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インターナル・サービス・リカバリーへのセグメンテーション・アプローチの導入

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(1)

 既存研究の大部分は、サービス・リカバリーを受けた消費者の心理や行動に焦点を当てて きた。一方で、サービス・リカバリーを行うフロントライン従業員(以下「従業員」と表記)

に焦点を当てた研究は少ない。とりわけ、従業員のサービス・リカバリーの実践を支援する 様々な施策(=インターナル・サービス・リカバリー)について、一貫した結果が得られて いない点は、解決すべき重要な課題といえる。本研究では、消費者を対象としたサービス・

リカバリー研究のアプローチを、この課題に援用することを提案する。具体的には、従業員 のセグメンテーションに基づく、インターナル・サービス・リカバリーである。就業者を対 象とする調査を行い、サービス・リカバリーの経験に対する認識に基づき、従業員を 4 つの セグメントに分類した。分析の結果、セグメントごとに効果的なインターナル・サービス・

リカバリーが異なることとともに、今後の課題として、職業属性別の分析を行う必要性など が示唆された。

1 はじめに

 サービス・リカバリー(service recovery)に関する研究の始まりは、リレーションシッ プ・マーケティング論の登場とほぼ同時期の 1980 年代初頭に求められる(Fisk et al. 1993; 

Gilly  and  Gelb  1982)。顧客のロイヤルティを高めるためには、優れたサービス品質を継続 的に提供することが求められるが、実際のサービス提供においては、何らかの失敗がつきも のである。そこで、サービス提供に失敗した場合に、適切な対応をとることの重要性が、実 務家・研究者双方の立場から強調されてきた。そうした対応が「サービス・リカバリー」(i.e. 

苦情対応)である。

 サービス・リカバリーの重要性は、リスクマネジメントの観点からも指摘できる。サービ ス利用の場面で不愉快な経験をした顧客は、ネガティブなクチコミを発信することも少なく ない(Grégoire and Fisher 2006)。ひとたび悪評が拡散されれば、サービス企業にとっては 極めて大きな痛手となる。そのため、大元となるネガティブなクチコミ発信を抑制するとい う目的においても、適切なサービス・リカバリーを実施し、顧客満足を回復させることは重 要なのである。

インターナル・サービス・リカバリーへの セグメンテーション・アプローチの導入

武谷 慧悟

─ 細分化基準としてのサービス・リカバリーの経験に対する認識 ─

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 上記のような背景から、従来のサービス・リカバリーに関する研究の大部分は、消費者を 対象として展開されてきた。具体的な研究課題を列挙すれば、次の通りである。顧客満足を 効果的に回復させるサービス・リカバリーとはどのようなものか(Gilly  1987;  武谷  2015,  2016; Webster and Sundaram 1998)、効果的なサービス・リカバリーの方法は文化によって 異なるのか(Hui  and  Au  2001;  Mattila  and  Patterson2004)、サービス・リカバリーが顧客 満足を回復させるメカニズムとはどのようなものか(小本  2013;  Shoefer  and  Ennew  2005; 

Tax et al. 1998; Blodgett et al. 1997)、サービス・リカバリーによる顧客満足の回復効果は どの程度か(de Matos et al. 2007; Maxham Ⅲ and Netemeyer 2002)、消費者の苦情行動に はどのようなパターンがあるか(Singh 1990; Beverland et al. 2010)、などである。このよ うに、消費者を対象としたサービス・リカバリー研究には、数多くの蓄積がある。

 一方で、サービス・リカバリーを行うフロントライン従業員(以下「従業員」と表記)に 焦点を当てた研究は、極めて限定的である。しかし、従業員を対象としたサービス・リカバ リー研究は、消費者を対象としたサービス・リカバリー研究の知見を生かす上で重要な役割 を担っている。なぜなら、どれほど効果的なリカバリー方法が明らかにされたとしても、実 際にそのリカバリー方法が従業員によって適切に実施されなければ、顧客満足を回復させる ことはできないからである。こうした考え方は、インターナル・マーケティングを通じた、

従業員に対する動機付けや従業員満足の向上こそが、顧客満足や売上の向上につながるとい う「サービス・プロフィット・チェーン(service-profit chain)」の論理(Heskett et al. 1994)

に基づいている。

 実際のサービス・リカバリーの場面において、従業員は自身にサービスの失敗の責任がな い場合であっても、対応しなければならないことが多い。顧客の中には、威圧的な態度で臨 んでくる者もおり、従業員は強い緊張感やストレスにさらされることも少なくない。その結 果、サービス・リカバリーの場面では、本来望ましいとされている丁寧な態度での接遇や、

スピーディーな対応が難しくなることも少なくないと思われる。それゆえ、従業員を対象と したサービス・リカバリー研究によって、従業員のサービス・リカバリーの支援策を明らか にすることは、重要な課題である。

 数少ない既存研究においては、従業員の適切なサービス・リカバリーの実践を担保するた めの施策(e.g.  エンパワーメント、トレーニング)が探索されてきた(Boshoff  and  Allen  2000)。これらの施策は、「インターナル・サービス・リカバリー(internal  service  recov- ery)」と呼ばれている(Bowen and Johnston 1999)。しかし、実証研究の成果については、

研究間で食い違いが見られており、何が従業員のサービス・リカバリーの有効性を高めるの かについて、明確な結論は出ていない。

 そこで、本研究では、これまでに豊富な研究蓄積のある、消費者を対象としたサービス・

リカバリー研究のアプローチを援用し、上述した課題について取り組むための新たな研究の

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方向性を提示したい。具体的には、サービス・リカバリーの経験に対する認識に基づいて、

従業員をセグメンテーションし、どのようなインターナル・サービス・リカバリーがサービ ス・リカバリーの実践に役立ったのかをセグメントごとに比較検討する。

 以下ではまず、先行研究を概観し、従業員を対象としたサービス・リカバリー研究の課題 を確認する。あわせて、セグメンテーションに基づく研究展開の意義についても検討する。

次に、就業者を対象とする調査データを用いた分析を行う。具体的には、サービス・リカバ リーの経験に関する質問への回答傾向に基づいて、調査対象者を 4 つのセグメントに分ける。

そして、クロス集計表における残差分析を通じて、セグメントごとに、効果的なインターナ ル・サービス・リカバリーが異なるかを検討する。最後に、第 4 節では、本研究の成果を要 約するとともに、今後研究を進めるべき重要な課題について議論する。

2 先行研究の検討

2 1 従業員を対象としたサービス・リカバリー研究の課題

 前述のように、サービス・リカバリー研究全体としては、消費者を対象とした研究が中心 であるため、従業員を対象とした研究は限られている。しかしながら、当該領域においては、

従業員による適切なサービス・リカバリーの実践を担保するための先行要因を解明するとい う、重要な課題が探求されてきた。

 Hart  et  al. (1990)は、サービス・リカバリーにおける従業員の重要性を指摘した先駆け と言える。この研究では、従業員に対する十分なトレーニングを行い、顧客の立場に立って 考える力を身につけさせることの重要性とともに、従業員が自律的な判断を下せるよう、エ ンパワーメント(権限委譲、裁量権の付与)を行うことの有効性が指摘された。

 また、Bowen and Johnston (1999)は、従業員のサービス・リカバリーの質に影響を及ぼ し得る様々な施策を、「インターナル・サービス・リカバリー(internal service recovery)」

として概念化した。そして、銀行員 14 名を対象としたデプス・インタビューを基に、「マ ネジャーが従業員に対して共感を示したり、社会的支援を与える」、「従業員を意思決定プロ セスに参加させる」、「従業員に対するエンパワーメントを行う」、「役割の曖昧さをなくす」

「優れたサービス・リカバリーを行った従業員に報酬を与える」、「従業員に回復のための時 間とスペースを与える」、などの具体的施策を提案した。

 定量的アプローチにより、インターナル・サービス・リカバリーの効果を検証した最初の 研究は、Boshoff  and  Allen (2000)である。銀行員 262 名を対象とした調査を行い、「報酬

(rewards)」「チームワーク(teamwork)」「エンパワーメント(empowerment)」「役割の曖 昧さ(role ambiguity)」など 9 つの要因が、従業員のサービス・リカバリーの有効性(=サー ビス・リカバリー・パフォーマンス)(1)にどのような影響を与えるのかを検証した。その結

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果、サービス・リカバリーの有効性に有意な影響を与えていたのは、「エンパワーメント」「組 織コミットメント」「報酬」の 3 つだけであった。

 Boshoff and Allen (2000)の提示した研究枠組みは、当初、基本的にそのままの形で踏襲 されたが(Ashill et al. 2005; Yavas et al. 2003)、近年では、競争気質や自己効力感といっ た従業員自身の特性とサービス・リカバリー・パフォーマンスの関連を検証した研究も行わ れている(Karatepe 2006; Lin 2010)。その他、インターナル・サービス・リカバリーとサー ビス・リカバリー・パフォーマンスの間に、「情緒的消耗感(emotional exhaustion)」や「脱 人格化(depersonalization)」といった媒介変数を設定した研究(Ashill  et  al.  2009)、これ まで先行要因に位置付けていた組織コミットメントを媒介変数に設定した研究(Babakus  et  al. 2003)なども展開されている。

 ただし、先行研究においては、結局のところ、どのインターナル・サービス・リカバリー が有効なのかは明確になっていない。唯一、エンパワーメントに関しては安定的に一貫した 結果が得られているが、「報酬」「トレーニング」「チームワーク」など、先行研究において 有効だと考えられてきた要因については、有意とする結果と有意でないとする結果が混在し ている(図表 1)。

 こうした状況を解決に導く一つの研究方向性として、従業員のセグメンテーションが考え られる。次項では、消費者を対象としたサービス・リカバリー研究おけるセグメンテーショ ンの意義を概観し、そうした研究アプローチを援用することを提案する。

図表 1 従業員を対象としたサービス・リカバリー研究の成果概要

報酬 上司の サポート

組織の顧 客サービ ス志向

エンパ ワーメ ント

トレー ニング

チーム ワーク

組織コ ミット メント

役割 葛藤

役割の 曖昧さ

従業員の 個人的特性 Boshoff & Allen (2000)  n.s. n.s. n.s. n.s. Yavas et al. (2003)  n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. Ashill et al. (2004)  n.s. n.s. n.s. n.s. Ashill et al. (2005)  n.s. n.s. n.s. Karatepe (2006)  n.s. 競争気質◯

内発的動機◯

Yavas et al. (2010)  内発的動機◯

Lin (2010)  自己効力感◯

Karatepe and Karadas (2012)  n.s.

*◯…有意、n.s.…非有意、─…検証なし、網かけ箇所…サービス・リカバリー・パフォーマンスに負の影響 出所:筆者作成

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(1)  「過去に私が対応した苦情顧客は、今日最もロイヤルティの高い顧客の一人だ」などの設問項目によっ

て、従業員自身にサービス・リカバリーの有効性を評価させている。

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2 2 セグメンテーション・アプローチの有効性

 消費者を対象としたサービス・リカバリー研究においては、同じサービスの失敗を経験し ても、消費者によって、苦情行動のパターンや、サービス・リカバリーに対する期待が異な ることが報告されてきた。サービス・リカバリーを行う従業員としては、消費者がサービス の失敗を経験した後、どのような苦情行動をとるのか、また、消費者がどのようなリカバリー を求めているのかを理解することは、効果的なリカバリーを実現する上で極めて重要な課題 である。こうした課題を解決するために導入されたのが、セグメンテーションの考え方であ る。

 Singh (1990)は、苦情行動意図に基づいて、消費者のセグメンテーションを行っている。

分析の結果、消費者は、「消極的な人(Passives)」「発言者(Voicers)」「怒る人(Irates)」

「活動家(Activist)」という 4 つのクラスターに分類され、各クラスターにはそれぞれ固有 の苦情行動パターンが見出された。例えば、「発言者」は、ネガティブなクチコミやメディ アなどの第三者への苦情行動は起こさないが、企業に対する直接的な苦情行動については高 い意図を持っている人々である。彼らは、悪評を広めないため、企業にとって最も望ましい 人々である。一方で、「怒る人」は、企業に対する直接的な苦情行動をとる傾向は平均的で あるものの、友人などへのネガティブなクチコミを積極的に行うという特徴を持っている。

Singh (1990)は、こうした結果に基づいて、「発言者」を増やすための施策として、企業に 役立つ苦情を言ってくれた消費者に報酬を与えることなどを提案している。

 Beverland et al. (2010) は、消費者がサービスの失敗(苦情の原因となる事象)をどのよ うにフレーミングするかによって、その後のリカバリーに対する期待が異なることを、グラ ウンデット・セオリー・アプローチによって明らかにしている。彼らによれば、サービスの 失敗に対するフレーミングには、「タスク・ベースト・フレーム」と「パーソナル・ベースド・

フレーム」があるという。前者を採用している消費者は、サービスの失敗の原因となった出 来事に着目し、それをたまたま起きたことであり、企業にもコントロールできなかったこと とみなす傾向があるため、さほど感情的にはならない。サービス・リカバリーに対しては、

金銭的補償などの実用的成果を得ることを期待し、それが得られれば満足する。一方、後者 を採用している消費者は、サービスの失敗の原因を、従業員やブランドの本質を反映した問 題として、一般化して捉える傾向にある。こうした消費者は、強い不公正感を抱き、自分の 尊厳が傷つけられたと感じている。それゆえ、金銭的補償を提示するとかえって話がこじれ るため、即座に謝罪を行うなど別の対応を実施する必要があると結論している。

 Ringberg  et  al. (2007)は、文化心理学に依拠しつつ、消費者のサービス・リカバリーに 対する期待を規定する文化的認知モデル(cultural  model)を探求している。グラウンデッ ド・セオリー・アプローチによる分析の結果、消費者は自身にとって関与の高いサービスの 失敗が起きた場合、「関係的モデル(relational cultural model)」「敵対的モデル(oppositional 

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cultural model)」「功利的モデル(utilitarian cultural model)」という 3 つのモデルのいずれ かに基づいて、サービス・リカバリーに対する期待を形成することを明らかにした。例えば、

関係的モデルを採用している消費者は、従業員からの誠実な謝罪や気遣いなどを期待するの に対して、功利的モデルを採用している消費者は、金銭的補償などを期待するという。

Ringberg らは、文化的認知モデルが、サービス・リカバリーにおける、有力なセグメンテー ションの基準になると主張した。具体的な活用方法として、3 つのモデルでは、サービスの 失敗に対する反応も異なっているため、従業員はそれを手がかりとして、消費者がどのモデ ルを採用しているのかを判断し、適応的なサービス・リカバリー(adaptive  service  recov- ery)を行うことが有効だと結論した。

 このように、消費者が、サービスの失敗をどのように捉えているのかによって、苦情行動 のパターンやサービス・リカバリーに対する期待は異なっている。これと同じように、従業 員がサービス・リカバリーの経験をどのように捉えているのかによって、組織に期待するイ ンターナル・サービス・リカバリーにも違いがあると考えられる。例えば、サービス・リカ バリーの経験に対して恐怖心を抱いている従業員は、そうでない従業員よりも、同僚や上司 などによる精神的なケアを求めていることが予想される。また、サービス・リカバリーの経 験を顧客との関係性構築のチャンスと捉えている従業員は、そうでない従業員よりも、自身 のスキルを高めるためのトレーニングを期待していることなどが予想される。

 そこで、次節では、就業者を対象としたデータを用いて従業員をセグメンテーションし、

サービス・リカバリーの経験に対する認識とインターナル・サービス・リカバリーの関係性 を探索する。

3 サービス・リカバリー経験に関する探索的分析

3 1 調査概要

 ここでは、顧客との直接的な相互作用を主な業務とする従業員を対象として、分析を行う。

使用するデータは、首都 30km 圏内在住の男女 750 名を対象とした訪問留置法による調査 データ(吉田秀雄記念事業財団オムニバス調査)のうち、次の 4 つの条件を満たした 142 名分のデータである。4 つの条件とは、①現役の就業者であること、②就業時間の 50%以 上が顧客との接触で占められていること、③顧客との主な接触手段が電話や E メールでは なく直接対面であること、④これまでに苦情を受けた経験があること、である。先行研究の 多くは、銀行員や医療関係者など、直接対面での顧客接点を多く有する従業員を分析対象と してきたため、上記②と③の条件を加味することで、先行研究との間に一定の一貫性を担保 できると考えられる(2)。ただし、現役の就業者の中には、会社員のみならず、自営業やパー ト・アルバイトも含めている。

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 分析に使用する質問項目は、デモグラフィック属性(性別・年代)のほか、職業属性(業 種、勤続年数、雇用形態、業務時間に占める顧客との接触時間の割合、顧客との主な接触手 段、苦情対応(3)の経験回数)、苦情対応に対する認識(お客さんから苦情を言われた時に感 じた気持ちや考えたこと)、苦情対応時に役立ったこと(苦情対応を行った際に役立ったり、

心の支えになったもの)である。

 業種は、経済産業省(2015)の「平成 26 年特定サービス産業実態調査(確報)」と Lovelock 

(1983)を参照して、サービス業を中心に 20 項目を作成した(うち 1 項目は「その他」)。

勤続年数は、「6 ヶ月未満」から「31 年以上」までの 10 段階で設定した。業務時間に占め る顧客との接触時間の割合は、「0%」から「90%〜 100%」の 6 段階で尋ねている。雇用形 態は、「会社役員」「会社員(管理職)」「会社員(事務系)」「会社員(労務系)」「商工サービ ス自営業」「自由業(弁護士など)」「パート・アルバイト」の 7 カテゴリーである。また、

業務における顧客との主な接触手段についても尋ねており、「直接対面」「電話」「E メール」

「FAX」「手紙」「その他」という 6 つの選択肢から 1 つ選んで回答してもらっている。苦情 対応の経験回数は、「0 回」から「11 回以上」の 8 段階で尋ねている。

 業務時間に占める顧客との接触時間の割合・主な接触手段・苦情対応の経験回数の 3 項目 については、先述の条件(接触時間の割合が 50%以上、主な手段が直接対面、苦情対応の 経験回数が 1 回以上)を満たしたサンプルのみが分析対象とされる。

 なお、所属部署については、本調査では聴取していない。その理由は 3 つである。第一に、

部署名は企業によって様々であり、質問項目を作成するのが難しいためである。第二に、同 じ名前の部署であっても、業務内容が企業間で異なることがあるためである。第三に、同一 企業内で同一部署に所属している場合であっても、個人間で業務内容が異なるケースもある ためである。以上 3 点を踏まえ、所属部署ではなく、業務時間に占める顧客との接触時間の 割合・主な接触手段という基準によって、分析対象とするサンプルを選定するほうが望まし いと考えた。

 苦情対応に対する認識(20 項目)と苦情対応時に役立ったこと(10 項目)については、

当てはまる項目すべてを選んでもらう、無制限複数回答の形式をとった。苦情対応に対する 認識については、先行研究において該当する質問項目が十分見つけられなかったため、苦情 対応に関する一般書籍や就業者を対象としたインフォーマルな意見聴取を参考にして作成し た。また、苦情対応時に役立ったこと(=インターナル・サービス・リカバリー)に関して は、Bowen and Johnston (1999)と Boshoff and Allen (2000)を参考に、執筆者自身の関心

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(2)  Boshoff  and  Allen (2000)では、業務時間の過半(majority)を顧客との直接的な相互作用に費やして いる人々をフロントライン従業員としており、本稿もそれに倣っている。

(3)  一般の人々にとって、「サービス・リカバリー」という用語は馴染みがないと考えたため、調査票では

「苦情対応」と表現した。以降の文章では「苦情対応」と「サービス・リカバリー」を同義語として扱う。

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項目も加えて作成した。なお、ここでの目的は、苦情対応の経験全般について尋ねることで あるため、苦情対応に対する認識について回答する際に、特定の苦情対応の事例を想起する ような指示はしていない。

 次項ではまず、単純集計に基づき、就業者がどのようにサービス・リカバリーの経験を認 識しているのかを検討する。

3 2 単純集計

 まず、回答者のデモグラフィック属性について報告する。性別は、男性が 58 名(40.2%)、

女性が 84 名(59.2%)とやや女性比率が高い。年齢を見ると、20 代が 35 名(24.6%)、30 代が 37 名(26.1%)、40 代が 39 名(27.5%)、50 代が 28 名(19.7%)、60 〜 65 歳が 3 名(2.1%)

となっており、60 代を除く各世代がバランスよく揃っている。

 次に、回答者の職業属性について報告する。業種では、「卸・小売業」が 34 名(23.9%)

と最も多く、それに「宿泊・飲食サービス業(24 名、16.9%)」「医療・福祉サービス業(21 名、14.8%)」と続く(業種の詳細については、Appendix1 を参照)。勤続年数に関しては、「3 年未満」が 45 名(31.7%)、「3 年〜 10 年」が 49 名(34.5%)、「11 年以上」が 48 名(33.8%)

と、新人・中堅・ベテランの三層がほぼ同じ比率で揃っている。雇用形態は、「会社役員」「会 社員(管理職)」「会社員(事務系)」「会社員(労務系)」の 4 カテゴリーを統合した「会社員」

が 67 名(47.2%)、「自営業」が 15 名(10.6%)、「パート・アルバイト」が 60 名(42.3%)

となっており、「自由業」に該当する人はいなかった。また、業務時間に占める顧客との接 触時間の割合は、「90 〜 100%」が 58 名(40.8%)で最多であり、「70 〜 89%」と「50 〜 69%」がそれぞれ 45 名(31.7%)、39 名(27.5%)と続いた。最後に、苦情対応の経験回 数では「11 回以上」という回答が 57 名(40.1%)で最多であり、その他は「4 回」という 回答が 3 名(2.1%)と少ない他は、1 回から 6 〜 10 回までほぼ均等に分布している。

 続いて、「苦情対応に対する認識」と「苦情対応時に役立ったこと」の単純集計を見てい きたい(質問文・質問項目の詳細については、Appendix2 を参照)。

 まず、「苦情対応に対する認識」の単純集計から確認する(図表 2)。上位には、「自分な ら従業員に対してこんな態度はとらない」「お客さんに対して申し訳なく思う」「苦情をうま く解決して、お客さんとより良い関係を築きたい」「腹が立つ」といった項目が並んだ。顧 客が苦情を申し立てる際の態度について批判的に捉えている従業員が多い一方で、「申し訳 なく思う」という反省の念を抱いたことのある従業員も多いことがわかる。興味深いのは、

苦情解決を機に「より良い関係を築きたい」といった挽回の気持ちを抱く従業員が多いこと である。類似する項目として、苦情をうまく解決すれば、「職業人として一皮むけそう」「周 囲からの評価が上がる」があり、苦情対応が従業員にとって何らかの機会としても認識され ていることがわかる。他方、比率こそ少ないものの、「心を病みそうだ」「この仕事を辞めた

(9)

い」といった、精神的に衰弱した経験がある人もいる点には注意を払う必要がある。

 次に、「苦情対応時に役立ったこと」について、単純集計を確認する(図表 3)。上位を占 めたのは周囲の人々からの励ましやサポートであった。Bowen and Johnston (1999)などで 言及されてきた「上司」からのサポートだけでなく、「同僚」や「家族や友人、恋人」から 励ましやサポートについても、役立ったと思う人が多いことがわかった。また、これまでの 研究においては、ほとんど検証の対象となってこなかった「自分の仕事への愛着やこだわり」

「1 人になれるスペースや時間」といった項目にも、全体の 2 割前後で役立ったという声が 上がった。一方で、先行研究で頻繁に言及されてきた「エンパワーメント(=自分に判断を 任せてもらえたこと)」や「トレーニング(=職場の研修やトレーニング)」を役立ったと回

図表 2 苦情対応に対する認識の単純集計

 出所:筆者作成

図表 3 苦情対応時に役立ったこと

     出所:筆者作成

(10)

答した人は、比較的少なかった。

  次項では、「苦情対応に対する認識」「苦情対応時に役立ったこと」と職業属性の関連性に ついて、詳細な分析を加える。

3 3 職業属性とのクロス集計

 ここからは、業種以外の職業属性(4)(勤続年数・雇用形態・業務時間に占める顧客との接 触時間の割合・苦情対応の経験回数)と、「苦情対応に対する認識」「苦情対応時に役立った こと」のクロス集計に基づき

2検定及び残差分析を行い、それら両方において 5%水準で 有意差が見られた分析結果を報告する。分析結果の要約は図表 4 のとおりである。

 はじめに、「苦情対応に対する認識」と職業属性の関連性について述べる。「勤続年数」に ついては、「自分たちの企業には何らかの改善が必要だ」と「この仕事を辞めたい」の 2 項 目で有意差が確認された。「改善が必要だ」という項目に関しては、勤続 3 年未満の新人層で、

当てはまると回答した人が有意に少なかった。反対に、「この仕事を辞めたい」という項目 について当てはまると回答した人は、新人層に有意に多かった。これらの結果からは、職務 経験の浅い頃には、苦情対応からネガティブな影響を受けやすく、自社のサービス改善まで は意識が回らない傾向が示された。

 「雇用形態」については、「腹が立つ」という項目について、会社員やパート・アルバイト と比較して、自営業者に当てはまると回答した人が多かった。しかし、その他の項目では 5%

水準での有意差は見られず、全体として雇用形態と苦情対応の経験に対する認識との関連性 は低いことが推測される。

 「顧客との接触時間の割合」は、「50 〜 89%接触」と「90%以上接触」の 2 カテゴリーに 分けて分析を行った。その結果、「お客さんに対して申し訳なく思う」「この仕事を辞めたい」

という 2 項目で有意差が確認された。いずれも、「90%以上接触」で当てはまると回答した 人が多く、頻繁に顧客と接触する人々ほど、顧客に対する同情や離職意図が強まる可能性が 示唆された。

 「苦情対応の経験回数」についても、「1 回〜 10 回経験」と「11 回以上経験」の 2 カテゴリー に分けて分析を行った。その結果、「自分なら従業員に対してこんな態度はとらない」「お客 さんの状況に同情する」「仕事に対するやる気がなくなりそうだ」という 3 項目で有意差が 確認された。「自分なら従業員に対してこんな態度はとらない」という項目については、苦 情対応の経験回数が 1 回〜 10 回経験の人々で有意に多く、残り 2 項目については 11 回以

───────────

(4)  サンプルサイズが 142 名と小規模であるため、カテゴリー数が 20 の業種の場合、1 セルあたりのサン

プルサイズが極端に小さくなり、2検定の結果の信頼性が担保できない。それゆえ、「業種」は分析対

象としていない。

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上経験の人々で有意に多かった。一般に、苦情対応の経験回数が多いほど、様々なタイプの 顧客に接する機会が多くなる。それゆえ、11 回以上経験のグループのほうが「自分なら従 業員に対してこんな態度はとらない」と答える人は多くなると予想されるが、分析結果は逆 であった。分析結果に対する解釈には幾つかの可能性があるものの、苦情対応の経験が浅い うちは、顧客に対する同情よりも、顧客が苦情を申し立てる態度に注意がいき、それを批判 的に捉える傾向があるのかもしれない。

図表 4 苦情対応に対する認識と職業属性の関連性 

職業属性 苦情対応に対する認識

勤続年数 ・「改善が必要だ」が新人層に少ない

・「仕事を辞めたい」が新人層に多い 雇用形態 ・「腹が立つ」が自営業者に多い

接触時間の割合 ・ 「申し訳なく思う」「仕事を辞めたい」が90%以上接触の人に多い

苦情対応の経験回数 ・ 「自分なら従業員に対してこんな態度はとらない」が110回経験の人々に多い

・ 「同情する」「やる気がなくなりそう」が11回以上経験の人に多い 出所:筆者作成

 次に、先ほどと同様の分析手法によって、「苦情対応時に役立ったこと」と職業属性との 関連性を分析した結果を報告する(分析結果の要約は図表 5 に記載)。「勤続年数」について は、いずれの項目についても有意差は確認されなかった。つまり、苦情対応時に役立ったこ とについては、新人・中堅・ベテラン間で違いがないことがわかった。

 「雇用形態」に関しては、「同僚からの励ましやサポート」「上司からの励ましやサポート」

「職場の研修やトレーニング」「自分の仕事への愛着やこだわり」「自分に判断を任せてもら えたこと」の 5 項目で違いが見られた。「同僚からの励ましやサポート」について役立った とする声は、自営業者で少ない一方、パート・アルバイトで多かった。「上司からの励まし やサポート」に関しては、自営業者で役立ったとする回答が少なかった。「職場の研修やト レーニング」に関して役立ったとする声は、会社員に多く、パート・アルバイトで少なかっ た。「自分の仕事への愛着やこだわり」については、会社員が少なく、自営業者が多かった。

最後に、「自分に判断を任せてもらえたこと」については、会社員に役立ったとする声が多 く、パート・アルバイトで少なかった。総合すると、会社員にとっては職場の研修や自分に 判断を任せてもらえたことが、自営業者にとっては自分の仕事への愛着やこだわりが、パー ト・アルバイトにとっては同僚からの励ましが、苦情対応を行う上で役立ったとする傾向が 明らかとなった。

 「顧客との接触時間の割合」については、「1 人になれるスペースや時間」「職場の研修や トレーニング」の 2 項目で有意差が確認された。前者は 90%以上接触の人々に多く、後者 は 50 〜 89%接触の人々に多かった。日頃からかなり高い頻度で顧客対応をしている人に

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とっては、それ自体が研修やトレーニングの役割を果たしているため、むしろ一人になれる 時間を取れることのほうが苦情対応を行う上では有用なのかもしれない。

 「苦情対応の経験回数」では、11 回以上経験の人々で、「職場の研修やトレーニング」を 役立ったとする声が多かった。図表 1 に示したように、職場の研修やトレーニングについて は、既存研究においても効果があるという結果が少なかったが、苦情対応の経験が豊富な 人々にとっては役立つと認識されていることが明らかになった。

 ここまでで、苦情対応の経験について従業員がどのような認識を持っているのか、また、

苦情対応時にどのような施策が役立ったと考えられているのかについて、単純集計とクロス 集計に基づいて分析を行ってきた。その結果、勤続年数や雇用形態によって、苦情対応の経 験に対する認識などには違いが見られることが明らかとなった。とりわけ職業属性と苦情対 応時に役立ったこととの関連性についての検討は、従業員を十把一絡げに捉えてインターナ ル・サービス・リカバリーの効果を検証してきた既存研究に対しても、新たな示唆をもたら すと思われる。

 しかし、勤続年数や雇用形態などが同じであっても、苦情対応への向き合い方や苦情対応 時に役立ったことが同じとは限らない。消費者を対象としたサービス・リカバリー研究から 示唆されるように、苦情対応の経験をどのように認識しているかによっても、インターナ ル・サービス・リカバリーの選好にも差異が見られる可能性があるためである。そこで、次 項では、苦情対応の経験に対する認識に基づいて従業員をセグメンテーションし、苦情対応 時に役立ったこととの関連性を検討する。

図表 5 苦情対応時に役立ったことと職業属性の関連性

職業属性 苦情対応時に役立ったこと

勤続年数 ・有意な関連性はなし

雇用形態

・会社員では「職場の研修」「自分に判断を任せてもらえたこと」が多い

・自営業者では「自分の仕事への愛着やこだわり」が多い

・パート・アルバイトでは「同僚からの励まし」が多い 接触時間の割合 ・「一人になれる時間やスペース」は90%以上接触の人に多い

・「職場の研修やトレーニング」は5089%接触の人に多い 苦情対応の経験回数 ・「職場の研修やトレーニング」は11回以上経験の人々に多い 出所:筆者作成

3 4 苦情対応に対する認識に基づく調査対象者の類型化

 苦情対応に対する認識に関する 19 の質問項目(5)の反応値に基づき、調査対象者を類型化

───────────

(5)  「その他」という質問項目を分析対象から除いた。

(13)

する。分析対象となるデータが、「当てはまる」「当てはまらない」の二値変数であるため、

ピアソンの積率相関係数行列を用いた因子分析の代わりに、カテゴリカル因子分析によって 因子得点を算出し、それに基づいて非階層クラスター分析(k-means 法)を行う。カテゴリ カル因子分析にはいくつかの方法があるが(服部 2010)、ここではポリコリック相関係数行 列を用いた因子分析(最小残差法、プロマックス回転)を行う。分析には、統計ソフト「R」

の「psych」パッケージを用いた(Ravelle 2017)。

 分析結果は図表 6 の通りである。3 因子はそれぞれ、「ネガティブ感情」「反省・挽回」「顧 客態度の批判的観察」と解釈した。「ネガティブ感情」と「顧客態度の批判的観察」が 0.24 という弱い正の相関を示している一方、「顧客態度の批判的観察」と「反省・挽回」の間に はほとんど相関は見られなかった。また、「反省・挽回」と「ネガティブ感情」の間には、

0.11 という負の弱い相関が見られた。

 なお、分散分析の結果、3 因子いずれについても、4 つの職業属性(勤続年数・雇用形態・

顧客との接触時間の割合・苦情対応経験)間で有意差は認められなかった。

図表 6 カテゴリカル因子分析の結果

因子負荷量

共通性

質問項目 ネガティブ

感情 反省・挽回 顧客態度の 批判的観察

理不尽だ 0.86 0.21 ‑0.03 0.73

仕事に対するやる気がなくなりそうだ 0.8 0.07 0.03 0.64

自分の人格を否定されているようだ 0.72 0.11 ‑0.11 0.49

腹が立つ 0.68 ‑0.09 0.23 0.61

心を病みそうだ 0.68 ‑0.45 ‑0.05 0.72

仕事に対する思い入れがなくなりそうだ 0.62 0.25 0.38 0.66

この苦情をうまく解決できれば、自分は職業人として一皮むけそうだ ‑0.2 0.85 0.28 0.83

お客さんに対して申し訳なく思う 0.1 0.7 ‑0.16 0.51

この苦情をうまく解決して、お客さんとより良い関係を築きたい ‑0.28 0.7 ‑0.07 0.62

お客さんの状況に同情する 0.26 0.67 ‑0.17 0.5

自分たちの企業には何らかの改善が必要だ 0.21 0.5 ‑0.19 0.3

自分がお客さんの立場だったら、相手(従業員)に対してこんな態度はとらない ‑0.08 ‑0.03 0.91 0.79 お客さんはクレームをつけるのを楽しんでいる 0.08 ‑0.25 0.73 0.65

お客さんは自分に対して偉そうにしている 0.39 0.02 0.63 0.67

因子負荷量平方和 3.68 2.8 2.24

累積寄与率 26% 46% 62%

出所:筆者作成

 次に、因子得点に基づき、回答者のクラスタリングを行った。分析の結果、解釈のしやす さから 4 クラスター解を採用した。各クラスターの因子得点を示したものが図表 7 である。

(14)

3 つの因子得点を従属変数とした分散分析では、すべての場合において 0.1%水準での有意 差が認められ、かつ効果量

2の値も 0.64 〜 0.55 と高く、クラスターによって従属変数の 分散が十分に説明できていることを確認した。

 また、クラスターとデモグラフィック属性・職業属性・苦情対応に対する認識のクロス集 計を作成し、

2検定および残差分析を実施した結果が図表 8 である。この図表からまず明 らかなのは、「苦情対応経験の回数」以外では、デモグラフィック属性・職業属性ともに、

クラスター間での有意差は見られないことである。以下では、図表 7 と 8 に基づいて、各 クラスターの特徴を確認していく。

 第 1 クラスターは、「顧客態度の批判的観察」の因子得点が高い。具体的には、「お客さん はクレームを楽しんでいる」「お客さんは偉そう」「自分だったら従業員に対してこんな態度 はとらない」といった質問項目に対する反応が多く、サービス・リカバリーにおいて、顧客 の態度を批判的な視点から捉える傾向が強い点に特徴がある。反面、「ネガティブ感情」及 び「反省・挽回」は低く、苦情解決を機に「顧客とより良い関係を築きたい」「職業人とし て一皮むけそう」といったポジティブな姿勢も弱い。苦情対応を 11 回以上経験したことの ある人々の割合が、他のクラスターに比べて少ない点にも特徴がある。前項の分析では、苦 情対応を 11 回以上経験したことのある人々に比べ、1 〜 10 回の経験しかない人が、「自分 なら従業員に対してこんな態度はとらない」と回答する傾向が多かった。この分析結果を踏 まえると、第 1 クラスターには、苦情対応の経験が比較的浅く、顧客に対して批判的な目を 向ける人が多いといえる。以上より、第 1 クラスターは「未熟層」と名付けた。クラスター を構成する人数は、全体の 41 人(28.9%)と二番目に多い。

 第 2 クラスターは、第 1 クラスターと同じく、「顧客態度の批判的観察」の因子得点が高く、

「反省・挽回」の因子得点は低い。ただし、第 1 クラスターとは異なり、「ネガティブ感情」

の因子得点が突出して高いという特徴がある。具体的な質問項目を見ると、「お客さんは偉 図表 7 因子得点のクラスター間比較

ネガティブ感情 反省・挽回

顧客態度の批判的観察

1 2 3 4

3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5

出所:筆者作成

(15)

そう」「自分だったら従業員に対してこんな態度はとらない」といった項目に加え「人格を 否定されているようだ」「理不尽だ」「腹が立つ」「怖い」といった項目についても当てはま ると回答した人が、他のクラスターと比較して有意に多い。これらの特徴を踏まえ、第 2 ク ラスターを「赤信号層」と名付けた。クラスターを構成する人数は 14 名(9.9%)と、全体 で最も少ない。

 第 3 クラスターは、「ネガティブ感情」「反省・挽回」「顧客態度の批判的観察」、いずれの 因子得点も低く、サービス・リカバリーの経験について、特段感想を抱いていない人々であ

図表 8 クラスター間比較

クラスター 未熟層 赤信号層 無関心層 前向き層

構成人数(比率) 41

(28.9%)

14

(9.9%)

66

(46.5%)

21

(14.8%)

デモグラフィック 属性

女性比率 63.4% 64.3% 60.6% 42.9%

年代 3.54 3.79 3.41 3.43

職業属性

勤続期間(3年未満) 34.1% 28.6% 34.8% 19.0%

勤続期間(310年) 36.6% 42.9% 28.8% 42.9%

勤続期間(11年以上) 29.3% 28.6% 36.4% 38.1%

雇用形態(会社員) 36.6% 42.9% 45.5% 76.2%

雇用形態(自営業) 12.2% 14.3% 9.1% 9.5%

雇用形態(パート・アルバイト) 51.2% 42.9% 45.5% 14.3%

業務時間に占める顧客接点の割合(90100%) 29.3% 42.9% 51.5% 28.6%

苦情対応の経験回数(11回以上) 24.4% 64.3% 39.4% 57.1%

苦情対応に 対する認識

苦情を申し立てる相手を間違えている

クレームを楽しんでいる (++) (−−)

お客さんは偉そう (++) (++) (−−)

自分だったらこんな態度は取らない (++) (++) (−−)

人格を否定されているようだ (++)

理不尽だ (++) (−−)

腹が立つ (++) (−−)

怖い (++) (−−)

お客さんの状況に同情する (−−) (++)

申し訳なく思う (−−) (++)

自分の立場もわかってほしい

自分たちの企業には改善が必要 (−−) (++)

この仕事を辞めたい

心を病みそうだ (++) (−−)

やる気がなくなりそう (−−) (++) (−−)

思い入れがなくなりそう (++) (−−)

職業人として一皮むけそう (−−) (−−) (++)

より良い関係を築きたい (−−) (−−) (++)

周囲からの評価が上がる (−−) (++)

2値及び調整済み標準化残差がともに 5%水準で高いセルに(++)を、低いセルには(−−)をつけている。また、

網掛けのセルは、4 クラスターの中で 5%水準で有意に割合が小さいことを示す。なお、年代のみ分散分析による検定 を行っている(20 代:2 〜 60 代:6 の 5 段階で聴取)。

出所:筆者作成

(16)

る。それゆえ、第 3 クラスターは「無関心層」と命名した。クラスターを構成する人数は 66 名(46.5%)と最多である。

 第 4 クラスターは、「反省・挽回」の因子得点が際立って高く、第 1・第 2 クラスターと は対照的に、「ネガティブ感情」や「顧客態度の批判的観察」の因子得点は低い。つまり、サー ビス・リカバリーに関するネガティブな経験が少ない、またはサービス・リカバリーの経験 をネガティブに解釈する傾向が低く、むしろサービス・リカバリーを機に「改善」の必要性 を感じたり、「顧客とより良い関係」を築いたり、「職業人として一皮むける」ためのチャン スとして捉える傾向がある。以上の特徴より、第 4 クラスターは「前向き層」と命名した。

苦情をきっかけとして、成長を志向するこのクラスターの人々は、企業にとって重要な人々 だと思われる。クラスターを構成する人数は 21 名で、全体の 14.8%である。

3 5 インターナル・サービス・リカバリーに関するクラスター間比較

 続いて、クラスターごとに、苦情対応時に役立ったこと(インターナル・サービス・リカ バリー)を比較すべく、クロス集計表を作成し、先ほどと同じ手順で分析を行った(図表 9)。

その結果、事前の想定通り、クラスター間での差異が確認された。

 まず、「赤信号層」においては、「1 人になれるスペースや時間」が多くの票を得ていた。

当該クラスターは、ネガティブ感情や顧客態度の批判的観察の因子得点が高く、サービス・

リカバリーに際して感じているストレスも大きいことが推測される。1 人の時間や空間を確 保することは、こうしたストレスに向き合うために有効なのかもしれない。

 また、「前向き層」においては、「研修やトレーニング」と「判断の裁量権(=エンパワー

図表 9 インターナル・サービス・リカバリーに関するクラスター間比較

クラスター 未熟層 赤信号層 無関心層 前向き層

構成人数(比率) 41

(28.9%)

14

(9.9%)

66

(46.5%)

21

(14.8%)

サービス・リ カバリーに役 立ったこと

同僚からの励ましやサポート 上司からの励ましやサポート 家族などからのサポート

1人になれるスペースや時間 (++)

周囲の人間からの期待や評価 賃金などの報酬

研修やトレーニング (++)

仕事への愛着やこだわり

判断の裁量権 (++)

2値及び調整済み標準化残差がともに 5%水準で高いセルに(++)をつけている。

出所:筆者作成

(17)

メント)」を役立ったと考えている人が他のクラスターと比較して有意に多かった。つまり、

サービス・リカバリーの経験を、顧客との関係構築や自身の職業人としての成長、周囲から の評価を上げる機会というポジティブな意味で捉えている人々にとっては、そうした機会を 十分に生かすために、自身のスキルを高めるトレーニングや、自身の判断でリカバリーを行 わせてもらえるエンパワーメントが重要だと解釈できる。

 このように、従業員のサービス・リカバリーの経験に対する認識と、インターナル・サー ビス・マーケティングへの評価の間には、一定の関連性があることが確認できた。ただし、

ここで見出された結果は、前項までで見てきた職業属性に関する分析結果によって、ある程 度説明が可能であるかもしれない。例えば、「研修やトレーニング」と「判断の裁量権」を 役立ったとする前向き層では、統計的な有意差こそ確認できなかったものの、会社員の割合 が高い(図表 8)。このことは、図表 5 に示したように、会社員が「研修やトレーニング」

と「判断の裁量権」を役立ったとする傾向があることと整合している。この点については、

次節において、今後の研究課題の一つとして再度論じる。

3 6 サービス・リカバリーの経験に対する認識を形成する要因

 最後に、サービス・リカバリーの経験に対する認識がどのような要因によって形成される のかを検討すべく、デモグラフィック属性(男性ダミー、年代)と職業属性(勤続年数、自 営業ダミー、パート・アルバイトダミー、業務時間に占める顧客との接触時間の割合、苦情 対応の経験回数)と因子得点(従属変数に用いたもの以外の 2 つ)を説明変数(6)、因子得 点(説明変数に用いたもの以外)を従属変数とする回帰分析(ステップワイズ法)を実施し (7)

 その結果、「ネガティブ感情」に関しては、苦情対応の経験回数と顧客態度の批判的観察 がそれぞれ正の影響(

= .249, 

.000; 

= .346,  = .002)を、反省・挽回が負の影響

=

.213,  = .006)を及ぼしていた(調整済み R

2= .186)(8)。また、「反省・挽回」につい ては、苦情対応の経験回数が正の影響(

=.179,  = .033)を、ネガティブ感情が負の影響

=

.226  < .000)を及ぼしていた(調整済み R

2= .054)。「顧客態度の批判的観察」には、

ネガティブ感情が正の影響(

= .342  < .000)を、男性ダミーと顧客接触頻度がそれぞれ 負の影響(

=

.196,  = .012;  

=

.177  = .025)を及ぼしていた(調整済み R

2= .160)。

 全体を通した傾向として、「苦情対応の経験回数」が、サービス・リカバリーの経験に対

───────────

(6)  勤続年数と苦情対応の経験回数に関しては中心化してある。

(7)  回帰式における最大 VIF(分散拡大係数)は、「ネガティブ感情」を従属変数とした場合が 1.026、「反

省・挽回」を従属変数とした場合が 1.037、「顧客態度の批判的観察」を従属変数とした場合が 1.019 と、

いずれも多重共線性の目安となる 10 を下回っている。

(8) はいずれも標準化偏回帰係数を意味する。

(18)

する認識の形成に影響を及ぼしているということが確認できた。これは、苦情対応の経験回 数が多いほど、色々なタイプの苦情を受け、様々な心境を経験していることに由来すると考 えられるため、当然の結果と捉えることができる。重要なのは、苦情対応の経験回数を統制 した場合に、他のどの変数が認識の形成に影響しているかが明らかになったという点であ る。例えば、「性別」は、「顧客態度の批判的観察」には影響を及ぼしているものの、他の因 子には影響していない。また、苦情対応に対する認識間にも何らかの因果関係がある可能性 も示唆された。

 ただし、いずれの回帰式においても、調整済み決定係数(R2)があまり大きくない点には 注意しなければならない。このことは、ここで検討した以外の要因が、サービス・リカバリー の経験に対する認識の形成に作用していることを示唆している。この点については、次節に おいて、今後の研究課題として論じたい。

4 おわりに

4 1 本研究のまとめ

 サービス・リカバリーに関する研究は、1980 年代初頭より継続され、今日までに数多く の成果を残してきた。ところが、サービス・リカバリーを受ける側である、消費者の心理や 行動に焦点を当てた研究がほとんどを占めており、サービス・リカバリーを行う従業員に焦 点を当てた研究はわずかであった。

 従業員を対象とした数少ない研究においては、従業員のサービス・リカバリーを支援する 施策、すなわちインターナル・サービス・リカバリーの効果を検証することが中心的な課題 であった。消費者を対象としたサービス・リカバリー研究によって、効果的なサービス・リ カバリーの方法が明らかになったとしても、実際にそれを行うのは従業員である。したがっ て、従業員によるサービス・リカバリーの適切な実践を支援するための研究は、効果的なリ カバリー方法に関する既存研究の知見を実践に生かすという意味において、極めて重要であ る。ところが、複数の実証研究で得られた結果には一貫性が欠けており、どの施策が従業員 のサービス・リカバリーを支援するのに有効かは、明らかになっていないという課題が残さ れていた(図表 1)。

 こうした課題に対して、本研究では、消費者を対象としたサービス・リカバリー研究のア プローチの援用を提案した。すなわち、従業員のセグメンテーションに基づくインターナ ル・サービス・リカバリーである。消費者を対象とした研究に倣い、サービス・リカバリー の経験に対する認識に基づいて、従業員をセグメンテーションすることで、セグメントごと に有効なインターナル・サービス・リカバリーを明らかにできると考えたのである。

 本研究ではその考えを、就業者(=フロントライン従業員)を対象とした調査データに基

(19)

づき検討することを試みた。はじめに、「苦情対応に対する認識」と「苦情対応時に役立っ たこと」についての単純集計を見たところ、前者については、「自分なら従業員に対してこ んな態度はとらない」「申し訳なく思う」「腹が立つ」といった項目のほか、苦情解決を機に

「より良い関係を築きたい」といった挽回の気持ちを抱く従業員が多いという、興味深い結 果が確認できた(図表 2)。また、後者については、「裁量権を与えること(=エンパワーメ ント)」を役立ったとする声は比較的少なく、代わりに上司や同僚、友人といった周囲の人々 からの励ましやサポートを支持する声が多いことが分かった(図表 3)。

 「裁量権を与えること(=エンパワーメント)」は、Boshoff and Allen (2000)をはじめと する数多くの既存研究で、唯一一貫して有効性が確認されてきた変数であるため、本研究に おいてそれを支持する声が少なかったのは想定外の発見といえよう。また、Bowen  and  Johnston (1999)によって有効なインターナル・サービス・リカバリーだと主張された「一 人になれる時間やスペース」については、後続の研究においてその有効性が検証されないま まになっていたが、本研究では「裁量権を与えること(=エンパワーメント)」以上に役に 立ったという声が多く挙げられていた。今後、日本人を対象とする研究を進める上では、「一 人になれる時間やスペース」の有効性についても、厳密な手続きに基づいた調査が必要であ ろう。

 次に、「苦情対応に対する認識」と「苦情対応時に役立ったこと」について、職業属性に よる違いが見られるかを検討すべく、クロス集計に基づく

2検定及び残差分析を実施した。

先行研究では、サンプルに含まれている人々の雇用形態が明示されていなかったり(Boshoff  and  Allen  2000)、フルタイム労働者とパートタイム労働者が混在していたり(Ashill  et  al. 

2005)するなど、職業属性による違いが考慮されないまま分析が行われてきた。しかし、

本研究における分析では、勤続期間や雇用形態などの違いによって、苦情対応についてどう 認識しているのか、または苦情対応時に何が役に立ったと考えているのかに差異があること が明らかとなった(図表 4 と 5)。こうした結果を踏まえると、今後のインターナル・サー ビス・リカバリー研究においては、雇用形態別・勤続年数別にサンプルを収集し、分析を行 う必要があるといえよう。

 第 3 節 3 項と 4 項では、本研究の主目的である、サービス・リカバリーの経験に対する 認識に基づく従業員のセグメンテーションを行った。はじめに、カテゴリカル因子分析を行 い、苦情対応に対する認識の 19 項目の設問を 3 因子に集約した(図表 6)。そして、3 因子 を用いたクラスター分析の結果、従業員は次の 4 つのセグメントに分類された。①顧客態度 への批判的観察の因子得点が高く、苦情対応経験が豊富な人々の少ない「未熟層」、②顧客 態度への批判的観察のみならずネガティブ感情の因子得点も高い「赤信号層」、③サービス・

リカバリーの経験について特段感想を持っていない「無関心層」、④反省・挽回の因子得点 が際立って高い「前向き層」の 4 つである(図表 7 と 8)。

参照

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