• 検索結果がありません。

変革型リーダーシップの効果を規定する職場状況に関する実証研究 [ PDF

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "変革型リーダーシップの効果を規定する職場状況に関する実証研究 [ PDF"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

変革型リーダーシップの効果を規定する職場状況に関する実証研究

キーワード:変革型リーダーシップ,ストレス,満足度,LMX,職場状況 行動システム専攻 周 群 問題と目的 従来の研究では,変革型リーダーシップが,メンバー の職務満足度にポジティブな効果をもたらすことが示さ れてきた(e.g., Bass & Avolio, 1996; Bryman, 1992)。

その一方で,変革型リーダーシップは,メンバーの不 満を抑圧させることや,メンバーを間違った方向へと導 く可能性も指摘されている(Northouse, 2004; Yukl, 2002)。 本研究では,従来の知見を整理した上で,変革型リー ダーシップがメンバーに与える効果を検討する。本研究 では,メンバーへの効果を測定する指標として,「メンバ ーのストレス」と「メンバーの職務満足度」に着目する。 現代社会の職場では,技術革新,労働力の多様化,人 事雇用制度の改革,失業となどの変化が起こり,これら の変化は職場ストレスを高めることが指摘されている (原谷,2000)。また,厚生労働省(2002)によると,会 社員の 41.1%は仕事による大きなストレスに直面し, 61.4%の会社員は心理的疲労感を抱いている。その主な ストレスの領域は「課題要求」,「会社の将来性」,「人間 関係」とされている。 さらに,職場におけるストレスと関連するものとして, 職務満足度も挙げられる。現に,久保,永松(2007)の 研究では,職部満足度が高い人はストレスに対処能力が 高く,満足度が低い人は日常のストレスが高く,神経質 であることが示されている。 本研究では,組織における「課題要求」,「会社の将来 性」,「人間関係」の3 つの領域に着目し,それぞれに関 するメンバーのストレス度と職務満足度を取り上げて, それらに対して,変革型リーダーシップが及ぼす効果を 検討する。 仮説 変革型リーダーシップは,「知的刺激」,「志気を鼓舞 する動機付け」,「個別配慮」,「理想モデル」の4 つの特 性で成り立つと考えられている(Bass & Avolio, 1994)。 (1)「知的刺激」の効果について リーダーはメンバー に知的刺激を提供することで,メンバーは仕事に対する 意識を高め,新たな視点に基づいて問題を捉えるように なると考えられる。また,リーダーの期待に応えるため に,仕事のモチベーションや満足度を高めると予想される。 仮説1:変革型リーダーシップの「知的刺激」特性は, メンバーの「課題要求」に関するストレスを低減させ, 「課題要求」に関する満足度を高めるであろう。 (2)「志気を鼓舞する動機付け」の効果について リー ダーは,志気を鼓舞する動機付けを提供することで,メ ンバーに明確なビジョンを与えることができ,やる気を 引き出し,元気づけると考えられる。そのため,変革型 リーダーシップの影響を受けたメンバーは, 将来の明確 度が高まった組織に対して,明るい未来を認識するよう になり,満足度を高めると考えられる。 仮説2:変革型リーダーシップの「志気を鼓舞する動 機付け」特性は,メンバーの「会社の将来性」に関する 満足度を高めるであろう。 (3)「個別配慮」の効果について リーダーの個別配慮 には,メンバーの職場における成長や生活面に関心をも つことが含まれていると考えられる。変革型のリーダー は,個人の所属する組織や職業のメンバーシップの感覚 を高めると考えられる。変革型リーダーシップは,人間 関係を構築することを重視する。リーダーは,メンバー 自身の興味の満足にとどまらず,社会的アイデンティティ の確立のために,組織活動への参加を促す(島井,2008)。

(2)

2 メンバー間の信頼関係を構築することで(Lichaoping, 2008),メンバーのチーム所属感や人間関係に対する満 足度を高めることができると考えられる。 仮説3:変革型リーダーシップの「個別配慮」特性は, メンバーの「人間関係」に関するストレスを低減させ, 「人間関係」に関する満足度を高めるであろう。 (4)LMX と職場状況の効果について 変革型リーダー シップ以外に,職場のストレスや満足度に影響を与える 要因として,LMX(Leader-Member Exchange)と職 場状況が考えられる。 LMX は,メンバーのストレスを緩和する効果を持つ ことが示されている(Li & Lin, 2008)。LMX は自己効 力感を高め,メンバーの職務満足度やパフォーマンスを 向上させることも示されている(Birgit & Gemot, 2002)。

さらに,森田(1988),職場状況がメンバーの組織的 活動における価値観,態度,行動を規定する重要な要因 であり,リーダーとメンバー間の関係や,メンバー同士 の関係,メンバーのモチベーション,満足度,ストレス に大きな影響を与えると考えられる。 仮説4:LMX と職場状況は,変革型リーダーシップ が及ぼす効果に影響を与えるであろう。 方法 1.調査対象 中国で働く一般企業の社員を対象に,質問紙調査を行 った。147 部の質問紙を配布し,そのうち 142 名から有 効回答を得た(男性59 名,女性 83 名,有効回収率 96.6%)。 2.質問項目の構成 変革型リーダーシップ Lichaoping(2005)によって, 開発された 24 項目(Transformational Leadership Questionnaire)を用いた。本研究では,因子分析の結 果,3 つの因子(「知的刺激」,「志気を鼓舞する動機付け」, 「個別配慮」)が明確に抽出された。

ストレス及び職務満足度 Liu & Jin(2005)などを参考 しながら,「課題要求」,「人間関係」,「将来性」のそれぞ れに関するストレス測定項目(10 項目)と満足度測定項 目(8 項目)を作成した。

LMX Wang, Niu, Kenneth(2004)の 12 項目を用い た。 職場状況 「職場環境と評価制度」,「会社の業績と将来 発展」,「離職意欲」,「チーム所属感」の4 つの要因に関 する14 項目を作成した。 これらの項目について,それぞれ,「全く当てはまらない =1」から「非常に当てはまる=5」の 5 件法で回答を求めた。 結果 1.変革型リーダーシップ特性がストレスと満足度に及 ぼす影響について (1)知的刺激の効果について 変革型リーダーシップ の「知的刺激」特性は,「課題要求」に関する満足度に正 の影響を与えており(β=.48, p<.001),仮説 1 は部分的 に支持された。リーダーは,メンバーの視野を広げたり, 転換させるための刺激を与えることで,メンバーの課題 を解決する際の満足度を上げることが示された。 (2)志気を鼓舞する動機付けの効果について 変革型 リーダーシップの「志気を鼓舞する動機付け」特性が, 「会社の将来性」に関するストレスに負の影響(β=-.28, p<.001)を,「会社の将来性」に関する満足度に正の影 響(β=.32, p<.001)を与えていたことから,仮説2は支 持された。リーダーは,メンバーに対して,仕事の意味 を説明したり,会社の明るい未来を示すことで,メンバ ーの会社の将来に関するストレスを低減し,会社の将来 に関する満足度も高めることが示された。 (3)個別配慮の効果について 変革型リーダーシップ の「個別配慮」特性が,「人間関係」に関する満足度に正 の影響(β=.21, p <.05)を与えており,仮説3は部分的 に支持された。リーダーは,メンバーの仕事をサポート したり,メンバーシップの感覚を高めることで,メンバ ーの人間関係に関する満足度を高めることが示された。 2.変革型リーダーシップがストレス及び満足度に及ぼ す影響に対するLMX の調整効果について 変革型リーダーシップおよびLMX が,ストレスと満 足度に及ぼす影響を検討するため,ストレスと満足度を 従属変数として階層的重回帰分析を行った。 LMX は,「志気を鼓舞する動機付け」特性が「会社の 将来性」に関する満足度に及ぼす影響を調整することが が示された。 具体的には,「志気を鼓舞する動機付け」特性の効果 は,LMX が高くなるにつれて,顕著になる傾向である ことが示された。また,LMX は良い状態よりも悪い状 態において,「志気を鼓舞する動機付け」特性の効果がよ り顕著になることが示唆された。 3.変革型リーダーシップが,ストレス及び満足度に及 ぼす影響に対する職場状況の調整効果ついて 変革型リーダーシップおよび4 つの職場状況が,スト レスと満足度に及ぼす影響を検討するため,ストレスと 満足度を従属変数として階層的重回帰分析を行った。 (1)職場状況の「職場環境と評価制度」の調整効果 「職場 環境と評価制度」は,「志気を鼓舞する動機付け」特性が

(3)

3 「会社の将来性」に関するストレスに及ぼす影響,及び 「個別配慮」特性が「人間関係」に関する満足度に及ぼ す影響を調整することが示された。 すなわち,「志気を鼓舞する動機付け」特性の効果は, 「職場環境と評価制度」が良くなるにつれて,上がるこ とが示された。また,「職場環境と評価制度」は良い状態 よりも悪い状態において,「志気を鼓舞する動機付け」特 性の効果が上がることが示唆された。 「個別配慮」特性の効果は,「職場環境と評価制度」 が良くなるにつれて,上がることが示された。また,「職 場の環境と評価制度」は良い状態より,悪い状態におい て,「個別配慮」特性の効果が上がることが示唆された。 (2)職場状況の「会社の業績と将来発展」の調整効果 「会 社の業績と将来発展」は,「志気を鼓舞する動機付け」特 性が「会社の将来性」に関する満足度に及ぼす影響を調 整することが示された。 すなわち,「志気を鼓舞する動機付け」特性の効果は, 「会社の業績と将来発展」が良くなるにつれて,上がる ことが示された。また,「会社の業績と将来発展」は良い 状態よりも悪い状態において,「志気を鼓舞する動機付 け」特性の効果が上がることが示唆された。 4.変革型リーダーシップと職場の各要因との関係性モデル 変革型リーダーシップは,本研究で取り扱った各要因 (LMX,ストレス,職務満足度,職場状況要因)にどの ようなプロセスを通して,影響を及ぼすかについても検 討をした。データと最も適合するモデルは図1 に示され ている。 このモデルにより,変革型リーダーシップは,LMX と課題要求満足度,課題要求ストレスを介して,離職意 向を弱めることが確認された。 変革型リーダーシップのうち「志気を鼓舞する動機付 け」特性は「課題要求」ストレスに正の影響を及ぼして いる(β=.31, p<.01)。リーダーはメンバーに対して, 課題に関する高い要求を与えることで,メンバーの課題 に関するストレスを高めることが示唆された 変革型リーダーシップのうち,「個別配慮」特性(β=.41, p<.001),「志気を鼓舞する動機付け」特性(β=.15, p<.05)と「知的刺激」特性(β=.37, p<.001)は LMX に正の影響を及ぼしていた。 LMX はメンバーの課題要求ストレスに負の影響を(β =-.28, p<.01),課題要求満足度に正の影響を(β=.56, p<.001),それぞれ与えることが示された。リーダーと メンバーの交換関係が良ければ,メンバーの課題におけ るストレスが弱まり,満足度が高まることが確認された。 課題要求ストレスが離職意向に正の影響を(β=.20, p<.05),課題要求満足度が離職意向に負の影響を(β= -.33 ,p<.001),それぞれ与えることが示された。課題に 対してストレスを感じるほど,メンバーの離職意向は高 まり,課題に対して満足度を感じるほど,メンバーの離 職意向は弱まることが確認された。 離職意向に対して,3 つの変革型リーダーシップ特性 は,いずれも直接的に効果を示していなかった。ただし, 図 1 変革型リーダーシップが離職意向に影響を及ぼすプロセス 知的刺激 志気を鼓舞 する動機付け 個別配慮 LMX 課題要求 ストレス 課題要求 満足度 離職意向 .37*** .15* .41*** -.28** .56*** .31** .20* -.33 *** .53*** .43*** .53*** 注 1:図内数値は標準回帰係数 注 2: ***p<.001,**p<.01,**p<.05 注 3: X2= 7.082 GFI = .986 AGFI = .961 RMSEA = .000 AIC = 40.082

(4)

4 変革型リーダーシップは,LMX と課題要求満足度,課 題要求ストレスを介して,離職意向を弱める効果を持つ ことが確認された。 考察 1.変革型リーダーシップの「知的刺激」特性,「志気を鼓舞 する動機付け」特性,及び「個別配慮」特性の効果について 変革型リーダーシップのうち,「知的刺激」特性は, メンバーの感じる「課題要求」に関する満足度を高める 効果を持つことが確認できた。 「志気を鼓舞する動機付け」特性は,メンバーの「会 社の将来性」に関するストレスを下げる効果,メンバー の「会社の将来性」に関する満足度を高める効果が確認 できた。 そして,「個別配慮」特性は,メンバーの感じる「人 間関係」に関する満足度を高める効果が確認できた。 以上の結果から,本研究の調査対象である中国企業に おいては,変革型リーダーシップ特性はそれぞれが異な る効果を持つことが分かった。チームメンバーが抱えて いる具体的な問題に対して,どのようなリーダーシップ の発揮が,より有効であるかに関して,本研は示唆的な 結果を提供している。 2.LMX の調整効果について 本研究の結果は,LMX が良好であるにつれて,「志気 を鼓舞する動機付け」特性の影響力が大きくなることを 示唆していた。LMX は良い状態よりも悪い状態におい て,「志気を鼓舞する動機付け」特性の効果がより顕著に なることも示唆された。なお,「知的刺激」特性と「個別 配慮」特性の影響力に対して,LMX の調整効果は,見 認められなかった。 3.職場状況の調整効果について 本研究の結果は,「職場環境と評価制度」,「会社の業 績と将来発展」が良好であるときほど,変革型リーダー シップのうちの「志気を鼓舞する動機付け」特性の影響 力がより大きくなることを示していた。なお,「離職意向」 と「チーム所属感」の調整効果は,認められなかった。 「職場環境と評価制度」,「会社の業績と将来発展」は 良い状態よりも悪い状態において,「志気を鼓舞する動機 付け」特性の効果がより顕著になることも示唆された。 このことから,「志気を鼓舞する動機付け」特性の効果は, 公正的な評価制度を持つ職場,将来が明るい職場,また, 次々と新しい領域に発展していく職場より,そうでない 職場の方が,より大きくなると考えられる。 また,「職場環境と評価制度」が良好であるにつれて, 「個別配慮」特性の影響力もより大きくなることが示さ れた。一方,「職場環境と評価制度」は良い状態よりも悪 い状態において,「個別配慮」特性の効果がより顕著にな りことも示唆された。このことから,変革型リーダーシ ップのうちの「個別配慮」特性の効果は,快適な職場環 境と公正的な評価制度のある職場より,そうでない職場 の方が,より大きくなると考えられる。 以上の結果を考慮すると,本研究の調査対象である中 国企業においては,変革型リーダーシップの「志気を鼓 舞する動機付け」特性が最も影響力を持つことがうかが える。特に,リーダーとメンバーの交流が少ない職場や, 職場状況が不完備で,業績が悪い職場において,「志気を 鼓舞する動機付け」特性の効果が期待できる。 4.組織に変革型リーダーシップが影響を及ぼすモデル 本研究のモデルにより,変革型リーダーシップはLMX に直接影響を与え,LMX を介して,メンバーのストレ スや職務満足度に効果をもたらすことで,離職意向を弱 めることが確認できた。 ただし,変革型のリーダーは,メンバーに高いビジョ ンを示すことで,メンバーの課題要求に関するストレス を高めることも示された。このことに関して,質問紙調 査の回答者にインタビューによる調査を行ったところ, リーダーがメンバーに明るい将来像を描くことや,メン バーに高いビジョンを示すことは,メンバーにとって, 仕事の量が増えること,課題の難しいさが高くなること と等しい可能性がうかがえる。そのため,メンバーのス トレスが増えると推察される。 これは,今後変革型リーダーシップを発揮する際の注 意すべき点として挙げられる。 主要引用文献

Bass, B.M., & Avolio, B.J. (1990). Developing Transformational Leadership: 1992 and beyond. Journal of European Industrial Training, 14,21-27. Hock, P.S., Jennifer, D.N., & Frederick, P.M. (2009).

Understanding Why They Don’t See Eye to Eye: An Examination of Leader-Member Exchange (LMX) Agreement. Journal of Applied Psychology, 94(4),1048-1057.

Li, C.P., Tian, B., & Shi, K. (2006). Transformational Leadership and Employee Work Attitudes: The Mediating Effects of Multidimensional Psychological Empowerment. Acta Psychologica Sinica, 38(2), 297-306.

参照

関連したドキュメント

議論を深めるための参 考値を踏まえて、参考 値を実現するための各 電源の課題が克服さ れた場合のシナリオ

題が検出されると、トラブルシューティングを開始するために必要なシステム状態の情報が Dell に送 信されます。SupportAssist は、 Windows

ているかというと、別のゴミ山を求めて居場所を変えるか、もしくは、路上に

ASTM E2500-07 ISPE は、2005 年初頭、FDA から奨励され、設備や施設が意図された使用に適しているこ

・子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制を整備する

さらに, 会計監査人が独立の立場を保持し, かつ, 適正な監査を実施してい るかを監視及び検証するとともに,

賠償請求が認められている︒ 強姦罪の改正をめぐる状況について顕著な変化はない︒

(1)  研究課題に関して、 資料を収集し、 実験、 測定、 調査、 実践を行い、 分析する能力を身につけて いる.