サイアチン類の不斉全合成研究
Studies on Asymmetric Total Synthesis of Cyathins
2005 年 3 月
早稲田大学大学院理工学研究科
生命理工学専攻 活性分子有機化学研究
高野 真史
目次
緒論 本論
第1章 ワンポット環化反応によるTHF誘導体の構築 第1節 本研究の背景
第2節 生成物の構造決定
第3節 幾何異性体生成の選択性 第4節 環化生成物の光学純度 第5節 反応経路
第6節 cyathane骨格合成への応用 6.1 逆合成解析Ⅰ
6.2 光学活性7員環synthonの合成 6.3 7員環synthonへの別アプローチ 第2章 cyathane骨格の収束的合成
第1節 逆合成解析Ⅱ
第2節 触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応に基づくfragment Aの不斉合成 2.1 触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応
2.2 fragment Aの不斉合成
第3節 生体触媒 (baker’s yeast) による不斉還元に基づくfragment Bの不斉合成 3.1 キラルアルコールの合成
3.2 fragment Bの不斉合成
第4節 fragmentの結合と分子内アルドール反応に基づく三環性骨格の構築
4.1 fragmentの結合 4.2 分子内アルドール反応
第5節 (+)-allocyathin B2の不斉全合成 第6節 trans縮環部位の構築
総括 実験項
第1章 THF誘導体のワンポット合成 第2章 (+)-allocyathin B2 の不斉全合成 謝辞
参考文献 研究業績
ページ 1 3 4 6 12 15 17 19
24 26
30
32
38 42 44
47 61 85 86
緒論
cyathin類は、1971年にAyerらにより鳥の 巣型の菌類Cyathus sp. から初めて単離され、
1970年代に約 20 種が単離、構造決定されて きたジテルペン類である1)。
構造的には、cyathane骨格(1)と呼ばれる新
奇な 5-6-7 員環の三環性炭素骨格を共通の中
心骨格としてもち、そのA-B環及びB-C環の 縮環部位には二つの不斉四級炭素中心をもっ
ている。さらに、(+)-allocyathin B2(2)1b)などのC5-C10位が不飽和結合である数種を除い ては、全てのcyathin類はB-C環がtransに縮環している(Figure 1)。
今日までにcyathane骨格を有する化合物は、cyathin類以外にも数多く報告されており、
それらは、構造的な特徴からいくつかの化合物群に分類されている。例えば、A 環部に酸 素官能基をもつcyafrin類1d-f, 2)、C17位がカルボキシル基であるscabronin類3)、C19位 に水酸基をもつsarcodonin類1a, 4, 5b)、C環部にxyloseが結合したerinacine類5)、striatin
類1c, 6)などがあり、これらはいずれも同様の菌類から単離されている。
このような多様性のみならず、cyathane骨格をもつ化合物の中には顕著な生物活性を示 すことでも知られているものも少なくない。 cyathin 類には、放線菌やグラム陽性・陰 性菌に対して、抗菌活性を示すものが知られており、さらに近年発見された erinacine 類
やscabronine類は、アルツハイマー病などに代表される退行性神経症などに対して効能を
示すとされている神経成長因子(NGF)合成促進活性物質である。実際、erinacine類が単離 されたヤマブシタケ(Hericium erinaceum)は痴呆症予防の健康食品とされている。また erinacine E 5g)のように、選択的 κ-レセプターオピオイドアゴニスト活性を示し、非麻薬 性鎮痛剤のリード化合物として期待されているものもある。
こうした構造的な複雑さ及び顕著な生物活性からこれらの化合物群は全合成のテーマと してチャレンジングなものであり、有機合成化学者の注目を集め、多くの研究グループが 様々なアプローチでその全合成に取り組んできた 7)。しかしながら、最初の化合物が単離 されてから二十数年にわたり全合成は達成されず、研究を開始した当初は、2 グループに よる(±)-allocyathin B2と(+)-erinacine A の全合成の僅かに二例 7i-k)だけであった。2000 年にさらに二例の全合成が達成された7d, f)が、それらの合成はいずれもラセミ体での全合成 であり、エナンチオ選択的な全合成は未だに達成されていない。
そこで、cyathane骨格の効率的な不斉合成法を確立し、近年報告されているような魅力
ある生物活性をもつ、より構造的に複雑な類縁体の合成を行うことも視野にいれたcyathin 類の不斉全合成研究を開始した。
cyathane skeleton A
B C
1
2 3
4 5
6 7 8
9
10 11 12 13 14
15 16
17
18 19
20
CHO OH
(+)-allocyathin B2
1 2
Figure 1
全合成研究を行う上では、いかなる化合物でも必ずいくつかの合成上の困難に直面する。
cyathin 類のような生物活性多環式天然物には、不斉四級炭素中心を含むものも多く、そ
れをいかにして構築するかは、それらの化合物の全合成において重要な鍵となる。またさ
らにcyathin 類の多くは一般に構築が難しいとされる trans 縮環系を含んでいる。こうし
た合成上の困難は合成の始めの段階で解決しておくことが望ましい。したがって目的の不 斉を有するようなキラルな合成中間体を利用する合成戦略は、全合成において非常に効果 的であると考えられる。
本研究では、まずキラルな合成中間体を構築し、それを利用した cyathane 骨格の効率 的な合成法の確立をするべく検討を行った。そして合成した三環性骨格をもつ合成中間体 を利用した第一の全合成研究として生物活性天然物(+)-allocyathin B2の不斉全合成を行い、
これを達成した。これはcyathin類の全合成としては最初の不斉全合成である。
また更なる検討の結果、trans縮環系の構築も達成した。
本論
本論文で使用する略号は、以下の通りである。
Ac : acetyl
AIBN : 2,2’-azobisisobutyronitrile aq. : aqueous
Bn : benzyl Bu : butyl Bz : benzoyl calcd. : calculated cat. : catalytic
CSA : 10-camphorsulfonic acid
DBU : 1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene DIBAL-H : diisobutylaluminum hydride DIPEA : diisopropylethylamine
DMAP : 4-dimethylaminopyridine DMF : N,N-dimethylformamide DMP : Dess-Martin periodinane DMSO : dimethylsulfoxide Et : ethyl
HMPA : hexamethylphosphoramide LDA : lithium diisopropylamide LG : leaving group
LHMDS:lithium bis(trimethylsilyl)amide m-CPBA : m-chloroperbenzoic acid Me : methyl
Mes : mesityl
MPM : p-methoxyphenylmethyl
NHMDS:sodium bis(trimethylsilyl)amide Ph : phenyl
PMP : p-methoxyphenyl Pr : propyl
Py : pyridine
quant. : quantitative
rt : room temperature
TBAF : tetrabutylammonium fluoride TBAI : tetrabutylammonium iodide TBS : tert-butyldimethylsilyl Tf : trifuruoromethanesulfonyl TFAA : trifluoroacetic anhydride THF : tetrahydrofuran
THP : tetrahydropyran
TLC : thin-layer chromatography Ts : p-toluenesulfonyl
第 1 章 ワンポット環化反応による THF 誘導体の構築
第1節 本研究の背景
生物活性化合物の中にはテトラヒドロフラン(以下 THF)環をもつものも多く、効率 的な THF 環の合成法の確立は重要である。今日までに種々の方法により立体選択的な THF 環の構築が検討され、天然物の合成へと応用されているが、それらはいずれも fragment同士の炭素−炭素結合と環形成が別々に行われる段階的な手法であ(Figure 1.1)。
OR2
O O
R3 O
R1
R3 OHO R1 OR2 O
R3 O H
CO2R2 R1 R3 O
H
CO2R2 R1 OH +
Figure 1.1 Example of THF synthesis H
H+
そこでもし、アセト酢酸エステルのジアニオンとエポキシブロミド3 のような二つの反 応点をもつ求電子剤を反応させれば、最初に反応中間体として鎖状化合物4が生成した後、
さらに環化反応が進行し、ワンポットで環化生成物が得られるのではないかと考えた。こ の反応ではいくつかの環化生成物が予想されるが、適切な反応条件等を選択することによ り、その生成は制御できるものと考えた。この反応がうまく進行すれば、従来の段階的な 合成法に比較して効率良くTHF誘導体を立体選択的に構築することが可能である(Figure 1.2)。
R1O R3 H
OH
R2O2C
R1O R2O2C
R4OH
R3 H
O R2O2C
R1
R3 H
OH
O R3 OHH
R4
R2O2C R1
R4 R4
Br R4
R3 O
OR2 O O
R1 O O
OR2 R1
R4
R3O M
+ ?
Figure 1.2
3 4
5
また、もし THF 誘導体が選択的に得られれば、構造修飾に適した官能基を有している 為、種々の反応によりカルボサイクリックな化合物への変換も可能であり、様々な光学活 性な天然物合成への展開が可能な有用な鍵中間体となりうる(Figure 1.3)。
O
R1 CO2R2 R3
H
O
R3 H R2O2C R1 Claisen
rearrangement
Pd (0)
O
R3
R2O2C R1
H
H O
OH H O
H HO
OH OH
erinacine E
O
HO H H
Me CO2H
OH prostaglandins R
HO H
H steroids Figure 1.3
そこで、生成物の構造、絶対立体配置、反応経路の決定、及び光学純度の保持の程度な ど、本反応の詳細について検討を行い、本反応を光学活性な THF 誘導体の簡潔で、汎用 性のある合成法とすることを目的とし、検討を開始した。
第2節 生成物の構造決定
まず始めに二つの反応点をもつ求電子剤として、既知化合物であり光学活性体が容易に 入手可能である二置換トランス‐エポキシアルコール68)から合成したブロモ体7を用いて アセト酢酸エステルのジアニオンとの反応を試みたところ、二つの生成物8、9が得られた
(Scheme 1.1)。ここで二置換のエポキシブロミド7を用いたのは7の二段階目の反応点
となりうる二つの不斉炭素がどちらも三級になるようにするためである。
BnO
O X
6 X = OH 7 X = Br
Ot-Bu
O O
NaH(2.3eq.) n-BuLi(2.0eq.) additive, THF -60oC → -40oC → rt then Ac2O(5.0eq.)
(2.1eq.)
8 + 9
Scheme 1.1
1H-NMRを測定した結果、二つの生成物はいずれも複素環をもつ化合物であると推測さ
れた。まず、オレフィン部分の幾何配置を決めるため、オレフィンのプロトンとアリル位 のプロトンのケミカルシフト値を文献9)の類似化合物10‐13(Figure 1.4)と比較した。
O t-BuO2C
H HH
O H
CO2t-Bu
HH O
t-BuO2C H
HH O
H CO2t-Bu HH
10 11 12 13
Figure 1.4 4.85
2.66 3.06
5.23
4.78
2.29 2.98
5.21
また8についてはNOE測定を併せて行い(Figure 1.5)、
O t-BuO2C
H HH OBn
AcO H
NOE :
8
4.6%
(δ 4.77) Figure 1.5
8がZ体、9はE体と推定した。ここで9のNMRチャートを検討してみるとメチレン 部分のピークが1プロトンずつ別々に出ており、始め6員環骨格をもった化合物ではない かと推測した。実際、E体は 5員環と 6員環でケミカルシフト値が近く、またこの文献 9) には結合定数が掲載されておらず、これだけでその構造を決定することは困難である。
つまり、始め化合物8、9の構造は下記のように考えていた(Figure 1.6)。
O t-BuO2C
H HH OBn
AcO H
2.68 4.77 8
O
H CO2t-Bu HH OAcH OBnH
3.06 5.22
9 Figure 1.6
しかしながらその後、類似化合物の合成及び1H-NMRスペクトルのアリル位のプロトン の分裂パターンの比較の結果、最終的に本反応で得られたE体の生成物9は5員環骨格を もつものと推定された(Figure 1.7)。
O t-BuO2C
H OBn
AcO H
8
O H
CO2t-Bu OBn
AcO H
Figure 1.7 9
つまり本反応では、光学活性な THF 誘導体の両幾何異性体が生成しているということ になる。
次に絶対配置の決定を行った。当初はX線結晶構造解析を行うために誘導体の結晶化を 検討したがうまくいかなかった。そこで以下の手順にしたがって、生成物8 を文献既知化 合物 1810)に誘導した。すなわち、8 のオレフィン部位をオゾン分解しラクトン 14 へ、14
のAc基をMeOLiを用いてラクトンを開環させずに脱保護し15とし、Bn基を加水素分解
して除去しジオール16とした。16のジオール部位をNaIO4を用いて開裂させアルデヒド 17とした後、NaBH4により還元しアルコール18 とした。18は、1H-NMR、HRMS、IR により文献値と一致することを確認した(Scheme 1.2)。
O t-BuO2C
H OBn
AcO H
8
O O
OBn
AcO H
O O
OBn
HO H
O O
OH
HO H
O O OHC H
O O HO H
14 15
16 17 18
y. 81%
y. 48%
(2 steps)
y. 35%
(2 steps) 1) O3, CH2Cl2
-78oC 2) Zn, AcOH
MeOLi MeOH, 0oC
H2, Pd/C AcOEt, rt
NaIO4, SiO2 H2O / CH2Cl2 rt
NaBH4 MeOH, 0oC
Scheme 1.2
18の旋光度を測定し、符号及び絶対値を文献値と比較した。その結果、絶対値は異なる ものの符合の一致は見られた(Figure 1.8)。ここで絶対値の違いは、誘導の途中アルデヒ ドを経由した為、そのα位がラセミ化し光学純度が低下したためと考えている。
結果として、絶対配置は以下のように推定した。
O O HO H
18
[α]D22.0 -6.03 (c 1.33, EtOH)
O O HO H
[α]D20.0 -33.5 (c 3.12, EtOH) 5R
ref. 10)
Figure 1.8
同様に9をオゾン分解したところ、得られたラクトン19はZ体由来の14と1H-NMR、 Rf値共に全く同一の化合物であった(Scheme 1.3)。
O H
CO2t-Bu OBn
AcO H
9
O O
OBn
AcO H
19 y. 81%
1) O3, CH2Cl2
-78oC 2) Zn, AcOH
[α]D22.0 +4.4 (c 1.6, CHCl3)
O O
OBn
AcO H
14
[α]D22.0 +4.4 (c 1.5, CHCl3) 5R
1S
Scheme 1.3 5R
1S
そこで19の旋光度を測定したところ、符号及び絶対値の一致が見られたことから、8と 同様の絶対配置であると推定した。
次に、二置換シス‐エポキシアルコール208)のブロモ体21を用いて同様にワンポット環 化反応を行った(Scheme 1.4)。
O X
20 X = OH 21 X = Br
Ot-Bu
O O
NaH(2.3eq.) n-BuLi(2.0eq.) additive, THF -60oC → -40oC → rt then Ac2O(5.0eq.)
(2.1eq.)
+
Scheme 1.4 BnO
O t-BuO2C
H OBn
AcO H
22
O H
CO2t-Bu OBn
AcO H
23
生成物の絶対配置の決定は、Scheme 1.2 と同様に文献既知化合物に誘導し行った
(Scheme 1.5)。すなわち、22のオレフィン部位のオゾン分解、Ac基、Bn基の脱保護、
生じたジオール部位の NaIO4を用いた開裂、アルデヒドの NaBH4還元によりアルコール 28 とした。28 は、1H-NMR、HRMS、IR により文献値と、また化合物 18 とも一致する ことを確認した。
O t-BuO2C
H OBn
AcO H
22
O O
OBn
AcO H
O O
OBn
HO H
O O
OH
HO H
O O OHC H
O O HO H
24 25
26 27 28
y. 65%
y. 52%
(2 steps)
y. 52%
(2 steps) 1) O3, CH2Cl2
-78oC 2) Zn, AcOH
MeOLi MeOH, 0oC
H2, Pd/C AcOEt, rt
NaIO4, SiO2 H2O / CH2Cl2 rt
NaBH4 MeOH, 0oC
Scheme 1.5
28の旋光度を測定し文献値と比較ところ、符号、絶対値共に良い一致を示したので、絶 対配置は以下のように推定した(Figure 1.9)。
O O HO H
28
[α]D22.0 -34.6 (c 1.97, EtOH)
O O HO H
[α]D20.0 -33.5 (c 3.12, EtOH) 5R
ref. 10)
Figure 1.9
また22 をオゾン分解し得られたラクトン 24 の旋光度を測定したところ、化合物 14 と は符号、絶対値ともに異なるものであったので絶対配置は以下のように推定した。(Figure 1.10)。
O O
OBn
AcO H
24
[α]D25.0 -24.9 (c 1.2, CHCl3)
O O
OBn
AcO H
14
[α]D22.0 +4.4 (c 1.5, CHCl3) 5R
1S
Figure 1.10 5R
1R
トランス‐エポキシアルコールを用いた実験と同様に E 体の 23 をオゾン分解し得られ たラクトンは、Z 体由来の 24 と 1H-NMR、Rf値、旋光度の符号及び絶対値が一致したの で同一の化合物であることがわかった。
以上の検討結果より、本反応において任意のエポキシブロミドを用いても8、9のような THF誘導体が生成すると考えてほぼ問題ないと思われ、生成物の絶対配置は出発原料から 予測可能であることがわかった。
第3節 幾何異性体生成の選択性
次に、このワンポット環化反応で生成するTHF誘導体の両幾何異性体の生成比を決定付 けているものは何であるかということについて検討を行った。
すなわちこの反応における、添加物とTHF誘導体の幾何異性体生成の選択性の関係を研 究することにより、さらにこの環化反応のメカニズムと有効性を知ることを目的とし実験 を行った。
まず、いくつかのアセト酢酸エステル 29 とエポキシブロミド 30 の組み合わせについて 同様にワンポット環化反応を行い、Z体31、E体32の生成比を調べた(Scheme 1.6)。反 応条件を統一し以下の手順で実験操作を行った。
OR2 R1
O O
R4
Br O +
R2O2C R1
R3
AcO H
31
O R1
CO2R2 R3
AcO H
32 O H
R3
R4 R4
1) additive, THF -60oC → -40oC → rt 2) Ac2O
Scheme 1.6 29a (R1 = H, R2 = t-Bu)
29b (R1 = Me, R2 = Et)
30a (R3 = -CH2OBn, R4 = H) 30b (R3 = H, R4 = -CH2OBn) +
充分乾燥させたナスフラスコに水素化ナトリウム 2.3 等量を入れて Ar 置換をし、無水 THFを加え0℃下アセト酢酸エステル2.1等量を滴下して、10分間撹拌した。それから、
水素化ナトリウムの沈殿が残っていることを確認し(乾燥の確認)、n‐BuLi/THF溶液2.0 等量をゆっくりと滴下して、さらに10 分間撹拌した。その後添加物を加え、-60℃に冷却 した。予めtoluene共沸しておいたブロモ体30をTHFに溶かし、乾燥機にしばらく入れ ておいたカニューレを通し滴下した。反応溶液の濃度はジアニオンに対し 0.1M になるよ うにTHFの量を調節した。その後温度を-40℃に上げ約12時間撹拌し、その後T℃へ昇温 した。TLCにより鎖状中間体が消失したのを確認し、無水酢酸を滴下してアセチル化を行 った。これは素早く水酸基をマスクすることにより精製段階での異性化を押さえ、正確な 生成比を測定するためである。その後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、Et2O、 CH2Cl2(2 回)を用い抽出し、有機層を集めて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。無 水硫酸ナトリウムを用い乾燥し、溶媒を濃縮、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用 いて精製して生成比を測定した。
その結果がTable 1.1である。timeとは、T℃で反応させた時間を指す。生成比は単離収 量から決定した。
Table 1.1
entry 29 30 additive (eq.) time (h) T (oC) yield (%) 31 / 32 1
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
a a a
a a a a b b b b
a a a
a b b b a a b b
LiClO4 (2.0) LiClO4 (2.0) LiClO4 (2.0) then HMPA (3.0) HMPA (3.0) LiClO4 (2.0) LiClO4 (2.0)
LiClO4 (2.0)
LiClO4 (2.0) HMPA (3.0)
HMPA (3.0)
HMPA (3.0)
5 48
5 8 8 120
5 8 5 8 5 8
rt -10
-40 rt rt rt
rt rt rt rt rt rt
91 99 86 80 86 79 90 64 83 82 78
8.4 / 1 17 / 1
1 / 1.4 1 / 3.8 22 / 1
1 / 0 1 / 12 13 / 1
1 / 1.2 135 / 1
1.4 / 1
反応系中に加える添加物として、キレート力の強いリチウムカチオンを増加させるため に過塩素酸リチウムを、逆にキレートを阻害するためにHMPAを用いた。
その結果、まず、過塩素酸リチウムを用いた条件では(entry 1、6、8、10)いずれもZ 体31が優先して得られた。逆にHMPAを用いた場合は概ね(entry 4、7、9)E体32が 優先して得られた。
このことから、キレート錯体の増減と生成比との間には、明確な関係があることがわか った。反応温度を下げて(entry 2、5)キレートをより組みやすくするとZ体の生成比の さらなる向上が見られたことからも明らかである。また過塩素酸リチウムを添加した場合、
エポキシドの活性化による反応速度の上昇も観測された。
さらに、始めに過塩素酸リチウムを用いるentry 1の条件で反応を行い、その後HMPA を加えて撹拌し続けると(entry 3)、31から32 への異性化が起こり、生成比が逆転する ことがわかった。
さて、ここでこのワンポット環化反応ではTHF誘導体の両幾何異性体のみが得られてい るが、エポキシドの開裂による分子内閉環反応の際、5 員環と 6 員環の生成が考えられる ので、THP誘導体が生成し、そこからTHF誘導体に異性化した可能性は否定できない。
この巻き直しにより生成する31’、32’は31、32の鏡像異性体となることから、光学純度の 低下が推測される(Figure 1.11)。そのために次に環化生成物の光学純度を測定した。
O R2O2C
R1 R3
AcO H
31'
O R1
CO2R2 R3
AcO H
32'
R4 R4
Figure 1.11
第4節 環化生成物の光学純度
前節の最後で述べたように、本反応では反応経路の違いにより光学純度が損なわれるこ とが推測される。そこで、光学純度を調べることにより、実際の反応経路の特定を行った。
BnO
O OH
O OH
BnO
BnO
O OAc
O OAc
BnO Ac2O,Py
DMAP, CH2Cl2
0oC → rt 6
Ac2O,Py DMAP, CH2Cl2
0oC → rt
33 y.93%
20 34 y.93%
Scheme 1.7
Table 1.2
compound hexane / 2-propanol F.R.(ml/min) R.T.(min) ratio ee(%) 33
34
9 / 1 7 / 1
0.4 0.4
29 / 43 28 / 29.6
6.0 / 94.0 96.0 / 4.0
88 92
まず始めに原料であるエポキシアルコール6、20のアセチル体33、34の光学純度を測定 したところ、それぞれ88%ee、92%eeであった(Table 1.2)。なお、測定はHPLCカラ ムとしてDicel Chiral Cel OD-H、検出波長は254nmを用い、移動層はhexane / 2-propanol をMEMBRANE FILTER ( TOYO CAT.NO. T050A047A ) にてろ過し、超音波洗浄器で 20分間脱気して使用した。
次に、過塩素酸リチウム、HMPAを添加した場合の環化生成物のアセチル体の光学純度 を調べた。
Table 1.3
compound hexane / 2-propanol F.R.(ml/min) R.T.(min) ratio ee(%)
9 / 1 0.4
aaLZ 14.5 / 19.4 93.0 / 7.0 86
9 / 1 0.4
aaLE 20.1 / 36.9 99.0 / 1.0 98
absolute configuration
9 / 1 0.4
aaHZ 14.5 / 19.4 97.0 / 3.0 94
9 / 1 0.4
aaHE 20.1 / 36.9 96.0 / 4.0 92
5R, 1S 5R, 1S 5R, 1S 5R, 1S
9 / 1 0.5
abLZ 16.2 / 18.5 2.5 / 97.5 95
9 / 1 0.5
abLE 22.8 / 24.8 94.0 / 6.0 88
9 / 1 0.5
abHZ 16.2 / 18.5 4.5 / 95.5 91
9 / 1 0.5
abHE 22.8 / 24.8 96.0 / 4.0 92
5R, 1R 5R, 1R 5R, 1R 5R, 1R
49 / 1 0.4
baLZ 63.8 / 68.9 93.0 / 7.0 86
9 / 1 0.4
baLE 17.7 / 23.1 6.0 / 94.0 88
49 / 1 0.4
baHZ 63.8 / 68.9 94.0 / 6.0 88
9 / 1 0.4
baHE 17.7 / 23.1 5.5 / 94.5 89
5R, 1S 5R, 1S 5R, 1S 5R, 1S
9 / 1 0.5
bbLZ 19.6 / 24.6 95.5 / 4.5 91
9 / 1 0.5
bbLE 19.8 / 21.3 4.5 / 95.5 91
9 / 1 0.5
bbHZ 19.6 / 24.6 95.5 / 4.5 91
9 / 1 0.5
bbHE 19.8 / 21.3 4.0 / 96.0 92
5R, 1R 5R, 1R 5R, 1R 5R, 1R
Table 1.3においてcompoundの欄は、例えば、aaLZは29aと30aの反応を過塩素酸リ チウムを添加剤として用いて行った結果得られた 31 を意味する。また第 2 節の方法に従 って、絶対配置の決定も行った。
結果として、全般に渡り生成物の光学純度はほぼ保たれることがわかった。
このことから、本反応による生成物が天然物合成の中間体として利用可能であり、また 本反応そのものが天然物合成の合成計画に組み込めるものであることが明確になった。
O R2O2C
R1 R3
AcO H
31
O R1
CO2R2 R3
AcO H
32
R4 R4
5 5
Figure 1.12
1 1
第5節 反応経路
これまでの結果より、本反応の反応経路について以下の知見が得られる。
O Li O
Ot-Bu OBn O H H b
a
a b
HO t-BuO2C
BnO H OH
H
O t-BuO2C
H H OHH BnO
Figure 1.13 C-alkylation
まず、最初に反応中間体として生成した鎖状化合物では次に酸素原子または炭素原子上 での反応が考えられるが、シクロペンタノン誘導体およびシクロヘキサノン誘導体が全く 得られないことから、炭素原子上で反応は起きていないことがわかる(Figure 1.13)。
O t-BuO2C H
BnO OLi OBn H
O H OH
O t-BuO
Li O
t-BuO2C H
OBn
HO H
1R 5S
Figure 1.14 O-alkylation
化合物の絶対配置はエポキシドのどちら側で反応が起こるかで決まるので、生成物の絶 対配置と、基質の光学純度が保たれている事実から、酸素原子上で反応が起こる場合も、6 員環ができる側での反応は起きていないこともわかる(Figure 1.14)。
つまりこの反応の反応経路は次のようになる(Figure 1.15)。
O O
H t-BuO
O Li BnO
O t-BuO2C
H OBn
HO H
37
O H
CO2t-Bu OBn
HO H
38 O
H OBn
O H
O H
CO2t-Bu OBn
O H
Li Li
t-BuO O Li
1S 5R
1S 5R BnO
O O
Ot-Bu O
H H Li
BnO
O O
H H Li
Ot-Bu O
Figure 1.15 35
36
鎖状反応中間体はリチウムカチオンのキレート効果により安定化された Z 体のエノラー ト35と、酸素原子の双極子、双極子反発を避けるようなE体36の平衡状態にあり、これ らに存在する酸素上のアニオンがエポキシド炭素を求核攻撃し、それぞれ35から37が、
36 から38 が生成していると思われる。反応系中に加える添加物として過塩素酸リチウム を用いた場合は37が、HMPAを用いた場合は38が優先して得られたという結果はこの反 応メカニズムを支持するものと考えられる。また始めに過塩素酸リチウムを用い、その後 HMPAを加えて撹拌し続けると、37から38への異性化が起きたことから、環化体生成後 にも平衡が存在することがわかった。つまりリチウムカチオンは環化前後で影響を及ぼし ていることになる。
環化体におけるE体とZ体の変換のメカニズムは、水酸基の巻き込みが起こることによ り、オレフィン部分の結合が上図(Figure 1.15)に示したように一時的に回転できるよう になり、異性化したものと考えられる。
第6節 cyathane骨格合成への応用 6.1 逆合成解析Ⅰ
緒論で述べたように、cyathane骨格の合成を行う上ではいくつかの困難な点が考えられ る。その中で、まずB-C環のtrans縮環部位に着目し、始めにその部分を構築する合成戦 略を計画した(Scheme 1.8)。すなわち三環性骨格(39)は、始めにC環を構築した後、41 のSmI2を利用した分子内反応により B環の構築を行って 40 とし、最後にA 環を構築す ることによって得られるものとし、適切な不斉炭素を有するC環部の7員環synthon(42) は、アルケニルアリルエーテルを有するTHF前駆体(43)からのClaisen転位により構築で きるものと考えた。
H O
R
H OR
O
O R2OC H
OR
O
R2OC
H O
MPMO MPMO O CO2R
H A
B C
Claisen
rearrangement
39 40 41
42 43
Scheme 1.8
また、所望の THF 前駆体(43)の構築は、今回見出した二つの反応点をもつ求電子剤と C,O-アセト酢酸エステルジアニオンによるワンポット合成を利用することを計画した。
6.2 光学活性7員環synthonの合成
これまでに得られた良好な結果をもとに、cyathane骨格合成へ展開できる光学活性7員
環 synthon を得るための Claisen 転位前駆体であるアルケニルアリルエーテルを有する
THF誘導体の合成を検討した。
始めに、エポキシブロミドとの反応により得られたTHF誘導体44から、官能基変換を 行うことで、所望のアルケニルアリルエーテルを有するTHF誘導体45へと変換すること を検討したが、脱保護の段階でオレフィン部位が異性化してしまうなど望まない反応が起 きてしまい、目的の化合物を得ることはできなかった(Figure 1.16)。
O CO2Et OAcH
OBn
O CO2Et H
RO
Figure 1.16 45
44
そこで、アルケニルアリルエーテルを有するTHF誘導体46を直接ワンポット合成によ り得ることを検討することにした(Scheme 1.9)。
O R1 CO2R2 R3
H
OR2
O O
R1
R3 LG
LG
+
46 47 48
Scheme 1.9
L-ascrobic acid か ら 誘 導 さ れ る 文 献 既 知 化 合 物 4911)を 出 発 物 質 と し 、Horner- Wadsworth-Emmons(HWE)反応によりエステル50とした後、DIBAL-H還元によりア リルアルコール51に変換した。51の水酸基をMPMで保護し52とした後、最後に酸性条 件にさらすことによりアセトナイドを外し、ジオール53とした(Scheme 1.10)。
O O
O
O O EtO2C
O O
HO O
O MPMO
MPMO
OH OH
Scheme 1.10 (EtO)2P(O)CH2CO2Et
t-BuOK, THF -78oC → 0oC
DIBAL-H CH2Cl2, -78oC
MPMCl NaH, TBAI THF / DMF (10:1) 0oC → rt
p-TsOH MeOH 0oC → rt
49 50
51 52
53
y. 39%
y. 85% y. 86%
y. 82%
次に53の水酸基の脱離基への変換を行った。当初は脱離基として当研究室においてこれ まで実績のあった環状硫酸エステルを用いることを計画していたが、54の合成は困難であ るという結果が得られた(Scheme 1.11)。
O O S MPMO
54 53
Scheme 1.11
O O
通常用いられる脱離基への変換は、エポキシドを生成してしまうなど得られた基質が不 安定で困難であった。そこで、一級アルコールのみTs化し、二級アルコールはそれ程脱離 能はないリン酸エステルとした 56 を合成し、環化反応を検討することにした(Scheme 1.12)。
MPMO
OH
OTs MPMO
OP(O)(OEt)2 53 OTs
55 y. 63% 56 y. 76%
Scheme 1.12 Ts2O, Py
CH2Cl2 0oC → rt
(EtO)2P(O)Cl Et3N, DMAP CH2Cl2 0oC → rt
これまでの方法に従って、56とアセト酢酸エステルジアニオンを反応させたところ、所 望のTHF前駆体 57は得られず、脱離反応が優先して進行し、ジエン58 が得られてしま った(Scheme 1.13)。
56 + OEt
O O
(2.1eq.)
NaH (2.3eq.) n-BuLi (2.0eq.) THF
-60oC → -40oC → rt
OP(O)(OEt)2
MPMO
58 y. 35%
Scheme 1.13
O H CO2Et MPMO
H 57
同様の脱離基をもつ種々の求電子剤59についても脱離体60のみが得られてきたので、
このタイプの求電子剤とジアニオンの反応では、THF誘導体は得ることができないと判断 した(Scheme 1.14)。
LG2 MPMO
LG1
59
MPMO
LG1
60 y. 46 - 61%
LG1 = OC6H4-p-NO2, OC6F5, OC6Cl5, Cl LG2 = Br, Cl
Scheme 1.14
6.3 7員環synthonへの別アプローチ
末端エポキシドと β−ケトスルホンのジアニオンとの反応により、反応形式は違うものの、
アルケニルアリルエーテルを有するTHF誘導体61を得ることができた。しかしながら、
その後の61から62へのClaisen転位反応は、収率等、再現性のないものであった(Scheme 1.15)。
O
SO2Ph BnO
H
O PhO2S BnO
y.0 - 58%
xylene reflux
H Scheme 1.15
61 62
またTHF誘導体を経由せず、直接不斉分子内Michael反応により7員環synthonを与 える 63 から 64 への反応も検討したが、収率、選択性共に満足のいくものではなかった
(Scheme 1.16)。
O EtO2C ROC
y.0 - 56%
O EtO2C ROC NaH, additive
1 / 2.7 - 8.7 / 1 R = O N
O
63
64
Scheme 1.16
これらの結果から、Scheme 1.8(19ページ)に示すような、始めに所望のtrans縮環をも
つ7員環synthonを構築し、cyathin 類の基本骨格を合成することは非常に困難であるこ
とがわかった。
そこで cyathane 骨格の合成については、もう一度逆合成解析から検討し直し、新たな
合成戦略を立てることにした。
cyathane骨格合成には適用できなかったが、生物活性化合物の中にはTHF環をもつも
のも多く、また従来のこの種のTHF誘導体の合成法ではE体が優先して得られていたが、
本反応では反応条件によりZ体が優先して得られるという特徴をもっているため、開発し た効率的な光学活性な THF 環の構築法は、他の化合物の合成には十分利用価値のあるも のだと考えられる。
第 2 章 cyathane 骨格の収束的合成
第1節 逆合成解析Ⅱ
第一の合成戦略では骨格構築上の困難な点として trans 縮環部位に着目し、順次環を構 築していく合成ルートを計画した(Scheme 1.8)。次の合成戦略において困難な点として 着目したのは、二つの不斉四級炭素中心の構築である。もし合成の初期の段階で望みの不 斉四級炭素をもつような適切なfragmentが準備できれば、効率的なcyathane骨格の構築 ができると考えられる。そこで、まずA環とC環のfragmentを別途合成し、それらを結 合してB環を構築する収束的なルートでのcyathane骨格の合成を計画した(Scheme 2.1)。
それぞれの fragmentは、当研究室で開発した不斉反応 12, 13)により所望の不斉四級炭素 中心を構築し合成できると考えた。
OR
O
H OH
intramolecular aldol reaction
OR
O O OH
O H
OH
O
H H
cyathane skeleton
ring expansion reaction
H O
R A
B C
O
H
OH group directed hydrogenation
CHO
OR O
O
I R'O
O
SO2Mes
O
SO2Mes N2
fragment A
fragment B
catalytic asymmetric intramolecular cyclopropanation
(IMCP)
+
RO HO
O
RO O baker's O
yeast
39 65 66
67
68
69
70
73
71 72
74 75
Scheme 2.1
14
つまり、cyathane骨格(39)の7員環は合成の終盤において、6員環からの環拡大反応に よって構築することとし、B-C環のtrans縮環部位は、C14位の水酸基の不斉を利用した ジアステレオ選択的な水素化反応により構築し、5-6-6員環の三環性化合物68は、あらか じめ合成した二つのfragment A、B (70、73)を結合して出来るジケトン69の分子内アル ドール反応により環化し、合成することを考えた。
また、二つのfragmentの合成として、A環部位に相当するfragment A(70)の合成には、
触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応12)により構築したシクロプロパン化合物71より、
また、C環部位に相当するfragment B(73)の合成には、baker’s yeastによるプロキラルな 1,3-ジケトンの不斉還元反応13)により構築した、新規なキラルアルコール71より構築する こととした。
第2節 触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応に基づくfragment Aの不斉合成 2.1 触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応
当研究室では、触媒的不斉分子内シクロプロパン化反応について検討を行っており、近 年、α-ジアゾ-β-ケトスルホン類において、高収率かつ高エナンチオ選択的に生成物が得ら れることを見出している 12)。そこで、所望の不斉四級炭素中心を有するシクロプロパン化 合物71を得るために、出発原料としてメタリルクロリド76を用いることとした。マロン 酸ジエチルとの結合、脱炭酸により二炭素増炭したエステル体77へと変換後、メシチルメ チルスルホンと結合し、得られた β-ケトスルホン体の α位をジアゾ化し、触媒的不斉分子 内シクロプロパン化反応の前駆体である α-ジアゾ-β-ケトスルホン72を合成した(Scheme 2.2)。種々のビスオキサゾリンリガンドを用いてシクロプロパン化反応を行ったところ、
リガンドdを用いた場合(entry 4)、最も高エナンチオ選択的に生成物が得られた(Table 2.1) 12)。ここまで一連の反応においては、生成物の特性上、シリカゲルカラムクロマトグ ラフィーによる精製操作を必要とせず、蒸留、再結晶のみで精製することが可能であった。
天然物の全合成には大量に原料を供給する必要があり、このことは非常に優れた点である。
実際、50グラムスケールでも高エナンチオ選択的に生成物を得ることに成功している。ま た得られたシクロプロパン体は結晶性が非常によく、ヘキサン/CH2Cl2を用いて数回の再 結晶操作により光学的に純粋なものとすることができた。その光学純度はHPLC分析によ り100%であることを確認した。
Cl CO2Et SO2Mes
N2
O
Scheme 2.2
72
71 1) diethyl malonate
NaH, NaI, THF 0oC → rt
2) NaCl, H2O DMSO, reflux
1) mesitylmethylsulfon n-BuLi, THF, 0oC 2) TsN3, Et3N CH3CN, rt
N O
N O R1 R1
R2 R2
O
SO2Mes CuOTf (10 mol %)
ligand (15 mol %) toluene
1
a: R1= Me, R2= i-Pr b: R1= Me, R2= Bn c: R1= Et, R2= i-Pr d: R1= Bn, R2= i-Pr
entry 1 2 3 4
ligand
d
temp(oC)
50
time(h)
2
yield(%)
90 a
rt, 50
b 2, 2.5 98
c rt, 50 2, 1.5 94
ee(%)
69 (1R) 87(1R) 98(1R)
50 1 81 (1R) 96
72
Table 2.1
76 77 y. 40%
(2 steps) y. 77% (2 steps)