藤 原 勝 幸
1. 緒 言
最近,水素貯蔵材料 として金属水素化物が注 目されているが, これ と並行 して,金属の物 性面での水素吸収の影響についての研究が数多 くなされている.希土類金属 と遷移金属 との 間に作 られ る金属間化合物は,適当な温度,圧力のもとで多量の水素を吸収 す る こ とが で き(1),これ らの水素化物は磁性面で も数多 くの興味深い性質を示す(2).金属間化合物
RFe a
(R‑希土現金属) の場合には, 水素吸収に ともな うFe原子の磁気モーメン トの増加が, RC 0
3の場合には,水素吸収に ともな うCo
原子の磁気モーメン トの減少がそれぞれ報告 さ れている(3). このような磁気モーメン トの変化は,原子核に働 く内部磁場に も影響を及ぼす はずである.本研究では,金属間化合物 Gd
( Fel ̲ , r C o, )
3を研究対象 とし,核磁気共鳴法に より,水素 吸収にともな う5 9 C
o核での内部磁場 の変化を観測 したので報告す る.また,Gd( Feュ ̲ 3 F C o x )3
の水素吸収における一般的な性質 (水素吸収特性)についても報告す る.2 .
実 験 方 法本研究で用いた試料は, 純度
9 9 . 9 %
の成分金属をア ルゴン雰囲気中で高周波溶 解 して得た.さらに,結晶 構造均一化のために,この 試料を真空中,9 5
0oC
で一 週間焼鈍 した.粉末 Ⅹ線回 折に より同定 した結果,得 られた試料はいずれ も単一 相( PuNi
8型の三万品化合 物)であることが確認で き た.試料の水素化は,Fi
g.1
に概略的に示 された装置をFi g.
IDi a gr am o ft hes ys t e m f o rhy dr o ge na t i o n a n da c t i va t i o n
* 昭和5
7
年4
月 日本物理学会 ・春の分科会において発表 本研究は信州大学理学部辻村沃教授との共同研究である.桝 基礎専門 応用物理 訪節 原稿受付 昭和5
7
年9
月30
日58
長野工業高等専門学校紀要 ・第1 3
号用いて行なった.また,試料の活性化処理は次のような手瀕で行なった.
(1)試料の入いったサンプル ・ホルダー内を拡散ポンプにより十分排気す る. (本実験で は約
5
時間)( 2 )
試料温度を3 5 0oC
にして3 0
分間の加熱処理をす る.( 3 )
試料温度を20 0oCまで下げ,サンプル ・ホルダー内に水素 ガスを導入する.このとき
の水素圧力は約6
気圧である.この操作により,試料は水素 ガス導入後す ぐに水素を吸 収 し始める.¢)
試料温度20 0oCのままで,サンプル ・ホルダー内を排気する. この操作で,試料内に
吸収された水素は外‑放出される.( 5 )
上記(3 )
と( 4 )
の操作を交互に5‑6
回繰 り返す.(水素の吸収 ・放出操作の繰 り返し) 以上の活性化処理を行な うことによって,試料表面の酸化被膜,吸着分子などが還元除去 さ れ,その結果試料は容易に水素の吸収 ・放出を行なうようになる.なお,試料に吸収された 水素量は,水素吸収によって起 こる系内の水素圧力の低下量から算出した.核磁気共鳴の測定は,スアンエコー法により,零磁場,測定温度7
7Kで行なった1
3 .
実験結果 と考察3 ‑1
水素吸収特性Co濃度(x)が0,0. 2,0. 3
の試料Gd Fe
3,Gd( Fe o . 8 C
oo.
2)8,Gd( Fe e . 7 C
0..3)8に対 して,水 素吸収曲線 (水素圧VS.
水素吸収量)を測定 した.測定温度は15 0oC,1 75oC,2 0 0oC
で あった.Fig. 2に Gd( Fe o . 8 C oo . 2 ) 3
に対する測定結果を示す.他の
Co
濃度の試料に 対 しても,これ と似たような水素吸収曲線 が測定された. これ らの水素吸収曲線 より 決定 した水素吸収平衡圧 (PH)をTa b l ei
にまとめた.Ta b l eI
より,Co
濃度 (x)の 増加にともない,各温度での水素吸収平衡 圧が高 くなることが分かる. このような平 衡圧の変化 はBe c hma n
らのデータ(4)か らも予測できることであ り,試料の水素 と の親和性に関 して,ある種の傾向( C
o濃度 の増加にともない,水素 との親和性は減少 する)を示 している.また,本美貌では,Co
濃度の増加にともない, 平衡圧の占め る領域 (水素吸収曲線のプラ トー領域)が 広が ってい くのが観測 された.水素吸収曲線における水素吸収平衡圧 と 測定温度の逆数 との関係 より,試料の水素 吸収に関するェソタルピー変化 (JH)を算 出することができた.得 られた AHの値を
0 (u.
qum
nS 紳 d
主5Gd(F
e
oBqh2 ) 3
0 . 5 1 1 . 5
H
/Gd(Fea 8 C q u も
2 2 5
Fi g. 2 Abs o r pt i o ni s ot he r msf o r
Gd( Fe o
.8
Co o . Z ) 8 ・ H s y s t e m
Ta b l e
IPl a t e a upr e s s ur e( PI ‡ )a n dEnt ha l pyc ha nge ( A H)
Gd Fe 8 ‑ H 0 . 0 2 6 0 . 0 4 4 0 . 0 6 8 ‑7. 8×1 0 8 Gd( F
eo.
8Co o . 2 ) 8 T H 0 . 0 5 5 0 . 0 7 6 0 . 1 6 5. ‑8 . 7×1 0 8
Tabl e
Iに示 した.Co濃度の増加にともない,エンタルピー変化が増加していることが分
かる.一般に, dH
の値が小さいほ ど水素の吸収 ・放出は容易に行なわれるので,本実験で の試料の場合,Qo濃度が低いほ ど水素を吸収 ・放出しやすいと言える・なお,水素吸収過程における試料の結晶構造の変化は見 られず,PuNi8型の結晶構造を維 持 していた. .
312
水素吸収(こともなう59
Cb核での内部持場の変化Co
濃度が0 .1
の試料Gd( Fe e . 9 Coo .
1)
8に対 して,水素吸収量を変化させ5 9 C
o核の核磁気共 鳴シグナルを測定 した.水素吸収量( Gd( Fe e . 9 Co o .
1) 8 H y
のy
の値で示す)は0,0.61 ,0・ 9 5
,1 . 1 9,1 . 9 3と変化させた. また,測定温度は77
Kであった.水素吸収量 (y)が0,0. 61
,0. 9 5
の場合について,59 Co
核での内部磁場に関するスペ クトルをFi g. 3
に示す.水素化をし てない場合 (y‑0)のスペ クトルには4
本のピークが観測されてお り,それぞれの共鳴周波(1 tN ⊃ ^d く ∝ ヒ g 豊 山 凸 ⊃ 1 n
dHくO H U u 二 二 二 一
y ニ0 11 4 1
y= 0 . 6 1
y=0. 95
2 13 13 1 1 4 4 1 1 . .
1 1 0 1 2 0 1 5 0 1 7 0 1 9 0 RESONANCE FREQUENCY
(MHz)Fi g. 3 NMRs i g na lsat
80Coi nGd( Fe
ュ̲
JCo G ) 8 Hy( x‑0 . 1 )
数は
1 2 0 . 5 MHz,1 6 2 . 5 MHz ,1 7 0 . 5 MHz ,1 9 3 MHz
であった. ところで,三方晶系‑PuNi3
型の結晶構造には,Co原子の占める位置に関して3
つの異なるサイ トがある.Fi g・4
、は三 方晶系‑PuNi8型の結晶構造を示すが, 3つの異なるサイ トは記号C
oⅠ,Co
Ⅱ,Co
Elに よっ て示 されている.Fig. 3
において. ピーク2と3は両方 ともCo
Elサイ トでの5 9 C
o核の内部6 0
長野工業高等専門学校紀要 ・第1 3
号ヽ ヽ
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㌔ ‑、 ・4‑
・ 一 一 ‑ l l ‑‑ I ‑ I . 2
(co ワ
‑ '■ ・ ‑ ‑‑ ‑ ‑ ・ . ‑ ・ ・ ・ ‑ ‑
・・一 1Fi g. 4 PuNi 8 ・ t yPeS t r uc t ur e
H/Gd( F e d . 9 C qL l ) 3
(y)Fi g. 5 Re s o na nc ef r e que nc yvs.
Hy dr o ge nc o nt e nt
磁場に対応 してお り,水素吸収量の増加にともない,低周波数側にシフ トしている. ピーク
1
と4はそれぞれCo
Ⅰサイ トとCoⅡサイ トでの5 9 C
o核の内部磁場に対応 してお り,水素吸 収に ともな う変化は ピーク1
が低周波数側に,ピーク4
が高周波数側にシフ トしている.求 素吸収量に対する5 9 C
o核の共鳴周波数の変化をまとめたものをFi g.5
に示す.以上の結果 より,水素吸収にともない,CoⅠとCoⅡサイ トでの5 9 C
o核の内部磁場は減少し,Co
Ⅱサイトについては増加することが分かる.
Co
ⅠとCo
Ⅱサイ トでの内部磁場の減少の要因 として, 次の2
点が考えられ る.(1)水素吸収による格子定数の増加
( 2 )
水素吸収によるCo原子の磁気モーメン トの減少
これに対 して,CoⅡサイ トでの内部磁場の増加については,上記の要因では解釈できず,防 接
Fe
原子の磁気モーメン トの増加が強 く影響しているものと思われ る. この点については,メス.,'ゥァ‑効果の測定 も加え,5
7 Fe
核での 内部磁場の 変化を調べる必要がある.3
つのCo
サイ トの中で,CoI旺サイ トでの内部磁場の変化が最 も大 きいが,このことは水素がCoⅡ
サイ トの近傍に侵入 しやすいことを意味している.4 .
結 官本研究では,金属間化合物
Gd ( Fel ̲ xCox)
8の水素吸収特性ならびに5 9 C
o核の内部磁場へ の水素吸収の寄与について調べ ることができた. しか し,核磁気共鳴の測定結果だけでは磁 性体内での水素の詳細な振舞いを決定することは困難であ り,今後,磁化測定およびメスバウアー効果の測定を行なってい く必要がある.
終 りに,本研究の実施にあた り適切なる御教示を賜わ った信州大学理学部辻村琵教授,な らびに実験の遂行にあた り御協力いただいた信州大学理学部統計研究室の学生諸君に心 より 感謝いたします.
参 考 文 献