技術進歩と交易条件 に関するノート 一低開発諸国との関連において一
中 島 潤
後進国工業化の一論拠として提出された後進国交易条件長期的不利化命題に関するヌル クセ流の説明に対して,Prebisch−Singer命題がある。 prebischは国連統計を用いて,
(1)
技術進歩が周辺国の一次品生産におけるよりも工業生産における方がヨリ大であったよう に思われると云う。完全競争を仮定するならば,その結果として工業品の価格が相対的に 第一次商品価格と比較して下落したであろう。 とすれば周辺国は中心国と同程度の最終工 業品価格の下落から利益を受けたであろうし,技術進歩の利益は世界中にひとしく配分さ れたであろうとも云う。ところが事実は逆で,価格は反対の動きを示してきた。この価格 の動きを彼はどのように説明するのかア中心では所得が生産性以上に増大し,他方,周辺で は以下であるからだと云う。このような所得と生産性との関係の差異が生じる原因の分析 は提供しないで,単にi数字という事実に拠っているに過ぎない。この事実の説明としては 労働組合の力の差が挙げられよう。工業国においては,価格は盛んな組合活動によって押
し上げられ,かつ賃金カットに対する組合の抵抗によって維持されるのに対し,周辺国で は一次産品の生産に雇用される労働者の間に組織が欠如しており,それがために工業国の 賃金増に比較しうる程の賃金増を獲得し得ず,また同程度の増を維持することもできなか った。要するに,Prebischの議論はcost・pushインフレ理論であるとHigginsは云う。
Singerの説明も本質的にはPrebischと同じであり,工業国における技術進歩の利益 は高所得として生産者に配分されたが,他方第一次生産物生産国では,か、る技術進歩の 利益は価格下落の形で消費者に配分された。封鎖経済においては問題にはならないが,生 産者が国内にあり,消費者が外国にある場合には大いにその意味を異にする。すなわち工 業国は一次産品の消費者としてかつ工業品の生産者として最善を得,他方低開発国は工業 品の消費者としてかつ一次産品の生産者として最悪を得たことになる。
か\るPrebisch−Singer命題の核心は,以上の叙述から明らかなように,生産性のバ
(1)Prebischの着想はUN, The Economic Development of Latin America and Some of Its Problems, N。 Y.1949, PP.1−3.で発表され,その翌年にSingerの論文Singer, H., The Distribution of Gains Between Investing and Borrowing Countries, A. E. R。 Papers and Proceedings, May,1950.が出されたという事情がある。 Prebisch, R., The Role of Commercial Policies in Under。developed Countries, A. E。 R. Papers and Procee。
dings, May,1959。以下PrebischおよびSingerの要約はH:iggins, B., Economic Devel・
oPment, N。 Y.1959, PP.366−374。に大略拠っている。
イヤスに依存する交易条件変動の説明ではなくして,労働独占の存否による交易条件変動 論であるということである。すなわち技術進歩が先進・後進両国の輸出産業に同じ率で生 じたとした場合でも,先進国の輸出産業において労働独占があるため,生産性上昇が生じ ても賃金の上昇がその利益を吸収するから価格は維持される。だが後進国における技術進 歩は労働独占がないので・直接価格の下落となってあらわれ盈£)技術進歩と交易条件とは 直接関係がなく,あるのは労働独占との関係である。後進国交易条件長期的不利化の原因 は労働独占の先・後進両国における存否にか\っている。
われわれはか\る視点を強調する前に,技術進歩の諸パターンが交易条件に及ぼす直接 効果を,純粋理論的に検討し,後進国交易条件変動に対する含意をさぐり出すことを以っ て本稿の目的としたい。第1節では,か\るテーマに関する過去の文献について展望を行 い,第皿節においてfactor levelでの分析およびその結果を,第皿節でcommodity leveI における分析および分析結果を要約し,最後の第IV節で以って後進国交易条件変動に関す る含意を求めることにする。
1
後進諸国の経済発展問題を長期ドル不足問題の裏返しと見隠せば,Hicksに端を発した 一連の技術進歩に関する研究を検討する必要がある。
Hicksの得た結論は要約すれば次の如きものである。二国モデル(一方は成長経済,他 (2)
方は停滞)において,(1)成長国の技術進歩が uniformly または exporトbiased ならぽ,
みずからの交易条件を悪化せしめ,(2) import−biased ならば逆にそれを改善せしめると いうことである。彼の場合コスト・カーブのスローフ。は生産規模の変化に誘発された生産 性の変化を含むから,spontaneousな生産性の変化だけを取扱うのに便利なRicardian の不変生産費の仮定を分析の中に導入していた。
このことは国の大小を問題にしないかぎり,完全特急を仮定した分析であることを示し,
不完全特化の下での,換言すれば逓増生産費の仮定の下での分析に着想を発したと思われ るMishanの批判がなされたのである。彼によれば,もし所得効果が代替効果に比べて僅 (3)
少であるならば,H:icksの推論は十分満されうるが,これらの効果の相対的大いさについ て何も云えないのなら,(1)不変生産費の仮定をはずすか,(2)モデルの静態的仮定(一方成 長,他方停滞という)をはずすかによって uniformly か export・biased のいずれかの 技術進歩が交易条件の悪化を保証しないということを示しうると主張する。
(1)Caves, R。 E。, Trade and Economic Structure, Massachusetts.1960.P.261参照。
(2)Hicks, J. R., An Inaugural Lecture, Oxford Econ. Papers, Vol. v, N(㍉2, June 1953,
PP.117−35.
(3)Mishan, E. J., The Long・run Dollar Problem:AComment, Oxford Econ。 Papers,
Vol. vii, No.2, June 1955, PP.215−20。
つまり彼は消費に及ぼす所得効果が交易条件の変化の方向に重大な影響を及ぼすと批判 した。だがわれわれは不変生産費から逓増生産費へのモデルの拡張とみたい。さらにJoh・
nsonが各種の経済発展(人口増加,資本蓄積,技術進歩)が交易条件に及ぼす効果を分 析した。
(1)
技術進歩に関して彼は「簡単化のために,技術進歩は生産要素の一定の組合せから得ら れる産出量を増加させるようなものであり,用いられる組合せを変えることはない」と仮 定し,「技術進歩が一部門のみで生ずるならば,他部門の産出量は必然的に減少する」と している。このことから彼の技術進歩は中立的であり,かつ ultra−biased であることが わかる。その際のJohnsonの結論は,技術進歩が一財の生産にかぎら・れるなら,両財の 相対価格不変のもとでは,他財の絶対的生産水準は下落しなければならないということで
ある。
CordenはMeadeの幾何学的手法を用いて,これらの諸結果をうま1くまとめ上げたが,
commodity levelでの分析からfactor levelの分析への橋渡しに若干の欠陥があった。
(2>
この架橋の役割を果たす重要な定理がRybczynskiによって証明されたが,それは次の如 きものである。ある仮定の下で二要素二二経済においては,他要素一定で一要素量が増加
(3)
した場合,両財の相対価格不変とすればその増大した要素をヨリ少く集約的に使用する財 の産出高を減少せしめるということである。数学的な証明は以下の如くである。
L一晩労働量,C一総資本量, L、一資本集約財産業に雇用される労働, Lb=労働集約財 産業に雇用される労働,C、一資本集約財産業に雇用される資本, Cb一労働集約財産業に雇 用される資本,ρ。一資本と労働の与えられた相対価格の下での資本集約財産業における資 本一労働比率,ρb一与えられた要素価格比の下での労働集約財産業における資本一労働比率,
Ob=労働集約財産業の産出量, Yb=同産業における労働の平均生産物とすれば,次の諸式 が成立つ。
:L−La+Lb, C−C。+Cb
C、
Cb
ρ・=La ,ρ・=玩
(1)Johnson, H。 G, Economic Expansion and Interbational Trade,・The Manchester School of Econ. and Soci。 Studies, May 1955, PP.95−112。〔International Trade and Economic Growth, Lohdon,1958, Chap。皿に収録〕。
(2)Corden, W。 M., Economic Expansionヨnd Internatio取孕l Trade:AGeometrical Ap・
proach, .Oxford Econ. Papers,、 Vol, viii, N(転2, Sept.1956, PP.223−8。この欠陥を指
隠したのがFindlay, R。&Grubert, H., Factor Intensities, Technological Progress,
and The Te「ms of Trade, ibid・, Vol〆i, Nq 1, Feb.1959, PP.111−21.である。すなわ ち,技術進歩がたとえ中心的でなくても,Hicksの命題が成立すると考えた点が誤りであった。
(3)Rybczynski, T. M.,・Factor E取d:oWment and Relative Commodity Prices,・Econ6mica,
Vol. xxii, NQ.88, Nov.1955.
Ob :Lb=
Yb したがって
Ob C=L・ρa一
(ρa一ρb)
Yb
規模の経済なく,晶晶相対価格不変であれば,要素相対価格したがってまた各産業の資本 一労働比率が不変となるはずである。 (ρ、,ρbは定数)。資本一労働比率一定で規模の経 済がなければ,労働の平均生産物も不変である(Ybは定数)。そこで整理して微分すれば,
欝一一譜ρ、( dL1一ρ・ dC)
となり,労働増加なく器一・とすれば,Y・〉脇一ρ・〉・であるから・書く・
となる。
(1)
Cordenの分析による一つの結論は,二国二六モデルにおいて,交易条件不変の下で経 済成長が ultra export−biased ならば交易条件は成長国に悪化しなければならず, ultra irnport・biased ならば成長国に有利化するべきだということである。この結論はcommo・
dity levelでの需給関係による相対価格の変動を意味するにすぎず,それ自体明らかなこ とである。問題は劣等財でないという仮定のもとでどのような経済成長が ultra・biased で あるかを知ることにある。そこで問題はfactor levelへと移ることになる。 ゴ CordenはRybczynskiの一生産要素増に関する議論を技術進歩の場合にそのま㌧展開
して,もし生産性の変化が輸入競争財に限定されるなら,輸出財が国内消費において劣等 財でないかぎり交易条件はその国に有利化することを示すことができると主張するが,こ の結果は ultra import」biased であるときにか『ぎって正しい。 Cordenは,中立的技術 進歩のもとでのJohnsonの結論の factor biased な技術進歩を含む一般化を試みたよ
うであるが,その証明は与えられていない。
この証明を企図したのがFindlay and Grubertであって,ヨリ精密な,幾何学的で体系 的な議論が展開される。だが残された仮定が後にまたJohnsonによって問題にされたが,
それはこの議論を通じてなされたconstant returns to scaleの仮定であった。この仮定 をはずすことに成功した結びにおいてJohnsonは「二生産要素二財二国モデルの経済成 長が含む興味ある問題はすべて尽くされることになろう一それはまた,国際貿易の原因
として生産要素賦存状態の相違を大きく強調するヘクシャー・オーリンの国際貿易モデル の厳密な展開にほかならない」と述べ,.この線に沿った分析で残された問題として,三財,
三要素または三国へのモデル拡張,生産関数アプローチの再吟味等を挙げている。
(2)
(1)Corden, W. M, oP。 cit., P。227.注2参照。
(2)小島清監修柴田裕訳,「外国貿易と経済成長」,昭35,日本版への序参照。われわれのこの小論では規
模に関するJohnsonの分析拡張を取扱うまでには至らなかった。主として時聞的制約からである。
丑
技術進歩は三種に分類される。すなわち,中立的,資本使用的(労働節約的),労働使 用的(資本節約的)技術進歩である。いま一定量の二生産要素(労働と資本)が賦存して いる競争的経済があり二財(A・exportables, Bexportables,以下A・exp., B−exp.と記す)
の生産にそれらの要素が使用される。その際生産関数はconstant returns to scaleであ るとし,かつA−exp。は資本集約財であり, B−exp。は労働集約財であるとする。さらに 二財間の相対価格は与えられたもの(1対1)とし,この相対価格のもとで不完全特化の 状態にあるとする。
constant retums to scaleの仮定から,
第1図 A−exp.における中立的技術進歩
二歩の生産関数は第1図の両等量曲線(1単
F
F
F「「
瓢
A
A
R 信
A−2xp・
B
B一£xg
0 労仙 G G Gη 働比率はそれぞれOA, OBで示される。
A−exp.は資本集約財であり, BeXP.は労働集約財である。また要素の完全雇用条件が成 立するためには,両産業の資本労働比率を,全労働供給量のうち各産業で使用される労働 量の割合で加重平均したものが全経済の資本労働比率にちょうど等しくなるように,A−e−
xp」とB−exp.の生産量の割合が決められねばならない。全経済の要素賦存比率は図では ORの勾配で表わされる。 (RはA, Bの中間に位置しなければならない。そうでないな
ら完全特化ケースになる)。この条件が成立するためにはRがAに近い程,加重平均さ れる場合にOBの勾配に加重される値がヨリ大である(逆は逆)。
(2)
(1)2回以上の交点をもつ場合には集約性の逆転が考えられる。
(2)竺..室+豊..9旦一≦≧
L LA L
LB L
与一…与一…無一…{裂…÷一・で表わすと・ ・
θAρA→一θBρB=ρ (ρA, ρB:一凶定)
微分して
dρ=ρAdθA十ρBdθB
しかるに θA+θB=1から dθA=一dθBであるから dρ= (ρA一ρB)dθA>0
条件から ρA一ρB>0 ∴dθA>0, dθB〈0。
位の産出量を生産するのに必要な労働と資本 の組合せを示す)で表わされる。ただし両曲 線の交差は一回限りとする。両等量曲線の共 (1)
通接線(FG)の勾配はこの経済にとっての 均衡要素価格比率を意味する。何故なら与え られた商品相対価格のもとで両三の生産コス トが等しくなるような最適生産要素の組合せ を達成する要素価格比が成立しなければなら ないからである。A−exp., B・exp.の資本労
OAの勾配はOBのそれより大であるから,
技術進歩は結果的には財の同一量を生産するための総費用を縮減するはずである。資本 集約財であるA・exp。に技術進歩があったとする。これは図のFGに平行なF G (もと の要素相対価格において,総費用がヨリ小であることを意味する)に接する等量曲線で示
される。その接点はOA上にあるから,前と同じ資本労働比率である。したがって中立的 な技術進歩である。以前と同一商品相対価格が成立つには,要素相対価格はシフトしなけ ればならない。すなわち,F〃G〃の勾配がそれであって,資本に有利なシフトを示している。
第2図 A・exp.における労働使用的技術進歩
F
FFO
綴
A
バ
A−2xp.
B
B−2xp.
0 労イカ G「 G α
また図から明らかなように両産業の資本一労 働比率の低下がみられる。 (OB→oRノ,OA
→OAノ).また,逆にB−exp。における中立 的技術進歩は,両産業の資本一労働比率を高 め,要素相対価格を労働に有利にすることが
わかる。
A−exp.における第2図は労働使用的技術 進歩のケースであり,それは新等量曲線が F G (FGに平行)と接する点が直線OA
の右にあることによって示されている。
新共通接線である F G およびそれに対 する二接点の勾配からみて,両産業での資本一労働比率の低下ならびに要素相対価格の資 本に対する有利化が読みとれる。逆にB−exp.における資本使用的技術進歩は両産業の資 本一労働比率を高め,要素相対価格を労働に有利にすることも証明可能である。
第3図 A・exp.における資本使用的技術進歩
F
Fl F
慰
\ A
、 A
ト、へ り
\心
A一見XR
B 、、 B
B
、、 8−2叩
0 労イカG GG
逆にBexp.の労働使用的技術進歩はA・exp。の資本一労働比率を常に高めるが,
自身は上昇することもまた低下することもありうる。
以上でconstant returns to scaleの下での各技術進歩が要素価格比率と要素比率とに 第3図ではA・exp.における資本使用的技 術進歩のケースを考える。A・exp.の資本使 用的技術進歩による新等量曲線がF/G (同
じくFGに平行)に接する接点は直線OBの 左にあり,新共通接線であるF G は資本に 有利(労働に不利)にシフトしたことを示し,
そして資本一労働比率はA−exp.では高まり・
B−exp.では低下することが知られる。だが・
技術進歩による総費用の縮減が大であればあ る程(不十分に労働節約的とJohnsonは呼
ぶ),A−exp.の資本一労働比率もまた低下する。
B£xp.
与える効果を分析し終えたことになる。これらの効果が交易条件に及ぼす影響を次節で検 討する。
(1)
結論を要約すれば次の如ζである。constant returns to scaleの仮定の下で, (i)資 本集約的なA・exp.産業における技術進歩が労働使用的(資本節約的)であるか,中立的 であるか,それとも不十分に資本使用的(労働節約的)であれば,資本一労働比率は従前 より低下し,労働(資本)の相対価格は下落(上昇)するであろう。両生産要素の全賦存 量を使用し続けるためには,従来に比べてヨリ多くの労働量が資本集約的なA−exp・産業 で使用され,ヨリ少ない労働量が労働集約的なB・exp。産業で使用されねばならない。こ (2)
の理由とB−exp。産業の労働は資本一労働比率の低下によって従来よりも資本装備が少く なるということから Bexp.産業の産出量の絶対水準が減少しなければならないというこ
とである。
(ii)他方, A・exp.産業における技術進歩が非常に資本使用的(労働節約的)であって,
労働の価格低下に打ち勝ち,均衡資本一労働比率を高める程ならば,総体資本一労働比率 が維持されるためには,B・exp・の増加が,さらに極端な場合には,技術進歩によって価 格が安くなる財であるA−exp.の産出量の減少さえも惹起しよう。
以上の結論はA・exp.における技術進歩に関するものであるが, Bexp.1こおける技術 進歩の場合には結論は逆になる。
(1)本節は主としてFindlay&Grubert, oP. cit.およびJohnsonの日本版への序(前掲)の論旨 に従っている。
(2) ρAdθA 十 θAdρA+ρBdθB + θBdρB =O
dθBニ=一dθA
故に(ρA一ρB)dθA=一(θAdρA+θBdρB)
dθ。一一θ・4 ・+θ・d・・
ρA一ρB
d砿一軸+・・絵
ごdρA ρA一ρB
ifd・・<・・d・・<…h・n葺く・
if dρA>0, dρB<0, then
dθB dρA
dρB
dρA 葦1金に応じて・驚ぎ・
晦故に以上の高志
S
S
Sf
第4図経由発展と交易条件
τ T
T/ κ
ノ
!乙__ _噸
z
B一¢xp・
¥