信重 綾 *・瀧井 綾子 **,***・岡部 友峻 *・山城 滉一郎 *・伊藤 大輔 ****
犯罪被害者に対する心理的支援のために必要なコンピテンスの検討
要約 本研究の目的は,犯罪被害によって様々な問題を抱える被害者に対して心理的支援を行う際に,心理士 に必要とされるコンピテンスを明らかにすることであった。犯罪被害等に対する心理社会的支援について 包括的に記載されているガイドラインなどを参照し,知識・技能・態度の3つの観点からコンピテンス項 目を抽出した。その結果,合計358のコンピテンス項目が抽出された。その後,臨床心理学を専門とする 大学教員1名と臨床心理学専攻の大学院生4名で,項目内容の妥当性の検討後,項目内容が重複および類 似している項目を統合・整理した。その結果,「被害者支援に関する基本的なコンピテンス(8の中項目と 15の小項目)」,「アセスメントに関するコンピテンス(2の中項目と11の小項目)」,「介入のためのコンピテ ンス(7の中項目と10の小項目)」,「連携のためのコンピテンス(1の中項目と7の小項目)」の全4カテゴリー, 18の中項目,43の小項目に集約された。今後は,調査やインタビューを用いてコンピテンス項目をさら に収集することや,コンピテンス項目の妥当性を検討することで,本コンピテンスリストを精緻化してい くことが望まれる。 キーワード:犯罪被害者支援,心理士,コンピテンス 問題と目的 1. 本邦の犯罪被害の実態 令和元年版犯罪白書(法務省法務総合研究所, 2019)によると,本邦における,人が被害者となっ た刑法犯の認知件数および男女別の被害発生率は, 平成に入り,増加・上昇傾向にあった。しかし, 平成14年をピークとして,それ以降は減少・低 下し続け,平成30年は,認知件数・被害発生率 共に平成14年の約4分の1であった(認知件数: 639.722万件,被害発生率:505.9件)。しかし ながら,児童虐待や配偶者からの暴力,性被害な どの表面化しづらい犯罪が存在することや,犯罪 につながりうる事案の増加を示すデータもある。 例えば,平成30年度の児童相談所による児童虐 待相談対応件数は,15万9850件(速報値)であり, 過去最多を更新した(厚生労働省,2019)。また, 警察における,配偶者からの暴力事案等の相談等 件数は年々増加している(警察庁,2019)。さら に,平成31年の調査における過去5年間の性的事 件の被害について,届け出がなかった者の割合は 80.0%であり,性的事件の被害については,暗数 が相当数あることが推測されている(法務省法務 総合研究所,2019)。 このように,犯罪の認知件数は低下・減少して いるものの,被害者自らが被害を訴えることが困 難であるために,支援の届かない被害者が少なか らず存在しているのが現状である。そして,警察 庁(2019)によると,犯罪被害者本人およびそ の家族または遺族は,犯罪被害を受けていない一 般の人と比較して,生活や対人関係の否定的な変 化が多くなっていることや,高い割合で精神的な 問題や悩みを抱えていることが報告されている。 * 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 ** 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科 *** 日本学術振興会特別研究員(DC1) ****兵庫教育大学心に割り込んでくる侵入反応を始めとする①再体 験症状,侵入反応と距離を置くあるいは侵入反応 を防ぐために,外傷となる出来事に関連するもの を避ける②回避・麻痺の症状,過度な緊張状態が 続く③覚醒の亢進状態,④否定的な情動・認知の 変化がみられる。また,PTSDに該当しない被害 者においても,以下のような認知や感情の変化が みられることがある。認知の変化としては,犯罪 被害によって,世の中や他者に対する基本的な信 頼 感 や( 国 立 精 神・ 神 経 医 療 研 究 セ ン タ ー, 2013),「自分が安全である」という信念が損なわ れる(「地域精神保健福祉機関における犯罪被害 者支援」研究班,2008)などが挙げられ,その ことが,人と信頼関係を築くことへの困難,ひき こもり,自傷行為や希死念慮を引き起こす場合が ある。また,感情的な変化としては,加害者に対 する強い怒りや不安(国立精神・神経医療研究セ ンター,2013),「自分が悪いから事件に遭った」, 「自分は価値のない人間だからこのような目に 遭った」などの強い罪責感や自分を恥じる気持ち が生じる場合がある(「地域精神保健福祉機関に おける犯罪被害者支援」研究班,2008)。さらに, 気分障害や薬物・アルコール依存の問題が併存す ることもある。そして,犯罪被害者遺族では,喪 失による長期化した通常ではない悲嘆とされる複 雑性悲嘆が問題となることがある(小西,2008)。 最後に,犯罪等被害による社会的側面への影響 としては,精神的・身体的被害による仕事上の困 難や,経済的な困窮,不本意な転居や住居の問題, 家族関係の変化が挙げられる(内閣府,2008)。 また,司法手続きにおける精神的負担や(国立精 神・神経医療研究センター,2013),対人関係の 混乱,風評被害,責任問題,マスコミの取材等に よる社会機能の低下といった問題が生じる恐れが ある(「地域精神保健福祉機関における犯罪被害 者支援」研究班,2008)。 このように,犯罪被害者は,身体的,心理的, 社会的側面において様々な問題を抱えるリスクが 高いことが知られている。したがって,それぞれ の問題に対する手厚い支援が求められるとともに, 2. 犯罪被害によって生じる問題 犯罪被害者は,犯罪による直接的な被害に加え, 被害後も身体的・心理的・社会的側面における副 次的な被害に苦しめられる。まず,犯罪等被害に よる身体的側面への影響としては,被害後に,強 い精神的衝撃による影響を受け,顔面蒼白や冷や 汗,弱脈,頻脈,めまいや呼吸の異常がみられる こ と が あ る(National Child Traumatic Stress Network and National Center for PTSD,2006 兵 庫県こころのケアセンター訳,2009)。また,睡 眠障害や食欲の異常,疲れやすさや身体のだるさ, 不安からくる身体症状としての動悸や呼吸困難, 手のふるえやしびれ,頭痛や体の痛み,吐き気な どの身体の変化がみられることもある(「地域精 神保健福祉機関における犯罪被害者支援」研究班, 2008)。 また,犯罪被害等による心理的側面への急性期 における影響としては,健忘,フラッシュバック, 情動不安定,不安,恐怖,苛立ち等が挙げられて いる。さらに,精神的な混乱による言動のまとま りのなさが見られたり,注意力が減退したりする 場合も少なくない(国立精神・神経医療研究セン ター,2013)。そして,急性期に見られる精神疾 患としては,急性ストレス障害(Acute stress disorder: 以下,ASD)が挙げられる。ASDは,外 傷 後 ス ト レ ス 障 害(Posttraumatic Stress Disorder: 以下,PTSD)の侵入症状,回避,過覚 醒の症状,否定的な情動・認知の変化が,トラウ マ体験の4週間以内に始まり,3日から1か月程で 自然治癒するとされている疾患である。また,解 離性の症状(感情の麻痺,周囲への注意力の低下, 現実感消失,離人症,解離性健忘)を示す場合も ある。そして,被害者遺族では,死に対する悲し みや怒り・不安,死を防げなかったことへの罪悪 感,安らぎを与えてやれなかったことへの後悔と いった急性悲嘆反応が表れることがある。 さらに,心理的側面への中長期的な影響として は,急性期の症状の慢性化や悪化が挙げられ,慢 性期の代表的な精神疾患であるPTSDを発症する ことがある。PTSDでは,トラウマ体験の記憶が
において,犯罪被害者等を支援するために必要な 知識や資料がまとめられている。加えて,国立精 神・神経医療研究センターが2013年に発効した 「犯罪被害者に対する急性期心理社会支援ガイド ライン」は,犯罪被害後急性期における被害者に 対して,「こころのケア」を円滑に提供できるよう になることを目的に作成されたガイドラインであ る。同ガイドラインで想定される支援者とは,警 察官,民間被害者支援機関職員,行政の被害者相 談担当職員,精神科医師や臨床心理士など精神保 健専門家,地域保健・医療保険に携わる専門家(他 科医師・看護師・保健師など),弁護士,検察庁 職員である。これらのガイドラインは,専門家ご とに求められる役割については明確にされておら ず,精神保健福祉センターにおける多職種の専門 家や,犯罪被害者支援に携わる支援者全般を対象 とするなど,比較的幅広い対象を想定して作成さ れている。 そして,これらのガイドラインにおいて,犯罪 被害者への心のケアの重要性が指摘されているこ とから,国家資格化された公認心理師などの犯罪 被害者支援に携わる心理士が担う役割は大きい。 近年では,認知行動療法を基盤とした性犯罪再犯 防止のための教育プログラム(法務省法務総合研 究所,2016),暴力防止プログラム(法務省法務 総合研究所,2019),様々な専門的処遇プログラ ム(法務省,2020)が実施されるなど,司法・ 犯罪領域において,治療的かつ教育的なアプロー チとしての認知行動療法による支援が行われてい る。そして,犯罪被害者支援においても,持続エ クスポージャー法によるPTSD治療実践の効果報 告が蓄積されつつあるなど(小西・吉田,2014), エビデンスに基づく心理学的支援の推進が期待さ れている。 しかしながら,犯罪被害者支援に関わる心理士 を育成するためのプログラムやカリキュラムなど は体系化されておらず,個々人の裁量でスキル向 上に取り組んでいるのが現状である。そのため, まずは,犯罪被害者支援に携わる公認心理師およ び臨床心理士といった心理専門家に求められるコ 各側面における問題が複雑に絡み合っている可能 性も考慮した,包括的な支援が求められていると 言える。 3. 犯罪被害者への支援 犯罪被害者を保護するために制定された法律と して,平成16年に成立した,犯罪被害者等基本 法がある。同法は,「犯罪被害者の権利」の保護を 重視し,経済的な支援,地域における支援,司法 参加や医療及び心理的支援などの総合的かつ計画 的な推進を図ることを目的として制定された。そ して,同法に基づき,2005年に「第1次犯罪被 害者等基本計画」,2011年に「第2次犯罪被害者 等基本計画」,2016年には「第3次犯罪被害者等 基本計画」が策定された。「第3次犯罪被害者等 基本計画」では,中長期的な犯罪被害者を支援す る視点が示され,犯罪被害者を保護する取り組み の更なる強化が図られている。 また,犯罪被害者を支援する機関として,民間 支援団体である「被害者支援センター」が全国の 各都道府県に設置されている。同センターでは, 「電話相談」や「面接相談」,裁判所・警察などへ の付き添いや日常生活の手助けといった「直接的 支援」を行い,継続的な支援を提供している。さ らに,警察や検察庁,法テラスや弁護士会におい ても,相談窓口の設置や被害者のための制度を利 用した支援によって,犯罪被害者をサポートする 体制が取られている。そして,医療機関では,被 害による身体的な問題から,被害後の精神的な問 題に対する治療や措置が行われる。その他,地方 自治体における相談・問い合わせ対応や,関係部 局・関係機関・団体に関する情報提供・橋渡しな どが行われている。 以上のような様々な領域における被害者への支 援の1つの指針として,いくつかのガイドライン が発行されている。例えば,地域精神保健福祉機 関における犯罪被害者支援研究班が,2008年に 発効した「犯罪被害者支援のための地域精神保健 福祉活動の手引―精神保健福祉センター・保健所 等における支援―」では,精神保健福祉センター
象とした。また,項目抽出に際して,「犯罪被害者 等支援のための地域精神保健福祉活動の手引」― 精神保健福祉センター・保健所等における支援― 実践ガイドライン(「地域精神保健福祉機関にお ける犯罪被害者支援」研究班,2008),「犯罪被害 者の精神健康の状況とその回復に関する研究 平 成17年度−19年度 総合研究報告書」(小西, 2008),「犯罪被害者のメンタルヘルス」(小西他, 2008)についても,②のガイドラインに付随・ 関連する資料として,適宜参照した。 分析方法 本研究では,2段階で各ガイドラインから項目 を抽出した後,抽出された項目の分類と検討を 行った。まず,第1段階で,臨床心理学専攻の大 学院生4名が,それぞれ独立して,各ガイドライ ンから,犯罪被害者支援に携わる支援者として必 要であると考えられる項目を,知識・技能・態度 の3つの観点からコンピテンス項目として抽出し た。そして,第2段階では,各ガイドラインから 抽出されたコンピテンス項目に関して,第1段階 で項目を抽出した者とは別の者がダブルチェック を行い,その妥当性を確認した。その結果,最終 的に,「犯罪被害者支援のための地域精神保健福祉 活動の手引―精神保健福祉センター・保健所等に おける支援―」から65項目,「犯罪被害者に対す る急性期社会支援ガイドライン」から142項目, 「サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手 引き 第2版」から106項目,「犯罪被害者支援ハ ンドブック・モデル案」から45項目の合計358 項目が抽出された。 次に,項目の分類および整理について,臨床心 理学を専門とする大学教員1名と,臨床心理学専 攻の大学院生4名を含む5名が,各ガイドライン から抽出された項目について,内容が重複および 類似している項目を分類し,小項目を作成した。 次に,内容の関連性に基づいて小項目を分類し, 中項目を作成した。同様に,内容の関連性に基づ いて中項目を分類し,大項目を作成した。そして, 小項目内の項目内容をまとめ,より分かり易い表 現に修正し,小項目名を定めた。同様に,中・大 ンピテンス(知識や技能)を明確化することによっ て,体系化された教育プログラムの開発に繋げる ことが可能となると考えられる。 4. 目的 以上のことから,犯罪被害者に対する心理的支 援を行う支援者に求められる知識・技能・態度を 明らかにし,コンピテンスリストを作成すること を目的とする。なお,本研究では,犯罪被害者基 本法における定義に従い,犯罪およびこれに準ず る心身に有害な影響を及ぼす行為を「犯罪等」, 犯罪等により害を被った者およびその家族または 遺族を総称する用語として,「犯罪被害者等」(以下, 「被害者等」)を用いる。 方法 分析対象 犯罪被害者支援領域における研究が国内外で行 われている現状を鑑み,調査やインタビューなど によってコンピテンス項目を作成するのではなく, 先行研究などを参照して文献研究を行い,コンピ テンス項目を抽出する方法を選択した。具体的に は,犯罪被害者等の心理社会的ケアについての支 援指針が包括的に記述されていることを基準とし て,日本の省庁および国家機関から発行されてい る犯罪被害者支援に関するガイドラインを検索し た。その結果,①「犯罪被害者に対する急性期心 理社会支援ガイドライン」(国立精神・神経医療 研究センター,2013),②「犯罪被害者支援のた めの地域精神保健福祉活動の手引―精神保健福祉 センター・保健所等における支援―」(「地域精神 保健福祉機関における犯罪被害者支援」研究班, 2008),③「犯罪被害者支援ハンドブック・モデ ル案」(内閣府,2008)を選択した。さらに,世 界的に災害やテロ等の急性期の危機介入法として 取り入れられている④「サイコロジカル・ファー ストエイド 実施の手引き 第2版」(National Child Traumatic Stress Network and National Center for PTSD,2006兵庫県こころのケアセン ター訳,2009)の4つのガイドラインを分析対
おしつけ,⑦共感ではなく同情や憐みを示す,⑧ 被害者の話を聞こうとしない,⑨できないことの 約束,の9つを挙げている。本研究で見出された コンピテンスは,支援者が上記のような言動に よって被害者を傷つけることなく,クライアント の置かれている状況や心身の状態に合わせて配慮 しながら支援を行うために必要なコンピテンスが 網羅されていると言える。 さらに,このコンピテンスには,犯罪被害者支 援にあたる支援者のメンタルヘルスを維持するた めのコンピテンス項目も含まれている。例えば, 支援者は,犯罪被害に対応することで生じうる バーンアウトや二次受傷によって,被害者に適切 な対応を取ることができなくなる可能性がある (国立精神・神経医療研究センター,2013)。そ のため,支援者は,そのことに留意し,自身のメ ンタルヘルスに対する適切な対処を行うことが必 要である。また,犯罪被害者が被害後に関わりを 持つ専門機関や,利用可能な制度・サービスは多 岐にわたり,法改正や新たな制度の制定に伴って 変化する場合もある。そのため,支援者は,被害 者のニーズに応じた支援を提供するために,それ らに関する最新の情報を幅広く保持しておかなけ ればならない。それらに加えて,地域社会におい て,犯罪被害者に対する理解や支援の促進を図る ことが,セーフティーネット構築につながると考 えられることから,世間一般への啓発活動を行う ことも求められる。 B. アセスメントに関するコンピテンス アセスメントに関するコンピテンスは,事件に 関する情報を把握したうえで,事件によって被害 者にもたらされた心理・社会・身体的影響を包括 的に評価し,適切な介入へとつなげるために必要 なコンピテンスである。例えば,犯罪被害者支援 では,事件に関する内容が面接の中で語られる場 合も少なくないが,事件などのつらい体験が語ら れた際に,「体験」として聞き取る部分と,「事実」 を確認する部分とを意識して対応することが望ま しいとされている(大山, 2008)。つまり,被害者 の語りに耳を傾け,事件に関する被害者自身の捉 項目についても,それぞれの項目を構成する下位 項目の内容に基づいて,中・大項目名を定めた。 項目リストの作成に当たっては,犯罪被害の臨床 の実践で必要とされる知識・技能・態度を網羅し ていること,トレーニング段階の支援者でも理解 可能な表現であることに注意し,総合的に検討を 行った。 結果と考察 項目抽出および項目内容の整理 各ガイドラインから抽出された全358項目は, 8の中項目と15の小項目から成る「A. 被害者支援 に関する基本的なコンピテンス」,2の中項目と 11の小項目から成る「B. アセスメントに関する コンピテンス」,7の中項目と10の小項目から成 る「C. 介入のためのコンピテンス」,1つの中項 目と7の小項目から成る「D. 連携のためのコンピ テンス」の合計4つの大項目に集約された(Table 1)。以下に,各大項目の特徴について示し,簡 潔に考察する。 A. 被害者支援に関する基本的なコンピテンス 被害者等支援に関する基本的なコンピテンスは, 犯罪被害に遭い,心身ともに深い傷を負った被害 者が,安全な場で,安心して支援を受けるために 求められる支援者側の姿勢や配慮,必要な知識に 関するコンピテンスである。犯罪被害者は,犯罪 被害によって深く傷つき,情動的に混乱した状態 にある場合が多い(国立精神・神経医療研究セン ター,2013)。そのため,支援者は,そのような クライアントの状態に巻き込まれることなく冷静 に対応しつつも,安心感を与える場の設定や対話 を促進する態度を心がけることが必要である。ま た,支援者による介入が被害者にとって負担とな る場合や,支援者の言動が,犯罪被害によって傷 ついた被害者をさらに傷つけ,二次被害が生じる 場合がある。中島(2008)は,二次被害となり うる関わりとして,①罪悪感の増長,②被害状況 を他の人と比較する,③もっと強くなれとはげま す,④感情を出すことを禁止する,⑤偏見や先入 観をもって接する,⑥自分の道徳観念,宗教感の
えるのではなく,被害者の状態を聞きながら双方 向的に行い,被害者の状態に合わせた心理教育を 心がけることも重要である(斎藤, 2016)。 また,犯罪被害によって生じやすい反応として, 不安や怒り,罪悪感や恥といった否定的な感情が 挙げられる(「地域精神保健福祉機関における犯 罪被害者支援」研究班,2008)。そのため,心身 の緊張を和らげ,自身の反応に適切に対処するた めに,リラクセーションやストレスマネジメント 法の実施が必要となる場合があるため,それらの 知識についても保持しておく必要がある(「地域 精神保健福祉機関における犯罪被害者支援」研究 班,2008; National Child Traumatic Stress Network and National Center for PTSD,2006 兵 庫県こころのケアセンター訳,2009)。さらに, PTSD症状に対しては,トラウマに焦点化した精 神療法が有効であるが,犯罪被害者支援において は,一般的な心理支援とは異なり,心理学的介入 と並行して司法手続きが行われる場合があるため, その導入時期については注意する必要がある。斎 藤(2016)は,刑事手続きが進行している段階 や裁判での証言が控えている段階でトラウマに焦 点化した認知行動療法を行うと,被害者への負担 が大きすぎる場合があることを指摘している。そ のため,刑事手続きの進行を鑑みつつ,被害者に とって最も適切な導入のタイミングを慎重に検討 することが必要であるとしている。 そして,犯罪被害者本人だけでなく,その家族 や関係者に対する介入が必要な場合もある。犯罪 被害によって被害者の家族もショックを受けてい ることに留意し,支援を行うとともに,家族や関 係者によって被害者に二次被害が及ぶことを防ぐ ために,心理教育や対応方法について助言するこ とが求められる(国立精神・神経医療研究セン ター,2013)。特に,クライアントにマスメディ アが接触する可能性がある点は,犯罪被害者特有 の事柄であるため,クライアント保護の視点に立 ち,適切な対応を行う必要がある。 そして,犯罪被害によって家族を喪った遺族に 対する介入が必要となる場合もあると考えられる。 え方を尊重する一方で,被害者の同意を得たうえ で,事前の情報収集や他機関及び関係者から情報 収集することによって事実を把握しておくことも 必要であり(国立精神・神経医療研究センター, 2013),そのようなコンピテンス項目が挙げられ ている。 また,事件の内容や加害者との関係性,司法手 続きの状況などによってクライエントの状態が変 化する場合があり(小西,2008),そのことがク ライアントの抱える問題の見立てや支援方針の決 定に影響を及ぼすことが少なくないことが,一般 的な心理支援とは異なる点であろう。そのため, 被害者は安全が確保されている状況にあるのか, 被害者の司法手続きはどの段階にあるのかなど, クライアントが置かれている状況や,司法的な関 わりも踏まえてアセスメントを行うことが求めら れる(国立精神・神経医療研究センター,2013)。 さらに,一般的な心理支援と同様に,被害者のニー ズを明確化し,取り組むべき優先課題を精査し, 被害者の意思に沿った支援方針の決定を協働的に 行うことが求められる。斎藤(2016)は,被害 者支援で心理士が行うアセスメントにおいて,被 害者自身のニーズを把握すること,被害者の状態 を見立てること,支援全体における精神的支援の 位置づけや役割を見極めることが必要であると述 べており,本研究で抽出および集約されたコンピ テンスの内容に共通している。 C. 介入のためのコンピテンス 介入のためのコンピテンスは,犯罪被害が心身 に及ぼす様々な影響に対して,適切な介入や情報 提供を行うために必要なコンピテンスである。一 般的な心理支援と同様に,アセスメントによって 得られた情報に基づき,クライアントのニーズに 応じた介入が求められる。心理学的介入において は,被害者の反応は,犯罪被害によって生じたも のであるということを心理教育として説明するこ とが,症状の理解や,ノーマライゼーション,自 責感や不信感などの機能不全思考の理解と対処, 症状回復への見通しを得ることにつながりうる (中島,2008)。その際には,一方的に情報を伝
るためのコンピテンスが挙げられた。 今後の課題 本研究におけるコンピテンスリストは,犯罪等 の種別を問わず,全般的な犯罪を想定して作成さ れた。しかし,犯罪種別によっても犯罪被害者等 のニーズは異なると考えられる。例えば,性暴力 被害者は,精神的衝撃が大きいという特徴や,性 感染症や妊娠のリスクから,医療機関との連携が 重視されるといった特徴がある。また,一般的な 犯罪被害の場合,治療導入期に事件以前の問題を 問うことは,患者に被害者特有の自責を生じさせ る恐れがあるために控えられることがあるが,虐 待被害の場合には,生育歴を丁寧に聞き取ること が支援において重要となる場合がある(白川, 2008)。したがって,本研究で得られたコンピテ ンスをさらに細分化するなどして,被害者が被っ た犯罪等の内容と,それによって被害者に及ぼさ れた影響に応じた適切な支援が提供できるように, 問題特異的なコンピテンスリストの作成が求めら れる。そのためには,特定の対象者に対して,イ ンタビュー調査などを実施し,コンピテンス項目 を抽出する必要があるだろう。また,本研究で抽 出されたコンピテンスのうち,犯罪被害者遺族に 対する支援のためのコンピテンス項目は,比較的 少ない結果となった。今後は,犯罪被害者遺族に 対するコンピテンスについても,詳細に検討する 必要があると言える。 さらに,今後,本研究で作成されたコンピテン スリストを,犯罪被害者支援に携わる支援者のト レーニングや研修のために活用するためには,非 臨床的なコンピテンスの内容を充実させるなど, より広い視点で犯罪被害者支援に求められるコン ピテンスを捉え,検討していく必要もあるだろう。 そして,これらの項目を含めて,犯罪被害者支援 を専門とする研究者や実践家との協議や量的研究 を行いながら,コンピテンス項目としての妥当性 をさらに検討していくことが求められる。 以上のように,本研究によって,被害者支援に 関わる心理専門家に求められるコンピテンスがす べて明らかにされたわけではない。しかしながら, その際,悲嘆反応や,それが長期化や慢性化した 反応である複雑性悲嘆,うつ病やPTSDといった 反応に対する心理学的介入が求められる(白井, 2008)。本邦では,病死遺族や被害者本人よりも 犯罪被害者遺族の方が精神健康やトラウマ反応に おけるハイリスク者が多く存在することが報告さ れているにもかかわらず,犯罪被害者遺族の精神 疾患について焦点を絞った報告はごく少数にとど まっている(白井,2008)。そのため,被害者遺 族のメンタルヘルス対策に関するコンピテンスに ついては,今後さらなる検討が必要であると考え られる。 D. 連携のためのコンピテンス 犯罪被害者は,精神的問題だけではなく,生活 上,経済上そして社会生活においても様々な困難 を抱えており,「切れ目のない支援」が求められる。 そのため,関係機関・団体との連携により,被害 者の多様なニーズに答えていくことが必要となり (「地域精神保健福祉機関における犯罪被害者支 援」研究班,2008),コンピテンス項目として多 く抽出された。現在,犯罪被害者等の対応にあたっ ている機関として,警察,民間被害者支援団体, 市区町村の被害者相談窓口,医療機関,女性セン ターが挙げられる。そのような機関における担当 者を対象に行われた,「犯罪被害者等支援のための 多機関連携に関する調査」(伊藤・大岡・大塚, 2019)では,連携上の難しさから,「支援全体を コーディネートできる者が必要」「多種多様な支 援を要する被害者のために,コーディネート機能 を有する機関・団体の必要性を感じる」という声 が報告されている。このことから,犯罪被害者の ための多機関連携におけるコーディネーター的な 役割が求められていると言える。犯罪被害者支援 を行う心理専門家は,多職種連携において,セラ ピストや所属機関および他機関の役割や専門性に ついて理解し,適切なリファーを行うだけでなく, 関係機関・団体間の連絡や相談の円滑化,業務調 整などを行うことが必要である。したがって,連 携を促進するコーディネーターとしての役割を担 う専門家としても位置づけられ,それらを実行す
公共社団法人 全国犯罪被害者支援ネットワーク https://www.nnvs.org/higai/structure/ 厚生労働省(2019).子ども虐待による死亡事例 等の検証結果等について(第15次報告)及 び児童相談所での児童虐待相談対応件数 h t t p s : / / w w w . m h l w . g o . j p / s t f / houdou/0000190801_00001.html(2020 年8月27日閲覧) 内閣府(2008).犯罪被害者支援ハンドブック・ モデル案 中島聡美(2008).犯罪被害者治療の実践的組み 立てと連携 小西聖子(編)(2008).犯罪 被害者のメンタルヘルス 誠信書房,64-81. National Child Traumatic Stress Network and National
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Competencies Required to Provide Psychological Support to Victims of Crime
Aya Nobushige*, Ayako Takii**,***, Yushun Okabe*, Koichiro Yamashiro*, Daisuke Ito****
*Graduate School of Education, Hyogo University of Teacher Education
**The Joint Graduate School in Science of Shool Education, Hyogo University of Teacher Education ***JSPS Research Fellowship for Young Scientists (DCI)
****Hyogo University of Teacher Education Abstract
The purpose of this study was to identify the competencies required for psychologists to provide psychological support to victims. Based on the comprehensive guidelines on psychosocial support for victims of crime, the competencies were extracted from the three perspectives of knowledge, skills, and attitude. As a result, a total of 358 competence items were extracted. A clinical psychologist (n=1) and graduate students (n=4) examined the validity of the items, and then integrated and organized the items that were overlapped or similar. As a result, the following items were finally summarized: "Basic competence for victim support (8 items and 15 sub-items)", "Competence for assessment (2 items and 11 sub-items)", "Competence for intervention (7 items and 10 sub-items)", "Competence for cooperation (1 item and 7 sub-items)", "Competence for intervention (1 item and 7 sub-items)" . The discussion recommends that this list of competence items will be further refined by collecting more competence items through interviews, and by examining the validity of competence items.