山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
言語能力を育むカリキュラム・マネジメントの一考察
- 言語能力を生かす教科横断的な単元構成と授業づくり -
学習開発分野(20822005)安 達 信 彦
本研究は言語能力を育むカリキュラム・マネジメント(以下,「カリ・マネ」という)の 教育効果を考察することである。カリ・マネの進め方に基づく国語科と社会科の教科横断 的な単元構成及び授業づくりの中で試みた内外資源の活用(専門家の評価・助言)は,「根 拠を探す力」「論理的に整理する力」「説明する力」という 3 つの資質・能力を伸ばすこと が示唆された。加えて,あらためて言語能力はすべての学習の基盤となり,各教科におけ る深い学びに繋がることも明らかになった。
[キーワード]言語能力,カリキュラム・マネジメント,教科横断的な単元構成,内外資源の活用
1 問題の所在と目的
学習指導要領(2017)では教科横断的な視点に 立った学習の基盤となる資質・能力の一つに言語 能力を挙げ,カリ・マネを通して育成していくこ とを求めている。言語能力は「言語力育成協力者 会議」(2006)で打ち出された概念で,その時から 国語科を中核とした各教科での言語能力の育成が 求められてきた。中央教育審議会答申(2016)で も引き続き「判断の根拠や理由を示しながら自分 の考えを述べることや学んだことを地域や社会と 関係づけて考えたり,生かして行動したりすると いった社会参画の意識等について課題がある」と 指摘され,今度は社会で生きて働く言語能力とし ての育成が課題として述べられている。
なぜ国語科で育成したはずの言語能力が教科 の学びや実社会で生かされないのか。その要因と して言語活動の指導事例は多くあるが年間カリキ ュラム等に位置付いていないこと,教科横断的且 つ継続的に言語能力を育成する意識が低いこと,
他教科等の学習で身に付けた言語能力が活かされ る活動が仕組まれていないことが考えられる。以 上から本研究では言語能力育成を意図的,計画的,
継続的な教育実践を促すカリ・マネに求め,教科 横断的な単元構成や授業づくりを通して考察する ことを目的とする。
2 研究の方法
山形市内 A 小学校第 5 学年 1 組(22 人)の国語科
「グラフや表を用いて書こう」と社会科「自動車 をつくる工業」の実践を通して検証する。
まず国語科前単元から子供の実態を分析・考察 し,現状と課題を踏まえた上で「言語能力を育む カリ・マネ表」を作成した(図 1)。次にカリ・マ ネ表を活用して社会科単元を計画し,授業を行っ た。最後に言語能力の育成に視点をあて考察した。
3 実践と結果
(1)言語能力に関する児童の実態把握
国語科の前単元「固有種が教えてくれること」
で児童の様子やノートを分析した。授業内容は筆 者の考えに賛成か反対かとその理由をノートに記 入し,一人ひとり答えるというものだった。
まず,筆者の考えに対して全員賛成を選んでい た。続いてノートの理由記述を整理してみると,
以下のようになった。
この記述から次のようなことがわかる。まず,
グラフから読み取ったことや文章から引用したこ とを「~と書いてあるから」とそのまま理由とし て考えている子が多い。他にも意見を支える「根 拠」とそこから意見を導いた「理由づけ」を区別 し,使い分けられている子が少ない。以上から,
・「~だから」という理由の書き方になっている(17名)
・文章の抜き書き,または文章に沿った「根拠」だけを 書いている(11名)
・グラフを読み取って「根拠」だけを書いている(3名)
・「根拠」+「理由」を書いている(5名)
22人中21人回答
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本学級においても答申(2016)同様「判断の根拠 や理由を示しながら自分の考えを述べる」ことを 正確に行うことが課題といえる。
(2)言語能力を育むカリ・マネ表を基にした単元及 び授業計画
図1は,目指す子供の姿を言語能力に絞り作成 したカリ・マネ表である。「根拠を探す力」「論理 的に整理する力」「説明する力」の 3 つの資質・能 力を単元全体で育成できるよう,教科横断的な単 元構成を考えた。また,内外資源の活用として T 社の I さんという専門家に子供たちの未来の自動 車提案に対する 2 度の評価と助言をお願いした。
(3)言語能力育成に視点をあてた授業実践の考察
図 2 Y 児の 1 回目の提案ポスター
ここでは Y 児と M 児の学びを挙げ検討する。図 2 は Y 児の I さんへの 1 回目の提案ポスターであ る。人の飛び出しに対する停止装置が自動車に付 けば安心・安全だという根拠のない理想に終始し ている。ここで I さんから全員へ次の話があった。
それを受け改善したのが図 2 のポスターである。
図 3 Y 児の 2 回目の提案ポスター
図 1 言語能力を育むカリ・マネ表
「これがあればいいなぁ」という夢物語,自分の考 えだけでは難しいと思います。誰か開発者が言ってい た,本で読んだ,自分で調べた,話を聞いたという根 拠をもとに考えていかないとだめかと思います。また その内容になぜ意味があるのか,意味のある理由をし っかりと詳しく発表してくれるとよいと思いました。
この車は安心・安全です。車が 360°全て IC タグを もった人を検知してブザーをならしてくれます。その 図が横です。それで検知したら知らせてくれます。
人間が接近するとセンサーが発動します。IC タグは 360°にてんかいしてますので目に見えない物かげで も人をかんちします。あとポケットにいれてもいわか んがありません。だから事故が少なくなって安心・安 全になると思います。
この車は安心・安全です。どこが安心・安全かとい うと,人が急に飛び出してきたりしたら,車について いる事故防止ブザーが鳴って,車はすぐに止まるよう になっています。
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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
I さんの話を聞いた後 Y 児は,根拠となる 360°
センサーで検知可能な IC タグをインターネット で見つけ,人が IC タグを持ち,自動車が IC タグ の感知性能を備えることで事故は少なくなると論 理を整理し,より説得力を増して 2 度目の提案に 臨んだ。これに対し I さんは次のように述べた。
Y 児は I さんと対話を重ねる度に,安心・安全 のための仕様が現実的になっていった。
続いて図 4 は,M 児の 1 回目の提案ポスターで ある。運転装置のコントロールアームについて説 明しているが,この装置が何のためについている かを解説することで終わってしまっている。
図 4 M 児の 1 回目のポスター この M 児の提案ポスターに対し I さんは
という応答をした。そこで M 児は図 5 のように書
図 5 M 児の 2 回目のポスター
き直し,2 回目のポスター提案を行った。
これに対して I さんは,
と答えた。この I さんとの関わりを通して M 児は
とふり返りを書くに至った。このことから,自分 の提案に対して I さんが否定的なアドバイスをし たときに,自分の理由の伝え方に不備があったと 自覚し,「介護されている人だからこそ,自分のペ ースで自由に行動したい時がある」と被介護者の 立場に立って思考を深め,自分の考えをもう一度 論理的に整理し,正確な理由付けによってより説 得力が増した提案ができたことが見て取れる。
4 考察
研究の目的に則し,Y 児と M 児の例を主として 3 つの視点から考察する。
1 つ目はカリ・マネ表に即した教科横断的な単 元構成である。国語科「グラフや表を用いて書こ う」の単元で根拠や理由を示して自分の考えを文 章に表すことを学び,それを活用するパフォーマ ンス課題を社会科単元で設定したことで,カリ・
マネ表にある具体的な資質・能力を育成すること ができた。未来の自動車を I さんに提案する際は,
その要点を子供たち全員が 400 字詰め原稿用紙を 使って根拠と理由を示し,主張することができた。
2つ目はポスター提案のプロセスの中で変容を ねらった「根拠を探す力」,「考えを論理的に整理 する力」,「活用し,説明する力」の伸長である。Y 児はIさんに根拠の不備を指摘されたことを受け,
人を検知するICタグがあるという根拠を探し出し た。そこでそれを使って考えを論理的に整理し,
ICタグの図を活用することで説明に説得力をもた せた。またM児は自分の考えがIさんに正確に伝わ らなかったことをきっかけに,考えをもう一度論 理的に整理し,主張の理由付けを明確にすること で自分の考えを正確に説明することができた。
足が不自由な人は,たいていかいごされています。
そのため,自分は運転しなくても好きな場所に連れて 行ってもらえます。しかし,いけないこともあります。
そこで,この自動運転を使えば自分で楽に自由にどこ へでも行けます。ですが,自動運転は目的地に行くた めのものです。それで,このコントロールアームモー ドを使えば,山の風景などを自分のペースでゆっくり と楽しむことができます。
以前私が見せて頂いた時に全自動運転がある中で,
コントロールアームというのが必要ないのではない かというような話をさせていただきましたが,そこに 関しても自分で景色を見たい時にゆっくりと運転が できるとかそういう風なしっかりとした理由をつけ ていたのが大変素晴らしいなと思いました。
良い提案ですが,率直に言うと全自動運転だったら コントロールアームはいらないんじゃないかなと思い ました。全て自動でやってくれるんだったら,わざわ ざ自分で進んでコントロールアームを使おうという人 はなかなかいないのではないかなと思います。
前はコントロールアームについて反対されてしま ったけど,理由をつけたら納得してもらえてやって良 かったなと思いました。
この車はコントロールアームがついています。その ため足が不自由な人でも運転できます。ハンドルなど にボタンやレバーが付いていて手を使ってブレーキや アクセルをコントロールできるようになっています。
IC タグを普及させる方法として,例えばみんなが持 っている携帯の電波を検知するほうがしっかり検知し やすいかなと私は感じました。
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また,本単元終了後の全員のふり返りをテキス トマイニングした図6をもとに,言語能力の変容に 対する子供のメタ認知について考える。
図 6 児童のふり返りのテキストマイニング まず,出現頻度の多い各「根拠」「理由」と,「つ ける」「納得」が,また「グラフ」や「表」を「考 え」に「入れる」でそれぞれ結び付いている。こ のことから,子供たちは本やインターネット,ア ンケート結果などから探し出した図や表,グラフ 等を根拠として示し,理由付けして説明すること で納得が得られるとメタ認知していることが分か る。また,I さんが提案を聞いた後即「質問」「感 想」を「くれる」ことに「すごい」と驚いている ことから,I さんの存在に価値を見出していると 考えられる。他にポスターを「作る」のが「難し い」という結び付きも見られた。これまで根拠を 探す,自分の考えを論理的に整理して説明すると いう経験がなかったことを示していると言える。
だからこそ,今回の実践の意義を見いだせたので はないかと考える。
3つ目は言語能力の変容と社会認識の深まりに ついてである。本単元では,小学校学習指導要領 (2017)で述べられている「社会に見られる課題を 把握して,その解決に向けて社会への関わりを選 択・判断する力,考えたことや選択・判断したこ とを説明する力」等を養うことを主たる目標とし て実践した。その結果,人々の安全,環境,利便 性,バリアフリーなどに対する願いが工業生産に より実現されること等を理解し,自分の言葉でま とめることができた。また内外資源との様々な対 話によりY児は生活内の自動車運転者と歩行者の2 つの立場から安全について思考し,両者とも事故 を避けられるよりよい解決策を考え出すことがで
きた。M児は被介護者でも自由を希求する権利はあ るとする学びの深まり,人権意識の芽生えが見て 取れる。これらは学習指導要領(1948)から通底し てきた「公民としての資質・能力の基礎」である と考える。
5 到達点と課題
カリ・マネに基づく国語科と社会科の教科横断 的な単元構成と,授業づくりの中で試みた内外資 源の活用は,図 1 で示した 3 つの資質・能力を伸 ばすことが示唆された。加えて,改めて言語能力 はすべての学習の基盤となり各教科における深い 学びに繋がることも明らかになった。しかし言語 能力を短期間で育成することは困難であり今回の 学習は変容のきっかけを掴んだにすぎない。言語 能力の着実な育成には小学校で付けたい力を明確 にしたカリ・マネが必須である。また,教科横断 的な単元構成は各教科の特質や学習内容,育成し たい資質・能力等を教師が明確にする必要がある。
それらを明確にしたうえで,目標に沿って内外 の教育資源を選択し,子供が自然に思考しコミュ ニケーションするような課題や場を教師が企図し,
その中で子供たちの資質・能力を育成することや,
それに対する適切な評価・改善をしていくことが 今後の課題である。
引用文献
中央教育審議会(2016)『幼稚園,小学校,中学校,
高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等 の改善及び必要な方策等について(答申)』,
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chuk yo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/
2017/01/10/1380902_0.pdf(最終閲覧日 2021 年 1 月 26 日)
文部科学省(2017)『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)』,東洋館出版社,p.53.
参考文献
石井英真(2015)『今求められる学力と学びとは-
コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と 影-』,日本標準.
唐木清志(2016)『『公民的資質』とは何か-社会科 の過去・現在・未来を探る-』,東洋館出版社.
A Study of Curriculum Management to a Linguistic Competency: Unit structure and lesson planning that make use of a Linguistic Competency.
Nobuhiko ADACHI
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