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回想による教師像と教師に対する印象の関係
著者 豊田 弘司
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 30
ページ 93‑98
発行年 1994‑03‑01
その他のタイトル The relation between the recalled image of teachers and the current impression for teachers.
URL http://hdl.handle.net/10105/6837
回想による教師像と教師に対する印象の関係‡
豊 田 弘 司.
(心理学教室)
要旨:146名の女子学生に小学校、中学校、高校時代の印象に残る教師を回想さ せたところ、好きな教師を回想した者が圧倒的多かった。好きな教師を回想し た被調査者について教師の特性を記述した調査項目60項目に対する評定値に関 する因子分析を行ったところ、時代によって因子を構成する項目数は幾分異な るが、共通する5つの因子が抽出された。それらの因子は、信頼感、個人的なか かわり、快活さ、厳しい指導、授業のうまさであった。そしてこの5因子の中で 信頼感、快活さ及び授業のうまさが重要な要因であることが示された。また、好
きな教師を回想した者は嫌いな教師を回想した者よりも教師一般に対する印象 の良いことが示された。
キー・ワード:好きな教師、回想、因子分析
教育年数が増加するにつれて、人は多くの教師にかかわることになる。そして、その教師の印 象が後の人生においてもつ意味は大きい。「数学の先生が嫌な先生だったので・数学が嫌いになっ た」などという言葉はよく学生たちが口にしている。真実はともあれ、過去に出会った教師が、
その人の人生に与える影響は大きいと考えられる。
教師に関する過去の研究を見てみると、小学校、中学校、高校において、好きな教師や嫌いな 教師の特徴を調べた研究は多い(岸田.1968)。また、好きな教師像の国際比較研究(市111.1979)
や、教師と生徒の人問関係という視点に立って望ましい教師の特徴を検討した研究(Brophy&
Good,1974)などが行われている。なかでも、、好きな教師と嫌いな教師についての研究は、生徒 との人間関係についても重要な示唆を与えてくれるので、興味深い。
杉村(1979)は、大学生に自分の過去を回想させ、そこでの好きな教師と嫌いな教師の特性を 報告させた。その結果、小学校における好きな教師は、やさしい、いっしょに遊んでくれる、親
しみやすい、親切な、おもしろいといった特性をもっている教師であり、嫌いな教師は、えこひ いきする、よく怒る、怖い、うるさい、ヒステリックという特性をもっていた。同様に、中学校 における好きな教師は、親しみやすい、ユーモアがある、やさしい、理解してくれる、厳しい教 師であり、嫌いな教師は、よく怒る、えこひいきする、皮肉を言う、しつこい、馬鹿にする教師
* The re1ation between the recaned image of teachers and the current impression for teachers.
**Hiroshi TOYOTA
(Department of Psychology,Nara University of Education)
であった。さらに、高校においては、好きな教師はユーモアがある、親しみやすい、意欲がある、
理解してくれる、相談にのってくれるという特性をもっており、嫌いな教師は皮肉を言う、押し つける、意欲がない、馬鹿にする、冷たいといった特性をもっていた。
この杉村の研究は、他の研究と同様に、生徒指導を行う上で重要な示唆を与えてくれる。ただ し、他の研究と異なることは大学生に過去の教師を回想させるという方法をとっているというこ とである。過去の教師を回想させた場合、言己憶に残っている教師像についての記述になる。それ 故、記憶に残った教師いわゆる印象に残った教師という側面も含まれていると考えられる。すな わち、小学校〜高校時代の印象に残った好きな教師、嫌いな教師についての記述を検討している ことになるのである。ただし、杉村(ユ979)では、好きな教師と嫌いな教師というように条件を 設けて回想させているので、最も印象に残っている教師がどちらなのかはわからない。また、そ
の教師の性や年齢についての検討は行われていない。そこで、本研究の第1の目的は、本人が最 も印象に残っている教師を回想させ、印象に残っている教師とは、どのような教師であるのかに ついて、好き一嫌い及び特性という側面に関して検討することである。
さらに、本人の印象に残る程度と本人に与えた影響の程度は完全に一致するとは言いがたいが、
本人の印象に最も強く残っている教師の影響は当然のこととして強いと考えられる。もし、過去 に印象に残った教師に対して好意的な感情をもっている場合には、現在の教師一般に対する印象 は良くなると予想できるし、反対に嫌いな教師が印象に残っている場合には、現在の教師一般に 対する印象も悪くなると予想できる。この予想を検討するのが、本研究の第2の目的である。
方 法
被調査者 短期大学及び看護学校に所属する女子学生146名であり、平均年齢20歳1か月(18歳 10か月〜24歳5か月)であった。
材料 印象に残った教師の特性に関する調査用紙を作成するために、大学生80名に対し、
小学校、中学校、高校時代において印象に残った教師の特性を自由記述するように求める予備調 査を行った。その結果得られた教師の特性をもとに各時代に共通する60個の調査項目を作成した。
これらの調査項目は、6段階評定尺度とともに、各時代に対応させて、B4判の用紙に1枚すっ 印刷された。なお、3枚目(高校時代)の調査用紙の最後には、現在もっている教師一般に対す る印象を調べるための項目(好意度及び尊敬度)とそれらに対応する評定尺度が印刷されていた。
手 僚 集団調査を実施した。まず、小学校時代において最も印象に残っている教師を想起 させ、その教師の性別、年齢及びその教師が好きか嫌いかを記述させた。次に、想起した教師が 上記の60の調査項目に当てはまるか否かを「全く当てはまらない」から「非常によく当てはまる」
までの6段階で評定させた。引き続いて、中学校、高校時代の印象に残る教師についても同様に 行った。最後に、今現在、一般的に教師に対してどの程度好意を持っているか、どの程度尊敬で
きるかについて評定させた。
結果と考察
表1 印象に残る教師の好き・嫌い(人数)
回想した時代 判断の型 小学校 中学校 高校 好き
嫌い どちらでもない
123 18 5
106 34 6
107 30 9
印象に残る教師の好一端及ぴ特性本研究の第1の目的を検討するために、以下の分析を行っ た。表1には、最も印象に残る教師として、好きな教師を想起した人数と嫌いな教師を想起した 人数が示されている。どの時代においても、好きな教師を想起している場合が多い。したがって、
印象に残る教師は好きな教師である場合が多いと考えられる。
好きな教師を回想した者が多かったので、これらの者についてのみ、上記の60項目に関する各 時代(小学校、中学校、高校)ごとの主因子法による因子分析を行い、その後バリマックス回転
表2 印象に残った好きな教師の因子構造 回想した時代
因子順 小学校 中学校 高 校
信廉(20〕o=.9114.26%
信幅できた
生徒の話を聞いてくれた 生徒への理解があった 湖・かった 生徒を算重した
眺Oヰ=麗 つり(10〕 α=.85 8,169缶 進路遺択に影○を与えた 進路相談にのってくれた 自分の考え方に影響を与えた 進路・教科外で悩みごとの 相談にのってくれた 個人的に教榊到を受けた
鴇弄舌さ〔O) α:、86 7,789名 活動的だった おもしろかった 明るかった 雑談がおもしろかった
平均負荷量O卿(1刀。=.9013.24%
5.16 .72 信頼できた 5.27 .72 生徒への理解があった 4.98 .72 生徒の話を聞いてくれた
5,17 .70 湿カ}カ、っナ=
4.54 .68 章敬できた 誠香さ(12〕o=.76 9.80%
2.17 一.醐 明るかった 2.80 一.60 醐勺だrた 3.50 一、5i 雑談がおもしろかった 3.59 一.51 生徒と遊んだ 雑談カ多かった
2.79 一.49
4.98 .鯛 5.24 ,67 5.49 ,67 4.77 .63
個人的な麗わり(1カ。=.τ呂9.06%
進路・教科外て悩みごとの 相談にのってくれた 今でも個人的に交流がある 進路相談にのってくれた
平均 負荷量快活さ(10〕o=.8821.71%
4.98 一.75 …嚢しカ・った 4.97 一.70 おもしろかった 5.09 一.66 明るかった 5.11 一、61 雑談がおもしろかった 4.80 一.61 活動的だった,
平均 負荷量 5,19 ,73 5.09 ,71 5.23 ,71 4,85 ,66 4.74 ,66
5,33 4,83 4,79 4,05 4,21
.69
.68
.65
.64
.61
何人的な麗わリ(18)匝宝.8811.56%
進路・教科外で悩みごとの 4.50 相談にのってくれた
新し』棚をさせてくれた 3,80 教科外で学ぶことが多かrた 4.13
自分の考え方に影●を与えた 3.91 遊びに連れていってもらった 2.41
.75
,69
.67
.62
.60
4,32
2,08 4.68
.71
.64
.63
働I感(11〕o=.817.95%
信頼できた 4.87 欄できた 4.71 説明が分かりやすかった 4.76
知性的だうた 4.31
一.61 一.61 一.54 一.53 者かった 3.66 .61 進路選択に影響を与えた 3.42 .62 ‡言動に矛盾したところがあrた 4.55 一53
物事に関する興味・劇こ・を 4.Ol .59
引き出してくれた
4 厳しい指導(7)σ=.767.68% 厳し・指導(7〕o=.778.OO% 厳しい指議(7〕α=.目27.59%
怒鳴rた 3.60 .78 厳しかつた 4.OO .80 怒鳴った 3.88 .81
艦しかった 3.66 .74 こわかった 2.97 .74 …党教をした 4.12 .78
こわかった 2.59 、76 怒鳴った 4.刎 .68 厳しかつた 3.81 .75
説教をした 4.12 .69 体罰を与えた 2.49 、58 こわかった 2,80 .72
体罰を与えた 2.21 .69 説教をした 4.32 .56 体罰を与えた 1.95 .70
5 授実のうまさ〔11〕α=.77 6.90% 授業のうまさ(lO)σ二.797.03% 授業のうまさ〔7)o=.75 6.91%
成績が上がった 3.70 .68 授業で具体例を示した 4.32 .70 授業で具体例を示した 4.43 一.66
発表形式の授業をした 3.92 .54 教科に関する知識が豊富だった 4.97 .57 成績が上がった 4.36 一.63
教えてもらった教科が好き 3.52 .51 発表形式の授業をした 3.13 .55 教えてもらった教科が好きに 4.05 一.59
になった なった
板書が分かりやすかった 4.80 、50 成績が上がった 3,92 、55 授業で教科8外の資料を使った 4.29 一.58
…克明が分かりやすかった 4.85 .49 授業で教科書外の資料を使った 3,96 、52 じぷんのもっカを発揮させてくれた 4.07 一.57
を施した。その結果が、命名された因子名及び各項目の平均評定値とともに表2に示されている。
なお、この表には因子負荷量の高い5項目のみを示してある。因子を構成する項目数は異なるが、
各時代に類似した5つの因子が抽出された。各項目の平均評定値を見ていくと、どの時代におい ても、信頼感、快活さ及び授業のうまさが高い評定値を示しており、これらの特性が印象に残る 好きな教師の特性の中で重要であることがわかる。杉村(1979)においても、好きな教師の特性 として、理解してくれるというような信頼感にあたる項目があげられているし、ユーモアがある とかおもしろいというような快活さに対応する項目もあげられており、ほぼ一致した結果である と言える。また、北尾(1967)は、教師に対する好き・嫌いなどの感情的反応は指導技術によっ て決まることを指摘している。これは、本研究で見いだされた授業のうまさに対応していると考 えられる。
印象に残った教師の好き・業いと教師一般に対する好意度・算敬度 本研究の第2の目的を検 討するために以下の分析を行っれ
胴回 90 8日 7日 60
% 50
40 3日 20 個
同 好き 嫌い
小学校 好き 嫌い
中学校
[コ好き
■嫌い
好き 嫌い
高校
図1 印象に残った教師の好き・嫌い別の教師一般に対する好き・嫌い反応
図1には、各時代ごとに印象に残った教師の好き・嫌い別に、現在の教師一般に対する好き・
嫌い反応者の割合が示されている。なお、現在の教師一般に対する好意度は6段階評定を用いて いるので、3以下が嫌い、4以上が好き反応として分類した。小学校時代においては顕著ではな いが、中学校・高校時代の教師が嫌いだった場合、現在の教師一般に対して嫌いだと評定した者 が多くなっている。したがって、予想通り、過去の教師に対する好意度が現在の好意度を決定す る可能性が示唆されたのである。
1回藺 9日 80 7日 60
% 5日 40 30 20 10
日
好き 嫌い
小学校
[コ尊敬できる
■尊敬できない
好き 嫌い
中学校
好き 嫌い
高校
図2 印象に残った教師の好き・嫌い別の教師一般に対する尊敬できる・できない反応
同様に、尊敬度についても分析を行った。その結果が、図2に示されている。小学校、中学校 時代では、好き嫌いに関わらず現在の教師一般に対して尊敬できると評定した者が多かった。し かし、高校時代では印象に残った教師が好きだった場合、尊敬できると評定した者が多かったの に対し、嫌いだった場合、尊敬できないと評定した者が多かった。したがって、好意度の場合と 同様に、高校時代の教師の印象が現在の尊敬度に影響している可能性が示唆されたのである。
嫌いな教師を回想した被調査者の人数が少ないので断定することはできないが、過去の教師の 印象が現在の教師に対する印象を規定する可能性のあることがうかがえるのである。
〈付記〉
本研究の材料作成及びデータの分析に関しては、奈良教育大学心理学専攻生の小野坂佳子さん、
大門ひろ子さん、福井美穂さんの協力を得た。言己して感謝の意を表します。
引用文献
Brophy,J,E、,&Good T,L.1974Teachers−student re1ationships Causes and conse−
quence1New York:Ho1t,Rinehart&Winst㎝.浜名外喜男・蘭 千寿・大根哲治(訳)
1985教師と生徒の人間関係一新しい教育指導の原点一 北大路書房.
市川 博 1979 日中の児童・生徒の生活意識 中国研究月報 第383号 中国研究所(市111博 1990子どもに好かれる先生一いま、なぜふたたび問題とされるのか一 児童心理 第44巻
第4号
北尾倫彦 岸田元美 杉村 健
1−13より引用)
1967第5章 学級の心理 辰野千寿監修 1968児童生徒の人問関係 明治図書 1979教育心理学 近畿大学通信教育部
教育心理学入門 日本文化科学社