Abstract
This is 29th Olympic Games since the 1st Olympic Game was held in Athens in 1896.
China, the host country and total 11 teams, Japan, North Korea, Nigeria, U.S.A., Canada, Argentina, Brazil, New Zealand, German, Norway, and Sweden that got through a qualifying league in each continental took a spot for this Olympic Games. These 12 teams were divided into 3 groups, 4 teams for each, and played for a qualifying league. Total 8 teams, top 2 teams in each league and top 2 teams in 3rd team of each league went to the final round.
Japan women s national team Nadeshiko Japan won the fourth prize in Beijing Olympic, which was a remarkable progress in the history of Japan women s soccer. This big step exceedingly contributed to women s soccer in Japan being popular.
This paper focused on 4 factors, Analysis , Goal setting , Preparation , and Preparedness , to explore why Nadeshiko Japan took 4th place in Beijing Olympic.
Key words:Goal setting, Preparation, Analysis, Readiness, Global, Standard.
第29回オリンピック競技大会(2008/北京)報告書
「なでしこジャパンはなぜ4位になれたのか」
望月 聡1)
2008 Beijing Olympic report
〜Why Nadeshiko Japan took the 4th place?〜
Satoru MOCHIZUKI
1)競技スポーツ学科
1.はじめに
今回で29回目を迎えた2008年北京オリンピ ック競技大会。女子サッカー(なでしこジャ パン)は他競技よりはやく,8月6日に始ま った。試合会場は,秦皇島,上海,北京が舞 台となった。
2.大会概要
各大陸の予選を勝ち抜いてきた11カ国(日 本,北朝鮮,ナイジェリア,アメリカ,カナ ダ,アルゼンチン,ブラジル,ニュージーラ ンド,ドイツ,ノルウェイ,スウェーデン)
と,開催国の中国を加えた12チームが3グル ープ(4チーム)でリーグ戦を行う。そして 上位2チームと3位の上位2チーム,計8チ ームが決勝トーナメントに進出する。
前回アテネ大会でベスト8のなでしこジャ パン。今回の北京大会は,「メダルを取りに いく」を目標に定めた。そして6カ月前の2 月から国内合宿3回,海外大会3回のプログ ラムで強化を図り,北京オリンピックに挑ん
だ。
今回の2008年北京オリンピック大会は,4 位の成績を残した。日本女子サッカーの歴史 からみると,大きな躍進である。また,メデ ィアを通して露出度の高まりから,女子サッ カーの認知度,普及へ大きく貢献した大会で あった。
3.日本女子サッカー(なでしこジャ パン)
女子サッカーは,1996年アトランタオリン ピックから正式種目になった。参加国8チー ムの中で,「オリンピック女子サッカー」初 の優勝国はノルウェイで,この大会での日本 女子サッカーの成績は,ドイツ(2−3)負 け,ブラジル(0−2)負け,ノルウェイ
(0−4)負け,3戦全敗で予選リーグ敗退 であった。
2000年シドニー大会へは出場することはで きなかった。オリンピック出場をかけた予選 大会「第3回FIFA女子世界選手権」で0勝 1分2敗のグループリーグ敗退によるもので
表1 予選リーグEグループ
予選リーグ:Eグループ
2008/08/06 17:00 天津 アルゼンチン 1×2 カナダ 2008/08/06 19:45 天津 中国 2×1 スウェーデン 2008/08/09 17:00 天津 スウェーデン 1×0 アルゼンチン 2008/08/09 19:45 天津 カナダ 1×1 中国
2008/08/12 19:45 秦皇島 中国 2×0 アルゼンチン 2008/08/12 19:45 北京 スウェーデン 2×1 カナダ
表2 予選リーグFグループ
予選リーグ:Fグループ
2008/08/06 17:00 瀋陽 ドイツ 0×0 ブラジル 2008/08/06 19:45 瀋陽 北朝鮮 1×0 ナイジェリア 2008/08/09 17:00 瀋陽 ナイジェリア 0×1 ドイツ 2008/08/09 19:45 瀋陽 ブラジル 2×1 北朝鮮 2008/08/12 17:00 天津 北朝鮮 0×1 ドイツ 2008/08/12 17:00 北京 ナイジェリア 1×3 ブラジル
表3 予選リーグGグループ
予選リーグ:Gグループ
2008/08/06 17:00 秦皇島 日本 2×2 ニュージーランド 2008/08/06 19:45 秦皇島 ノルウェイ 2×0 アメリカ
2008/08/09 17:00 秦皇島 アメリカ 1×0 日本 2008/08/09 19:45 秦皇島 ニュージーランド 0×1 ノルウェイ 2008/08/12 19:45 上海 ノルウェイ 1×5 日本
2008/08/12 19:45 瀋陽 アメリカ 4×0 ニュージーランド
図1 予選第1戦メンバー 永里 大野
(79荒川)
宮間 澤 阪口 安藤 (82丸山)
柳田 岩清水 矢野 近賀
福元
日本×ニュージーランド
図2 予選第2戦メンバー 永里 大野
宮間 澤 阪口 安藤 (65原)(62丸山)
柳田 岩清水 池田 近賀 (82荒川)
福元 日本×アメリカ
図3 予選第3戦メンバー 永里 大野 (77原)(84丸山)
宮間 澤 阪口 安藤 (87加藤)
矢野 岩清水 池田 近賀
福元 日本×ノルウェイ
表4 予選リーグEグループ
準々決勝
2008/08/15 18:00 上海 アメリカ 2×1 カナダ (G1位) (E3位)
2008/08/15 18:00 天津 ブラジル 2×1 ノルウェイ (F1位) (G2位)
2008/08/15 21:00 瀋陽 スウェーデン 0×2 ドイツ (E2位) (F2位)
2008/08/15 21:00 秦皇島 中国 0×2 日本 (E1位) (G3位)
図4 決勝T第4戦メンバー 永里 大野 (87荒川)(86丸山)
宮間 澤 阪口 安藤
矢野 岩清水 池田 近賀
(54柳田)
福元 日本×中国
図5 準決勝第5戦メンバー 永里 大野 (71荒川)
宮間 澤 阪口 安藤 (56原)
矢野 岩清水 池田 近賀
(73丸山)
福元 日本×アメリカ
図6 3位決定戦第6戦メンバー 永里 大野
(68丸山)
宮間 澤 阪口 原 (75荒川)
矢野 岩清水 池田 近賀
(88宇津木)
福元 日本×ドイツ
ある。
2004年アテネ大会は,参加国10チーム,予 選グループEで,スウェーデン(1−0)勝 ち,ナイジェリア(0−1)負け,1勝1敗 で3チームが並んだ中,3位でからくも予選 通過を果たし,オリンピックで初めて決勝ト ーナメントに進出することとなった。しかし 世界の壁は厚く,決勝トーナメント1回戦,
1−2でアメリカに敗れ姿を消した。成績は ベスト8であった。
4.なぜ4位になれたのか
結論から言うと,組織的な守備力とフィジ カル面の強化が功を奏した。なでしこジャパ ンの選手が個人の判断,能力で真っ向から戦 っても,身体能力,実践的スキルに勝ってい る欧米のチームの方が優位に立ってしまう。
そこで分析と準備(強化プログラム)が必要 であった。
5.4つの準備
与えられた準備期間は「6か月」,さまざ まな準備が必要であった。これらの項目をど ういう順番で?どのように組み合わせてプロ グラムを組むのか?ゴールから逆算の発想で 構築するのだが,思うようにいかないのがサ
ッカーである。したがって臨機応変な対応も 当然必要になってくる。しかし今から考えて みると「なでしこジャパン」は,「臨機応変」
の対応が一番優れていたのではないだろう か。
そのような中で,私たち「なでしこジャパ ン」チームが取り組んだ主な「4つの準備」
を紹介する。①分析 ②チームの目標設定
③覚悟 ④準備の4つである。
①分析 1)現状分析
日本女子サッカーの現状分析から始まっ た。結論から言うと,彼女たちの育成環境で ある。(現在のなでしこリーグは良い環境で はない。)まず,彼女たちがゴールデンエイ ジをどのように過ごしたのか,将来のスポー ツをするためのさまざまな運動(遊び)がで きる環境の中で育ったのか,決してそうでは なかった。また,なでしこリーグの環境はど うであるか。ホーム&アウェイの試合開催は 行われていた。しかし,一番重要である毎週 行われる試合のレベルが,ハイプレッシャー の環境下で行われていない。世界基準で戦う ためには,ここが一番重要な部分である。
日本女子チームの良い面を見てみると,理
表5 チーム格差別体と大会成績
チーム別体格差比較と大会成績(18人の身長と体重の平均)
1.スウェーデン 182.0cm/67.0kg ベスト8 2.カナダ 173.7cm/65.2kg ベスト8 3.ドイツ 171.3cm/62.6kg 3位 4.中国 169.8cm/61.0kg ベスト8 5.ノルウェイ 169.7cm/64.1kg ベスト8 6.アメリカ 168.8cm/63.2kg 優勝
7.ニュージーランド 168.1cm/61.3kg 予選リーグ敗退 8.ナイジェリア 166.1cm/59.2kg 予選リーグ敗退 9.北朝鮮 165.5cm/62.6kg 予選リーグ敗退 10.ブラジル 165.2cm/60.4kg 2位
11.アルゼンチン 164.2cm/58.9kg 予選リーグ敗退 12.日本 162.7cm/55.6kg 4位
解力・テクニック・勤勉性・持久性・巧緻 性・協調性等が他チームに比べて高い基準に ある。ここは世界で戦っていくうえで,自信 を持って良い部分であり,より高めることに よって武器にするところでもある。
2)世界の女子サッカー
欧米の女子チームの一般的な特徴として は,身長が高い分,空中戦で優位に立つ。ま た接触プレーに強い。それは体重が日本選手 より重いため,スピード差はなくても身体同 士の競り合いにおいても優位に立てる。相手 を飛ばす力があるのだ。
加えて,パスの精度・キックの飛距離が高 い。身体のサイズとともにサッカーのサイズ においても大きい。これは,なでしこジャパ ンにとって大きなハンディである。
②目標の設定
JFA日本サッカー協会は「サッカー日本女 子代表チーム」の目標を,2015年には世界ラ ンキング5位を目指している。ちなみに,サ ッカー男子代表チームはトップ10入りを目指 している。
今までの日本女子サッカーの歴史や経験を
もとに,北京オリンピックでの目標設定をす る必要があった。しかも最適な設定が必要で あった。過去のオリンピック成績は,2回出 場して1度決勝トーナメントに進出してベス ト8である。またFIFA女子ワールドカップ は,5大会連続出場しているが,オリンピッ クと同じく,決勝トーナメント進出は1回で ベスト8であった。
「今までと今現在のなでしこジャパンの力」
での世界との差,6か月後の成長の可能性を 考慮に入れた「なでしこジャパンの力」,8 月の蒸し暑い北京では,「欧米のチームは環 境や気候に対応する能力は低いのではない か」などを考えた結果,「メダルを狙える,
狙う!」という最適な目標設定が出来上がっ た。
③覚悟
実際に出来上がった最適な目標設定「メダ ルを狙える,狙う!」を遂行するには,コー チングスタッフがその気になっただけではま ず無理である。なぜなら,やるのは選手であ る。グランドの上で実際に走って,相手にぶ つかって,周りをよく観て,判断して戦うの は選手である。ゲームで,トレーニングで全
表6 FIFA/Coca-Cola Women’s World Ranking
チーム別世界ランキング 1.アメリカ
2.ドイツ 3.スウェーデン 4.ブラジル 5.ノルウェイ 6.北朝鮮 9.カナダ 10.日本 14.中国
24.ニュージーランド 25.ナイジェリア 27.アルゼンチン
(Jun/2008)
身痙攣を起こすのは選手である。そんな環境 で勝つために,生き残るためにはコーチや仲 間からの叱咤激励だけでは足りない。「自分 で駆り立てられるモチベーション」や自分の
「内からくる力」,「魂」である。命がけで闘 うためには,自分で覚悟をする必要がある。
他人,いや仲間の私たちコーチングスタッフ ではない。
選手たちにこの「覚悟」をしてもらうと,
コーチングスタッフの50%の仕事を終えたの も同然であった。
④準備
1)フィジカルの強化
体格の相違が大きな問題になる。身体の大 きさ(身長・体重)では欧米のチームより,
間違いなく低い値になる。身長を高くするこ とは難しい。女子選手の体重を増やすのはリ スクが伴う。そこで,サッカーで必要とされ る動き(走る,止まる,ターン,ジャンプ,
スライディング,前後左右に素早く動く,相 手と競り合いながら…)を高めた。(財)日 本サッカー協会「フィジカルプロジェクト」
の広瀬統一氏のサポートの下,2月に初めて 集合した磐田合宿から8月の最後のオリンピ ックまで強化をした。
最初に選手個人のフィジカル測定から,数 種類の測定データをとった。主なデータとし て①ターンの速さ②ジャンプ能力③持久性で ある。それを3回の合宿ごとに測定して,選 手にフィードバックしながら強化と向上の確 認をした。
また,実際にサッカーをプレーすることで もフィジカル面を鍛えた。それは,男子チー ムとの交流であった。Jリーグチーム下部組 織のジュビロ磐田ユース(高校生)・作陽高 校,吉備国際大学・富岡高校・帝京高校と合 同練習や試合をすることで接触プレーの強 さ・激しさ,速さ,パスの飛距離やスピード を実際に経験させ身体で覚えさせながら鍛え た。経験をさせる,つくることでそのことに
慣れる,相手は自分より強いが勝ち方がある ことを頭と身体で学習をした。
6.ロンドンオリンピックでメダルを 取るために!
なでしこジャパンが十分に戦えた通用した 部分は,人もボールもスペースも動きながら プレーする持久力であり,組織的な守備力で あろう。そしてテクニックも十分に通用する だろう。
しかし,アメリカ,ブラジル,ドイツの強 豪に互角に戦うためには,長所も当然,より 伸ばしていかなくてはいけない。加えて,以 下の3点はどうしても上げていかなければな らないだろう。
①ゴールキーパーの大型化
②センターバックの大型化と身体能力の高さ
③スピードプレーヤー
この課題を「なでしこジャパン」は短期的 にも長期的にも取り組んでいかなくてはなら ない。
今回の反省と分析は,今までにはないもの であろう。なぜならば,大会の最後の試合ま で参加したこと,優勝したアメリカと2回も 真剣勝負のゲームを行い,強豪チームである ドイツ,ノルウェイとも実際に戦えたからで ある。つまり,相手の試合を高みから「見て いただけの分析」から生きた判断材料ができ たからである。
参考資料
北京オリンピック競技大会 フィジカ ルプランニング&トレーニング
(広瀬 統一 なでしこジャパンフィジカルコ ーチ)
【期間】 2008年2月5日〜8月22日
・東アジア選手権事前合宿(兼 なでしこチ ャレンジ強化合宿)2月5日〜
・AFC アジアカップ事前合宿 5月
・北京オリンピック事前合宿 7月14日
Ⅰ:チームからの要求
監督・スタッフからの要求として,北京オ リンピックでベスト4に入ることを目的とし て以下の点の強化を行うことが挙げられた。
①本大会までの傷害予防。特に膝の傷害(主 に靭帯損傷)を予防すること。
②下肢筋群の筋力強化およびパワーの向上。
③世界で闘えるレベルに近づくためのアジリ ティー,スピードの向上。
④育成年代(次のなでしこJAPAN メンバー の強化)に還元するためのフィジカルデー タの蓄積とフィードバック。
Ⅱ:フィジカルトレーニング処方時のコンセ プト
以上の目的,特に①〜③を果たすために,
フィジカルコーチとしての取り組みで最も大 きなコンセプトを2つ掲げた。
A:トレーニングに対する意識改革(正確な 知識の伝達)
世界で闘うために,これまでに行ってきた チームでの日常的なトレーニングだけでな く,リーグ中でもより積極的にセルフトレー ニングを行い,フィジカル面の強化を図る必 要があることを伝えた。また期分けの概念に よるトレーニング期や維持期に行うべきテー マを伝え,鍛錬期のトレーニング量が非常に
重要であることを伝えた。
B:セルフコンディショニングの徹底(個人 の意識改革)
これが最も大きいテーマであった。代表合 宿で直接関わることができるのは2月〜7月
(大会直前)までの半年で3〜4週間程度で ある。従って通常の各チームのトレーニング における強化の継続性がなければ効果は上が らない。そこでまずは個人で行えるプログラ ムで,特殊な器具を用いないエクササイズを 短時間・継続して行うエクササイズプログラ ムを処方した。代表合宿は,前回提示したプ ログラムの達成度を評価して次の合宿や大会 まで行うエクササイズプログラム立案・実践 の場と考えた。
また本大会にはフィジカルコーチが帯同で きないため,試合前後や試合間におけるコン ディショニングもセルフケアの徹底を第一に 掲げて指導した。
以上の考え方をベースとして以下の取り組 みを行った。
Ⅲ:各合宿でのエクササイズ&プログラムテ ーマと実際
a:フィジカルテスト(自分の現在値を知る ため)
2月
持久力 マルチステージ・Yo-YoIR2テスト スピード 40m走
パワー 5段跳び・カウンタームーブメント ジャンプ
アジリティー 10m×5走
5月
持久力 Yo-YoIR2テスト パワー 5段跳び
アジリティー 10m×5走
コンディショニング Yo-Yo6分テスト
7月
アジリティー 10m×5走
コンディショニング Yo-Yo6分テスト
b:コンディショニングレクチャー(自分の 体に対する責任感を高めるため)
帯同したメディカルスタッフと内容を検討 した上で以下の点について講義を行った。
2月:北京オリンピックまでのトレーニング 計画と体力測定のフィードバック 5月:暑熱環境下でのコンディショニング 7月:北京オリンピック前・中での疲労回復
方法
c:セルフトレーニングプログラム作成 2月:下肢筋群のパワー向上・傷害予防が目
的のセルフトレーニングプログラム 5月:アジリティー向上と傷害予防が目的の
セルフトレーニングプログラム
Ⅳ:フィジカルテストデータの検討 A:持久力
2月の合宿では,プレシーズンの立ち上げ 期であることを考慮して,まずは基礎的な持 久力の評価をマルチステージテストで行っ た。そこで得られた指標をもとに,東アジア 選手権までは持久性の向上を目的としたLSD やインターバル走,そしてボールを使った持 久性のトレーニングを積極的に行い,充分な 練習量を確保した。同時にサッカーで必要と される間欠的運動能力をYo-YoIR2テストで 評価した。7月の大会に向けて,この能力向 上が試合を通した十分な運動量を確保する上 で必要不可欠である。この能力を向上させる ために,各チームで今まで以上に積極的に動 くことを求めた。合宿に参加した選手は2月 から5月にかけて間欠的運動能力が高まって おり,持久性に対する意識を高く持ってトレ ーニングを行っていたことが伺える。日本の ストロングポイントとして持久性を掲げる以 上,さらなる向上が必要と思われる。
B:筋力(筋パワー)
下肢筋群を初めとした全身的なパワー発揮 は日本選手のウィークポイントであり,この 能力が低いことは傷害発症にもつながる。従 って2月から5月の間に合宿での取り組みを 含め,積極的にセルフトレーニングに取り組 むことを求めた。徐々に選手のパワー発揮能 力は向上しており,今後も継続したトレーニ ングが必要と思われる。
C:アジリティー
今回の半年間のメインテーマの一つである アジリティーの向上に関しては,直前までそ の能力を改善していくことを意図して2・5・
7月全ての合宿で評価を行った。2月から5 月にかけてはパワーの向上が認められたのに 対し,アジリティー能力の向上は低いもので あった。実際の動きを分析すると,ターン時 の重心動揺や,減速時のステップ数の多さ,
そして方向転換後の推進力の弱さが目立って いた。そこで5月から7月にかけてもう一度 アジリティー・スキルの向上もトレーニング テーマに加え,継続したセルフトレーニング を求めた。
D : コンディションチェック
(Yo-Yo6分間テスト)
7月の直前合宿から本大会の短い期間のな かでは持久性やパワーの著しい向上は見込め ないであろうと予測し,直前合宿のフィジカ ルトレーニングテーマはオリンピック本大会 に向けたピーキング(コンディショニング)
とした。そのためにはLリーグで蓄積した各 自の疲労状態を把握する必要がある。そこで 比較的疲労状態が少ないと見込まれる5月に コンディションチェックとしてYo-Yo6分間 走前後およびランニング後1・2分後の心拍 数をチェックした。このデータをもとに7月 のコンディションを把握し,直前合宿のトレ ーニング強度コントロールに活用した。その 結果,多くの選手は5月よりも7月のコンデ
ィションが上向きであった。ただし1名の選 手は非常にコンディションが不良と思われた ため,ドクターが内科的疾患の有無を確認し た。結果は軽度の内科的疾患があったため治 療し,大きな問題とはならなかった。従って 7月の直前合宿では監督が当初意図していた ように高い強度のトレーニングを合宿前半か ら行うに十分なコンディションであると判断 した。
Ⅴ:育成年代へのフィードバック
2月の合宿の前半は,なでしこチャレンジ と合同で行われた。その際に行ったフィジカ ルテストのデータを各自にフィードバックす るとともに,作成した個人データ表およびト レーニング内容やフィジカルテストの内容を 紙面とDVDにして各チームに配布した。ま たトレーニング内容はテクニカルニュースに 掲載し,広く普及活動に役立てた。
Ⅵ:まとめと今後の課題
今回フィジカルコーチとして,選手・スタ ッフの目標達成を支えるように,トレーニン グ・コンディショニング指導に携わったが,
監督・コーチ・メディカルスタッフからの要 求が明確であったこと,スタッフ全体の協力 体制が整っていたこと,そして何より選手が トレーニングやコンディショニングに対して 非常に前向きに取り組んでいたことにより,
業務を円滑に行うことができた。そしてこの ような取り組みが当初目標として掲げていた ベスト4入りという結果に結びついたこと は,この上ない喜びである。一方で今後の課 題もいくつか認められた。まず今後世界レベ ルの選手やチームと闘っていく中で,フィジ カルスキルやパワー・スピードのさらなる向 上が必要不可欠である。その点では現在代表 として活躍している選手のベースアップだけ でなく,育成年代の選手の底上げが急務であ る。若手選手のタレント発掘とトレーニング が今後の課題と思われる。
引用:参考文献
FIFA(2008)FIFA/Coca-Cola Women s World Ranking
広瀬統一(2008)北京オリンピック競技大会フィ ジカルプランニング&トレーニングレポート