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大学における演習型教育形態と能動的学習に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)大学における演習型教育形態と能動的学習に関する研究 キーワード:大学、演習、ゼミナール、能動的学習、アクティブ・ラーニング. 教育システム専攻 吉田 潤平. 序章 目的と方法. はあくまでサンプルとして取り上げている。. 本研究は主体的な学びの形態としての演習が持つ機能に 第 1 章 問題の背景と所在. ついて明らかにすることを目的とする。中教審(2012) 『大 学改革実行プラン』において、大学教育の質的転換の具体的. M.Trow は高等教育の発展段階としてエリート・マス・ユ. 方策としてアクティブ・ラーニングの推進が掲げられ、PBL. ニバーサルの三段階を示した。日本では、新制大学の発足以. や問題解決学習、課題探求学習などがその具体的実践例と. 降マス化が進行し、大学教員が目指したのは「 『研究』重視. して挙がっており、講義中心からの脱却を掲げている。一方. の大学院大学」であった(天野 2013,pp.40-45)が、学生の. で、研究室教育の一環である研究指導に関するゼミナール. マス化の進行に伴って、マス化に対応するための『四六答申』. は、複数名で質疑応答や議論を行う等双方向的な形式をと. が出されたが、あまり成果を上げなかった。その後、 『設置. るものが多いが、言及が特になされていない。学生が、主に. 基準の大綱化』を受けて、舘(1994)は「学士教育」の概. 学部 3 年生もしくは 4 年生から研究室に配属され、ゼミナ. 念を提示しているように、大学ではまずカリキュラム改革. ールに参加、研究し指導を受けることは、少なくとも現状に. がその対象になった。. おいても大学で、アクティブ・ラーニングが既に実践されて. 大学でも徐々に規制緩和や市場原理が導入され、2004 年. いると言えないか。そこで、本論文では、研究を進める中心. には、 「事前規制から事後チェックへ」と大学の質保証は大. 的役割を担う研究室教育と、時間割に組み込まれた演習に. きく舵を切った。OECD(2009)は大学においてどのよう. ついて、その関係に着目しながら、学生が能動的な学習を獲. な学習が行われ、どのような能力を獲得するのか、といった. 得するような機能を果たしうるかについて論じる。. 「教育と学習の質の向上」 を今後の質保証の取り組みにおけ. 今回の研究ではインタビュー調査を行った。フォーマル. る課題として述べている(OECD 編著、森訳(2009) 『日本. な演習や実習、さらにインターンシップ、フィールドワーク、. の大学改革』明石書店、pp.109-120) 。教育と労働市場にお. 専門教育での研究室教育等教育形態の違いや同じ面、学び. いて、P.Brown は、文化資本のアクセスを持つことが重要. の過程を捉えるため、質的調査を選択した。専門教育を学習. であるとし、イギリスの教育システムは社会のニーズに応. していること、研究室で研究活動のかかわりを持っている. じたカリキュラムの構築が役に立たない、とした。そこで、. ことから学部 3 年生以上とし、特に理系では、学部卒業時. 学習成果の測定による質の保証の試みは国際的な潮流とし. に卒業論文といった成果の提出がカリキュラム上設定され. てあり、EU では、学習と学習成果の指標を明確化する試み. ておらず修士への進学率が高いことから、大学院生では修. が行われ、知識、技能、能力(コンピテンシー)を 8 つのレ. 士 2 年生までを対象とした。対象は国立 X 大学を取り上げ. ベルに分け、それぞれに学位・資格と関連する学習成果を求. た。全国から学生が集まる偏差値の高い大学として知られ. めている。日本では、学士力を定め、その能力の獲得のため. ており、研究型大学であることから考えると、演習型教育形. に能動的な学習(アクティブ・ラーニング)の実施を求めて. 態が専門教育においてその中心を占めるため、これを取り. いる。. 上げることが妥当と考える。ただし、今回調査を行った学生. 1.

(2) 金子は能動的な参加と経験が新しい興味関心につながる、. を明らかにした。また、 「専門教育の要としてのゼミナール. というサイクルを示し、主体的参加を促し、汎用的能力の形. にとどまらない価値を有するとして教員が期待している可. 成に寄与するものに、学習結果のまとめと発表を挙げてい. 能性」が示唆されると指摘した。. る(金子 2007,pp.172-173) 。また、小方(2008)は、学生. 大学を研究機関としてみなしたとき、フンボルト理念に. のエンゲージメントの高さが、学習成果にポジティブな影. よれば、学生であっても教員とともに「知の探究」を行う者. 響を与えていることを示し、汎用的技能や学問的知識、成績. である。伏木田らが指摘した、 「共同体としての運営」や「探. の高さに影響していることが示し、河野(2012)は、学習. 究心の向上」は研究室教育についてもあてはまる(毛利. 意欲の高さが学習時間の長さに関係しており、その後の職. 2006) 。フォーマルな演習型教育形態について、 「能動的学. 業的能力の獲得の高低にも関連があることを示した。. 習の体験」が重視されているのは伏木田らが述べているが、. つまり、課題の発見、解決策の模索、さらに解決案の提示ま. 研究そのものが能動的に行われるものであることを考慮に. でを一体とした課題解決学習や PBL、インターンシップの. 入れると、演習型教育形態そのものが、能動的な学習を体験. ような学校と社会の接続を図る体験学習によって、この学. する、促す場といえるのではないか。. 習のサイクル(図 1)を学生が経験することを能動的学習と 第 3 章 分析の枠組みと仮説. 定義できる。. 課題解決学習、PBL、インターンシップ等体験学習や研 究指導のような、能動的学習のサイクルを演習型教育形態 で経験しているというのが、分析の大きな枠組みである。学 生は、現在行われている演習型教育形態において、能動的学 習が経験、促進されており、その姿勢を身に付けている、と いうことである。発表に対する準備という「事前の準備」 、 その成果の発表とそれに対するフィードバックをもらうこ とが演習型教育形態の場であり、そこで得られた知見から 生まれた新たな課題の発見・設定を行い、それを解決するた めに行動し、また発表への「事前の準備」につなげる、とい う「事後の展開」が行われている、学習のサイクルが能動的 である、というのが基本的な視点である。 大学の発展にともなってカリキュラム、教育手法、評価に. 伏木田らが対象としているフォーマルな演習型教育形態. 対して次々とその「改革」の矛先が向けられ、B.Bernstein. において、強い枠づけでは能動的学習は経験されていない. のいう枠づけが強まっている現在、研究機関としての大学. のか。理数系の強い枠づけの中においても伏木田らが言う. においてその中心的役割を果たしているゼミナールは、そ. 能動的学習を学生は捉えているのか。これを第一の仮説と. の形態として能動性を孕んでいるのではないのだろうか。. して提示する。 研究とそれにかかる学修としての演習型教育形態は、少. 第 2 章 演習型教育形態の整理. なくとも現在においても、能動的な学習態度の形成を体験. 時間割にあるフォーマルな「演習」 「実習」 「ゼミナール」. し、促す場になっているのではないか。これを第二の仮説と. 「セミナー」と、研究室教育における「ゼミナール」 、学生. して提示する。. による複数での自習の場である「自主ゼミ」等、ひとくちに 第 4 章 調査結果の分析. 「ゼミナール」と言ってもそれが何を指すか、は学部・学科、 もしかすると個人単位で異なるため、本論文では、これらを. フォーマルな演習型教育形態において、 「双方向性」は、. まとめて「演習型教育形態」と呼称する。. 学生の発表があること、それに対する周囲の、学生であれ教. 伏木田ら(2013)は、単位が付与されるフォーマルなゼ. 員であれ、事実や別の角度からの指摘、反論、質疑を交えな. ミナールを対象として、教員は「単なる授業形式や教育方法. がらの議論が行われ、その価値を学生も認めていた。その帰. のひとつとしてだけでなく、教員と学生による共同体とし. 結として、理系では知識を定着させることやその活用、文系. ても機能させている」こと、 「専門性を超えた探究心の向上. では知識の定着よりも、知識の操作である考え方や学習に. や、能動的な学習の体験そのものに重きを置いている」こと. 対する能動性により価値を見出していた。. 2.

(3) これは、その知識が今後研究するにあたり、必須の、ベー. や技能がどこに役に立っているのか、また、そうした経験を. スの知識となりうるかどうか、にもかかわる。文系の学生は、. 積むことで学んだことを「自分のものにする」という効果を. 講義や演習での知識が今後直接結びつくことは考えにくく、. 持つ。それだけでなく、現実の事例が研究、学問的にどのよ. また、それがベースとなることも考えにくいと答えていた. うにみられているのかを調べたり、それに関する論文等を. が、理系の学生はおしなべて、これら知識がベースとしてな. 読んだりすることで、学校から社会だけでなく、社会から学. いと研究ができない、と述べており、それが学部・学科とし. 校へ、といった往復が可能となる場所としてこうした PBL. て必修科目とするか、選択科目にするかといったところに. のような演習型教育形態が機能しうることがわかった。. も表れているのだろう。. どの専門分野の学生でも、自分の研究内容に関する発表. また、文系・理系とも共通する点は、研究上の手段、スキ. に対して、教員・学生からのアドバイスやディスカッション. ルを求めていることである。そのうえで、理系の学生におい. を行うことで、ブラッシュアップを図ったり、自分だけでは. ては、学部・学科としてより知識的な面が重視され、文系の. 気付かなかった「気付き」を得られたりする場であることが、. 学生においては考え方といった面が重視される。ただし、文. 研究指導における演習型教育形態の基本的な位置付けであ. 系においても研究室配属がなされた後は別であり、その専. った。学部・学科、もしくは研究室が異なるだけで、その呼. 門分野における共通的な基礎知識は必要となってくるため、. 称が違ったり、逆に呼称が同一であっても、その内容におい. その専門分野を研究するには、といった認識はある程度見. て差異がみられたりする場合があったが、共通しているこ. 受けられるが、学部・学科として、そういったものがあると. とは、①学生の発表があること、②発表に対して教員ないし. 捉える学生は見受けられず「教科書」が存在しないため、そ. 学生も含む他人からその場でフィードバックをもらうこと、. れを学ぶ機会はほぼない。. ③それに対して学生がその場もしくは後日返答をすること、. まず、研究指導的な文献講読では、用いられる文献は研究. ④ここでの双方向的なやり取りの中から学生は新たな視角. との関連によるものである。専門基礎的な文献や専門分野. を得たり気付きを得たりすることで次の課題解決に向かう、. における代表的な論文、また、実践の例を取り上げることで. の 4 点である。当然ながらここでは各学生の研究が主眼に. 学問との関連を考えるものもあった。特に理系において研. 置かれ、各自の研究を進めるために行われている。そこで学. 究室教育の一環として行われる文献講読は、専門分野にお. 生が発表しそれに対するフィードバックをもらい、次のス. けるいわゆる教科書を読み、発表、議論するものであった。. テップにつなげる、というサイクルが学生においても、特に. 理系におけるこうした文献講読の「ゼミ」における文献は、. 4 年生以上であれば確立されていた。 学生の能動的学習はこ. 専門分野や研究対象における必読本や論文等、その分野に. こに見られるといってよいだろう。. おいて「読まなければならない」ものが選択されることが多. 演習型教育形態を大きく分けると、①文献講読型、②研究. い。研究室単位でなくても、学ぼうとする専門分野や文献が. 指導型、③PBL・体験型、④問題演習型の 4 タイプがみら. 重複する学生が集まって行われる、たとえば自主ゼミのよ. れる。. うな場を設定し、自習学習としてこのような文献講読が行. まず、①文献講読型は、文系理系を問わず見られるもので. われている。それを、 「勉強する理由」として捉える学生が. あるが、理系では、演習授業は講義と 1 セットになり、講. いたが、これはともに学習する相手に対して責任を負う、発. 義の内容を実際の問題演習を通して確認・回答する時間と. 表を課すことで、自ら演習型教育形態の環境を作り出して. して捉えられており、④問題演習型として分類できる。. いるといえよう。. ②研究指導型は文系・理系問わずに見られるものであり、. 次に、PBL・インターンシップ型の演習型教育形態につ. ここでは特に研究室教育による学生への研究指導を主とし. いて共通するものは、現実社会と学問、つまり学校での知識. た形態を分類することとする。先の文献講読型と異なるの. との架け橋的な役割を果たしていることである。オルセン. は、ここで用いられる題材は各個人の研究内容であること、. (1937)は学校と地域社会を結ぶ架け橋を述べたが、この. また、ディスカッションや質疑応答等が学生への研究指導. 場がそういった場としても機能しうる、ということである。. の一環として認識されていることである。. 「学校で学んだ知識は役に立たない」 とはよく教育現場に対. ③PBL・体験型は、社会と学校の「架け橋」的な役割を担. して言われる批判であるが、学校と社会とのつながりを学. っているとみることができる。. 生が実感できるような場としてあることがインタビュー調. 学生は、ゼミナールそのものでの学習というよりもむし. 査でわかった。実際の社会で想定される場面や自分が持ち. ろ、それを通じた研究において、そうした能動的な学習体験. うるケースにおいて、講義等や研究において得られた知識. を積んでいるといえよう。どの学生も述べていることは「研. 3.

(4) 究は自分でやる/進めるもの」ということであり、研究活動. い大学や、専門職養成系の大学において、このような研究活. においてその能動性を認め、実践として行っている。実際に. 動を能動的に行っているかどうか、同じような効果が見ら. 自分の実感として能動的に行うようになるのが、研究活動. れるかは不明である。また、研究に関する時と 3 年生以前. を行った時である、というほうが正しいだろう。. の、研究に関わらない部分での学習時間には差があると考 えられるが、文部科学省が主張する「学修時間の増加」との. 第 5 章 分析結果の考察. 関連は今回取り扱っていないため、今後の課題として挙げ. フォーマルな演習型教育形態では、成果として知識・技能. ておく。. の獲得に重きを置くか、その操作に重きを置くかといった 差異はあるものの、枠づけが弱いものに関しては、先行研究. 主要参考文献. で明らかにされた能動的学習の経験を確認できた。枠づけ. 天野郁夫(2013) 『大学改革を問い直す』慶應義塾大学出版. が強い理系で行われる問題演習に関しても、問題演習等の. 会. 内容が他専門分野との関連やカリキュラムに位置付けられ. 潮木守一(2006) 『フンボルト理念とは神話だったのか―パ. たインターンシップ等体験型学習によって、限定的に能動. レチェク仮説との対話』広島大学高等教育研究開発セン. 的学習の経験が積まれていることが確認できた。そのため. タ ー,大学論集第 38 集,pp.171-187 OECD、森訳(2009) 『日本の大学改革』明石書店,pp.109-. 第一の仮説は部分的に支持されたといえる。. 120. 次に研究指導のような演習型教育形態においては、能動 的学習はその場で経験しているのではなく、それを含む研. 小方直幸(2008) 「学生のエンゲージメントと大学教育のア ウトカム」 『高等教育研究』第 11 集,pp.45-64. 究全体で経験している、ということである。その過程として あるのが研究室教育であり、第二の仮説は、能動的学習を促. 金子元久(2007) 『大学の教育力―何を教え、学ぶか』ちく. す場として機能する、という点で支持された。. ま新書 河野志穂(2009) 「大学生の学習意欲と卒後の職業的能力の. 終章 結論と課題. 獲得状態―日本の学士を対象に」吉本圭一ら『企業・卒業. 能動的学習の実践については、フンボルト理念における、. 生による大学教育の点検・評価に関する日欧比較研. 研究と教育の統一が図られた、学生も教員と共に研究する. 究』,pp.128-139. 存在とみなされていれば、過去そうであったように、現在で. 舘明(1994) 「大学カリキュラム改革の課題―学部教育から. も研究は能動的学習の経験を持たせる機能を持つことが確. 学士教育へ―」,『IDE 現代の高等教育』,1994 年 7 月. 認された。また、枠づけ・分類の強い学習においても、イン. 号,pp..55-61 B.Bernstein, 2003, “Class, Codes and Control: Theoretical. ターンシップ等体験型学習との組み合わせや、問題演習の. studies towards a sociology of language”. 工夫によって、その学習サイクルを経験することが可能で あることもわかった。したがって、演習型教育形態が果たす. P.Brown(2005) 「文化資本と社会的排除」住田・秋永・吉. 機能は能動的学習を促すものである、というのが本研究の. 本編訳『教育社会学―第三のソリューション―』九州大学. 結論である。. 出版会,pp.597-622. 学生は研究活動における能動的な姿勢を評価しており、. 伏木田稚子、北村智、山内祐平(2013) 『教員による学部ゼ. 現在の大学教育においても、専門教育、特に研究室教育等を. ミナールの授業構成』名古屋高等教育研究 , 第 13. 中心とした研究において、学生は能動的学習を行っている、. 号,pp.143-162. といえる。そのため、ただやみくもに、フォーマルな演習や. 毛利猛(2006) 「ゼミナールの臨床教育学のために」 『香川. 実習を増加するのではなく、学生の行う研究の意味の再考. 大学教育実践総合研究』12:pp..29-34. が求められるのではないか。課題やきっかけは与えられた. 文部科学省(2012) 『大学改革実行プラン』. ものだとしても、それを達成する過程は能動的なものであ る。これをどのように捉えるか、が今後の大学教育において 必要ではないだろうか。 ただし、今回の対象は選抜性が高い大学であり、また、研 究型大学であったために、そもそも教員・学生が研究を能動 的に捉えて実践している可能性がある。よって、選抜性の低. 4.

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