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12-19_会計監査(KAM)_責

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(1)

本稿では、ある上場企業の経営トップから受けた

KAM

に関する質問について、公認会計士が回答する書 簡の形式を借りながら、経理部員が

KAM

に関して経営 陣にどのように説明するか、その一例を紹介することと

したい。

まずは、下掲の書簡の冒頭部をお読みいただき、

Q1

Q12

の質問・回答、そして

19

頁の書簡の結びまで目 を通していただけたら幸いである。

(図表

1

) 

KAM

に関する公認会計士からの回答

2019

x

xx

xxx

株式会社

代表取締役

T

I

行様

KAM

に関する貴社ご質問の件

T

先輩

先日、

C

高校の合唱部

OB

会で本当に久しぶりにお目にかかったところ、最近の監査の話題となり、監査上の 主要な検討事項、いわゆる

KAM

について、「ウチの監査法人の先生にも聞いてるんだけど、よくわからないと ころがあるんだよ~」とおっしゃっていましたが、早速メールにて問合せをいただき、頼りにしていただき、

ありがたく感じております。合唱部時代に �帝王� の異名のとおり、創業後一代で上場企業を築き上げた

T

先 輩からの問い合せに、少々緊張しておりますが、当方宛に問い合せいただいた

KAM

に関する

12

のご質問に関 して以下、順を追って回答させていただきます。

なお、私は貴社の財務諸表監査を担当しておりませんが、特定の取引等における監査基準の適用に関するご 質問ではないことを踏まえ、一般論として回答させていただくこととします。ただし、特定の状況を念頭に置 かずにお伝えしますので、必ずしも貴社の状況に則していないことがあるかもしれません。そのような場合、

以下の内容については貴社ご担当の監査法人への照会をお勧めすることをあらかじめお断りしておきます。

Q1

 

KAM

の概要> 

端的に言って

KAM

とは何か? 

「特に注意を払った事項の中から特に重要な事項 を決定する」といわれてもよくわからないが?

KAM

とは、端的にいえば、監査の重点事項のうち、

特に重要と判断した事項であると考えられます。以下に 説明させていただくとおり、わが国の監査は、財務諸表 を広く押し並べて監査するのではなく、リスク・アプロ ーチに基づき、リスクを中心として監査の重点事項を定 めて行います。監査の重点事項については、監査役等1

貴社のような監査役設置会社においては監査役に伝える こととされています。

KAM

は、そのような監査の重点 事項のなかで特に重要と判断した事項を記載します2

なお、

2018

7

月に企業会計審議会から改訂公表さ れた監査基準では、

KAM

の記載にあたっては、監査人 が監査役等に対して行う報告内容を基礎として、当該財 務諸表の監査に固有の情報を記載することが重要である とされています。従来からの監査報告書はどこの企業に 関するものを取っても同じ文言で紋切型の内容となって おり、他の企業と異なることが記載されていれば何か通 常でないことが記載されていると考えられました。とこ ろが、

KAM

が記載されるようになると監査報告書にお

*1 日本公認会計士協会監査基準委員会報告書(以下、「監基報」という)200「財務諸表監査における総括的な目的」12 項⒁参照。

*2 監基報701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」7項参照。

注:株式会社中央経済社様のご厚意により、旬刊経理情報

2019

6

1

日(

No.1456

)に掲載された記事を 再録したものです。

経営トップからの質問にどう答えるか

KAM (監査上の主要な検討事項)に関す 12 の想定問答

公認会計士

 結

ゆう

ᅠ秀

ひで

ひこ

会計・監査

(2)

いて

KAM

の記載内容は個々の企業ごとに異なり、その 企業の実情に則した個性的な内容の記載が見られるのが 通常となり、むしろ他の企業と全く同様の

KAM

が記載 されているほうが通常ではないということになります。

監査人の間では、

KAM

の記載にあたっては「ボイラ ープレートな記述は避ける」ということがよくいわれて います。従来の監査報告書は、何か紋切型の鋳型や様式 にはめ込んで決まり切った形に作成されるという意味 で、ボイラープレートであるといわれているようなので すが…。

T

先輩、ボイラーを作るための鋳型なんて見た ことありますか?

Q2

 事業リスクそのものを示すわけではない>

KAM

は財務諸表の重要な虚偽表示リスクを取り 上げて記載することがあると説明を受けているが、

リスクという以上、企業にとってネガティブな事業 リスクに係る情報を監査人が注意喚起することにな るのか?

誤解されているようですが、

KAM

は事業リスク(と くに事業損失が生ずる可能性)そのものを示すものでは ありません。事業リスクに関連して生ずる会計処理に重 要な誤りが生ずる可能性が高く、財務諸表に重要な虚偽 表示が含まれるリスクが重要な虚偽表示リスクです。

KAM

は、重要な虚偽表示リスク又はその他監査の重点 事項のうち、監査人が特に重要と判断した事項をいいま す。

監査において想定しているリスクとは、財務諸表にお いて重要な虚偽表示が発生する可能性を指します。この

「虚偽表示」という語は、その語感から「不正」による もの、「わざと」引き起こされる財務諸表の誤りのみを 指しているように誤解されがちですが、「うっかりと」

引き起こされる財務諸表の誤り、「誤謬」も含め、財務 諸表の誤りを総称するものです。また、重要な虚偽表示 リスクは、あくまで監査人が監査を実施するうえで仮定 する財務諸表の誤りの可能性であって、財務諸表に誤り があるという事実そのものではありません。

わが国における一般に公正妥当と認められている監査 の基準のもとでは、リスク・アプローチに基づく監査の 実施が想定されています。リスク・アプローチに基づく 監査においては、重要な虚偽表示リスクを識別せずに監 査が実施されることは通常想定されていません。言い換 えれば、どの企業の監査においてもその企業の実情に則 して重要な虚偽表示リスクを仮定して監査が行われま す。重要な虚偽表示リスクは、たしかにネガティブな発 想に基づくものですが、監査が実施される場合にはどの 企業においても識別される仮定であり、ご心配になるよ うな非常にネガティブなものではないと考えられます。

Q3

 

KAM

を記載する意義>

KAM

というのは、財務諸表に重要な誤りが含ま れていることを警告する情報(アラート情報)なの か?

リスク・アプローチに基づく監査においては、識別さ れた重要な虚偽表示リスク、すなわち重要な虚偽表示が 生じる可能性のある事項に対して、実際に重要な虚偽表 示が生じているかどうかについて、リスクが受入可能な 程度に低められるまで証拠固め(監査証拠の収集

:

監査 手続)を実施します。

この過程で、仮に重要な虚偽表示が発見され、未修正 のままとなっている場合、そのような事項について「…

事項の…に及ぼす影響を除き」又は「…の及ぼす影響の 重要性に鑑み、不適正」といった形式で、財務諸表に重 要な誤りが存在するというネガティブな事実が「除外事 項」として監査報告書に記載されます3

これに対して、

KAM

は、重要な虚偽表示が実際に発 見されていない場合、また、発見されたとしても適時に 修正されている場合に、仮定した重要な虚偽表示リスク に対して十分かつ適切な監査証拠を入手して監査を実施 した過程を伝えるものです。

KAM

は、重要な虚偽表示の可能性が存在することに ついては示したうえで、最終的には、財務諸表に重要な 誤りが含まれる可能性が、監査手続を実施した結果、低 いと判断されていることを示すものです。

KAM

には、

財務諸表のどこに重要な誤りが生ずる可能性が高いかを 示唆するという側面はありますが、財務諸表に重要な誤 りそれ自体が含まれていることについて警告するような アラート情報ではないと考えられます。

Q4

 

KAM

は監査報告のあり方に端を発する> 

KAM

は監査報告書の記載内容の拡充の話であり、

会計基準や内部統制の評価基準は改訂されておら ず、監査の対象範囲が拡大するわけではないと当社 担当の監査法人から説明されている。

監査報告書の記載内容を拡充することにどのよう な意味があるのか?

過去に行われてきたような企業内容の開示の拡充 や企業の内部統制の強化とは少し考え方の方向が異 なるように思われるが?

T

先輩が違和感を覚えるのもごもっともと思います。

監査は、「企業等の財務諸表作成者が財務諸表を作成し、

監査人は財務諸表に関して監査意見を表明する」という

「二重責任の原則」のもとで行われます。そのため、多 くの場合には、まず会計基準が改正され、会計処理や財 務諸表の注記事項が複雑化し、それに伴って監査の対象 が拡がることで「監査が大変だぁ~」という状況が生じ

*3 監基報705 「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」16項及び17項参照。

(3)

ていました。これとは異なり、

KAM

は、会計基準の改 正ではなく、監査の透明性や情報価値を高めるという監 査の報告のあり方の見直しを出発点とするものであり、

事の発端が異なります。

2018

7

月に改訂された監査基準の前文に書かれて いるのですが、不正会計事案などを契機として監査の信 頼性があらためて問われている状況にあり、その信頼性 を確保するための取組みの

1

つとして、財務諸表利用者 に対する監査に関する情報提供を充実させる必要性が指 摘されています。そのなかで、監査意見に至る監査のプ ロセスに関する情報が十分に提供されず、監査の内容が 見えにくい、ブラックボックス化しているとの指摘が行 われており、監査の透明性を向上させ、情報価値を高め るために、

KAM

の記載を監査報告書で行うこととなり ました。したがって、

KAM

は、前述の二重責任の原則 に沿って「財務諸表の内容に何か変動が生じたから監査 にも影響が生ずる」というような財務諸表を起点とした 考え方ではなく、「監査報告をどのように行うか」とい う監査あるいは監査基準を起点としており、そのため、

T

先輩も今までとはどこか違うとお感じになられたので はと思います。

Q5

 

KAM

の監査手続に与える影響>

監査報告書の記載を拡充すると、今までよりも深 掘りするような厳しい監査が行われ、提出する資料 などが増えないのか?

前述のとおり、

KAM

は、監査報告の透明化や情報価 値の向上に関わるものなので、

KAM

を監査報告書に記 載するために、財務諸表監査の金額や数値の裏づけとな る監査証拠の入手に関して追加しなければならないもの は通常は少なく、

KAM

の導入を機に金額や数値の裏付 け資料の提出が単純に又は大量に増えることはないよう に思われます。むしろ、これを機に金額や数値の裏付け 資料が増えるのだとしたら、監査人が今まで本当に監査 の基準に準拠して監査してきたのか、疑ってみたほうが よいかもしれません。

しかしながら、他方では、

KAM

の導入に伴い、監査 人の求める情報の質が変化し、企業の事業の内容に関し て今まで求められていない類いの情報の提供を要求さ れ、企業の活動についてのより詳細な内容の問い合せや 面談・ディスカッションの要請が増えることがあるよう に思われます。

監査報告書に

KAM

を記載する場合、

KAM

の内容に加 え、それを

KAM

として決定した理由及び監査上の対応 を記載することとなります。

KAM

の決定理由として「こ の事項をなぜ

KAM

として取り上げるのか?」を記載す るとなると、監査人はあらためて監査の重点事項の位置 づけを企業の事業や活動に照らして第三者にロジカルに 説明できるように考えを整理する必要に迫られることが 多いと考えらます。監査の重点事項とその決定理由や背 景については、貴社のような監査役設置会社では、監基

260

「監査役等とのコミュニケーション」の規定に従 い、従来から監査役に伝えられているはずです。しかし ながら、会社の機関として企業の状況についての情報を 入手して理解できる立場にある監査役とは異なり、その ような立場にはない企業外の監査報告書の利用者に対し ては、背景となる情報を追加してより客観的又はロジカ ルに

KAM

の決定理由を説明して記載できるようにする ことが必要となります。

そのため、監査人としては、企業及び企業内容を深掘 りして理解することとなり、事業や企業活動に情報を従 前以上に入手して利用しようと図ることが多くなるので はと考えます。

Q6

 

KAM

が企業側に及ぼす影響>

KAM

の導入によって企業側の監査対応や監査人 とのやりとりのどこが変わると見込んでおけばよい か?

監査人がどれだけ貴社の事業の特性や決算構造に関す る大局観や全体感を持って監査に取り組んでいるかが、

浮き彫りにされることとなります。

財務諸表を対象とする監査を行っていると、財務諸表 以外に目が向かず、個々の金額の裏づけになるような証 憑や資料に目が行きがちになるのが監査人の習い性です が、それだけでは部分的な事項のもたらす「合成の誤 謬」により、財務諸表の重要な誤りを見逃す可能性があ ります。

T

先輩も社長として十分に認識されていると思 いますが、財務諸表は企業の活動の状況や成果を金額や 数値で表したものであり、金額や数値には必ず意味があ り、その背景には企業の活動が利益を生み出している要 因、ロジックやストーリーがあります。

特に、上場企業の決算を締めた経験をお持ちであれば おわかりかと存じますが、個々の企業には固有の決算構 造と呼ぶべきものがあります。

たとえば、ある会社で販売取引は卸売業者等販売チャ ネルを通じた比較的安定的な商流のもとで少額取引が反 復継続的に行われるが、資金力の低く貸倒懸念のある得 意先が複数ある、製品原料の仕入価格が資源相場に関連 しており、概算(変動対価)で行われる、収益性の低い 支店が複数あるといった場合があります。

このような場合、決算上、損益を決定づけるのは、売 上高がどれだけ計上されたかというよりは、原料仕入の 概算計上、貸倒引当、固定資産減損といった決算整理事 項であり、監査人もこれらの概算計上や引当、減損とい った会計上の見積りに重点を置き、さらに見積りの基礎 となる割引率、相場の見通し、営業損益の状況等に焦点 を当てて検討することになると思われます。

したがって、監査人が監査の重点事項から

KAM

を決 定した理由を監査報告書に記載することになると、企業 の固有の状況に則した

KAM

の記載により、決算構造上、

損益に重要な影響を及ぼす事項に関して特にどのような 要因が重要であるかが掘り下げられ、明らかにされるこ

(4)

とが多いと考えられます。そのため、企業と監査人の間 においても、企業の事業や決算の構造を理解するために 必要な情報や、決算において損益に重要な影響を及ぼす 事項に関する情報のやりとりが増えるものと思われま す。また、会社の事業活動をより広く理解するために は、有価証券報告書において監査の直接の対象となる財 務諸表以外の情報(「事業等のリスク」、「財政状態、経 営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の記載 等)、社内のリスク・マネジメントにおいて共有されて いる情報や

IR

における事業見通しに関する説明など多角 的な観点から情報の収集を図るものと思われます。

T

先輩ならば、きっと、帳簿金額と証憑の突き合わせ ばかりしている監査人よりも、「全体最適」の視点から、

そのような要因の状況、ロジックやストーリーを把握 し、企業の金額や数値の動きが矛盾するものではないこ とを確かめる監査人を高く評価し、監査を担当してほし いと考えるのではないでしょうか?

財務諸表に計上されない無形の要因、すなわち計数の みでは語れない、いわゆる非財務的な要因がどのように 財務諸表の金額や数値の動きに結びついているのかとい った事業のロジックを理解しようとする監査人と付き合 いたいと思うのではないでしょうか?

Q7

 

KAM

に伴う企業開示の促進>

繰返しになるが、

KAM

は監査報告書の記載内容 の話であり、会計基準や内部統制評価基準は改訂さ れたわけではないと当社担当の監査法人から説明さ れている。それなのに、当社の経理部門はなぜ財務 諸表や有価証券報告書の開示の拡充と言った企業側 の対応が必要だと言うのか?

前述のとおり、

KAM

としては、決算構造を踏まえた うえで財務諸表に重要な影響を及ぼす事項(たとえば、

会計上の見積り)が取り上げられる可能性が高く、当該 事項に従来以上に焦点が当たる可能性が高いと考えられ ます。

しかしながら、日本の会計基準は、国際会計基準や米 国会計基準に比べて注記事項(特に会計処理の前提や基 礎となる説明情報)として要求されている内容が簡素で あり、また、有価証券報告書(以下、「有報」という)

の経理の情報以外の章においても開示ルールを最低限満 たす内容を開示すれば足りるという傾向がみられます。

そのため、監査人が企業の財務諸表に重要な影響を及ぼ す事項に関して

KAM

の決定理由又は監査上の対応とし て必要な情報を記載しようとする場合に、企業の未公表 の情報を記載する可能性があります4。なお、前述の とおり、

KAM

は、元来、会計処理や開示の拡充に端を 発するものではなく、監査報告のあり方の見直しに端を

発しています。したがって、監査報告書において

KAM

としての記載が必要かどうか判断する場合には、その情 報が財務諸表その他の媒体において公表されているかど うかについて考慮するものの、それは

KAM

の記載の要 否を決定づける要因とはなりません。監査人は

KAM

の 対象とする事項の公表・開示を経営者や監査役等に促す ものの、最終的には、企業の未公表の情報であっても監 査報告書に

KAM

として記載することがあるとされてい ます5

なお、監査人が企業に対して守秘義務を負って監査を 行うのは基本のキ、監査の一丁目一番地なのですが、監 査人が正当な注意を払って職業的専門家としての判断に おいて記載するのであれば、監査基準に照らして正当な 理由により守秘義務が解除されます。監査基準の前文で は、監査人は、

KAM

の記載により企業又は社会にもた らされる不利益が、当該事項を記載することによりもた らされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれない限 り、

KAM

を記載することが適切であるとされています。

また、財務諸表利用者に対して、監査の内容に関する より充実した情報が提供されることは、公共の利益に資 するものと推定されるため、監査人が

KAM

として決定 したにもかかわらず、監査報告書に記載が行われないこ とは極めて限定的であるとされています6

無論、監査人には守秘義務が課されますので、監査に 必要と考えられない情報や企業の取引先等、第三者の利 益を不当に侵害する情報を不適切に開示しないことが求 められるのですが、たとえば、変動対価に基づく原料仕 入取引の期末概算計上など、「監査人が監査の重点事項 としているが、会計基準や開示ルールで開示することが 直接に/明確に求められていないため、従前は公表して いない/簡潔にしか公表していない」といった事項があ る場合に、それを監査人が

KAM

として記載すると判断 することがあります。この場合、監査報告書や財務諸表 の利用者への情報(損益に不確実性を生じさせる事項に 関連して重要な虚偽表示リスクがあり、監査において特 に重点を置いた事項に関する情報)の提供による公益と 企業側の不利益(取引先との契約条件の開示等)を比較 衡量して

KAM

を監査報告書に記載しない合理的な理由・

企業の不利益があるかどうか、監査人は企業と協議しま す。しかしながら、監査人が

KAM

として監査報告書に 記載する必要があると判断するような監査の重点事項は 監査報告書や財務諸表の利用者にとって情報価値が高 く、多くの場合、公共の利益を不利益が上回ることを企 業側が合理的に説明することは難しい場合が多く、

KAM

の対象とする事項それ自体を

KAM

として全く記載 しないと監査人が最終的に判断することは限定的である と思われます。

むしろ、監査人と企業の間の協議においては、そのよ

*4 企業会計審議会第39回監査部会資料1「KAM試行のとりまとめ」(日本公認会計士協会)参照。

*5 企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」(2018年7月5日)前文参照。

*6 前掲*5を参照。

(5)

うな監査において特に重点を置いた事項については監査 報告書に

KAM

として記載することとしたうえで、その 内容、決定理由の具体的な記述において企業の未公表の 情報をどこまで具体的に記載するか、できるかについ て、協議することが多いのではないかと考えられます。

もっとも、

KAM

の記載における企業の未公表の情報は 多岐にわたります。企業の未公表の情報といっても、会 計の基準、監査の基準や実務指針等を適用した場合に使 用することが当然に想定される帳票等のように

KAM

の 監査上の対応に記載することにあまり支障がないと考え られる場合もあれば、減損の兆候を識別した事業投資や 固定資産のように対象や金額を特定するうえで慎重な記 載が求められる場合もあります。ちなみに、減損の兆候 を識別したが認識にまでは至らなかった事業投資や固定 資産に関する

KAM

の記載についてどこまで

KAM

として 記載されるのか、戦々恐々とされている企業もあるよう です。どこまで記載するのかは最終的には個々の監査人 の判断によるものであり、固有名詞を用いた説明までは 必ずしも求められないという考え方、どの事業に係るも のであるか等、特定できるような記述が望ましいという 考え方、さらには、

KAM

として記載されている事項が どの程度重要なのかを示すために、

KAM

の対象となる 金額を特定して記載することが望ましいという考え方な ど、さまざまな考え方がみられるようです。

なお、このように企業の未公表の情報を

KAM

として 記載する場合には、監査基準では監査人は企業の経営者 及び監査役等に開示を促すこととされており、また、監 査報告書の利用者が二重責任の原則の伝統的な考え方に 則して「なぜ監査人が

KAM

として記載しているのに、

その事項を企業が公表しないのか?」という素朴な疑問 を企業に寄せることも想定されます。そのため、企業側 においても、企業の未公表の情報が

KAM

として記載さ れることを強く意識して、注記事項等による説明の追加 を真摯に検討している企業も見受けられるようです。

貴社の経理部門も、監査人の

KAM

の前広な検討に対 応して、財務諸表や有報の開示の拡充を検討されている ものと理解しています。

なお、監査人がある事項を

KAM

として記載する場合、

企業が

KAM

の記載と同等の内容を財務諸表に注記して いる場合であっても、さらに詳細な情報を財務諸表の利 用者が企業に対して求める可能性があり、どこまで説明 のための注記を行うか、お悩みの企業もあるようにお見 受けしています。

たとえば、会計上の見積りの監査において、監査人は 見積りの不確実性の程度について評価しなければならな いとされています7。会計上の見積りを

KAM

として取 り扱う場合、

KAM

の決定理由又は監査上の対応におい て、見積りに用いた重要な仮定に関して不確実性の原因 となるような振れ幅(たとえば、相場価格が重要な仮定

である場合、将来の相場価格の変動レンジ)についてど のように評価したか、記載することとなります。この記 述に関して、監査人には必ずしも振れ幅がいくらからい くらであったのか、具体的な数値を示して説明すること までは求められていないと解されます。しかしながら、

そのような具体的な数値が

KAM

に記載されていない場 合であっても、財務諸表の利用者はそのような具体的な 数値情報に関心を寄せ、企業に対して、さらに見積りの 重要な仮定の振れ幅に関する具体的な情報を求める可能 性があります。

T

先輩の会社の財務諸表を拝見する限り、不確実性の それほど高い会計上の見積り項目はないように思われま すが、不確実性の高い(振れ幅の大きい)会計上の見積 り項目を計上している企業では、こうした情報は、企業 の競争力等の指標となり得るものであり、企業として財 務諸表又はその他の媒体においてどのような開示を行な っていくのか、慎重な検討が必要であり、企業内容のデ ィスクロージャーに真摯に向き合っている企業であれば あるほど悩ましい問題になるような気がしております。

Q8

 

KAM

と企業の未公表の情報>

KAM

の監査報告書への記載は、監査報告書の提 出前に、当社の財務担当取締役や監査役と協議のう えで当社との合意のもとで行うのか? 未公表の情 報が唐突に開示されてしまわないのか?

KAM

の記載内容について監査報告書提出前に企業の 経営者及び監査役等とコミュニケーションを全く行わな い訳ではありません。

KAM

の内容、決定理由及び監査上の対応の記載及び その基礎となった事実に誤りがある場合、監査報告書が 虚偽の情報を伝達してしまいます。そのため、監査人は 提出前に監査報告書の草案を企業の経営者及び監査役に 提示し、事実確認を求めることとなります。また、監査 基準の前文では、監査人は守秘義務を負っており、企業 に関する未公表の情報を不適切に提供することとならな いよう留意する必要があり、

KAM

の記載の結果生じる 可能性がある企業の不利益を企業の経営者がどのよう に、またどの程度重要だと考えているのかを理解するた めに役立てるため、

KAM

の記載に関する経営者及び監 査役等と協議を行うこととされています8

このような協議のなかで、実務上は、

KAM

の記載内 容について監査人と企業の経営者及び監査役等との合意 形成が通常は図られると考えられます。

ただし、

KAM

は財務諸表の開示に端を発するもので はなく、監査報告をどのように行うかに端を発するもの です。そのため、最終的には、監査人がどのような事項 をどのように

KAM

として記載するかを決定することと なります。また、監査の独立性に鑑みても、監査報告書

*7 監基報540「会計上の見積りの監査」9項参照。

*8 前掲*5を参照。

(6)

の記載内容は企業とは独立した立場から監査人が決定す るものと考えられます。たとえば、財務諸表の重要な虚 偽表示が監査意見に重要な影響を及ぼす場合、監査人 は、前述のとおり重要な虚偽表示の存在を指摘して除外 事項付意見を表明します。このような除外事項付意見の 表明にあたって、たとえば会計上の見積りに関して監査 人が重要な虚偽表示であると判断した事項や金額につい て、企業の経営者と見解の相違があることがあります。

そのような場合、監査人は、企業から独立した立場から 監査意見を表明するため、除外事項付意見の表明が適切 であると職業的専門家として判断する場合には、企業の 経営者との見解の一致の有無にかかわらず、除外事項付 意見を表明することとなります。

この点については

KAM

も同様であり、監査人は、最 終的には職業的専門家としての自らの判断に基づき必要 と判断する場合には、監査報告書において

KAM

を記載 することになると考えられます。

Q9

 

KAM

に対する企業の経営陣の対応>

KAM

の監査報告書への記載によって、当社の経 営陣が対応しなければならない事項としてどのよう なものが考えられるか?

前述のように、監査人が監査の重点事項から

KAM

を 決定した理由を監査報告書に記載することになると、決 算構造上、損益に重要な影響を及ぼす事項に関してどの ような要因が特に重要であるかが掘り下げられ、浮き彫 りにされて対外的に公表されることとなります。

監査基準の前文においては、このような動向を想定し て、監査報告書への

KAM

の記載により生ずる効果とし て、財務諸表利用者の監査や財務諸表に対する理解が深 まるとともに、経営者と財務諸表の利用者との対話が促 進されることを挙げています。

決算構造上、重要な影響を及ぼす事項を

KAM

として 記載する場合、重要な会計上の見積りが取り上げられる ことが多く、その結果、財務諸表の利用者の関心が重要 な会計上の見積りの対象となる事項、たとえば、事業投 資・のれんや固定資産の回収可能性に寄せられ、重要な 会計上の見積りの基礎となる重要な仮定のうち、主観・

予測の介在する情報や不確実性の高い要因に関する情報 ニーズ、説明の要求が高まることが想定されます。

企業の経営者に対して、重要な会計上の見積りの基礎 となる仮定のうち、特に見積りの基礎となる経営者の予 測、見通しを的確に説明することが求められるものと考 えられます。

T

先輩の会社に、このような重要な会計上の見積りに 該当するものがあるのならば、

KAM

に関連して、決算 構造上、損益に重要な影響を及ぼす事項については、従 前以上に財務諸表利用者の関心が高まるものと思います

ので、経営者として説明責任を果たすよう情報を入手 し、合理的な説明ができるようにしておいていただくの がよろしいかと存じます。

また、このように、決算において損益に重要な影響を 及ぼす事項に関してどのような要因が特に重要であるか が掘り下げられ、浮き彫りにされることにより、コーポ レート・ガバナンスの強化や、さまざまなリスクに関す る認識を高め、監査人と監査役等との間のコミュニケー ションを促すことにつながるものと思われます9

T

先輩におかれましても、経営者として、監査報告書 への

KAM

の記載を単なる財務諸表監査の監査人への対 応とせず、事業リスクの識別及び対応と関連づけて捉え ていただき、監査役他、関係者の方々と、リスク・マネ ジメントやガバナンスに活用していただくよう、ご検討 いただければと存じます。

Q10

 

KAM

に対する監査役等の対応>

KAM

は金融商品取引法の監査報告書には記載さ れるが、会社法の監査報告書には記載されないと説 明を受けている。それにもかかわらず、なぜ監査役 から

KAM

への対応の声が盛んに聞かれるのか?

KAM

は、監査役等とコミュニケーションを行った事 項のうち、特に重要であると監査人が判断した事項であ り、

KAM

に関する監査実務指針である監基報

701

10に おいては、随所に

KAM

に関する監査役等とのコミュニ ケーションが定められています。したがって、

T

先輩の おっしゃるとおり、

KAM

は会社法の監査報告書には記 載されないものの、監査役から

KAM

への対応の声が上 がることは不思議ではありません。

ただし、これは主たる原因ではないように私には思わ れます。監査役から

KAM

対応の声が上がるのは、

KAM

の導入が監査役等に求められる会計監査の相当性の判断 に関する透明性をより具体的に説明することを求めるよ うになるためであると考えます。

わが国において、金融商品取引法監査と会社法監査 は、財務諸表又は計算書類等の表示及び注記事項の監査 手続を除き、一体として行われており、監査の重点事項 はほとんど共通しています。

金融商品取引法監査の監査報告書において

KAM

が記 載されて公表される場合、会社法監査においても

KAM

と同様の事項が監査の重点事項として取り扱われて監査 が実施されるものと理解されます。監査役は会計監査の 相当性に関する判断結果を監査役監査報告書に記載する 立場にありますので、会計監査の相当性を判断するうえ で当然に監査人の監査の重点事項を理解しているはずだ ということになります。さらに、金融商品取引法監査の 監査報告書において監査の重点事項である

KAM

が記載 されることは、一般に監査の重点事項に対する関心を啓

*9 前掲*5を参照。

*10 前掲*2を参照。

(7)

発し、高めることとなります。

このような状況においては、計算書類等に関して監査 人の監査の重点事項は何でそれをどのように評価して監 査の相当性を判断したのかについて、株主総会において 監査役に説明を求める株主の声が上がることは想像に難 くありません。監査報告書への

KAM

の記載は金融商品 取引法に限定されているとしても、たとえば、「監査役 は監査人からどのような事項に重点を置いて監査を実施 したと説明を受けたのか、また、監査役としてどのよう にそれを評価して会計監査の相当性を判断したのか?」

と質問されれば、会社法監査の話として実質的に

KAM

に関する説明と評価を監査役は回答せざるを得ないと思 われます。

このように、

KAM

の導入が会計監査の相当性の判断 に関する透明性・説明責任を高める可能性があること が、監査役さんから

KAM

への対応の声が上がる主因で はないかと思います。

なお、このように監査の相当性に関する株主からの質 問が想定される場合、その対応はまずは監査役にお願い することとなりますが、監査人の定めた監査の重点事項 の内容を適切に説明していただくため、事前に監査人と 監査役が打ち合わせを行っておくことが必要となること があるように思われます。また、株主総会において監査 人に対する説明を要求する決議が想定される場合もあ り、これに備えて監査人と企業の関係者が事前に協議を 行うこともあるように思います。

なお、このような監査の相当性の評価は、監査の品質 の評価と表裏一体の関係にあります。監査基準の前文に おいて、財務諸表利用者に対して監査のプロセスに関す る情報が監査役等が監査の品質を評価する新たな検討材 料として提供されることで、監査の信頼性向上に資する ことにつながるとされているのも、監査の品質の評価に おいて、監査人が個々の企業の状況に則して監査の重点 事項をどこに定めたのかが非常に重要なポイントになる ためであると思われます。監査人としても、監査の重点 をどこに置いたのかを具体的に問われて監査の能力を評 価されることになるわけですので、リスク・アプローチ を従前以上に的確に適用しなければならず、うかうかし ていられない状況です。

Q11

 

KAM

の早期適用>

当社は東証一部に上場しており、

KAM

について 早期適用が推奨されると説明を受けているが、早期 適用した方がよいのか?

東京証券取引所から企業宛てに

KAM

早期適用のお願 いが発せられており、また、日本公認会計士協会からも 会員である公認会計士宛てに会長声明11が発せられ、

東京証券取引所一部上場企業において、

2020

3

月期 以降の

KAM

の早期適用が推奨されています。

早期適用したほうがよいかどうかは、個々の企業の状 況に応じて当事者が判断すべき事柄ですので、私からの 論評は避けたいと思います。ただし、一般論として申し 上げれば、これまで述べてきたように

KAM

の記載事項 に関する情報のやり取りや企業の未公表の情報に関する 取扱いの検討、特に

KAM

の決定理由や監査上の対応に 関して何をどこまで記載するのかについての検討に相応 の時間を要します。また、早期適用しないとしても

KAM

の強制適用は

2021

3

月期からであり、

2021

3

月期の金融商品取引法監査報告書の提出までにはこれか ら

2

年ほどしかありません。したがって、少なくとも

KAM

の導入対応に関して「早期適用」ならぬ「早期着 手」が今からすぐに必要ではないかと考えます。

なお、前述した監基報

701

では、法令において求めら れていないが任意に監査報告書に

KAM

を記載する場合 には、

KAM

を記載する旨を契約条件において合意する こととされており12、通常は、監査契約書において定 めておくことになるものと思います。

したがって、監査人と企業の合意のうえで監査報告書 への

KAM

の記載について早期適用を行うこととなりま すが、前述のように、

KAM

は財務諸表の記載ではなく、

監査報告書の記載に端を発するものであるため、

KAM

を早期適用するかどうかはまず監査人がイニシアチブを 取って検討し、早期適用したいと考える場合には企業に 提案し、同意を求めるべきものであると考えます。

ここ

15

年ほど、監査の世界においては、二重責任の 原則の伝統的な考え方に過度に寄りかかり、何事も企業 の動きをみてから動くといった監査人の受動的なビヘイ ビアが見受けられることもあるようです。

KAM

は監査 人が監査報告をどのように行うかという話であり、監査 人がイニシアチブを取って取り組むべき課題であると考 えます。

T

先輩の会社では、監査人が

KAM

に前広に取り組まれ ているようで、あまり心配してはおりませんが。

Q12

 

KAM

の監査時間に及ぼす影響>

KAM

は監査報告書の記載内容の拡充の話であり、

会計基準や内部統制評価基準は改訂されておらず、

監査の対象範囲が拡大するわけではないので、監査 時間や監査報酬はそれほど増加しないと考えてよい か?

おっしゃるとおり、

KAM

の監査報告書への記載は、

監査の対象範囲の拡大の話ではないので、たとえば、内 部統制監査の場合のような監査時間や監査報酬の増加に は至らないのではないかと考えます。

*11 日本公認会計士協会会長声明「『監査基準の改訂に関する意見書』の公表を受けて」(2018年7月20日)参照。

*12 監基報701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」5項参照。

(8)

ただし、今まで説明したとおり、企業の固有の状況に 則した

KAM

の記載により、企業の事業や決算の構造を 理解するために必要な情報や、決算において損益に重要 な影響を及ぼす事項に関する情報のやりとりが増えるこ と、企業の未公表の情報を勘案した

KAM

の草案の作成、

さらには株主からの監査の重点事項に関する質問が想定 される場合の事前準備など、監査時間が増加する可能性 は相応にあるように思われます。これに応じて監査報酬 も相応に増加する可能性は否定できないように思われま す。

……以上、いただいた

12

のご質問に回答させていただきました。

最後に、一言加えさせていただきます。

なにぶん、

KAM

については、わが国において実務が成熟しておらず、私も含め、試行錯誤しながらよりよい 実務を積み上げる姿勢で取り組んでいる状況です。

そのため、何卒、

KAM

に取り組む公認会計士に対して鷹揚なご対応をお願いできればと存じます。

大変に長い回答になりましたが、

T

先輩のお役に立てれば幸いです。

6

月の

C

高校の定期演奏会でお会いできるのではと考えておりますが、本件に関してご不明の点がありまし たら、ご遠慮なくお問合わせ下さい。

それでは、また。

以 上

参照

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