Bu l l . F a c . Ed u c . Hi r o s a k i Un i v . 9 2:1 6 7 ‑1 7 1( Oc t . 2 0 0 4 )
養護教諭のための養護診断開発に向けての課題
一看護診断か らの考察‑
I s s ue sa ndCha m e n g e si nYo g oDi a g n o s i sf o rYo g oTe a c he r
‑ Co ns i de r a t io nf r o m Nu rs i ngDi a g nos i s一
葛西 敦子*・岡 田加 奈子**・三村 由香 里***・徳 山美智子****
At s u k oKAS A l* ,Ka n a k oOKADA* * ,Yu k a r iMI MURA* 辛 辛 ,Mi c h i k oTOKUYAMA* * * *
要 旨
養護診断 に関 しての重要性 と必要性が指摘 されている。養護診断 とい う言葉 を最 も多 く使用 しているのは 杉浦氏である。養護教諭 は 「児童 ・生徒の養護 をつか さどる」専門職である。養護教諭が教育の専門職 とし て,養護診断 を理論的 に体系化す ることが求め られ る。そ こで,養護 と近接領域 にある看護の看護診断 につ いて概観 し検討す ることで,養護診断 に関す る問題点 と課題 を明 らか にした。養護診断 を開発す るには, ま ず,養護教諭の職能団体や学会が一体 とな り, 「養護 とは何か」 とい う養護の定義 を明確 にす ることが重要で ある。次 に,杉浦氏 は養護診断 における診断 を
As s e s s me nt
としているが,適切な用語 を選択す るための議論 を し,養護過程 をも含め,養護診断 を再構築 してい く必要がある。看護師が看護診断 に看護専門職 としての 独 自の機能 を反映 させた よ うに,養護診断 を確立す ることで,養護教諭の独 自性や専門職性 を兄いだす こと ができるもの と期待す る。キー ワー ド :養護教諭,養護診断,看護診断
Ⅰ.は じめに
近年,児童生徒 の健康問題 は心身両面 にお よび, 複雑化 ・深刻化 している。学校現場 においては, 教育や健康の課題 は山積 し,それ らの問題解決の ため,スクールカ ウンセ ラー,看護師,栄養教諭 (平成
1 7
年度創設予定)な ど様々な職種が配置 さ れ るようになった。それ に伴 い養護教諭 を取 り巻 く状況は変化 し,他職種 との連携が重要な課題 と なってお り,今ま さに養護教諭 としての専門性 を 明確 にしていかなければな らない時期 といえる。養護教諭が 「児童生徒の養護 をつか さどる (学校 教育法第28条第
7
項)」専門職 として,さまざまな 健康問題 に対 して,養護教諭独 自の視点での支援 を実践す ることが求め られ る。筆者 らは,養護教 諭の専門性 のひ とつ に養護診断が挙 げられ るもの* 弘前大学教育学部教育保健講座
De p a r t me n to fSc h o o lHe a l t hSc i e n c e , F a c u l t yo fEd u c a t i o n ,
** 千葉大学教育学部
Ch i b aUn i v e r s l t y , Fa c u l t yo f
Ed u c a t i o n
*** 岡山大学教育学部
Ok a y a maUn i v e r s l t y , Fa c u l t yo f別u c a t i o n
****大阪女子短期大学
Os a k aWo me n ' sJ u n i o rCo l l e g e
と考 えている。
養護診断 については,杉浦 1)によりすでに
1 9 7 6
年頃 より用い られてお り,養護教諭の専門性確立 の立場か ら重要な ものであることを提唱 していた。養護診断 とい う言葉 を広 く認知 させ,具体的内容 を明 らか にしようとしたその功績 は多大である。
しか し,養護教諭が児童生徒の健康問題 (特 に救 急処置活動) に対応す る とき,養護診断 を展開 し なが ら養護活動 を実践 している とは言い難いのが 現状である。近年,養護診断の重要性 は遠藤
2)
も 指摘 している。養護教諭がすで に扱 っている子 ど もの心身の問題や成長‑の支援の根拠 を理論化 し, それ を他職種 に変わ り得ない養護教諭 固有の専門 的機能 と認め,そのアセスメン トの結果 を養護診 断す る必要性 を述べている。さらには三木3)
も,こHi r o s a k iUn i v e r s l t y
れか らの養護教諭 に求め られ る資質 ・能力の一つ として 「養護診断能力」 を明示 している。そ こで 養護教諭独 自の視点での支援のためには,養護教 諭 独 自の 分 析 と判 断 を行 う 「養 護 診 断
( Yogo Di agnos i s ) 」
の開発が急務 と考 える。養護 と近接領域 にある看護 においては,看護診 断がある。すでに看護師は看護の専門職 として看 護診断 を確立 ・発展 させてい る。看護診断は養護 診断開発のために大い に参考 となるもの と考 える。
本研究では, まず看護診断 を概観 し, さらに杉浦 の提唱す る養護診断 を概観す ることで,養護診断 を開発す るための課題や問題点を明 らかにす るこ とを目的 とす る。
Ⅱ.
看護 および看護診断 とは1.
看護の定義まず看護診断 を論ず るためには,看護の定義が 重要 となる。看護の定義 については,国際的 には さま ざまな理論家 によ り議論 され 4), 日本 におい て も数多 くの人 によ り定義づ け られている
5)
。看 護の専門職能 団体である 日本看護協会( J apane s e Nur s i ngAs s oc i at i on)
は,1 9 7 3
年 に看 護 の本 来 的な機能 と役割6)
の中で, 「看護 とは,健康のあ らゆる レベル において個人が健康的 に正常な 日常 生活ができるよ うに援助す ることである。」と定義している。 しか し, 日本看護協会の看護の定義 は, 後述す る米国で開発 された看護診断の概念 を説明 す ることにおいては合致 しない。
看護診 断 を定義づ ける には,米 国看護 師協会
( A me r i c anNur s e sAs s oc i at i on:ANA,1 9 8 0 )
の看護の定義 7)(表 1)が最 も有用 である。 ここ で注 目すべ きことは,看護師はクライエ ン トの現 にある,あるいは これか ら起 こるであろ う 「健康 問題 に対す る人間の反応」 に焦点を当てる とい う
ことである。
2.
看護診断米国においては看護診断
( Nur s i ngDi agnos i s )
の定義 について も,個々の理論家や専門職団体が すで に過去3 0
数年の間数多 く発表 している8) , 9)
0 現在,看護診断開発 を担 っている米国看護診断協 会( Nor t h A me r i c an Nur s l ng Di agnos i s As s oc i at i on: NANDA)
では,1 9 9 0
年表2
の よ うに定義づ けた。看護診断 とは,看護師が責任 をも ち得 る領域 についてのみ可能な診断であ り,留意 してお く点はあ くまで も医師の診断 とは内容 を異 にしている とい うことである。欧米のスクールナ ースは児童生徒の健康問題 に対 して,看護診断 に 基づ き看護 を展開 している。 この看護の実践 には 養護教諭 も参考 にすべ き ところは多々あるもの と 考 える。
3.
看護過程 における看護診断の位置づ け 看 護 を 実 践 し て い く プ ロセ ス を 看 護 過 程( Nur s i ngPr oc e s s)
といい,一般 にはアセ ス メ ン ト,看護診断または問題 の明確化,計画,実施,秤 価の5
つのステ ップで考 えられている (図1
)。看 護過程 において,アセスメン トとは対象 について いろいろ調べて検討 し,結論 を出す ことであ り, 看護診断は 「看護過程のアセスメン トの結論」の表 1. 看護 の定義
看護 とは,実在 あるいは潜在す る健康問題 に対する人間の反応 を診断 し, 治療す ることであるo
表 2. 看護診断 の定義
看護診断 とは,実在 または潜在す る健康問題/生活過程 に対す る個人,家 族,お よび地域 の反応 についての臨床判断であるoそれは看護師が責務 を
とる結果の達成 に対 して治療 の根拠 を明確 に提供す るものであるo
(北米看護診断協会 :
No r t hA m e r ic a nNu r s i ngDi a g no s i sAs s o c i a t io n: NAN D A, 1 9 9 0 )
図 1. 看護過程 のステ ップ
表
3.
医学 とは医学 (狭義 の医療) とは,実在 または潜在す る健康問題その ものを診断 し
部分 に当たる。看護診断導入以前であれば,看護 の視点での 「問題の明確化」 とい う言葉で表現 さ れてきたものである
10)
0As s e s s me nt
の和訳は,英 和辞典 によれば査定,評価であるが,看護過程 に おいては原語読みのまま使用 されている。4.
看護 と医療 の違い「看護 とは,実在または潜在す る健康問題 に対す る人間の反応 を診断 し,治療す ることである」 こ とは先 に述べた。看護診断研究の第一人者である 中木
11)
は,この定義 を受 けて医師が行 ってい る医 学 ・医療 を表 3の よ うに述べている。つ ま り,医 師の行 う医療 は 「健康問題」 に焦点を当て, 医学 診断 し治療す ることは周知の ことである。それ に 対 して,看護師は 「健康問題 に対す る人間の反応」に焦点 を当て,看護診断 し看護 を展開す る。 ここ に医療 (医学) と看護の違いが明確 に表わ されて いる。
従来,医師 と看護師は主従関係 にあ り,看蔑師 は医師の指示 に従 って診療 を補助す る人 と認識 さ れてきた。 しか し,看護診断 に基づいた看護 は看 護師の責務の範囲のものであ り,医師の指示 は必 要 とせず,そ こには看護の専門性が存在す る。看 護師が看護診断 に基づ き看護す ることは,それ に 対 しての責任があ り,そ こには医師か ら独立 した 専門職 としての看護が展開 され る と言い切 ること ができる。
Ⅲ.養護 および養護診断 とは
1 .
養護教諭の 「養護」 とは「養護」とい う言葉は児童生徒 を対象 とした教育 の場で, また,児童福祉や老人福祉関連の場な ど 多様な場面で用 い られている。そ して 「養護」 に ついては,様々な定義が見受 けられ る
1 2)
。大谷1 3)
は「養護 とは,病気その ものを問題 にしてそれ を治 す ことを目的 に関わ るのではな く,日々の暮 らし・
生活 に不都合な ことがない よ うに支えることであ り, 自力で生活できるよ うに支援 ・教育す ること である。」 としてい る。 さらに大谷
1 4)
は,各種 の 辞典の養護 とい う言葉の解説か ら,その共通項 と して 「健康の保持増進,疾病予防,健康回復」や「発育,成長発達の助長,個人の完成, 自立 (‑
教育)」が取 り上 げられている と整理 している。 こ の よ うな養護本来の意味 をふまえ,「教育 としての 養護」の概念,教育職員 として制度化 されてか ら 養護訓導お よび養護教諭の 「職 としての養護」な
どの観点か ら「養護」を考 える必要がある。また,時 代 とともに子 どもの‑ルス ・ニーズも変貌 し,求 め られ る 「養護」の役割 も変化 してい くと考 えら れ るため, これか らの時代の 「養護」 とい う基本 概念 を追求 してい くことが求め られ る15)0
しか し,養護の定義 については未だ統一 には至 っていない。 日本養護教諭教育学会では,「養護教 諭の英訳お よび本学会の英名 に関す るワーキング グループ」 によ り 「養護」の概念や機能,そ して 養護教諭の役割 ・専門性な どを検討 している。そ の結果 「養護教諭 とは学校 におけるすべての教育 活動 を通 して,‑ルスプ ロモーシ ョンの理念 に基 づ く健康教育 と健康管理 によって子 どもの発育 ・ 発達の支援 を行 う特別な免許 を持つ教育職員であ
る。」 として承認 されたの も新 しい ところである (日本養護教諭教育学会
,2 0 0 3 )
。 しか し,
「養護」の定義 について統一見解 は示 されてお らず,養護 教諭の職能 団体や学会が一体 とな り,養護の定義 を明確 にす ることが急務 と考 える。
「看護 とは何か」が明確 に定義づ けられた ことに よ り,看護の視点での 「問題の明確化」ができ, 看護診断 し,看護実践 できるよ うになった。養護 の定義が明確 になれば,養護の視点での 「問題の 明確化」ができ,養護診断‑ と発展す るもの と考 える。養護診断開発 に向けては, まず 「養護 とは 何か」 とい う養護の定義 を明確 にす ることが最 も 重要な課題 と言 える。
2.
養護診断 とは養護診断 とい う用語 は,1
97 6
年の杉浦の論文1 6 )
に見 ることができる。表 4の よ うに時代の変遷 に 伴い,その定義 も若干表現 を変 えてい る。
1 97 6
年の論文では,すで に養護検診 と養護診断 が養護教諭の専門性確立の立場か ら非常 に重要な ものであることを指摘 していた。学校 内救急処置 の手順 として(1)主訴聴取の段階,( 2)
養護検診の 段階, ( 3)
養護診断の段階, ( 4)
養護処置の段階,( 5)
養護指導の段階,( 6)
後処置の段階の6
段階に表 4. 杉浦 の論文 にみ る養護診断 とは
養護診断 とは どんな疾患が疑わ しいか, どんな処理 と処置が必要かの判断 である。
( 1 9 7 6
年16))
養護教諭の重要な機能 に診断があ り, これを養護診断 とい う。
養護診断 とは,健康上の問題 を持つ児童 ・生徒であって医療の対象 にな ら ない ものや,まだその対象 になっていない ものに対 して,養護教諭がその 医学的専門性 を発揮 して,健康生活上のニー ドを判断 し,学校生活上の管 理 と方針 を決定す る作業 をい う。 これ には,医師や看護師 とは異なった領 域の医学的知識 ・技術 を必要 とし,また一般教員 とは違 う分野 ・指導性が 求め られ るものであって,養護教諭独 自の体系 ともい うべ きものである。
養護診断 とは, 「児童 ・生徒 の健康上の問題は何かの判断」であるO
( 1 9 8 9 年1 7
))養護診断 とは,養護教諭が養護上の支援 を必要 としている対象児童生徒 に ついて,観察 ・調査 ・検査な どの専門的技術 を行使 して的確な判断の下 に, そのもっている問題点 (要支援事情 ・ニーズ)を明 らかにす る作業 とその 結果 をい う。
( 2 0 0 1
年1 8 ) )
分 け,その中に養護診断を位置付 けていた。
1 9 8 9
年では,救急養護の過程 を(1)診断過程 (問 題受理‑ 問題分析‑判断),( 2 )
処置過程 (養護処 置 ・養護指導‑後処置)に大き く2段階 とした17)。 そ して判断の内容 として,(彰傷病存在の判断,② 緊急性の判断,③必要 とする処理内容の判断,④ 適当とす る処理機関の判断,⑤教育的措置の5
つ の判断をあげ,それを総称 して養護診断 と呼んで いる。 しか し,養護診断 とい う用語を使ってはい るものの,養護教諭 として どのように対応するの か とい う判断を示 している内容 となっている。看 護過程 と養護過程 を対応 させてみると図 2のようにな り,看護過程のアセスメン トの部分 に養護診 断が相当することになる。児童生徒 にとってはそ の健康問題は何なのか,学校生活 (広義 には 日常 生活)を送 る上で どの ような支障をきた している のかを明確 にす る部分が示 されていない。つま り, 児童生徒 の健康 問題 について, 「養護」の視点で
「問題の明確化」をしてい くことが重要な課題 と 看護過程
アセスメン ト
看護診断 (問題の明確化)
な る。 「養護」の視点での 「問題 の明確化」は,
「養護」の立場での養護独 自の用語 (それが養護 診断名 となる)で表現できれば養護診断開発‑ と 発展 してい くもの と考 える。
3.
養護診断の診断はAs s e s s me nt
か ?Di agno s i s
か ?杉 浦
1 9)
は こ の 養 護 診 断 に お け る 診 断 をAs s e s s me nt
として紹介 してい る。 ここでは医師 の行 う診断 をDi agnos i s
とし,養護教諭の行 う診 断はAs s e s s me nt
であると説明 している。そ して, 事例を示 しなが ら医学診断,看護診断,養護診断 それぞれの違いを述べてはいるが,養護診断 につ いて言 えばその内容は判断 に留まっている感が否 めない。前述の図2
か らもわかるように,養護診 断の診断 をAs s e s s me nt
としているのは当然の こ とと推察 される。 しか し,養護教諭が児童生徒の 健康問題 に対 して養護の専門職 として,支援 を実 践す る うえで,養護教諭独 自の診断 をす るな らば,養護過程
診断過程 問題受理
J 問題分析
J
判断
‑
養護診断処置過程
養護処置 ・養護指導 上
後処置
図 2. 看護過程 と養護過程 との対応
医学診断や看護診断 と同 じよ うに養護診断の診断 も
Di agnos i s
と表記 で きる よ うな内容 の検討 が必 要である。Ⅳ.
養護診断開発 における課題養護 と近接領域 にある看護診断 を概観 し, さら に杉浦 の提唱す る養護診断 を概観す ることで,義 護教諭独 自の養護診断 を開発す るためには以下の 課題が挙 げ られた。
第一 に,養護診断確立 に向けては, まず 「養護 とは何 か」 とい う養護の定義 を明確 にす ることが 最 も重要な課題 と言 える。
第二 に,児童生徒の健康 問題 につ いて,「養護」の 視点での 「問題 の明確化」 を してい くことが重要 な課題 で あ る。 「養護」 の視 点 で の 「問題 の明確 化」は,「養護」の立場での養護独 自の言葉 (それ が養護診断名 となる)で表現 で きれば養護診断開 発‑ と発展 してい くもの と考 える。
第三 に,医学診断や看護診断 と同 じよ うに養護 教諭独 自の診断 をす るため に,養護診断の診断 は
As s e s s me nt
ではな く, Di agnos i s
と表記で きるような内容 の検討が必要である。
Ⅴ. おわ りに
杉浦の養護診断の考 えを参考 にしなが ら,用語 の使 い方や養護過程 の考 え方 をも含 め,養護診断 を再考 し構築 してい く必要がある。
養護診断確立 のため には,養護教諭 が児童生徒 の健康問題 に対 しての個 々の実践 を公表 し,多 く の議論 を経て,共通理解 されな らなけれ ばな らな い。それ によって,養護教諭 が養護 の専門職 とし て,養護診断開発‑ と発展す るもの と考 える。看 護師が看護診断 に看護専門職 としての独 自の機能 を見出 した よ うに,養護診断 を確立す ることで, 養護教諭 の独 自性や専門職性 を見出す ことがで き るもの と期待す る。
(本研究の要 旨は第
49
回 日本学校保健学会 で発表 した。)文献