精薄児の交通信号弁別行動学習への オペラント原理の適用
異常児教育研究室 吉 岡 伸
茨城県東茨城郡御前山村立伊勢畑小学校教諭 大 山 直 子
(昭和48年10月27日受理)
さらに,過去の数多くの失敗経験の積み重ねの結果とし
1. 目 的 ての要求水準の低さも認められるが,適切なシェーピン
最近,精薄児教育にオペラント条件づけの諸原理を適 グと即時強化により,成就感を数多く与えることを通じ 用し,指導効果を高めようとする試みが盛に行われるよ てこれを高めることも期待できよう。
うになっている。 ところで,小・中学校等では交通安全に関する指導が 周知のように,生体の行動は,レスポンデント行動 現在行われており,そのために必要なモデル コースが
(光刺激に対する瞳孔反射のように,無条件刺激によっ 校内に設けられている。指導時には・教師は,言語教示 て一義的にひき起されるもの)と,オペラント行動に二 と言語による強化因子のみを使用しているが,通常はこ 分でき,われわれの日常行動の大部分は後者であるとい れで交通安全に関する子どもの学習は成立する。しかし われている。そして,オペラント条件づけとは,無条件 ながら,精薄児に同様の指導を行う場合には・同条件下 刺激のような特定の刺激とは特に関係をもたずに,生体 では学習が成立しにくくなる。筆者は,養護学校におい
が自発的に行うことのできる行動,すなわちオペラント て,精薄児に信号に従って横断歩道を渡ることを指導す
行動が出現したとき,強化因子を随伴させることにより・ るとき,教師の発する言語教示・たとえば「ほら,信号その行動の出現の確率が増大するという事実をさしてい をよく見て/」とか,「ほら,信号が青になったから渡 る。こあオペラント条件づけの成立過程は,種々の要因 りなさい。」などに対し;いかに子どもたちが従えない によって影響されるが,それらの諸要因中の人間の学習 かを経験した。教示は小学校においては十分に有効と思 を効果的に進めるものをオペラント原理とし,精薄児の われるものであったが,ここではむしろ無力であった。
指導に利用してより高い指導効果を得ようとするのであ 信号に従って横断歩道を渡るという行動は・横断歩道
る(1,2,3,4,7,8)。 の一端に立って信号機を注視する・赤・黄・青の3色を オペラント原理の実際の使用には,強化因子とシェー 掴する,青がついているときだ}ナ渡る,赤・黄のとき ピング(shaping)の問題を,具体的に解決しておかな は動かないなどの種々の行動から成り立っている複雑な
ければならない。すなわち,前者の問題はどのように強 内容をも1ゲている。したがって・その学習は複雑な過程 化因子を与えるかということであり,後者は,指導目標 をたどるので,通常の,普通児に対する指導の仕方では(精薄児が学習すぺき行動)に到達させるまでの間,ど 精薄児には有効とはならないのであろう。それに対し・
れほど効率的に円滑に学習を進行させる段階・方策を設 上記の原理を導入して指導するならば,その指導は有効 定できるかということである(5)。 となり・精薄児は学習を成立させるのではあるまいか。
精薄児の学習を困難にする原因となる心理的特性とし この点について検討することが本研究の目的である。
て,記憶痕跡の不安定(6)や注意力の貧弱(9)があげ
@ 2.方 法られるが,これらの効果は,学習すべきオペラント行動
が出現した時,すぐに強化因子を与える,すなわち即時 (1)被験者
強化によ。て轍されよう.また,醗的轍づけの弱 被瀦は茨城県内籍神薄弱児撮収容児18名で
さも指摘されるが,より直接的な目標が明示されるよう これを表1に示すように,実験群と統制群各9名に
な適切なシェ_ピングは,この効果を弱めるであろう。 分けた。分類に際しては,①性,②MA,③原因
(児童台帳による),④信号機を注視できるか否か 開始直前の1回だけ,信号を見てモデル歩道を
(全員が可能),⑤赤・黄・青の3つの色名を正確に 渡るように教示された。刺激は各試行で1色の 言えるか否か(不能者は各群3名ずついたが・ペー みを呈示したが,各色の呈示回数は同数とし,
スライン期までに特に訓練し全員を可能にした), 呈示順序はランダムとした。この期間は1日間
⑥ペースライン期における試行結果,の6点に関し で,18試行を行った。
て,両群ができるだけ等質になるように配慮した。 ② 訓練期:この期間は第2日目から第5日目ま 表1の各項目について両舞間の有意差検定を行った での4日間であった。1日に18試行を実施した。
ところ,人数の性別比はX2テストにより ただし・3色を呈示され,それらを弁別してモ
X2・=0・8889・4ア=1・0・5>P>0.3 デル歩道を横断するという条件下で,その日の他は中央値テストにより,MAは 訓練において連続9正反応をした場合には,そ
の被験者は4日間の訓練を完了しなくとも,翌
表1・群別被験者 日にテストされた。
1実験副統制群
実験群は,シェービングと子どもの好む物な人釧劉1}計g隠}計9
らびに言語の2種の強化因子を用いて,訓練さMA囎12:1°竃。6:gl3:43窪、6:6 −一一 黷ス。
シェー・ピングの内容は,次の7つの基礎的段
CA囎6:11ぴ15:2111:1家15:7 階から成り立つ。
・Ql翻21弱6η21舘55 第ユ段階青が呈示されたとき歩く。
第2段階赤が呈示されたとき歩かない。
x2c=α0027,4ノ=1,α95>P>α9 第3段階黄が呈示されたとき歩かない。
CAとIQはともに 第4段階青と赤を弁別し,青が呈示された
X・,=0.225,4!=1,0.7>P>0.5 とき歩き・赤が呈示されたとき歩と,全項目において有意差は認められなかった。 かない。
(2) 用 具 第5段階 青と黄を弁別し・青が呈示された 手製の交通信号機,大脇式選択反応検査器(竹井 とき歩き・黄が呈示されたとき歩 機器製),秒時計,指輪(プラスチック製玩具,ト かない。
一クンとして使用),シール(指輪5個とシール1 第6殻階赤と黄を弁別し,赤が呈示さわた 個と交換する)。 とき,黄が呈示されたとき,とも
(3) 実験場面 に歩かない。
上記施設内講堂を使用し,床に幅3m,長さ7m 第7段階青・赤・黄を弁別し・青が呈示さ のモデル横断歩道を設け,ここには白テープでゼブ れたとき歩き,赤か黄が呈示され ラ模様をつけた。その一端に手製信号機を,高さ約 たときはどちらであっても歩かな 2mの台上に設置した。大脇式選択反応検査器は, い゜
横断歩道とは無関係の場所に,刺激呈示窓が被験者 このほかに,次の3段階の場所のシェ陶ピング
の顔の高さになるように台上に置き,足踏みベダル を設定した。と連結した。 第1段階 大脇式選択反応検査器を用いて,
(4)刺 激 ベダルを踏むか否か。
刺激の色と呈示時間は,赤・青とも20秒間,黄は 第2椴階 モデル歩道の出発点の1歩手前に 10秒間とされた。正反応は,青呈示時には20秒間以 立たせ・1歩踏み出すか否か。
内に移動することと,赤・黄呈示時には当該時間内 第3段階 モデル歩道の出発点から出発し に移動を開始しないことであった。 て,歩道を渡ることができるか否
(5)手 続 か。
実験は連続6日間行われ,べ一スライン,訓練, 以上の2種類のシェービングを組合わせ・段階 ステトの3期から構成された。 を追って実験群は訓練された。
① べ一スライン期:被験者は個別に,第1試行 呈示する刺激は,各被験者に応じたシェーピ
ングの段階によって決定された。教示の内容と 表3.群別学習完成までの所要試行数と学習完
与える時期も,主として同様にして決定された。 成者数正反応に対し,言語による賞賛と指輪1個を
統 制 群
指輪が5個集まると,直ちにお気に入 実験群
与えた。
閧フシール1個と交換した。誤反応に対しては 第1期隣瑚
誤りであることを知らせ,激励することばのみ
を与えた。 学翫鰭数 71・15 1
統制群は,刺激呈示の仕方はべ一スライン期 範 囲
18〜○O I Oo
18〜QOと同様であったが,教示は,6試行間隔で,各
Mdn 48○○
72色に対する行動の仕方をまとめて与えた。正・
注)表中。。は学習が完成しなかった場合をさす。誤各反応に対しては,実験群に対し与えられた
のと同様の,言語による強化因子のみが与えら す。訓練第4日以前に学習を完成した被験者について れた(統制群第1期)。 は,残余の訓練日において100%正反応とみなした。表
③ テスト期:4日間の訓練を終了した翌日,9試 より・べ一スライン期においては両群間に差がないのに
行のテスト試行を実施した。刺激は・各色3回 対し・テスト期においては・統制群(第1期)よりも実
ずつ,ランダムに呈示した。教示は「昨日信号 験群の方が明らかに成績が良い(Uテストの結果,π・=について勉強しましたね。では,やってみまし 2=9,ひ・=6,P<0・0001)。しかしながら,訓練手続が よう。」 という内容で,第1試行開始直前に, 実験群のそむに変更された統制群(第皿期)のそれは,
モデル歩道の出発点に立たせた被験者に対し, 実験群との間に統計的有意差はみられなかった(η、=π2 個別に与えた。ここにおける正反応100%をも =9,σ。=31・5,P>0.05)。また,統制群の第1期と第
って学習完成とみなした。 H期相互間の変化は,テスト期の成績において,第皿期 以上の実験が終了した後,中4日間おいて,統制 の方が統計的有意差をもって良くなっている(T検定の
群は実験群と全く同一の手続によって訓練され・テ 結果, =7,T=0, P=0.08)。ストされた(統制群第H期)。 表3は,群別の学習完成までの所要試行数と学習完成 さらに,テスト期の試行の結果,学習が完成した 者数を示す。4日間の訓練終了後も学習完成に到達しな
被験者は,それぞれ2週間後に・テスト期と同一手 かった被験者の所要試行数は,・・として扱っている。所続によって把持テストを課された。 要試行数において,実験群は統制群(第1期)よりも統
計的有意差をもって少なく@1=η、=9,ひ。=9,P<3・結 果 qoo5),実験群と統制群(第皿期)聞では,それとは逆
表2に,両群の各期別正反応数ならびに正反応率を示 に・差はみられなくなっている@1=〃・=9,σ。=27,P>
0・05)。統制群における第1期と第皿期の間では,統計表2.群別,期別正反応数
的有意差をもって第皿期の方が少なくなっている(η=
1
べ一ス宴Cン
訓 練 期
テスト 5,T=0, P=0.03)。
1期
第1日i第・日1第3日i第・日t期各群の学習過程を表2の訓練期の成績からみると,実
実験群
N% 93 102 T7.4、63.O
@ l
l h劉糊 i133*
@82.1 75
X2.6
験群と統制群(第皿期)においては日を追って正反応数
ェ増加しているのに対し,統制群(第1期)はそのよう ネことはなく,べ一スライン期の水準をほとんどそのま まテスト期に持ち越し ている。
統制群
N91 95 95
9595
45把持テストの結果は,学習完成者12名中9名が100%
(第1馴% 56.2 58.6 58.6 58.6 58.6 55.6 正反応水準を保持しており,この変化は統計的に有意で ヘなかった@=3T=0,P>0.1)。
統制群 N
90
102*、、4。1、、3。
684.考 察
}(第瑚)}% 55.6 63.0 70.4 69.8 8エ゜ P
実験群と統制群(第1期)の間の学習成績の差異は,
*欄には,学習完成者の正反応数を18として加算した
統制群(第1期)に対しては用いられなかったシェーピ
ングと報酬の効果を示している。すなわち,言語による なお,全被験者について,学習完成までの所要試行数
強化因子のみを随伴させることでは,4日間訓練しても とMAならびにIQとの連関を検定した結果,両者とも
学習がみられなかったのに対し・明白な差異をそれは示 X2=2・025・4ノ=1,α2>P>0.1となり,いずれも関係している。 があるとはいえないことが確められた。
また・統制群(第1期)の訓練手続を実験群のそれに 最後に・学習効果が2週間後においても把持されてい
変化させた統制群(第π期)の学習成績も・統制群(第 ることが確認されたが,この問題についてはこれ以上の1期)や実験群のそれと比較してみると,第1期の訓練 ことはいえない。今後さらに検討さるぺき問題であろ
においては学習しなかった被験者が,第H期の訓練にお う。いては学習を成立させ,その成績も実験群との問に差が
ないということから,シェービングと報酬が,交通信号 5・要 約
に従って横断歩道を渡るという行動の学習にとって有効 (D 交通信号に従って横断歩道を渡るという行動を精
であったことがわかる。 薄児に学習させるために,通常よく用いられる言語 訓練期において,被験者の中には実験場面になじまな による強化因子のみを用いる手続と,それにオベラ
い者も僅かにいたが,大多数の精薄児は,教示に対し理 ント原理に基づくシェービングと報酬とを加えた手解を示す反応を呈示し・中にはその時に復唱してみせる 続が用いられた。そして,両手続の精薄児の学習に 者も出たほど,熱心に指導を受けていた。それにもかか 及ぼす効果が検討された。
わらず・統制群(第1期)は学習を生じなかった。実験 {2)結果は,シェービングと報酬を用いた手続の方が
群の被験者は,もしそのような状態下にあると認められ 言語による強化因子のみによる手続よりも,明らか るときには,より容易なシェービングの段階で訓練され に,精薄児の学習にとって有効であることを示し ることができたので,学習が容易に進行していったよう た。
に考えられる。殊に,この点について,使用された3色
に対する反応時間によ・徹討すると・赤・黄に対する (輪文の一部は駄特殊糖学会第11回絵において
反応傾向(移動しない)から,青に対する反応傾向(移 発表されている。)動する)がいかに早く分離するかということが,シェー ピングによって実験群と統制群(第皿期)において,よ り早く・より容易に生じたように思われる。その理由は,
実験群と統制群(第1期)間の各色に対する反応時間を 参 考 文 献
比較してみると,学習完成までの間とテスト期における赤・黄に対しては両群間に差がみられないのに対し清 1凍正:麟遅瀦(児)の働変容へのオペ…
原理適用の歴史的展望,特殊教育学研究,第9巻,1972.に対してはいずれの時期においても,統計的有意差を 2.片岡 義信: オペラント条件づけ,住田勝美編,精神もって実験群の方が反応時間が短かくなっている(テス 薄弱教育の研究,第4章第1節2,金子書房,1970.
嘲錫合, ・= ・=9・σ・−17・P<・・°5)という結果 ・.胴義信、精神鰯児の行動形成玉川大学出版部,
によっている。ただし,本実験の手続からみて,これが 1973.
シェービングの効果だけによるのではなく,報酬の効果 4.山口 薫,工藤孝次,佐藤昇,野田誠町田直幸:
と相まって生じたものであるといわねばならない。 オペラント原理の精薄児への適用,東京学芸大学特殊教 トークンとして用いた指輪とシールの報酬価について 育研究施設研究紀要3,1970.
は・大多数の被験者に対しては所期の効果がみられたよ 5・Bijiu・S・W・:オペラント原理の精神薄弱児・自閉症児 うに思われる。それは,訓練中,多くの被験者が誤反応時 への適用について・1972・8・2q東京における講演・
にトークンとしての指輪をもらえないことに対し,明ら 6・Eili$N・R・:The stimulu・trace a・d b・h・vi・・al
さまに不満足感を示したことが鱗されたカ・らである。 inadequec弘In N・R・Ellis(Eの・Handb・・k・f
これに対し,漁に入りのシールをもらうとき嬉び様 mental def ciency:Psych° °9量cal the°琢and「ese@ arch. New York, McGraw−Hill,1963.はとても大きいようであった。ただし,ここには相当に 7.Skinner, B. F.:Science and human behavior. New
大幅な個人差があるようである。したがって報酬を使用 York, M、cmilla.,1953.
するとき,なにを用いるかについては,被験者の状態や 8.Skinne鵡B. E:The technology of teachin騒New 好みを検討したうえで決定する必要があろう。 York, APPIeton−Century℃「ofts,1968.
9.Zeamah, D.£Hause, B. J.:The role of attention Psychological theory and research. New York in retardate discrimination learning. In N. R. McGraw一且i11,1963.
Ellis(Ed.), Handbook of mental deficiency:
o
she Effect of Operant Conditioning in Crossing a Walk Way Observing Trafic Light in the Retarded Children.
Shin Yoshioka*and Naoko Ohyama**
Abstm¢t
This experiment was designed to examine the effect of operant method on acquisition
and retention of the behavior that eighteen melltally reterded children crossed a walk way
observing trafic light. .
The stlbjects were trained for four successive days, eighteen trials per day.
Atoken−shaping group was superior to a verba1−operant group in numbers of correct
responses. And the subjects who acquired the trafic behavior retained it for two weeks.
@ 、
・
磨@Faculty of Educatio叫Ibaraki Univ俘rsity.
**Teacher of Isehata Elementary Schoo1, GozeDyama−mura, Higashiibaraki・gun, Ibaraki−k6n.
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