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民営化と環境問題 : 民営化は環境を改善させるか ?

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(1)

民営化と環境問題 : 民営化は環境を改善させるか

著者 利光 強

雑誌名 経済学論究

巻 68

号 3

ページ 535‑550

発行年 2014‑12‑20

URL http://hdl.handle.net/10236/13430

(2)

民営化と環境問題

民営化は環境を改善させるか?

Privatization and the Environment:

Can privatization improve the environment ?

利 光   強  

環境品質(財一単位あたり汚染物質の排出水準)が差別化されている財に対して異な る選好を持つ消費者(グリーン・コンシューマー)の存在とそれらの財の消費が環境に ダメージを与える負の外部性を仮定する。そのもとで、公企業(public firm)の民営 化(privatization)が財の環境品質や環境、および消費者余剰や生産者余剰に与える効 果を分析する。まず、公企業だけが存在する独占的なケースを考える。この場合、民営 化は財の環境品質を悪化させるが、需要の減少により環境を改善させる。また、価格が 上昇することにより消費者余剰を減少させるが、生産者余剰を増加させる。つぎに、私 企業(private firm)との混合複占(mixed duopoly)市場ケースを考える。ただし、

公企業は環境品質に関し、私企業に比べ相対的に劣っている財を供給し、その民営化が 私企業の供給する財の環境品質への効果を考察する。この場合、民営化は私企業の環境 品質を低下させ、また環境を悪化させる。一方、2種類の財の価格低下により消費者余 剰を増加させるが、生産者余剰を減少させる。

Assuming an environmentally differentiated product market, the effects of the privatization of public firms on the environment and social welfare are examined. In the first case, the privatization of one public firm led to a reduction of abatement incentives and to an improvement of the environment by decreasing the consumption of goods. Moreover, the privatization decreased the consumer surplus and increased the producer surplus. In the second case, a mixed duopoly, i.e., one public firm produced a dirtier (environmental-standard) product and one private firm produced a cleaner (environmental-friendly) product. The privatization led not only to a reduction of the abatement activity of the private firm but also degraded the environment. Furthermore, the privatization increased the consumer surplus by lowering the prices and decreased the producer surplus.

Tsuyoshi Toshimitsu

(3)

  JELD42, D43, L32, L33, Q52

キーワード:民営化、混合複占市場、環境品質差別化財、グリーン・コンシューマー Keywords:privatization, mixed duopoly, environmentally differentiated prod-

uct, green consumer

1. はじめに

公益事業、たとえば、鉄道、バス、航空などの運輸サービス事業、郵便、電 信、電話、放送なとの通信サービス事業、電力、ガス、水道などの基礎的サー ビス財の供給事業、等々、における国有企業(state-owned firm)や地方公共 団体などが所有する公企業(public firm)の民営化(privatization)は、先進 諸国をはじめ、世界各国における重要な政策課題の一つであることは言うまで もない。とりわけ、民営化による私企業との競争を通じた効率化や経済厚生へ の効果を分析した研究は枚挙にいとまがない1)。本稿では、公企業の民営化に 伴う経済厚生への影響とともに、今日的な課題である環境への影響について考 察する。

このテーマに関するいくつかの先行研究がある。たとえば、Beladi and Chao

[2006]は、公企業が一社(したがって、独占的な)ケースにおいて、需要関 数が十分に凸である場合に、生産量が増加し、民営化が環境を悪化させること を示している2)。Cato[2008]は、一社の国有(環境ダメージを含む経済厚 生の最大化)企業とN社の私(利潤最大化)企業との競争における混合寡占 市場を仮定し、負の環境外部性が十分に大きい場合、民営化は経済厚生を悪 化させることを示した3)。また、Wang, et al.[2009]は、混合複占市場を仮 定し、公企業4)、私企業とも汚染物質排出の削減努力をするケースを考察して

1) ここではその代表として、Vickers and Yarrow[1988]とShleifer[1998]を挙げるにと どめておく。

2) Saha[2012]はそのモデルを修正し、民営化は必ずしも環境悪化にはならないことを示してい

る。

3) ただし、モデルでは純粋寡占均衡における経済厚生と混合寡占均衡における経済厚生を負の環境 外部性のパラメーターに関して比較している。

4) ここでの公企業とは、ウエイト付けされた社会的余剰と利潤との合計を最大化する部分民営企業

(partially privatized firm)である。

(4)

利光:民営化と環境問題

いる。彼らは、民営化の程度が進むにつれて、環境が改善することを示してい る。また、最適環境税のもとでは、完全な民営化ではなくむしろ、部分民営化

(partial privatization)が経済厚生を最大化することを示した5)

上記先行研究は共通して、同質財市場におけるクールノー競争を仮定し、汚 染物質がその生産過程において排出され、それによって環境がダメージを受け る状況を考察している。本稿でも先行研究と同様に、混合複占市場を仮定する が、市場に供給される財に関して、垂直的差別化財モデルを利用し、財の属性 として環境品質水準が異なり、それに対する選好の異なる消費者、すなわちグ リーン(あるいは、ブラウン)・コンシュマーが存在する環境差別化財市場に おけるベルトラン競争を仮定する6)。すなわち、その市場では消費者は環境品 質の相対的に劣った財、あるいは良質な財のいずれかを購入し、その財を消費 することで環境にダメージを与える汚染物質が排出されると考える。

本稿では、公企業の民営化が環境品質(あるいは、汚染物質削減努力)への 効果、また環境への影響を考察する。くわえて、消費者余剰や生産者余剰への 効果も分析する。まず、第2節では、Beladi and Chao[2006]と同じように、

公企業が一社のみ存在する独占的なケースを考察する。そして、第3節では、

Wang, et al.[2009]と同じように、混合複占競争市場ケースを考察する。そ して、最後に、第4節では、考察の結果をまとめ、今後の残された課題を示す。

2. 公企業の民営化と環境問題

2.1 環境品質とグリーン・コンシューマーの存在

人体を含む自然環境や生態系など、広義の環境に与える影響が異なる品質

(ここでは、消費に伴って排出される汚染物質の水準)を属性とする財(以下、

環境財と呼ぶ)を仮定し、その属性について異なる選好をもつ消費者(グリー ン・コンシューマー)が存在する市場を考える。すなわち、環境品質に関する

5) さらに、Pal and Saha[2010, 2014]を参照されたい。

6) なお、このような環境品質財を用いたモデルに関しては、たとえば、Arora and Gangopadhyay

[1995]Moraga-Gonz´alez and Padr´on-Fumero[2002]、Rodoriguez-Ibeas[2007] Bansal[2008]、そしてDoni and Ricchiuti[2013]などを参照されたい。

(5)

限界的な評価をθとする消費者が連続的、かつ一様にθ∈ˆ

0,θ¯˜の範囲に存 在すると仮定する。なお、簡単化のため、その密度を1とする。このとき、そ の評価θθ(0)¯ に近い消費者ほどその財の環境品質にセンシティブ(無頓着)

になる。

ここで、環境財の品質を財一単位当たり観察可能な汚染物質の排出水準を e∈[0,¯e], 0<¯e <∞と定義する。また、消費者θは一単位の環境財を購入 するか、あるいは購入しないものとする。このとき、消費者θの余剰は次のよ うに与えられる。

u= max{v−eθ−p,0}. (1)

ただし、vは環境品質の水準に関係なく当該財を消費することによって得られ る本来の直接的な効用(direct intrinsic utility)である。pは環境財の価格で ある。また、購入しない場合にはその余剰をゼロとする。

2.2 公企業民営化の効果

当該市場には公企業が一社のみが存在し、消費者へ環境財を供給している。

このとき、環境財への需要は、(1)より次のように与えられる。

q= ˜θ≡v−p

e . (2)

ただし、θ >¯ θ˜を仮定する。

次に、環境財の品質水準に関して、公企業は費用をかけてその品質水準の 改善、したがって汚染物質排出水準の削減努力を行う。ここで、環境品質水準

e)、並びに削減努力水準(a)の費用関数についてつぎを仮定する。

【1】e≡e¯−a≥0, e¯≥a≥0,

【2】f=f(a), f0(a)>0, f00(a)>0, f(0) = 0, f(¯e) =∞.

すなわち、【1】に関して、削減努力1単位につき排出水準1単位が減少す るものとする。なお、簡単化のため生産に伴う費用はかからないものとする。

さて、分析対象となる公企業の目的関数を導出するまえに、消費者余剰(CS)、 環境ダメージ(E)、および生産者余剰、すなわち完全民営化した場合の独占 利潤(Π)をそれぞれ定義しておく。

(6)

利光:民営化と環境問題

CS≡

θ˜

Z

0

(v−p−eθ)dθ= (v−p−e 2q)q= e

2q2, (3)

E≡eq, (4)

Π≡pq−f(a). (5)

したがって、社会全体の経済厚生(W)は次のように与えられる。

W ≡CS−γE+ Π. (6)

なお、γ(≥0)は環境ダメージを金銭評価するためのパラメーターである。

以上を考慮し、公企業の目的関数を

V (1−s)W+sΠ = (1−s)(CS−γE) + Π (7) と定義する。ただし、0≤s≤1である。公企業は、それぞれウエイト付けされ た社会全体の経済厚生と独占利潤の合計を最大化するように価格と環境品質、

したがって削減努力を決定する。なお、s= 1(0)のとき、完全民営化(完全国 有化)を意味する。また、以下では、パラメーターγに関して、CS

E > γ≥0 を仮定する7)

(2)(5)を考慮すると、(7)は次のように書き直せる。

V (1−s)v−p e

nv−p 2 −eγ

o

+pv−p e −f(a).

したがって、一階の条件は次のように求められる。

∂V

∂p =−(1−s) nv−p

e −γ o

+v−2p

e = 0, (8)

∂V

∂a = 1−s 2

v−p e

2

+p e

v−p

e −f0(a) = 0. (9)

さらに、二階の条件はそれぞれ次のように与えられる。

2V

∂p2 =1 +s

2 <0, (10)

2V

∂a2 =2 e

 (1−s)

v−p e

2

+p e

v−p e

−f00(a)<0. (11)

7) このとき、q >が成り立つ。なお、(7)において、消費者余剰と(金銭評価された)環境ダ メージの差を正とするが、金銭的評価パラメーターγが十分大きい場合、言い換えると非常に 環境を考慮する公企業、あるいは政府であるならば、その差が負となることもありうる。

(7)

なお、(11)に関して、(9)を考慮すると、2a

e < f00(a)a

f0(a) が成立しなくては ならない。また、(8)を考慮すると、交差効果に関して、2V

∂p∂a = 2V

∂a∂p = sv−(1 +s)p

e2 <0が導ける。

ここで、以下で民営化の効果を見るために、(8)と(9)に関して

2V

∂p∂s=v−p

e −γ=q−γ >0, (12)

2V

∂a∂s=1 2

v−p e

2

=−q2

2 <0 (13)

が導ける。

さて、民営化による価格、ならびに環境品質改善(汚染水準削減)努力への 影響を見よう。(10)から(13)を考慮すると、次の体系が得られる。

0 BB B@

2V

∂p2

2V

∂p∂a

2V

∂a∂p

2V

∂a2 1 CC CA

0

@dp da

1 A=

0 BB

@

2V

∂p∂s

2V

∂a∂s 1 CC

Ads. (14)

したがって、価格ならびに環境品質改善努力への効果はそれぞれ次のように求 まる。

dp ds =1

D

2V

∂p∂s

2V

∂a2 2V

∂a∂s

2V

∂p∂a

«

>0, (15)

da ds =1

D

2V

∂a∂s

2V

∂p2 2V

∂p∂s

2V

∂a∂p

«

<0. (16)

ただし、D≡∂2V

∂p2

2V

∂a2 2V

∂p∂a

2V

∂a∂p >0を仮定する。

(15)と(16)から明らかなように、市場に一社しか存在していない公企業の 民営化は、私的な独占企業を生み出すことになり、その価格支配力を引き上げ る一方、改善努力を怠る方向に進む。

次に、(4)を考慮すると、環境への効果は次のように求まる。

dE ds =−∂a

∂sq+∂a

∂sq−∂p

∂s=−∂p

∂s<0. (17)

すなわち、(17)右辺第一項の単位あたりの環境品質の悪化効果が第二項の環 境品質悪化による需要の減少効果によって相殺され、結局、価格の上昇による

(8)

利光:民営化と環境問題

需要の減少効果が採用して、環境へのダメージが低下することになる8)。 以上の結果を命題1としてまとめておこう。

命題1「公企業の民営化は、環境品質水準を押し下げるが、価格を引き上げる ことにより需要が減少し、その結果、環境への改善につながる。」

さらに、消費者余剰への効果を見よう。このとき、∂CS

∂p =−q <0および

∂CS

∂a =q2

2 >0であることを考慮すると、次が導ける。

dCS ds = ∂CS

∂p

∂p

∂s+∂CS

∂a

∂a

∂s <0. (18)

 そして、生産者余剰、したがって独占利潤への効果についても同様に、

ds =∂Π

∂p

∂p

∂s+∂Π

∂a

∂a

∂s >0 (19)

が成り立つ。なお、∂Π

∂p =q−p

e >0および ∂Π

∂a =(1−s)q2

2 <0である。

以上の結果を命題2としてまとめておこう。

命題2「公企業の民営化は、消費者余剰を減少させる一方、生産者余剰を増加 させる。」

なお、社会全体の経済厚生に関して、

dW ds = dCS

ds −γdE ds +

ds =p

e −γ∂p

∂s+

sq2

2

«∂a

∂s が導ける。ここで、環境ダメージのパラメーターγに関する仮定 q

2 > γ v

4e > γのもとでは、p

e −γ >0が成り立つので、結局、dW

ds <0となる。

3. 混合複占、民営化、および環境問題

前節では、公企業一社のみが当該財市場に存在し、それが民営化する場合の

8) ただし、(1)で環境品質への評価に関し、単位あたりの汚染物質の排出水準との積、と表 し、当該財への需要関数(2)を導出した。したがって、環境ダメージは単純に価格の減少関数 となる(E=eq=vp)。一般的には、どちらともいえない場合がありうる(補論参照)

(9)

環境や経済厚生に与える影響を考察した。他の競争企業が存在していなので、

公企業の民営化は、いわば独占企業化を意味し、価格の上昇や汚染物質の削減 努力へのマイナスの効果をもたらす一方、価格の上昇による需要の減少が当該 財の消費を減らし、そのことで環境ダメージを低下させている。

本節では、公企業とともに競争企業として私企業が存在する混合複占競争を 仮定し、公企業と私企業の間で環境財の品質が差別化されている2種類の財の ケースについて考察を行う。

3.1 混合複占市場における需要関数

まず、環境品質が差別化されている2種類の財の需要関数を導出しよう。す なわち、市場には、汚染物質の排出水準が相対的に低いC財(cleaner goods) と相対的に高いD財(dirtier goods)が存在する。ここで、後での分析を踏ま え、前者を環境良質財、後者を基準財とよぶこととする。言い換えると、後者 は環境品質の最低水準(minimum quality standard)を満たす財と考えるこ とができる。したがって、排出水準(環境品質)に関して、e¯≥eD≥eC0 を仮定する。

さらに、各消費者はこの2種類の財のいずれか一方を購入する(full market coverage)と仮定する。このとき、(1)よりC財とD財のいずれからも同一 の効用を得る境界の消費者θ˜= pC−pD

eD−eC

を導ける9)。したがって、θ > θ¯ θ˜(˜θ≥θ >0)の範囲に存在する消費者はC(D)財を購入する。ゆえに、各財 の需要関数は次のように求められる。

qD= ˜θ=pC−pD

eD−eC

, (20)

qC= ¯θ−θ˜= ¯θ−pC−pD

eD−eC

. (21)

なお、qD(qC)はC(D)財の需要量を、pD(pC)はC(D)財の価格を表す。

前節と同様に、公企業の目的関数を定義する前に2種類の財が存在する混 合複占競争ケースにおける消費者余剰、環境ダメージ、および生産者余剰を定

9) なお、C財を購入する場合となにも購入しない場合の効用が同一となる境界の消費者θˆ= vpC

eC

に関して、θˆθ¯veCθ¯+pCを仮定する。

(10)

利光:民営化と環境問題

義しておく。

CS≡

θ˜

Z

0

(v−pD−eDθ)dθ+

¯θ

Z

θ˜

(v−pC−eCθ)dθ

= (v−pD−eD

2 qD)qD+{v−pC−eC

2 (¯θ+qD)}qC (22)

E≡eDqD+eCqC, (23)

Πi≡piqi−fi(ai), i=C, D. (24)

したがって、社会全体の経済厚生(W)は次のように与えられる。

W ≡CS−γE+ ΠC+ ΠD. (25)

 以上を考慮し、公企業の目的関数を

Vi(1−s)W+i= (1−s)(CS−γE+ Πj) + Πi,

i, j=C, D, i6=j (26) と定義することができる。

以下の分析のために、ここで2種類の財の排出水準、並びに削減努力の費用 関数についてつぎを仮定する。

【3】eD= ¯e <∞, fD= 0.

【4】eC= ¯e−a≥0, fC=f(a), f0(a)>0, f00(a)>0, f(0) = 0, f(¯e) =∞. すなわち、D財に関しては、その排出水準が最低水準を満たす基準財とし、

削減努力を実施しない。したがって、その費用をゼロとする。また、環境良質 財のC財については、費用をかけて最低水準から削減努力をすることで環境 品質の改善を図るものとする10)

3.2 混合複占均衡と民営化の効果

ここでは、公企業が基準財を供給し、私企業が環境良質財を供給する混合複 占市場を考察しよう。したがって、公企業の目的関数は、VD= (1−s)(CS− γE+ ΠC) + ΠDと表され、私企業の利潤関数は、ΠC≡pCqC−f(a)となる。

10) たとえば、費用関数に関して、fC=f(a) = a

¯

ea を考えることができる。

(11)

さらに、つぎの2段階ゲームを考える。すなわち、第2段階では両企業が それぞれの価格を決定する。第1段階では私企業が削減努力水準を決定する。

後ろ向きの推論(backward induction)により部分ゲーム完全ナッシュ均衡を 導出する。

まず、第2段階におけるベルトラン価格競争均衡を導こう。両企業それぞ れの一階の条件は、

∂VD

∂pD

= (1−s)

pD

eD−eC

+γ

+pC2pD

eD−eC

= 0, (27)

∂ΠC

∂pC

= ¯θ−2pC−pD

eD−eC

= 0 (28)

である。したがって、均衡価格はそれぞれ次のように求まる。

pD=(eD−eC)¯+ 2γ(1−s)}

1 + 2s , (29)

pC=(eD−eC){θ(1 +¯ s) +γ(1−s)}

1 + 2s . (30)

さらに、このとき均衡数量は qD=(¯θ+γ)s−γ

1 + 2s , (31)

qC={θ(1 +¯ s) +γ(1−s)}

1 + 2s = pC

eD−eC

(>0) (32)

となる。なお、(29)〜(32)からeD−eC = ¯e−e−a) =aであることから、

削減努力は両財の価格のみに影響を与え、数量には影響を与えない。また、削 減努力の向上は環境品質の改善につながるので、両財の価格を引き上げること になる。

ここで、(31)から民営化率sに関して、1≥s > s≡ γ

θ¯+γ(>0)を仮定す る。すなわち、D財の生産量が正、したがって、pC> pDが成り立つために は、民営化率の下限を仮定しなければならない。公企業は環境ダメージへの負 荷を考慮しているので、民営化率を下げていくと、言い換えれば、国有化(社 会的余剰最大化)に近づいていくほど、その負荷部分の価格への転嫁が大きく なり、C財の価格をD財の価格が逆転して高くなってしまう。このとき、消 費者はD財を購入せず、C財のみの市場となり、混合複占市場ではなくなる。

(12)

利光:民営化と環境問題

したがって、ここでは混合複占市場均衡の存在を仮定するため民営化率の下限 を仮定する。

さて、第1段階では、環境良質財を生産する私企業のみが削減努力水準を決 定する。すなわち、(30)と(32)を考慮すると、その一階の条件は

∂ΠC

∂a =∂pC

∂a qC−f0(a) =q2C−f0(a) = 0 (33) となり、二階の条件は

2ΠC

∂a2 =−f00(a)<0 (34)

である。ここで、民営化の削減努力への効果を見るために、(32)を考慮する と、(33)に関して、2ΠC

∂a∂s = 2qC

∂qC

∂s =−2qC

θ¯+ 3γ

(1 + 2s)2 <0が成立する。し たがって、

da ds =

2ΠC

∂a∂s

2ΠC

∂a2

= 2qC

θ¯+ 3γ (1 + 2s)2

f00(a) <0. (35)

が成立する。

すなわち、(29)と(30)を考慮すると、公企業の民営化は両財の価格を低下さ せるが、D財に対するC財の相対価格への効果に関しては、d

pC

pD

« /ds >0 となるので、D財の生産が増加する一方、C財の生産は減る。したがって、

(33)から環境品質改善努力に対して負の影響をもたらすことになる。

次に、環境への効果を見ておこう。(23)から環境ダメージは、仮定【3】と

【4】からE= ¯eqD+ (¯e−a)qC= ¯e(qD+qC)−aqC = ¯¯−aqCと書き直せ る。したがって、∂E

∂a =−qC<0および∂E

∂s =−a∂q∂sC =a θ¯+ 3γ

(1 + 2s)2 >0が 言えるので、環境ダメージに関して、

dE ds = ∂E

∂s +∂E

∂a

∂a

∂s >0 (36)

が成り立つ。

以上の結果を命題3としてまとめておこう。

命題3「混合複占市場において私企業が環境良質財を供給している場合、公企

(13)

業の民営化は私企業の環境品質改善努力に負の効果をもたらし、かつ環境を悪 化させる。」

次に、消費者余剰と生産者余剰への効果を見ておこう。まず、消費者余剰に 関しては、(22)、(29)〜(32)を考慮すると、まず削減努力の効果について

∂CS

∂a =(qC−qD)qD(qC2qD)qC

2

となるが、(31)と(32)から右辺第2項に関し、qC>2qDとなるので、∂CS

∂a <0 が言える。さらに、民営化の直接的な効果に関しては

∂CS

∂s =

∂pD

∂s qD+∂pC

∂s qC

«

+{pC−pD(eD−eC)qD}∂qD

∂s

=

∂pD

∂s qD+∂pC

∂s qC

«

=

(eD−eC)(¯θ+ 3γ)

(1 + 2s)2 (2qD+qC) ff

>0 が成立する。したがって、

dCS ds = ∂CS

∂s +∂CS

∂a

∂a

∂s>0 (37)

となるので、民営化は、消費者余剰を上昇させる。

いま、生産者余剰に関し、改めて、P S≡ΠD+ ΠCと定義する。したがっ て、まず削減努力の効果については、(33)を考慮して、

∂P S

∂a = ∂ΠD

∂a +∂ΠC

∂a =∂ΠD

∂a = ∂pD

∂a qD= (qC−qD)qD>0 となる。また、直接的な効果に関して、

∂P S

∂s = ∂ΠD

∂s +∂ΠC

∂s =

∂pD

∂s qD+pD

∂qD

∂s

« +

∂pC

∂s qC+pC

∂qC

∂s

«

となる。ここで、∂pD

∂s = 2∂pC

∂s <0および∂qC

∂s =−∂qD

∂s <0であることを 考慮すると、上式に関して、∂P S

∂s = ∂pC

∂s (2qD+qC)(pC−pD)∂qD

∂s <0 が言える。したがって、

dP S ds = ∂P S

∂s +∂P S

∂a

∂a

∂s <0 (38)

が導け、民営化は生産者余剰を引き下げる。

以上の結果を命題4としてまとめておこう。

(14)

利光:民営化と環境問題

命題4「混合複占市場において私企業が環境良質財を供給している場合、公企 業の民営化は消費者余剰を増加させる一方、生産者余剰を減少させる。」

消費者余剰と生産者余剰との合計に関して∂(CS+P S)

∂a =(qC2qD)qC

2 <

0、さらに、(CS+P S)

∂s =−(pC−pD)∂qD

∂s <0となるので、d(CS+P S) ds の符号は一概にどちらとも言えない。

さらに、環境ダメージのパラメーターに関し、γ≡dCS ds /dE

ds (<)γと いう関係が得られる。したがって、γ> γならば、民営化は、確かに環境を 悪化させるもののそれを上回って消費者余剰を増加させるので、生産者余剰の 効果を無視すれば、社会全体としてはプラスの方向に作用する。逆に、γ< γ であるならば、すなわち環境悪化に対して比較的重い評価つけている社会にお いて、民営化は消費者余剰を増加させるもののそれ以上に環境を悪化させるの で、社会全体としてはマイナスの方向に働く。さらにこのとき、生産者余剰も 低下しているので、公企業の民営化は好ましいとは言えない。

4. 結論

公益的な産業における国営企業や公企業の民営化は先進諸国において重要 な経済政策課題の一つである。さらに、現在ではその民営化に伴う環境への影 響は注目されるべき観点である。本稿では、財の属性として環境品質(環境に やさしい製品)に着目し、またその品質に関する選好の異なる消費者、すなわ ちグリーン・コンシューマーの存在を仮定し、そのような産業で公営企業の民 営化が環境や経済厚生に与える影響を考察した。

まず、公営企業一社のみが存在する、いわば独占的なケースでは、民営化は 環境品質の劣化をもたらす一方、価格の上昇による需要の減少をもたらし、結 果として、環境を改善することになる。しかし、生産者余剰を増加させるもの の消費者余剰を減少させてしまう。

つぎに、公益企業と私企業との混合複占市場ケースを考察した。この場合、

私企業が相対的に環境品質水準の高い財を供給し、公企業はその品質に関して

(15)

最低水準を満たす基準財を供給すると仮定した。その結果、民営化は環境品質 の改善努力に負の効果をもたらし、また両財の価格を引き下げる。このとき、

公企業の基準財に対する私企業の環境財の相対価格が上昇してしまうので、前 者の需要が増加し、後者が減少する。結果的に環境の悪化をもたらす。さら に、両財の価格とも低下することにより消費者余剰は増加するものの生産者余 剰は減少する。さらに、環境ダメージに関する金銭的評価パラメーターが十分 大きければ、社会全体の経済厚生を引き下げることになり、公企業の民営化は 好ましいものとは言えない。

本稿モデルは、いくつかの単純化や特定化を施したモデルであり、一概に、本 稿で得られた結果を一般化することはできない。たとえば、混合複占市場では、

消費者は2種類の財のうちいずれかを購入する、いわばfull market coverage を仮定した。したがって、一方の財の需要増は他方の財の需要減をもたらす。

しかし、必ずしもどちらの財も購入しない消費者が存在する場合、すなわち partial market coverageのもとでは、一方の財の需要増(あるいは、減)が、

必ずしも他方の財の需要減(あるいは、増)にならない。したがって、たとえ ば、相対的に環境品質水準の劣化した財の需要が増加してもそれ以上に環境品 質水準の高い財の需要が増加すれば、必ずしも環境悪化につながらない。な お、本稿では割愛したが、full market coverageのもとでは、公企業が環境に やさしい良質な財を供給している場合、その民営化は上記の得られた結果と定 性的に変わらない。しかし、partial market coverageのもとでは、同様の結 果を得られるか確かめる必要がある。その点を今後の課題として指摘しておき たい。

補論

いま、消費者θの余剰を次のように仮定しよう。

u= max{v−enθ−p,0}, n >0. (A.1) このとき、当該環境財への需要関数は、次のように求まる。

q= v−p

en . (A.2)

(16)

利光:民営化と環境問題

したがって、環境ダメージへの効果は次のように与えられる。

dE ds = ∂a

∂sq(n−1) 1 en1

∂p

∂s. (A.3)

なお、(A.1)のもとでも、ある条件のもとで ∂a

∂s <0、および∂p

∂s >0が成り 立つ。したがって、n≥1であれば、民営化は環境を改善するが、0< n <1 であるならば、一概にどちらとも言えない。すなわち、nが十分に小さい場合、

したがって環境品質への選好(あるいは、評価)が無視できる程度であれば、

需要への減少効果があまり大きくなくなるので、単位あたり汚染物質の排出水 準の上昇が作用して、むしろ環境悪化につながる場合がある。

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参照

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