奈良教育大学学術リポジトリNEAR
幼小中連携・一貫教育の取組から得られつつあるこ とのシステム思考的考察
著者 小柳 和喜雄
雑誌名 奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研
究」
巻 5
ページ 81‑84
発行年 2013‑03‑29
URL http://hdl.handle.net/10105/9420
幼小中連携・一貫教育の取組から得られつつあることの システム思考的考察
小柳 和喜雄
Wakio Oyanagi
奈良教育大学大学院教職開発講座
School of Professional Development in Education、 Nara University of Education
1. はじめに
幼保小連携、小中連携、小中一貫教育、中高一貫 教育、高大連携など、異校種が連携しながら小1プ ロブレム、中1ギャップと言われる課題へ対応する こと、また義務教育終了までその中学校区で中長期 的な見通しをもって学校・保護者・地域が連携して 教育効果のある取組を行うこと、そして中高を6年 一貫して教育することで中等教育としての学びを保 証しようとする動き、その大切さが言われて久しい。
また、子どもたちの生活環境、これから巣立って いく社会環境も知識基盤社会やグローバル化の波、
また一方で、社会福祉・地域振興・文化尊重など、
外側そして内側で求められる課題がより複雑になっ てきている状況にあると言われている。また派生す る社会問題が教育問題に影響も及ぼしてきていると 言われている。
そのような中、学校を取り巻く地域コミュニティ が、学校運営に組織的に関わり、地域で子どもを育 てる考え方が強く主張されてきている(図1)。1)
先に述べたように、小1プロブレム、中1ギャッ プなどの当面する課題の克服や、より子どもたちの 持つ力を伸ばしていくことを取組の課題として掲げ ているところは多い。そのためすでに異校種連携の 取組をしている学校区が、地域との連携をより強く していくこと必然として考え、コミュニティ・スク ールへ移行していく場合がある。また逆に、ある学 校区でコミュニティ・スクールをスタートさせたが、
より広域のコミュニティで連携して子どもたちを育 てることの有効性を考え、異校種連携教育(例えば 小中一貫教育)へ移行していく場合もある。
つまり、私たちが、どのようにこのような状況下 で子どもたちの教育活動を担っていけるか、従来の 園所・学校、学校区を越えて、ますますその組織的 取組に関する仕組みが問われてきている動きがある。
2. 過渡期の課題と本質的問題の区別
しかしながら、このような今までにない取組へ移 行する際には、当然ではあるが必ず不安が現れる。
「本当にその取組は意味があるのか、
成果は出ているのか」という不安、「本 当に子どものためになるのか、その取 組を行う意図は別のところにあるので はないか(校区再編、学校の統廃合ほ か)」「メリットが多く主張されるが、
デメリットはないのか」という不安、
などである。
これらの不安は当然のことである。
新たな取組をする場合には、国内外で 先行している取組があればそれについ て十分な調査を行い、そこから得られ ていることをできるだけ集め、情報提 供し、意思決定をする際の準備をする 必要がある。
しかし情報提供をする際に、難しい
コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の活用
「地域とともにある学校づくり」
促進
保護者や地域住民などから構成される
学校運営の基本方針を 承認したり、教育活動な どについて意見を述べる
保護者や地域の方の意見を学校運営に反映 導入するかどうかは、学校、
保護者や地域の皆さんの 意向等を踏まえて、学校 を設置する地方公共団体 の教育委員会が決定
平成23年5月2日に法律の一部が改正され、市町村の教育委員会が、その所 管に属する学校について、学校運営協議会を置く学校の指定を行おうとする際 に必要とされていた都道府県教育委員会との協議についての規定は削除
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/community/index.htm 日本の学校制度では、学校教育法によって、学校の設 置者が学校を管理をすることになっており、コミュニ ティ・スクールの設置については、学校の設置者が、
その学校を管理する上で必要とされる範囲内で行わ れる。
スクールサポート系 政策系
町づくり系
①学校運営に関して、教育委員会や校長に意見を述べること、
②校長の作成した方針等を承認すること、
③当該校の教職員の任用に関して意見を述べること、
の権限が与えられ、学校評議員よりも強い権限を持つ。
図1 コミュニティ・スクールの動き
のは、1)まったく新しい事案でまさにパイオニア 的取組である場合(似た試み、関連していそうな試 みを推測しながら参照するしかない場合)、2)始ま って間もなくのもので、過渡期の状況での情報提供 となる場合、3)たとえある程度の期間試みられた 取り組みであっても、環境や条件などが異なり個別 事例的な情報提供しかできない場合(なるべく情報 の偏りが出ないように、似た環境条件のものを分類 整理して提供することが求められるが)、である。
そのため、その取組について論議していく場合に は、「過渡期の課題」と「本質的問題」の区別をして いく必要がある。
例えば、「システム思考」は、現象と構造の関係把 握をしようとする次のような視点を提供している。
①表面に現れる様々な「出来事」の下には、共通す る「パターン」があると言われている。②そしてそ のようなパターンを生み出す要因として「構造」が あると言われている。③さらにそのような構造を構 築しているのは人の「メンタルモデル」であると言 われている。
このような層的モデルで教育事象を考えていく視 点を、幼小中連携・一貫教育の取組などに応用して 考えてみると、「過渡期の課題」と「本質的問題」の 区別を考えていくことがいくらか可能となる。
図2は、幼小中連携・一貫教育の取組を始めてか ら1年~3年の学校園で、目的に向けてこのような 異校種連携、一貫の取組を手段・組織体制として活 かしきれず、成果の手応えも職員に感じられず、不 安を感じている場合に見られる姿を表している。
一方、図3は、その取組がうまく回転しだし、目 的の達成に向けてこのような異校種連携、一貫の取 組が手段・組織体制として機能し、職員がその成果 の手ごたえを感じている場合の姿を表している。
これらの図は、取り組んでいる学校園を訪問して、
そこで得られた情報、つまり学校園で独自に質問紙 で集めている意識の情報などを研究紀要などから取 集し、また研修や授業研究の場で得られた声を4層 に分類整理して、典型的な姿を取り上げ(立地や学 校規模なども大きな違いがあるが)表現したもので ある。そのため、まだこの調査は過渡期にあり、客 観的で科学的で裏付けられた結果とはいいがたい。
しかしながら、ここから少しでも垣間見られるこ とがあると考え、この両図を用いて、「過渡期の課題」
と「本質的問題」の区別について考える。
例えば、不安の言葉としてよく表現される、「成果 はあるのか」「デメリットはないのか」といった問い は、比較的表面に現れる第1 層「できごと」、第2 層「パターン」だけ見ていては応えられず、より深 層の第3層の「構造」、第4層の「メン タルモデル」に目を向けていく必要があ ると考える。つまり「本質的問題」がど こから来るのか、「過渡期の課題」を解決 していくには、どのような取組が参考に なるのか、といった関係分析と検討が必 要となるということである。
この第3層、第4層は、学校文化、教 師文化、地域の文化が培ってきた歴史的 な財産からの影響が出やすいところとい える。また現在教育活動を担っている教 員や地域住民の年齢層、人数などとも密 接に関わるからである。
先にあげたコミュニティ・スクールは、
国の政策とも関わって、かなりその数値 が伸びている(平成23年4月に789校 だったのが、1年後の平成24年4月で 1200校あまりに増えている)。しかし実 際に、実践をしていて手応えがあり進め ている場合と、政策誘導で行われている 可能性もあり、増加している数だけから その取組が有効であるとは言い難い。つ まりそこへと移行していこうとする学校 から、先の不安に応えることは容易では ない。さらに、現在コミュニティ・スク ールを支えている世代も高齢化が進んで
メンタル・モデル 構造 パターン
できごと
校種の互いの違いに気付くがそれで収束 小1プロブレム・中1ギャップが一旦減少 一過性の取組によって一時的な手ごたえ 子どもにも保護者にも少し変化が感じてもらえるが 幼小中一貫自体が目的になっている 最初計画されるが続かない 取組への不安と疑問が頻繁に生じる 職員が疲弊している雰囲気がある 幼・小・中学校教員の教育観を互いに 主張し合ったままの取組
幼・小・中学校の取組が分断している 管理職と研究主任を中心とした取組 研修を確保する時間・場がない
それぞれが自分で努力すればいい 今までのやり方でいいのでは 自分で精一杯なのになぜ新たに 新たに取り組んでも成功しないのでは
図2 取組の最初の頃に見られる姿
メンタル・モデル 構造 パターン
できごと
幼・小・中学校へ進学時の不安の軽減 学び方・スキルの定着と活用の姿が見られる 手引の作成などが行われる
計画的な職員研修が行われる 小中一貫が目的達成のために自然に 取組への見通し・手段の共有、内容の共通理解 授業方法のさらなる改善への動き 子ども理解の共有,教職員の専門的協働 小学校と中学校の取組の計画化・組織化 実務者会議、各部会会議の機能を活かす 共有できる情報の活用を促す環境設定 研修を確保する時間・場の確保 互恵的な関係の取組
小学校と中学校教員の教育観を相互理解 やってみると、手ごたえが感じられる感覚 やってみると小学生・中学生が理解できる 互いの取組に感謝と尊重
図3 取組の経過を通じて得られてきた姿の例 小柳 和喜雄
保幼 小低学年 小中学年 小高学年 中1 中2・中3 保護者向
け家庭学 習手引き 児童生徒 向け、家 庭学習の 手引き 学びの手 引き
図4 連携を通じた取組の道具の作成
連携・一貫の意味・意義・必要 性が職員に理解されている
異校園職員による合同 研修が行われている
子どもの学校園間交流 活動が行われている 連携・一貫で目指す子ども
像・育てたい力などが明文化 されている
計画的に異校園職員に よる合同研修が行われ
ている
計画的に子どもの学校 園間交流活動が行われ
ている
連携を意識した学力向 上の取組が行われてい
る(出前,TT他)
連携・一貫で目指す力の育成 と関わる指導の方針・力点の 明確化や指導計画表が作成
されている
異校園職員による全体 合同研修・部会ごとの研
修が目的に応じて自己 組織的に行われている
組織的に子どもの学校 園間交流活動が行われ
ている
異校園組織による組織 的な学力向上の取組が 行われている(授業研究
などを通じて)
連携・一貫で目指す育てたい 力,指導計画などが実践の評 価を通じて実質化されている
異校園職員による合同 研修・部会ごとの研修で 取組や研修自体の評価 改善が行われている
子どもの学校園間交流 活動の成果の評価が行
われている
異校園組織による組織 的学力向上の取組の洗 練化が行われている(方 法・道具の工夫改善も)
連携を意識した学力向上 の取組が試行される(出
前,TT他)
STEP 1 STEP 2 STEP 3 STEP 4
連携・一貫で目指す育てたい 力の育成と関わるカリキュラ ムが作成され,指導計画など が洗練化され始めている
異校園職員による合同 研修・部会ごとの研修が
次の一歩に向けて自主 的な取組を行い始めてる
評価を通じた課題の明 確化に基づく,次の一歩
を踏み出す交流活動が 行われ始めている
学力を豊かにとらえる他 の取組との関係も位置 づけ,次の一歩を踏み出
す取組が行われ始める STEP 5
図5 見えてきつつある幼小中連携・一貫教育の取組のステップ(第1期)
いると言われている。そしてある人々にかなり集中 的にその役割が任されている状況があると言われて いる(いくつか部署が分かれてもそこに同じ人が委 員として参加している、など)。そのため、その人が 高齢で担えなくなってくると、その次の世代がその 役割を担わなくてはならないが、果たして引き継ぐ ことができるのか、良かれと思って始めたことであ るが、役割を担う人の人数が限られていて(住民移 動などもあり、次の世代の年齢層で動ける人が地域 によってかなり限られており、少ない人数しかいな い。その人に仕事後の夜の時間や休日に役員会への 参加をお願いする過剰な任務負担が寄りかかる、な ど)、構造的にその遂行・継続が難しいことも生じる 可能性がある。
その点からしても、この層への着目は、大変意義 深いものと考える。つまり、現状の成果や目に見え るパターンを支えているのはどのような構造か、ど のようなマインドセット(メンタルモデルに見られ る)かを注意深く見ていく必要があるということで ある。
学校が子どもたちを地域と共に育てていく場合、
社会環境の変化などに応じて、変え てはならないものを見失わず、変化 に応じて変える必要がある(改善だ けでなく変容も視野に入れて)もの を見取り、その時代に合った教育活 動、未来につながる教育活動に進ん でいけるか、問われてきている。あ る課題解決やより組織や組織体(群)
で取り組むことが必要な状況がある 際「過渡期の課題」と
「本質的問題」の区別 をしながら目的達成に 向けて、丁寧に論議し、
実践を積み重ねていく ことが重要と考える。
3. 第一期の取組事例 から得られつつある こと
平成16年度に小中 一貫教育特区の形で認 可を受け、平成17年 度からこのような異校 種の取組を始めた学校 園はすでに8年の取 組を経てきている。
そのため平成 25 年度には、スタート
時に入学した子どもが、小中連携・一貫教育の場合、
卒業を迎えることになる。したがって、一つの節目 の時期を迎えているといえる。そこで、これまでの これらの取組みを振り返ることは重要と考えられる。
平成16年度認可、17年度からスタートをした自 治体などでは、そのスタート時は、施設一体型の小 中一貫校から取組をスタートすることが多かった。
そしてその後、立地や条件に即して様々なパイロッ ト校をスタートさせ、実践を積み上げてきている。
例えば、奈良市の場合、その様な経過の中で、2 小1中での取り組みなど、様々な校区形態を持つ連 携型での取組が行われてきた平成22年度までを第 1期とすると、学習指導要領改訂に伴う新たな時 数・内容に応える責務と、新たに一貫校を開校した ことなどは第2期の取組に入ってきていると考えら れる。
第2期では、これまでの「世界遺産に学びともに 歩むまちーなら」を基軸に、教育ヴィジョンに沿っ て、9年間の英会話科、7年間の情報科の設置及び5 年間の郷土「なら」科において、国際文化観光都市
「奈良市」の担い手となる人材の育成を目指してき
た取組を振り返り、発展的に統合できる部分などの 検討にも入ってきている。
さらに、第1期でのこれまでのパイロット校での 実践の積み重ね、その成果を見つめる中で、平成23 年度からは、全市で義務教育全体を視野に入れた基 本カリキュラムの策定を開始し、その指導事例集に ついても検討を始めている。
例えば、ある中学校区(2 小1中)では、学校の 立地がそれぞれ離れている中で、図4に示した「学 びの手引き」(小学校から中学校に移行する際、授業 で取り上げられる内容の力点の違い、方法の違い、
ノートの取り方の違い、ほか、学校生活を中心とし た情報が提供されているもの)を、平成20年度に 作成し、21年度から小学校の6 年生と中学校の 1 年生で、それぞれ取り扱う時間を確保し、2小1中 で組織的に作成したこの学びの手引きの活用の時間 を設けて活用している。さらに平成24年度からは、
「児童・生徒向けの家庭学習の手引き」の作成を進 め、家庭でどのように学んでいくか、その方法など に関する情報の提供をし始めている。
当然ではあるが、他の自治体でも、この間、一貫 教育のカリキュラムの作成や多くの取組が行われて きている。例えば、先にあげた手引などに関わって も、ある学校区では、幼小連携の取組の中で、「保護 者向けの手引きの作成」や小中連携の取組の中で「学 びの手引き」の作成などを行っている。
図5は、この間、目的に向けて異校種連携・一貫 教育を手段、運営組織(組織的な教育)として位置 付けて取り組んできた様々な自治体の学校区の様子 をステップに分けて視覚化したものである。研究発 表会などに出かけると、かなり進んでいる様子を目 の当たりにする。しかし、それを目指して行おうと
するとなかなか成果は見えないし、不安になり絶え ず揺り戻しの雰囲気が学校内で起こってくるという ことをよく耳にする。自分たちの取組の立ち位置を 一旦明確にし、次の何年で目的達成に向けて、組織 運営としてはどのあたりを目指すか、見通しを持つ 1 つの指標が必要という声があった。そこで図5は その展開をステップに分けて視覚化するように努め 開発したものである。
また図6は、上記のことと関わるが、①学校区で 取り組む課題と、②その組織的運営、の両方を計画 化していくことを、より見える形にしていくために 開発したものである。これまで第一期の取組で見え てきた成果から学べ、活用できるものとして(資料 として)使用していただければ幸いである。
注
1) 日本では、戦後直後に、カリキュラム改革の一環 として地域学校というような名称で日本国外の実例 が紹介されていた。コミュニティ・スクールは、教 育改革国民会議の提案(平成 12)を受けて、平成 14年度に「新しいタイプの学校運営のあり方」に関 する研究指定校とされた全国7地域9校で実践研究 が始められた。文部科学省は、2012年7月に、学校 運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議 報告書「子どもの豊かな学びを創造し、地域の絆を つなぐ~地域とともにある学校づくりの推進方策
~」の中で「今後5年間で、コミュニティ・スクー ルの数を全公立小中学校の1割に拡大」するという 数値目標を受けて、コミュニティ・スクールの推進 に努めている。2012年3月には、そのための審議 機関として、コミュニティ・スクール企画委員会を 新設し、コミュニティ・スクールの普及を図ってい
る。
参考
小 柳 和 喜 雄 (2012)「異校種連携 や家庭と学校との 連携を対象とした 教育実践研究」西之 園晴夫,生田孝至,
小柳和喜雄編著『教 育工学における教 育実践研究』ミネル ヴァ書房.
http://oyanagi-la b.com/ikouen/index .html
研究課題 :
目 的 :
中学校区名: 昨年までの研究:
<成果>
・
・
・
手法 ・ 活動 ・ 教材 A 中校区の現状の課題
2.
1.
D 活動後の子どもの状況
●
●
●
○
○
○
B 組織的取組の現状
1.
2.
支援の方法・道具・体制
●
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○
○
○
E 取組の成果
C評価方法
*限られた時間で何ができるかに絞ることも
図6 組織的取組としてその手応えを共有していくプラン図 小柳 和喜雄