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(1)

「道順説明」における参照点機能と表現類型 : 地 図の図形認知に基づいた異なり

著者 村上 恵

雑誌名 三重大学日本語学文学

巻 9

ページ 116‑105

発行年 1998‑06‑28

その他のタイトル Reference‑point Functions and Expression Types in  Direction‑giving  : The Differences

Based on the Cognition of a Map's Diagram

URL http://hdl.handle.net/10076/6524

(2)

「道順説明」における参照点機能と表現類型

一地図の図形認知に基づいた異なり‑

Reference・pOintFunctionsandExpression取pesiǹDirection・giving':

TheDi蝕rencesBasedontheCognitionofaMap'sDiagram

1.はじめに

村上(1996:左15)で論じたように、

ある地点から目標となる地点に至るま での道順を言語表現によって説明する という行為は、日常会話の中でごく一 般的に行われている。道順を知ってい る人(説明者)が、道順を知らない人

(被説明者)に対して、自分の認知す る/している道順のイメージを言語に 表現化して伝える。他方、被説明者は、

これを受けて自己の中に新たな道順の イメージを形成していく。それは、ま さに説明者と被説明者間における、言 語表現を介しての認知イメージ、もし

くは認知地図1を形成するプロセスその ものと言える。

他方、Langacker(1993)は、̀refbrence point'(「参照点」)という考えを提示し ている。この参照点とは、他の実在の 概念に心的コンタクトを付けるために、

ある実在の概念を呼び起こす能力をい 1ここでの「認知地図」とは、我々の身の

回りの生活環境や行動環境が心的空間に投 影された結果、これが心的象徴空間として 体制化されたもの(cf.村田1997:163) と考える。

村上

MURAKAMI,Megumi

う。この考えは元々、所有格表現の特 性を説明するために提示された。しか

し、このような参照点の使用は、我々 がほとんどそれとは気づかない瞬時瞬 時の経験の中に、基本的かつ普遍的に 存在するという。その意識的な使用の 一例として、北斗七塁の端を基点(参 照点)とし、その線を心的にたどって 北極星を位置づける場合が挙げられて いる(Langacker1993:5)。

道順の説明を行う場合には、このよ うな参照点の利用は欠かせない。目標 地点のみを直接示す場合は別として、

ある地点を起点に定めた場合、その地 点がすなわち次の目標地点の参照点と

して、機能を担うことになる。

なお、このような参照点は、説明者・

被説明者各々の認知地図の中に正確に 位置づけることができた場合に、次の 目標地点への正確な移動を可能にする。

言い換えれば、参照点を認知地図の中 に正確に位置づけることなくして、次 の地点への正確な移動は行えない。そ れでは、このような参照点は、説明者 と被説明者の聞でいかに指定され、お 互いの共通認識として確立されている のであろうか。

(3)

(2)

以下、本稿では、実験材料として地 図を用いた課題達成実験(以下「道願 説明」)での談話資料を元に、次の2点 の分析と考察を試みる。

①「道順説明」における参照点機能の 型。

②参照点機能の型と「道順説明」の表 現類型の関係。

2.談話資料

本稿で扱う談話資料は、Blakar

(1973)に準じた課題達成実験によっ て収集したものである。この実験では、

低い仕切を挟んで対座した2人組の被 験者各々に、実験材料として地図が渡

される。被験者①の地図①には「赤の 道順」と「青の道順」が、被験者②の 地図②には「線の道順」が印されてい

る2。課題として、これら道順を相手に 説明し、相手はこれを自分の地図上で たどることが課せられる。被験者の組 み合わせは、日本語母語話者同士10組、

非日本語母語話者(上級日本語学習者) 対日本語母語話者10組である。その談 話を録音した資料は、Du Bois ef8上

(1992,1993)の手法に基づき、文字 化作業を行った(この詳細は村上

1996,1997a,1997b参照)。

3.参照点機能の型 3.1参照点の機能

分析に入る前に、Langacker(1993) の示した参照点の機能を概観しておき たい。彼は、参照点能力の本質的様相 を、次の図1のように示している。

2本鶴では、「赤の道順」と「緑の道願」の 分析に焦点を絞る。

C;00【収pm血r 良三血nα円山t T=叫匹【

D=d血08

‑一一‑…m血匹血

.図1(Lang8ek叫1993:6)より引用) 例えば、「サリーの犬勘助乍勿れ と言えば、抽象的な概念領域β

(血皿血血】)の中で、「犬」という目 標r(ぬ曙扉)に心的経路(皿餌由ノ 押出)をつけるために、「サリー」■とい

う参照点点(血αp血わが、あ る概念主体C(の即印血戚抜戎によっ て使用されていることになる。この場 合、図中の太線は、それで囲まれた項 目が認知的な突出部として、本質的な いしは文脈的に指定(pro丘b)された ことを示す。

また、Langacker(1993:6)は、参 照点の突出部が、図2のようなダイナ

ミックな側面を持っていることも示し ている。

すなわち、第一段階では、概念主休 Cと参照点点の間に対応が生じる。あ る点が概念主体Cの焦点として突出す ると、領域内では、いくつかの要素が 活性化して特定の点となる可能性が生 み出される。

しかし、この可能性の中から実際に、

ある月が参照点として使用されると、

今度は概念主体Cの焦点としては目標 rが突出することになる。この場合、

たとえ点が参照点機能を果たしていて も、」別まrのために後景(back許Ound) へ後退する。そして、このア自体は、

次の目標にアクセスするための、ある 参照点として呼び起こされる可能性を 持つことになる。

ー115‑

(4)

・ゐ

国2 他方、P5atbas&Eozloぼ(1976:

121)は、̀directionalreferencepoints' (「方向参照地点」)という概念を提示 している。これは、日常会話における

『道順説明$』において、出発点から到 着点に至るまでの間に存在するもので、

人が方向の変化を起こそうとする場合 に目印として用いる環境的な存在物を いう。

Langacker(1993)の̀r曲rencepoint' が日々の経験の中に存在する基本的な 8 イメージ・スキーマ的能力の一つとし て提示されているのに対し、Psatha5&

Eozloぼ(1976)の̀血ectionalre鈷renee points,は日常会議中の『道順説明』に

おいて利用される具体的な存在物、と いう違いがある。しかしながら、どち らも、ある存在物が他の目標への基点 として利用される、という機能を果た すことに関しては共通していると考え られる。

3.2 「道順説明」での参照点機能 以上を踏まえ、「道順説明」の談話資 料において参照点の機能を見てみよう

(「説」は説明者の発話、「被」は被説明 者の発話を示す。その他の記号は、本 8この『道順説明』という用語は、Psatbas

&Eozloぼ(1976)およびPsa血as(1986a) での̀Dk∝tions,、後のPsathas(1986b) およびPsathas(1991)での̀Direction・

如血ピという用語の共通概念として用いる○

(Langaek叫1993:6)より引用)

図3 地図①(部分)「赤の道順」と地点

(村上1996より再掲)

稿未の文字化記号を参照。「赤の道順」

上の地点については図3参照)。

(1)【JMJM5R】

05説:…じやあ<A=か、らノ

06 ‥まず

07 ..まっすそに,̲

08 ‥下に,̲

09 …(.7)、降りてノ

10 <突き当たってください.\

11被

12説 ‥はい.\

‥.(.乃で,\

13 …、突き当たり<の,/

14 …道<をノ

15 ..え=と,̲

16 ‥<Bの方角、にノ 17被:‥はい.\

(5)

(4)

18説:.‥<ず=つとまっすそ&

&行ってくだ、さい.\

19 …(2.2)ほいで,̲

20

..あの,\

21 ‥<角に来ますね?/

22被:‥はい.\

この(1)【05】では、実験課題の指示に 従って、地点Aが最初の出発点として

指定されている。そして、これが参照 点点としての機能を担い、【10】「突き

当たっ」た地点(う)が、目標rとして 焦点化される。この時こ参照点の役割

を担っていた出発点Aは、地点(う)の ために後景へ後退する。その後、この 地点(う)が、次の目標である【21】「角」、

すなわち地点(き)にアクセスするため の参照点として機能を果たしている。

次の(2)も同様の例である。

(2)【JFJF3R】

01説:はい.\

02 ..まず=,̲

03 ..∧Aから出発するん&

&ですけれど=,/

04 被:..うん.\

05 説:‥、Aから=,\

06 <T字=路にぶつかるまで=,/

07 、まっすそ行ってください.\

08 …(2.1)いいですか?/

09 被:...(1.2)T字路と言うのは=ノ ((中略;T字路の位置確認))

42 説:‥で=,\

43 ‥そのゆき止まり仰字削)&

&まで行っ、たら,/

44 被:‥はい.\

45 説:‥右に曲がってください.\

46 被:‥はい.\

47 説:…で,\

48 ..あの、また=,\

49 説:…<前に進めなくなるまで&

&、ず=つと前に行って=,\

50 被:‥はい.\

51説:..、で左に曲がってください.\

52 被:‥はい.\

(糾03】でも、地点Aが最初に出発点 として指定されている。同時にこれが 参照点月としての機能を担い、P6】「T 字路(=行き止まり)」、すなわち地点(う)

が目標rとして焦点化される。そして、

出発点Aは地点(う)のために後景へ後 退し、今度は、この地点(う)が、次の

目標である【49】「<前に進めなくなる」・

ところ、すなわち地点(き)への参照点 として機能することになっている。

しかしながら、次の(3)や(4)のように、

(1)(2)とは異なったやり取りの「道願説 明」もある。

(3)ⅣMJM2R】

01説:じやあA<から&

&出、発しますよノ

02 被:…どうぞどうぞ.\

03 説:…A<から出発してね,\

04 ...(.9)最<初はノ

05 ‥あの=,̲

06 …(1.5)なんというか,̲

07 ..左<=,̲

08 ...左<側が,̲

09 ‥あの=お=,̲

10 .‥右<側より=,\

11 ‥ちょ、っと=,̲

12 …低<く,\

1・3

義㌶誌岩認㌍&

14 被:…うん.\

15 ‥うん.\

16 ‥はい.\

17 説:‥そ<してそ、して=ノ

18 ..そこ、=の∧,/

19 説:…(1.0)一、番下の角<=から,\

‑113‑

(6)

20 説:‥左入へ,̲

21 …行、ってください.\

(4)ⅣFJF4R】

01被:はい.̲

02 説:(0)<Aから入って=,\

03 被:‥はい.\

04 説:…で=,\

05 ..あの=,̲

06 …∧建物ありますね=?/

07 説:…(.8)て…

08 ..<Aから入って=,\

09 被:…∧建物.\

10 説:@あこれ<建物じや&

&ないですか?/

11実験者:…(.8)お任せします.\

12 説:‥あ,̲

13 ..<Aから入って=,/

14 被:(0)うん.\

15 説:…え=,̲

16 …(1.1)、ちょっと待って,\

17 …え=,̲

18 ‥お%お%<大きい建物とか,\

19 ∧ちいちやい建物&

&、ありますね?/

O 1 2

qU

4 5 6 7 8 9 0 1

qムー旦V

4 2 (Z一2

nZ一2

2 2 qムー2

2

∩∂

n∂

3

ウリ ウ」U

被説被説説被説被

..【、はあ、はあ】、はあ,\

【あの】,̲

【【下¢に行った側胡】.\

‥<四角のところ,\

..、はい【、はい、はい】.\

【を建物に】しましよう.\

‥、はい建物ね?/

【、はいはい】.\

【で<左が】わは=,̲

二.あの=,\

‥<大きい建物ですね?/

...人右側は=ノ

‥ちいちやい,\

...、建物ですね?/

((中略;左右の建物の確認)) 47 説:…で,\

48 ..あの右がちっちやい・・

49 50 51 52 53 54

被説被説

..【右<う=ん】.\

【ありますね】?/

(0)、ちっちやい【【建】】軌\

【【で】】ノ

(0)、ちっちやいのところを@

:‥うん.\

55 説:..、ちっちやい建物=<を,̲

56 …、過ぎたら=,/

57 被:..うん.\

58 説:‥あの,\

59 …ひ…

60 ..左・・

61. …<右に曲がって,̲

(3)(4)とも、出発点Aから入った後、

すそに次の目標が指定されてはいない。

代わりに、この出発点Aの下方に存在 する黒い線に囲まれた白い図形(四角 形)の存在が、説明者・被説明者間の やり取りで確認されている。具体的に は、(3)では、説明者が、この図形部分

を「しか∧くけい」と認知し、言語表現 化している。(4)では、同部分が「建物」

と認知・表現化されている。

その後、その図形の存在を踏まえて、

・・【【この、四角=】】のこと?/▲̲. 同部分の一部が目標rとして焦点化さ .̲̲

れている。すなわち、(3)では、「しか<

くけい」の「一、番下の角」が、目標r として焦点化されている。(4)では、「ち っちやい建物=を過ぎたら」という表現 から、この「建物」を構成している一 側面もしくは一辺(地点(い)〜地点(う)

を結ぶ辺)の焦点化が窺える4。

4「建物」(全体)の提示が、その一側面(部 分)を意味する現象は、メトニミー(山梨 1995:29)、あるいはパートニミー(山梨 1992:93)に相当すると考えられる。

(7)

(6)

3.3 図形の認知フレーム

ところで、既に村上(1997b)で見 たように、(3)や(4)のような例に共通し ていることがある。それは、説明者が 地図上にある黒い線に囲まれた白い部 分を「図(丘卯re)」と捉え、黒い線の部 分を「地(許Ounの」と捉えていること

である。これに対して、先の(1)や(2)の 説明者は、地図上の黒い線を「図」と して捉え、またそれ以外の白い部分を

「地」として捉えている。すなわち、

当研究で実験材料とした地図は、知覚 心理学で「図・地反転」と呼ばれる現象 の対象になっていると考えられた。

そこで、村上(1997b)では地図の 図形認知について、例(1)(2)のような認 知形態を「図的フレーム」に基づくも の、例(3)(4)のような認知形態を「地的 フレーム」に基づくものとして区別し た。そして、分析の結果、当研究で実 験材料として用いた地図は、一般的に は図的フレームに基づいて認知される 傾向があり、特に日本語母語話者はそ の傾向が強いと考えられた6。

3.3 パス基盤型とディストリクト 基盤型

他方、このような地図(図形)の認 知形態の異なりは、決して当研究に特 有のものではないと考えられる。

例えば、現実の大規模空間に関する

6地的フレームに毒づいていた説明者は、・

赤の道順と緑の道順を合計した「道順説 明」40例のうち4例であり、1割に過ぎな い。そのうち、3イ鋸享接触場面での非日本 語母語話者であり、母語場面での日本語母 語話者は1例のみであった。参考までに、

地的フレームに基づいて説明を行った非日 本語母語話者は、韓国人が2人と、台湾人 1人である。

先駆的研究者のリンチ(bncb1960) は、都市のイメージを構成するエレメ ントとして、パス(paths)、エッジ

(edges)、ディストリクト(血血icts)、

ノード(nodes)、ランドマーク (1an血Iarks)という5つの概念を初 めて提起した。これらは各々、次のよ うに定義されている(丹下・富田訳 1968:56・59)。

∠ユ星:観察者が日ごろあるいは時々通 る、もしくは通る可能性のある道路。

王ヱ之:観察者がバスとしては用いな い、あるいはバスとしてはみなさない、

線状のエレメント。海岸線、開発地の 縁、壁など2つの局面の間にある境界。

ディストリクト:中から大の大きさを もつ都市の部分であり、2次元の広が りをもつもの。通常は内部から認識さ れるのだが、もし外から見えるもので あれば、外からも参照されている。

とこ上:都市内部にある主要な地点。

観察者がその中に入ることができる点 であり、その観察者がそこへ向かった

り、そこから出発したりする強い焦点。

ランドマーク:やはり、点を示すもの であるが、この場合、観察者はその中 には入らず、外部から見る。普通は、

建物、看板、商店、山など、どちらか といえば単純に定義される物理的な物 を指す。

そして、リンチは、「バスとディスト リクトのどちらを支配的なエレメント とするかについては個人差もあり、ま た都市によっても差が生じているよう である」と指摘している(丹下・富田 訳1968:57)。

これを「道順説明」に引きつけて考 えれば、地図上の黒い線の部分はバス

(ないしはエッジ)に、また線で囲ま れた白い部分はディストリクトに相当 ー111‑

(8)

しよう。すなわち、当地図を図的フレ ームに基づいて認知するか、あるいは 地的フレームに基づいて認知するかの 異なりは、バスとディストリクトのど

ちらを支配的に認知するかに重なる問 題と考えられる。

ここで、参照点機能の異なりの問題 に戻ると、例(1)(2)のような、図的フレ ームに基づく「道順説明」の言語表現 では、バスの上に存在するノードが、

参照点や目標として焦点化されている と考えられる。これに対して、例(3)(4) のような地的フレームに基づく表現で は、ディストリクト、およびそれを形 成するエッジないしはノードが、参照 点や目標として焦点化されていると考 えられる。これらを踏まえて、以下、

本稿では、前者を「バス基盤型」の参 照点機能、後者を「ディストリクト基 盤型」の参照点機能、と呼ぶことにす る。

このバス基盤型の参照点機能と、デ ィストリクト基盤型の参照点機能の違 いを事とめると、次のようになる(概 念主体Cおよびそこからの心的経路は 省略)。

パス基盤型の参照点機能

監詰‑‑…‑…‑‑‑‑一斗【諾号】

至イストリクト基盤型の参照点機能

【地点α】【地点βを含む図形】

参照点旦̲̲̲ケ目標れ

【地点β】

参照点晶‑…今日標ち パス基盤型の場合には、概念主体に よって、ある【地点α】が焦点化される

と、これが参照点としての機能を担い、

次の目標rである【地点β】を指定する。

これに対して、ディストリクト基盤 型の場合には、【地点α】が焦点化され ると、これが直接【地点β】を指定する のではなく、まずは【地点βを含む図形】

を焦点化する機能を果たす。そして、

この焦点化された【地点βを含む図形】

が第二の参照点としての機能を担うと、

そのディストリクトの一部を形成する

【地点β】が第二の目標rとして指定さ れることになる。特に、この場合、【地 点α】と【地点β】は、パス上のノードと

いよりも、ディストリクトを形成する エッジないしはノードとして認知され ることになる。

4.参照点機能と「道順説明」の 表現類型

ここまで、「道順説明」における参照 点機能には、パスを基盤とする場合と、

ディストリクトを基盤とする場合の2 種の型が存在することを明らかにした。

次に、この型ごとに、「道順説明」の 表現に関する特徴を見てみたい。

4.1パス基盤型の「道順説明」

村上(1996)では、「道順説明」の 表現には、談話を構成する基本的な要 素と表現類型が存在することを明らか にした。バス基盤型の「道順説明」は、

基本的に、この表現類型に基づいてい ると考えられる。具体的に見てみよう。

まず、「道順説明」の表現には、基幹 要素である<起点>、く着点>、く移動>と、

副次的要素である<経路>、<方向>が認 定でき、かつこれらの5つの要素は、

相互に有機的な主副関係を成している と考えられた。そして、これら5つの 構成要素の連鎖型から、「道順説明」の

(9)

(8)

表現には次のような2つの表現類型が 認定された。

「道順説明 の表現類型馬

類型Ⅰく起点>#【<経路>・<方向>】#

く移動>#<着点>

類型ⅠⅠ<起点>#く経路>#

【<方向>・く着点弾く移動>

例えば、先の例(1)では、次のように、

類型Ⅰの表現類型が2つ続けて用いら れている。

く起点/呵匂からJ〉‡

く方向 βろ昭「まっすぐに下にJ〉♯

く移動 〝野「揮クてJ〉‡

く着点 〃呼「突き当たってください」〉

〟Jリガ「穿き当ゑクの澄む〉♯

〟鋸邸/妻の方角に跨っと まっすぞJ〉♯

〃邸「行ってくだざいJ〉♯

β〟頓に来ます妻J〉

また例(2)の談話冒頭では、次のよう な類型ⅠⅠの表現類型が用いられている。

[起点

着点 β邸履からJ〉♯〝邸け字辟にぶつかるまでJ〉♯

方向 β符「まっすぐ」〉♯

移動 〝符/育ってくださいJ〉

上記のような2つの表現類型は、基 本的に、パス上に存在するく起点>や<

着点>という地点、すなわちノードを参 照点や目標として指定するという意味 において、バス基盤型の図形認知が前 提とされていると考えられる。

4.2 ディストリクト基盤型の「道順説明」

これに対して、例(3)や(4)のような ディストリクト基盤型の「道順説明」

では、図形を参照点として、目標rが 焦点化され、移動指示がなされる。す

なわち、図形の存在確認は、移動指示 を行うために、表現類型を構成する要 素を指定する前提になっていると考え られる。具体的に見てみよう。

(3)では、出発点Aが<起点>として指 定された後、焦点化されているのは、「し か<くけい」というディストリクトであ る。この「しか<くけい」の存在を踏ま えて、その「一、番下の角」、すなわち地点 (う)が、次の目標rとして焦点化されて いる。これは、パス上の地点といよりも、

「しか<くけい」というディストリクト の一部分として指定されていると考えら れる。またこれは、く起点>として提示さ れているものの、出発点Aから移動した 結果至る暗黙の<着点>でもある。すなわ ち、図形確認を踏まえて、次のような構 成要素の連鍬こよる移動指示が行われて いる。

[芸芸

〃鋸ガ「そこ上のへ/一番下 の角乍からJ〉‡

β〃「左<へ」〉‡

β〃「行、ってください」〉

(4)でも、出発点Aが<起点>として指 定された後、図形確認において焦点化さ

れているのは「建物」というディストリ クトである。そして、特に【55】「、ちっち やい建物」という表現に至って、ディス

トリクトを形成するエッジ(地点(い)〜

地点(う)を結ぶ辺)が、<経路>として焦 点化されていることが窺える。ここでは、

次のような構成要素の連掛こよる移動指 示が行われている。

6「#」は連鎖を示し、「・」はその前後の 要素の連鎖順序を問わないことを示す。

‑109‑

(10)

[芸

/掲珂「ちっちやい酔∧あ̲、眉ぎたら1〉♯

揮J「∧右仁J〉♯

/印/「歯がってJ〉

上記(3)や(4)におけるような構成要素の 連鎖を、表現類型Ⅰの変異形と見ること

は可能であろう7。

4.2.1図形確認と移動指示

なお、このようなディストリクト基 盤型の「道順説明」における図形確認

は、談話の最初に行われたらそれで終 わりというわけではない。むしろ、「道 順説明」を進めていく過程の要所、要 所で行われている。次の(5)からは、そ れが端的に窺える。これは「線の道順」

での説明である(c【図4)。

(5)【JMJM2G】

02 説:..<Eからこう出発&

&していっ、てノ

03 被:..はい.\

04 説:‥で=,̲

05 、ここ<で=,/

06 ..あの=,̲

07 ‥∧小さい、カツコが&

&あるじやんノ

08 被:…はい.\

0910 被 11説

..<小さい、カツコ.\

..はい.\

..あっち<方向に&

&、そ=とまっすそ行って./

12 説:…(.9)、そしたら∧突き当たる&

&じやろ?/((地点(ウ)))

13 ‥<ちょっと、長方形の,̲

14 ‥く‥・

15 ‥、かくに.̲

((中略:「カツコ」の存在の確認))

図4 地図②(部分)「緑の道順」と地点

(村上1996より再掲)

1 2

3.4一5

6 7 8 9 0 1 2 5 5 5 5

■hU

5

■hU

5 5 6

ハhV

βU

説:..今ぶつかっ、た?/((地点(ウ)))

説 被 説

(0)はい.\

..で∧今度は=,\

(卯まい.\

‥あの=・・

..え=とね,\

被:..はい.\

説:..<すぐ側に小さい=‑・

..ねノ

..<カツコ..

、カツコと…

..∧カツコが2つ&

&、あるじやろ?\

63 被∴.<はい.\

64 説:..、あそこを<通り過ぎて,̲

65 ..一番∧端っこまで行っ、てノ

66 被:...(1.7)<ああ,\

67 説:(0)うん.\

68 被:..【どいう】ことは&

69 説:【そしたら】,\

被:&<A側に=行くん・・

7このような変異形の種類を明らかにする 70 説:(0)そうそうそう.\

ことは、今後の課題として残す。

(11)

この(5)の【05〜10】では、「カツコ」と 表現されるディストリクトの存在が確 認されている。これによって、移動の<

方向>が指定され、その後、次のような 構成要素の連鎖をなす表現類型(類型

Ⅰの変異形)によって、移動指示が行 われている。

〃〃「あっち二者何に、

ぐ=とまっすぐJ〉♯

〃〃/育ってJ〉♯

〃ガr∧穿き当たるじやろJ〉

また、【58〜63】でも、別の「小さいカ ツコ」の存在が確認されている。【62】「▲

カツコが2つ、ぁるじやろ?」という確認 は、く経路〉を焦点化しており、その後、

次のような構成要素の連鎖をなす表現類 型(類型ⅠⅠの変異形)によって、新たな 移動指示が行われている。

経路 ㈲「、ぁぞこを「凄ク過ぎてJ〉♯

着点 間「一番一潜っごまでJ〉♯

移動/珂/育っ、てJ〉

L

このように、ディストリクト基盤型 の「道順説明」では、結果として、図 形確認と移動指示が交互に繰り返され

る現象が生じている。

4.2.2「道筋構築」と「地図形成」

ところで、Psatba5&Eozloぼ(1976:

117)は、日常会話での『道順説明』に 関して、2つの異なりを指摘している。

̀routeconstruction,(「道筋構築」)と、

̀map・making'(「地図形成」)である。

「道筋構築」は、説明者が道筋を提 示する場合であり、「ここ(加腔)」と 特定の場所をいかに結びつけるかが被 説明者に語られる。

これに対して、「地図形成」は、被説 明者をある区域(area)に導く場合を

言う。この場合、ある特定の場所に被 説明者を位置づけてから(ex."thecen・

ter oftown'')、被説明者に配慮がなさ れる(ex.̀̀runseastandwest")。また、

この「地図形成」は、「そこはどこか (融k搾8乃.叩頭」という被説明者の 要請質問で開始される。この要請質問

に対して、説明者が場所や通りの名前 などの情報を与えるだけでも『道順説 明』は成立可能であり(Psatbas1986b:

232・233)8、この場合、出発点や到着 点の明確化は必ずしも必要とはされな

くなるという。

ここで、当研究に立ち戻ると、ディ ストリクト基盤型の「道順説明」は、

まさに「地図形成」に関係すると考え られる。

すなわち、まず、地図上において、

あるディストリクト部分が、認知主体 (説明者)に突出部として認知される。

この存在を説明者・被説明者間で確認 することにより、各々に認知地図が形 成される。そして、このディストリク

トを参照点点とした場合、その一部分 が<起点>や<経路>や<着点>などの目標 rとして焦点化されることになる。こ のように、あるディストリクトが図形 確認を経て指定されると、そのディス トリクトの一部を指定すれば認知地図 の一部を指定したことになり、ある地 点と他の地点を結びつける「道筋構築」

は、必要性が低くなってしまうと考え られる。

8psa仇as(198蝕)は、『道順説明』を開 始する「そこはどこか」という要請質問が、

被説明者の現在の居場所に関する質問・応答 の転換連鎖(conversionsequence)を経て、

「いかにそこへたどり着くか(bowtoget there)」という質問へ転換され、これに対 する応答へとつながっていく談話構造を明 らかにしている。

ー107‑

(12)

4.2.3 図形の確認と共通認識 上記のように、ディストリクト基盤 型の「道順説明」では、図形確認が非 常に重要な位置を占めている。実際、

例(3)でも(4)でも、図形の位置や大きさ の確認のために、多くのやり取りが費 やされている9。そのようなやり取りの 過程では、説明者・被説明者間で次の

ような共通認識も形成されていると考 えられる。

・説明者の認知フレームの基盤がパス ではなくディストリクトにあること。

・説明者と被説明者の地図が同じであ ること。

・説明者と被説明者が見ている地図の 向きが同じであること。

・説明者と被説明者が地図上の、ある 同じ位置にいること。

・説明者が方向を定める表現形式(正 村上1997b)。

すなわち、ディストリクト基盤型の

「道順説明」においては、図形確認の 過程は、説明者・被説明者の「地図形 成」の過程であり、同時に共通認識が 形成される過程と言える。

5.おわりに

以上、本稿では、「道順説明」という 課題達成実験での談話資料を基に、参 照点機能の型、およびその型と「道順 9このような地図の図形確認は、例(1)(2)の ようなパス基盤型の「道順説明」では例を 見ない。もちろん、パス基盤型の「道順説 明」でも確認行為は行われている。しかし、

例えば「下に行く道が3本あるけれども」

などのように、バスの形状に関する確認が 一般的である。

説明」の表現類型との関係について、

分析と考察を試みた。ここで明らかに なったことは、以下の3点である。

①「道順説明」の参照点機能には、認 知主体(説明者)の図形認知の異な

りにより、パスbatbs)基盤型と、デ ィストリクト(血s血cts)基盤型の2種 が存在する。

②バス基盤型の「道順説明」は、村上 (1996)で明らかにした2種の表現 類型に基づいていると考えられる。

③ディストリクト基盤型の「道順説 明」では、図形確認によって「地図 形成」が行われ、これを踏まえて目 標への移動指示が行われる。結果と

して、この図形確認と移動指示は、

「道順説明」を進める上で交互に繰 り返されていく。また、この移動指 示は、パス基盤型と同様に、2種の 表現類型に基づいていると考えられ

る。

付記

本研究は、平成9年〜10年度文部省科学 研究費補助金(基盤研究(C)P),課農番 号:09834∝略,研究代表者:村上 恵, 研究麓目:「日本語母語話者と非母語話者 の接触場面における談話形成プロセスの 研究」)の助成を受けている。実験、お

よび資料整理にご協力くださった方々に 記して厚く御礼申し上げたい。

文字化記号

主な記号のみ。その他はDuBoisetal.

(1992,1993)を参照のこと。

【】発話の重なり部分 内容が後に続く

.?\/一 内容の終結

呼びかけ

下降イントネーション 上昇イントネーション 平板イントネーション

(13)

αカ

…(叫0.7秒以上のポーズの秒数 0.3〜0.6秒のポーズ 0.2秒以下のポーズ (0) 前の発話と間がないこと

< 第一アクセント

第ニアクセント 伸びた音

@ 笑い

& 表記の便宜上改行した部分が、1

つのイントネーション・ユニット としてつながることを示す 参考文献

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一105‑

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