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―18世紀と19世紀の資料を中心に―

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(1)

Hinder における補部形式の競合について

―18世紀と19世紀の資料を中心に―

遠 峯 伸一郎

(英米文学専攻博士後期課程3年)

1.はじめに

 英語の動詞 hinder は、現代英語(以下 PE(1))で動名詞を含む補部を取る(稲田(2000:216))。

⑴ ... although specifically intended to hinder nobles from retaining royal justices as clients or followers, ...  (FLOB, F)[Iyeiri(2010:99)]

PE ではこのような性質を見せる hinder であるが、歴史をさかのぼると違った性質を見せる

(Iyeiri(2010)などを参照)。ME では⑴のような動名詞を含む補部を取る用法はなく、次の ような to 不定詞を含む補部を取る用法を持った。

⑵ It semeþ þat privat religiose ben hyndred bi her ordris to kepe Cristis lawe.

(c1380 WYCLIF Sel. Wks. III. 431)[The Oxford English Dictionary(2)

ModE に入ると、定形節を取る用法や動名詞が含まれる補部を取る用法が発達した。次に ModE で見られた補部パターンの例を示す。

⑶ a.  If he offered to go back to the Abbey, and was enticed to stay and hindered to go.

(1709 Fountainhall Decisions II. 518)[OED]

  b.   ... they would hinder(by all the meanes they could)that no great armie should be  made out of France against them  (1577-87 Holinsheds Chronicles of England,   Scotland and Ireland, Vol. 5)[遠峯(2016:94)]

  c.  ... yet that doth not hinder but that such motions are.

(1651 Leviathan or The Matter, Forme and Power of a Common Wealth Ecclesiasticall and Civil)[遠峯(2016:96)]

(2)

  d.  ... to hinder the Christians from building againe the late destroyed citie.

(1603 The General History of the Turks)[遠峯(2016:95)]

  e.  Dante ... Hated wickedness that hinders loving.

(1855 Robert Browning, One Word More)[Iyeiri(2010:104)]

  f.   For if these Renegades had formed such a Conspiracy, what hindered their accom- plishing it?  (1751 Affecting Narrative of the Catastrophe   of his Majestys Ship Wager)[Iyeiri(2010:104)]

  g.  What would hinder him lasting out to ninety years or a hundred even?

(1881 Mrs. J. H. Riddell, Senior Partner)[Iyeiri(2010:111)]

(3a)は「目的語名詞句(3)+to 不定詞」を取るパターンである。(3b)は that 節を、(3c)は but that 節をそれぞれ取るパターンである。(3d)は「NP+from 動名詞」を取るパターンで ある。(3e)、(3f)、(3g)は動名詞は含むが from のないパターンであり、これらの3つは動 名詞の意味上の主語の具現で違いが見られる。(3e)では動名詞の意味上の主語が具現してお らず、(3f)と(3g)では動名詞の意味上の主語がそれぞれ所有格と通格で具現している。こ こではこれら3つのパターンを「動名詞」を取る用法として一括して扱う。OED の例文で ModE から PE に見られた hinder の補部パターンの用例数の推移を、Iyeiri(2010)の資料に もとづいて表1に示す。

表1 ModE から PE における hinder の補部パターンの生起数

世紀

補部パターン 16世紀 17世紀 18世紀 19世紀 20世紀

that 節 2 2 0 2 0

but 節 0 3 1 0 0

NP+to 不定詞 5 12 8 2 0

動名詞 3 11 18 5 0

NP+from 動名詞 4 28 66 28 4

14 56 93 37 4

(cf. Iyeiri(2010:201-202), Figure 17-21)

 表1の生起数から算出した頻度を百分率(4)で表2に示す。

(3)

表2 ModE から PE における hinder の補部パターンの頻度

世紀

補部パターン 16世紀 17世紀 18世紀 19世紀 20世紀

that 節 14.29 3.57 0 5.41 0

but 節 0 5.36 1.08 0 0

NP+to 不定詞 35.71 21.43 8.60 5.41 0

動名詞 21.43 19.64 19.35 13.51 0

NP+from 動名詞 28.57 50.00 70.97 75.68 100

 表1、2を見ると、hinder の補部パターンは ModE で大きく変化したことが分かる。ま ず、「NP+to 不定詞」は、16世紀から19世紀に衰退の一途をたどり20世紀で例が見られなく なった。「動名詞」と「NP+from 動名詞」は16世紀に現れ、前者が PE に向けて衰退するば かりなのに対し、後者は頻度を高め続けている。定形節を取る2つの用法は、that 節を取る パターンが16世紀から19世紀に、but 節を取るパターンが17世紀と18世紀に見られる。両者 とも頻度は低く20世紀には例が見られない。以上をまとめると、ModE において hinder は、

定形節を取るパターンを持ったものの少数であり、例の大多数は「NP+to 不定詞」を取るパ ターンや動名詞を含む補部を取るパターンであった。そして「NP+to 不定詞」を取るパター ンは時代が下るにつれて動名詞を含む補部を取るパターンに侵食されていった。換言すると、

ModE において hinder の補部では「NP+to 不定詞」を取るパターンと動名詞を含む補部を 取るパターンで競合が生じ、後者が前者を駆逐したと考えられる(cf. Iyeiri(ibid.), Rohden- burg(2006))。

 Hinder の補部における競合が起きた16世紀から19世紀の4世紀のうち、遠峯(2016)は前 半の2世紀に注目し、16世紀と17世紀の5つのテキスト(5)を調査して変化の詳細を探った。調 査結果を表3に示す。

表3 5つのテキストにおける補部パターンの生起数と頻度

テキスト

補部パターン 1555

Dec 1577-87 

Chron 1603

Turks 1651

Lev 1687 Travels

that 節 0(0) 1(33.33) 0(0) 0(0) 0(0)

but 節 0(0) 0(0) 0(0) 2(25) 2(3.85)

NP+to 不定詞 1(100) 1(33.33) 4(36.36) 1(12.5) 4(7.69)

動名詞 0(0) 0(0) 0(0) 0(0) 0(0)

NP+from 動名詞 0(0) 1(33.33) 7(63.64) 5(62.5) 46(88.46)

(cf. 遠峯2016:101)

(4)

16世紀から17世紀にかけて hinder の補部ではどのような変化が見られたのであろうか。表3 に見るように、「NP+to 不定詞」は16世紀半ば以降、頻度が低下し続けている。対照的に、

「NP+from 動名詞」は16世紀後半に現れ17世紀に頻度が大きく高まっている。定形節を取る 用法は16世紀後半に現れ17世紀に頻度が低下した。また、「動名詞」を取るパターンは例が見 られなかった。この調査結果は、「動名詞」を取る用法が観察されないことを除いて、概ね Iyeiri(2010)のそれと一致する。

 調査対象を定形節や動詞の不定形を含むパターンに限定しなければ、どのような結果が得 られるだろうか。遠峯(2016)は、調査対象を定形節及び動詞の不定形を補部に取るパター ンに限定せずに、hinder のすべての例を調査している。その結果を次に示す。

表4 5つのテキストにおける全ての補部パターンの生起数と頻度

テキスト

補部パターン 1555

Dec 1577-87

Chron 1603

Turks 1651

Lev 1687 Travels NP 26(86.67) 35(89.74) 70(81.4) 13(50) 25(31.64)

NP+from NP 1(3.33) 1(2.56) 0(0) 4(15.38) 2(2.53)

NP+of NP 1(3.33) 0(0) 1(1.16) 1(3.85) 0(0)

NP+from 動名詞 0(0) 1(2.56) 7(8.14) 5(19.23) 46(58.23)

NP+for 動名詞 0(0) 0(0) 3(3.49) 0(0) 0(0)

NP+to 不定詞 1(3.33) 1(2.56) 4(4.65) 1(3.85) 4(5.06)

that 節 0(0) 1(2.56) 0(0) 0(0) 0(0)

but(that)節 0(0) 0(0) 0(0) 2(7.69) 2(2.53)

補部を取らない 1(3.33) 0(0) 1(1.16) 0(0) 0(0)

30 39 86 26 79

(cf. 遠峯2016:99)

表4を観察すると、まず hinder には NP のみを取る2項動詞用法があったことが分かる(6)。こ の用法は、16世紀から17世紀にかけて頻度を低下させている。同時期に「NP+from 動名詞」

を取る用法が頻度を上げている。定形節を取るパターンと「NP+to 不定詞」を取るパターン は16世紀から17世紀を通して約2.5%から約5%の頻度にとどまる。定形節や動詞の不定形を 含むパターンのみを考察の対象とすると、「NP+to 不定詞」を取る用法と動名詞が含まれる 補部を取る用法の競合において後者が前者を駆逐したという変化が読み取れる。これに対し て、すべての例を考察の対象にすると、NP を取る用法と「NP+from 動名詞」を取る用法の 間に競合があった可能性も浮かび上がる。

 本論では、移行期前半の16世紀と17世紀の調査に引き続き、移行期後半である18世紀と19 世紀の資料を調査する。Hinder のすべての例を調査対象として、The Corpus of Late Modern

(5)

English Texts, version 3.1(以下 CLMET とする)から資料を収集し、この資料をもとにし て、NP を取るパターンと「NP+from 動名詞」を取るパターンとの競合の可能性を示す証拠 が18世紀と19世紀に見られるかどうか探りたい。加えて、Iyeiri(2010)の調査では一定の頻 度で見られる「NP+to 不定詞」を取る用法と定形節を取る用法がどのような特徴を持ってい たのかを明らかにしたい。

 本論の構成は以下の通りである。次節では、本論で調査対象としたコーパスを紹介し、そ の調査から得られた用例を示す。第3節では第2節の資料を考察する。第4節は本論の知見 を確認し、今後に向けての課題を示す。

2.資 料

 本論で用いる CLMET は、Hendrik De Smet 氏らによる1710年から1920年(7)のイギリス英語 のコーパスである。ジャンルのバランスを考慮して構築されており、1710年から1920年まで を3期に分けている。規模は全体で約3440万語であり、各期間ごとには、1710-1780年の期 間が約1050万語、1780-1850年の期間が約1130万語、1850-1920年の期間が約1260万語であ る。

2.1. CLMET の資料

 CLMET における例の分布を期間ごとにまとめると次のようになる。

表5 CLMET における補部パターンの生起数と頻度(8)

補部 パターン

期間 「NP+to 不定詞(9)」 「NP+from 動名詞」 「動名詞」 定形節 NP 1710-1780 2(0.38) 327(62.52) 28(5.35) 7(1.34) 159(30.40) 523 1780-1850 2(1.02) 100(51.02) 17(8.67) 2(1.02) 75(38.27) 196 1850-1920 0(0) 38(25.33) 6(4.00) 0(0) 106(70.67) 150

4 465 51 9 340 869

 表5を見ると、18世紀以降時代が下るにつれて、定形節の補部や動詞の不定形を含む補部 が減少し、NP を補部に取る用法が増加していることが分かる。また、「NP+to 不定詞」を 取る用法と定形節を取る用法は19世紀後半以降、例が見られなくなる。以下では、補部パター ンごとに例を観察する。

 まず「NP+to 不定詞」を取る用法であるが、1710-1780と1780-1850に計4例のみ観察さ れ、頻度も0~1%程度とまれである。次に、その4例すべてを挙げる。

(6)

⑷ a.   I hope you will not take it ill, if I declare your Notions of Matrimony wont hinder me to try my Fortune...  [1736 William Rufus Chetwood, The Voyages, Travels and Adventures, of William Owen Gwin Vaughan, Esq]

  b.  Nothing, then, hinders you to do justice and make restitution;

[1777 Clara Reeve, The Old English Baron(10)   c.  No head of old, too high in featherd state, Hinderd the fair to pass the lowest gate;

[1781 Richard Brinsley Sheridan, A Trip to Scarborough]

  d.  Ye canna hinder me to think whatever I like, sir, nor can I hinder mysel.

[1824 James Hogg, Private Memoirs and Confessions of a Justified Sinner]

(4a, b)が1710-1780の例、(4c, d)が1780-1850の例である。すべて否定文である。「NP+

to 不定詞」を取る例は、(4a)を除いて、すべて著者がアイルランドもしくはスコットラン ド出身である。

 定形節を取る用法は全期間を通して9例であり、頻度も1%程度とまれである。1710-1850 に7例、1780-1850に2例見られる。1850-1920は例が見られない。次に例を挙げる。

⑸ a.   And yet this doth not hinder but the method may be useful, considered as an art of  Invention.  [1735 George Berkeley, A Defence of Free-Thinking in Mathematics]

  b.  ...but that hinders not its being a very real one, and very different from all others.

[1757 Edmund Burke, A Philosophical Enquiry into the Origin of Our Ideas

of the Sublime and Beautiful]

  c.  What hindered but these insects might have acquired hands ... is not explained to us.

[1846 Henry Francis Cary, Lives of English Poets]

定形節を取る9例は、その8例までが否定文脈に現れる。

 「動名詞」を取る用法は頻度が4%~8%程度であり、「NP+to 不定詞」を取る用法や定形 節を取る用法よりも高い。この用法は1780-1850にピークを迎えた後、衰退に向かう。

⑹ a.   ... any affection tends to the happiness of another does not hinder its tending to ones  own happiness too.  [1726 Joseph Butler, Human Nature and Other Sermons]

  b.   The Joy took away all Thoughts of my Disorder; but it coud not hinder a strong Fever seizing me ...  [1735 William Rufus Chetwood, The Voyages, Travels and  

(7)

Adventures, of William Owen Gwin Vaughan, Esq]

  c.  ... that would not hinder the Roman ... being the higher sense and the only rightful.

[1845 John Henry Newman, Essay on the Development of Christian Doctrine]

「動名詞」を取る用法は現れる文脈に関して特定のタイプに限定されることはない。また、

意味上の主語が必ず具現する。

 「NP+from 動名詞」の例を次に挙げる。

⑺ a.  this does not hinder them from being public affections too ...

[1726 Joseph Butler, Human Nature and Other Sermons]

  b.  ... which shall hinder the attention of any from being involuntarily diverted.

[1783-84 William Godwin, Four Early Pamphlets]

  c.   The brightness that has done so much for him already will hinder him from turning  his eyes elsewhere.  [1870 Charlotte Mary Yonge, The Caged Lion]

表4から明らかなように、「NP+from 動名詞」は CLMET で最も例の数が多いパターンで あり、また現れる文脈に関して特定のタイプに限定されることはない。全体に占めるその比 率は1710-1780をピークとして以降低下していく。「NP+from 動名詞」の比率の低下は、NP を取る用法の増加と呼応している。

 NP のみを取る用法では、目的語は無生、有生にかかわらず例が見られる。

⑻ a.  ... the imperfection of my copy hinders my information;

[1753 Theophilus Cibber, The Lives of the Poets of Great Britain and Ireland]

  b.   I am afraid, said Imlac, you are hindered by stronger restraints than my persua- sions; ... [1759 Samuel Johnson, Rasselas, Prince of Abyssinia]

NP のみを取る用法も特定の文脈に限定されることはない。頻度は時代を下るにつれて高く なる。1710-1780は30%程度であったのが、1780-1850以降頻度が上昇し1850-1920は70%

ほどになる。

2.2. 本節のまとめ

 本節では、18世紀と19世紀の資料として CLMET を調査した。そこから得た例を観察する

(8)

と、1780年以降、NP のみを取る用法が頻度を増し動名詞を含む補部を取る用法の頻度が低 下していることが分かる。16世紀から例の見られた「NP+to 不定詞」を取るパターンと定形 節を取るパターンは頻度が0~1%程度に過ぎず、1850年以降例が見られない。また、例は 否定の文脈に集中して現れる傾向がある。動名詞を含むパターンは「NP+from 動名詞」の パターンと「動名詞」のパターンが見られる。両者に共通して、現れる文脈が限定されない。

2つのパターンが異なる点は次の通りである。前者は19世紀半ばまで全ての用法中最も頻度 の高い用法であり、19世紀半ば以降、NP のみを取るパターンに後塵を拝する。後者は、動 名詞の意味上の主語が必ず具現する。

3.考 察

 本節では、前節で示した資料を補部パターンごとに検討する。まず、「NP+to 不定詞」を 取るパターンであるが、1710-1780に2例(0.38%)、1780-1850に2例(1.02%)見られる のみで、きわめて低頻度である。加えて、これらはすべて否定文に現れている。調査対象と した時期を通してきわめて頻度が低く、また、生起する文脈が限定されていることから、「NP

+to 不定詞」を取るパターンは、18世紀と19世紀において固定表現化し、補部パターンとし て生産性を失っていたと思われる(11)。また、例のすべてがアイルランドもしくはスコットラン ド出身の著者によるものであり、今後、このパターンが方言的な特徴である可能性を検討す る必要があると思われる。

 次に、定形節を取るパターンを見る。1710-1780に7例(1.34%)、1780-1850に2例

(1.02%)とまれであり、9例中8例が否定文脈に現れる。定形節を取るパターンも「NP+to 不定詞」を取るパターンと同様に固定表現化していたと推定される。

 動名詞を含む補部を取るパターンは2種類ある。まず、前置詞 from が含まれない「動名 詞」を取るパターンであるが、1710-1780に28例(5.35%)、1780-1850に17例(8.67%)、

1850-1920に6例(4.00%)見られる。このパターンは定形節を取るパターンや「NP+to 不 定詞」を取るパターンとは異なり、生起する文脈が限定されていないことから、hinder の補 部として生産的であったのだろう。

 なお、このパターンでは今回の調査で見つかったすべての例において意味上の主語が具現 している。

(6a)   ... any affection tends to the happiness of another does not hinder its tending to ones  own happiness too.

(9)

この事実が今回の調査に特定的なものなのか、あるいは、このパターンにおいて主語の具現 が義務的であったのかについては今後の調査が待たれる。

 「NP+from 動名詞」取るパターンは頻度が高く、1710-1780に327例(62.52%)、1780-

1850に100例(51.02%)、1850-1920に38例(25.33%)見られる。このパターンは使われる文 脈に特に限定は見られない。これらの事実から、18世紀と19世紀において「NP+from 動名 詞」は hinder の補部として生産的であったと考えられる。

 次に NP のみを取るパターンを検討する。1710-1780に159例(30.40%)、1780-1850に75 例(38.27%)、1850-1920に106例(70.67%)見られ、1850年以降はすべての補部パターンの 中で最も頻度が高い。現れる文脈は特に限定されないことから、NP のみを取るパターンは 補部として生産的であったと考えられる。

 興味深いことに、NP のみを取るパターンは、「動名詞」や「NP+from 動名詞」を取るパ ターンの頻度が低下するにつれて、頻度を上げている。上述の通り、16世紀と17世紀におい て「NP+from 動名詞」を取るパターンが発達する過程では、「NP+from 動名詞」を取るパ ターンの頻度が高まるにつれて NP のみを取るパターンの頻度が低下していた。これに対し て、18世紀と19世紀においては逆に「動名詞」や「NP+from 動名詞」を取るパターンの頻 度が低下するにつれて、NP のみを取るパターンの頻度が高まっている。この事実は、18世 紀と19世紀において「動名詞」や「NP+from 動名詞」を取るパターンと NP を取るパター ンが競合関係にあった可能性を示すと考えられる。

4.結 語

 本論は CLMET の調査を行い、18世紀と19世紀において hinder の補部に見られる特徴を 探った。その結果、定形節を取るパターンと「NP+to 不定詞」を取るパターンは頻度がきわ めて低く、生起する文脈が否定の文脈に限定されていることが明らかになった。このことか ら、これらのパターンは固定表現化して補部パターンとしては生産性を失っていたと考えら れる。OED においては、Iyeiri(2010)に報告されている通り例が一定数見られるが、これ は、OED が辞書であり、hinder の可能な補部パターンをすべて掲載しているためと思われ る。18世紀と19世紀において hinder の補部として生産的であったのは、動名詞を含む補部を 取るパターンと NP のみを取るパターンであった。

 動名詞を含む補部を取るパターンと NP のみを取るパターンを見ていくと、まず、動名詞 を補部に含む2つのパターンのうち、「動名詞」を取るパターンでは、動名詞の意味上の主語 が必ず具現するという特徴が見られた。この理由については今後の課題である。「NP+from 動名詞」を取るパターンは、19世紀半ばまでは最も頻度が高いパターンであったが、その後

(10)

は NP のみを取る用法に次ぐ位置へ頻度が低下している。NP のみを取るパターンはこれらと 逆の推移を示しており、「動名詞」や「NP+from 動名詞」を取るパターンと NP を取るパ ターンの競合があった可能性があると考えられる。

 残された問題は次の通りである。まず、「動名詞」を取る用法についてその衰退の理由を明 らかにする必要がある。なぜ「NP+from 動名詞」が PE まで残り、「動名詞」を取る用法が 廃れたのか、現在のところ定かでない。次に、動名詞を含む補部を取る用法と NP のみを取 る用法が競合する理由を明らかにしなくてはならない。事実調査の面では、16世紀と17世紀 において規模の大きいコーパスの調査をすることも必要である。18世紀と19世紀は本稿にお いて CLMET を調査したが、16世紀と17世紀は5つのテキストのみしか調査していない。規 模の大きいコーパスを調査し、その結果を本論の調査結果と比較検討して考察を進める必要 がある。特に、遠峯(2016)では16世紀と17世紀において「動名詞」を取る用法が見られな かったと報告されているが、規模の大きなコーパスでも同様の結果が出るのか探ることは重 要である。

謝 辞

 本論の執筆にあたり、匿名の査読者の方から貴重なコメントをいただいた。ここに記して謝意を 表したい。ただし本論の不備は、その一切が筆者の責任である。

調査したコーパス

De Smet, Hendrik, Susanne Flach, Jukka Tyrkkö and Hans-Jürgen Diller (2015) The Corpus of Late Modern English CLMET, version 3.1: Improved tokenization and linguistic annotation, KU Leuven, FU Berlin, U Tampere, RU Bochum. Available from 

  https://perswww.kuleuven.be/~u0044428/clmet3_1.htm.

参考文献

稲田俊明(2000)『補文の構造』、大修館書店、東京。

Iyeiri, Yoko (2010) Verbs of Implicit Negation and their Complements in the History of English,  John Benjamins, Amsterdam.

Rohdenburg, Günter (2006) The Role of Functional Constraints in the Evolution of the English  Complementation  System,  Syntax, Style and Grammatical Norms: English from 1500-2000,  ed. by Dalton-Puffer, Christiane, Dieter Kastovsky, Nikolaus Ritt and Herbert Schendl, 143-166,  Peter Lang, Bern.

Simpson, John A. and Edumnd S. C. Weiner (eds.) (1989) The Oxford English Dictionary, 2nd  edition on CD-ROM Version 1.14 (1994), Clarendon Press, Oxford.

遠峯伸一郎(2016) 「Hinder における補部形式の競合について -16世紀末から17世紀末の資料を 中心に」、『立正大学大学院年報(文学研究科)』第33号、91-106.

(11)

(1) 本論では、1100年から1500年までの英語を中英語(ME)、1500年から1900年までの英語を近 代英語(ModE)、1900年以降の英語を PE とする。

(2) The Oxford English Dictionary (Simpson and Weiner (eds.) (1989)、以下 OED)からの引 用は、その出典表記を OED に従っている。

(3) 以下 NP とする。

(4) 百分率は小数点2位以下を四捨五入している。以下も同じ。

(5) 各テキストに関する詳細は遠峯(2016)を参照されたい。

(6) この NP は hinder の主題項や被行為者項の具現である。⑻の例を参照されたい。

(7) CLMET は1901年から1920年に出版された作品も含むが、1901年以降に出版された作品につ いては19世紀中に生まれた作者のもののみに限定している。

(8) 次のような hinder が何も従えない例は考察の対象外とした。

ⅰ . . . putting away everything that hinders . . .

[1879 Catherine M. Booth, Papers on Aggressive Christiannity]

このような例は、1710-1780に3例、1780-1850に2例、1850-1920に4例が見つかってい る。

(9) 1870-1920で観察される次の例は考察の対象外とした。

ⅰ ... none hindereth, and nought lets us to follow.[1902 Edith Nesbit Five Children and It]

ここでは hinder が「NP+to 不定詞」を取っているように見えるが、それは let と等位構造を 成しているためと考えられる。そのため、ⅰは考察の対象外とした。

(10) 角かっこ内は出版年、著者名、書名である。

(11) 同様の固定表現化は PE における help の「避ける」の意味において見られる。この意味で は、cannot help but do や cannot help doing の否定の形式に限定されており生産性がない。

参照

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