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奥行き情報の空間的統合メカニズム—両眼傾き対比による検討—知 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)奥行き情報の空間的統合メカニズム —両眼傾き対比による検討— キーワード: 両眼網膜像差,両眼傾き対比,空間的統合,時間変化,両眼立体視 行動システム専攻 原田 新也 背景と目的 . 方法 . 両眼傾き対比とは,相対両眼網膜像差を持たない刺激(テ. 観察者 観察者は 8 名であり,うち 2 名が実験の意図を. スト刺激)が,相対像差を持つ刺激(誘導刺激)と同時に. 知っていた。すべての観察者が正常な視力(矯正を含む). 呈示された場合には傾いて知覚されるという現象である. を有していた。 . (Howard & Rogers,1995) 。この現象は,傾きの知覚が,判. 装置 ミラーステレオスコープを用い,両眼に異なる図. 断対象である刺激内の手がかりのみでなく,周囲に存在す. 形を呈示した。観察距離は約 67.5 cm であった。 . る刺激の影響を受けることを示唆している。したがって,. 刺激 刺激は,誘導刺激が格子状の図形であり,テスト. この現象の生起メカニズムを検討することで,空間的に離. 刺激がランダムドットで構成された面であるステレオグラ. れた位置に存在する傾き知覚のための手がかりを,視覚系. ムを用いた(図 1)。誘導刺激には直軸周りに−30°,−. がどのように統合しているのかを明らかにすることが可能. 20°,20°, 30°の傾きに対応する水平大きさ像差を付加. である。 . した。ここでは,上から見て反時計回りの傾きを正とする。. Howard & Rogers (1995) は,傾き標準化理論という両. テスト刺激のドットは,高さが 1.6°,幅が 1.6°の範囲内. 眼傾き対比の生起メカニズムに関する理論をまとめている。 . に, 約 60 個呈示された。 刺激の呈示時間については 100 ms,. この理論では,傾きの絶対的な情報に対する感受性の低さ. 200 ms,400 ms,800 ms の4条件が設定された。 . と,刺激間の相対的な情報に対する感受性の高さが両眼傾. 手続き ブロックごとに,観察者には 2 つの課題のいず. き対比の生起要因であるとされる。この場合の絶対的な情. れかが課せられた。一つは観察した誘導刺激の傾きを報告. 報とは誘導刺激,テスト刺激それぞれが持つ網膜像差分布. する課題であり,もう一つは観察したテスト刺激の傾きを. に相当し,また相対的な情報とは誘導刺激とテスト刺激の. 報告する課題であった。観察者は,図 2 における矢印を視. 間の相対的な網膜像差分布に相当する。これらの情報が統. 線の向きとみなし,俯瞰した形を想定して,知覚された刺. 合された結果,両眼傾き対比が引き起こされるのではない. 激の垂直軸まわりの傾きを,図 2 における実線の平面上の. かと彼らは提案している。ただし,この理論については,. 傾きで再現するように求められた。調整時間に制限は無く,. 視覚系がどのようにして絶対的な情報と相対的な情報を統. 観察者は,納得のいくまで調整を行った。 . 合しているか明らかではないという批判もあり(van der . . Kooij & te Pas,2011) ,更なる検討が必要である。傾き標. 結果 . 準化理論によれば,時間経過に伴ってテスト刺激の傾きは. 結果の検討では,調整画面において観察者が操作した実. 減少し,誘導刺激の傾きは増加することが予測される。し. 線と中央の破線がなす角(傾き)を従属変数として用いた。. たがって,本研究では,呈示時間を変化させ,誘導刺激と. 誘導刺激の像差が−30°である条件において得られたデー. テスト刺激両方の傾きを測定することで,奥行き情報の統. タは符号を反転し,30°である条件のデータと平均した。. 合過程を明らかにすることを目的とした。. 同様の方法を用いて,誘導刺激の像差が-20°である条件に. . おいて得られたデータも,20°である条件のデータと平均 実験1 . した。誘導刺激の傾き,テスト刺激の傾きに関して,角度と. 実験 1 の目的は,Howard & Rogers (1995)の傾き標準. 呈示時間を独立変数とする,観察者内 2 要因分散分析を行. 化理論の検討を行うことであった。Howard & Rogers (1995). った。その結果,誘導刺激においては呈示時間の主効果の. の傾き標準化理論によれば,誘導刺激の傾き知覚とテスト. みが有意であった(F(3,21)=4.735, p =.011) 。テスト刺激. 刺激の傾き知覚は,時間的に共変すると推測される。具体. においては角度の主効果,呈示時間の主効果がともに有意. 的に言えば,上から見て反時計回りの傾きを正とした場合,. であった(F(1,7)=10.968, p =.013 ; F(3,21)=14.025, p . 傾き標準化理論からは誘導刺激とテスト刺激の傾きの変化. < .001) 。図 3 に,8名の観察者から得られた,知覚された. 量が正の相関をなすと考えられる。 . 傾きの平均値を呈示時間の関数として示す。知覚されたテ.

(2) スト刺激の傾きと知覚された誘導刺激の傾きの間に関連が. 実験2 . 見られるかどうかを検討するため,誘導刺激の角度ごとに,. 実験 2 においては,奥行き情報の統合が,テスト刺激の. ピアソンの積率相関係数を計算した。分析には各条件にお. 形状に依存するのかを検討することを目的とする。さらに. ける知覚された傾きの平均を用いた。その結果,誘導刺激. 実験 2 では,非両眼性の手がかりと両眼性の手がかりの矛. の像差が 30°である条件,20°である条件において,とも. 盾の有無に関わらず,奥行き情報の統合が,テスト刺激の. に知覚されたテスト刺激の傾きと知覚された誘導刺激の傾. 形状に依存するのかを検討した。van Ee, Banks, & Backs. きの間に有意な負の相関が見られた(r=-.957, p=.043 ; . (1999)は,誘導刺激における非両眼性の手がかりと両眼. r=-.958, p=.042) 。 . 性の手がかりの矛盾が傾きの過小評価の原因であるとし,. . 右眼用. 左眼用. これらの手がかり間に矛盾が無い場合,両眼傾き対比は減. . 少することを発見している。本実験においては,誘導刺激. . における手がかり間の矛盾が,奥行き情報の統合に影響を. . 及ぼすのかについても検討した。 . . 図 1 実験 1 における刺激. . 方法 . . 観察者 観察者は 9 名であり,うち 2 名が実験の意図を. . 知っていた。すべての観察者が正常な視力(矯正を含む). . を有していた。うち 4 名は実験 1 にも参加した。 . . 装置 実験 1 と同じであった。 . . 刺激 以下の点を除いて,実験 1 と同じであった。刺激. . は A 条件, B 条件, C 条件の 3 種類を設けた。A 条件は,誘. . 導刺激が格子状の図形であり,テスト刺激が 2 個のドット. . であるステレオグラムを用いた(図 4) 。誘導刺激には垂直. 図 2 報告用の画面. 加した。テスト刺激である2個のドットは,実験 1 のテス. 30. . . -5. 15. . 10. . 5. 20. 25. Test 30deg Test 20deg Inducer 30deg Inducer 20deg. 50. . ト刺激であるドットで構成された面の端点に対応するよう に配置された。B 条件は誘導刺激が格子状の図形であり,テ スト刺激が約 60 個のドットで構成された面であるステレオ グラムであった。誘導刺激には,水平大きさ像差と線遠近法 成分によって垂直軸周りの−20°,20°の傾きを付加した。 線遠近法成分については,-20°,20°の傾きに一致するよ う,透視変換を行った(金谷,1990) 。すなわち,水平大き. 0. 0. . Perceived test slant (deg). . -10 -15 -20 -25 -30. 軸周りの−20°,20°の傾きに対応する水平大きさ像差を付. Perceived inducer slant (deg). . 100. 200. . さ像差から予測される傾き量と,遠近法成分から予測され 500. 1000. Duration (ms). 図 3 実験 1 における知覚された傾き(n=8). る傾き量を一致させた。テスト刺激については実験 1 と同 様であった。C 条件は,誘導刺激が格子状の図形であり,テ スト刺激が 2 個のドットであるステレオグラムを用いた。. 考察 . 誘導刺激には,B 条件と同様,水平大きさ像差と線遠近法成. 知覚されたテスト刺激の傾きと知覚された誘導刺激の傾. 分によって垂直軸周りの−20°,20°の傾きを付加した。テ. きの間には有意な負の相関が見られた。この結果は,Howard . スト刺激については A 条件と同様であった。 . & Rogers (1995)の傾き標準化理論からは予測できないも. 手続き 観察者が行う課題とその手順などは実験 1 と同じ. のである。さらに,呈示時間の増加に伴って,知覚された. であった。 . 誘導刺激の傾き,知覚されたテスト刺激の傾きがともに増. . 加していた。この結果は,2個のドットをテスト刺激とし. 結果 . て使った先行研究と異なっていた。 (Kumar & Glaser,1993) 。. 実験 1 と同様に,誘導刺激の像差が −20°である条件に. これらの結果は,奥行き情報の空間的な統合は,刺激形状. おいて得られたデータの符号を反転し,20°である条件の. に依存することを示唆している。 . データと平均した。図 5 に A 条件,図 6 に B 条件,図 7 に C.

(3) 考察 . 誘導刺激,テスト刺激の調整した角度に関して,呈示時間. A 条件においては,知覚されたテスト刺激の傾きと知覚さ. を独立変数とする観察者内 1 要因分散分析を行った。 結果,. れた誘導刺激の傾きの間に有意な相関は見られなかった。. B 条件, C 条件の誘導刺激において呈示時間の主効果が有意. これは実験1とは異なる結果であり,奥行き情報の統合が. であった(F(3,24)=11.026, p <.001 ; F(3,24)=10.829, p . テスト刺激の形状に依存していることが明らかになった。 . <.001) 。テスト刺激においては,A 条件と B 条件において呈. 実験 2 のもう一つの目的は,誘導刺激における手がかり間. 示時間の主効果が有意であった(F(3,24)=9.227, p <.001 ; . の矛盾が,奥行き情報の統合に影響するのかを検討するこ. F(3,24)=5.681, p < .001) 。知覚されたテスト刺激の傾きと. とであった。結果として,B 条件にのみ,知覚されたテスト. 知覚された誘導刺激の傾きの間に関連が見られるかどうか. 刺激の傾きと知覚された誘導刺激の傾きの間には有意な負. 調べるため,条件ごとにピアソンの積率相関係数を計算し. の相関が見られた。この結果は,誘導刺激における手がか. た。分析には各条件における平均値を用いた。その結果,B. り間の矛盾に関わらず,奥行き情報の統合がテスト刺激の. 条件においてのみ,有意な負の相関が見られた(r=-.97, p . 形状に依存することを示唆している。 . =.029) 。 . . 50. 100. 200. . Perceived test slant (deg). -25. . -15. . -10. . -5. . 実験 3 . 500. . 100. 200. . . -30. 図 7. Perceived test slant (deg). -30 -25 -20 -15 -5. -10. 25 20 15. 50. 100. 200. 500. 右眼用. . 図 8 条件 D における刺激. 方法 . 有していた。うち 3 名は実験 1 にも参加しており,そのう ちの 2 名は実験にも参加した。 刺激 以下の点を除いて,実験 1,2 と同様であった。刺. Perceived test slant (deg). 30. . 左眼用. . 装置 実験 1,2 と同じであった。 . 0. . 10. . -20. 条件 B における知覚された傾き(n=9) . C test C inducer. . なかった。すべての観察者が正常な視力(矯正を含む)を. Duration (ms). 5. . 実験 3 においては,誘導刺激がランダムドットで構成され. 観察者 観察者は 4 名であり,全員が実験の意図を知ら. 1000. 0. . Perceived inducer slant (deg). . -15. -25. 500. . -10. . -5. . 導刺激の形状による影響は考慮されていなかった。そこで. . 0. 30 5. 25 20 15 10. . 0. Perceived inducer slant (deg). . 50. 図6. . いては誘導刺激の形状は常に格子状を持つ図形であり,誘. . 条件 A における知覚された傾き(n=9) B test B inducer. に影響するかを明らかにすることであった。実験 1,2 にお. 奥行き情報の統合に影響するかを検討した。 . 1000. Duration (ms). 図5. 実験 3 の目的は,誘導刺激の形状が,奥行き情報の統合. た面であるステレオグラムを用いて,誘導刺激の形状が,. 0. 15. -20. 30 20. . 10. . 5. 25. A test A inducer. 0. Perceived inducer slant (deg). . -30. 条件の知覚された傾きの平均値を示す。刺激条件ごとに,. 1000. Duration (ms). 条件 C における知覚された傾き(n=9). 激は D 条件, E 条件の 2 種類が存在した。D 条件の刺激は, 誘導刺激が約 672 個のドットで構成された面であり,テス ト刺激が約 60 個のドットで構成された面であるステレオグ ラムであった(図 8) 。誘導刺激におけるドットの数は,実 験 1,2で用いた格子状の誘導刺激と平均輝度が近くなるよ うに設定した。これまでの実験と同様,垂直軸周りの − 20°,20°の傾きに対応する水平大きさ像差を付加した。誘 導刺激の高さは 5.2°であり,幅は最大で 5.5°,最小で 4.9°であった。この範囲内に,ドットが約 672 個呈示され.

(4) . -30 -25. 25. -20. 20. -15 -10. 0. 結果 実験 1,2 と同様に,誘導刺激の像差が −20°である条件. Perceived test slant (deg). . . -5. 様であった。 . . 0. 手続き 観察者が行う課題とその手順などは実験 1 と同. 15. ついては実験 2 の A 条件と同様であった。 . . 10. 個のドットであるステレオグラムであった。テスト刺激に. E test E inducer. 5. Perceived inducer slant (deg). 刺激は,誘導刺激は D 条件と同じであり,テスト刺激が 2. . . 30. た。テスト刺激については実験 1 と同様であった。E 条件の. 50. において得られたデータの符号を反転し,20°である条件. 100. 200 . 500. 1000. Duration (ms). のデータと平均した。図 9 に D 条件,図 10 に E 条件の知覚 された傾きの平均値を示す。刺激条件ごとに,誘導刺激と,. 図 10 条件 E における知覚された傾き (n=4) . テスト刺激の調整した角度に関して,呈示時間を独立変数. 結論 . とする観察者内 1 要因分散分析を行った。結果,D 条件, E. 3 つの実験を通して,知覚されたテスト刺激の傾きと知覚. 条件の誘導刺激において呈示時間の主効果が有意であった. された誘導刺激の傾きの間に相関が見られるかどうかは,. (F(3,9)=4.518, p =.033 ; F(3,9)=15.132, p <.001) 。テ. テスト刺激の形状に依存していた。この結果は,奥行き情. スト刺激においても,D 条件と E 条件ともに呈示時間の主効. 報が統合される段階において,刺激形状の違いによって,. 果が有意であった(F(3,9)=25.892, p <.001 ; F(3,9)=15.132, . 検出された刺激間の相対的な網膜像差分布の加算方法が変. p < .001) 。知覚されたテスト刺激の傾きと知覚された誘導. 化するためであるからと考えられる。 具体的には,以下の. 刺激の傾きの間に関連が見られるかどうか調べるため,条. 仮定を用いることで説明できる。刺激間の相対的な網膜像. 件ごとにピアソンの積率相関係数を計算した。分析には各. 差分布は,時間経過とともに高い確度で検出されるように. 条件における平均値を用いた。その結果,D 条件においての. なると仮定する。テスト刺激の形状が面である場合,その. み,有意な負の相関が見られた(r=-.963, p =.037) 。 . 時点で検出された,確度の高い相対的な情報が手がかりと. . して統合される。一方で,テスト刺激が 2 個のドットであ. 考察 . る場合,早い段階で検出された確度の低い相対的な情報の. D 条件において,知覚されたテスト刺激の傾きと知覚され. みが統合される。その結果,知覚されたテスト刺激の傾き. た誘導刺激の傾きの間に有意な負の相関が見られた. と知覚された誘導刺激の傾きの間に相関が見られるかどう. (r=-.963, p =.037) 。この結果は,実験 1,2と同様に,. かは,テスト刺激の形状に依存すると考えられる。 . 奥行き情報の統合がテスト刺激の形状に依存することを示. . 唆しており,誘導刺激の形状の変化による影響は見られな. . かった。 . 引用文献 . . analysis of binocular slant contrast. Perception, . . -25 -20. 25. -15. 20. -10. 15. Perceived test slant (deg). . -5. . 28,1121-45 . 0. . 10. . 5. . D test D inducer. 0. . Perceived inducer slant (deg). . -30. van Ee, R., & Banks., M. S., Backus, B. T. (1999). An 30. . 50. 100. 200. 500. 1000. Duration (ms). 図 9 条件 D における知覚された傾き(n=4) . Howard, I. P., & Rogers, B. J. (1995). Binocular Vision . and Stereopsis. New York: Oxford University Press. 金谷健一(1990).画像理解―3次元認識の数理― 森北出 版. van der Kooij, K., & Te Pas, S. E. (2011). Perception of 3D Slant Out of the Box. Frontiers in Psychology, 2:119 Kumar, T., & Glaser, D.A.(1993). Temporal aspects of depth contrast. Vision Research, 33, 947–957 .

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図 8  条件 D における刺激
図 9  条件 D における知覚された傾き(n=4)

参照

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