氏 名 (本籍) 張
チョウ
静風
セイフウ
(中華人民共和国)
学 位 の 種 類 博 士 (被服環境学)
学 位 記 番 号 博甲第 47 号
学 位 授 与 年 月 日 平成 26 年 9 月 20 日 学 位 授 与 の要 件 学位規程第 5 条第 1 項該当
論 文 題 目 暑熱環境下の快適衣服設計に関する基礎研究
―裸体時及び穿孔フィルム衣服着用時の生理・心理反応から―
論 文 審 査 委 員 (主査) 教 授 田村 照子 教 授 米山 雄二 教 授 小柴 朋子
教 授 平田 耕造 (神戸女子大学)
論 文 内 容 の 要 旨
本研究は、暑熱下における快適な衣服設計のための基礎研究として、環境温熱条件が人体 に与える影響、衣服を介して形成される微気候が人体に与える影響、また衣服素材の熱・水 分特性が衣服内気候に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。生理学的実験及び物理 的評価実験を併せて、快適な衣服設計上の有効な指針を確立しようと考えた。
本論文は6章より構成され、各章の概要は以下の通りである。
第 1 章「序論」では、本研究の目的、文献の背景及び論文の構成について記述した。近年、
地球温暖化やヒートアイランド現象の拡大に伴い熱中症が増大し、暑熱環境下における衣服 の在り方が問われている。しかし、快適な衣服設計に向けた研究の多くは気温の影響を中心 とするものであり、暑熱環境下の体温調節反応としてより重要と考えられる蒸散放熱を左右 する環境湿度の影響に関する研究は少ない。また、近年、心拍変動の測定により自律神経活 動レベルを評価し、ストレス指標とする方法、あるいは唾液中のアミラーゼ活性を測定し、
精神ストレスの定量評価法とする方法等が提案され定着しつつある。環境評価や熱的快適性 の評価への応用事例も散見されるが、環境湿度と関連づけて検討した報告はほとんど見当た らない。そこで本論文では、まず最小限の着衣条件における人体に及ぼす暑熱環境特に湿度 の影響を、温熱生理反応、心理反応、さらに暑熱ストレスの各側面から検討し、それら相互 の関係を総合的に把握しようと考えた。次に、不透湿穿孔フィルム衣服の着用により形成さ れる衣服内気候が人体に及ぼす影響を、人体実験と物理的評価実験を通じて検討し、快適な 衣服設計上の指針確立を試みた。
第 2 章 「高温環境下の湿度条件が人体の体温調節反応・心理反応に及ぼす影響」では、暑 熱環境下の温度と湿度が人体に及ぼす影響を明らかにするため、 気温 28℃、31℃、34℃、
湿度 30%、60%、90%を組み合わせた計 9 条件の人工気候室内に、着衣の影響を最小限にし
たブラジャーとショーツのみ着用状態の成人女子 6 名を 60 分間滞在させ、その生理反応につ
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いては、直腸温、皮膚温、局所発汗量、全身蒸散量(体重減少量)、及び皮膚水分量の 5 項目 と、心理反応については、温冷感、湿潤感、快適感の 3 項目を測定した。結果について温・
湿度を要因とする分散分析並びに多重比較を行い、以下の結果を得た。
1) 平均皮膚温、発汗量、皮膚水分量、温冷感、湿潤感、快適感はいずれも温湿度の上昇と ともに有意に上昇した。
2) 体重減少量については温度の影響のみに有意差が認められた。
3) 各生理反応・心理反応相互の相関性を検討したところ、発汗量と皮膚水分量との間に高 い相関係数が、また発汗量及び皮膚水分量と温冷感、湿潤感、快適感との間でも高い相 関係数が得られ、皮膚残留水分が湿潤・不快感の要因であることが示唆された。
4) 湿潤による不快感指標として提案されている、田村らの湿潤快適指数と Gagge らの皮膚 濡れ率を算出したところ、湿潤快適指数が 1.0 以下の条件では、 被験者が不快と回答し た、また皮膚濡れ率は不快感と高い相関を示し、 0.27 以上で不快となることが示され、
従来の結果とよく一致した。
5) 湿り空気線図上に、本研究結果および従来報告されている研究結果から導き出された快 適線と不快境界線を記入し、比較するとともに、着衣による影響を検討した。 いずれの 着衣条件でも、不快境界線より快適線は 2.5 ~ 4 ℃低温側に移動し、快適線・不快境界線 ともに着衣のクロ値が増加するほど低温側に移動した。
第 3 章「高温環境下の湿度条件が人体の自律神経系・唾液アミラーゼ活性に及ぼす影響」
では、第 2 章の結果を受けて、自律神経系及び内分泌系の視点から、暑熱環境下の湿度が人 体に与えるストレスを定量的に測定した。自律神経反応としては心拍変動分析、また内分泌 反応としては唾液アミラーゼ活性の測定を実施し、これら非侵襲性の生体測定法、評価方法 が温熱環境の評価に適用可能であるか否かについても検討した。被験者、着衣及び環境条件 は第 2 章と同様の条件で、心拍数、心拍変動分析(交感神経活動:低周波数成分 LF/高周波数
成分 HF、以下 LF/HF;副交感神経活動:HF) と共に、唾液アミラーゼ活性を測定した。結果
は以下の通りである。
1) 心拍数については温湿度の上昇に伴い有意に増加した。
2) 滞在 30 分時の交感神経活動は温湿度上昇とともに有意に上昇し、副交感神経活動は減少 する傾向を示した。
3) 滞在 30 分時の唾液アミラーゼ活性は、湿度の上昇に伴い有意に上昇した。
4) 体温調節反応と自律神経・唾液アミラーゼ活性反応の相関性を調べたところ、皮膚水分 量は唾液アミラーゼ活性、交感神経活動とそれぞれ相関係数 0.95、0.910 の高い相関を 示した。また、唾液アミラーゼ活性は温冷感と 0.842、湿潤感と 0.965、不快感と 0.862 の高い相関性を示した。非侵襲のストレス測定法は精神ストレスのみならず、環境によ るストレスの評価に対しても有効であることが示された。
5) 暴露 30 分の LF/HF、 唾液アミラーゼ活性は環境温湿度の影響に受けて有意に上昇したが、
55 分においてはその変化が明確ではなかった。これらのストレス指標は比較的速い反応 をとらえるのに有効であること、また、長時間の暑熱暴露においては、環境への順化、
疲労感また覚醒水準の低下などが生じる可能性があると考えられ、その生理機序は今後
の課題である。
第 4 章「衣服の気孔率が衣服内気候並びに人体の生理・心理反応に及ぼす影響-赤外線透 過フィルム衣服を用いて-」では、着衣状態における衣服内気候、人体の生理・心理反応及 び衣服素材特性間の相互関係を明らかにするために、各種サイズ穿孔フィルムを用いた衣服 を作成し、気孔率のみを変化させた衣服が、暑熱時の衣服内気候あるいはこれを着用した被 験者の生理・心理反応に及ぼす影響を検討した。また、これとスキンモデルにより求められ た物理的データとの比較検討を試みた。測定項目は、フィルム衣服の通気度、保温率、透湿 率等の基本特性と、熱・水分共存系シミュレーション装置スキンモデルにより測定した衣服 内温湿度、供給熱流量及び熱抵抗(dry heat resistance, 以下 Rd)・蒸発熱抵抗(evaporative
heat resistance, 以下 Re)、加えて、着用実験における衣服内温湿度、皮膚温、サーモグラ
フィによる皮膚温分布、発汗量、心拍数並び官能評価である。着用実験は 34℃、50%の条件 下で、7 名の成人女性を用いた。主たる結果は以下の通りである。
1) 試料の通気度、透湿率は気孔率の増大とともに増加し、保温率は減少した。
2) スキンモデルにおける発汗後の恒定衣服内湿度は孔径が大きいほど低く、高温度の維持 時間は孔径と共に短縮された。
3) 乾燥時の Rd は、空気層なしでは孔径の影響が僅少であり、空気層有では孔径の増加とと もに低下した、一方、Re は孔径によらず空気層無の方が大で、また空気層の有無によら ず孔径が大なるほど Re が低下した。
4) 衣服内温・湿度、前額発汗量、心拍数に対し、フィルム衣服の孔径(A)並びに安静・送 風・回復の実験段階(B)を要因とする二元配置分散分析を実施した結果、衣服内温度、
湿度については要因 A・B ともに危険率 1%の有意差を、発汗量については要因 A が 1%
の有意差を示し、心拍数については有意差が認められなかった。
5) 衣服内湿度は、スキンモデルで求められた Re と高い相関を示し、Re が衣服内湿度の形 成に強く関わっていることが示された。また、Re は発汗率とも高い相関を示し、 Re の大 きい衣服は衣服内湿度を上昇させ、これがストレスとなって人体の発汗反応を促し、さ らに衣服内湿度の上昇をきたすというフィードバックを引き起こしているであろうこと が予測された。
6) 着用実験における送風は、衣服内温湿度及びすべての感覚量に大きい効果を及ぼした。
第 5 章「不透湿膜と布地の熱・水分移動特性の比較に関する検討」では、不透湿フィルム 試料の特性が一般布帛試料とどの程度類似するか、どの程度乖離するかを明らかにするため に、親水性繊維の綿 100 % 5 試料と、疎水性繊維のポリエステル 100 % 6 試料を用いて、三 者の物性値を比較した。また、スキンモデルを用いて衣服気候を評価し、繊維布帛と不透湿 穿孔フィルムの相違について検討した。結果は以下の通りである。
1) 不透湿フィルムの通気度、透湿率は孔径が大きいほど大きくなり、気孔の面積に依存す ることが示された。一方、布帛の透湿率は通気度が異なるにもかかわらず、ほぼ 45~55%
に分布した。
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2) 不透湿フィルムより、布帛の方が高い透湿率を示し、これは、繊維で構成された微小か つ多孔の優れた透湿機構によると考えられる。
3) スキンモデルにおける吐水後の恒定衣服内湿度については、 不透湿フィルムでは空気層
の有無にかかわらず、孔経が大きいほど低く、維持時間も短縮された。布帛では、試料 間で大きな差が認められなかったが、空気層無より空気層有の方が維持時間が 10 分ほど 長かった。
4) スキンモデルで求められた Rd については、いずれの試料においても、空気層の有無の影 響を受け、空気層無より空気層有の方が高い値が示された。
5) スキンモデルで求められた Re については、空気層無では、透湿率また通気度が寄与する ことにより、フィルムの Re が大きい値を示したが、空気層の増加に伴い、布帛の Re が 大きく増加した。これは、空気層の増加により、布帛の水分移動特性が透湿性、吸湿・
吸水に影響され、そのメカニズムが複雑になるためと考えられた。
第 6 章「総括」では、各章で得られた結果をまとめ、将来への課題・展望について述べた。
本論文は、現今の地球温暖化及びそれによって引き起こされた熱中症問題を背景にし、快 適な衣服設計への応用という視点から、環境因子、衣服素材特性及び人体の生理・心理反応 の三つの視点から総合的に、人体実験、物理的評価実験を併せて検討した。その結果、暑熱 環境の温湿度、特に湿度が人体の発汗を促進する一方、皮膚表面の蒸汗放熱を抑制すること により、無効発汗及び皮膚表面の水分量の増加に伴う熱ストレスと不快感を招くことが示さ れた。この皮膚の水分量の増加によって、交感神経活動が促進され、ストレス指標である唾 液アミラーゼ活性が増加し、暑熱環境下の熱ストレスが自律神経系及び内分泌反応としても 確認された。さらに、衣服素材の複雑性を排除し気孔率に特定した不透湿性フィルム実験服 の着用により、フィルム衣服の透湿率また蒸発熱抵抗が衣服内温度より衣服内湿度及び発汗 に大きく影響を与えることを明らかにした。また、不透湿フィルム試料と繊維素材の布帛と 比較したところ、大きな相違が示され、繊維素材の優れた透湿機構が明らかにされた。今後 は、本研究でえられた生理・心理反応結果を基礎とし、熱中症対応の機能的・快適繊維素材 の開発及び衣服設計に向けた研究が求められる。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
本論文は、 「暑熱環境下の快適な衣服設計に関する基礎研究―裸体時及び穿孔フィルム衣服 着用時の生理・心理反応から―」と題するもので、全 6 章により構成されている。
第 1 章「序論」では、本研究の社会的・文献的背景と目的が述べられている。すなわち、
近年、地球温暖化に伴う夏季の熱中症が増加していること、その要因として気温の上昇が報
告されているが、暑熱環境下の体温調節反応としてより重要な蒸汗放熱を左右する湿度の影
響については研究が少ないこと、さらに、近年のストレス指標に関する研究の進展にもかか
わらず、暑熱ストレスをこのような指標によって評価した研究がほとんどないことが指摘さ れている。また着衣が熱中症の引き金になることが考えられるが、着衣の影響に関する定量 的な評価法が確立されていないことも併せて指摘されている。これらの社会的・文献的背景 を受けて、本研究の目的は、まず、暑熱環境、特に環境の湿度が、衣服が関与しない状態で の人体に及ぼす影響を、各種ストレス指標を含む生理・心理反応によって定量的に把握する こと、次に透湿性の異なる衣服の着用が人体及び衣服内気候に及ぼす影響を定量的の把握す ること、これ等を通じて暑熱環境下の快適な衣服設計の基礎を確立することにあることが明 確に記述されている。
第 2 章「高温環境下の湿度条件が人体の体温調節反応・心理反応に及ぼす影響」では、気 温 28 ℃、 31 ℃、 34 ℃と湿度 30 %、 60 %、 90 %を組み合わせた計 9 条件の人工気候室内に、
着衣の影響を最小限にした状態の被験者 ( 成人女子 6 名 ) を 60 分間滞在させ、その間の温熱生 理学的反応として、直腸温、皮膚温、発汗量、蒸散量(体重減少量) 、皮膚水分量が、また心 理反応として、温冷感、湿潤感、快適感が測定・分析されている。結果、環境の気温・湿度 はともに生理・心理反応を強く支配しているが、発汗量は気温・湿度の上昇とともに増加す るのに対し、蒸散量は環境湿度の上昇に伴い抑制されるため、結果として湿度の上昇は無効 発汗を増加させ、皮膚に残留する汗による皮膚水分量を増加させ、温冷感・湿潤感・不快感 を増大させる要因であることが明らかにされている。これらは、暑熱時の不快感と相関する といわれる皮膚濡れ率及び湿潤不快指数によって、さらに湿り空気線図上にプロットした従 来の研究結果との比較検討によって確認されている。
第 3 章「高温環境下の湿度条件が人体の自律神経系・唾液アミラーゼ活性に及ぼす影響」
では、第 2 章と同様の実験条件下で、心拍変動並びに唾液アミラーゼ活性が測定され、心拍 変動から算出された自律神経系 ( 交感神経系・副交感神経系 ) 活動レベル、及び、唾液の分析に よって得られた唾液アミラーゼ活性値の 2 つの指標が暑熱ストレスの評価指標として有効か 否かが検討されている。結果、心拍数、交感神経系活動は温・湿度の上昇とともに上昇し、
唾液アミラーゼ活性は湿度の上昇に伴い有意に上昇した。これらの指標はいずれも、第 2 章 で不快感と高い相関を示した皮膚水分量と高い相関を示し、従来使用されている精神性スト レスのみならず暑熱ストレスの指標としても有効であることが示唆されている。また、スト レスの負荷とストレス指標採取の時間差については、環境暴露 30 分目のデータで認められた 有意性が、暴露 55 分目のデータでは不明瞭となることから、これらのストレス指標は比較的 速い反応をとらえるのに有効であると推定されている。
第 4 章「衣服の気孔率が衣服内気候並びに人体の生理・心理反応に及ぼす影響―赤外線透 過フィルム衣服を用いて―」では、透湿率の異なる衣服の着用が衣服内気候及び人体の生理・
心理反応に与える影響が検討されている。実験衣服としては、通常の布帛の複雑性を排除す
るために、赤外線透過性で不通気性のフィルムに直径 0 、 3 , 5 , 7.5 ㎜の孔を 2cm 間隔で穿
孔した素材が使用され、これを用いて袖なし・衿なし・腰丈のブラウスを作成。素材の気孔
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