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雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究 −家 庭観察データからの検討−

著者 中川 愛

雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要

巻 21

ページ 139‑147

発行年 2012‑03‑31

その他のタイトル Research on Children's Speech to Infant −A case study of a sibling interaction at home−

URL http://hdl.handle.net/10105/8436

(2)

奈良教育大学 教育実践開発研究センター研究紀要 第21号 抜刷

児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

—家庭観察データからの検討—

中川 愛

(奈良教育大学家庭科教育講座)

Research on Childrenʼs Speech to Infant

— A case study of a sibling interaction at home —

(3)

₁. はじめに

私たち大人は、乳児とやりとりを行う際には、大人 同士のやりとりではみられないような特徴を示す。

乳児へ向けた発話では、母親は、子どもがことばを 話すようになる前から話しかけ、まるで子どもの発話 であるかのように子どもの声を代弁すること(岡本,

2001;2008)、乳児が自分の行動の有意味性を理解す る前から、大人は乳児の行動に意味づけを行うこと がわかっている(Adamson, Bakeman, & Walters,  1987)。とくに、母親など乳児にとって身近な養育者 は、乳児の行動を記号として読み取り、それを意味づ ける役割を担っているという(岡本, 1999)。そして、

解釈のために行為を抽象化することは、二者関係の発 達の本質的な出発点とも考えられている(Newson , 1978)。

また、日本の養育者においては,子どもに対して特 別な語(育児語)を使用することがわかっている。育 児語には,擬音語擬態語の使用,音韻の反復,語の般 用傾向,接尾辞「さん」・「ちゃん」・「くん」を付加す る傾向,接頭辞「お」を付加する傾向,音の転用や

省略などがあるという(早川,1981;村田,1960;

Toda,Fogel & Kawai,1990;友定,2005)。

一方、筆者はこれまで、育児未経験である大学生な どを対象に、乳児へのあやし行動を行動・発話・音声 という多面的な視点から研究を行ってきた。その中で、

乳児との接触経験がない人は、生後4、5 ヵ月という まだことばを話せない乳児に対して、ほとんど発話を 行わないということがわかっている(中川・松村,

2006;2010)。乳児との関わりを終えた後、実験協力 者に感想を聞くと、どうしていいのか、何を話せばい いのかわからないと答えるものも少なくなかった。

また、保育士を目指す学生を対象にした乳児保育に 関するアンケートでも、乳児への関わりやことばかけ に不安を感じている学生も多いことがわかっている

(中川,2010)。

成人同士では、ことばを使ったコミュニケーション が主であり、ことばを話せない相手とのやりとりに戸 惑いが起きていることが伺える。

乳幼児の言語発達やコミュニケーション発達は、身 近な養育者やきょうだいの存在が影響していることが わかっている(岩田,1999;上村・加須屋, 2008他)。

児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

—家庭観察データからの検討—

中川 愛

(奈良教育大学家庭科教育講座)

Research on Childrenʼs Speech to Infant

— A case study of a sibling interaction at home —

Ai Nakagawa

(Department of Home Economics, Nara University of Education)

要旨:本研究では、乳児期の弟とそのきょうだい一組における自然なやりとりに焦点をあて、児童の乳児への発話に ついて発達的変化を検討した。姉(8歳)や兄(6歳)が弟に向けた発話には、様々な発話機能や育児語の使用がみと められた。発話内容の特徴としては、生後1 ヵ月ごろでは、弟の表情や発声から、弟の気持ちを代弁するような発話 が出現していた。生後2 ヵ月ごろでは、弟の発声に意味づけをしたり、応答したりする姿がみられた。生後3 ヵ月ご ろでは、行動が活発になった弟の動作に言葉をつけたり、弟の視線の先にあるものの情報を与えたりするような発話 を行っていた。育児語の使用は、生後1 ヵ月ごろからみられ、生後3 ヵ月までの観察データから、擬音語擬態語、音 の反復、音韻の転用、接尾辞の付加などの特徴がみられた。また、母親がやりとりに加わった場面では、母親の弟へ の発話を真似するきょうだいの姿がみられた。

キーワード:きょうだいsibling、乳児infant、発話speech

(4)

乳幼児の弟や妹をもつきょうだいは、彼らとどのよ うにコミュニケーションをとっているのだろうか。

2歳児の兄を対象に、弟(生後9〜 16 ヵ月児)へ の因果性の発話を調査した研究では、2歳児でも弟の 感情や欲求など内的状態を表す発話がみられることが わかっている(岩田,2002)。また、4歳児が2歳児 に話す時,大人に話をするときより単純な文で話すこ と(Shatz & Gelman, 1973)、3歳以下の子どもでも 乳児に対して、発話が短く、繰り返しが増加すること

(Dunn & Kendrick, 1982)がわかっている。

つまり、幼児は、自分より幼い乳幼児に対して、こ とばかけを行わないのではなく、発話形式を変えてコ ミュニケーションをとっていることがわかる。

しかし、ことばを話せない乳児とのコミュニケー ションについては、まだ十分に検討されていない。

本研究では、乳児期の弟とそのきょうだいにおける 自然なやりとりに焦点をあてたデータに基づき、児童 の乳児への発話について、発話内容、育児語の使用と いった視点から発達的変化を調べる。

乳児に向けた発話内容を調べることは、姉や兄が弟 や妹(乳児)をどのように捉えているのかということ を知る手がかりにもなると考えられる。

₂.方法

₂.₁.対象児

対象児童は、兵庫県在住のS(長女)と、Hi(長男)

のきょうだいで、対象乳児は、彼らの弟であるHa(次 男)である。 

家族構成は、父、母、長女、長男、次男の5人家族 である。

₂.₂.観察期間

観察期間は、2011年6月〜8月である。

観察時のSの年齢は、8歳5ヵ月〜7ヵ月、Hiの年 齢は、6歳5ヵ月〜7ヵ月、Haの月齢は、生後1ヵ 月〜3ヵ月であった。三人とも定型発達児である。

Haの喃語発声は、生後2ヵ月頃、首のすわり、寝 返りは、生後3 ヵ月頃であった。

₂.₃.手続き

対象となった家族には事前に会い,研究内容を説明 し,協力の承諾を得た。

母親に、子どもたちが弟と関わっている日常の様子

(遊び場面)をビデオカメラで録画してもらうよう依 頼した。

撮影時間は、SとHiが小学校から帰宅した夕方から 夕食後、休日の日中などで、母親が撮影可能な時間と した。

₂.₄.分析

観察期間に得られた録画映像データは、63分14秒で あった。SとHiがHaと関わっている映像は、19場面あっ た。そのうち、母親もやりとりに加わっている場面が 6場面あった。

また、本研究では、録画映像の切り替わりを1場面 として分析を行った。各月齢時にみられた場面数は、

生後1ヵ月7場面、2ヵ月6場面、3ヵ月6場面であっ た。そのうち、発話を伴わない関わり(生後1ヵ月1 場面)は、分析から除いた。対象とした資料は、34分 02秒である。

場面については、おもちゃを用いずに関わっている ものを「触れ合い遊び」、おもちゃを用いて関わって いるものを「おもちゃ遊び」、乳児の身体運動機能を 促しているものを「身体運動遊び」とした。

(1)発話機能カテゴリー

SとHiが発言したすべての発話について、中川・松 村(2006)の分析方法を用い、8つの発話機能カテゴ リーに分類した。なお、ひとまとまりの音声の中に沈 黙が挿入されている場合、その音声のない部分が0.3 秒未満のものは連続したひとつの音声とした。

カテゴリーは、①乳児の注意を発話者へひきつける、

あるいは乳児音声を引き出す目的の発話(「○○ちゃ ん」「こんにちは」など)を「注意喚起・音声誘出」、

②乳児の音声に対する同意や賞賛、あるいは乳児に対 する愛情を示す発話(「よしよし」「はいはい」など)

を「受容的表現」、③乳児の音声や行動に対する否定 的な内容を示す発話(「ごめんね」など)を「否定的 表現」、④乳児に情報を与える発話(命名を含む)(「お 母さん来るよ」など)を「情報提示・命名」、⑤乳児 音声の模倣、あるいは乳児の意図を解釈して代弁する 発話(「楽しいね」など)を「模倣・代弁」、⑥遊戯的 目的の発話(「ばあ」「タカイタカイ」など)を「遊戯 的音声」、⑦乳児に対する質問発話(「どうしたの」な ど)を「質問」、⑧乳児に対する指示発話(「泣かない で」など)を「指示」とした。2名の判別者が個別に 判定を行った結果,判別の一致率は77.2%であった。

各場面の発話機能カテゴリーの有無については、表 1に示す。

中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

(5)

(2)育児語カテゴリー

次に、SとHiの発話に育児語がみられるか、養育者 によくみられる育児語カテゴリー(村瀬・小椋・山下,

2007)を参考に分類をおこなった。

カテゴリーは次のとおりである。①「擬音語擬態 語」:動物の鳴き声や音・様態の音象徴であるもの。

(例:「ポーン(投げる)」)。②「音韻反復」:音韻が 繰り返されているものもそうでないものも含む。語尾 の長音、促音、撥音が省略されているものも含み、語 頭や語尾に音の付加したものも含む(例:「カミカミ

(かむ)」、「ニャーニャー(猫)」。③「接尾辞」:「サ ン」・「チャン」・「クン」及びその変形(例:「クマサ ン(熊)」「ワンチャン(犬)」)。④「接頭辞の付加」:

「オ」が付加されたもの(例:「オサカナ(魚)」)。⑤

「音の転用」:成人語の一部の音が変形したもの(例:

「ニューニュー(牛乳)」)。⑥「音の省略」:成人語 の一部の音が省略されているもの(例:「ヤダ(いや だ)」)。⑦「般用」:成人における使用よりもその適用 範囲が広いもの(例:「マンマ(ケーキ)」)。2名の 判別者が個別に判定を行った結果,判別の一致率は 87.9%であった。

各場面の育児語使用の有無については、表2に示す。

表1 発話機能カテゴリー 表2 育児語カテゴリー

₃. 結果

₃.₁.発話内容について

姉や兄が弟に向けた発話には、様々な発話機能が含 まれていた(表1)。

次に、各月齢時の発話特徴をまとめる。

(1)生後1ヵ月ごろ

この時期のHaは、向かい合った相手をみつめたり、

手足を動かしたり、ぐずり声を出したり、発声を伴わ ない微笑みなどを表出していた。

きょうだい間のやりとりは、Haをベッドやソファー に仰向けに寝かせたたり、横抱きにした状態でおこな われていた。また、Haの手や顔、体を触った触れ合 い遊びが多くみられた。

SやHiは、Haの名前を呼んだり、Haに自分自身の ことを説明したり、Haの表情や発声から、Haの気持 ちを代弁するような発話を行っていた。

事例1では、HiがHaに呼びかけたり、Haの表情か ら、Haの気持ちを代弁したりする姿がみられた。

Hiは、自分の発話の後に、Haの微笑みがみられた ことで、Hiは自分の発話がHaに通じたように感じ、

Haへの愛着がより深まっている様子がうかがえた。

Haの微笑みというシグナルが、やりとりへの強い動 機付けとなっていることが推測される。

月齢 場面(登場人物)

発話機能カテゴリー出現有無(「有」の場合は「○」 注:母親の発話は含まない)

注意喚起・

音声誘出 受容的表現 否定的表現情報提示・

命名 模倣・代弁 遊戯的音声 質問 指示

1カ月

① 触れ合い遊び(兄)

② 触れ合い遊び(姉)

③ 触れ合い遊び(姉)

④ 触れ合い遊び(姉)

⑤ 触れ合い遊び(姉)

⑥ 触れ合い遊び(兄)

2カ月

① 触れ合い遊び(姉)

② 触れ合い遊び(姉・母)

③ 触れ合い遊び(姉・兄) ○(姉・兄) ○(姉) ○(兄) ○(姉・兄)

④ 触れ合い遊び(姉)

⑤ 触れ合い遊び(姉)

⑥ 触れ合い遊び(姉)

3カ月

① おもちゃ遊び(姉・母)

② おもちゃ遊び(姉・兄・母)○(姉・兄) ○(姉) ○(姉) ○(姉)

 触れ合い遊び(兄)

④ 身体運動遊び(姉・母)

⑤ 身体運動遊び(姉・母)

⑥ 身体運動遊び(姉・母)

月齢 場面(登場人物)

発話機能カテゴリー出現有無(「有」の場合は「○」 注:母親の発話は含まない)

注意喚起・

音声誘出 受容的表

否定的表

情報提示・

命名 模倣・代

遊戯的音

質問 指示

1カ月

① 触れ合い遊び(兄)

② 触れ合い遊び(姉)

③ 触れ合い遊び(姉)

④ 触れ合い遊び(姉)

⑤ 触れ合い遊び(姉)

⑥ 触れ合い遊び(兄)

2カ月

① 触れ合い遊び(姉)

② 触れ合い遊び(姉・母)

③ 触れ合い遊び(姉・兄) ○(姉・兄) ○(姉) ○(兄) ○(姉・兄)

④ 触れ合い遊び(姉)

⑤ 触れ合い遊び(姉)

⑥ 触れ合い遊び(姉)

3カ月

① おもちゃ遊び(姉・母)

② おもちゃ遊び(姉・兄・母) ○(姉・兄) ○(姉) ○(姉) ○(姉)

③ 触れ合い遊び(兄)

④ 身体運動遊び(姉・母)

⑤ 身体運動遊び(姉・母)

⑥ 身体運動遊び(姉・母)

中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

(6)

<事例1:生後1ヵ月⑥場面より>

事例3では、Hiが、Ha のぐずりをなおそうと、名 前を呼びかけたり、頬を触ったり、手を握ったりして あやしている。タオルをかけ直した時に、Haのおむ つをみると、紙おむつの線の色が変わっていることに 気づく。最後は、Haが泣いている原因が、おしっこ がでたことを知らせることだったと納得している姿が みられた。

事例2と同様、毎日一緒に生活していると、弟の泣 きの原因は何なのか、推測できるようになっていく様 子がうかがえた。

<事例3:生後1ヵ月②場面より>

Hi(兄)

Ha(弟)

Hi

Ha Hi

Ha Hi

Ha Hi

「Haちゃん」

微笑む

「おにいちゃんですよー。笑っとる ね。笑った笑った笑った」

「笑った」

微笑む

「可愛い。笑っとう」

「笑っとう。可愛い」

「Hiが笑ったら(Haが)笑う」

Haの体をとんとんたたきながら

「Haち ん 楽 し い ね。Haち ん 楽 し い ね。Haちん」

「あーあー」

「Haちん笑っとう」

「Haちん、Haちん」

「Haごきげん」

「ごきげんHaちん」

「なあごきげんやな。Haちん」

微笑む

「笑った笑った」

「可愛い」

事例2では、Sが、Ha の泣き声や様子から、Haの 気持ちを読み取ろうとしている姿がみられた。

毎日一緒に生活する中で、弟の泣きの原因は何なの か、弟の様子をみながら判断することができている。

この場合は、弟が泣いているので、最初はあやすが、

ぐずりがおさまらない様子をみて、Haが、おむつを 替えて欲しいのかもしれないと推測している。そして、

母親におむつ交換を提案している。 

<事例2:生後1ヵ月②場面より>

Ha

S(姉)

Ha S Ha

S

「あ、あ、あーあ、えーえーえーえー」

手足を動かしぐずっている。

Ha の頭をなでる。

「どうしたん?」

Haにお腹を蹴られる

「Haちゃん、お姉ちゃんにあたっと るで」

泣くのをやめ、Sの方をみる。

Haの頬を指で触りながら

「ほっほっほほー」とあやす 姉の方をみながら声を出す。

「おーおー」

「おっおっお、あーあーあー」

手足を動かしぐずる。

「Haちゃん」

Haの頬を触る

「どうしたん」

「ちっち?どうしたん」

「どうしたん? Haちゃん」

M(母)

S

M

S

母に向かって

「おしっこかえようか?」

「うん」

「おしっこかえよか、Hi」

Haを抱っこしているHiに向かって

「Haちゃんこっちに移して。かえる は、S」

Haを抱っこし、おむつ交換がしやす いように場所を移動する。

「はい、どうぞ」

「Haち ゃ ん。 お ち っ こ 変 え ま し ょ う。おちっこ変えましょう。」

Ha Hi

Ha Hi

ぐずっている

「Haちん」

Haの手を握って、手をふる

「Haちん。Haちん」

Haの手でHaの頬を触る ぐずりがおさまる

「ぽんぽんぽん」

Haの手でHaの頬を触る

「ちょちょちょ」

Haの手でHaの頬を触る

「ちょちょちょ」

Haの手でHaの頬を触る

「Haちーん」

Haの手を握って、手をふる

「やーやーやーやーやー」

握った手を上にあげていく

「やーやーやーやーやー」

握った手を上にあげていく

「やーやーやーやーやー」

握った手を上にあげていく

「やーやーやーやーやー」

握った手を上にあげていく

「ペラ」

タオルをかけなおす Haのおむつをみて

中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

(7)

事例5では、SがHaが手足を動かす様子をみて、

Haが元気なのだと、Haの気持ちを声に出して代弁し ている姿がみられた。また、Sは、Haの頬や体を触り ながら、声かけを行っていた。Haは、そんなSをみつ め、時より微笑む姿がみられた。Sとのやりとりが楽 しんでいることがうかがえる。

<事例5:生後2ヵ月④場面より>

(2)生後2 ヵ月ごろ

この時期のHaは、母親やきょうだいの顔を追視し たり、喃語を発声したり、周りの呼びかけに対して発 声を伴った微笑みなどがみられた。

きょうだい間のやりとりは、生後1 ヵ月ごろと同じ ように、ベッドやソファー、床の上にHaを仰向けに 寝かせた状態で行われていることが多く、Haの手や 顔、体を触った触れ合い遊びが多くみらえた。

SやHiは、Haの名前を呼んだり、Haの発声に意味 づけをしたり、応答する姿がみられた。また、Haの 発声を翻訳するかのように、Haの声を代弁すること もあった(事例4)。

子どもの声を代弁することは、子どもの意図や内的 状態を知ろうとする表れであるという(岡本,2001;

2008)。つまり、この事例でみられた代弁も、弟の意 図や内的状態を知ろうとする思いからでたのかもしれ ない。

 事例4では、Sが母親のHaへの発話を真似する様 子がみられた。Haが手足を動かしながら、母親の方 向を微笑みながら見ていることから、Haにとって、

母親の存在は大きく、Sも母親と同じように発話する ことで、Haが喜んでくれると思ったのかもしれない。

<事例4:生後2ヵ月②場面より>

Ha S

Ha S

Ha S

Ha S Ha

S Ha

S

Ha S Ha

S S

M S Ha

M S Ha

M

S M

S Ha

S M Ha M S M

床に仰向けに寝ている

Haの両手をもって、Haのお腹をたた きながら

「ぽこぽこぽこ」

Sをみつめている Haの頬を触りながら

「Haちゃーん。おりょりょりょー」

Haの手を握りながら

「元気です。」

Haの両手をもってHaのお腹をたたき ながら

「ぽんぽんぽん」

「こちょこちょこちょ」(お腹をこそ ばす)

「Haちゃーん」

微笑み、手足を動かす。足がSにあた る。

「ん?」

「痛っ」

「んー」

「キックキックしとん」

手足を動かす。

「キックキックしとん」

「そーなん」

手足を動かす。

「キックキックしとん」

「んー」Haの頬を触りながら 手足を動かす。

「キック。キック。」

「キック。キック。」

Haの足を触りながら

「元気な足しとりますねー」

手足を動かす。

「ん? Haちゃーん

元気な足しとりましゅねー」

手足を動かす。

Haの身体や顔を触りながら

「楽しいよー」

「ぼく楽しいんだよ」笑

「今ぼく超楽しいだよ。何か知らない けど」

「なあー」

「ねえ、Haちゃん」

微笑み

「Haちゃん」

「Haちゃん」

手足を動かしながら、母親の方向をみ

「お母さんがこっちにおりました」

Haの顔を触る

「おりましたよー」

「おりましたよー」

微笑み

「あー笑っとる」

微笑み

「Haちゃーん」

「うん。ご機嫌Haちゃんやん」Haの 手を触る

「あーあー」微笑み

「そうなん。楽しいの。Haちゃん」

「楽しいよー」

Haに指を握られる

「楽しいの」

「おしっこしとうHaちん」

おむつを触る

「おしっこしとんのん。Haちん。

なあーそれで泣いとったんか」

中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

(8)

事例6では、SとHiが、Haに喃語の発声や微笑みを 要求している姿がみられた。

これは、これまで、SやHiが、声をかけたり、あや すとHaが、声を出したり、微笑んだりするというや りとりが行われており、Haの反応がないと、いつも と違うという不安からこのような発言がでたのかもし れない。

この場面では、Sが何度も声をかけることで、Haが 声を出す姿が確認できた。 

<事例6:生後2ヵ月③場面より>

(3)生後3 ヵ月ごろ

この時期のHaは、首のすわりが確認された。また、

目の前にあるおもちゃに手を伸ばし、おもちゃを口に 入れたり、なめたりする姿がみられた。姿勢に関して も、仰向けの状態でじっとしているのではなく、横に 向くことも多かった。

きょうだい間のやりとりは、Haの首のすわりが確 認されたこともあり、Haの移動運動(横向きにした り、寝返り)を促す遊びがみられた。また、ガラガラ

やボールなどのおもちゃを用いた遊びもみられた。

SやHiは、行動が活発になったHaの動作に一つひと つに言葉をつけたり、Haの視線の先にあるものの情 報を与えたりするような発話を行っていた。

事例7では、SがHaの行動の意図(おもちゃを持ち たい)を読み取り、その目的が達成できるように、発 話や行動で援助する姿がみられた。また、Haの近く にきたHiをあなたの兄だと説明する姿もみられた。

<事例7:生後3ヵ月②場面より>

Ha S M Ha S

M S Ha

S

Ha S Ha

S Ha

S

Ha Hi S Ha

S

Hi S Hi

S

Ha S Ha

S Ha

S

Ha S

床に仰向けに寝ている。

Sの方をみている。

「Haちゃん」

「おいでー」Haに手をさしのべる

「Haちゃんおいで」

母の方をみる

「おいでおいで」

「おいでおいで」

「Haちゃーん」

「こっちおいでー」

「こっちおいで。こっちおいで。」

左手でおもちゃをつかもうとしている

「よいしょ、あれ?あれれ?」

Haがボールをつかみやすい様に動か

「ボール」

ボールをつかむ。

「できた!」

ボールをつかんだが不安定な状態

「できた?おお?」

「できたけどー」

ボールがHaの手から転がる 転がる様子をみて

「おお」

ガラガラのおもちゃを取って、Haに みせる

近くにきたHiを見る Haの頭をなでながら

「Haちゃん」

「お兄ちゃん(だよ)」

床に仰向けに寝ている。

「Haちゃん」

Haの身体をなでる

「ん?んー言わへんの?

Haの横に寝て、みつめながら

「んー言わへんの?」

「Haちゃーん」

「にっこりせーへんの」

「にっこりせーへんの」

Haの頬を触る

「よしよしよしよし」

Haの体をなでる Haの頭をなでる

「んー」

「んー」

「そーなん。Haちゃーん」

「んー」

Haの顔を触る。

「Haちゃーん」

Haの体を触る。

「んーんー。そうなん」

「元気な足してましゅねー」

手足を動かす。

Haのお腹をたたきながら

「ぽんぽんぽん」

「ぽんぽんぽん」

Haの足を触る。

微笑む。

「笑っとん」

事例8では、Sが、Haの寝返りを促す姿がみられた。

Haはまだ一人で寝返りすることが難しい。途中、母 親がHaの手を持って横向きにし、寝返りの練習をし ていた。そんな様子をみて、Sも、最初は声かけだけ だけだったが、最後は、母親と同じように、Haの体 を少し横に向かせ、Haが寝返りしやすいように、体 勢を変えていた。これは、Sが、母親の行動を手本と している場面だといえる。

<事例8:生後3ヵ月④場面より>

中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

(9)

事例9では、Sが、Ha の動作や視線の先にあるも のを説明している姿がみられた。

Haは、うつぶせの姿勢でいることが可能となり、

これまで以上に、周りのものに興味を示していた。S は、そんなHaの様子をみて、Haに説明をしていた。

また、Haの声や表情から、Haの気持ちを代弁するよ うな発言もみられた。

<事例9:生後3ヵ月⑥場面より>

Ha S Ha

M

S

M

S M Ha

S M Ha S

Ha S

Ha S

Ha S Ha

S Ha

S Ha

M

「楽しいなあ」

「あーあー」

Haの方をなでる

「Haちゃんあれビデオやで」

「ビデオビデオ」

Haの頭をなでる 母の方を向いて左手をあげる

「おー見えた。上手。上手」

「おいでおいで」Haに手をさしのべ

「おいでおいでおいで」

「Haちゃんおいでおいで」

「おいでおいで」

Haの左手を持って

「おててしたろ。ほな」

Haに人差し指を握らせる

「はい」

「おいでおいでHaちゃん」

「Haちゃんおいでおいでー」

Haの指を離す

「よし」

横に向く

「うーうー」

仰向けに戻る

「あれー」

「うーうー」Sをみつめる Haの身体を揺らしながら

「Haちゃんおいでおいでは?」

Haの身体を横に向かせようとしなが

「Haちゃん。よっこらする?」

うつぶせの姿勢 Haの顔をの前にいる

「Haちゃん」

タオルをHaの前に置く タオルを握る

「あっ(タオル)とれた」

Haの頭を撫でる

「Haちゃんに(タオル)とられちゃっ た」

「うーうーうー」

「うー Haちゃん」笑 ビデオカメラの方をみる

「なんかみてる」

「うーうー」

「なんか面白いの」笑

「あー」笑

「はーい」

3.2.育児語使用について

きょうだいの育児語使用は、生後1 ヵ月から3 ヵ月 までの全期間でみられ、使用頻度は高かった(表2)。

出現していた育児語は、「擬音語擬態語」、「音の反 復」、「接尾辞の付加」、「音韻の転用」、「接頭辞の付 加」であった。具体的な発話には、以下のような内容 があげられた。

擬音語擬態語の例

・Haの頬を触りながら(生後1 ヵ月①)

 「ぷにぷにぷに」

・Haの手を握って、手をふりながら(生後1 ヵ月

①)

 「ういーん」

・Haが足の曲げ伸ばしをしているとき(生後2 ヵ 月①)

 「びょーん」

・Haのお腹をたたきながら(生後2 ヵ月④)

 「ぽんぽんぽん」「ぽこぽこぽこ」

・Haが横を向いたとき(生後3 ヵ月⑤)

 「ごろーん」

・Haの顔の前でタオルを動かしながら(生後3 ヵ 月⑤)

 「サー」  など

音の転用の例

・Haのおむつを確認して(生後1 ヵ月③)

 「おちっこ(おしっこ)替えましょう」

・Haがくしゃみをして(生後3 ヵ月②)

 「大きいくちゃみ(くしゃみ)が出ましたね」

など 接尾辞の付加の例

・Haの注意を向けるとき(生後1 〜 3 ヵ月全期間)

 「Haチャン」

 「Haチン」

・Haにボールを見せながら(生後3 ヵ月②)

 「ボールサンもあるよ」 など 擬音語擬態語と音韻の反復が重複している例

・Haの頬を指で触りながら(生後1 ヵ月①)

 「ぷにぷにぷに」

中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

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・Haの手を持ってHaの頬を触りながら(生後1 ヵ 月①)

 「ぽんぽんぽん」

 「ちょちょちょ」

・Haが何度も足を曲げ伸ばしている(生後2 ヵ月

④)

 「キックキックキック」

・Haのお腹をこそばしながら(生後2 ヵ月④)

 「こちょこちょこちょ」

・Haのお腹をたたきながら(生後2 ヵ月④)

 「ぽこぽこぽこ」

・Haがおもちゃをなめている(生後3 ヵ月③)

 「なめなめ」 など

母親と子どもに関する先行研究では、母親が新し く生まれた子どもの気持ちや要求について年上の子 どもと話し合うような場合には、年上の子どもは赤 ちゃんにより愛情深く関心を持つようになり、手助け を申し出たり、抱いてやったりするという(Dunn &

Kendrick, 1982)。きょうだいの行動には、養育者の 影響が大きいことが推測される。

養育者が使用する育児語の使用傾向について、16

〜 27カ月のデータを分析すると、子どもの月齢の増 大とともにその使用が減少し、養育者は子どもの発達 に応じて、育児語の使用を調節していることがわかっ ている(村瀬, 2010)。日頃から一緒に生活している きょうだいも、養育者と同じように、弟(乳児)の発 達に応じて、育児語の使用が減少することが考えられ る。今後は、引き続き、縦断的にデータを集め、児童 の育児語使用の頻度についても検討していきたい。

また、養育者の育児語使用には、養育者が子どもの 発達や子育てに関してもつ信念が関係することもわ かっている(村瀬,2010)。養育者の子どもへの願い がことばとなり、そのことばを聞いた姉、兄が、養育 者と同じように弟に話しかける。つまり、養育者の信 念がきょうだいすべてに伝わっていることがわかる。

そして、こういった環境で生活することは、乳児の言 語発達やコミュニケーションを発達させるだけでな く、姉や兄の弟(乳児)への認知的、社会的な発達に も大きく影響を与えていると考えられるのではないだ ろうか。しかし、これらの発達については、姉と兄の きょうだい間のかかわり、母親、父親とのかかわり、

同年齢の子どもとのかかわりにおける発話やコミュニ ケーションについても検討を行う必要があるだろう。

今後は、そういった視点にも着目し、検討を行いたい。

₅. まとめ

本研究では、乳児期の弟とそのきょうだい一組にお ける自然なやりとりに焦点をあて、児童の乳児への発 話について発達的変化を検討した。

姉(8歳)や兄(6歳)が弟に向けた発話には、様々 な発話機能や育児語の使用がみとめられた。発話内容 の特徴としては、生後1ヵ月ごろでは、弟の表情や発 声から、弟の気持ちを代弁するような発話が出現して いた。生後2ヵ月ごろでは、弟の発声に意味づけをし たり、応答したりする姿がみられた。生後3ヵ月ごろ では、行動が活発になった弟の動作に言葉をつけたり、

弟の視線の先にあるものの情報を与えたりするような 発話を行っていた。育児語の使用は、生後1ヵ月ごろ からみられ、生後3ヵ月までの観察データから、擬音 語擬態語、音の反復、音韻の転用、接尾辞の付加など の特徴がみられた。また、母親がやりとりに加わった 場面では、母親の弟への発話を真似するきょうだいの

₄.考察

以上から、姉や兄は、ことばを話せない弟に対して も、発話を伴ったやりとりを行っていることがわかっ た。

早川(1981)によると、音韻の反復は音声操作の獲 得において、擬音語擬態語はシンボル形成において重 要な役割を果たすという。本研究において、6歳、8 歳の兄弟も、弟(乳児)に対して、このような育児語 の使用が認められた。これは、兄弟の存在が、弟(乳 児)の言語発達に影響を与えていることを示唆するも のである。

また、彼らは、弟の表情や発声、動作などをきっか けに、それらの行動に意味づけをしたり、弟の気持ち を代弁したりしていた。また、弟が声を出したり、微 笑むことで、楽しんでいると判断したり、弟が泣いて ぐずっていると、何か不快なことがあるのだと判断し ている様子がみられた。

これは、6歳、8歳の児童でも、乳児の表情や発声、

動作から、乳児の情動の読み取りが可能であることを 示しているのではないだろうか。

先行研究でも、乳児の表情から情動を読み取る能力 は、小学4年生でも、成人に劣らないことがわかって いる(山口・松村,2009)。

また、以上のような行動には、養育者との関係が影 響していることが考えられる。

事例4や事例8で、みられたように、弟とのやりと りに母親が加わると、彼らは、母親の発話や行動を真 似する姿がみられた。その行動は、母親が弟へこう話 したらいいよときょうだいに指示をしたのではなく、

彼らは、自らの判断で母親の発話を真似ていた。これ は、弟が母親のことばによく反応していることを日頃 から観察している証ではないだろうか。母親の発話は、

信頼でき、母親と同じように発話した方が、弟が喜ぶ と判断したのかもしれない。

中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

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山口香織・松村京子 2009 小学生の日本版IFEEL Picturesに対する反応 小児保健研究 68(1), 39-45.

付記

本研究に、ご協力いただきましたご家族の皆様に心 より御礼申し上げます。

姿がみられた。

本研究は、1きょうだいのみのデータであるため、

今後は、縦断的調査を続けるとともに、さらに事例を 増やし、検討していく予定である。

文献

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中川 愛 児童の乳児きょうだいへの発話に関する研究

参照

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