ディジタル信号処理 第 2 回
信号の畳み込みと
システムの諸性質
記法について
•
教科書では「信号」と「信号のある時刻にお ける値」が区別されていない•
信号は数学的には数列のことで, (x[n])n∈Z の ように表記できるが・・・•
以下しばしば添字を略したx
によって信号全 体をあらわす−2 −1 0 1 2 x[−2]
x[−1]
x[0]
x[1] x[2]
x
あるいは(x[n])
n∈Zこの講義資料での記法 :
x 信号全体
(x[n]) n ∈ Z
x[n] 信号の時刻 n にお
ける値
•
離散時間の単位インパルスδ
は・・・δ[0] = 1, δ[n] = 0(n 6= 0)
•
時間軸に関してm
シフトさせる作用素をτ
m とおく. (τmx)[n] = x[n − m]
である.• (τ
mx)[m] = x[0], (τ
m+1x)[m] = x[1], . . .
だか ら, 波形全体がm
だけ右にずれている.( τm x )[n] = x[n-m]
作用素τm が
信号x に作用して 得られた信号(τmx)の
時刻nにおける値は
信号xの時刻n-mにおける値に等しい
畳み込み
• τ
mδ
をδ
mと書く(τ
0δ = δ
0はδ
とも書く)と・・・• x = P
∞m=−∞
x [ m ] δ
mとなる.•
教科書では上記のδ
mをδ[n − m]
と書いているが(13
ページ),
このように書くと, δ
をm
だけシフ トさせた信号なのか, δ
の時刻n − m
の値なのか が,
わからない.
たとえば, (−1)δ0
+ 2δ
1+ (−2)δ
2は・・・0 1
0 1
0 1
-1 2 -2
0 1
時刻0 時刻0
この講義資料での記法 : δ 単位インパルス τ m 時間軸に関して m
シフトする演算子
δ m δ m = τ m δ
• x =
∞
X
m=−∞
x[m]δ
mであったが・・・• x
の右辺の時刻n
における値を考えると・・・• x[n] =
∞
X
m=−∞
x[m]δ
m! [n]
∞
X
m=−∞
(x[m]δ
m)[n] =
∞
X
m=−∞
x[m]δ
m[n]
で・・・• δ
m[n] = δ[n − m]
だから(どちらも n = m
の とき1,
それ以外で零)・・・• x[n] =
∞
X
m=−∞
x[m]δ[n − m]
で・・・•
教科書14
ページ式2.4
が出て来る.• L[·]
を線形時不変システム,y = L[x]
とする.• L [ x ] = L
"
∞X
m=−∞
x [ m ] δ
m#
=
∞
X
m=−∞
x[m]L[δ
m]
となる.• δ
m= τ
mδ
で,L[·]
は線形時不変だから,L[τ
mδ] = τ
mL[δ]
となる.• L[τ
mδ] = τ
mL[δ]
は自明な式ではない(L[·]
が線 形時不変だから成り立つ).
⊲
システムに入力δ
をm
だけ遅延させて印加 したときの出力と・・・⊲
システムに入力δ
を印加して得られた出力 をm
だけ遅延したものが・・・同じ
,
という意味で,
線形時不変システムの性質 のひとつ.
• h = L[δ]
とおいて先の式に代入すると・・・• L[x] =
∞
X
m=−∞
x[m](τ
mh)
となる.• y[n] =
∞
X
m=−∞
x[m](τ
mh)
! [n]
=
∞
X
m=−∞
x[m](τ
mh)[n] =
∞
X
m=−∞
x[m]h[n − m]
•
信号u
と信号v
に対し,u ∗ v
という新しい信 号を次式によって定義する.(u ∗ v)[n] =
∞
X
m=−∞
u[m]v[n − m].
これを
u
とv
の畳み込み(たたみこみ)
ある いは, 重畳,convolution
と呼ぶ.•
単位インパルスδ
に対するシステムの応答L[δ]
をインパルス応答という.•
上述の結果をまとめると,h = L[δ]
としたと き,L[x] = h ∗ x
である. すなわち, 線形時 不変システムの入力x
に対する応答は,x
と システムL[·]
のインパルス応答の畳み込みに なる.畳み込みの計算例
•
信号u: u[0] = 1, u[1] = 2, u[2] = 5, u[n] = 0 (n 6= 0, 1, 2)
•
信号v: v[0] = 1, v[1] = 1, v[n] = 0 (n 6= 0, 1)
• (u∗v)[−1] = · · ·+u[−2]v[1]+u[−1]v[0]+u[0]v[−1]+
· · · = 0
• (u∗v)[0] = · · ·+u[−1]v[1]+u[0]v[0]+u[1]v[−1]+
· · · = u[0]v[0] = 1
• (u ∗ v)[1] = · · · + u[−1]v[2] +
u[0]v[1]+
u[1]v[0]+
u[2]v[−1] +· · · = u[0]v[1] + u[1]v[0] = 3
• (u ∗ v)[2] = · · · + u[−1]v[3] +
u[0]v[2] +u[1]v[1]+
u[2]v[0]+u[3]v[−1]+· · ·= u[1]v[1]+u[2]v[0] = 7
• (u ∗ v)[3] = · · · + u[−1]v[4] +
u[0]v[3] +u[1]v[2] + u[2]v[1]+u[3]v[0]+u[4]v[−1]+· · · = u[2]v[1] = 5
• (u ∗ v)[4] = · · · + u[−1]v[5] +
u[0]v[4] +u[1]v[3] + u[2]v[2] +u[3]v[1] + u[4]v[0] + · · · = 0
(u ∗ v)[n] = P
∞m=−∞
u[m]v[n − m]
を図に直すと・・・v[n-2] v[n-1] v[n] v[n+1]v[n+2]
u[-2] u[-1] u[0] u[1] u[2]
(u * v)[n]=?
(u ∗ v)[0] =?
• (u ∗ v)[n] = P
∞m=0
u[m]v[n − m]
にn = 0
を 入れて・・・• (u ∗ v)[0] = · · · + u[−2]v[2] + u[−1]v[1] +
u [0] v [0] + u [1] v [−1] + u [2] v [−2] + · · ·
. . . u[−2] × v[2]
u[−1] × v[1]
u [0] × v [0]
u[1] × v[−1]
u[2] × v[−2]
. . .
X
(u ∗ v)[1] =?
• (u ∗ v)[n] = P
∞m=0
u[m]v[n − m]
にn = 1
を 入れて・・・• (u ∗ v)[1] = · · · + u[−2]v[3] + u[−1]v[2] +
u [0] v [1] + u [1] v [0] + u [2] v [−1] + · · ·
. . . u[−2] × v[3]
u[−1] × v[2]
u [0] × v [1]
u[1] × v[0]
u[2] × v[−1]
. . .
X
(u ∗ v)[2] =?
• (u ∗ v)[n] = P
∞m=0
u[m]v[n − m]
にn = 2
を 入れて・・・• (u ∗ v)[2] = · · · + u[−2]v[4] + u[−1]v[3] +
u [0] v [2] + u [1] v [1] + u [2] v [0] + · · ·
. . . u[−2] × v[4]
u[−1] × v[3]
u [0] × v [2]
u[1] × v[1]
u[2] × v[0]
. . .
X
n = 0 n = 1 n = 2 . . .
u[−2] × v[2] v[3] v[4]
u [−1] × v [1] v [2] v [3]
u[0] × v[0] v[1] v[2]
u[1] × v[−1] v[0] v[1]
u [2] × v [−2] v [−1] v [0]
. . .
•
教科書pp. 15–18
の計算は各自で追うこと.•
畳み込みのことを線形畳み込みあるいは直線 畳み込みと呼ぶことがある. この用語は, 離散
Fourier
解析(教科書 5
章)で用いられる循環畳み込みと呼ばれる概念との混乱を防ぐた めに用いられる.
復習
δ
m= τ
mδ x =
∞
X
m=−∞
x[m]δ
mh = L[δ]
L [ x ] = L
"
∞X
m=−∞
x [ m ] δ
m#
=
∞
X
m=−∞
x[m]L[δ
m] =
∞
X
m=−∞
x[m]τ
mh
L[x]
の時刻n
における値は:(L[x]) [n] =
∞
X
m=−∞
x[m]τ
mh
! [n]
=
∞
X
m=−∞
x[m]τ
mh[n]
=
∞
X
m=−∞
x[m]h[n − m]
畳み込みの性質 (教科書pp. 18–19)
以下では,
u ∈ l
1とは,P
∞m=−∞
|u[m]| < ∞
である ことと定義する.• l
1に属する信号に対して畳み込みは可換, す なわちu, v ∈ l
1に対しu ∗ v = v ∗ u
である.• l
1に属する信号に対して畳み込みは加算に対 して分配的,すなわちu, v, w ∈ l
1に対し,u ∗
( v + w ) = u ∗ v + u ∗ w
である.u ∗ v = v ∗ u
となること• nを固定すると, (u∗v)[n] =P∞
m=−∞u[m]v[n−m]).
• nを固定すると, (v∗u)[n] =P∞
k=−∞v(k)u[n−k])(変数 kで和を取る). n−k=mとおく. nを固定したとき, kが−∞から∞まで動けば,m=n−kも−∞から∞ まで動く. 第2の式で和をとる変数をkからmに変え てn−k=mを代入すると, (v∗u)[n] =P∞
m=−∞v[n− m])u[m] =P∞
m=−∞u[m]v[n−m]).
• よって∀n, (u∗v)[n] = (v∗u)[n]. したがってu∗v=v∗u.
u ∗ (v + w) = u ∗ v + u ∗ w
となること• 以下, 曖昧さが発生しないときは, 和の範囲を略し, P∞
m=−∞をP
mと書くことがある.
• nを固定すると, (u∗(v+w))[n]
=P
mu[m](v+w)[n−m]
=P
mu[m](v[n−m] +w[n−m])
=P
mu[m]v[n−m] +P
mu[m]w[n−m]
= (u∗v)[n] + (v∗w)[n].
• よって∀n, (u∗(v+w))[n] = (u∗v)[n] + (v∗w)[n]だ から,u∗(v+w) =u∗v+v∗w
• l
1に属する信号に対して畳み込みは結合的で ある. すなわち,u, v, w ∈ l
1であれば,u ∗ (v ∗
w) = (u ∗ v) ∗ w
となる.u ∗ (v ∗ w) = (u ∗ v) ∗ w
となること(1)
• u, v, w∈l1とする.
• nを固定; (u∗(v∗w))[n] =P
mu[m](v∗w)[n−m] = P
m
P
ku[m]v[k]w[n−m−k]
• nを固定; ((u∗v)∗w)[n] = P
p(u∗v)[p]w[n−p] = P
p
P
mu[m]v[p−m]w[n−p]
=P
m
P
pu[m]v[p−m]w[n−p]
(ここで和の順番の入れ換えをしている).
u ∗ (v ∗ w) = (u ∗ v) ∗ w
となること(2)
• mを固定したとき,k=p−mとおくと,pが−∞から∞ まで動けばkも−∞から∞まで動くから,和を取る変 数をkに変えて, ((u∗v)∗w)[n] =P
m
P
ku[m]v[k]w[n−
m−k]. これは(u∗(v∗w))[n]の式と同じ.
• ∀n, (u∗(v∗w))[n] = ((u∗v)∗w)[n]だから, u∗(v∗w) = (u∗v)∗w.
• 上述の議論では,和の順番の入れ換えが本質的に重要.
• u, v, w ∈l1という仮定は重要で, この仮定が満たされ ないときには, 上記の性質が成り立つことは必ずしも 保証されない.
• 数学的に言うと,条件収束するが絶対収束しない級数は 項の並べ換えることにより任意の数に収束するように できる. (たとえばG. E. Shilov, Elementary Real and Complex Analysis, Dover, 1996参照). よって,絶対収 束(l1のこと)を仮定しないと,いろいろな不都合が発 生する.
システムの直列接続
•
線形時不変システムL
1[·]
とL
2[·]
が直列に接 続されているものとする.L
1[·]
とL
2[·]
のイ ンパルス応答をh
1, h
2とする.x
を入力とす る.y
1= L
1[L
2[x]], y
2= L
2[L
1[x]]
とする.• L
12[·]
をインパルス応答h
1∗ h
2= h
2∗ h
1を 持つシステムとする.• h
1, h
2, x ∈ l
1と仮定する(結合則を用いるた
めにこの仮定が必要).• y
1= L
1[ L
2[ x ]] = L
1[ h
2∗ x ] = ( h
1∗ ( h
2∗ x )) = (h
1∗ h
2) ∗ x.
• y
2= L
2[L
1[x]] = L
2[h
1∗ x] = (h
2∗ (h
1∗ x)) = (h
2∗ h
1) ∗ x = (h
1∗ h
2) ∗ x.
•
したがって,L
1[L
2[x]] = L
2[L
1[x]] = L
12[x]
(教科書 p.20
図2.5)
システムの並列接続
•
直列接続の議論と時と同一の仮定の下で,L
1[·]
と
L
2[·]
を並列に接続する• L
1+2[·]
をインパルス応答h
1+ h
2を持つシス テムとする.• L
1+2[x] = (h
1+ h
2) ∗ x = h
1∗ x + h
2∗ x =
L
1[x] + L
2[x] (教科書 p.20
図2.6)
因果的なシステム
•
システムy = L[x]
が因果的であるとは, そ の出力が現在および過去の入力のみから決ま り, 未来の入力に依存しないことをいう. ま た, そのような性質を因果性という. 因果性 は名詞,因果的なは形容詞である.• L[·]
は線形時不変システムで, そのインパル ス応答をh
とする.• y[n] = P
∞m=−∞
h[m]x[n − m]
であるから,こ のシステムが因果的であることは, 上式にお いてx[n + 1], x[n + 1, . . .
の係数が零,すなわ ちm < 0
に対しh[m] = 0
であることと等価.•
インパルス応答は時刻零で振幅1
の入力が あったときのシステムの応答だから, 負の時 間で応答波形が出ていれば因果的でないのは 当然.安定性
•
「安定」とは(大辞林 第 3
版)・・・⊲
落ち着いて変動の少ないこと⊲
ある系が外からの作用により微小な変 化を与えられても,もとの状態からのず れが一定の範囲に収まるような状態•
安定性に関する議論をする際には, 内部状態 に着目する場合と, 入出力関係に着目する場 合があるが, この講義は入出力関係に着目す る場合のみを対象とする.• y = L[x]
という入出力関係を持つシステムがx
が有界ならy
も有界という性質を持つとき, このシステムはBIBO
安定(Bounded Input
Bounded Output Stable)
であるという.•
教科書には定義が明確な形で書かれていな いが, 上記のBIBO
安定性が教科書の安定性 の定義. 教科書ではこれを安定と呼んでいる.•
インパルス応答h
を持つ線形時不変システムL[·]
を考える.•
入力x
をx[n] = sgn(h[−n])
とすると(sgn
は 符号を返す関数), (L[x])[0] = (h∗ x)[0] = P
∞m=−∞
h[m]x[−m] = P
∞m=−∞
h[m]sgn(h[m]) = P
∞m=−∞
|h[m]|.
よって,このシステムがBIBO 安定であるためには,P
∞m=−∞
|h[m]| < ∞
で なければならない.•
逆に,P
∞m=−∞
|h[m]| < ∞
であるとき,x
が 有界, すなわち∃K ≥ 0, ∀n, |x[n]| ≤ K
で あれば,っ|L[x](n)| ≤ K P
∞m=−∞
|h[m]|
だか ら, このシステムはBIBO
安定である.•
以上によって,線形時不変システムL[·]
がBIBO
安定であるための必要十分条件は, そのイン パルス応答h
がP
∞m=−∞
|h[m]| < ∞
を満た すことであることがわかった.•
教科書22
ページ下から2
行目の「インパル ス応答が有限時間で零になる」という記述は 間違い.教科書では畳み込みの応用例として音響システム が挙げられているが,畳み込みは線形時不変システ ムを取り扱うときにはつねに出て来るものであり, 殊更に音響システムを強調する意味はないので,講 義では割愛する.
l
1と因果性•
信号処理は, 大別すると,⊲
記憶媒体に記録された信号の非リアル タイム処理⊲
信号のリアルタイム処理 に分類される.•
非リアルタイム処理の対象となる信号は有限長である
(でなければ記録できない).
この信号は,信号がない部分を零とおくことにより,
l
1の信号に拡張される. 畳み込みを定義する 際に, 対象となる信号が実質的に有限長である
(すなわち,
信号が非零となる時刻は有限個)と仮定しておけば, 畳み込みの性質の項 で述べた諸問題が発生することはない.