一 339 一
三医大誌 54(4):339,1996
21世紀医科大学の使命
一seeds, soil, sun一
東京女子医科大学 理事長
吉 岡 博 光
日本の近代医学の祖といわれるベルツ博士が明治33年東京大学在職25周年式典で次のように述 べております.「西洋の科学は自然の探求,世界の謎の究明を目指して幾多の傑出した人々が数千 年にわたって努力した結果であります.それは苦難の道であり,血を流し,あるいは身を焼かれて 示した道であります.
西洋諸国は諸君に教師を送ったのでありますが,これらの教師は熱心にこの精神を日本に植えつ け,これを日本国民自身のものたらしめようとしたのであります.もともと彼等は科学の樹を育て る人たるべきであり,またそうなろうと思っていたのに,彼等は科学の果実を切り売りする人とし て扱われたのでした.彼等は種を蒔き,その種から日本で科学の樹がひとりでに生えて大きくなれ るようにしたのであって,その樹たるや,正しく育てられた場合,絶えず新しい,しかもますます 美しい実を結ぶものであるにもかかわらず,日本では今の科学の成果のみを彼等から受けとろうと したのであります.この最新の成果を引継ぐだけで満足し,その成果をもたらした精神を学ぼうと しないのです.」(日本医療史 酒井シズ著)と嘆いております.
わが国は文明開化で西洋に追いつくのを急ぐあまり,科学の果実のみを吸収して,それに到る過 程や精神を無視していることに警告を発しています.ところが,第二次大戦後わが国は,また西欧 先進国に追いつけ追い越せで,欧米の果実のみを取り,それを改良して経済大国になってきまし た.今頃ベルツ博士は日本人は全く変わらないと嘆いていることでしょう.しかし,今わが国は豊 な国になった一方,物価高のため,海外の安い労賃を求めて経済の空洞化が進行しています.今後 のわが国の生き残る道は独自の高度先進科学の種を蒔き,樹を大きく育てて美しい実を結ばせるこ
とであります.
それは医学,医療の分野でも同様で21世紀の医科大学の使命は厳しい経営環境の中にあっても,
seeds良い種,人材を育て, soi1よい土壌・環境を作り, sun太陽をあてて,樹が正しく育ち,世界 に誇れる立派な果実が実るような舞台を作っていくことであると考えています.
(1)