スウェーデンの教育的ドキュメンテーションとは何か
― 学校庁の冊子と実践例を資料として - 白 石 淑 江
What is Pedagogical Documentation in Sweden ?
- From the Booklet published by the Swedish National Agency for Education and Practical Examples in Swedish Preschools -
Yoshie Shiraishi
要旨:2018年度から保育所、幼稚園、幼保連携型認定こども園における幼児教育の共通化が図 られ、今後は「環境を通して行う教育」をはじめとする幼児教育実践の質の向上が求められ る。そこで、海外の先進的な取り組みの中から、スウェーデンの探究的アプローチで実施され ている教育的ドキュメンテーションに着目し、学校庁の冊子と就学前学校の実践例に基づいて その理論や方法を整理した。教育的ドキュメンテーションは、探究的アプローチにおいて、活 動のプロセスを可視化し、保育者や子どもに再訪、省察、解釈の機会を与え、活動の修正や発 展に活かされるものである。そして、話し合いによるリフレクションが重要な教育的機能を果 たしており、 「教育的」と冠する理由がより明確になった。
Key words
: 教育的ドキュメンテーション、スウェーデンの就学前教育、探究的アプローチ、
Pedagogical Documentation, Early Childhood Education in Sweden
,
Explorative approach,はじめに
わが国の保育現場には、今、変化の波が押し寄せている。2015 年に「子ども・子育て支援新制 度」がスタートし、2018 年には改定(改訂)された保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携 型認定子ども園教育・保育要領が実施された。今後は、量的な需要への対応と同時に、質の維持、
向上への努力が期待されている。
ところで、今回の保育指針や教育要領の改定(改訂)では、保育所、幼稚園、幼保連携型認定 こども園における幼児教育の共通化が図られた。そして、小学校教育との接続を推進するために
「幼児期に育みたい資質・能力」や「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が盛り込まれた。
「主体的対話的で深い学び」をキーワードとする教育改革が進められるなかで、幼児期の教育が めざすべき方向性の共通基盤が示されたことの意義は大きいと考える。
しかし、見逃すことができないことは、従来の「環境を通して行う教育」を基本とし、幼児
の主体的な活動を促し、遊びを通した総合的な指導を行うという考え方が、これまでと同様、
幼児教育の中核に位置付けられていることである。
幼稚園教育要領(2017)第1章総則では、幼児期の教育は「環境を通して行う」ことを基本と すると述べ、教師は「幼児が身近な環境に主体的に関わり,環境との関わり方や意味に気付 き,これらを取り込もうとして,試行錯誤したり,考えたりする」ような教育環境の創造に努 めるべきと記している。さらに、幼児の人やものとのかかわりが重要であることを踏まえ、幼 児の主体的な活動を促すような環境を構成するよう努めること、幼児の自発的な活動としての 遊びが心身の発達の基礎を培うことを考慮し、遊びを通した指導を中心とすることも述べられ ている。
人間の発達は周囲の環境との相互作用によるものであるが、その原動力は幼児が自ら興味を もって環境に関わろうとする主体性にある。したがって、環境による教育とは、子どもの主体 的な活動を促す教育であると言ってもよいであろう。そして、この考え方は、幼児期の教育に 限らず、乳児期からの保育にも通じるものである。今回改定された保育所保育指針(2017)で は、乳児・1歳以上3歳未満児の保育に関する記載内容が拡充され、そこには「この時期の子 どもが、生活や遊びの様々な場面で主体的に周囲の人やものに興味をもち、直接関わっていこ うとする姿は『学びの芽生え』と言えるものであり、生涯の学びの出発点にも結び付くもので ある。 」(厚生労働省,2018.4)との考え方が示されている。
近年の多くの研究は、乳児が生まれたその瞬間から積極的に外界の情報を集め、周囲の人に 能動的に働きかけていることを明らかにしている。人間は生まれた直後から周囲の人やものと 主体的に関わりながら育っていくという認識は、保育指針や教育要領の基底を成していると言 えよう。そして、今後、保育の質を高めていくためには、環境による教育、あるいは、子ども が主体的に周囲の人やものと関わる活動をどう理解し保育内容に位置づけていくかについての 研究が深められる必要があると考える。
目的と方法
本研究は、わが国の保育実践において、乳幼児が主体的に周囲の人やものと関わり、その活 動を通して豊かに育っていくための保育方法を検討することを最終的な目標としている。ただ し、今回は、その第一段階として、まずは海外の先駆的な取り組みから手がかりを得たいと考 え、国際的に保育の質の高さが評価されているスウェーデンの探究的アプローチに着目し、そ の主要なツールである「教育的ドキュメンテーション(Pedagogisk documentation,以下、
P.D.と略して記す) 」の理論的背景と活用方法を次の2つの資料から明らかにする。
1つ目の資料は、スウェーデンの学校庁(Skolverket)が発行した冊子「就学前学校でのフ
ォローアップ・評価・発展-教育的ドキュメンテーション-(Uppföljning, utvärde-ring och
utveckling i förskolan- pedagogisk documentation)」である。この冊子は、2010年のナシ
ョナルカリキュラム(Lpfő98)の改訂においてP.D.の実施が盛り込まれたことを契機として2012
年に発刊され、スウェ-デン国内のすべての就学前学校に配布されたものである。それゆえ、
ナショナルカリキュラムに基づいた内容を把握することができると考えた。なお、この冊子は 合計82ページあり、スウェーデン語で書かれていたため、矢作智恵子ルンドベリー他に翻訳を 依頼したものを利用した。
もう1つの資料は、スウェーデンのウプサラ大学博士後期課程に在籍し、就学前学校教師の 養成課程で P.D.の理論と実践について講義している Anna G. Hanssen さんの論文である。彼女 は、2018 年 5 月 13 日(日)に開催された第 71 回日本保育学会の自主シンポジウムで P.D につい て講演するとともに、その内容の一部を同年 5 月 9 日(水)に本学福祉貢献学部子ども福祉専攻 学生に特別講義した。講演は英語(逐次通訳:山田貴美子)で行われ、P.D.の実践例を入れな がら分かり易く方法原理を解説した。そして、二つの講演内容をまとめた論文“Pedagogical Documentation in Sweden”を筆者が監訳し、資料とした。
スウェーデンの教育的ドキュメンテーションに着目する理由
わが国の保育実践の方法を検討するために、なぜ、スウェーデンの教育的ドキュメンテーシ ョンに着目したのか、その主な理由は以下のようである。
第一に、スウェーデンでは伝統的にエデュケア(educare)の理念に基づき、全人的な発達を めざした保育を行っており、それはOECD(2004)報告でも高い評価を得ているということであ る。UNICEF(2008)が行った調査においても、世界で最も質が高い幼児教育とケアが行われて いる国とされていた。なお、わが国の保育所保育指針では、養護(care)と教育(education)
を一体的に行うことを基本理念に掲げており、そこには類似性が認められる。
第二は、スウェーデンでは、1990年代に待機児童問題を克服し、保育の質の問題に本格的に 取り組み始め、そのなかで質の向上に貢献するツールとしてP.D.を奨励するようになったこと である。イタリアのレッジョ・エミリア市の幼児教育は国際的に大きな注目を集めているが、
その展覧会が1981年にストックホルムで開催され、スウェーデンの保育関係者に大きな衝撃を 与えた。そして、それを機に、レッジョ・エミリアとの共同研究プロジェクト(ストックホル ム・プロジェクトと呼ばれる)が立ち上げられ、実践的研究の積み重ねにより、子どもの探究 的な活動を支えるツールとしてP.D.の導入が推進された。元々ドキュメンテーションの手法 は、レッジョ・エミリアの幼児教育の重要な概念の一つであるが、スウェーデンではそれをそ のまま真似るのではなく、自国の歴史や文化を踏まえた実践方法を追求しているのである(白 石,2013)。
第三は、スウェーデンのP.D.が立脚する子ども観は、子どもを未熟で能力の劣った存在と見 るのではなく、「固有の権利を有する一人の人間であり、大人と同等の価値がある有能な存在
(I.エングダール, 2009)」と捉えていることである。また、学びは生まれた時から始まり生
涯にわたって続くものであるから、国はその学ぶ権利を保障しなければならないとの考え方も
ある。このような見方は、子どもの育つ権利、学ぶ権利と共に、子どもの参加や意見表明権を
位置づけている国連子どもの権利条約(2014)の理念に通じる新しい子ども観である。したが って、環境と関わる主体としての子どもをどう見るか、保育者は子どもとどのような関係を築 き、どのように活動を援助していくのかを明らかにすることで、わが国のこれまでの「環境を 通して行う」教育に新たな視点を取り入れることが期待できる。
結果
1)教育的ドキュメンテーションとは
わが国で、ドキュメンテーションという言葉が知られるようになったのは、北イタリアのレッ ジョ・エミリア市の幼児教育が紹介されてからのことである。アメリカの「ニューズウィーク」
誌(1991 年 12 月)でレッジョ・エミリアの幼児学校が世界で最も先進的な学校と紹介され、わ が国でも 2001 年に東京でその展覧会が開催された(佐藤学,2001,499)。
ドキュメンテーションはレッジョ・エミリアの教育の主要な要素の一つであり、その機能は 複雑で明確な言葉で定義づけることが難しい。森(2018,20-21)は、イタリア語の語源や R.マ ラグッツィなどの説明に基づき、 「レッジョ・エミリアにおけるドキュメンテーションは、子ど もと大人が教え合い学び合うために用いる可視化された資料、証明、資源であり、子どもをよ り深く表し理解しようという意思表示とその具体化である」と述べるとともに、C.リナルディ が「ドキュメンテーションは、子どもたちの経験の成果を収集することではなく、経験の道の りを意味する」と述べていることを紹介している。
また、これに加えて、C.リナルディ(2001, 181,183)は、 「ドキュメンテーションは、再度 読み取りを行う他者、殊に同僚と討議されなければならない」とし、それが保育者の学びを深 めるのに必要であること。そして、さらにドキュメンテーションは子どもにとっても「再訪、
省察、解釈の機会」を与え、「知識を自分で構成していくことや、グループで構成して行く機会 を与える」ものであると述べている。また、ドキュメンテーションは「子どもの記憶を支え、
自分の学びの痕跡を辿り、確認または話し合いの発見、そして自己修正する機会を提供」する とも述べている。
以上のことからすれば、ドキュメンテーションとは、子どもと保育者による協同的な活動の プロセスを可視化するものであり、保育者や子どもにとっての貴重な資料や資源として、活動 の修正や発展に活かされるものであることが分かる。そして、前述のストックホルム・プロジ ェクトの中心人物である G.ダールベリィら(1999)は、ドキュメンテーションが単なる記録文 書ではなく、教育活動のプロセスと密接に関わって機能するものであることに着目し、ドキュ メンテーションに「教育的」という言葉を冠して用いている。このことに関して、K. アルレル ヴィック(2018)は、ナショナルカリキュラム(Lpfő98)の基本的な問いの考え方 “why, what, how” とドキュメンテーションとの関係が分かるようするという意図もあったと述べている。
以上のことを踏まえ、本稿では、子どもの活動や保育実践を可視化した記録や資料を「ドキ
ュメンテーション」と呼び、そのドキュメンテーションを活用して繰り広げられる教育的な活
動を含めて「教育的ドキュメンテーション(P.D.) 」と定義する。なお、ここで言うところの教 育的な活動とは、対話やリフレクションを中心とした活動を意味するが、その詳細はこの後で 説明する。
2)探究的アプローチと教育的ドキュメンテーション
以下では、資料 1 の学校庁発行の冊子(Skolverket,2012,21-25)に基づき、P.D.がどのよ うな教育的活動を伴うのかについて説明する。
まず、P.D.は、 「探究的アプローチ(utforskande arbetssätt)」と深く関わっている。探究と は、子どもが身の回りの人やものと関わり、そこから何かを感じたり、理解する活動のことであ り、その活動の意味のとらえ方や援助方法が探究的アプローチである。このアプローチは、構成 主義理論(Konstruktionistisk teori)の学びと知識に関する考え方に基づいており、教師は子 どもの探究心や好奇心を受け入れる立場にあり、子どもたちを導くガイドや付き添い人ではな く、子どもと一緒に探究する「知識の共同創造者(medskapare av kunska)」であると位置づけら れている。教師の役割は、子どもたちがある対象について、自分の中に既にある概念を前提に、
自分なりの理解を組み立てていくのを手助けすることである。それゆえ、「子どもが探究活動か らどの知識を得るべきかを事前に決め」ることはしない。しかし、活動の全体的な目標、つまり 方向を決めることは重要であるとしている。そして、それぞれの子どもの考え方、やり方の違い を利用し、いろいろな考え方ややり方を研究していくことにより、探究を深めて行くのである。
また、構成主義理論では、知識の創造(意味生成)のための「言葉」を重視すると共に「人間 関係」を重視している。子どもたちは話し合いや社会的関係の中から意味を生成すると考える。
したがって、「言葉は、意味を生み出すための重要なツール」であり、「意味は活動の中で進行 する対話、議論、関係性の中で生まれる」としている。
それゆえ、探究的アプローチでは、「子どもたちが様々な疑問や問題を協同で探究することが できるような環境を整える」ことに重きを置く。例えば、子どもたちが手や道具を用いて、観察 し、嗅ぎ、触り、試してみること、書いたり話したりする言葉だけでなく、いろいろな表現形態 によって、より多様な学びの様相を取り入れることなどである。ある現象を調査している時に、
ダンスや動きなどの創造的な表現形態を取り入れることも学びに新しい側面を提供することに なる。例えば、一本の木を、絵に描くだけでなく、粘土やスチールワイヤーや張り子で作ってみ ることによって、子どもたちは木の新しい側面を理解することができる。違う言葉や表現で置き 換えることで、子どもはその対象を新たな視点でとらえるのである。「知識は、異なる素材に置 き換えることで生まれ、同じ素材でも異なる表現をすることが新しい知識をつくるのに役立つ」。
つまり、芸術的な「言葉」や表現方法によって、調査する領域の範囲を広げていくことができる のである。
そして、P.D.は、探究的アプローチにおいて「媒介、あるいは動力」として欠かすことのでき
ないものである。ドキュメンテーションによって、子どもたちが興味を持っている課題や問題、
または色々な状況の中で生み出される知識が明らかになる。子どもたちが実際に見たことは写 真や画像等として後まで残り、子どもたちは起こったことを振り返り話し合うことができ、今後 のことを考えることもできる。
一方、教師も、ドキュメンテーションを見て子どもについて発見したり、子どもたちの遊びや 相互作用、創造について考察することができる。そして、それは、後で子どもたちとの会話に反 映され、保育チームのプランニングの議論の中で取り上げられる。ドキュメンテーションは、そ のようにして活動に帰ってきて、いろいろな影響を与える。教師が「どの問題や題材について共 同研究する必要があるかを理解するのは、子どもたちとのドキュメンテーションに関する話し 合い」を通してである。
3)周囲の人やものとの関わりとリゾマチックな学び
学校庁発行の冊子(Skolverket, 2012, 26-28)では、子どもの学びに関する理論につ いて次のように説明している。
キュメンテーションにより、子どもたちの好奇心や学ぶ意欲を探り、それを生かしていく ことを考える手掛かりを得ることができるが、その読み取りをする際の視点については諸 説がある。これまで構造主義では、対人関係や社会的相互作用に注目していた。しかし、最 近の研究は、就学前教育における子どもの学びを理解するには、それだけでは十分ではない と指摘する。なかでも、ポスト構造主義理論では、人間と物理的な世界との関係、特に、子 どもの学びにおいて素材(material)や環境が重要な意味を持っているとしている。
では、子どもと素材や環境との間に起こる無数の関係にどのように注意を払えばよいの か、ポスト構造主義理論では次のように説明する。
子どもたちは、人のみならず、本、ペン、絵の具、粘土、水、紙との関係を含めた周囲の 物との関係を確立することに夢中になっている。光、音、寒さ、熱、雨、太陽もまた、学び に関与している。葉、棒、砂は、子どもに見てみたい、感じたり、調べてみたいという気持 ちを起こさせる。「素材は子どもを夢中にさせ、興味をかき立てる」ものなのである。
このアプローチは、人間社会を軽んじるものでなく、視野を広げて素材や物理的な環境を も含めること、つまり素材と人間社会の両方に同時に目を向けることをめざしている。「こ の学び方の概念は『フラット型』または『非階層型』として理解されている。人間と社会の 関係の方が、人間と周りの環境の間で起こっていることより重要という訳ではない。全ての 関係は、人間の存在にとって深い意味を持っている」ということなのである。
それは、何かを学ぶ人と、学ぶ内容、あるいは学びが起こる物理的な環境を区別すること
ができないということでもある。つまり、すべてが絡み合って関係しているということなの
である。このような考え方は、「ポストモダン哲学、特に、ジル・ドゥールズとフェリック
ス・ガタリに影響を受けている。彼らの哲学思想に基づくと、子ども同士の関係、子どもと
大人の関係、あるいは周囲の環境との関係は、常に何度も繰り返し確立されている」ものと
考えられている。したがって、「子どもの学びは、新しい道をつくり、くねくねした根茎の ように周囲の環境と絡み合って非連続的に起こるリゾマチックな(rhizomatic)学び」とし て理解することができる。
「根茎(rhizom)という概念は生物学から来ており、ある種の植物の根系(rotsystem)を指 す。根茎は、先端で分岐する根とは違い、いろいろな方向に広がっていく。学びは根茎のご とく、予見できない道を行き、連続的でも漸進的でもない。学びは、直線状にマッピングさ れた道を行かず、そこ、ここと予測できない道を行くのである。このように考えると、学び は、子どもの生活の中で生じた多種多様な関係から発生してくるものと考えられる。」
このような論理は、探索的な活動の仕方、教育的ドキュメンテーションの実践にとって、
重要な意味を持つ。この論理に基づけば「就学前学校での人間同士の社会的相互作用や会話 のみが、学びや遊び、発達にとって重要なわけではない。人と材料の関係も重要な意味を持 つ」ということが明確になる。P.D.は、観察記録を読み取るための中心的なツールであり、
それによっていろいろな関係が目に見える形になる。 「ドキュメンテーションを同僚と一緒 に研究することにより、実質的で具体的な活動の内容、つまり、それがどのように構築され ているか、どの教材に子どもたちが魅了されているのか、活動をさらに発展させ、改善する ために何ができるのかが見えてくる」のである。P.D.は、「活動の活性剤、あるいは動力の ように働き、何かのきっかけを作り、問題を喚起し、何かことを起こさせるもの」である。
4)教育的ドキュメンテーションの作業
学校庁発行の冊子(Skolverket, 2012, 15-19)では、P.D.における作業について次のように 説明している。
【子どもの参加】 P.D.の出発点は、子どもたちの間で起こっていることに聞き耳を立て、そ れを記録することによって、それを見える形にすることである。ただし、就学前学校で子どもた ちの活動を記録するのは、大人だけではない。子どもたちも、収集したものについて議論するこ とで、P.D.に参加する。ナショナルカリキュラムは、「子どもたちの参加と影響が重要である」
ことを強調している。
この先の活動をどう進めていくかを決めるには、子どもの質問やアイデアが重要である。たと えば、テーブルの上や集合用のカーペットの上に集めたものを置いて、子どもたちと保育チーム の保育者とで話し合うことである。 「保育者が記録しなかったことを子どもたちはどのように考 えるのか。どんなことが子どもたちにとって最も重要な体験なのか。彼らは次に何をしたいのか。
写真や映像を見て思ったこと感じたことを子どもたちに語ってもらうことによって、次の方向 性を導き出すことが可能になる。大人にとっては当たり前に思うことが、子どもにとっては深く 考えるに値する重要なことである」という場合もある。
子どもたちや保育チームのスタッフを含むすべての関係者が一緒に話し合い、振り返って評価
することが、活動の発展に貢献するのである。「議論や対話こそが、ただのドキュメンテーショ
ンを教育的ドキュメンテーションにする」と言うことができる。
【次の活動の選定】 子どもたちとの議論や対話の中で保育チームがすべきことは、子どもが 今ここで専念している活動の中から、議論可能で彼らを挑戦させることができる内容を見つけ 出すことである。また、子どもたち自身に、自分たちが何に興味を持っているかを認識させるこ とが大切である。この作業には、ドキュメンテーションが必要不可欠である。なぜならば、学び で起こっている他の事、例えば、教育環境、違う材料に対する子どもの関心、また、子どもたち が部屋から部屋へ、活動から活動へとどのように移動しているか、就学前学校の色々な場所や、
物に対する彼らの関係が見える形になるからである。
保育チームは、観察記録を資料としてより深く研究し、全体的な課題や問題点を確認し、次 の活動では何を取り扱うか、どの部分に重点を置くか決定する。その際、より全体的な計画の 中で、活動の目標をどこに置くかを考えることも重要である。しかし、目標はフレキシブルで あるべきであり、もし新たなアイデアが出てきたら、それを排除すべきではない。それから、
保育チームは、子どもたちの質問や関心を取り上げ、集められた写真や文章の助けを借りて、
それを子どもたちに返す必要がある。
なお、活動の様子を撮った写真や他の記録物は、壁に貼ったり、ファイルに入れたり、子ど もが使えるコンピューターに収めるなど、子どもたちがいつでも簡単に見ることができるとこ ろに置くようにする。
【さらなる学びと探究の出発点】 子どもたちが、記録物を資料として、子どもたち同士、保 育者や保護者と話し合うことは、記録物と子どもたち、または子どもたち同士を結びつけ、関係 を作り上げる媒体や力となる。それゆえ、G・ダ-ルベリィは、P.D.を「活動の変革力」と呼び、
H・L・タグチは、「活性剤」と表現している。
子どもも大人も、「その出来事にかかわった全ての人は、写真や録音、その他のものを通じて その出来事を『再訪問』し、追体験することができる。」P.D.は、このようにして「起こった出 来事と今、そしてこれから起こることを繋ぐ。それは、将来への動き方を決めると同時に、起 こった事柄の再考を意味する。また、ドキュメンテーションがエンジンの様にして子どもとの 作業を前に推し進める動きを作り、次の出来事につなげていくことを意味する。 」つまり、
「P.D.が、さらなる学びと探究の出発点になる」のである。
【カリキュラム】 ドキュメンテーションは、 「子どもと保育チームの関わり合いを活性化さ せ、学びの活動を推し進めているが、それは単なる媒介や動力ではなく、就学前学校の活動を 推進する知識装置(kunskapsapparaten)である」と言うこともできる。子どもや教師たちも、
知識装置を構成する一部分と言えるが、カリキュラムもまた、この知識装置の一部と言える。
「ナショナルカリキュラム(Lpfő98)は、エンジンが動き続けるための目標を提供するもので
ある。」教師や就学前学校のスタッフが、学びや探究のプロセスをよりよく進めるためにどの
部分を発展させる必要があるか、学びに関する理論的な知識が必要か、技術や方法の知識や省
察するための知識、あるいは焦点を当てた領域の知識が必要か、お互いに写真を取り合いイン タビューできるように、子どもたちにカメラや録音機器の取り扱い方を教える必要があるか。
この知識装置が可能な限り最良に働くようにするには全体として何が必要か。「P.D.は、この ように、文書化、フォローアップ、就学前学校の活動の発展という複雑な任務の動力(エンジ ン)として理解されている。」
【事後評価】 ドキュメンテーションは、「知識装置をスタートさせるが、同様に評価方法 の『引き金』としても機能する。」つまり、事後評価の資料として活用することもできるので ある。しかし、それゆえに、「どの評価方法によってどのような情報が得られるか、その情報が 就学前学校の活動内容と方法にどの様に影響するかを見つけ出し、慎重に検証することが重要 である。」教師は、評価方法が依拠する価値観や意図を把握し、ナショナルカリキュラムの目 的に合致するかどうかを見定めなければならない。また、どの評価方法からどのような答えが 得られるのかも、慎重に検証することが重要である。
5)教育的ドキュメンテーションの実際
これまで、学校庁発行の冊子に基づいて、P.D.とは何か、どのような理論的背景や活動や作業 を伴うのかを明らかにしてきた。以下では、2 つ目の資料である A.Hanssen さんの講演内容と論 文から、スウェーデンの就学前学校で P.D.をどのように実践しているかを見て行くことにする。
重要なことは、ドキュメンテーションが P.D.と見なされるためには、子どもや保育者によるリ フレクションに利用されなければならないということである。
【子どもとのリフレクション】 保育者が子どもと一緒に活動を振り返り話し合うための方 法はいくつかある。
1つは、探求した活動のドキュメンテーションを綴った個人のファイルを作り、自由に見るこ とができるようにしておくことである。子どもは何時でもそれを取り出して、一人で見たり、保 護者や友だち、保育者と見えることができる。
2 つ目は、就学前学校の様々な場所に写真やドキュメンテーションを掲示することである。子 どもの目の高さに掲示することで、見たこと経験したことを思い出し(再訪し) 、掲示の前で積 み木やレゴなどを手にして遊び始める姿が見られる。
3 つ目は、戸外に出かけるプロジェクトのなかで撮った写真や動画を、保育室内のスクリーン や壁にプロジェクターを使って大きく投影することである。子どもたちは戸外での探究活動の 続きを、室内でも続けることができる。
4 つ目は、異なる材料やテクニックを用いて、様々な方法で探究することである。例えば、ミ ミズやカタツムリを探究している時に、ノート型パソコンの画面に映った写真や動画を見なが ら、その動きを体で表現したり、描画や粘土、ブロックなど色々な材料で表現することである。
目で見たり触れたりするだけでなく、それを手や体を使って表現し、全身で考える機会を提供す
るのである。
【保育者同士のリフレクション】 ドキュメンテーションを資料として保育者が同僚とリフ レクションする際には、テンプレートを用いて「子どもの活動」「子どもの言葉」「環境/材料の 影響」について整理し、話し合う方法がある。もちろん、これを使わなくてもよいが、ドキュメ ンテーションを読み取り、子どもたちが何に関心を持ち、どのように学ぼうとしているかを省察 するには、段階的に進める必要がある。
このことは話し合いの形態でも同様であり、まずは、クラスを担当する保育チーム(15~20 名 の子どもを 3 名の保育者で担当するのが一般的)が、活動の時々でマイクロ・リフレクションを 行う。続いて、保育チームが定期的に行うリフレクション・ミーティングがある。ミーティング の時間が足りない場合には、お互いに作成したドキュメンテーションを読んでコメントを書き、
意見交換する場合もある。そして、年に 1~2 回は、保育チームだけでなく、他の保育者も参加 して長期の探究的な活動を振り返り、事後評価したり、次期の計画を立てる大きなミーティング を行う。
このようにリフレクションは、ミィーティングを段階的、組織的に行うようになっており、最 終的には就学前学校全体の教育活動をリフレクションする仕組みなっていると言える。つまり、
P.D.は、このような対話的で組織的なリフレクションのツールであり、ナショナルカリキュラム に謳われ、かつ、本論の 1 つ目の資料である学校庁発行の冊子のタイトルである「就学前学校で のフォローアップ・事後評価・発展」のプロセスを推進するものである。
【教育的ドキュメンテーションと倫理】 ドキュメンテーションは、子どもを観察してメモし たり、写真や動画などをとるため、対象となる子どもがそれをどう感じているかを十分に考慮し なければならない。すべての子どもが写真を撮ってもらいたい訳ではないということを忘れて はならない。年少幼児については非言語的な表現を汲み取るよう留意し、年長幼児には子どもか ら同意を得ることである。また、子どもの姿でなく、子どもが関心を持っているものやことだけ を写真に収めるなどの工夫をする必要もある。
さらに、スウェーデンでは、保護者から、子どもの写真・動画撮影許可についての同意文書を もらわなければならないことになっている。保育者も写真を撮られる立場を体験してみること や、写真やメモの他にも子どもの状況を知る方法があることを覚えておく必要がある。
おわりに
本論では、2 つの資料に基づき、スウェーデンにおける教育的ドキュメンテーションの理論的 な背景やその実践方法を整理した。わが国の保育指針や教育要領等では、人間は生まれた直後か ら周囲の人やものと主体的に関わりながら育っていくという認識に基づき、 「環境を通して行う 教育」を基本としている。
スウェーデンの就学前教育も、同様の認識に基づいていることは確かである。しかし、子ども
が環境との関わりで繰り広げる「探究的な活動」に焦点を当て、保育者と子どもが一緒に体験的
に知識を獲得(意味生成)していくプロセスを、教育的ドキュメンテーションによって活性化し
ていくシステムを整えていることが明らかとなった。しかも、この探究的活動は、単に認知的な 能力の育成だけでなく、自主性や対話力、思考力、協同性、表現力などの総合的な育ちにつなが っている。また、子どもの活動の結果を評価するのでなく、リフレクションによって、そのプロ セスでどのような体験や学びを深めたか、保育者はどのような援助をしたかを省察し、次の計画 を導き出していることも分かった。
わが国の幼児教育では、幼児の主体的な活動を促すとともに、自発的な活動としての遊びを通 した総合的な指導を行うことをめざしている。この「総合的な指導」が意味するところは、単に 知識の獲得をめざしている訳ではない。今回の指針、要領の改定(訂)におけるキーワードの一 つは「非認知的能力」 (文部科学省,2016.遠藤利彦,2017)であり、知的能力だけでなく社会情 緒的能力を含めた全人的な教育を指向している。そして、それを具体的に「幼児期に育てたい資 質・能力」として、「知識及び技能の基礎」「思考力、判断力、表現力等の基礎」「学びに向かう 力、人間性等」の 3 つの柱を掲げている。
この 3 つの柱が示す方向性は、まさに、スウェーデンの教育的ドキュメンテーションをツール とした探究的な活動による教育がめざすところと重なる部分が大きい。それゆえ、今後、わが国 が「環境を通して行う教育」の方法論を深化、発展させていく上で、スウェーデンの教育的ドキ ュメンテーションから学ぶところは多いと考える。
なお、本研究を進めるにあたっては、A.ハンセンさんに様々な助言や援助をいただいた。スウ ェーデンの教育的ドキュメンテーションは、1990 年代から今日まで、多くの研究者や保育者た ちによって実践的研究が積み重ねられている。したがって、学校庁発行の冊子の文面からだけで は理解し難い部分もあり、その点を分かり易く解説していただいた。
それゆえ、本論の最後に、A.ハンセンさんが本学社会福祉学部や日本保育学会第 71 回大会自 主シンポジウムで講演した内容をまとめた論文とその日本語訳を掲載する。奥深い教育的ドキ ュメンテーションの理論と実践を分かり易く解説した資料として役立てていただければ幸いで ある。
引用参考文献
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C.リナルディ,ドキュメンテーションから構成されるカリキュラム,C.エドワーズ,L.ガンディーニ, G.フォアマン編、佐藤学、森眞理、塚田美紀訳『子どもたちの 100 の言葉』世織書房,169-207.
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森眞理(2018)ドキュメンテーション-レッジョ・エミリアとの対話,発達 156,ミネルヴァ書房,20-26.
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UNICEF Innocenti Report Card 8 (2008)
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http://www.unicef.or.jp/osirase/back2008/0812_07.htm
資料 スウェーデンの教育的ドキュメンテーション
アンナ・ギュンター・ハンセン(ウプサラ大学)
教育的ドキュメンテーションとは何か?
教育的ドキュメンテーションとは、以下のようなものである。
・子どもの学びを記録し、就学前学校の評価を行う手段である。
・リフレクションのために使われるものである。
・実際には手段というより、コミュニケーションであり、考え方である。
・教育的ドキュメンテーション(以下、P.D.と記す)の目的は、それを通して話し合い、目にした ことをリフレクトすることである。
教育的ドキュメンテーションは、探究的なプロジェクト活動と結びついている
P.D.は、子どもたちの考えや意見、計画を重視し、学びのプロセス全体に焦点を合わせる。ま た、その活動は、子どもの興味や質問から出発する。ただ、それは、-単なる一般的質問ではな く- 就学前学校のカリキュラムの内容、例えば、民主主義や平等、あるいは、言語、算数、理 科、芸術、音楽に関する質問から出発することを前提とする。したがって、保育者は、子どもが 知りたがっていることに興味を持ち、子どもと一緒にそのことを記録していく必要がある。
観察とドキュメンテーションの作成では、観察メモや写真、動画、会話の記録、録音、描画な どが用いられる。教育的ドキュメンテーションで重要なことは、この作成されたドキュメンテー ションが、その後で使われるということである。保育者は子どもと一緒に、ドキュメンテーショ ンに立ち戻って話し合い、それらに関してリフレクトする必要がある。
P.D.は子どもの学びのプロセスをフォローし、それを促進していくだけでなく、就学前学校の 活動の価値を判断したり、評価するためにも用いられる。ただし、スウェーデンでは、評価の対 象となるのは就学前学校や保育者であり、子どもではない。P.D.を通して保育者の知識やアプロ ーチの仕方、子どもの観方などが明確になり、分析、評価される結果、発展されていくのである。
また、P.D.は、子どもと一緒にプロジェクト活動に取り組んでいる間に、評価したり計画を立 てたりするのにも使われる。P.D.の実践は、子どもが知らないことや経験がないことではなく、
既に知っていることや行ったことがあることから始めることを前提としている。そして、子ども の思いやファンタジー、学びを可視化するものである。
ドキュメンテーションから教育的ドキュメンテーションへ
ドキュメンテーションが P.D.と見なされるためには、子どもや保育者によるリフレクション
に利用されなければならない。時にはそこに保護者が招かれることもある。また、ドキュメンテ
ーションは、起こった出来事を振り返って話し合い省察する-つまり、リフレクトする-だけで
なく、これから何が起きそうか、もしくは起こり得るかについて話し合うためにも使われる。
そこでは「正確な答え」が重要ではなく、全体的な省察や話し合いをすることで、できるだけ 多くの見方(ドキュメンテーションの中で見たり、聞いたりしたこと)を表面化させることが重 要である。
子どもは、ドキュメンテーションやリフレクションの作業に参加することになっている。そう することにより、子どももまたプロジェクトワークの内容、探究、学びに参加できる。P.D.に関 する活動は、子どもの話を注意深く聞き、彼らに影響を与えることを意味する。ーしかし、それ は単に言葉による話し合いだけではない。子どもたちには、自分たちの振り返りや省察、自己表 現の手助けとなる異なる材料が必要である。
子どもとのリフレクションの事例
以下では、保育者が子どもと一緒に行うリフレクションの事例を紹介する。そこでは、幼い子 どもたちが一緒にドキュメンテーション(写真その他の記録)を再訪して考察している。
Fig.1は、子どもたちが保育者都一緒に、カタツムリやミミズについて探究したプロジェクト のドキュメンテーションを集めて作った冊子である。子どもたちはこれを持ち歩いて、何かを書 き込んだり描いたり、友だちや保育者と一緒に読んだりした。
・就学前学校の様々な場所の写真や動画:Fig.2.Fig.3は、就学前学校の様々な場所に写真や ドキュメンテーションが貼られているところを撮ったものである。このようにドキュメンテー ションや写真を、壁や床、扉、家具の側面などに貼ると、子どもたちの新たな探究を活性化させ ることができる。写真2は、子どもたちが街で出会った階段についてドキュメンテーションを見 て振り返り、積み木で階段や街の他の部分を組み立てているところである。
Fig.3は男の子が友だちや保育者と一緒によく訪れる高い建物の写真で遊んでいる場面であ る。彼はレゴ人形を手にして、自分がその高い建物の周りを歩いているかのように動かしていた。
この時、彼のグループの子どもたちは保育者と一緒に、就学前学校の周辺を探索する「街プロジ ェクト」に取り組んでいたのである。
教育的ドキュメンテーション
のプロセス
・プロジェクターによる写真や動画でのリフレクション:「街プロジェクト」の保育者たちは、
子どもたちが街を歩いている時に撮った写真や動画を投影することで、子どもたちが市内の散 歩で見たことを探究できるようにした。
Fig.4 は、スクリーンに映された動画の前で、子どもたちが街の通りをドライブする遊びをし ている。この動画は、就学前学校の近くで保護者が子どもと一緒に撮ったものである。
また、Fig.5 は、保育者が壁に貼られた大きな白い紙に、保育者が街並みの画像を映し出して いる。子どもたちは紙に映ったビルや街並みを絵の具でなぞるようにして描き、その形を思い出 し探究している。
・他の材料やテクニックによるリフレクション~手や体を使って考えること~:Fig.6 では、数 人の子どもが階段の写真を見ながら、ブロックで階段を作っている。また、街で見かけ た階段を思い出し、話し合っている。
また、Fig.7 では、一人の子どもが就学前学校で捕まえたカタツムリの写真(ラミネートで 覆ってある)の上に、粘土を貼り付けながらその形を探究している。彼女は粘土を貼り付けな がらカタツムリのことを話している。
・Laptop
ラップトップ/lpad
ア イ ハ ゚ ッ トやその他の材料:Fig.8 は一人の子どもがカタツムリや虫に関するプロジェクト の写真の中から、一枚の写真(ミミズ)を探し出したところである。彼女はブロックの一種の 小さな材料で、このミミズを形作り、それしながら、ミミズに触れた時のことを思い出していた。
教育的ドキュメンテーションと学びの関係についての見方
P.D.につながる学びの考え方は、学びは、階段を一段ずつ上って行くような過程として捉える のでなく、そこここでの関りの中で生ずるものであり、あちこちに曲がりくねって進むものであ ると見なす。それは皿に盛られたスパゲッティのような非線形の過程であることを意味する。学 びは、子ども、保育者、就学前学校の環境や材料の間で集合的に生み出されるものである。
・言葉の重要な役割 : 言語は学びにとって非常に重要である。この見方では、就学前学校で絶 えず行われているコミュニケーション、対話、そしてかかわりの中で、学びがどのように生じる かに関心が寄せられる。ただ、子どもは自分自身を表現するのに、話し言葉だけでなく、彼ら自 身を表現する様々な言葉、例えば、色々な材料で制作したり、算数、ダンス、音楽、アートなど の表現が非常に重要である。
P.D.に結び付く一つ作業方法は、子どもに「同じこと」を新しい材料で、または、新たな/他 のやり方で例えば、子どもたちが粘土で作ったものを、次には絵に描いてみるように促すことで ある。子どもにそれを再訪し、もう一度見たり聞いたりさせることである。これにより、子ども は、新しい方法で学ぶ可能性や再度学ぶ機会が与えられるのである。
では、子どもたちの質問や意見に耳を傾けることを重要視している。しかし、それは単に子ど もが話した言葉を聞くことを意味するのではない。何かをよじったり、ひっくり返したりして探 るように、子どもに疑問を投げかけたり、自分の考えを探究するような聞き方をすることである。
・保育者の役割 : 保育者は、子どもが学ぶ必要があるとされる既定の目標に向けて導くガイド
ではない。むしろ、子どもと一緒に知識を共同で創造する人である。しかし、カリキュラムや教 育的な活動には目標や目的がある。保育者は、子どもの共同研究者であり、子どもが疑問を抱き 探究するであろうことに対して、カリキュラムとの関わりの中で、関心を持つことが必要である。
保育者の役割の一つは、子どもの疑問や探究を深め、広げことができるような質問をすること である。保育者の役割は、変化しやすく、全ての状況において何時も同じではない。イタリアの レッジョ・エミリア市の幼児学校の創設者であるローリス・マラグッツィは、そこで初めてP.
D.の実践を着想したが、彼によれば、子どもは保育者の仕事のガイドである-しかし、そのた めには、 「保育者は子どもの一歩先を歩く必要がある」と述べている(Lenz Taguchi,2013,s.33) 。
保育者が子どもの「一歩先を行く」ための一つの方法は、学科(subject)の内容について良 い知識を持つことである。けれどもそれは、保育者が子どもに様々な学科の「授業」をするため ではない。むしろ、様々な学科に関する知識によって、保育者は子どもが何を探究し、どのよう に行動をしようとしているかを知り、理解できるようになるためである。また、それにより、子 どもの探究心や学びが一層刺激されることになる。例えば、新しい材料を加えたり、適切な適切 な課題を与えたり、深める質問をしたり、子どもが探求する環境を整えたりするなどによって刺 激することが考えられる。
保育者同士のリフレクション
保育者は、子どもと一緒にリフレクションする以外に、保育者同士でリフレクションする必要 がある。それには次のような方法がある。
・リフレクション・ミーティング・・・ドキュメンテーションについての話し合い。その際には、
リフレクションの質問、または、下記のようなテンプレートを用いる。
子どもの活動 子どもの言葉 環境/材料の影響 リフレクション
・マイクロ・リフレクション・・・その時々で、2,3 分話し合いをする。
・お互いの記述を読む・・・自分の考えをコメントする。例えば、「 (同僚が作成した)デジタルの ドキュメントとその説明」を読んで、それに対するコメントを書く。
・年に 1、2回行う、規模の大きい事後評価。 (各リフレクションは小さな事後評価に相当する)
事後評価について言えば、子どもが学ぶべきことに関する目標や結果をフォローするだけの 事後評価は、子どもがどのように学ぶかというプロセスを知るためには役立たない。子どもがど のように学ぶかについての知識を生み出すには、全体的なリフレクションが重要である。
教育的ドキュメンテーションと倫理
子どもは、ドキュメンテーションづくりに積極的に参加し、リフレクションにも参加するべき
である。子どもは、自分で写真や動画を撮ったり、保育者に撮ってもらいたいものや方法を知ら
せることができる。書いたり、描いたり、どの写真が面白いかを選ぶことができる。
かということである。保育者は、すべての子どもが写真に写ることを好んでいるのか、心地よい と感じているのかどうかを考える必要がある。子どもの写真を撮らなくても、ドキュメンテーシ ョンにすることは可能なのである。
・年少の幼児について : 保育者は、子どものボディー・ランゲージに注意を払い、それを聞き、
観察する必要がある。なぜならば、幼い子どもは体全体を使って語っているからである。もし、
その子どもがドキュメンテーションに参加したくない様子が見られたら、大人や保育者は、子ど もの代わりに「イヤ(No) 」と言う必要がある。
・写真等の撮影に関する同意 :スウェーデンでは、保育者は常に、保護者から、子どもの写真・
動画撮影許可についての同意文書をもらわなければならないことになっている。同様に、子ども が写真や動画を撮られることを認めていることを明確にすることが重要である。子どもの立場 を理解するためには、保育者も写真を撮ってもらい、それがどんな感じなのかを体験することで ある。写真やメモは、子どもの状況を知る一つの方法にすぎない、他にもいろいろな方法がある ということを覚えておく必要がある。
考えてほしいことは、子どもをどのように撮影するのか、どの写真を今後の実践に選択するか ということである。何人かの子どもたちの興味や活動を、他の子どもたちよりも頻繁に記録して いないかについても、気を配る必要がある。スウェーデンでは、往々にして、言葉が優れている 年長の男の子の興味の方が、女の子の興味より目を引く傾向がみられる。そして、ある活動の方 が、他の活動より記録されていることが多くなっている。保育者はしばしば、これらのことを無 意識に行っているのである。
それゆえ、保育者は自己批判的に、こうした問いかけを同僚と一緒に話し合う必要がある。そ うすれば、例えば、男の子の興味が目立ったり、言葉が優れている子どもの言うことだけが聞き 入れられ、決定されるということにはならないだろう。
おわりに
あなたが何かに関心を寄せ、ドキュメントを作成したり、メモ、写真、動画をとることは、子 どもたちに次のことを伝えている。
「私はあなたたちの行動に関心がある-あなたの行動し、語り、興味を示していることがとて も重要なである。」
保育者はカメラに集中し過ぎないことである。集中しすぎると、カメラに乗っ取られてしまう 可能性がある。カメラは単なる道具にすぎない。最も大事なのは子どもである。彼らがどのよう に感じ、何に興味を持ってどのように探究しているかが最も大事である。
日本とスウェーデンではカリキュラムも同じではないし、日課の構造やクラスの子ども数や 保育者の数にも違いがある。このことは、日本の保育者が自分たちの道を見つけなければならな いこと、そして、それぞれの保育園や幼稚園で機能する教育的ドキュメンテーションの実践方法 を構築していかなければならないことを意味しているのである。
(日本語訳:山田貴美子,監訳:白石淑江)
Pedagogical Documentation in Sweden Anna Günther-Hanssen (Uppsala University)
What is pedagogical documentation?
▪
A way to document children’s learning and evaluate the preschool▪
The documentations need to be used for reflection▪
It is not really a method - rather a communication and a philosophy.▪
This means that the aim with the pedagogical documentation(P.D.) is tocommunicate through it and reflect over what you see.
It is connected to an explorative and project focused way of working…
…which focus on collective learning processes where everyone's thoughts, theories and strategies are seen as important. This work is supposed to depart from the children’s interests and questions. However, not just their questions in general, but their questions in relation to the content in the preschool curricula, such as language, mathematics, science, arts, music, equality, democracy and so on
It means for teachers to really be curious in what the children are curious about and document this together with the children. The observations and documentations can be done by taking notes, photographs, film, record sound and conversations, drawings and so on.
What is of importance in P.D is that the documentations then need to be used. To revisit them and discuss and reflect over them.
P.D. can, except from following and challenging the children’s learning processes, also be used to assess and evaluate the preschool. In Sweden it is the preschool and teachers that are focus for evaluate –not the children. The teachers approach, their view on knowledge and children etc. can be highlighted, analyzed and evaluated and therefore also developed through P.D. In this way P.D can be used as an ongoing planning evaluation while a project work is in progress with the children.
The work with P.D is supposed to start from what the children already know and do – not from what they not yet know or do - and to make the children’s thoughts, fantasies and learning visible
From documentation to pedagogical documentation
For a documentation to be considered as a pedagogical documentation, it has to be used for reflection by children and teachers. Sometimes guardians can be invited to. However, not only reflections and conversations about what have happened – but rather what is about
to happen? What could be possible? To use what happened today to think about what could happen tomorrow. It is not the ”right answers” that are important – instead collective reflection, discussions and dialogue to make as many perspectives come to the fore (of what we see and hear in the documentation).
The children are supposed to be involved in the work with the documentations and reflections. In this way, the children can also be involved in the content of the project work, the explorations and learning. To work with PD means carefully listening to the children and give them influence – but not by verbal discussions only. The children can also need different materials to help them reflect and express themselves.
Some examples from reflections with children Here follow some examples from reflections with children. These can be thought of as revisiting the documentation – also with the youngest children.
The photo (Fig.1) shows a child with own made books with documentation in. It is from a project where teachers and children explored snails and worms together. The children can carry these around, write or draw in, read with a friend or teacher.
Document by taking notes, film and photo
Reflect over the documentations
Decide how to continue the work with the Observe the
children and their interests
Make new activities, play, arrange new
materials
The process of pedagogical documentation
Fig.1
Pictures/photos in many places in the preschool
When documentations and pictures are put on the walls, floor, doors or sides of furniture, these can work activators of new explorations. On the picture to the left (Fig.2) some children are reflecting about their meetings with stairs in the city by looking at documentation and building stairs and other parts of the city. On the picture to the right (Fig.3) a child is playing that he is visiting a high building which he and the other children often go to together with their teachers. In his hand he has a small lego figure that he pretends is himself walking around the high building. The children and teachers in this group were at this time engaged in a project about the city surrounding the preschool.
Reflection with photos and film via a projector
The teachers in the “city project” also made it possible for the children to explore what they had seen on their walks in the city, also inside at the preschool by projecting pictures and movies they had collected during their walks. On the left (Fig.4) some children are playing that they drive cars on the streets of the city, the photo is taken by the teacher and children near the preschool. On the right (Fig.5) a teacher has projected a photo of a building near the preschool which the children found interesting, on a big white paper. The children reflect and explore the building and its shape by painting on the paper.
Fig.2 Fig.3
Fig.4 Fig.5
Reflection together with different materials and techniques;To think together with the hands or body
On the left(Fig.6) some children are again reflecting about their meetings with stairs in the city by looking at documentation and building stairs. On the middle(Fig.7), a child from the snail project is reflecting and exploring snails by shaping play dough on top of a photo of some snails they had in the preschool. The photo is put in plastic. She is talking about the snails while shaping snails with the dough.
Laptop/lpad or other materials
On the right-up(Fig.8) a child has been looking through a folder of photos from the project about snails and worms and then she chose this photo. She is reflecting about the worm while constructing a worm of a small construction material.
The perspective on learning connected to P.D.
Instead of seeing learning as stair, developing step by step, learning is seen as occurr ring in relations here and there. Instead of stairs, a metaphor for learning connected to P.D.
is more like a bowl of spaghetti. This means that learning is seen as nonlinear – it takes various turns and directions and involves many areas and contents in the same time.
Learning is also seen as being created collectively, between children, teachers, the preschool environment and materials.
Language an important role
In this perspective, language is seen as being of big importance for learning and there is an interest in how learning occurs in the communication, dialogue and relations constantly going on in the preschool.
But not only verbally - it is of big importance that the children get access to different ways to express themselves, or different languages such as constructing with different materials,
Fig.6 Fig.7 Fig.8
dance, mathematics, art, music and so on
One way of working connected to P.D. is to let the children do ”the same thing” but with a new material or in a new/other way, for example to let the children draw what they just shaped in clay. To let the children re-visit, re-see and re-listen. This gives the possibility to learn in a new way, re-learning.
In P.D., children’s questions and theories are seen as important to listen to. However this doesn’t mean only listening to verbal expressions – to “twist and turn” something is also a way to ask questions and explore own theories.
The role of the teacher
The teachers are not seen as guides who lead the children towards predetermined goals that exactly say what the children need to learn, rather the teachers are seen as co-creators of knowledge – together with the children.
But of course there are goals and aims with the pedagogical work and in the curricula. The teacher is supposed to be a co-researcher with the children and be curious about the questions that the children seem to ask and explore – in relation to the curricula.
One role of the teacher is to ask questions that can deepen the children’s exploration and learning – questions that make it possible for the children’s questions and explorations to expand.
The role of the teacher is changeable and not the same in all situations and over time. Loris Malaguzzi, the founder of the preschools in Reggio Emilia in Italy, where the work with P.D.
takes it’s first inspiration, said that the children can be seen as guides for the teachers work – but for this to be possible, the teacher need to ”walk one step ahead of the children” (Lenz Taguchi, 2013, s. 33).
One way to ”walk one step ahead”
One way to ”walk one step ahead” is to have good knowledge about subject content.
The aim is not that the teachers should ”lecture” for the children about different subjects, but rather that knowledge about different subjects make it possible for the teacher to discover and understand what the children are trying to explore as well as how to act so the children’s explorations and learning can be challenged further. For example by adding new materials, offer relevant tasks for the children, to ask deepening questions, to arrange an environment that supports the children’s explorations and so on.
The teacher need to have a reflecting approach and, expect from reflecting with the children, they also need to reflect together with each other.
An example of a template of documenting
Below is an example of a template of documenting by taking notes – which also can be used later on for reflections
Child/ren do Child/ren say/s Effect of environments and/or materials
Reflections
Reflection between teachers
Reflections between teachers can be dome in many ways, such as:
• Reflection meetings – discussions about the documentations (with reflection questions or templates).
• ”Micro reflections” – discussing a few minutes now and then.
• Reading each others notes – commenting with own thoughts – for example via a digital ”Project description”.
• Bigger evaluations 1-2 times a year
Each reflection is a small evaluation.
An evaluation that only follow goals and results concerning what the children should learn does not contribute with knowledge about the children’s learning processes – that is, how the children learn. To create knowledge about how children learn – the collective reflection becomes very important.
Pedagogical Documentation and ethics
The children shall be involved and active in the making of the documentations and take part in the reflections. They can take photographs and film or show what they want the teachers to photograph or film and how. They can write and/or draw, they can take part in choosing what photos they think are interesting. Teachers need to think about if all children like/feel comfortable to be visible on photographs? It is possible to document without taking photographs of children.
Concerning the youngest:
Teachers need to listen, observe and be attentive to body language – small children use their whole body to communicate. If the child shows that he/she doesn’t want to be part in a documentation the adults or teachers need to speak for the child and say no.