Hinder における補部形式の競合について
―16世紀と17世紀の資料を中心に―
遠 峯 伸一郎
(英米文学専攻博士後期課程2年)
1.はじめに
英語の動詞 hinder は、現代英語(以下 PE とする(1))において「目的語 NP+from 動詞的動 名詞(2)」を従える(稲田(2000:216),Iyeiri(2010),遠峯(2010)などを参照)。
(1) ... although specifically intended hinder nobles from retaining royal justices as clients or followers, ...(FLOB, F) [Iyeiri ibid.:99]
PE で観察される hinder のこの特徴は歴史を通して常に見られるものではない。Iyeiri(ibid.)
は The Oxford English Dictionary(Simpson and Weiner(eds.)(1989),以下 OED とする)
の用例調査を行い、(1)のように「NP+from 動名詞」を従えるのは16世紀以降であること、
そして15世紀から19世紀には「NP+to 不定詞」を従えた(3)ことを明らかにした。
(2) If he offered to go back to the Abbey, and was enticed to stay and hindered to go.
(1709 Fountainhall Decisions II. 518)[OED]
このように、動詞 hinder は中英語から PE にかけて「NP+to 不定詞」を取る用法から「NP
+from 動名詞」を取る用法に移行したが、それはどのような過程を経ているのであろうか。
次に Iyeiri(2010)による OED の用例調査の結果を示す。
表1 OED における hinder の4つの補部パターンの生起数(4)
世紀
補部パターン 15世紀 16世紀 17世紀 18世紀 19世紀 20世紀
that 節 0 2 2 0 2 0
but 節 0 0 3 1 0 0
to 不定詞 1 5 15 9 2 0
NP from 動名詞 0 2 58 69 30 4
(cf. Iyeiri 2010:201, Figure 17, Figure 18)
Hinder は、15世紀には「NP+to 不定詞」を取る用法のみであったのが、20世紀には「NP+
from 動名詞」を取る用法のみとなった。その間の16世紀から19世紀までが移行期である。移 行期の初めである16世紀には to 不定詞を取る用法に加えて that 節を取る用法が観察され、さ らに17世紀には動名詞や but 節を追加して取るようになっている。その後、to 不定詞を取る 用法、that 節を取る用法、but 節を取る用法が消失し、PE は動名詞を取る用法のみが残った。
Iyeiri(2010)の調査は、hinder が歴史的に to 不定詞を取る用法から動名詞を取る用法へ と移行していること、そして移行期である16世紀から19世紀にはこれら2つの用法に加えて 定形節を取る用法があったことを明らかにした。本論ではこの調査結果を受けて、複数の用 法が併存した移行期における用法の分布を取り上げる。特に、動名詞を取る用法が起こった 16世紀とその直後の17世紀に注目する。具体的には、16~17世紀の5つのテキストを取り上 げ、hinder の複数の用法がどのような特徴を見せたのか明らかにする。併せて、動名詞を取 る用法の成立についても考察する。最後に、同一形態の連続を嫌う傾向(5)(horror aequi,以 下 HAE とする)が hinder の補部において見られるかどうか確認する。
本論の構成は以下の通りである。次節では本論で調査対象としたテキストを紹介し、そこ から得られた用例を示す。第3節では第2節の資料について考察する。第4節は本論で得ら れた知見を確認し、今後に向けての課題を示す。
2.資 料
本論で調査の対象とする16世紀から17世紀のテキストは次の5つである。それぞれのテキ ストの詳細は論文末尾の一覧を参照されたい。
[1] The Decades of the Newe Worlde or West India (1555)(以下 Dec とする)
[2] Holinshed’s Chronicles of England, Scotland and Ireland, Vol. 5(1577-87)(以下Chron とする)
[3] The General History of the Turks(1603)(以下 Turks とする)
[4] Leviathan or The Matter, Forme and Power of a Common Wealth Ecclesiasticall and Civil(1651)(以下 Lev とする)
[5] The travels of Monsieur de Thevenot into the Levant in Three Parts, viz. into I. Tur- key, II. Persia, III. the East-Indies(1687)(以下 Travels とする)
例の検索にあたり、Dec, Chron, Travels は Google Books の PDF ファイルを、Lev は Project Gutenberg のテキストファイルを、Turks はミシガン大学の Early English Books Creation
Partnership によるテキストファイルをそれぞれ利用した(6)。Chron は上述 PDF ファイルに加 えて Holinshed Project(7)によるテキストファイルを用いた。
本論は、Iyeiri(2010)とは異なり、hinder の例をすべて観察の対象とする。
2.1. Dec
Dec には hinder が30例見られる。そのうち26例(約87%)が目的語名詞句のみを取る。
(3) a.He was also hyndered at this tyme by reasō of the sha¦lownes of the sea ...(8)
b.... a certeyne thicke myst ..., which greatly hyndered theyr syght.
目的語の名詞句は(3a)のように有生名詞であるものと、(3b)のように無生物名詞であるもの の両方が観察される。残り4例は次の通りである。
(4) a.... if his wyfe and chyldren had not hyndered hym of his purpose.
b. ... the rauenynge hunger of golde hath hitherto greatly hyndered owre men from tyllage of the ground, ...
c.... the sayde fu¦mosities may therby be hyndered to arryue to the vppermoste parte of the earth:
d.... as to feare and foresee all such thynges as may hynder:
(4a)では目的語と of 前置詞句を、そして(4b)では目的語と from 前置詞句をそれぞれ取って いる。(4c)は「NP+to 不定詞」を取る例であり、hinder それ自体が to 不定詞になっていな い。最後の(4d)は hinder が何ら要素を従えていない例である。
2.2. Chron
Chron は hinder が38例ある。そのうち35例(約92%)が目的語名詞句のみを取る。
(5)a.... to make anie attempt to hinder the Scotishmens enterprise.
b.and nothing hindered the Scots so much, ...
目的語の名詞句は(5a)のように無生物名詞の例と(5b)のように有生名詞の例の両方が観察さ れる。残り3例を次に示す。
(6) a.... they would hinder(by all the meanes they could)that no great armie should be made out of France against them
b.... Hepburne ... was hindered to possesse that archbishoprike, ...
c.Sixtlie, that they should not by anie meanes ... hinder them from quiet gathering and inioieng their rents, tithes, and profits, vntill the fourth Ides of Ianuarie.
(6a)は hinder が that 節を取っており、(6b)は to 不定詞を取っている。Dec と同じく、to 不 定詞を取る用法では hinder 自体は to 不定詞になっていない。(6c)は目的語と from 前置詞句 を取っているが、この from 前置詞句の目的語には性質が異なる2つの動名詞が等位接続さ れている。1つ目の等位項に現れる gathering は形容詞 quiet によって修飾されており、名詞 的動名詞である。2番目の等位項に現れる inioieng は目的語 their rents, tithes, and profits を of を介さずに直接従えており、動詞的な動名詞である。
2.3. Turks
Turks では hinder が87例見られる。このうち70例(約81%)が目的語名詞句のみを取る。
(7)に見るように、この名詞句は無生物名詞であっても、有生名詞であってもよい。
(7) a.enemie had strongly possessed both the straits and the mountains, to hinder his farther passage.
b.... with some foure thousand horse to haue hindred Axalla, who hauing the small- est forces, ...
残る17例のうち、4例は「NP+to 不定詞」を、7例は「NP+from 動名詞」を、3例は
「NP+for 動名詞」を、1例は that 節を取る。まず「NP+to 不定詞」を取る例を観察された い。
(8) a...., which shall no way enforce or hinder you to determine or dispose of your affaires ...
b.... by hindering any reliefe to be brought to the besieged in TEFLIS;
c.hee in all hast put his armie in the best order he could vpon such a suddain, but not to his best aduauntage, being hindred so to do, by the straitnesse of the place wherein he lay.
d.So the souldiers hindred the mariners to do their businesse, and the mariners the souldiers.
(8)のすべての例で hinder それ自体が to 不定詞になっておらず、to 不定詞の繰り返しが起 きていない。次に個々の例に目を移すと、(8a)は hinder が enforce(9)と等位接続され、「NP+
to 不定詞」を共有している。(8b)と(8d)は、hinder が受動態の不定詞を取っている。
次に「NP+from 動名詞」と「NP+for 動名詞」および that 節を取る例を観察する。
(9) a.... to hinder the Christians from building againe the late destroyed citie.
b.... for to hinder the Sultan for joyning his forces againe together;
c.... also to hinder that no victuals might be brought vnto the towne,...
(9a, b)では hinder 自体が -ing 形になることはなく、また動名詞が受動態になることもない。
(9c)では hinder が that 節を取っている。
(10)に「NP+of NP」の例を、(11)に後続要素を何も従えない例を挙げる。
(10) ... to the intent to hinder the People of the hope and great desire they had to grow to some peace with the Latines, ...
(11) By which meanes they hindred, ...
2.4. Lev
Lev には hinder が27例あり、このうち13例(約48%)で目的語名詞句のみを取る。この名 詞句は無生物名詞であっても、有生名詞であってもよい。
(12) a.... we are obliged to transfer to another such rights as... hinder the peace of man- kind,...
b.... they do not help, but hinder one another, ...
残る14例のうち、5例が「NP+from 動名詞」を取り、4例が「NP+from NP」を、1例 が「NP+of NP(10)」を取る。「NP+from 動名詞」では hinder それ自体が -ing 形を取ることは ないが、「NP+of NP」では hinder が -ing 形である。
(13) To lay down a man’s right to anything is to divest himself of the liberty of hindering another of the benefit of his own right to the same(11).
「NP+from NP」の例のうち、1例では名詞句が名詞的動名詞である。
(14) ... which, because no body hindered him from detaining, was the action of a man at liberty.
(14)の detaining は能動態の形態だが受動態の意味であり、him は detaining の意味上の目的 語である。このように、Lev では受動態の意味を持つ名詞的動名詞は見られるが、動名詞自 体が形態的に受動態になることはない。
残る4例は、2例が「NP+to 不定詞」を取り、2例が定形節を取る。
(15) a.... what doth hinder me to be baptized?
b.... a freeman is he that, ... , is not hindered to do what he has a will to.
(16) a.... yet that doth not hinder but that such motions are.
b.And yet this hinders not but that our Saviour gave them power to preach and baptize in all parts of the world, ...
(15)は「NP+to 不定詞」を取る2例である。(15a)は『欽定英訳聖書』の使徒行伝第8章第 36節からの引用であり、Lev の例とは見なさないのが適当であろう。Lev の例は(15b)のみと する。(16)の定形節を取る例はいずれも否定文で補文標識が but that である。
2.5. Travels
このテキストには hinder が79例あり、そのうち名詞句目的語のみを取る例は25(約32%)
ある。この名詞句目的語は無生物名詞であっても有生名詞であってもよい。
(17) a.As to disorders and quarrels that happen in the Streets, every one is obliged to hinder them;
b.The Male of the Heard advances to hinder him, and making no other opposition, ...
「NP+from 動名詞」を取る例は46例(約58%)ある。
(18) ... this prohibition hindered me from getting any knowledge of this Isle by my own means
「NP+from 動名詞」は、動名詞が形態的に受動態になる例が観察される。また、hinder そ れ自体が -ing 形になることはない。
(19) to hinder the Sultanas from being seen from abroad, ...
残る8例の内訳は、「NP+from NP」を取るものが2例、「NP+to 不定詞」を取るものが 4例、定形節を取るものが2例である。まず、「NP+from NP」の2例と「NP+to 不定詞」
を取る4例を挙げる。
(20) a....but a South-east wind blowing soon after, hindred us from that.
b.because his Ministers do what they can to hinder him from that, ...
(21) a.... for they hinder any Ship, Friend or Foe, to pass them without leave, ...
b.... that the Grand Signior could not hinder him to smoak;
c.... those who would have hindred them to draw water.
d. ... I lookt upon it as a Trespass against human prudence, to run the hazard a sec- ond time of being hindered to go into the Indies.
(20a, b)は「NP+from NP」を取る例である。(21a-c)の「NP+to 不定詞」を取る例におい て hinder それ自体が to 不定詞にならないこと、そして補部の to 不定詞が受動態にならない ことに注意されたい。
定形節を取る2例は、いずれも否定文であり、従属接続詞は but である。
(22) a.... which hinders not, but thai(as I have already said)many do drink, ...
b.... they hinder not but one may see the shape of the Eyes, Nose, and Mouth, of Mummies.
2.5. 本節のまとめ
本節では16世紀と17世紀の5つのテキストを調査し、hinder の補部に見られる性質を観察 した。その結果、以下の点が明らかになった。まず、hinder は調査期間全体を通して、有
生、無生の目的語名詞句を取る2項動詞用法を持った。この用法は Dec, Chron, Turks で例 全体の80%以上を占めていたが、17世紀半ばの Lev では50%に、17世紀後半の Travels では 約30%に比率が下がっている。
このように目的語名詞句を取る2項動詞用法が頻度を下げる一方で、「NP+from 動名詞」
を取る用法が頻度を上げた。この用法は16世紀半ばの Dec では観察されなかったが、16世紀 後半の Chron で初めて観察され、以降頻度が高まり、Travels では60%近くに達した。なお、
「NP+from 動名詞」の動名詞が形態的に受動態になる例は17世紀後半の Travels のみであ り、それ以前の Lev では受動態の解釈になる能動態の名詞的動名詞のみが観察される。補部 に動名詞を含む用法は「NP+from 動名詞」と並んで「NP+for 動名詞」が Turks のみで見 られた。なお、Iyeiri(2010)では17世紀において前置詞を伴わない「NP+動名詞」が見ら れることが報告されているが、本論の調査ではこの例は見られなかった。
「NP+from 動名詞」と形式的に類似した「NP+from NP」は Dec に現れ、Lev で約15%
の頻度を記録したのをピークにその後消失に向かう。「NP+from NP」と同じ意味の「NP+
of NP」は16世紀半ばの Dec が初出で、その後は Lev で観察されるのみである。
「NP+to 不定詞」は16世紀半ばの Dec から見られ、17世紀中は約5%の頻度である。17世 紀初めの Turks では補部の to 不定詞が受動態になる例があるが、以降 Lev, Travels におい ては見られない。また、本論で調査した5つのテキストには、NP を伴わない「+to 不定詞」
の例は見られない。
定形節を従える用法は、16世紀半ばの Dec には見られず、16世紀末の Chron に that 節を 取る例がある。17世紀に入ると定形節を取る用法は、1例を除き but(that)節のみであり、
but(that)節を取る例はすべて否定文に現れる。That 節を取る用法が肯定文に現れているこ とと対照的である。
「NP+to 不定詞」で hinder 自体が to 不定詞になることはなく、「NP+from 動名詞」を取 る例で hinder 自体が -ing 形を取ることはなかった。
Dec と Turks に1例ずつとごく少数であるが、補部を一切取らない用法が見られた。
表3、4に hinder の補部形式ごとに例の生起数と頻度を示す。
表2 各テキストにおける用法ごとの生起数
テキスト
補部 1555 Dec 1577-87
Chron 1603 Turks 1651 Lev 1687 Travels
NP 26 35 70 13 25
NP + from NP 1 1 0 4 2
NP + of NP 1 0 1 1 0
NP +動名詞 0 0 0 0 0
NP + from 動名詞(12) 0 1 7 5 46
NP + for 動名詞 0 0 3 0 0
+ to 不定詞 0 0 0 0 0
NP + to 不定詞 1 1 4 1 4
that 節 0 1 1 0 0
but 節(13) 0 0 0 2 2
φ(14) 1 0 1 0 0
計 30 39 87 26 79
表3 各テキストにおける用法ごとの頻度(15)
テキスト
補部 1555 Dec 1577-87
Chron 1603 Turks 1651 Lev 1687 Travels
NP 86.67 89.74 80.46 50 31.64
NP + from NP 3.33 2.56 0 15.38 2.53
NP + of NP 3.33 0 1.15 3.85 0
NP +動名詞 0 0 0 0 0
NP + from 動名詞 0 2.56 8.05 19.23 58.23
NP + for 動名詞 0 0 3.45 0 0
+ to 不定詞 0 0 0 0 0
NP + to 不定詞 3.33 2.56 4.6 3.85 5.06
that 節 0 2.56 1.15 0 0
but 節 0 0 0 7.69 2.53
φ 3.33 0 1.15 0 0
3.考 察
本節ではまず Iyeiri(2010)による OED の検索結果と本論の調査結果を比較検討する。そ の後、本論で調査した16世紀と17世紀のテキストにおいて hinder の補部に見られる特徴を考 察する。なお、本論の調査結果は Iyeiri(2010)の調査結果に見られた「+to 不定詞」が見 られなかった。以下では、to 不定詞を含む例については目的語の有無を捨象して比較する。
Iyeiri(2010)の調査結果と本論の調査結果との対照にあたり、表1から16~17世紀の資料
を取り出したものを表4に、表2に示した本論の調査結果から定形節、to 不定詞、「NP+from 動名詞」を従えるタイプを抽出したものを表5に示す。表4と表5のかっこ内の数字は百分 率を示す。
表4 OED における hinder の4つの補部パターン
16世紀 17世紀
that 節 2(22.22) 2(3.44)
but 節 0(0) 3(5.17)
to 不定詞 5(55.56) 15(25.86)
NP from 動名詞 2(22.22) 58(74.36)
計 9(100) 78(100)
表5 16世紀と17世紀の5つのテキストにおける hinder の4つの補部パターン
16世紀 17世紀
that 節 1(25) 1(1.33)
but 節 0(0) 4(5.33)
to 不定詞 2(50) 9(12)
NP from 動名詞 1(25) 61(81.33)
計 4(100) 75(100)
表4と表5を比較すると、Iyeiri(2010)の調査結果と本論の調査結果はほぼ同一の傾向を示 すことが分かる。具体的には、16世紀においては「NP from+動名詞」を取る用法、that 節 を取る用法と to 不定詞を取る用法が見られ、to 不定詞を取る用法が優勢である。そして、17 世紀には but 節、to 不定詞、「NP+from 動名詞」を取る用法が見られ、「NP+from 動名詞」
を取る用法が例の大多数を占め、to 不定詞を取る用法がそれに次ぐ頻度であり、but 節を取 る用法は頻度がきわめて低い。両者の相違点としては次の2点が挙げられる。まず1点目と して、本論の調査では、17世紀における that 節を取る例の頻度が、Iyeiri(2010)の調査結果 よりも低いことが挙げられる。次に、17世紀における to 不定詞を取る例の頻度は、Iyeiri
(2010)の調査結果より本論の調査結果の方が低い。これらの違いは that 節を取る用法と to 不定詞を取る用法がテキストによって頻度に偏りがあることを示唆しているかもしれない。
今後さらに調査が必要である。
次に、本論で調査した16世紀と17世紀のテキストにおいて hinder の補部に見られる特徴を 考察する。表6に to 不定詞、動名詞、定形節を取る例と頻度を示す。
表6 各テキストにおけるそれぞれの用法の頻度
テキスト
補部 1555 Dec 1577-87
Chron 1603 Turks 1651 Lev 1687 Travels
動名詞 0(0) 0(0) 0(0) 0(0) 0(0)
NP + from 動名詞 0(0) 1(33.33) 7(46.67) 5(62.5) 46(88.46)
NP + for 動名詞 0(0) 0(0) 3(20) 0(0) 0(0)
+ to 不定詞 0(0) 0(0) 0(0) 0(0) 0(0)
NP + to 不定詞 1(100) 1(33.33) 4(26.67) 1(12.5) 4(7.69)
that 節 0(0) 1(33.33) 1(6.67) 0(0) 0(0)
but 節 0(0) 0(0) 0(0) 2(25) 2(3.84)
まず、「NP+to 不定詞」を取る用法であるが、16世紀から17世紀にかけて頻度が低下の一 途をたどることが分かる。
次に、but 節を取る用法は、Iyeiri(2010)は17世紀に出現したことを報告しているが、本 論の調査によって出現の時期が17世紀半ばであることが明らかになった。この用法は、出現 当初は25%の頻度を見せるが、Travels では3%ほどになる。
動名詞を伴う用法に移ろう。まず、Turks のみで見られる「NP+for 動名詞」は他のテキ ストに見られない用法であるので歴史的な位置づけが難しい。もしこれが例外的な現象では ないならば、前置詞に注目すべきかもしれない。For は目的ないしは関連を表すことに注目 すると、同じ意味を持つ to 不定詞との関連が考えられる。
次に「NP+from 動名詞」である。これは Iyeiri(2010)の調査によって16世紀から生じて いることが分かっているが、その出現時期は16世紀後半の Chron である。その後着実に増加 し、17世紀末には90%近くまで達する。では、「NP+from 動名詞」を伴う用法はどのように 発達したのだろうか。本論では、「NP+from 名詞的動名詞」から「NP+from 動名詞」が生 じたと主張する。
(6c) ... hinder them from quiet gathering and inioieng their rents, tithes, and profits, ...
(14) ... which, because no body hindered him from detaining, was the action of a man at liberty.
(6c)では、上述の通り、動名詞 gathering は形容詞 quiet によって修飾されており、名詞的動 名詞である。(14)では動名詞 detaining は受動態の意味であるにも関わらず能動態の形態を 取っており、detaining は名詞的動名詞と判断される。よく知られているように、16世紀から 17世紀は動名詞が動詞的性質を強めていった時期であり、hinder の補部においても名詞的動
名詞が動詞的性質を獲得していったと考えられる。(6c)に見るように、これら2種類の動名 詞は等位接続されうることから統語的に同等であると考えられる。動名詞における動詞性の 発達とともに、「NP+from NP(16)」の一種である「NP+from 名詞的動名詞」から「NP+from 動名詞」が生じたのであろう。
「NP+from 動名詞」と「NP+from NP」の関連が示唆されたところで、本論の調査結果全 体に注目したい。次に上掲の表3を繰り返す。
表3 各テキストにおける用法ごとの頻度
テキスト
補部 1555 Dec 1577-87
Chron 1603 Turks 1651 Lev 1687 Travels
NP 86.67 89.74 80.46 50 31.64
NP + from NP 3.33 2.56 0 15.38 2.53
NP + of NP 3.33 0 1.15 3.85 0
NP +動名詞 0 0 0 0 0
NP + from 動名詞 0 2.56 8.05 19.23 58.23
NP + for 動名詞 0 0 3.45 0 0
+ to 不定詞 0 0 0 0 0
NP + to 不定詞 3.33 2.56 4.6 3.85 5.06
that 節 0 2.56 1.15 0 0
but 節 0 0 0 7.69 2.53
φ 3.33 0 1.15 0 0
表3からは、16世紀半ばから17世紀半ばまで hinder においてもっとも頻度が高いのは目的 語名詞句のみを取る用法であることが分かる。しかしその後、17世紀後半の Travels では目 的語名詞句のみを取る用法は頻度が30%ほどに低下し、「NP+from 動名詞」が最も頻度の高 い用法となる。この史的変化は、hinder がもともと目的語名詞句を取る2項動詞であったの が、目的語以外に to 不定詞や「from NP」を追加的に従えるようになっていった可能性を想 起させる。目的語名詞句のみを取る2項動詞用法では、目的語名詞句は有生、無生の名詞句 を取った。(3)などに見るように、有生名詞は被行為者を表し、無生名詞は妨害対象の事象 を表す。前置詞 from を用いて後者を分析的に表したものが「NP+from NP」であろう。
「NP+to 不定詞」については、Turks において不定詞が受動態になっている例の観察され るのが興味深い。このテキストでは「NP+from 動名詞」を補部に含む例で、動名詞が受動 態になる例はない。17世紀後半の Travels では「NP+from 動名詞」の例で動名詞が受動態 になっているものがあるのに対して、「NP+to 不定詞」の to 不定詞が受動態になる例はな い。2つのテキストに限られたことではあるが、補部形式の選択が動名詞の動詞性の発達と
関係している可能性がある。ただし、最終的な結論を下す前に、これら2つのテキストにお ける動名詞全般の振る舞いを調査することが必要である。
最後に、hinder における HAE について述べる。まず、to 不定詞を取る用法において hinder 自体が to 不定詞になる例はなく、動名詞を取る例で hinder 自体が -ing 形になることはない。
この事実は HAE によるものと考えることができるだろう。
4.結 語
本論では、16世紀と17世紀の5つのテキストを取り上げ、hinder の補部に見られる性質を 調査し、考察した。Iyeiri(2010)の調査結果と対照すると、to 不定詞を取る用法、that 節を 取る用法の頻度に違いがあり、これらの用法はテキストによる頻度の差がある可能性が浮か び上がった。今後、他のテキストを調査していく必要がある。さらに、5つのテキストを観 察すると、but 節を取る用法は17世紀半ばに出現していることが明らかになった。また、「NP
+from 動名詞」は Iyeiri(2010)の調査では16世紀中に現れたとのことであったが、これが 16世紀後半であったことが明らかになった。
本論では「NP+from 動名詞」というパターンが「NP+from NP」のパターンから、動名 詞の動詞的性質の発達によって生じたものであると主張した。さらに Iyeiri(2010)が取り上 げていないタイプの用法を含めて hinder の例全体を検討し、hinder はがんらい目的語名詞句 のみを取る2項動詞であったが、次第に to 不定詞や「from NP」(およびそれから発達した
「from 動名詞」)を追加的に取るようになった可能性が示唆された。また、HAE については、
言語における一般的な傾向であり、hinder もその例外ではない。動名詞や to 不定詞の連続が 見られないことは HAE の現れであると考えられる。
本論の結びに今後の課題を3つ挙げる。まず1つは、今回の調査が5つのテキストのみに 限定されていることである。今後、調査対象とするテキストを増やし、より多くの例を収集 し調査結果と考察を深める必要がある。Iyeiri(2010)の調査結果に含まれる「NP+動名詞」
「+to 不定詞」の例が本論の調査で見つかっていないのは調査対象としたテキストが少なかっ たためと考えられる。
次に、but 節を伴う例が否定文に限定されることは本論では説明できなかった。今後さら に考察を深める必要があろう。
3点目として挙げるのは、hinder が何も後続させずに自動詞的に使われる用法である。
(4d) ... as to feare and foresee all such thynges as may hynder:
(11) By which meanes they hindred, and the enemies murthering pieces continually flank- ing them,
ここでは hinder は何も従えていない。これは hinder の用法が PE より幅広かったことを示 すが、その理由については今後さらなる検討が必要であろう。
*本論の執筆にあたり、匿名の査読者から貴重なコメントをいただいた。ここに記して謝意を表し たい。ただし本論の不備は、その一切が筆者の責任である。
註
(1) 本論文では、1100年から1500年までの英語を中英語、1500年から1900年までの英語を近代英 語、1900年以降の英語を PE とする。
(2) 以下では「目的語 NP」は NP と、「動詞的動名詞」は動名詞とする。
(3) OED はこの用法を PE で廃用もしくは古風としている。Iyeiri(2010)によれば(i)が The British National Corpus における唯一の例である。
(i)... but they altogether refused, and seeing that they refused I did not hinder them to go,
for I will press no man. [ibid.:100]
(4) 表1の to 不定詞は(i)のように NP を伴わず to 不定詞のみを取る例も含む。
(i) What hinders then To reach, and feed at once both Bodie and Mind?
(1667 Milton P.L. ix. 779)[OED]
(5) これは starting singing などの同一形態の連鎖が避けられる傾向のことである。Vosberg(2003), Iyeiri(2010)などを参照。
(6) Google Books については http://books.google.co.jp を、Project Gutenberg については http://
books.google.co.jp を、Early English Books Creation Partnership については http://quod.lib.
umich.edu/e/eebogroup/ をそれぞれ参照されたい。
(7) Holinshed Project については http://www.english.ox.ac.uk/holinshed/ を参照されたい。
(8) 2.1の例文は特に断りのない限り Dec からである。例文の強調は筆者による。以下2.2, 2.3, 2.4, 2.5においても例文は特に断りのない限りそれぞれのテキストからの引用であり、強調も筆者 による。
(9) (8a)の enforce は「促す」の意味である。OED s.v. enforce †2. を参照されたい。
(10) 「NP+of NP」と「NP+from NP」は同じ意味を表す。
(11) (13)は「何かに対する権利を放棄することは、他者にそのものへの権利を妨害しないことで ある」の意味を持ち、hinder が目的語 another と of 前置詞句を取っていると判断される。
(12) Chron における1例は(6c)である。(6c)では from の目的語として動名詞と名詞的動名詞が 現れている。本論ではこれを2例とみなし、「NP+from NP」および「NP+from 動名詞」の 例として扱った。
(13) But の後に接続詞 that が続く例もこれに含める。以下も同じ。
(14) これは後続要素を何も従えない用法を表す。以下も同じ。
(15) 小数点2位以下は四捨五入した。以下で頻度を百分率で示す場合も同様である。
(16) 「NP+from NP」は16世紀末から17世紀中頃まで例が見られ、その後衰退している。「NP+
from 動名詞」と「NP+from NP」という2つの構造が競合していた可能性を今後考察する 必要がある。また、「NP+of NP」と「NP+from NP」が競合した可能性を今後検討する必 要もある。
調査したテキスト
[1] Dec(1555): Eden, Rycharde(tr.)(1555)The Decades of the Newe Worlde or West India Conteynyng the Nauigations and Conquestes of the Spanyardes, with the Particular Descrip- tion of the Moste Ryche and Large Landes and Ilandes Lately Founde in the West Ocean Perteynyng to the Inheritaunce of the Kinges of Spayne, In ædibus Guilhelmi Powell, London
[2] Chron(1577-87): Holinshed, Raphael(1577-87) Chronicles of England, Scotland and Ireland, Vol. 5, Johnson, London.
[3] Turks(1603): Knolles, Richard(1603)The Generall Historie of the Turkes, Adam Islip, Lon- don.
[4] Lev(1651): Hobbes, Thomas(1651)Leviathan or The Matter, Forme and Power of a Com- mon Wealth Ecclesiasticall and Civil, Andrew Crooke, London.
[5] Travels(1687): Lovell, Archibald(tr.)(1687)The travels of Monsieur de Thevenot into the Levant in three parts, viz. into I. Turkey, II. Persia, III. the East-Indies, Faithorne, London.
参考文献
稲田俊明(2000)『補文の構造』、大修館書店、東京。
Iyeiri, Y.(2010)Verbs of Implicit Negation and their Complements in the History of English, John Benjamins, Amsterdam.
Simpson, J. A. and E. S. C. Weiner(eds.)(1989)The Oxford English Dictionary, 2nd edition on CD- ROM Version 1.14(1994), Clarendon Press, Oxford.
遠峯伸一郎(2010)「Hinder などの動詞における不定詞を取る用法の成立について」、『近代英語研 究』第26号、55-70.
Visser, F. T.(1963-73)An Historical Syntax of the English Language, 3 parts, 4 vols., E. J. Brill, Leiden.
Vosberg, U.(2003)“The Role of Extractions and horror aequi in the Evolution of -ing Comple- ments in Modern English,” Determinants of Grammatical Variation in English, ed. by Rohden- burg, G. and B. Mondorf, 305-327, Mouton, Berlin.
The British National Corpus, version 3(BNC XML Edition).(2007)Distributed by Oxford Univer- sity Computing Services on behalf of the BNC Consortium.