている. 図4 64列CTで撮影した負荷パーフュージョンCTにおけるモーションアーチファクトの例 左室短軸像中央レベル(A)と基部レベル(B).正常冠動脈症例であるが,心筋信号はモーション の影響を受け,安定しておらず,血流評価は困難である. A B A C B
のの、ビームハードニングは画像全体のCT値に影響を 与えているので、造影剤量を正しく反映した心筋CT値 を得るにはビームハードニング補正を行う必要がある。 320列CTには、心筋パーフュージョンに最適化された ビームハードニング補正ソフトウェアアルゴリズムが搭 載されており、ビームハードニングの影響の少ない画像 が提供される(図6)。 このように320列CTは64列CTでは乗り越えられな かったいくつかのハードルをクリアしており、心筋 ファーストパスパーフュージョンCTを行ううえでは現 時点で最適の装置と考えられる。しかし、撮影タイミン グや撮影時相の最適化、βブロッカーの心筋血流への影 図5 ビームハードニング・アーチファクトの例 軸位断(A)および左室基部短軸像(B).軸位断で高濃度造影剤を含む左室と大動脈に挟まれた心筋がビーム ハードニング効果により低信号を示している.このアーチファクトは短軸像で下壁の血流低下と紛らわしい. 図6 正常冠動脈症例におけるビームハードニング補正の例 320列CTは心筋血流評価に最適化されたビームハードニング補正アルゴリズムを搭載し,補正前の画像(A)では 下壁が低吸収を示し心筋虚血を否定できないが,補正後の画像(B)では心筋信号は均一で虚血を疑う所見は 認められなくなっている. A B A B
響など今後検討すべき課題は多く、現時点では心筋虚血 診断能に関する臨床データはほとんどない。この点に関 してはCORE320とよばれる世界15施設による国際共同 研究が2009年9月に始まっている。この研究は、X線冠 動脈造影を予定されている患者400名を対象に、320列 CTによる冠動脈狭窄と心筋虚血の同時評価が、X線冠 動脈造影と心筋血流SPECTの組み合わせにどこまで迫 れるかを検討するものであり、近い将来、320列CTの 心筋血流評価における有用性が多施設共同研究を通して 明らかになるものと期待される。
おわりに
320列CTの最大の特長は、1心拍で心臓全体を撮影し て、ある瞬間におけるスナップショットを得られること にある。そこには冠動脈内の造影剤濃度勾配や造影剤 の心筋ファーストパスといった新しい情報が含まれてい る。そうした機能的情報をいかにして画像から取り出 し、心疾患の診断・患者予後の改善に活用していくかが 今後の課題である。 【参考文献】1) Dewey M,Zimmermann E,Deissenrieder F,et al:Noninvasive coronary angiography by 320-row computed tomography with lower radiation exposure and maintained diagnostic accuracy:comparison of results with cardiac catheterization in a head-to-head pilot investigation.Circulation 120(10): 867-875,2009
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