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変化する労働市場と人材ビジネス

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日本の労働市場における人材ビジネスの役割

経済学部

4 回生 小島修一ゼミナール

小嶌 真則

目 次

はじめに 日本の労働市場の現状 Ⅰ 大学全入時代および新卒売り手市場に対する人材ビジネス Ⅱ 女性・退職者に対する人材ビジネス Ⅲ 外国人労働者に対する人材ビジネス おわりに 人材ビジネスの今後

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はじめに 日本の労働市場の現状

日本の人口が2005 年に初めて前年割れを記録した。一時的な回復は見せたものの, 予測よりも早い人口減尐に加え出生率も低下の一途をたどる中で,将来的に人口は減 尐するとの見方は根強い1 こうした状況の中で,日本の労働市場では様々な変化が起きている。人口減尐に伴う 労働力人口の減尐,団塊世代の大量退職による人材不足,企業のコスト削減による労働 問題,雇用の流動化,外国人流入問題など,ここ近年でめまぐるしい変化を遂げている。 こうした状況を背景に人材ビジネスが活況を呈している。人材派遣・人材紹介を中 心とした人材ビジネスは,バブル経済崩壊後の日本企業のニーズと多様化する労働者 の働き方と合致し,一気に認知度を高めた。いまや日本の経済において人材ビジネスは 欠かせない存在となっている。 「社会の問題があるところにビジネスチャンスがある」(南部靖之パソナ代表取締役 兼代表の話)。これができれば人材ビジネスは日本社会にとって救世主的存在になる。 しかし,民間企業だけでは社会の問題を解決するにも限界がある。労働力人口の減尐は 人材ビジネス業界にも波及しているし,正社員の労働問題は派遣社員が普及した現在 でも起こっている。 この論文では,これらの問題を人材ビジネスが関与することでどのように解決でき るのか,できない場合は行政等とどういった連携が必要か,ということについて論じて いく。 まずⅠの(1)では学生人口減尐に伴う『大学全入時代』について,Ⅰの(2),(3)では団塊 世代大量退職による新卒採用市場の好況について,その企業側と学生側それぞれの問 題点,解決方法を論じる。Ⅱでは今後企業の戦力となる女性・退職者の現状と就業支援 策,またこれらの人材の登用に当たっての課題を論じる。Ⅲでは労働力人口の減尐を外 国人を活用することで補うことのメリット,デメリットを論じたい。

Ⅰ 大学全入時代および新卒売り手市場に対する人材ビジネス

(1) 大学全入時代と人材ビジネス (1) -1 大学全入時代における課題 日本の人口が2005 年に初の前年割れを記録し,人口減尐は目に見える形で起こり始 めた。特に尐子高齢化が進む中で,若年者層の減尐は日本経済に大きな影響を及ぼす恐 れがある。厚生労働省によると,出生率も 1971 年以来減尐を続けており,このままでは 遅くとも2009 年には 0 歳~14 歳人口は 1600 万人台に入り,その後も減尐続ける見通 1 国立社会保障・人口問題研究所は 2002 年に『日本の人口は 2006 年にピークを向か え07 年から減尐し始める』と発表していた。

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しである2。(表 1,グラフ1) <表 1 総人口,年齢 3 区分(0 歳~14 歳,15 歳~64 歳,65 歳以上)別人口 (高出生率中死亡率の場合 > 年次 総 数 0~ 14歳 15~ 64歳 65歳 以 上 2005 127768 17585 84422 25761 2006 127777 17451 83729 26597 2007 127761 17305 83010 27446 2008 127603 17158 82334 28211 2009 127463 16971 81644 28987 2010 127285 16766 81285 29412 2011 127072 16566 81015 29704 2012 126824 16347 79980 30745 2013 126543 16122 78859 31825 2014 126232 15883 77727 32934 2015 125890 15643 76807 33781 2016 125890 15415 76025 34450 2017 125519 15196 75346 34997 2018 125119 15006 74732 35380 人口(1000人) <出所>国立社会保障・人口問題研究所 『日本の将来推計人口(平成 18 年 12 月推計)』 <グラフ 1>出生数及び合計特殊出生率の推移 0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 1947 年 1952 年 1957 年 1962 年 1967 年 1972 年 1977 年 1982 年 1987 年 1992 年 1997 年 2002 年 (人 ) 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 (倍 ) 出 生 数 合 計 特 殊 出 生 率 <出所>国立社会保障・人口問題研究所 HP 厚生労働省 『人口動態統計』 このデータによると2015 年には総人口が 1 億 2600 万人台と,2005 年より 150 万人 以上減尐する。中でも0 歳~14 歳人口は 200 万人弱,労働力人口の中核をなす 15 歳~ 64 歳にいたっては 750 万人以上減尐することになる。出生率も,06 年やや持ち直して はいるが07 年には再び減尐に転じているため,人口増加は見込めない3 こうした人口減尐にもかかわらず,日本の大学数は増加傾向にある。大学設置・学校 法人審議会は来春に新たに10校の新設を認め,これで国公立私立大学を合わせた数 は史上最多の756 校になる。大学数は大学設置基準が緩和された 92 年~2005 年まで に523 校から 756 校に増加し,特に私立大学はこの間に 384 校から 580 校に増えた4 2 数値算出方法については厚生労働省 HP の『推計人口』参照 3 みずほ総合研究所『尐子化と労働市場改革』 (日本経済新聞 10 月 25 日 p 29 参照) 4 私立大学増加分の 9 割は短期大学から4年制大学への移行である。来春新規参入す

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この状況で定員割れ,それに伴い経営が悪化するといった大学が出てきた。05 年に 萩国際大学が定員割れをよる経営悪化で,民事再生法の適用を申請し破綻したことは 記憶に新しい。また福岡の東和大学が2007 年以降の学生募集を停止している。2007 年度定員割れを起こしている5 こうした中で,生き残りかけて大学再編の動きが始まった。慶応義塾大学と共立薬科 大学が合併し,2008 年 4 月に共立薬科大学は慶応大学の薬学部になる。また,関西学院 大学と聖和大学が合併し,2009 年から関西学院大学に教育学部が新設される。自大学 にない学部を他大学と合併することで補完し,より総合化する傾向にある6 また学生を確保するために小学校や小中一貫校を開設し,小学生から囲い込みを図 っている。早稲田大学が2002 年に早稲田実業初等部を開設して以降,同志社や立命館, 関西学院などが小学校や初等部を開校・開設している。また慶応義塾が2011 年以降 に小中一貫校を開設する。これらの大学は都市部や人口増加が見込まれる地域に開校 し,一層の学生確保を図っている7 一方地方大学は厳しい状況にある。定員割れしている私立大学は地方で目立ち,その 中でも中小新興大学の定員割れ著しい。文部科学省も補助金で経営力不足の大学を救 う気はなく,2007 年度から定員割れが続く大学への補助金削減額を広げる。 (1)-2 人材ビジネスによる解決策 大学のアピールポイントは学生の質である。質のいい学生をつくるには講義内容を 充実させる必要がある。質のいい学生は優良企業もふくめ自分の望む就職ができる。 就職率や就職先がいいと学生は集まり,大学は再生できる。 大学の卒業生の就職率,就職先というのは,大学受験を控えた高校生にとっては非常 な重要な判断材料である。卒業生の就職率を上げることは,高校生に最大のアピールに なる。また,不況時に高就職率を残すことができれば,世間の見る目も変わってくるの で,その後の学生を確保しやすくなる。 高就職率を残すためには,学生の質を上げること,企業にとって魅力的な人材を養成 することが必要である。大学全入時代で学生の質の低下が言われているが,企業はその 中でも優秀な人材を採用しようとしている。企業が求める能力を備えた学生を養成で きれば就職率は上がる。<グラフ 2> るのは保健医療経営大学<福岡県みやま市)だけである。合理的な動機に基づいていな いため,開校初年度から定員割れを生じる大学もある。 清成 忠男『私大破綻防ぐ改 革を』(日本経済新聞 2007 年 9 月 3 日 朝刊),日本経済新聞 11 月 27 日 夕刊 p22 5学校法人活性化・再生研究会『私立学校の経営革新と経営困難への対応-最終報告-』 (日本私立学校振興・共済事業団 2007 年 8 月 1 日 p5),乾達「大学淘汰-「合併」の 深層を探る」 (『週刊エコノミスト』1 月 16 日 p19) 6 「大学淘汰-「合併」の深層を探る」(『エコノミスト』2007 年 1 月 16 日号 p18~24) 7 日本経済新聞 2007 年 11 月 9 日 朝刊 p3

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<グラフ 2 採用に関して重視する項目 > 22.6 25.9 26.7 28.3 28.7 32 36.4 44.1 44.1 44.1 44.5 44.9 45.7 46.6 48.2 50.6 53.4 63.5 64 81.7 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 独自性・個性 専攻・専門知識 表現力 リーダーシップ 創造性 自立心 一般常識 企業への意欲・興味 考察力・論理的思考能力 マナー・礼儀 協調性 基礎学力 向上心 誠実さ・信頼感 粘り強さ・責任感 熱意 行動力 積極性 仕事への意欲 対人コミュニケーション力 (%) <出所> ダイヤモンド・ビッグ&リード 2007 年 7 月 対人コミュニケーションや積極性などは一方通行の講義では身につかない。尐人数 講義で,話し合って物事を決める訓練やひとつのことをやり遂げる訓練を取り入れる べきである。仕事への意欲は業界研究や仕事研究をしっかりさせることや,自己分析を しかりさせることなどで興味と意欲を持たせることができる。 基礎学力は大学の講義で学ばせるものであるが,教科書だけをやるのではなく,実際 の社会で役に立つということを認識させることで学生にやる気を持たせたい。 アメリカやオーストラリア,ヨーロッパでは,「何を教えるか」ではなく,「何をでき るようにさせるか」という学習成果を重視する考え方に変わってきている8。このよう な教育を日本でもすべきである。これを行って結果を出せば地方大学でも学生は集ま るはずである。 そのためにカリキュラムや講義内容に人材ビジネスが入り込んでいくことが必要で ある。社会が必要とする能力を身に着けられる講義を,人材ビジネス企業と大学が連携 して行うべきである。相互に連携しつつ知識は大学側,能力は人材ビジネス企業側が主 体で行って,より質の良い学生を輩出することがブランド価値をあげることにつなが る。一朝一夕でできるわけではないので,地道にやって結果を出さなければならない。 ただ,一番重要なことは大学がしっかりとした教育方針を持ち続けることである。な りふり構わぬ学生集めに奔走するのではなく,しっかりと目的を持って行動しなけれ ばならない。「日本の大学は社会貢献に汗を流す人材を育てるという草創期の志を忘れ てしまった。私立大学は“志立”であるという原点に戻らなくては」(奥島孝康前早稲 田大学総長)と話すように,ポリシーを明確にすべきである。 8 木村 猛『大学改革をめぐる中教審報告』 2007 年 11 月 19 日 日本経済新聞

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(2) 売り手市場と人材ビジネス 売り手市場のなかで企業はより優秀な人材を採用しようと躍起になっている。09 年 の就職戦線(採用戦線といったほうが正しいかもしれない)では,企業が 10 月から一斉 に3 年生に対し攻勢に出ている。優秀な人材を確保するためには,一定水準の応募者数 を集めることが前提であり,説明会でどれだけ人数集めるかが勝負の分かれ目との見 方もある9 団塊世代の大量退職や企業の好業績により,新卒採用市場はバブル経済以来の好況 を呈している。企業の学生に対する求人数は増え続け,有効求人倍率は 08 年大学卒業 生に対して2 倍を超えた<グラフ 2>。 しかし,従業員規模別で見ると 1000 人以上の企業は,4,22 倍と高水準だが,1000 人未 満の企業では0.77 倍と,規模によってかなりの開きがある<グラフ 3>。この状況下 での大手,中小企業と学生の問題をそれぞれ考える。 <グラフ 2 求人総数・民間企業就職希望者数・有効求人倍率 > 1.45 1.68 1.25 0.99 1.09 1.33 1.3 1.35 1.37 1.6 1.89 2.14 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 (万 人 ) 0 0.5 1 1.5 2 2.5 (倍 ) 求 人 者 数 民 間 企 業 就 職 希 望 者 数 求 人 倍 率 <出所>リクルートワークス 『第 24 回ワークス大卒求人倍率調査(2008 年卒)』 <グラフ 3 従業員規模別大卒求人倍率の推移> 2.01 2.73 3.11 1.88 1.55 1.78 2.36 2.3 2.55 2.53 2.77 3.42 4.22 0.32 0.36 0.54 0.57 0.49 0.48 0.53 0.52 0.5 0.56 0.68 0.75 0.77 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 1996 年 1997 年 1998 年 1999 年 2000 年 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 (倍) 1000人以上 1000人未満 <出所>リクルートワークス 『第 24 回ワークス大卒求人倍率調査(2008 年卒)』 9 日本経済新聞 2007 年 10 月 28 日 朝刊 p1 参照

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(2)-1 大手企業 団塊世代の退職,企業の好業績に伴う売り手市場において,大手企業でも人材確保は 楽ではない。説明会を前倒しして開催する企業や地方開催を開始する企業が出てきて いる。 しかし,大手企業は学生を採用するのに手間がかかるようだ。企業は規模の大小を問 わずやる気のある人材を欲する。ところが,大手企業になると,ネームバリューだけで 応募してくる学生が多い。これらの学生も選考しなくてはならないので,無駄なコスト がかかる。 またこれは中小企業にも言えることだが,この売り手市場において競合他社よりも 魅力的に見せなければ,内定を出しても辞退されてしまう。 (2)-2 中小企業 2005 年時点での中小企業数は 383 万 8087 社である。この売り手市場の中で,人材 を大手企業に持っていかれている感があり,2005 年度では目標採用数まで達しない企 業が半数近く出ている10。雇用者数も30 人未満や 30 人以上 500 人未満の企業で前年 割れを記録している。一方,中小企業でも 500 人以上の企業は雇用者が前年を上回って おり,中小企業内でも規模によって状況が違うようだ。 また人材不足分を補うためや新卒の育成費用を抑えるために中途採用を実施企業も あるが,これも規模が小さくなるほど行っていない11 (2)-3 学生 有効求人倍率が2 倍を超える売り手市場の中で,学生側に自分で行きたい企業が選 べない者が増加している。売り手市場から切迫感が薄れ,企業研究・分析を怠るためで ある。こうした状況を踏まえてか,企業は学生に対し業界や就職活動情報などを積極的 に提供している。さらにセミナー等で業界研究や自己分析の支援をする企業まで出て きている。 また,内定が出ない学生は依然として存在する。バブル期の採用と違って企業は厳選 採用の方針を採っているため,内定を取れる学生は複数もらえるが,1 年たってももら えない学生もいる。12 (3)人材ビジネスによる解決法 (3)-1 大手企業と中小企業に対する解決法 大手企業は新卒採用に関して,ほぼ採用予定人数を満たしているので人材確保とい う点では問題ない。しかし,いかにしてやる気のある人材だけを選考の場に進ませるか という問題がある。中小企業はいかにして人材を確保するか,人材の育成などの費用を 10 『労働市場のタイト化と中小企業の新卒採用戦略』 (社団法人 中小企業研究セ ンター 2007 年) 11 リクルートワークス 『中途採用動向』 2007 年 12 日本経済新聞 第 2 部 11 月 6 日参照

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どう負担するか等の問題がある。 両方の企業にとって共通に有効な手段はインターンシップである。大学のインター ンシップの実施率は年々増加しており,今後も増加が見込まれる13。インターンシップ で実際の業務を体験することで,その会社に対する先入観を改めさせ,いい面とつらい 面の両方を知ってもらう。 インターンシップは学生,企業ともにメリットがある。実際の業務内容を体験するこ とで,ミスマッチをなくし入社後の早期離職を防ぐことができる。また,インターンシ ップ期間中に優秀な人材を見つけられる可能性がある14。中小企業にとって早い段階 から学生にアプローチをかけることは必要である。 インターンシップの準備にかかる時間と人的コストを人材ビジネス企業が負担すれ ば,受入れ企業側の負担も減り長期間の実施も可能になるのではないか15 ただ,人材ビジネス企業にとっては利益をどう出すかが問題になってくる。企業から 代金をとることはできるが,学生からはそれほど額は取れない。大学と契約する場合も, 大学と企業が直接契約する額よりも低く設定しなければならない。これは今後の検討 課題である。 また中小企業にはセミナーや説明会の積極的実施を促す必要がある。中小企業の中 には「採用活動にまったくお金をかけたがらない企業もある」(ディスコ採用広報)の で,これらの企業に新卒を育てることの重要性を説いて,いかに動かすが重要になって くる。特に学内セミナーは効果がある。大学に赴くことで学生側は「この企業はうち の学生に興味がある」と強く感じるため,興味を持ちやすい。 セミナーや説明会は非常に重要である。いいセミナーができれば口コミで評判は広 がり,それだけでも学生は集まる。だが,逆も然りである。セミナー,説明会の出来,不出 来は優秀な人材確保に大きく作用する。 ここで,人材ビジネス企業がどんなセミナーが学生をひきつけるかを教える。ひたす ら説明するだけのセミナーよりも体験型のセミナーの方が学生には印象が良い。学生 受けがよく,伝えたいこともしっかり伝わるような内容を人材ビジネスを中心に練っ て,それを元に運営すると採用ノウハウがなくてもうまく出来るだろう。 (3)-2 学生に対する解決法 まず,学生の就職活動に対する切迫感のなさを是正するために,厳しい現実を伝えな ければならない。厳選採用の結果,「人気企業は依然として狭き門」,「入れる企業は 13経済産業省『大学と企業のためのインターンシップガイドブック』2006 年 3 月 p2 14 現在大手企業では採用を前提としたインターンシップは行われていない。これは倫 理憲章の「卒業学年に達しない学年に対して,面接などの実質的な選考活動を厳に慎 む」という項目に抵触しかねないからである。しかし,インターンシップ自社で受けた 者が選考で合格しやすい傾向はあるようだ。 長野 仁「企業の人材採用の変化-景気 回復後の採用行動」(『日本労働研究雑誌』2007 年 10 月号 p9) 15経済産業省『大学と企業のためのインターンシップガイドブック』2006 年 3 月 p2

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数多くあるが入りたい企業に入れるかは別問題」という意見が多い。また,1 年やって も内定が 1 社もない学生の数は例年と変わらない16。この事実を如何に伝えるが就職 活動に対する心構えを変えるポイントになる。 また就職することが目標ではないこと理解させなければならない。就職することは スターラインに立つことであり,その企業で活躍することが大事である。合わなかった ら転職すればいいという話も聞くが,何も身についていなければ転職は出来ない。自分 なりの目標を持って就職先を決めるということ伝えなければならない そのためにもしっかりとした自己分析や業界分析・研究の支援を大学と連携して行 わせることが重要である。丁寧かつ分かりやすい分析方法を教えることが重要である が,ただ教えるだけでは効果はない。見慣れない難解な言葉や大量の数字と向き合うと, それだけで嫌気がさすというのが本音である。 人材ビジネス企業は大学と連携し,3 年次の講義の中に業界分析講義などを取り入れ るのも手段である.学生に自分の興味のある企業について,調べるポイントを教えた上 で資料を集めさせる。そして,集めたデータからどういうことが言えるのかを教え,今 後の動向についてアドバイスなどを行う.また,大学ホームページ上に簡単に業界分析 できるシステムの構築し学生自ら動くように導くなどのサポートを行い,学校と連携 をより強めていく.そのなかで新たなビジネスチャンスも生まれてくる可能性もある.

Ⅱ 女性・退職者に対する人材ビジネス

人口減尐社会に世界の先陣を切って突入した日本は労働力人口減尐ペースも世界で 類を見ない速さである.労働力人口の減尐はこのままでは 2030 年に 1070 万人減尐し 5580 万人になる見通しである17.従来の仕組みでは社会形成を維持するのが困難な状 況だ. この労働力人口の減尐を補うために,女性,退職者を活用していかなければならない. ここでは女性と高齢者を有効に活用できるようにするために,人材ビジネスに何がで きるか考える. (1) 女性に対する就業支援 日本は出産を期に女性の 7 割が仕事をやめる世界でも異例な国であるが,現在で家 事や子育てを理由に仕事をあきらめている人は 350 万人にのぼる.この潜在的労働力 を有効に利用すべきである. 女性を有効に活用するには,女性が働きやすい制度を作る必要がある.在宅勤務制度 や短時間勤務などさまざま対策はあるが,OECD 加盟国の中でも女性の社会進出が進 んでいるスウェーデンがどのような対策を採っているかは参考になる. 日本は60%にとどまっているのに対し,スウェーデンの 2004 年の女性の労働力率が 16 日経ナビ調査 日本経済新聞 第 2 部 2007 年 11 月 6 日 17日本経済新聞 2007 年 11 月 29 日 p3 参照

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75%を越えている(グラフ 5).また,スウェーデンの年齢階級別にみた経済活動人口比 率もスウェーデンは高い数字を出している18.スウェーデンは 25~59 歳まで 80%近い 数値なのに対し,日本は高くても 75%弱で,中でも 30~39 歳までの比率が 60%程度と 低い.これは結婚や子育てで仕事ができない人が多いからだと考えられる. <グラフ 5 OECD 加盟国の女性の労働力率> 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% ア イ ス ラ ン ド ス ウ ェ ー デ ン ノ ル ウ ェ ー フ ィ ン ラ ン ド ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド オ ラ ン ダ オ ー ス ト ラ リ ア オ ー ス ト リ ア ス ロ バ キ ア 日 本 ス ペ イ ン ル ク セ ン ブ ル グ ハ ン ガ リ ー

(出所) OECD 「Labor Force Statistics」 より作成 (注)2004 年 (オランダ,オーストリアは 2003 年)

スウェーデンが女性の高労働力率を維持している要因は,育児休暇やその他の制度 や設備が充実していることである.まず,育児休業の取得率は,男女ともに 80%と近い数 字になっている.<グラフ 6>また育児手当(表 7)や保育サービス,育児休業中の賃金保障制 度なども充実している19. 日本では待機児童数が 2006 年 4 月時点で 1 万 9794 人いる20.このほかにも大量の 潜在的待機児童が存在している21.現在日本において,祖父母に子供預ける以外で仕事 と家庭を両立させる方法は保育所のみである.その保育所において待機児童が発生し ていては,出産を躊躇してしまう.尐子化対策として保育所の充実は重要である .また, 育児手当も各国と比較して低額・短期間である.子育ての負担を軽減するにはもっと改 善しなければならない. 18 経済活動人口比率の詳細は厚生労働省統計局『世界の統計』2006 年,2007 年参照。 http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm 19 休業期間最初の 390 日間は賃金の 80%が保証され,残りは定額給付がある。また企 業独自の上乗せ給付もある。 20 『保育所等の状況について』(厚生労働省 2006 年 4 月 http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/tp0903-2.html) 21 内閣府(「保育サービス価格に関する研究会」2003 年)によると潜在的待機児童数は 24 万人に上る 鈴木 準「待機児童問題と尐子化」(『資本市場レポート』2006 年 7 月27 日 p1,2 参照)

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<グラフ 6 スウェーデンの育児休業取得率> 79.20% 84% 75.70% 89.30% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 男 性 女 性 民 間 企 業 公 的 機 関 <出所>内閣府 『尐子化社会白書 2006』 <表 2 日本とスウェーデンの育児手当の比較> 日本 スウェーデン 支給対象児童 第1 子から 第1 子から 9 歳到達後最初の年度末まで (小学校 3 学年修了前) 16 歳未満(義務教育修了前) 20 歳の春学期まで奨学金手当 支給月額 第1 子,第 2 子 0.5 万円 第3 子~ 1 万円 第1 子,第 2 子 約 1.4 万円 第3 子 約 1.7 万円 第4 子 約 2.4 万円 第5 子~ 約 2.7 万円 所得制限 あり なし 財源 公費と事業主拠出金 国庫負担 資料:「海外情勢白書 世界の厚生労働 2004」(厚生労働省) <出所>厚生労働省『平成 17 年度版尐子化社会白書』2005 年 (http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2005/17PdfGaiyoh/pdf/hg140000.pdf 変形労働時間制度(フレックスタイムなど)の導入は中小企業を中心に進んでいない. 理由は「取引先に迷惑がかかる」「労務管理が煩雑になる」などがあった.しかし,一旦 導入されると利用率は高い22.男女間賃金比率の開きも大きい23. (1)-2 女性に対する解決策 待機児童を減らすために企業内もしくは企業周辺に保育所を設ける.運営と保育士 確保を行い,保育士は人材ビジネス側と契約を結び,労働に応じた給与を支払う.親の勤 務時間に合わせて開設時間を融通することで乳幼児を確保する.ただ,教育は効率よく できるものではないし,保育士が頻繁に変わるようでは子供が安心できない. このた 22 厚生労働省(『今後の労働時間に関する研究会報告書』2006 年 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/01/h0127-1c.html) 23 厚生労働省『平成 17 年度版働く女性の実情』 2006 年 3 月 29 日 p4 参照

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め,一度契約したら 3 年ぎりぎりまで働いてもらうことを前提とする.これは民間だけ では限界もあるので,国からの助成金などが必要であろう. 育児休暇で出た欠員を埋める代替要員の派遣は今後需要が増えると思われる.ただ, 何も知らないでいきなり企業に派遣されたのでは,余計手間がかかる.そこで,企業と契 約し欠員が出そうなときは,その人がどういう仕事をしていたかという詳細情報を教 えてもらう.その上で,登録スタッフがスムーズに企業にいけるように研修を行う.付加 価値をつけた分,派遣料は上積みできる. ただ企業にだけ任せておいたのでは効果はない.実際に変形労働時間制度や在宅勤 務制度など,制度だけなら整っている企業は数多いが,実際の取得率は育児休暇制度を 除いてあまり活用されていない24.国民が国に求めていることはわかっているだから, 早く実行に移すことが重要である.(グラフ 7) <グラフ 7 経済的支援措置として望ましいもの> 8.5% 32.3% 42.5% 44.7% 45.8% 67.7% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 出産祝い金など0歳児に対する手当の支給 子供の多い世帯に対する所得税の減税 保育料や教育費を必要費用とすることによる所得 税の減税 児童手当の引き上げ 乳幼児(6歳児未満)の医療費無料化 保育料または幼稚園費の軽減 <出所>厚生労働省 「海外の少子化対策」(少子化社会白書2005) (2)高齢者に対する就業支援 (2)-1 退職者の就業への考え方 団塊世代(1947 年生~49 年生)の人数は 700 万人近くに上り,この世代が国内労働力 人口に占める割合は 9%を超える.この経験豊富な世代が 2009 年に欠けて一気に退職 する.これが雇用の「2007 年問題」である25. 女性と同様に退職者も有効に活用しなければ,労働力人口の減尐という問題だけで なく企業業績に影響を与えかねない.日本の高齢者は働く意欲が旺盛なので,経験豊富 なこの世代を有効に使うことが求められる26.退職者は長時間でなく責任が重くない 慣れた仕事を,命令されることなくやりたいという傾向が強い.また顧客,社会,仲間,そ して若い人のために働きたいという思いが強い27.(グラフ 8) 24 厚生労働省『就労条件総合調査結果』 2007 年 10 月 (http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/07/3a.html) 25 みずほ総合研究所「尐子化と労働市場改革」(日本経済新聞 ) 26「シニアの就業意識調査2006」(リクルートワークス研究所)によると,60 歳以上の高齢者で働き たいと人は86.6%に上る 福島さやか 「高齢者の就労ニーズ分析-高齢期における就労形態の探

索-」(リクルートワークス研究所『Works Review 2006 Vol.1』 2006 年 7 月 24 日 p2 参照)

27福島さやか 「高齢者の就労ニーズ分析-高齢期における就労形態の探索-」(リクルートワーク

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<グラフ 8 定年以降勤める場合に重視する項目> 2.8 22.5 9.6 16.9 8.4 1.7 8.4 27 5.1 32.6 3.9 15.2 18 1.73.9 18 1.1 18 0.63.9 65.2 0.61 9 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1番 目 2番 目 3番 目 雇 用 形 態 賃 金 役 職 労 働 時 間 仕 事 内 容 職 場 (部 署 等 ) 勤 務 可 能 年 齢 勤 務 地 <出所>福島さやか 「高齢者の就労ニーズ分析-高齢期における就労形態の探索-」 https://www.works-i.com/pdf/works_review_2006_8.pdf 退職者を積極的に雇用するため方法として,2006 年に改正高年齢者雇用安定法が施 行され,段階的に 65 歳までの雇用が義務づけられた.この中で企業は再雇用を中心とし た「継続雇用」のほかに,「定年廃止」「定年延長」の 3 つの選択肢がある.定年廃止や延 長は全従業員に対象になるが,継続雇用は能力などが条件になるため有能な人材を確 保できる. 現在 86%の企業が再雇用制度を導入している.一般的な継続雇用は再雇用制度によ り定年前のほぼ同水準の労働時間で,嘱託社員として定年時の場所で定年時の仕事を 定年前の 7~8 割給与で働くことである.これでは定年後に働くメリットは尐ないと考 える退職者も多い28.また,継続雇用での働き方は女性が産休・育児期間中にやりたい働 き方と類似するため,高齢者とともに働く機会が多くなり,様々なノウハウを得られる かもしれない29. (2)-2 人材ビジネスによる就業支援 継続雇用制度では柔軟な対応が認められており,必ずしも労働者の希望に合致した 職種や労働条件の雇用である必要はない.フルタイムや短時間勤務,隔日勤務も可能で ある30. 継続雇用制度による再雇用に限っては人材ビジネスが入り込む余地はなさそうだ. ただ,継続雇用の対象にならなかった人や,福祉など新たな分野に新たな分野にチャレ ンジしたい人々向けにビジネスチャンスはある.退職者はそれまでの自分のやってき たことにプライドを持っている.そのプライドを傷つけないようにした上で,ミスマッ 28 退職者の待遇改善を企業も行っており,年収を引き上げる企業も出てきた。 (日本経済新聞 2 月5 日 朝刊 p1) 29 福島さやか 「高齢者の就労ニーズ分析-高齢期における就労形態の探索-」(リクルートワー

クス研究所『Works Review 2006 Vol.1』 2006 年 7 月 24 日 p1.11 参照)

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チが起こらない提案をしなくてはならない. また,法制度を改める必要がある.現在の厚生年金制度では 60 歳以降も正社員として 働くと,賃金に応じて年金が減ってしまう.「働く意欲をそぐ制度である」(清家篤慶応 義塾大学教授)ということも踏まえて,制度的な改革も必要である31.

Ⅲ 外国人労働者に対する人材ビジネス

経済協力開発機構(OECD)によると,2004 年時点で日本には約 19 万人の外国人労 働者がいる.その数は年々増えており 90 年の 6 万 7983 人から 94 年に 10 万人台にな っているので,ここ 10 年は毎年約 1 万人ずつ増加していることになる.ただ,この数字 には専門的・技術的分野以外に就労する外国人が含まれていない.これまでの日本の外 国人労働者の受入姿勢を表すかの様である32.労働力人口の減尐が見込まれる中で,産 業界を中心に外国人労働者の受入れを拡大すべきという論も出ている. (1)専門的・技術的分野とその他の分野に従事する外国人数 2005 年の時点では技術的・専門的分野に従事する外国人よりもその他の分野に従事 する外国人のほうが多くなっている33.技術的・専門的分野に従事する外国人は 18 万 465 人であるのに対し,それ以外の分野の外国人は 34 万 3271 人に上る.専門的・技術 的分野の内訳は人文知識・国際業務が最も多く5 万 5276 人,次いで興業,技術職となっ ている.一方のその他の分野の内訳は製造業が 23 万 9570 人と圧倒的に多くなってい る34. (2)出身地域別労働者数 2006 年時点で直接雇用されている外国人労働者のうち,東アジア,中南米,東南アジ ア出身者が90%を占めている35.近年の外国人登録者数から推測して,中南米出身者の 大半がブラジルまたはペルー人,東南アジアはフィリピン人が最も多いと考えられる 36.また,規模が大きくなるほど欧米出身者が多くなっている. 31 日本経済新聞 11 月 29 日 朝刊 p3 参照 みずほ総合研究所「尐子化と労働市場改革」(日本経済新聞 ) 32 それまでの日本は技術的・専門的分野は積極的受け入れるが,単純労働者は受け入 れなかった。 みずほ総合研究所「尐子化と労働市場改革」 日本経済新聞 2007 年11 月 33 専門的・技術的分野の範囲については厚生労働省(『外国人労働者問題』に関する 資料)を参照。また,それ以外の分野の範囲については,山崎隆志『外国人労働者の就労・ 雇用・社会保障の現状と課題』p26 参照 34山崎隆志『外国人労働者の就労・雇用・社会保障の現状と課題』p20,26 参照 35 厚生労働省(『外国人雇用状況報告(平成 18 年 6 月調査)』)。 36 法務省 『平成 17 年度末現在における外国人労働者統計について』

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(グラフ 8) <グラフ8 出身地域別外国人労働者の割合> 東アジア 46% 中南米 29% 東南アジア 15% 北米 4% 欧州 3% その他 3% <出所>厚生労働省 『外国人雇用状況報告(平成 18 年 6 月調査)』 (3)外国人単純労働者受入れのメリット・デメリット 外国人を受け入れることのメリットは労働力人口の減尐を補うことが出来ること, 社会保障費負担の緩和などが上げられる.女性と高齢者,そして外国人を有効に活用す れば,名目成長率で 0.6%,実質成長率で 0.5%積み増しされ,それにより消費税負担も軽 減できるという37.また雇用先によっては日本人のやりたがらない仕事や残業も進ん でやってくれるという意見もあった. 逆にデメリットとして,外国人単純労働者は尐しでも高賃金のところへ就業したい ため,短期間であっても離職してしまうことや勤務態度の怠慢さや日本語が話せない 人が多くコミュニケーションが取れないという意見もある38. また,日本としてこれまで外国人を受け入れてこなかった理由は,外国人増加によっ て治安が悪化する懸念があったためである.実際に外国人による犯罪件数は多くなっ ている(グラフ 7). 加えて,不法滞在者を低賃金で働かせることは劣悪な労働環境を存続させることに なる39.外国人不法就労に関する意識は改善されつつあるのであとは実際の不法労働 者数を減らす努力をしなければならない40. 37 井田敦彦「尐子高齢化と外国人労働者」(国立国会図書館『尐子化・高齢化とその 対策』2005 年 p245 参照) 38直接雇用の場合 (厚生労働省職業安定局『外国人雇用状況報告』2007 年 12 月) NP スタッフ「外国人労働者戦略的活用ノウハウ」 (http://www.np-staff.jp/topics/pickup_2.html) 39 不法就労者の月給は 17 万程度,正規労働者(高卒)の平均月収は 30 万である。(2003 年)門倉 貴史 「外国人の不法就労が日本経済に及ぼす影響」(第一生命経済研究所 『マンスリーレポート』2004 年 8 月) 40 厚生労働省職業安定局『外国人労働者に関する資料』(2005 年 5 月 p10)

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<グラフ7 来日外国人の刑法犯検挙数の推移> 0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 平成9 年 平成1 0年 平成1 1年 平成1 2年 平成1 3年 平成1 4年 平成1 5年 平成1 6年 平成1 7年 平成1 8年 (件) 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000 (人) 刑法犯検挙件数 刑法犯検挙人数 <出所>警察庁『平成18年の犯罪情勢』 (3) 人材ビジネスの役割と行政の役割 人材ビジネス企業に出来ることは,海外にいる日本就労希望者を集める.ただし,一定 水準の技術を持っている外国人に限る.そして,日本の社会にスムーズに入れるように 日本語研修や最低限守るべき日本の習慣・マナーを教える.これに加えて社会の需要が ありそうな技術を習得させる研修も行う41.そうした付加価値をつけて企業に派遣,契 約することで高い代金を得られる. 外国人を有効にかつ安全・健全に活用するには行政でなければ対応できない部分が ある.不法就労問題をはじめ,地域社会になじめず住民と摩擦を起こす外国人もいる.ま た,外国人労働者の多くが社会保険に未加入である.こうした問題に対する具体的な解 決策が必要である42.

まとめ 人材ビジネスの今後

現在売り手市場といわれる就職戦線で企業側は中小企業を中心に学生確保に苦し んでいる.人材の発展は企業の発展であり,また日本の経済を支えているのは中小企業 であるため,中小企業を学生に魅力的見せることが人材ビジネス企業の役割なってく る.学生に対しては就職することがゴールではないことを理解させ,自分に合った企業 探しの支援をしっかりしていくと重要である. 現在は売り手市場にある就職戦線だが,景気の波の中で就職難の時代がやってくる 可能性はある.その時にいかに学生をサポートできるかということも人材ビジネス企 41 全員ではなく,技術習得に優れた者に限定 42 2006 年に国は関係省庁で「『生活者としての外国人』に関する総合対策」をまとめ, 問題に取り組む方針を示した。 日本経済新聞 11 月 26 日 朝刊 p20

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業にとっては大事なことである. 世界に類を見ない速さで労働力人口が減尐している中で,女性や退職者の活用の重 要度は非常に高い.退職者の高度の技術・知識は企業にとっては重要であるし,女性な らでは観点・感覚が企業の発展に寄与することはよくある.まだ働けるにも関わらず辞 めざるを得ないのは,本人達にとっても不本意である.こうした人をもっと活用出来る ように民間企業だけではなく,行政が実用的な制度を整える必要がある.女性の働きや すい環境が整えば出生率は上がり,労働力人口も上昇する. グローバル化の中で日本の労働市場は変化している.急速な労働力人口の減尐も手 伝って日本で働く外国人,特に東アジアからの労働者は増加し,日本経済の一翼を担っ ている.国境を越えた人材の移動は今後も続くだろう.そうした中で外国人が日本にな じめるような環境づくりということが大事になってくる.国籍を超えた人と人とのつ ながりを大事にして,外国人にとって働きやすい,住みやすい環境を整えることが重要 である. 個人的には自国の経済は自国の国民で賄うべきだと考える.海外からの人材登用は 悪いことではない.しかし,国内にある労働力を活用せずに外国人労働者に頼るのは最 善策ではない.国内で賄えない部分だけ海外から人材を登用すべきであると考える. 日本は2006 年にフィリピンと EPA(経済連携協定)を締結した.当初 08 年から 2 年 間で看護師400 人,介護福祉士 600 人を上限に 1000 人を受け入れる予定だ.何ヶ月間 か日本語研修や病院,介護施設での研修を経て国家試験に臨む.そこをパスした者だけ が在留資格を得ることができる.今後どれだけ受け入れるかは不明だが,低賃金で入り 込むようなら日本人看護師にとって脅威である43 .ただ締結する前に資格を持ちなが ら結婚・出産などで離職している潜在看護職員55 万人を活用する手段を考えるほう が先決であると思う44. 日本では紹介予定派遣を除き医療分野への派遣が禁止されているが,アメリカでは 派遣は原則自由であるため,看護師派遣も認められている.アメリカの医療分野への派 遣は専門派遣会社が行っている場合が多い45.派遣看護師として働くメリットは 1 社に 拘束されず,ある程度自由に勤務時間や勤務先を選べることである.加えて派遣企業で 独自の賃金プランも用意されており,これも派遣看護師として働くメリットの大きな 43 『日比経済連携協定に基づく看護師・介護福祉士候補者の受入関係』(厚生労働省) によると,雇用契約の用件には看護師・介護福祉士ともに日本人と同等かそれ以上の報 酬を受け取ることを内容としている。また,日本語の研修等は海外技術者研修協会が行 う。P1,5,9 参照 また,日本語の研修等は海外技術者研修協会が行う。 44 BS ディベート データファイル 2006 年 10 月 (http://www.nhk.or.jp/bsdebate/0610/data.html) 45アメリカも日本同様に看護師不足は深刻で2020 年には 44 州で看護師不足に直面す ると見られている。潜在的看護師数は正看護師免許保持者の 16.4%に達し,これらの 人々をどうする活用するかも重要である。

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要因になっている46. アメリカでも看護師不足は大きな問題となっている.看護師不足の結果,長時間労働 を強いられ,多くの看護師がキャリア初期段階で燃え尽き症候群により職を辞してい る現状がある.こうした状況の中でアメリカは日本より前に海外,特にフィリピンから 看護師を受け入れている.しかし,日本同様にこれが給与水準の低下を招くとの懸念が あった47. 労働条件の改善などで,職場復帰が進めば人手不足は解消できるという見方もある. 日本でもアメリカ同様に過酷で長時間の労働を敬遠されるため,時間等の融通が利く 派遣看護師を活用すればその問題は解決に近づくはずである. また医師・看護師・介護福祉士などは過酷な労働の割に低賃金ということが人員不 足の大きな理由でもある.まずは医療報酬を上げるべきである.加えて日本は低医療費 策をとってきたがもはや限界である.この低医療費策の下で,日本人が病院に行く回数 は,他の OECD 加盟国の 2 倍以上と断然多い48.これが医師の重労働化を促進したと言 ってもいい.これを是正するためにも医療費負担率を上げることはひとつの策である 49. この論文では人材ビジネス企業が,社会の問題を解決するための企業であるという ことを念頭に,問題解決の手段を検証してきた.人材ビジネス企業だけでは解決できな い法的な問題や行政政策など政府の政策・規制に触れる部分があるため、今後の展開 は不透明である。しかし、医療分野等への規制が緩和されればビジネスチャンスが広 がる可能性は大いにあると考える。ただし、利益優先に走ってしまうことがあっては ならない。社会の問題を解決するために存在するということを念頭に置くべきである。 46 藤川 恵子 「人材派遣に求められる機能と役割」(リクルートワークス Works Review 2006 p5 参照) 47独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「海外労働情報(アメリカ)」 (2006 年 8 月) 48 「ニッポンの医者・病院・診療所」(『週刊東洋経済』2007 年 11 月 3 日号 p41 参照) 49 病院のコミュニティー化を防ぐためにも引き上げは良い。ただし,長期にわたり入 院や通院をしなければならない場合や,低所得者には救援策講じる必要がある。

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参考文献一覧 土岐 優美 『図解入門業界研究 最新人材ビジネス業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』 (秀和システム 2006 年) 南部 靖之・石川 好 『創業は創職である』 (東洋経済新報社,2002 年) 長野 仁 「企業の人材採用の変化──景気回復後の採用行動」 (『日本労働研究雑誌』,2007 年 10 月号) 清成 忠男「私大破綻防ぐ改革を」 (日本経済新聞 2007 年 9 月 3 日) 乾達「大学淘汰-「合併」の深層を探る」 (『週刊エコノミスト』1 月 16 日号) 木村 猛 「大学改革をめぐる中教審報告」(日本経済新聞 2007 年 11 月 19 日) 福 島 さ や か 「 高 齢 者 の 就 労 ニ ー ズ 分 析 - 高 齢 期 に お け る 就 労 形 態 の 探 索 - 」

(リクルートワークス研究所『Works Review 2006 Vol.1』 2006 年 7 月 24 日) 藤川 恵子 「人材派遣に求められる機能と役割」 (リクルートワークス Works Review 2006) 山崎隆志「外国人労働者の就労・雇用・社会保障の現状と課題」 (国立国会図書館 『レファレンス』2006 年 10 月号) 井田敦彦「尐子高齢化と外国人労働者」 (国立国会図書館『尐子化・高齢化とその対策』2005 年) 門倉 貴史 「外国人の不法就労が日本経済に及ぼす影響」 (第一生命経済研究所『マンスリーレポート』2004 年 8 月) 内閣府 『尐子化社会白書』 平成17 年度版 平成 19 年度 http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/index-w.html 「保育サービス価格に関する研究会」 (2003 年) 厚生労働省 2005 『派遣労働者実態調査』 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/40-16.html 『日比経済連携協定に基づく看護師・介護福祉士候補者の受入関係』 『就労条件総合調査結果』 (2007 年 10 月) 『平成17 年度版働く女性の実情』 (2006 年 3 月 29 日) 『今後の労働時間に関する研究会報告書』 (2006 年) 『保育所等の状況について』 (2006 年 4 月) 厚生労働省職業安定局 『外国人労働者に関する資料』(2005 年 5 月) 『外国人雇用状況報告』 (2007 年6,12 月) 国立社会保障・人口問題研究所 2007 『日本の将来推計人口 平成18 年 12 月推計』 http://www.ipss.go.jp/ 総務省統計局 2007 『世界の統計 2007』 http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm 法務省 『平成17 年度末現在における外国人労働者統計について』 (2006 年)

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警察庁 『平成18 年の犯罪情勢』 (2007 年 8 月) 経済産業省『大学と企業のためのインターンシップガイドブック』 (2006 年 3 月) 社団法人中小企業研究センター『労働市場のタイト化と中小企業の新卒採用戦略』 (2007 年) 学校法人活性化・再生研究会『私立学校の経営革新と経営困難への対応-最終報告-』 (日本私立学校振興・共済事業団 2007 年 8 月 1 日) 東洋経済新報社「ニッポンの医師・病院・診療所」 (『週刊東洋経済』2007 年 11 月 3 日号) リクルートワークス研究所 『中途採用調査』 (2007 年) 日本経済新聞 朝日新聞

参照

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