性犯罪被害者支援 の現状 と課題
辻 真 理
は じ め に
強制 わいせ つ罪 (刑法176条)強姦罪 (刑法 177条)とい つた性犯罪は、時 に 「魂 の殺 人」 とも言 われ るほ ど被 害者 に身体 的 な外 傷等 だ けで はな く、精神 的 にも長期 間にわた り ダメー ジ を与 え る深刻 な犯罪 である。それ に もかかわ らず 、性犯罪被 害者 たちは、長 い間、
十分 な支援 を受 ける事 も出来ず 、それ どころか、警察での事情聴 取や裁判 の場 において、
自己の落 ち度 を追及 され る とい う不条理 な状況 に、今 なお、耐 えることを強い られ続 けて い る。
日本 においての 「被害者学」 は、 当初 は単な る防犯 の技術 を教 えるものにす ぎなかった が、1970年代 頃 になつて飛躍 的 に発 展 を遂 げて きたので あ るヽ このた め、現在 で は、性 犯罪被害者 に関 しては、被害後 に受 ける様 々な精神 的苦痛 である二次被害や、世間体 に配 慮 し被 害 に遭 つた こ とを公 に しないた めに暗数化 した犯罪 が少 な くない とい った問題 等 そ の実態が明 らか となつてきた。その後2000年にい わゆる犯罪被害者保護二法 が成立 し、一 部性犯罪 において告訴期 限の撤廃や 、法廷 での性犯罪被 害者 らの精神 的負 担 を軽減す るた めの措置 として 「ビデオ リンク方式」の導入等 が行 われ、2004年には、国際連合 の女子差 別撤廃委員会 による、 日本 に対す る 「強姦罪 に対す る罰則 が比較的寛容である」 とい う罰 則 を強化 す るべ きで ある とい う改善勧 告2を契機 とす る厳罰化や 、同時期 の大学生 に よる集 団強姦事件 を契機 とす る集 団強姦罪 (刑法 178条の2)等の新設 が行 われ た。 しか しなが ら、現在 も、性犯罪 に関す る偏見 ともい える 「強姦神話」は社会 に根強 く残 つてお り、時 に被 害者 非難 に繋が るこ とがある。 また、裁判 の場 において強制 わいせつ罪や強姦罪 の構 成要件 で ある 「暴行・ 脅迫」概 念 の解釈 が非 常 に厳格 である こ とが、被 害者 を苦 しめてい る。 さらに、2009年 5月 よ リスター トした裁判員裁判 においては、強姦致傷罪 、強姦強盗 罪 、強制 わいせ つ致死傷罪・ 集 団強姦致死傷罪 とい つた性犯罪 の一部 は裁 判員裁判 の対象 とな ってい る。裁判員 に被 害者 と知人 関係 にあ るものがいないが ど うかは事前 に調査 され、
裁判 にお いて も被 害者 は匿名 扱 い とな るが、被 害者 のプ ライバ シー保護 とい う観 点か らみ て、一般 の裁判員 の存在 は脅威 にな りかねない。
以上 の よ うに、近年発展 しつつ あ るわが国の性犯 罪被 害者 支援 で はあるが、未 だ、問題 点や課題 が存在す るのが現状 である。従 つて、社会全体が これ らの問題 に関 し問題意識 を 持 ち始 めた今 こそが、性犯罪被 害者 支援 につ いて議論すべ き時期 で ある と考 える。
そ こで本稿 は、性犯罪被 害者支援 に関す る現在 の状況 を確認 し、今後 ど うあるべ きかを 提言 す る こ とを 目的 として、具体 的 には、性犯罪 の現状 を考察 し、性犯罪被 害者 を取 り巻 く諸 問題 について検討 した後 に、現在 の性犯罪被 害者支援 の状況 を踏 まえて、今後 の性犯 罪被 害者 支援 に向 けて海外 で の先行 事例 を参 考 に し、性犯罪 の保護 法益 の転換や現行刑 法 の一部改正等 の性犯罪規定の見直 しや非親告罪化 、そ して、強姦被害者保護法 の導入等 に
1瀬川晃「日本の被害者学の現状 と展望―性犯罪被害者研究を基′点として一」『 同志社法学』
46巻5号2007年、P813‑815 2「公明新聞」2004年 H月 23日
ついて提言を行 うこととす る。
第 1章 性 犯 罪 とは
第1章では、現行刑法における性犯罪規定の問題点を明 らかにす る目的で、1‑1では性 犯罪 とは どのよ うな犯罪であるのかを確認す る。その後、1‑2において本論文に最 も密接 な関係 を有す ると考え られ る強制わいせつ、強姦罪に焦点を絞 り検討す るとともに、その 保護法益 について確認す る。近年、性犯罪に対す る世間の関心の高ま りを背景 として、平 成16年に刑法の一部改正が行われ るな ど、以前に比べ性犯罪被害者 を取 り巻 く状況は改善 されつつ ある。 しか しなが ら、現在 においても、親告罪である性犯罪の場合、被害者が 2 次被害を恐れ被害の告訴 を躊躇 うこと、そ して告訴を行つた としても不起訴 となる場合が 多い とい う点で、被害者が納得す るような結果 を得 ることができていないことなど、未だ 解消 されていない問題が存在す る。そこで、1‑3では今なお性犯罪者が直面 している諸問 題 を明 らかにす る目的で、刑事裁判 において性犯罪が どのよ うに取 り扱われてきたのかに ついて検討 を行 う。
1‑‑1 性 と巳罪 とは何 か
日本 における性犯罪は、大別す ると、以下に示す よ うに 「性的 自由を侵害す る犯罪」 と
「性的表現の罪」との異なる二つの犯罪群に分けることができる3。 しか しなが ら本論文で は特に性犯罪被害者への支援 を検討 の対象 とす るため、被害者が 自らの性的 自己決定権 を 侵害 され る犯罪である前者 に重点を置いて論 じる。
従 つて、本論 文 で取 り上 げ る性犯 罪 とは、被 害者 の性 的 自己決定権 が侵 害 され る と考 え られ てい る犯罪 で あ り、具体 的 には強制 わいせ つ罪 (176条)および強姦罪 (177条)の他 、 準強制 わいせつ 。準強姦罪 (178条)、 さらに これ らの罪 の未 遂罪 (179条)、 そ して これ ら の罪 か ら死傷 が生 じた場合 につ き、結果的加重犯 として強制 わいせつ致死傷罪 (181条)
を対象 としてい る4。
性犯罪 の被 害者 とな った者 の多 くは、被 害 に よ り外傷や性行為後 の感 染症 、望 まぬ妊娠 な ど身体的な被 害 に遭 うだけではな く、大 きな心理的 ダメー ジを受 けるこ とが指摘 されて お り、た とえば、「落 ち込 んだ、汚れ て しまつた、 自責感 、無力感」、「男性 が怖 くなった」、
3前掲1 瀬川 (1995年)
4山中敬一『 刑法各論 I』 成 文堂P825 2004年、P137
「強制わいせつの罪」
強制 わいせ つ罪 (刑176) 強姦罪 (升1177) 集 団強姦罪 (刑178)
+これ らの結果的加重犯 性 的 自由を
侵害す る犯罪
公 然 わいせつ罪 (升1174) わいせ つ物頒布等 の罪 (刑175) 性 的表 現の罪
「自尊感情 の喪失、反応性 の麻痺」 な どの心理的被害や、事件 を契機 として転居 を含む何 らかの社会的生活 の変化 を余儀 な くされた人が、強姦被害者 で約4割、強制わいせ つ の被 害者 では約 3割み られ る との指摘 が な され てい る5。 この よ うに、性犯罪被 害はそれ まで被 害者 の人生 を大 き く変 えて しま うほ ど、深刻 な もので あ り、被 害 を受 けた後 も長期 に渡 り 継続 的 な被 害 もた らす性 犯罪 は実 に悪質性 の高い犯罪 で あ る。
しか し、 これ らの被 害 につ いての詳細 はその実態 が正確 に把握 され てい る訳 ではない。
その理 由は、被害者 となって も、世 間体や二次被 害 を恐れ 自身 の被害 内容 を公 にす ること な く泣 き寝入 りして しま う場合 が少 なか らず存在 してい るためである。 これ は性犯罪 の特 徴 のひ とつ である暗数 が多い こ とか らも明 らかで ある6。 この よ うな現状 の中で、最近 にな って よ うや く被害者 が声 を上 げ始 めるよ うにな り、その一人 である小林美佳 さん7は、性犯 罪被 害者 と して実名 を出 し、 自身 の体験 を社会 に広 く訴 えてい る。 この よ うに近年 、被 害 者 自らが性犯罪 に対す る 自分 の思 いや考 えを伝 えるが可能 な状況 となった事 は、性犯罪被 害者 を支援す る際 に実態 を把握 す る上 で非 常 に有益 な こ とで あ る。 しか し、今 もなお少 な か らぬ被害者 が、その被 害内容す ら公 にす ること難 しい とい う状況 は社会 の構造や対応 に 何 らかの問題 があ るこ とを示 唆 してお り、改善策 を検討す る必要 が ある と言 える。
次 に、平成2年か ら平成21年まで の強姦 。強制 わいせ つ の認知件数 、検 挙件数 、検挙 率 の推移 についての現状 を以下の グラフ8で確認す る。
11 3奎 制 わ い けつ
(イ牛)
3,000 2.500
2、000 1500
1.000 500 0
;rllr
(千件
12'
10
40■ 8 6 4 2 0
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3︒ 80
一︲ 6︒
一4︒
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38
11‖̲撃:
40 20
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半 成2 5 平 成2
■認報 件数 口検 挙 件数
強姦 の認知件数 は、平成9年か ら増加傾 向を示 し、15年には最近20年間で最多 の 2,472 件 を記録 したが、16年か ら減少 し続 け、21年は 1,402件 (前年 比180件 (H.4%)減)で
あった。検挙率は、10年か ら低 下 し、14年には62.3%と 戦後最低 を記録 したが、15年か ら上昇傾 向にあ り、21年は 83.0%であつた。一方、強制 わいせつの認知件数 は,平成 11 年 か ら急増 し,15年には戦後最多の 1万 29件を記録 したが,16年か ら減少 し続 け,21年 5田 口真二、平伸二、池 田稔、桐生正幸 編著『 性犯罪の行動学』北大路書房2010年、P91
6暗数の問題 に関 しては次項で後述す る。
7彼女の場合 は、精神科 を受診 していないが、事件後に強い不安や身体症状、フラッシュ バ ックなどPTSD(心的外傷後ス トレス障害)と類似 した症状 を自覚 している。
小林美佳『性犯罪被害にあ うとい うこと』朝 日新聞出版2008年、P61
8『平成22年度版犯罪 白書』法務省法務総合研究所2010年、P13
は6,688件 (前年比423件 (5.9%)減 )まで減少 した。 また、検挙率 は,11年か ら急低 下 し,14年には35.5%と 戦後最低 を記録 したが,15年か ら上昇 に転 じ,21年は53.3%で
あった9。
以上 のデー タか ら、強姦・ 強制 わいせ つ共 に認知件数 については、平成 10年か ら増加 しつづ け、15年を ピー ク としてやや減少傾 向 にあ るこ とが判 明す る。他方 、検挙率 につい て は認知件数 の増加 に反比例 して平成 10年か ら低 下 し続 けていたが、平成 14年を契機 と してやや回復傾 向にある。この理 由 としては、平成 12年のいわゆる被 害者保護 二法成立 に よ り、法廷 においての性犯罪被害者 の負担軽減措置が採 られ た こ とが関係 してい るのでは ない か と考 え られ る。他方、平成 15年以 降の認 知件数 お よび検挙率 の低 下 に関 して は、こ の詳細 な要 因の分析 は行 われ てお らず、平成8年か ら警察が積極的に性犯罪被害者対策 に 取 り組 んだ こ とや厳罰化 の結果 として、それ まで潜在化 していた被 害 が表 面化 し、累犯性 の ある加 害者 が逮捕 され た こ とによる減少 であるな らば、 これ らの取組み の結果 によるも の と解す ることが出来 るが、逆 に、一旦増加 した検挙件数や認知件数 となった事件 の被害 者 に対す る支援 が不十分 で あつたた めに、再 び告訴 に消極 的 な被 害者 が増加 し、暗数化 し た犯罪 が増 えた とい う可能性 の存在 を無視す るこ とは出来ず、後者 で あるな らば、被害者 へ の支援 に関す る対応の改善が必要である。
しか し、性犯罪 の特徴 の一つ として、上記 に も記載 した よ うに、公的統計 に掲載 され る こ とな く暗数 となつた被害が多数存在す るこ とが指摘 されてい るЮ。 強姦罪や強制 わいせ つ罪 は親 告罪 となつてお り、被害届 が出 され なけれ ば捜査 が開始 され るこ とは無い。 そ し て性犯罪 の被害者 は被害 を受 けた こ と自体 に大 きなダメー ジを受 けてい ることに加 え、被 害事実 を世 間 に知 られ た くない、被 害 に遭 った事 を信 じて も らえない ので はないか、警察 での対応 、そ して犯人 に よる報復 の恐怖 な ど様 々な不安 を抱 えてい る。 そのため、被害者 に とつて被 害届 を提 出 し、裁判 に臨む までの道 の りは決 して平坦な ものではない。例 えば、
過 去 の事例 において、被 害者 の 自供475件に対 し、既届 は127件、余罪捜査 の過程 で告訴 が提 出 されて検挙 した ものが95件で あつた こ とが報告 されてい るこ とか らも、その潜在化 傾 向の強 さを知 るこ とができ る11。 この よ うに、実際発生 しなが らも被害届 を出す に至 ら ず 暗数化 してい る性犯罪 が相 当存在 す る こ とは、被 害者 を支援す る上 で必要 なデー タを得
るこ とが 出来ず 、実態把握 が困難 で ある とい う点 で問題 である。
また、上記で述べた暗数 の問題 と関連 して告訴 を躊躇 う要因 として、性犯罪、特 に強姦 罪 では一貫 して被 害者 と加 害者 の関係 が 「面識 あ り」 の場合 が多い12とぃ ぅ特徴 も指摘 さ れ てい る。 以下のグラフは、被疑者 と被害者 との関係別検挙件数・ 面識率 。親族率の推移
を表 した もの13でぁる。
9前掲8『平成22年度版犯罪 白書』(2010年)P15
10前掲5 田日・平 。池田・桐生 (2010年)P13‑14
11性犯罪捜査研究会編著『性犯罪被害者対応ハン ドブック[最訂版]』 立花書房 2008年 、P5 12『平成 18年 度版犯罪白書』法務省法務総合研究所 2006年 、P238
B前掲8『平成22年度版犯罪 白書』(2010年)P216‑217
4 強 豪
(イヨ│〉
80 島 60 餞準
46 :'1.
日召千055 60子,■ 5 10
この グラフか ら明 らかな様 に、面識 のあ る者 に対す る事件 の検挙件数 は、平成3年まで 減少 していた後 、8年以降増加 し、12年以降 も横 ばい状態 で ある。 また、 これ に伴 い、面 識 率 は、8年以 降、上昇傾 向にあ り、21年は,41.9%であつた。 この他、強姦加害者 が親 族 で ある割合 は、16年以降上昇傾 向 にあ り、21年は4.6%であつた。
この よ うに、加害者 と被害者 が面識 のある関係 であった場合 、 この関係 が被 害を届 け出 るこ とを被 害者 に疇躇わせ る大 きな要因 となってい る。 その背景 には、友人や 同 じ職場 の ものな ど近 しい問柄 にあ る加 害者 を 自分 の訴 えに よつて犯罪者 と して しまって もよいのか、
被 害 を訴 えた後 の加 害者 との関係性 は ど うな つてい くのか、 また、被 害事実 を周 囲の人 に 信用 して も らえ るのか等様 々な こ とに思 しν悩んだ結果 、被 害者 が告訴 を断念す る場合 が 多々 あ る と考 え られ る。 しか しこの こ とは、犯罪 の実態 が加 害者 に とつて有利 であ り、被 害者 に とつては不利 とい う構 図 と化 してお り、 これ は被 害者 の権利 が十分 に守 られ てい な い とい う問題点 において他 の犯罪以上 に配慮 ある改善が求 め られ る。つま り、被害者 が告 訴 を断念せず にすむ ために も、被 害者 の保護 に重 点 を置いた支援 。対応 の整備 が急務 で あ
る と考 え られ る。
以上、1‑1では、性犯罪 とは どの よ うな ものであ るのかについて確認す る 目的で、強制 わいせ つ罪 。強姦罪 を中心にその認知件数や検挙件数 の統計や特徴 について検討 した。 そ して、性犯罪 は親告罪であ り、被害が公 とな ることへ の不安 な ど様 々な問題 のため被害 を 届 け出 るこ とがで きない被 害者 が多 く、正確 な実態 は把握 が困難 であ るために、統計上 に は反 映 され ていない犯罪 が存在す る とい う暗数 の問題 を指摘 した。被害者 を適切 な対応 に よって救済す るためには、被害者 が被害 に遭 った事実 を第二者 に打ち明けるこ とや 、警察 な どの公 的機 関 に知 らせ るこ とがすべ ての始 ま りで あ り、欠 かす こ とので きない最 も重要 な行 為 で あ る。 しか し、現在 の性犯罪被 害者 を取 り巻 く環境 は、暗数 が多い とい う問題 か らも分 るよ うに、被 害 を訴 えることさえ も躊躇 わ ざるえない もの となってい るのではない か と考 え られ る。 それ ではその背景 には一体 どの よ うな問題 が潜 んでい るのだ ろ うか。1
‑2では問題 点 を明 らかにす る 目的で強制 わいせつ、強姦罪 の条文 について検討す る。
1‑2 刑 法 176条 と刑 法 177条に 内在 す る 問題
ここでは、被害者支援 との関係で性犯罪 に対 して適用 され ることが多 く、個人の性的 自 己決定の権利 を侵害す る罪であるとみな されている、刑法176条と 177条 の条文内容 を確
棧挙件数
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認 し、そ の問題 点 を検討す る。
「刑法176条 十三歳 以上 の男女 に対 し、暴行又 は脅迫 を用 いてわいせ つ な行為 を した者 は、六月以上十年以下の懲役 に処す る。十三歳未満 の男女 に対 し、わいせ つな行為 を した 者 も、同様 とす る。」 研J法 177条 暴行 又 は脅迫 を用 いて十 二歳 以上 の女子 を姦淫 した者 は、強姦 の罪 とし、三年以上 の有期懲役 に処す る。十 三歳未満 の女子 を姦淫 した者 も、同 様 とす る。」
上記条文 は、性犯罪 に対す る厳罰化 が行 われ た平成 16年の刑 法一部改正 によ り法廷刑 の引 き上 げが行 われてい る。同改正 では、強制 わいせ つ罪 は上限が7年か ら10年へ、強姦 罪 は2年以上 の有期懲役 か ら3年以上 の有期懲役 へ といつた有期刑 の上限 引き上 げ とい う 厳罰 化 が行 われ14、 これ に よ り、改正前 の 日本 の刑 法 では財物 を強奪す る強盗罪 の下限が 懲役5年以上で あるの に対 して、強姦罪 は懲役2年以上 と、比較 的刑 が軽 く、被害者 の権 利 、性 的 自由がモ ノよ り軽 く扱 われ ていた こ とが是正 され るに至 った 。 また、 当該 改正 にお いて、新たに集 団強姦罪 (刑法 178条の2)等の新 しい規定が新設 された。集 団強姦 罪 は、強姦罪等 とは異 な り、親 告罪 の対象 とは され なか つたが、 この こ とは、複数人 と一 時 に性行為 を行 うこ とに対 して、被 害者 が同意す るこ とは一般 的 に考 え られ ない とす る社 会一般 の感 覚 を反 映 した もので あ る とい う意 味 において、立法者 が一 定 の理解 を示 した罪 の新設 であつた と解す ることがで きる。また、この改正 の背景 には2003年の大学生サー ク ル 「スーパー フ リー事件」(早稲 田大学 のイベ ン トサー クル 「スーパー フ リー」のメンバー が コンパ な どで泥酔 させ た女子 大学生 を集 団で強姦 した事件)が存在 す る16。 この事件 の 加 害者 は良識 のあるはず の大学生で あ り、その犯行 は計画的で、顔見知 りの関係 にある被 害者 が泣 き寝入 りす るこ とを前提 と した非常 に悪質性 の高い事件 で あつた。従 つて、 この 改正 に よ り、性犯罪被 害者 の権利 は、それ以前 と比較す る と、保護 され る よ うになつた と 考 え られ る。
しか しなが ら、 この よ うに性犯罪 に関す る刑法 の一部改正が行 われ たか らといつて性犯 罪被 害者 へ の対応 が十分 な ものへ と改善 され たわ けではない。被 害者 に対す る不利益 に関
して、現行 の条文 には以下4点の問題 点がある。
まず、第1に強制 わいせ つ罪や 強姦罪等 の性犯罪 の一部 が今 なお親 告罪 とされてい る点 であ る。親告罪 とは、被害者 の告訴・請求 を公訴 の条件 とす る犯罪 で、被 害者 の意思 を最 大 限尊重 しよ うとい う意 図が あ るが、実際 には性犯罪 の暗数化 を助長 す る制度 とな つてい
14「 刑法等の一部 を改正す る法律」平成16年 12月 8日 法律第 156号。 なお 、改正 され る 以前 の条文 は、刑法 176条 (強制 わいせ つ罪)「十 三歳 以上 の男女 に対 し、暴行又 は脅迫 を 用 い てわいせ つ な行為 を した者 は、六月以上七年 以下の懲役 に処す る。十二歳未満 の男女 に対 し、わいせつな行為 を した者 も、同様 とす る。」刑 法177条 (強姦罪)「暴行 又 は脅迫 を用 いて十三歳以上 の女子 を姦淫 した者 は、強姦 の罪 とし、二年 以上 の有期懲役 に処す る。
十三歳未満 の女子 を姦淫 した者 も、 同様 とす る。」 で あつた。
15「公 明新 聞」 2004年 H月 23日
16衆 議院法務委員会会議録第 5号、平成 16年 ■ 月 9日 、江 田康幸 (公明党)
る と考 え られ る。つま り、強制わいせつや強姦事件 の場合 、被害者 は被 害届 を出 し、起訴 に至 るまでには、被害事実が公 に知れ ることな ど様 々な精神 的負担 に耐 え切れず泣 き寝入 りや被害者側 との示談 に応 じて しま うこ とが少 な くない。そ してそ こには、性犯罪被害 に 遭 い被 害者 とな るこ とで 「女性 の価値 が下が る」 な どとい う社会 的 な偏 見が、 この様 な事 態 の根底 に存在す る と考 え られ る。
第2に強姦罪 について は、被 害者 は女性 のみ と限定 され てい る こ とか ら、男性 は性被 害 に遭 って も強姦罪 の被 害者 とな る こ とが出来ず 、強制 わいせ つ罪 の被 害者 に しかなれ ない とい う点である。姦淫 とは、性 にかかわ る不道徳 を指 し示す言葉 であるものの、上記 に挙 げた強制 わいせ つ罪 と強姦罪 の条文 とを比較 してみ る と、前者 で は被 害者 の対象 と して、
「男女」 との文言が記載 され てい るが、後者 では 「女子 を姦淫 した もの」 と被害者 とな り うるのは女性 に限 られ てい る。
また、強姦罪 の加 害者 の大半 は男性 であ り、そ こか ら男性 は性犯罪 の加害者 となるこ と はあつて も男性 が性被 害 に遭 うこ とな どない はず だ とい う思 い込 みが社会 に浸透 してい る
r。 この点 については、性犯罪 に関 して、 日本 と比べて積極的 な施策 が採 られ てい る米 国 で も、 日常生活場面 にお ける男性 の性的被害 に関す る調査 。研 究が、1980年代 に入 つてか らよ うや く本格 的 に始 ま ったが、そ の調査 。研 究 に よつて、「男性 が性 的被 害 に遭 うはず が ない」「も し遭 った として も抵抗 して防げるはず だ」といつた誤 つた思い込みの存在 、さら に男性 自身が 「性的被害=男性性 (男性 とい うアイデ ンテ ィテ ィー)の喪失」 ととらえ、
自責感 を抱 く傾 向があ るこ とか ら、女性 の場合 よ りも被 害が表沙汰 にな らず 、被害者 が必 要 な支援 を求 めない こ とが指摘 され てい るB。 この よ うな状況 では、男性 は被害者 にな り
えない上 に、被害 に遭 った場合 その事実 を周 囲に、そ して被害 を届 け出る警察 に信 じで も ら うこ とさえ難 しい と考 え られ る。
実 際 日本 では、男性 が被 害者 とな つた事件 が公 に され るケース ほ とん どないが、男児 の 場合 には新 聞で報道 され る場合 が あ る。 ここでは、一例 として新 聞記事19を取 り上 げ る。
男児 ばか りを狙 つてわいせ つ行為 を繰 り返 した として、埼 玉県捜査 1課な どは、無職男 性 (21)=強制 わいせ つ罪 な どで公 判 中=を新 た に6件の強制 わいせ つ な どの容疑で地 検支部へ追送検 した と 21日 発 表 した。「同性 に興 味が あつた。小 さな子 な ら言 うことを 聞 くと思 つた」 と容疑 を認 めてい る。(中略)容疑者 は当時大学生 で、他 に39件のわい せ つ事件 について関与 を認 める供述 を した とい う。
また、小林美佳 さんの著書 の中には、親戚 の男性 か ら被害 を受 けた男子 中学生の相談内
r太田美幸
『 性的虐待 を受 けた少年たち一ボーイズ・ク リニ ックの治療記録 一』新評論 2008
B前年、P8掲5 田口 。平・池 田 。桐生 (2010年)P127
Ю「朝 日新聞」2008年 10月 22日 朝刊 P27「 男児 にわいせつ 容疑者 を追送検21歳の男新 たに6件」
容 が記 載 され てい る20。 この よ うに男児 に対す る性犯罪 は社会的 に認識 され てい るが、一 般 の男性 に対す る性犯罪 は報道記 事 にな るこ とはまず ない こ とか ら、社会 的 にないが しろ に され てい る傾 向にある と言 える。この問題 の背景 には、保護法益 が、「性的 自己決定の権 利 」 と認識 され る一方 で男性 の 「性 的 自己決 定 の権利 」 につ いて は十分 に周知 されず 、女 性 に比べ対応 が遅れ てい る とい う問題 が考 え られ る。 この よ うに、性犯罪 において は男性 被 害者 の存在 は置 き去 りに され てい るが、被 害者 とな つた場合 には、男女の性別や年齢 な
どに関わ らず 、適切 な対応 が提供 され るべ きで あ る。
第3に、直接 的 には条文 その ものの問題 とは言 えないが、強制 わいせつ罪や強姦罪 にお いては、13歳以上の者 が被害者 とな つた場合 、条文上 に規定 され てい る暴行又 は脅迫の程 度 につい て、解釈 上被 害者 の抵抗 を著 しく困難 にな らしめ る程度 とい う高度の抵抗 が要求 され るこ とがあ る。 この被 害者 に求 め られ る高度 の抵抗 は、性行為 に関す る「不同意」を 証 明す る もの とされ てい るた め、被 害者 は、犯行 が行 われ た際 に、恐怖 に震 え体が思 うよ うに動 か な くとも、時 に結果死 亡 に至 るほ どまで の必死 の抵抗 を行 わな けれ ば、性行為に 関す る 「不同意」 の存在 が認 め られ ない こ とが ある。 だが、上記 の よ うな高度の抵抗 を被 害者 に要 求す る現在 の条文 の解釈 は、 あ る意 味で、同意 に基づ くものではない性行為、つ ま り性犯 罪 の加 害者 に関 して 「寛大」す ぎ る と言 えるので はない だ ろ うか。 なぜ な ら、性 犯罪 の場合 、被 害者 と加 害者 の間 に、圧倒 的 な社会 的地位 の差や 、力 関係の差等存在 しこ れ が利用 され るこ とが ある と考 え られ 、こ うい つた場合 には被 害者 の抵 抗 が無意 味な もの、
あるい は抵抗す るこ と自体不 可能 で ある こ とが考 え られ るが、被 害者 の高度の抵抗 を要求 す る暴行 又 は脅迫 につ いての解釈 で は、 この よ うな性犯罪 に対す る配慮 に欠 けてい る とい う問題 が あるか らで あ る。現在 次第 に、加 害者 と被 害者 との間の具体 的状況等が考慮 され つつ あるが、被害者 の視点か ら暴行又 は脅迫 に関す る解釈 が再検討 され る必要 がある と考 え られ るた め、 この点 につい て は、第4章において後述す るこ ととす る。
第4に現行 の刑 法典 は、今 か ら1世紀 以上前 の1907年 (明治40年)に制 定 され 、第 2次世界 大戦後 の1947年 (昭和22年)に姦通罪 の肖J除、1958年 (昭和33年)には凶悪 な 犯罪 で あ る として、強姦罪や 強制 わいせ つ罪等 の非親告罪化 が行 われ 、最近 では2004年(平
成 16年)に、一部性犯罪 の法定刑 の引 き上 げや 、集 団強姦罪や 同致死傷罪 とい う新 たな犯 罪類型 が新設 され てい る。 この よ うに、性犯罪規定 は、少 しずつ時代 の流れ と共 に変化 し て きてい るが、基本 的 な内容等 につ い て は制 定 以降 あま り大 きな変化 は見 られ ない21。 し か し、女性 の社会進 出が進 み、男女共 同参画社会へ と転換 してきた現代社会 において、1 世紀 以上前 の家制度 が存在 し、女性 の地位 が極 めて低 く位 置付 け られ ていた時代背景 の下 制 定 され た法律 には 「古 さ」 力`あ るので はないだ ろ うか。 それ は、刑 法 自体 に制 定当時の 立法者 の意識や 内容 に関 した 「古 さ」力`あることと、その よ うな法規則 の下にある専門家 20小 林美佳『性犯罪被害 とたたか うとい うこと』朝 日新聞出版2010年、Pl16 118
21上 野芳久『性犯罪をめぐる問題 と解決策一日本刑法典の性犯罪規定の検討 を中心に一』
犯罪社会学会第1日 セ ッシ ヨンD配布資料 2010年 10月 2日 、Pl
や一般 国民 の意識 の 「古 さ」、この2つの 「古 さ」の存在 をここでは指摘 したい。この2つ の 「古 さ」が上記 で指摘 した よ うな性犯罪 に関す る問題 の一つの要因 となってい るこ とが 考 え られ る。 この点 について は、第4章において改 めて取 り上げ ることとす る。
以上4つの問題 点 を挙 げたが、 この条文 の問題 点 には、性犯罪 の規定の保護法益 が強 く 関連 してい る と考 え られ る。そ こで1‑3では保護法益 について考察 し、問題 の根底 にある と考 え られ る、刑法 を中心 とす る法 において長 い間女性 に対 して一方的に求 め られ てきた
「女性像」 の存在 について検討す る。
1‑3強 制 わ い せ つ 罪 ・ 強 姦 罪 が 保 護 す る 「女 性 像 」 とは
刑 法 は 「強制わいせつの罪」 を 「わいせつ、姦淫及び重婚の罪」の章 (22章)に規定 して い ることか ら明 らかな様 に、制定 当初 は社会的法益 に関す る罪 とみな していたが、現在 の 学説 で は、個人 的法益 に関す る罪 とみ るこ とが通説 とな つてい る22。 そのた め、現在 にお いては、「身体 の安全」や 「性 的 自己決 定権」な どが 当罪 の保護法益 として重視 され る傾 向 にあ る。
しか し、この よ うに個人的法益 が重視 され始 める以前 には、専 ら「貞操 (観念)」 が性犯 罪 にお け る保護法益 であ る と認識 され ていた。 なぜ な らば、条文 の位 置 か ら明 らかな よ う
に、強姦罪 は制定時の発想 においては社会的法益 に対す る犯罪であつたか らである。「貞操 観 念」 とは一般 的 に 「婚姻 に よる夫婦 間以外 の性 関係 を容認 しない性道徳観念 」で ある と
され てい る。「貞操 (観念)」 は戦後 の 日本 で家制度 が解体 され 、憲法 において両性 の平等 が認 め られ るよ うにな り、結婚 に際 して夫婦相互 の貞操義務 が明示 され て もなお、女性達 に対 しては男性達 よ り強 く要求 され て きた23。 この根底 には、女性 がかつて 「男性 の所有 物 で あ る女性 とい う財 産 」で あ る と考 え られ 、姦 通罪24規定 が刑 法 に存在 していた時代 の 社会 的通念 が根 強 く残 つてい るので はないか と考 え られ る。
それ で は一体、「貞操」を保護 法益 とす る こ とに どの よ うな問題 が あ るのだ ろ うか。それ は、保護法益 として個人的法益 の外 に 「貞操 」が加 え られ る とき、それ は 「個人的法益が 侵害 されず とも『 貞操』が侵害 されたか ら強姦罪が成立す る」 とい う保護法益の拡大では な く「『 貞操』ない し『 貞操観念』のない被害者 については、保護法益の侵害がないか ら強 姦罪が成立 しない」 とい う保護対象の縮小の理由 として用い られているとい う問題である
25。 そ してそ こか ら、「貞操観念」が有 ると見なされ る女性 と、そ うでない女性 とでは保護 対象 として区別 され るとい う問題が生 じている。判例上、「貞操観念」に欠 けると見な され 22山 中敬一『刑法各論I』 成文堂2004年、P136
23石 井昭男『事例で学ぶ 司法におけるジェンダー・バイアス』明石書店 2003年、P297
24姦 通罪 とは婚姻 して配偶者のある者が、他者 と姦通することにより成立する犯罪。1880 年 7月 17日 に布告 された旧刑法353条に規定 され、1907年 4月 24日 に公布 された刑法183 条に引き継がれたが、現在では廃止 されている。
25前 掲23 石井 (2003年)P298
る女性 の多 くはいわゆる風俗営業や接待飲食等 営業26に携 わ る もので あ る場合 が多い。 し か しなが ら、特定の職業 に就 いてい るか らといつて人 の価値観や内面 に持つ性質 を客観 的 に判断す ることが公平な裁判 の場 で当然 の よ うに行 われてい ることは問題視 され るべ き事 態 で あ る。 また、今 では 日常生活 で用 い られ るこ との少 ない 「貞操」 とい う言葉 は、今 も なお男 女 間 の不平等 な扱 いや女性 の分 断 問題 を提 起 してい る とい う研 究 も存在す る27。 刑 事 司法 の場 では、明文規定 のない「貞操 」とい う言葉 が用 い られ てい るのが現状 で あ るが、
これ は本 当に必要な ものであるのだ ろ うか。
ここで はその現状 について、検討す る必要が ある と考 え られ るため、長文 ではあるが被 害者 が貞操観念 に欠 ける と見 な され る職 業 で あ り、「貞操観念」の有無 について言及 され て い る事件 の判例28を引用 して検討す る。
■公訴事実 。争点
被告 人 はA子 (当時 29歳/コンパ ニオ ン派遣会社勤務)を強いて姦淫 しよ うと企 て、
平成 5年5月 6日 午前4時頃、A子を乗車 させ た 自動車 を東京都某所 の駐車場 に乗 り入れ、
その場 で降車 し逃 げ よ うとす るA子に対 し、い きな りその背後 か ら腕 を掴 み、手で 口をふ さぎ、同社後部座席 に引きず り込んだ うえ、A子を座席 シー トにあおむ けに押 し倒 して馬 乗 りにな り「静 か に しろ。 じた ばたす るな。」 と言 い、そ の顔 面 を平手 で殴打 し、その喉元 を手 で押 さえ下着 を破 り取 り、脱 がせ て下半身 を裸 に し、「お とな しくしない と妊娠 させ る」
等 と言 い、暴行・ 脅迫 を加 えてそ の反抗 を抑圧 し、強 いてA子を姦淫 し、暴行 に よ りA子
に対 し、全治約3週間 を要す る右 眼球結膜 下 出血 、左 下腿 。両側 大腿 皮 下出血 の傷 害 を負 わせ た。争 点は当該事件 の被告人 とA子の性行為 に関す る同意 の有無 についてである。
また、裁判所 の判断 については、(1)被害者 の落 ち度 とこれ についての 自覚 、(2)被害 者 の素行 。経歴 (3)被 害者 の事件 直前 の言動 に関 し、被 害者 の職 業 についての偏 見 が あ り、
そのた め被 害者 に対す る落 ち度追及 が過 ぎるのではないか と考 え られ るた め以下で は該 当 箇所 を引用 し検討す る。
■ 裁 判 所 の 判 断
(1)A子の落 ち度 とこれ についての 自党 の有無A子の証言 によると、飲食店 で声 をかけ ら れ た初対 面 の被告人 らとその後他 の飲食 店 で夜 中の3時過 ぎまで飲酒 し、その際 にはゲー ム を してセ ックスの話 をす るこ とや 、A子自身 は野球拳 で負 けてパ ンス トまで脱 ぎ、同店 26コ ンパニオ ン、ホステス、援助交際の経験 を有す る女子。
27佐々木 陽子 「コラム 貞操観 念」(前掲23石井 、2003年、P260)
28平成6年 12月 16日/東京地方裁判 所/刑事第8部/判決/平成 5年 (合わ)第 167号
要 旨:強姦 致傷事件 において、被 害者 の証言 には不 自然 な点等 が多 くみ られ るな ど、その 信 用性 に疑 いが あ り、和姦 で あ る旨の被 告人 の弁解 を排 斥 し難 い と して無罪 を言 い渡 した 事例。
を出 る ときには一緒 にいた同僚 と別 れ て被 告人 の車 に一人 で乗 つた とい うので あるか らニ その後被 告 人 か ら強姦 され た こ とが真 実 で あつた として も、A子に も大 きな落 ち度 があつ た こ とは明 らかで ある。(下線筆者 、以下同様)(中略)A子が本心か ら自己に落 ち度 がな く、 自分 は慎重 に行動 していたな どと思い込 んでいて、その よ うな証言 を してい るので あ れ ば、A子は社会常識 に欠 け る ところが甚 だ しい女性 とみ られ て もや む を得 ないで あろ う し、本 心では落 ち度 を 自覚 してい る とすれ ば、その証言態度 の誠 実性 に疑 間が生 じ、その 証言 には こ とさ らに被 告人 に不利 にな るよ うに誇 張 した り、話 を作 つた りした部分 もあ る のではない か と疑 われ て も致 し方 ないで あろ う。
(2)A子の経歴・ 素行
平成 二年 ころか らパーテ ィー コンパ ニオ ンを してい る こ とが認 め られ る。 この よ うにA子 は、一般人から見ればかなり派手な経歴の持ち主であるといわなければならばならな ぃ。
(中略)5月 27日 とい うのは告訴 をす るか否 かで迷 つてい る時期 であるか ら、この証言 が 事実 で あ る とすれ ば、 この よ うな ときに、A子が 自宅 を訪れたFがア ダル トビデオ を見 る の を咎 めず に許容 した上、 自らも鑑 賞 してい るか も しれ ない とい うことになる。そ うす る と、 この当時A子は、告訴す るか ど うか悩み苦 しむ状況 になかつたのではないか とも疑 わ れ る ところであ る。
(3)A子の事件直前 の言動初対面の被告人 らの前で、ゲー ム とはい えセ ックスに関す る 話 を抵抗 な く してい る うえ、少 な く ともパ ンス トまで は脱 いで これ を手 に持 って振 り上 げ る とい う大胆 かつ刺激 的 な行動 を とつてい るので あるか らかな り節操 に欠 ける女性 で ある といわ ざるを得 ない。
以上 で引用 した通 り、裁判所 は、A子につい て、その素行 。経歴等 に よ り、慎重で貞操 観念 があ る とい う人物像 には似 つ かわ しくな く、そ の証言 には虚 偽・誇 張が含 まれ てい る と疑 うべ き兆候 がある とし、 この よ うな点 を念頭 に置 きなが ら、A子の証言 についての信
用性 を個人 的・ 具体的 に判 断 してい く姿勢 を示 した。 しか しなが ら、 同 じ女性 で あ りなが らも、職 業等 によ り貞操観念 の有無 を司法 に よ り判断 され 、個人的法益が保護 され ない と い う差別 を受 けることは非常 に不条理である。また、憲法 14条に規定 され てい る国民一人 ひ と りが国家 との法的権利・ 義務 の関係 に置いて等 しく扱 われ なけれ ばな らない とい う原 則 で あ る法 の下の平等 に も反 してい る と考 え られ 、司法 で の この よ うな著 しく被 害者 に不 利 な状況 は改 め られ るべ きで ある。
小括
第1章で は、刑法 176条、177条の条文 に関す る問題 点やその保護法益、刑事裁判 に関 す る性犯 罪被 害者 の問題 について検討 を行 つた結果 、性犯罪 の多 くが親告罪 で あ り、被 害
者 の意思 を最大 限尊重す る とい つたその意 図 とは対照的 に被 害が潜在化 してい る傾 向にあ るこ とや 、男性 は強姦罪 の被 害者 とな りえない こ と、13歳以上 の者 が強制 わいせ つ罪や 、 強姦罪 の被 害者 とな るた めには、必要以上 に厳格 な暴行・脅迫概 念 が適用 され るこ とな ど の問題 が あることを明 らかに した。 また、性犯罪 の保護法益 に関す る問題 には、刑法 をは じめ とす る法が女性 に求 め続 けてきた理想 の 「女性像」の存在 があ り、 これ が司法 におい て 「貞操観念」 とい つた基準 を創 り出 し、保護すべ き女性 とそ うでない女性 とを三分 し差 別化 してい る。 この よ うな現状 においては、性犯 罪被 害者 へ の対応や支援 は とて も充実 し てい る とは言い難い。そ こで、被 害者 の権利 が尊重 された支援 の拡充 には、 どの よ うな対 策 が必要 なのか を明 らか にす るた め、次 章 では実際 に性犯罪 が起 こつた場合 に、告訴 した 被 害者 が経験す る可能性 のあ る問題 を手続順 に検討す るこ とを通 じて、問題 の所在 を明 ら か にす る。
第 2章 性 犯 罪 被 害 者 を 取 り巻 く諸 問 題
2章で は、今後の被害者支援 が ど うあるべ きか検討す る 目的で、実際 に性犯罪 は発生 し た場合 、被害者 が告訴 してか ら裁判 が行 われ るまでの状況 について検討す る。
2‑1社 会 的 な 性 犯 罪 に 関 す る誤 つ た 認 識 の 存 在
性 犯罪 は決 して現実 とは程遠 い非 日常 に しか起 こるこ とのない犯罪 ではない。 内閣府 の
「男女間 にお ける暴力 に関す る調査」(平成 20年実施 、21年 3月 報告)による と、「異性
か ら無理や り性交 され た」 とい うレイプ被 害 のある女性 は、女性 回答者 の全体 の 7.3%で
あ り、これ は女性 1000人 当た り73人の被 害率 とな り、日本 の女性人 口を6000万人 と した 場合 、被 害 のあ る女性 は 438万人 に及ぶ こ とにな る29。 この よ うに、多 くの被 害者 が存在 す る と考 え られ性犯罪 は、 日常で何 時、誰 が被 害者 となるか も しれ ない危 険性 のある犯罪
なので あ る。
しか し、社会一般 では これが広 く認識 され てい るわけではな く、それ どころか、性犯罪 に関す る誤 つた認識 がま るで正 しい真実 であるかの よ うに存在 してい る。近年 、刑事 司法 や 民 間団体 が性犯罪被 害者支援策 に取 り組 み始 めた こ とに よ り、性犯罪 に対す る理解 が進 んで きてい るが、誤 つた認識 を一掃す るには至 つていない。 これ らの誤 つた認識 とは、い わ ゆる 「強姦神話30」 と呼 ばれ てい る ものだが、実際 の統計調査 な どと照 ら し合 わせ真偽 を検証す る といかに誤 りだ らけの認識 で あるか を明確 にす ることが出来 る。 そ こで、以下 では、「強姦神話」 を列挙 し、それが誤 りで あることを確認す る。
29森田ゆ り「隠 され続 けてきた暴力〜性暴力・性的虐待について考 える〜講演会の資料 よ り」2011年 6月 、NPO法人女性 と子供のヘルプラインMIE主催
30内 山絢子「性犯罪被害者の支援のための強姦神話の検証」『 現代教育月報』2009年 12月 号VOL27 N012財団法人性教育協会、Pl‑2
① 性犯罪 は見知 らぬ人 に路上で突然襲 われ る犯罪 で あ る。
性 犯罪 は全 く面識 が ない加 害者 に路 上 で突然襲われ る とい つたケースが全 てではな く、
既 に述べ た よ うに面識 のある、知人や友 人 とい つた関係 にあ る人 が加 害者 とな る場合 が あ り、屋 内において も被害 は発 生 してい る。警察庁 の統計 に よる と、強姦 の場合平成21年の カロ害者 と被 害者 の関係 が面識 有 りとい うケースは全体 の41.9%もの割合 を占めてお り、上 昇傾 向 にあ る。 また、 同様 に警察庁 の調査 に よる と強姦及 び強制 わいせつ の発生場所別認 知件数 の推移(最近 10年間)は,下図の とお りで あ る。
6‐4‑1‐4図 強 姦 。強 制 わ い せ つ の 発 生 場 所 別 認 知 件 数 の 推 移 ' 強 おりわ い ■ケつ
̀ゴ it色[11
││
;住宅 合・.l l屋 外 合 二,│
強姦 で は,屋外 比(認知件数総数 に占め る道 路上、駐車場 、空 き地及 び都 市公 園 を発 生 場所 とす る認知件数 の比率 をい う。 以下、本項 において同 じ。)と比べ,住宅比(認知件数 総数 に 占める住 宅 を発 生場所 とす る認 知件数 の比率 をい う。 以 下,本項 において同 じ。)
が高い31。
以上 の統計結果 か ら、性犯罪 は面識 の有無 に関係 な く、屋 内、屋外 を問わず発生 してい る事 が明 らかで あ り、「性犯罪 は見知 らぬ人 に路上 で突然襲 われ る犯罪 である。」 とは言 え ない。 また、 これ に関す る問題 として 「デー トレイプ」がある。 これ は、友人や知人等の 関係 にあ る人や 、交際 中の相 手等 の社会 的 に相 互 関係 にあ る者 との間での強姦や、合意 の ない性 交 の こ とを意 味す る。 これ は、被害者 と加 害者 が面識 のある関係 にあるケー スの一 つで あ り、被 害者 が事後 の関係性 な どを考慮 し、泣 き寝入 りして しま う可能性 が高 く、交 際 中の場合 は特 に現状 では、起訴 され た として も裁判所側 に同意 がなか った と信用 して も ら うこ とが難 しい。 しか しなが ら、交際 中であった として も、強姦罪や強制 わいせつ罪等 の構成要件 を満 たす よ うな性行為 が行 われ た とい う場合 は性犯罪被害者 であることには変 わ りはない。従 つて、今後、 この様 な問題 に関 して も被害者 が必要のない我慢 を強い られ るこ とが無い よ うに親 告罪規 定 の撤廃 な ど対策 の必要性 が あ る。
② 性犯 罪被 害者 は若 い女性 に限 られ てい る。
(2006年)第 4章第 1節
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31前掲 12『平成 18年度版犯罪 白書』
性犯罪 の被 害 に遭 うのは若 い女性 に限 られ てい る とい つた強姦神 話 が存在す るが、実際 被害者 は若 い女性 ばか りではない。性犯罪被 害者 とな る女性 の年齢 ご との構成比 を見てみ る と、平成 17年の強姦・強制 わいせ つの被害者 の年齢層別構成比 (下図)を見 る と、強姦・
強制 わいせ つ共 に13歳以上29歳以下 の女性 が最 も多 く強姦 で全体 の82.6%、 強制 わいせ つでは13歳以上29歳以 下が男子 で は全体 の37.8%、 女子 で は74.3%であ り、統計上 は確 かに若 い被 害者 が多い。 しか しなが ら、13歳未満 の被 害者 が強姦 で全体 の3.5%、 強制 わ いせつでは男子 で 50.2%、 女子 で 15.0%を占め、40歳以上 が強姦 で5.2%、 強制 わいせ つ で男子 では6.5%、 女子 で3.0%を 占めてい る32。
C4‐1‐8図 強 姦 ・ 強 制 わ い せ つ の 被 害 者 の 年 齢 層 別 構 成 比
ヽ 強 姦
6‑・ 12■1 13‑19歳
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この よ うに、児童 の よ うに簡単に 自分の意 のままにな る、身体的 に犯行 に対す る抵抗 の 程度 が弱 い、等 の理 由か ら、児童 ばか りを狙 う者33もいれ ば、67歳の女性 が被害者 となっ た強姦致傷事件 が存在 してい る34。 また、一般 に年代 としては配偶者や子供 がい ることが 多い30代以上の女性 も被 害者 とな ってい るが、そ の よ うな場合 、母 で あ り妻 であ る女性 は、
家族 に迷 惑 をか けた くない、家庭 を守 りたい な どの理 由か ら被 害 を明 らか にす るこ とは難 しいので はないか と考 え られ るこ とか ら、統計 に出て こない暗数 と化 した被害が相 当数存 在 で あろ うこ とが推測 され る。
以上 か ら、年齢 に関係 な く性犯罪被 害者 とな るこ とは あ り、 また強制 わいせつ におい て は女子 だ けではな く男子 も被害者 となってい る。 この こ とか ら、被害者支援 をす るにあた っては、被害者 の年齢 は幅広 く、男女共 に存在す ることを念頭 において対策 を とるべ きで ある。
③ 3会姦 され るのは被害者 に責任 が あ るか らだ
刑 事 司法 の場 な どにお いて、 しば しば、性犯罪 の場合 には被 害者 の落 ち度 (落ち度 、軽 率、挑発)があつたか とい うこ とについて追及 され る こ とが あ る。
32前掲12『平成18年度版犯罪白書』(2006年)、 第4章
33性犯罪捜査研究会編著『性犯罪被害者対応ハンドブック[再訂版]』 2008年、立花書房、
P734昭和59年 1月 25日/東京高等裁判所/第 5刑 事部/判決/昭和 56年 (う )第 625号