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I. はじめに胸郭は骨格筋と骨で構成され, 心臓や肺といった胸部臓器を外部の衝撃から保護するだけでなく, 呼吸筋の収縮を実際の換気に変換させる機能を担っている. 適切な換気の維持には胸郭が適切に機能することが重要であるが, 肋骨配列の悪化によって生じる胸郭形状の変化により低下しうる

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安静時における胸郭形状の特徴が胸郭可動性と

呼吸機能に及ぼす影響

Effects of the Features of Thoracic Shape at Rest on Thoracic Mobility and

Respiratory Function

平山 哲郎

1,2)

  本間 友貴

1)

  茂原 亜由美

1)

  柿崎 藤泰

3)

  泉﨑 雅彦

1)

Tetsuro HIRAYAMA, RPT, MS1,2), Yuuki HOMMA, RPT, MS1), Ayumi MOHARA, RPT, MS1),

Fujiyasu KAKIZAKI, RPT, PhD3), Masahiko IZUMIZAKI, MD, PhD1)

1) Department of Physiology, Showa University School of Medicine, 1-5-8 Hatanodai, Shinagawa-ku, Tokyo 142-8555, Japan TEL +81 3-3784-8113 E-mail: tetsurohirayama0217@gmail.com

2) Department of Rehabilitation, Shoinjinjamae Clinic

3) Graduate School of Health Care Science, Bunkyo Gakuin University

Rigakuryoho Kagaku 33(3): 513–518, 2018. Submitted Dec. 19, 2017. Accepted Feb. 14, 2018.

ABSTRACT: [Purpose] A three-dimensional image analysis device was used to measure thoracic shape in the

horizontal plane to investigate how left/right asymmetry affects thoracic mobility and respiratory function. [Subjects and Methods] The subjects were 20 healthy adult men. A three-dimensional image analysis device was used to create horizontal, cross-sectional views of the upper and lower thorax expiratory levels. The left and right cross-sectional areas were compared. Relationships between left/right ratios of thoracic shape and mobility and respiratory function were investigated. [Results] Comparisons of left/right thorax cross-sectional area ratios revealed left/right asymmetry, with larger left upper and right lower thoraces. Correlations were found between left/right thoracic cross-sectional area ratios, rates of chest expansion, and respiratory function. [Conclusion] Resting expiratory-level thoracic shapes showed left/right asymmetry, with larger left upper and right lower thoraces. The extent of left/right asymmetry in thoracic shape may affect functional activity during respiration and may be reflected in thoracic mobility and respiratory function.

Key words: thoracic shape, left/right asymmetry, breathing

要旨:〔目的〕水平面上の胸郭形状を3次元画像解析装置で測定し,胸郭形状の左右非対称性の程度が胸郭可動性, 呼吸機能に与える影響について検討した.〔対象と方法〕対象は健常成人男性20名とした.安静呼気位における胸郭 水平断面図を作成し,断面積比を左右で比較検討した.また,胸郭断面積左右比と胸郭可動性,呼吸機能の関係につ いて検討した.〔結果〕胸郭断面積比の左右比較では上部胸郭で左側が,下部胸郭で右側が増大する左右非対称性が みられた.また,胸郭断面積左右比,胸郭拡張率,呼吸機能には相関関係が認められた.〔結語〕安静呼気位の胸郭 形状には上部胸郭で左側が,下部胸郭で右側が増大する左右非対称性が存在していた.この胸郭形状の左右非対称性 の程度は,呼吸運動における胸郭可動性や呼吸機能に反映したものと考える. キーワード:胸郭形状,左右非対称性,呼吸 1) 昭和大学 医学部 生理学講座生体調節機能学部門:東京都品川区旗の台 1-5-8(〒 142-8555)TEL 03-3784-8113 2) 松陰神社前クリニック リハビリテーション科 3) 文京学院大学大学院 保健医療科学研究科 受付日 2017 年 12 月 19 日  受理日 2018 年 2 月 14 日

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I.はじめに

胸郭は骨格筋と骨で構成され,心臓や肺といった胸部 臓器を外部の衝撃から保護するだけでなく,呼吸筋の収 縮を実際の換気に変換させる機能を担っている1).適切 な換気の維持には胸郭が適切に機能することが重要であ るが,肋骨配列の悪化によって生じる胸郭形状の変化に より低下しうる.例えば,円背姿勢では脊椎の後弯や肋 骨が引き下がった胸郭の沈み込みが見られる2).胸椎の 後弯が増強することで椎体間が屈曲位となる.この椎体 の屈曲は肋骨の前方回転を強要し3),胸郭の沈み込みを 惹起する.そのため肋骨の可動範囲は減少し,呼吸全体 の動きが低下する.特に吸気時においては肋骨の後方回 転運動が減少し,胸骨の前上方への運動を制限する.胸 郭変形の慢性化は,胸郭の柔軟性の低下や肺組織が硬く なることで吸気活動が困難となる拘束性肺疾患を引き起 こし,肺活量,一回換気量,残気量の減少,各肺気量分 画の減少のため全肺気量が減少する.拘束性肺疾患の慢 性化によって換気機能の低下が進むと,生体の代謝に必 要酸素を供給できない低酸素血症に加えて,代謝で産生 された二酸化炭素を完全に排泄できない肺胞低換気を引 き起こし,Ⅱ型呼吸不全に至る4).そのため,胸郭変形 によって引き起こされる肺機能の障害により労作時に呼 吸困難の増悪をきたすことから,運動耐用能が低下す る5).したがって,肋骨の位置関係を反映する胸郭形状 の評価6)は,適切な理学療法により換気の実効性を高 めるうえできわめて重要である. 健常者であっても胸郭形状は左右同レベルにおいて, 左右非対称な位置関係をとる7).例えば,肋骨前方回旋 位や後方回旋位によって生じる胸郭表面の高低差である 胸郭の配列の乱れは,肋骨の配列に偏位を生じさせ,関 係する体幹筋の活動に影響を与える.柿崎7)は安静位 における左右非対称な体幹筋の活動により,上位胸椎の 右回旋位,下位胸椎の左回旋位を呈し,上部胸郭と下部 胸郭のアライメントに相反した形状が存在すると述べて いる.大胸筋や腹斜筋をはじめとする体幹にある骨格筋 は解剖学的に左右対称に配置するため,体幹の矢状面上 の運動であれば筋活動が左右対称となるが,実際は非対 称となることが少なくない.これは胸郭の運動において も同様で,呼吸活動でも肋骨の動きは左右対称とはなら ない8).また,胸郭を胸椎と一対の肋骨で作られるリン グの集合体として捉えると,そのリングは各々回旋位や 運動が偏りなく生じていることが理想であるが,多くの 健常者で非対称な位置関係や運動を呈しやすいと述べて いる9).そのため,胸郭形状の評価において矢状面に加 えて前額面上の左右非対称性やその程度についても重要 視している.側弯症患者でみられるような左右の肋骨の 位置が非対称である例では,呼吸筋の短縮,胸郭を構成 する各関節の可動性低下を引き起こし,胸郭運動を制限 する.Leongら10)は健常者に比べ側弯症患者で胸壁運 動の大きさが有意に小さくなったと報告している.また, Kafer11-13)は側弯の程度である側弯度と呼吸機能には相 関関係があると報告している.しかし,側弯症患者にお いては肺実質障害,呼吸不全などを考慮する必要があり, 胸郭形状の左右非対称性以外の要因が複合的に胸郭可動 性や呼吸機能に影響を及ぼす可能性がある.以上より, 胸郭形状の左右非対称性が胸郭可動性,さらには呼吸機 能にも影響を及ぼすことが推測できる.また,胸郭形状 における左右非対称性の程度がこれらの因子に影響を与 えることも期待できる. そこで本研究では健常者を対象とし,胸郭形状の弯曲 を適切に捉えるため従来の光学反射式カメラ14)や光 ファイバによる曲率センサよる体表計測15)と比較し膨 大な計測点数の計測が可能である3次元画像解析装 置16,17)を用いる.そして,胸郭形状の左右非対称性に 関わる点を明らかにし,胸郭形状の左右非対称性の程度 を示す左右比と胸郭可動性を用い,これらの胸郭関連指 標が呼吸機能に関連する因子なのか明らかにすることを 目的とした.

II.対象と方法

1.対象 対象は,呼吸器疾患や脊柱疾患,胸部疾患の既往がな い健常成人男性20名とした.対象の年齢,身長,体重, BMI,呼吸機能を表1に示した.計測を始める前にはす べての被験者に本研究の趣旨ならびに実施方法を説明し, 研究への協力に関して文章による同意を得た.なお,本 研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員 会の承認を受け実施した(承認番号:2014-MSJ16). 2.方法 本研究では,呼吸運動における水平面上の胸郭形状左 右非対称性と胸郭可動性,呼吸機能との関係性を明らか 表1 対象の属性と呼吸機能 対象(n = 20) 年齢(歳) 25.1 ± 3.3 身長(cm) 172.8 ± 7.0 体重(kg) 65.9 ± 8.5 BMI(kg/m2 22.0 ± 1.6 %VC(%) 115.0 ± 17.2 %FEV1.0(%) 99.0 ± 12.1 FEV1.0%(%) 85.4 ± 6.3 %IC(%) 117.7 ± 22.6 %ERV(%) 109.0 ± 14.0 平均値±標準偏差.

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にするため,3次元画像解析装置と呼吸機能検査装置を 用いて測定を行った. 対象者の測定姿勢は身体座標を用いて指標である座面 のテープ上に両坐骨結節と殿裂を位置させた直立座位 (骨盤傾斜角0°)とした.上肢の影響を除くために,懸 垂装置(redcord,redcord社製)を用いて上肢を前方90° に挙上させてその位置を保持させた.胸郭形状の測定に は,3次元化する画像データを得るためにデジタルカメ ラ(D5100,AF-S DX 200m Nikkor 18-55 mm f/3.5-5.6G EDⅡ,Nikon社製)を計8台使用した.すべてのカメ ラにおける焦点距離とシャッタースピード,絞りを一定 にし,8台のカメラで同時に撮影できるよう同期した.2 台のデジタルカメラを鉛直方向に上下40 cm離して固定 し,ステレオカメラを計4台作成した.撮影対象者に対 して前後左右4方向から撮影できるように設置し,対象 者の前額面を基準に身体中心線から左右50° とした.ま た,撮影距離はそれぞれ2 mとした(図1). ステレオカメラの後方にプロジェクター(View Light NP2103,NEC社製)をそれぞれ配置し,立体視するこ とや3次元画像計測をするため胸郭面にランダムドット パターン照射画像と非照射画像の2種類を照射した.プ ロジェクターは,ステレオカメラの後方にそれぞれ計4 台配置した.撮影した画像データから胸郭形状を再現す るため,3次元画像解析装置(3Dイメージメジャラー QM-3000,Topcon technohouse社製)を用いた.身体 指標点は触診で使用される部位を目安とし18),第3 肋関節レベルおよび剣状突起上レベルとした(図2). 第3胸肋関節レベルの指標点は,前方部を第3胸肋関 節レベルの胸骨中央部(A点)とし,側方点はA点を 通る水平線で胸骨中央部から左右それぞれ前腋窩線部に あたる全周の18.8%部(B点とC点)とした.A点を 通るB点からC点までの水平線で形成される断面を上 部胸郭の水平断面とした.また,剣状突起レベルの身体 指標点は,剣状突起を通る水平線で脊柱棘突起との交点 (D点)を後方点とし,側方点はD点を通る水平線でD 点から左右それぞれ中腋窩線部にあたる全周の25%部 (E点とF点)とした.D点を通るE点からF点までの 水平線で形成される断面を下部胸郭の水平断面とした. なお,各レベルにおける側方点は,先行文献19-23)を参 考に身体指標点を決定し,可能な限り適切な断面を作成 できる部位とした.胸郭形状の測定部位は第3胸肋関節 レベルにおける床面に対する水平断面を上部胸郭とし, 剣状突起レベルにおける床面に対する水平断面を下部胸 郭とした.胸郭を形成する肋骨は解剖学的に後方から前 方に向かい下方傾斜している形態にある.その形態的特 徴から第3胸肋関節レベルの水平断面は,前方部が第3, 4肋骨レベルに相当し上部胸郭として定義づけられる. 一方,後方部のレベルは第5,6肋骨に相当することや 肩甲骨が存在するため,上部胸郭の運動を位置づけられ る前方部を測定部位とした.剣状突起レベルの水平断面 は,後方部が第9,10肋骨レベルであるため下部胸郭 として定義づけた.一方,前方部のレベルは上部胸郭に あたる第5,6肋骨に相当し上部胸郭の運動が反映され る.そのため,下部胸郭の運動を位置づけられる後方部 を測定部位とした.課題動作は深呼吸とし,安静呼気位, 最大吸気位,最大呼気位でそれぞれ2秒間静止させ,呼 吸が安定した3回の平均値を採用した.測定の際には可 及的に脊柱の矢状面変化が生じないよう測定前に十分な 2m 50° プロジェクター ステレオカメラ PC 分配機 対象者 図1 測定環境 半段 図1 測定環境 図2 胸郭形状の測定部位    a:上部胸郭,b:下部胸郭 a b

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練習を行った.撮影した画像データはPCで読み込み, QM-3000にてポイント計測およびポリライン計測処理 をし,3次元化した(図3).3次元化データより安静呼 気位における上部胸郭および下部胸郭の水平断面図を作 成した.断面図データはCSVファイルに変換し,変換 したデータから上部および下部胸郭水平断面積を求める ため,各々の中心線を定めた.上部胸郭の中心線はA 点を通るB–C線に対する垂直線とし,下部胸郭の中心 線はD点を通るE–F線に対する垂直線とした.その胸 郭中心線により断面積を二分し,上部胸郭および下部胸 郭の右側面積,左側面積を求めた.なお,個人間におけ る体型差の影響を考慮するため,それぞれの測定値は安 静呼気位での剣状突起レベルの胸郭周囲径を基準に正規 化した.安静呼気位における上部および下部胸郭断面積 の左右比は,右側から左側を除した値とした.胸郭可動 性は胸骨剣状突起の高さにおける胸郭周囲径とし,最大 吸気位と最大呼気位の差とした.剣状突起レベルに貼付 したマーカーから断面図を作製し,断面図データにて得 られた位置データから座標値間における距離の総和を算 出した.なお,個人間における体型差の影響を考慮する ため,安静呼気位における胸郭周囲径を基準に最大吸気 位および最大呼気位の値をそれぞれ%表示で算出し,各 肢位における胸郭周囲径の値の差を胸郭拡張率とした. 呼吸機能検査には電子式診断用スパイロメータ( AS-507,ミナト医科学社製)を用い計測した.測定肢位は直 立座位とし,ノーズクリップをつけマウスピースをくわえ て測定した.測定項目は,%肺活量(%Vital Capacity: 以 下,%VC), % 一 秒 量(%Forced Expiratory Volume1.0:以下,%FEV1.0),一秒率(Forced Expiratory Volume1.0 %: 以 下,FEV1.0 %),% 最 大 吸 気 量(% Inspiratory Capacity:以下,%IC),%予備呼気量(% Expiratory Reserve Volume:以下,%ERV)とし,3回測

定した平均値を算出した.それぞれの値は年齢,身長, 性別からVC測定に西田ら24)の正常予測式,FVC測定 には日本人の正常予測式25)を用いて標準値を算出し, 対標準値を計算した. 統計解析は,安静呼気位における上部および下部胸郭 断面積比を左右で対応のある t 検定を用いてそれぞれ比 較した.上部および下部胸郭断面積左右比,胸郭拡張率, 呼吸機能との関係をそれぞれPearsonの積率相関係数を 用い検討した.計測値は平均 ±標準偏差で表示し,そ れぞれ有意水準を5%とした.なお,解析には統計ソフ

トウェアSPSS ver.18.0 J for windowsを使用した.

III.結 果

安静呼気位における上部および下部胸郭断面積比の左 右比較を表2に示した.安静呼気位では全例で上部胸郭 において左側が有意に大きく,下部胸郭においては右側 が有意に大きかった. 安静呼気位における上部および下部胸郭断面積左右比 と胸郭拡張率の関係を表3に示した.安静呼気位におけ る上部胸郭断面積左右比が増大している例で胸郭拡張率 が増大する高い正の相関関係を示した.また,下部胸郭 断面積左右比が増大している例で胸郭拡張率が減少する 高い負の相関関係を示した. 胸郭拡張率,安静呼気位における上部および下部胸郭 断面積左右比と呼吸機能の関係を表4に示した.胸郭拡 張率が増大している例で%VC,%FEV1.0,%IC,%ERV が増加する正の相関関係を示した.FEV1.0%においては胸 郭拡張率と相関関係が認められなかった.安静呼気位に お け る 上 部 胸 郭 断 面 積 左 右 比 が 増 大 し て い る 例 で%VC,%FEV1.0,%ICが増加する正の相関関係を示し た.FEV1.0%,%ERVにおいては上部胸郭断面積左右比と 相関関係が認められなかった.また,下部胸郭断面積左 右比が増大している例では%VC,%FEV1.0,%ERVが減 少する負の相関関係を示した.FEV1.0%,%ICにおいて は 下 部 胸 郭 断 面 積 左 右 比 と 相 関 関 係 が 認 め ら れ な かった. 表2  安静呼気位における上部および下部胸 郭断面積比左右比較 胸郭断面積比 上部胸郭 左側 8.57 ± 0.79** 右側 8.04 ± 0.73 下部胸郭 左側 15.01 ± 1.16 右側 15.91 ± 1.08** n=20,平均値 ±標準偏差.単位:断面積/ 胸郭周囲径(mm2/mm). 対応のあるt検定,**:p<0.01 左側vs右側. 図3 QM3000による3次元化

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IV.考 察

本研究では安静呼気位における上部および下部胸郭形 状の左右非対称性について着目し,その程度を示す胸郭 断面積左右比と胸郭可動性および呼吸機能の関係性につ いて検討した.その結果,安静呼気位の胸郭断面積比を 左右で比較すると,全例において上部胸郭では右側で断 面積比が減少しており,左側で増大していた.また,下部 胸郭では右側で断面積比が増大しており,左側で減少し ていた.胸郭拡張率の減少は%VC,%FEV1.0,%IC,% ERV,%ICの低値を示す相関関係がみられた.また,安 静呼気位における上部胸郭断面積左右比の減少および下 部胸郭断面積左右比の増大は,胸郭拡張率の減少,% VC,%FEV1.0の低値を示す相関関係がみられた.さらに, 上部胸郭断面積左右比の減少は%IC,下部胸郭断面積左 右比の増大は%ERVの低値を示す相関関係がみられた. 胸郭形状に関しては,その横断面積を分析し,左右相 対比較した.抽出した横断面積のエリアは,その左右差 をみることで肋骨の前方および後方回旋位を規定するこ とができる.面積の多い方が吸気でみられる前後左右径 の拡大を意味し,肋骨の後方回旋位を示唆し,面積の少 ない方が呼気でみられる前後左右径の縮小を意味し,肋 骨の前方回旋位を示唆する.今回得られた結果から,上 部胸郭は左側で後方回旋位,右側で前方回旋位,下部胸 郭では左側で前方回旋位,右側で後方回旋位といえる. これは,Shōboら26)の報告にある計測手法に相違はあ るものの,一致した結果が得られた.この形状の要因に ついては,柿崎7)の報告にもあるように,胸郭の左右 非対称性を生じさせる要因は様々あるが,特に高い可能 性として前額面上における骨盤帯に対する胸郭の左右偏 位を指摘している.つまり,頭部と骨盤帯を可及的に正 中位に保持した条件下で,前額面上胸郭を左方へ偏位し たとき,右側上位肋骨は前方回旋,左側上位肋骨は後方 回旋,上位胸椎は右回旋し,右側下位肋骨は後方回旋, 左側下位肋骨は前方回旋,下位胸椎は左回旋すると述べ ている18).本研究でみられた胸郭形状は全対象者で同 様の体幹アライメントを呈したことによってパターン化 した形状になったものと考える. 胸郭形状と呼吸機能の関係に関しては,胸郭形状の左 右 非 対 称 性 の 程 度 と 呼 吸 機 能, す な わ ち, %VC, %FEV1.0,%IC,%ERVとの間に相関を示した.具体的 に は, 上 部 胸 郭 の 左 右 非 対 称 性 の 程 度 と %VC,% FEV1.0,%ICが,下部胸郭の左右非対称性の程度と% VC,%FEV1.0,%ERVとの間でそれぞれ相関を示した. 上部と下部胸郭で各呼吸機能のパラメーターが関係した ことに関しては,健常者であっても胸郭形状には特徴的 な左右非対称性が存在するかもしれないが,呼吸筋群の 付着する部位の左右非対称性の程度の強さが影響を及ぼ すことが考えられる.上部胸郭には吸気筋群が多く付着 しており,胸郭形状の左右非対称性の程度が強まれば一 側性に吸気筋群の過活動が生じることが推測できる.例 えば,安静呼気位における肋骨の前方回旋側では吸気時 に伴う肋骨の後方回旋運動を制限することが考えられ, 斜角筋をはじめとする吸気筋群の活動を強めることが推 測される.また,後方回旋側ではさらなる後方回旋運動 が困難となるため吸気筋群の活動は減弱する可能性があ る.いずれにおいても長さ張力関係から活動性が低下す ることが推測される.そのため,吸気相で呼吸機能を示 す%ICとの間に相関がみられたものと予測される.ま た,下部胸郭には呼気筋群が多く付着しており,下部胸 郭形状の左右非対称性の程度が強まれば,呼気筋群の過 活動が一側性に生じやすいことが推測できる.呼気時に おいても吸気様式とは異なるものの同様なメカニズムが 考えられる.そのため,呼気相で呼吸機能を示す%ERV との間に相関がみられたものと予測される. 上部および下部胸郭形状のいずれにおいても左右非対 称性の程度と%VCや%FEV1.0の間に相関を示したこと に関しては,胸郭形状の左右非対称性の程度が強まるこ とで,呼吸時にみられる胸郭全体の拡張や縮小を困難と させたものと考える.胸郭形状の非対称性の程度が強ま 表4 胸郭拡張率および上部, 下部胸郭断面積左右比と呼吸機能の相関関係 相関係数

%VC %FEV1.0 FEV1.0% %IC %ERV

胸郭拡張率(%)  0.66**  0.63**  0.05  0.63**  0.53* 上部胸郭左右比(右側/左側)  0.67**  0.57** -0.07  0.71**  0.37 下部胸郭左右比(右側/左側) -0.5* -0.6** -0.21 -0.39 -0.61** n=20,平均値±標準偏差,Pearsonの積率相関係数,*:p<0.05,**:p<0.01. 表3  安静呼気位における上部および下部胸郭断面積左右 比と胸郭拡張率の関係 相関係数 有意確率 上部胸郭左右比(右側/左側) 0.74 <0.01 下部胸郭左右比(右側/左側) -0.78 <0.01 Pearsonの積率相関係数,平均胸郭拡張率(%):7.02 ± 1.0.

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れば,一側性に呼吸筋群の過活動が生じることが推測さ れ,各々の筋群は吸気または呼気の拮抗筋となることか ら,胸郭全体の可動性を困難とさせることが考えられ る.さらに,%FEV1.0は気道の閉塞の程度によりその 値が左右するとされているが,十分な呼出量を得るには 筋による呼出力が必要不可欠になり,呼出量が高値を示 すほど胸壁や腹部の呼気筋によりそれらの部位を瞬間的 に縮小する能力が優れていることになる.今回は,呼吸 器疾患をもたない健常成人を対象としたため,気道閉塞 の問題は存在しない.そのため,胸郭可動性や呼出力を 反映する%VCや%FEV1.0との間に相関がみられたもの と予測される.柿崎7)は胸郭アライメントに存在する明 確な非対称性の程度が最小限になった状態をニュートラ ルとし,この時には前方回旋量に左右の相違がなく,か つ左右ともに胸郭の可動性が大きいことを示すとしてい る.そのために,筋の付着する骨格である肋骨の配列に 左右対称性が強まれば筋の長さや張力は左右で安定し, 両側で活動する呼吸筋活動において吸気筋および呼気筋 の活動は保たれるといえる.これは胸郭形状と胸郭拡張 率との関係で相関がみられた結果からも支持されるもの である.そして,胸郭可動域の低下は拘束性換気障害で みられるような呼吸機能の低下や呼出力の低下を招き, 胸郭拡張率と呼吸機能,すなわち,%VC,%FEV1.0, %IC,%ERVとの間に相関を示したものと予測される. 以上から,健常人においても胸郭形状には特徴的な左 右非対称性がみられ対称的な胸郭形状を呈しているとは 限らないことが示唆された.また,胸郭形状の左右非対 称性の程度には個人差があり,上部および下部胸郭形状 の左右非対称性の程度が強い程,換気努力を必要とする 可能性が危惧される.しかし,胸郭形状の左右非対称性 の改善が胸郭変形を有する患者の呼吸機能改善の手段に 成り得るかは今後の課題である.胸郭形状の左右非対称 性やその程度を考慮することは,呼吸器および運動器を はじめとする多くの疾患に重要な所見であると考える. 引用文献 1) Neuman DA:カラー版 筋骨格系のキネシオロジー,原著 第 2 版.嶋田智明・他(監訳),医歯薬出版,東京,2012, p487.

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参照

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